●リプレイ本文
「ただいま戻りました」
里見・さやか(
ga0153)が演習地周辺の偵察から戻ってきた。
「ご苦労様です。それで、いかがでした?」
ヨハン・アドラー(gz0199)が尋ねると、さやかは今のところ敵影はなしだという。
「そうですか。今回は要人も来ていますからね、念には念を入れませんと。よろしくお願いします」
「はい」
「やあ、アドラー」
ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)がこちらにやってくる。
「お元気そうだ。また、この南米に戦訓を貰いに来たよ」
「貴方もお元気そうで何よりです。こちら、所長のジャンヌ・ライラックと副所長の如月・孝之です」
「初めまして。傭兵のホアキンだ。本日はどうぞよろしく」
「こちらこそよろしく」
「よろしくお願いします」
ホアキンの挨拶にジャンヌと孝之が返事を返す。
「こんにちは、綿貫です。データリンクについて、将来的に戦車隊と行動を共にするゼカリアやリッジウェイ等の陸戦KVとも可能になるのでしょうか? 傭兵向けではなくあくまで軍向けの仕様になりそうではありますが」
綿貫 衛司(
ga0056)の質問には、ジャンヌが答える。
「そうね、アストレアの存在意義が薄れる可能性もたかまりますが、不可能ではないでしょうね。陸戦KVにパラボナアンテナをつければアストレアの換わりになってしまうので、アストレアでなくてもいいということになってしまいかねません」
「そうですか。なかなかに難しい問題ですね‥‥では、私は試験の準備に入ります」
「よろしくお願いします」
綿貫に孝之が頭を下げる。
「コレが、新型か‥‥とにかく成功させたいよねボク達だけで勝てるほどの相手では無いから」
柿原ミズキ(
ga9347)がそう言うと、フォルテ・レーン(
gb7364)が
「アレが認められれば、俺たちも少しは楽になるのかな?」
と相づちを入れる。
「皆さんの負担が減るように頑張りますよ。どうぞよろしくお願いします」
そんな二人に孝之が言う。
「スラッグガン考案者としてやってきたよ。絶対に成功させてやるから、見てな」
「頼もしいわね。よろしく」
オリビア・ゾディアック(
gb2662)にジャンヌが返す。ちなみにスラッグガンは大体オリビアが思い描いたとおりの性能を発揮できるはずだった。
「失礼するぞ。要人も含めた軍側の退路と手順を確認したい。我としてはこのルートを提示するが」
フラウ(
gb4316)の言葉に、ジャンヌがヨハンに聞く。
「どうなの、アドラー君。元軍人としての貴方の意見は?」
「概ねフラウさんの提示するルートでよいと思います。ちなみにフラウさんの予想された周辺の勢力図とバグアの侵入方向についても間違っていないと思います。ですので、フラウさんの案でいきたいと思います」
「ありがたい。では、我はこれを前提に動く。汝たちもよろしく頼む」
「ええ、了解しました」
ヨハンの言葉にオリビアは満足したように頷くと、試験の準備へと向かった。
「M1に代わる新戦車、ですか。単純に、士気にも影響するのでしょうが、生憎と私にはそういう事は分かりません。けれども、正規軍がこれまで以上にバグアと戦えるようになるのは、大きなメリットになる、という事は良く分かります。そのお手伝いになれば幸いです」
イーリス・立花(
gb6709)がそういうとジャンヌはイーリスに礼を言った。
「ありがとう。スペックは確実にM1を上回ってるわ。後はいかに売り込んでいくかね。そのためにもよろしくお願いします」
「はい」
イーリスは短く返事をすると試験の準備へと向かった。
「では試験を開始します。M1戦車とKVは準備を願います」
ヨハンの言葉にスラッグガンを装備したM1戦車2両とラージフレア射出装置を装備した戦車2両、ショットジェルを装備した戦車2両、星女神の盾を装備した戦車2両が現れる。
対するKVは衛司の雷電とさやかのウーフー、ミズキのフェニックス、オリビアのスカイスクレイパー、イーリスのバイパー、そして同じくフォルテのバイパーで、ホアキンの雷電とフラウのロングボウは空中で周辺の警戒を行っていた。
衛司は戦車から発射されるスラッグガンの弾を操縦席周辺に集めてもらう。星女神の盾の強度テストのための試験だった。
(「‥‥うん、信頼はしていますが中々にスリリングですねコレは」)
とは言ってもスラッグガンは遠距離では散弾銃形式のためコーン状に弾が広がる。そのため複数のKVを巻き込むが操縦席周辺に集めるというのはなかなかに困難だった。そのため衛司は戦車との距離を詰める。
集中した弾が操縦席近辺に当たる。星女神の盾は十分にその性能を発揮し、操縦席の衛司を守りきる。
ラージフレアがM1から発射される。周辺の重力波が乱される。ラージフレア射出装置自体は成功のようであった。
そしてショットジェルが発射される。
さやかのウーフーに液体が浴びせられ、それが空気に触れた途端に固化する。
「くっ‥‥操縦しにくくなりましたね」
といってもそれが続いたのは30秒程度のこと。30秒を過ぎたあたりで張り付いていたショットジェルがはがれ落ちてウーフーの操縦性を取り戻す。
「では、星女神の盾を戦車のほうでもテストしますか」
さやかはそう言うと20mバルカンを発射する。
「じゃあ、俺もだな」
フォルテがスナイパーライフルを発射する。
戦車は破壊されるが、操縦席は無事だった。
「そこまで。試作兵装の戦車でのテストはここまでとします」
ヨハンがストップをかける。
「では、これより、スラッグガンとショットジェルの空中での試験になります」
これにはホアキンの雷電、ミズキのフェニックス、イーリスのバイパー、フォルテのバイパーが参加する。残りのメンバーはローテーションを組んで哨戒に当たる。だがその前にホアキンらの機体に燃料の補給が行われる。そしてKVが飛び立った。
「HWの慣性制御‥‥とまでは行かないが!!」
ホアキンが超伝導アクチュエータを駆使してミズキの射撃をかわす。そしてスラッグガンとショットジェルの有効射程を見極める。スラッグガンは発射した機体の同一スクエア前方にいる標的全部に攻撃を加える。対してショットジェルは周囲一スクエアの標的全部を固める。それからあえてホアキンは水木のショットジェルを受ける。急に操作が困難になる雷電。ただし、空中でもショットジェルは30秒ほどしか機能しないようだった。
「どんなに、ソレが優れていても採用されなければ存在を許されないがらくた。さぁ、『キャスパー』ドロームのお偉いさんに認めさせてやろう」
ミズキは愛機にそう語りかける。
「どれほどの威力か見せて貰うよ」
そう言ってイーリスのバイパーとホアキンの雷電、フォルテのバイパーにスラッグガンを発射する。
広がって発射されたそれは見事に3機を巻き込みダメージを与える。
「くうっ!」
「ぐっ!」
「がっ!」
機体が揺れる。
「そこまで。KVでの試作兵装のテストはここまでとします」
ヨハンがとめる。そうして4機は着陸すると、スラッグガンによる機体の損傷度合いを確かめる。
「なかなかの威力だな。ウンウン、いい感じだねぇ。俺のバイパーには悪いことしたが、このくらいの威力なら商品化しても問題ないんじゃないの?」
「そうですね。私もそう思います」
フォルテの言葉にイーリスが同意する。
「問題はどっちの兵装も味方を巻き込む危険性があるってことかしらね。ジャンヌちゃん、これ、考案者として言うのもなんだけど危険じゃない?」
オリビアがそう言うと、ジャンヌは乱戦でなく、標的をしっかり選べる場合に使用すればいいだろうと答えた。
「成るほど‥‥それは私達の使い方しだいということですか」
衛司がふらりとやってきてそう言う。
「そう言う事ね」
ジャンヌは一人頷く。
「では、データリンクヘッドギアの試験およびアストレアプロジェクト車両の連携演習に入ります。皆さん準備お願いします」
ホアキンの雷電とフラウのロングボウは空中で周辺の警戒を再開した。そしてゴーレムに見立てたKV相手にアストレアプロジェクトの車両群が試験を開始したそのときだった。
「敵影あり。南西の方角よりゴーレムが5。繰り返す。南西の方角よりゴーレムが5」
フラウが敵襲を告げた。
「ちょうどいいわね。全部隊および傭兵の皆さんへ。連携しゴーレムを撃破してください。フラウ機は指揮車両に敵データを送信してください」
「了解!」
フラウから観測データが指揮車両に送られてくる。
『こちら指揮車両。自走砲の射程まで後50秒。射程に入り次第砲撃を開始してください』
送られてきたデータを元に指揮車両のオペレーターが情報を解析、全車両と歩兵部隊、およびデータリンクヘッドギアを装備して歩兵の役割をしている衛司とミズキに情報が送られる。
「成るほど。こうなるのか。これは便利だね」
網膜に映る情報を見ながらミズキが言う。敵の情報や風向きなどの気象情報が次々と送られてくる。
『自走砲、仰角30度、左13度修正。アストレアは前進。歩兵部隊、KV隊も前進。医療後送車と対空砲は後退してください』
指揮車両からの指示を受けて各部隊が行動を起こす。
『自走砲、射程まで5秒。4、3、2、1、発射!』
4両の自走砲から一斉に砲弾が発射される。それはゴーレムの装甲を若干だが削る。
『アストレア、前進後約90秒で有効射程に入ります。とにかく牽制してください。KV各隊は走輪走行で前進。ホアキン機とフラウ機も着陸して戦線に参加してください』
「やれやれ。まさか生身でゴーレムとやりあうとは思いませんでしたよ」
衛司がアストレアに掴まりながら言った。
「本当ですね」
ミズキも難儀なことだというように同意する。
「喰らいなさい!」
さとみが小型帯電粒子加速砲で攻撃する。ゴーレムの装甲を中破させる。
「まだそれだけじゃないぜ!」
そこにホアキンがK−02小型ホーミングミサイルでさとみが攻撃したゴーレムに止めを刺し、同時に他のゴーレム4体の装甲を中破させる。
『アストレア、射程まで5秒、4、3、2、1、発射!』
長距離からの走行間射撃。それでも弾は命中し、有効打にはならないもののゴーレムを弾き飛ばす。
「止めだ!」
ホアキンからK−02小型ホーミングミサイルの第二段が発射され、ゴーレムたちを完全に倒す。
「こちらInti(インティ)。敵の撃破に成功した」
ホアキンからの通信が入る。
「了解です。ではそのまま連携演習を続けます」
ヨハンがそう言った時だった。
「いや、その必要はない。性能は十分に確認できた。今後は専用ラインを用意し予算も回す。更なる軽量化による3両同時輸送の目標を達成してください」
ドロームの上役がヨハンの言葉を遮ってそう告げる。
「はい、ありがとうございます」
ジャンヌが嬉しそうにそう返す。
「ですがデータリンクヘッドギアの実証がまだです」
孝之がそう言うとドロームの上役はM1を相手に試せという。
「了解しました。指揮車両および歩兵部隊へ。データリンクヘッドギアの検証をM1相手に行います。M1も実弾を装填していますので注意してください」
『了解』
「了解です」
「わかりました」
衛司とミズキも答える。
それからM1相手に歩兵部隊による戦闘が開始された。
『M1−Aより射撃の兆候。射角により綿貫氏の近辺に着弾します。弾道予測データ送信』
「了解」
データリンクヘッドギアに映される弾道予測データを元に衛司は回避行動を行う。周辺の兵士も同様に回避行動を行う。結果M1の砲撃は完全に外れた。
兵士の対戦車砲がM1に命中する。そしてM1から兵士が脱出する。そんなことが6度繰り返され、M1部隊は全滅した。そんなとき、さやかから通信が入る。
「Anahiteよりアストレア。通信機の感度チェック。こちらの声が聞こえれば知らされたい。オーバー」
「こちらアストレア。感度良好。オーバー」
「Anahiteより綿貫さんへ。通信機の感度チェック。こちらの声が聞こえれば知らされたい。オーバー」
「こちら綿貫。感度良好。オーバー」
「了解。協力を感謝します」
ウーフーのジャミング中和装置を停止した状態でも感度は良好であった。さやかが懸念していた通信装置の性能も問題ないようだった。
「ふう。お疲れ様だ。アストレアの性能はいいが、流石に中国には‥‥持ってけないか」
フォルテがそういうと孝之が
「さすがに中国で商売はできませんね。距離がありすぎますので」
と笑って答えた。
「我の出番はあまり無かったが、まあ、無事に終ったのならばよしとしよう」
フラウがロングボウから通信を入れる。
「いやいや、フラウちゃんは哨戒お疲れ様。おかげで被害もなしに撃退できたしな」
それに対してオリビアがそう答える。
「データリンクヘッドギアは指揮管制を受けられる範囲内でならすごい便利だね。でも、ワームのジャミング下だとウーフーとかの援護が無いと使えないらしいのが厳しいけどね」
ミズキが歩兵として戦った感想としてそう述べる。
「それは仕方がないだろうな。多少ジャミングに強いといっても、KVみたいな特注品と違って量産品だからな」
ミズキにはホアキンがそう答える。
「副兵装のテストは良好。連携演習も良好。これでアストレアが売れてくれるといいんですけどね」
さやかがそう言うと衛司が答えた。
「売れるでしょう。結果は残せましたしね」
「皆様、ありがとうございました。レティシア基地に戻ってKVを預けて、報酬を受け取ってください」
「了解です」
ジャンヌの言葉に衛司が答える。
こうしてアストレアプロジェクトの一連のテストは終了した。
ジャンヌと孝之はとんぼ返りでドローム本社に戻り更なる軽量化のための研究を始めた。
ヨハンはレティシアに残り戦車部隊の訓練の監督を続けることになった。
そしてこれから本格的にプロジェクトが動き出すのだ。