●リプレイ本文
●とある善意
収穫祭前日。キョーコ・クルック(
ga4770)はエルドラド代表のユイリーと面会していた。
「子供達に収穫祭を楽しんでもらいたくてこんなの用意したんだけど」
と言って事前に用意したチケットのような紙束をユイリーに渡す。
「この紙を出店での支払い代わりになるように話をして子供達に配ってもらえないかな? あ、もちろん収穫祭が終わったらチケットの分の支払はあたしがするから」
「はあ‥‥でも、それじゃキョーコさんが‥‥」
「子供達に楽しんでもらえるし、懐も潤う。悪いところはないと思うんだけど?」
ユイリーの言葉を遮って悪戯っぽく笑う。
「それとここが一番重要だけど、子供たちにはあたしからだって言うのは秘密ね。御礼言われたりするの苦手だし」
そう言って苦笑する。
(「‥‥エルドラドの子供たちの笑顔は眩し過ぎて直視できないんだよね‥‥一度は焼いた側の身としては」)
そう考えるキョーコの脳裏は複雑だった。
●男の娘コンテスト開始
「ん? なんでコンテストにエントリーしないか? だって俺は男の娘じゃないですもん」
きっぱりと言い切った柚井 ソラ(
ga0187)。
だが、この後自分に降りかかる運命を知らない。
「タキシードが間に合わんのでこっちを着てほしいのである」
美黒・改(
gb6829)はいきなりそう言った。
「はっ?」
ソラは困惑する。
「ソラさんの衣装が間に合わなかったのでこっちの浴衣でお願いしたいのである」
「なんか陰謀を感じるな‥‥」
「何か言ったでありますか?」
「いやいや‥‥。まあ、女物じゃないし、我慢するしかないか」
そんなわけでソラは浴衣姿で明るく挨拶をした。
「さあ、はじまりました。お待ちかね、エルドラド男の娘コンテスト! 司会はわたくし柚井 ソラがお送りします。でも、男の娘コンテストといってもどんなコンテストかわからない方のために軽くシステムなどを紹介しちゃいますね。解説は兄より強い妹こと風雪 六華(
gb6040)さんです」
拍手。
「じゃ、説明しましょう。男の娘とは女の子みたいに可愛い、あるいは綺麗な男の子の中で、単なる女装趣味を越えて性別の超越を目指す人々のことです。最も、今回は簡単な女装コンテストみたいな感じでもありますけどね」
「はい、ありがとうございました。六華さんありがとうございます。それではもう一人の解説、戦場の超機動ナイトことファイナ(
gb1342)さんです。ここでファイナさんに特別審査員を紹介していただきましょう」
ちなみにファイナも美黒の陰謀で浴衣である。
「えっと、ファイナです。今回も、どう頑張っても男に見えない方ばかり集まりましたね」
軽く笑い。ちなみに参加者は毛布のようなもので衣装を隠されている。
「えっと、では特別審査員を紹介します。エルドラドの若き代表、ユイリー代表。ユイリー代表の補佐役でもあるケイ・イガラス監査官。それからエルドラドのレティシア職員とフランシスカ職員。そしてエルドラド自警団の団長タランチュラさんです」
拍手。
「では六華さん。ここで投票形式の説明をお願いします」
「了解しました。まず、浴衣審査と歌唱審査が行われます。これには特別審査員の5名の方のみが投票権を持ち、一人一票投票していただきます。それからコスプレ審査が最後にあります。これで参加者が一人三票、一般審査員の皆様が一人一票ずつ投票します。その合計結果の高かった方が優勝となります。ちなみに優勝者には20万Cの優勝賞金が授与されますから、期待大ですね」
おおー、と歓声。
「では、早速浴衣審査から始めましょう。エントリーナンバー1番、日野 竜彦(
gb6596)さんです」
ソラがそう言うと竜彦の毛布がはがされる。
どよめき。
浴衣の柄は撫子と葡萄。色は白地に撫子が赤の強いピンク、葡萄が青が強い紫、帯は濃い目の橙で、非常に艶やかと言ってよい。
観衆から溜息が漏れる。
「説明しましょう。撫子の花言葉は『純粋な愛、才能』。葡萄の花言葉は『陶酔』です。この柄を選んだ竜彦さんの心境が窺えます」
六華が解説する。
竜彦はステージを歩いて回ると元の位置に戻って一礼しようとしたところでなにやら慌てだした。
「ひゃっ。わっ‥‥わわ‥‥」
背中を無性に引っ掻き回している。
やがて竜彦の浴衣の中からカエルが出てきてステージの端へと消えていった。
「よしよし。後はこの写真を焼き増しして売りさばくだけであります」
美黒のたくらみであることを竜彦は知らな‥‥いや、うすうす感ずいていた。
竜彦は慌てて一礼する。
拍手。
「ハプニングがありましたがそれも素晴らしいですねー。では、エントリーナンバー2番レイン・シュトラウド(
ga9279)さんです」
レインの毛布がはがされると、【雅】たたみ草履、【雅】浴衣「桜舞」、桜の花びらのコサージュを着用し、浴衣の帯に扇子をさしている。
「これはー、どうなんでしょうファイナさん」
「えー、和装ファッションブランド【雅】の浴衣。ですね。白地に桜の花びらが舞い散る美麗な浴衣で、この大会にかけるレインさんの意気込みが窺えるのではないかと思います」
レインは広げた扇子で口元を隠し、潤んだ瞳を審査員に向けて軽くゆったりと舞うと、元の場所に戻り一礼した。
「なんか間違った道に進んでしまいそうな耽美さね」
そうコメントしたのは六華である。
「次はエントリーナンバー3番冴木氷狩(
gb6236)さんです」
氷狩の毛布がはがされると、【雅】浴衣「絣」を着用した氷狩が現れた。
「3番、冴木氷狩どす。『ひかりん』て呼んでくらはったら嬉しどすえ? 特技は、演技と舞踊どす」
あまりの色っぽさに会場がどよめく。
「説明しましょう。ひかりんはもともと京都で歌舞伎の女形をやっておられました。と言うことであのくらいの演技は簡単と言うことですね」
「はい、六華さん、解説ありがとうございました」
ソラがそう言って長々と続きそうな六華の『説明』を止める。
氷狩は舞台を一周すると元の位置に戻って一礼した。
「次はエントリーナンバー4番金城 エンタ(
ga4154)さんです」
毛布をはがれたエンタは【雅】浴衣「絣」と【雅】ヒール下駄、鈴の髪飾り を着用している。
「おお、これは着物の柄こそ氷狩さんと同じ「絣」ですが、ヒール下駄がポイント高いですね」
そう解説するのはファイナ。
品のある動きでステージ上を歩き、元の場所に戻ってくると右手を左手で包むようにして45度位の礼をする。
拍手。
「次はエントリーナンバー5番神咲 刹那(
gb5472)さんです」
毛布をはがれた刹那は白地に桜の花びらが舞い散る美麗な浴衣を纏っていた。
髪は下ろしてあるので顔はあまり見えないので、内気な女の子が恥ずかしがっているようにも見える。
「これはこれで高ポイントね」
そしてステージを一周してもとの場所に戻ると一礼する。
拍手。
「さて、浴衣審査も半分を迎えましたし、ここで特別審査員の方々に話を伺ってみましょうか? ファイナさん〜!」
「はいはい。会場のファイナです。では最初にユイリー代表にお話を伺ってみたいと思います。いかがですか、ユイリー代表?」
突然マイクを向けられたユイリーはびっくりしている。
「えっ、あ、はい。皆さん普通の女性よりも綺麗なので驚いて‥‥素敵です(ぽっ)」
歓声。
「続いてはイガラス監査官に‥‥」
一方そのころ。
「久しぶりだね、タランチュラ。皆、元気でやっているか?」
鹿島 綾(
gb4549)は審査員の一人タランチュラと話していた。
「綾さん! そりゃね、まあ、みての通りですよ」
そう言ってタランチュラは苦笑する。
「大分、賑やかになったもんだね。‥‥まさか、男の娘コンテストをやる事になるとは思わなかったけど」
「俺もまさかこんなコンテストをやることになるとは思わなかったね」
そして二人で苦笑する。
(「それにしても――深いな、男の娘とは」)
「このイベントが切っ掛けとなって、エルドラド中の何人が腐女子坂を転げ落ちていくのか‥‥全く、恐ろしいものだな」
しみじみとそう言う綾に、タランチュラは自分はそういうことは良くわからないと言う。
「さぁ、続きましてはエントリーナンバー6番風雪 時雨(
gb3678)さんです」
「兄さん頑張れー!」
六華が歓声を飛ばす。
毛布をはがれた時雨を見て歓声が上がる。
なんと時雨の浴衣はミニスカート丈の浴衣で、全体的に白を基調としたデザイン。背中に天使の羽のようなオブジェがついている可愛らしいものだったからだ。ちなみに妹の陰謀である。
「皆さん初めまして、風雪 時雨と言います。今日は楽しんでいってくださいね」
もともと勝つ気がないのかそんなアピールで終る時雨。
「妹としてはどうですか、六華さん」
「皆可愛くなっていて、これなら何処にお嫁に出しても大丈夫でしょうね。あ、お婿だったわね」
爆笑。
「さて、それでは次にいきましょうか」
とファイナ。
「では、次はエントリーナンバー7番鳳(
gb3210)こと、梁・香月さんです」
「エントリーナンバー7、梁・香月や。こういうコンテストは慣れなくて恥ずかしいけど、皆が楽しめるように頑張るさかい、応援してや」
歓声。
毛布がはがれると、丈や形は正統派の浴衣が出てくる。水風船を小道具に舞台を歩き‥‥
草履の鼻緒が切れて転んでしまう。
「あいや〜」
恥ずかしくて顔を赤く染め、髪で顔を隠す仕草をする鳳。
慌ててもとの場所に戻る鳳。
「これはとんだハプニングです。が、怪我も無かったことですし次行きましょう」
ソラが板についてきた司会トークで言う。
「次はエントリーナンバー8番白虎(
ga9191)さんです」
白虎が毛布から顕わにした浴衣は時雨とは反対の悪魔をモチーフとしたミニスカート丈の浴衣だった。
「この萌えっぷりにひれ伏すがいいー」
確かに萌えるのであるのだが、その言い方が『男』な部分を主張していた。
「次はエントリーナンバー9番Anbar(
ga9009)さんです」
Anbarの毛布がはがされると、クリーム地に、赤やオレンジ系統の撫子柄が散らしてある浴衣。下駄は焼き下駄で、鼻緒は赤字に水玉の刺繍。黒縞の巾着を持っている。
髪は緩やかな三つ編みに結い直し、肩口から前に垂らしている。
しずしずと歩いてみせると共に、異国人らしい妙に着慣れていないアンバランスさを強調する様子になっている。そのギャップがまた見る者を引き込むのだが。
Anbarは舞台を歩き終わると元の場所に戻って一礼する。
拍手。
「それでは、最後はエントリーナンバー10番神崎・子虎(
ga0513)さんです」
子虎は毛布をはがすと【雅】浴衣「水玉」の姿で現れる。
最初は普通に着ているが、途中で少し着崩して着て少女の色気を見せながら歩き、アピールする。
「普通に着てばっかりじゃつまらないし‥‥サービスなのだ♪」
歓声。
「なにやら犯罪っぽいけどイベントだと言うことでOKにしましょう」
六華がそう言ってごまかす。
そして元の場所に戻り一礼。
拍手。
●休憩
「さて、それでは30分の休憩の後歌唱コンテストに行きたいと思います。その間に皆さんは屋台を楽しんでください」
とソラの一言で休憩と相成った。
矢神小雪(
gb3650)はオープンカフェ子狐屋の出張版の切り盛りに大忙しであった。
バイトは何人か雇っているが、それでも追いつかない。
「いらっしゃいませ〜コンテスト出場者+他二人のブロマイドトレカはここでしか販売してませんよ〜。ストラップやマスコットもあるから見に来てね〜」
小雪の売り言葉に、軍人達が群がる。
「ん? 何か人だかりが‥‥コンテスト出場者のブロマイドを‥‥むさい軍人がひったくるように買い漁ってる‥‥」
その様子を見てキョーコがいやーな汗を流す。
ちなみにブロマイドはトレカ仕様で販売されている。中身は見えないようにして数枚入りコモン・レア・Sレアと部類がある。ちなみに普段着(コモン)・女物着物(レア)・女物着物+赤面(Sレア)であると言う。
キョーコは火のついていないタバコをくわえながらエルドラドをみて回る。
「農地のほうも大分整ってきてるみたいだね〜これなら、食糧には困らなさそうだ♪」
そんなことを言いながら。
そしてエルドラドの住民が楽しんでいる姿をカメラに収める。
「アルバムにしてユイリーに贈ってあげるかな。コンテストであんまり見て回れてないみたいだし」
そう言って苦笑する。
「さあ、押さないで押さないで。いっぱいあるからね。食べ物もあるよ〜」
小雪は店の切り盛りで精一杯であった。
そしてそのブロマイドを販売しているところに鳳が訪れる。
「なんやて〜! カンパネラに盗撮が横行しとるっちゅう噂、ほんまやったんか」
そう叫んだのが悪かった。
「香月さん!」
「香月さんだ!」
「サインを!」
「サインください!」
一斉にむさい軍人に囲まれる鳳。
「ひっ‥‥」
完全におびえる。
「サインください!」
「サインください!」
「え、ええで‥‥」
サインをしないと身の危険を感じたのでサインに応じる鳳。
「はいはい、そこまでそこまで。踊り子さんに手を出しちゃいけませんよっと」
目ざとくこの状況を認めた綾が、鳳に群がる兵士達を止めに入る。
兵士達が抵抗すると綾は覚醒してやんわりと兵士達にお仕置きする。
「ひぃ、すいません。ごめんなさい〜!」
涙目になりながら逃げていく兵士達。
「あ、あの、ありがとうございました」
「いいって。ちょっと見かねたからやっただけだ」
礼を言う鳳にぶっきらぼうに答える綾。その時
「まもなく歌唱審査を開催します。出場者の方は会場に集まってください。まもなく歌唱審査を開始します――」
「ほら、行ってきな」
「はい!」
綾に背中を叩かれ走り出す鳳。そして歌唱審査が始まった。
●歌唱審査
「それでは歌唱審査を始めましょう‥‥って、あれ? ファイナさんは?」
「知らない」
尋ねる空にぶっきらぼうに返す六華。
「まあ、とにかく、始めちゃいましょ」
「そ、そうですね‥‥では、エントリーナンバーの逆順に行きましょう。神崎・子虎さんと、コンビを組む白虎さんで、『トラリオン』です!」
そして半袖ミニスカ型のメイド服の白虎と一般的なメイド服+狼耳+尻尾の子虎。そしてパフォーマンスと称して二匹の虎に蹴り落とされ、マイクを強奪されるソラ。
「うう‥‥なんで‥‥」
涙目のソラである。
「僕たちの番だね♪ トラリオン‥‥出陣なのだ♪」
と子虎。
「二人で作詞作曲した歌で行くよー!」
とは白虎。
そして流れ出すイントロ。アイドル系ポップスを声変わり前の二人が中性的に歌い上げる。メイド服のスカートの裾をはためかせながら。
歌唱終了。
拍手。
「ありがとうございましたなのだ♪」
「ありがとー」
歓声に応える子虎と白虎。
「はい、ありがとうございました」
「声変わり前ならではの歌い方ね。それに衣装と歌のマッチ具合もいいわね」
マイクを奪い返して司会を続けるソラと解説する六華。
「では、次はAnbarさんです。よろしくお願いします」
派手にならないベリーダンサーのような服に身を包み、特徴的な目元だけを残してベールで顔を覆うという幻想的な雰囲気を醸し出す姿で登場したAnbarは、大昔にあったかもしれない砂漠の青年と娘の悲恋の物語を、ハスキーな声で感情豊かに、歌の中では二人になりきって歌い上げる。
歌唱終了。
静寂。
静寂。
静寂。
大喝采。
異国情緒溢れるAnbarの歌は聴衆に大ヒットしたらしい。
「はい、素晴らしい歌をありがとうございました。Anbarさんでした」
「Anbarならではの歌といったところね。他の人が歌ったらこけてたわ」
「では次は鳳さんです。よろしくお願いします」
鳳はスリットが深めのチャイナドレスで登場すると、世界的ヒットナンバーを英語、中国語、関西弁とアレンジしながら歌い上げる。
歌唱終了。
拍手。大きめ。
「いやー、なかなかな歌でした。いかがですか、六華さん?」
「そうね。これも鳳以外だったらこけてたわね。それにしてもみんな歌も良いし綺麗だし、間違った方向に進みそう‥‥」
「‥‥そ、そうですか。では気を取り直して、次に行って見ましょう。六華さんのお兄さん、風雪 時雨さんです」
時雨は浴衣審査時と同じ姿で現れると、日本のポップスを歌う。割合しっとりとした感じの曲調でありながらも激しくもある。そんな曲だった。
あなたに会えたそのときから自分を誇れるようになった。全てをあなたに知ってほしい。そんなラブソング。
歌唱終了。
拍手。
「はい、ありがとうございました。どうですか六華さん?」
と、ソラが尋ねると
「無難な選曲ね。面白みにかけるわ、兄さん。もっとネタに走っても良かったのに」
「まあ、それだけに評価は良いと思いますけどね」
兄に対しては呵責容赦なく突っ込みを入れる六華にソラがフォローを入れる。
「では、次に行ってみましょう‥‥」
とソラが司会を進行させようとしたところに、
「ちょっとまったー!」
と、舞台袖から飛び入りしてきた人物が現れた。
ナイトフォーゲルA−0「フェイルノート」の顔をデフォルメしたお面。ファッションブランド【Steishia】のワンピース。モコモコブーツという姿で、現れたその人物は、
「飛び入り参加ですが、少しばかり、私の歌を聴いてください‥‥」
と言った。そして仮面を外す。が、前髪で目元がかくれていて顔が良くわからない。
そして低い男と高い女性の声を使い分ける両声類な歌を歌い上げる。
歌唱終了。
拍手。
そして再び仮面をつける謎の両声類。
「ご清聴、ありがとうございました」
再び拍手。そして去っていく謎の両声類。
(「あの人どこかで見たような‥‥」)
ソラはそう思ったが言葉にはしなかった。
「さて、飛び入りさんがありましたが、このまま続けましょう。次は神咲 刹那さんです」
刹那は日本で人気だったアニメのヒロインのコスプレをして登場し、劇中歌を歌う。もしも出会いをやり直せたなら、今度こそ貴方の思い人になれるだろうか。そんな切ない歌詞のラブソング。刹那は滔々と歌い上げる。
歌唱終了。
拍手。
深々と頭を下げて退場。
(「む〜歌まであるって聞いてなかったのに〜。春奈め‥‥今度会ったらいじめる‥‥」)
手紙でエルドラドまで呼び出してこのコンテストに出場させた幼馴染に心の中で恨み言を言う刹那。
「ありがとうございました。気合が入っていましたねえ」
「そうね。コスプレも似合っていたし、本当に馬鹿ばっかりねえ‥‥」
「あの‥‥六華さん?」
元ネタが分からないのか顔にはてなマークを浮かべるソラ。
「わからないならいいの。次行きましょ、次」
「あ、はい。では、次は金城 エンタさんです」
エンタは日本で人気のゲームの主題歌を歌った。平和への礎と、弱者の盾となれ、愛する地球の未来を守るため。そんなテーマを込めた戦士たちに捧げる歌。その歌詞に、会場にいる兵士や傭兵達が熱狂する。地球を守る。バグアと戦う。そんな決意を新たにしながら。
エンタはボディランゲージで会場を煽る。兵士達も一緒に歌う。熱く! 熱く!
歌唱終了。
拍手。
鳴り止まない拍手。
兵士達の高揚は最高潮に達していた。
エンタが退場するとようやく拍手が止まる。
「熱い歌でしたねー」
「そうね。人間をなめるなって感じよね。それにしてもエンタ君、男らしさをあえてアピールしたわね。まあ、それで兵士の慰労と言うこのイベントの最大の目的の一つが達成できたからいいけど」
「そうですね。俺も思わず奮い立ちましたよ。ありがとうございました。では次は、冴木氷狩さんです」
氷狩はハロウィンの魔女のコスプレで登場すると、日本の人気アニメの劇場版のテーマソングを歌う。当たり前のラブソング。ありきたりのラブソング。だがこの歌は作品の中で銀河規模の争いを止めた。氷狩もそんなことを願っているのだろうか。
歌唱終了。
拍手。
「いやー、切ない曲でしたね。でも、いい歌です」
「我らの敵は唯1つ。バグアを倒し、地球を取り戻すのだ! いやー、思い出すわね、あのシーンを。こんな名曲を選んでくるなんて、ひかりんもやるわね」
「相変わらず元ネタはわかりませんが、確かに名曲ですね。ありがとうございました。そして次はレイン・シュトラウドさんで、あ、同じ曲ですね」
「レインもこれを選んできたか〜。同じ曲が続くとなると、審査が厳しくなるわね。でも、頑張ってほしいわ」
「そうですね。それでは、よろしくお願いします」
白のドレスに白のハイヒール、プラトークを着用し、先ほどと同じ歌を歌う。身振り手振りを入れつつ両声類的な声で心をこめて歌い上げる。
歌唱終了。
拍手。
「はい、ありがとうございました」
「甲乙付けがたしね。どんな審査結果になるか楽しみだわ」
「では最後になります。日野 竜彦さんです」
竜彦は浴衣審査時と同じ浴衣で出てくると、しっとりとしたバラードを歌い始めた。
葡萄酒を作り続けた女性の人生にまつわる知られざる物語。駆け落ち。失敗。政略結婚。逃走と闘争。そして、静かに葡萄酒を造り続ける日々。それこそが私の人生――そんな切ないバラード。
歌唱終了。
拍手。
「そこに物語はあるのかしら? ってね。なかなか渋い選曲をするわね」
「はい、これで歌唱審査が終了しました。コスプレ審査まで30分の休憩を挟みます。どうぞ皆さん屋台をお楽しみください」
●コスプレ審査 〜そして伝説へ〜
「はい。それではコスプレ審査を開始します。司会はソラです」
「すみません、遅くなりましたね。解説に復帰します、ファイナです」
「引き続き解説を勤める六華よ。よろしくね」
「それでは今度はエントリー順に行ってみましょう。まずは日野 竜彦さんです」
竜彦は純白のウェディングドレスに手にブーケを持って現れる。
「おおー!」
どよめき。
それほどにウェディングドレス姿は似合っていた。
「さて、ブーケをもらった人は来年の収穫祭で花嫁姿(女性の場合は花婿)にならないというルールが今日出来た!! と言うことで投げさせていただきます」
そして投げられたブーケは柚井ソラがキャッチしてしまった。
「よし取ったな! 来年の花嫁は柚にゃんに決定!」
「いやです!」
「いや、ルールだし」
「そんな即席のルールに誰がしたがいますか。とにかく、お断りします!」
ぶー、ぶー!
観客席からのブーイング。
しかしソラは強い意思でそれを否定すると強引に司会を進めた。
「それでは、次はレイン・シュトラウドさんです。どうぞ」
白を基調としたナース服・白いナースキャップ・細いシルバーフレームの伊達眼鏡・首元に黒の短いネクタイ・胸には中くらいのパットを詰めたレインが現れた。
「こんにちは。本日はどうされましたか?」
眼鏡を軽く持ち上げて、本物のナースのように尋ねる。
「言うこときかないと、痛〜いお注射でお仕置きしちゃいますよ」
そう言って巨大注射器を持ち微笑んでウインクする。
「巨大注射器‥‥怖いですね」
ファイナがそういうと、六華が
「ふふん、情けないわね」
と鼻で笑う。
「はい、ありがとうございました。レインさんでした。氷狩さんとエンタさんはパスで、神咲 刹那さんですね」
刹那はセーラー服を着て登場すると、お茶を濁す感じで目立たないようなアピールを行った。
「うーん。衣装は良いんですけどアピールが足りませんね」
とはファイナ。
「はい、ありがとうございました。風雪 時雨さんもパスなので次は白虎さんですね〜」
白虎はチャイナドレスを着て現れると、覚醒してカンフー虎耳ケモノっ娘になり玩具のヌンチャクを振り回して中国拳法な感じをアピールする。
「ほあちゃぁ〜!」
びしっと決める。
退場。
「ありがとうございました。次はAnbarさんです」
そういったときのソラに、己に降りかかる理不尽を知るすべは存在しない。
Anbarはメイド服に身を包み、甲斐甲斐しいお世話をするメイドぷりで個人アピールする。
しかしいきなりソラからマイクを奪うと司会側にLH二大男の娘と言われる二人がいるのは納得できないとして、二人も候補に入れるように会場を煽り立て、シュプレヒコールを起こさせる。
「おかしいだろう? 男の娘と言えば、ソラさんとファイナさんだろうが!」
これには会場も賛同。ソラコールとファイナコールが沸き起こる。
美黒はそれに便乗し二人を舞台に引っ張りあげようとする。
「いやだ、俺は絶対やらない」
「ぼ、僕も嫌だー」
抵抗する二人。
しかし体力で勝る美黒に勝てるわけも無く抵抗も空しく‥‥というところで
「いい加減にしなさい!」
閃光。
六華の閃光手榴弾が爆発したのだ。
素早く美黒を蹴落とし、ソラとファイナを救い出す。
「さて、最後は神崎・子虎さんね。よろしくお願いするわ」
いまだ閃光手榴弾の影響下にあるソラの変わりに六華が司会を進める。
子虎は歌唱審査時と同じメイド服で登場すると、舞台中央についたとたんに一気にメイド服を脱ぎ捨て狼耳+尻尾+スク水姿に。
胸には「5ねん1くみ ことら」と書いてある。
「ふっふっふ、ここで変身♪ なのだ☆ 夏といったらこれでしょ♪ 耳と尻尾はおまけなのだ♪」
「おおっと、大胆なアピールね。これは転ぶ腐男子諸君も多いんじゃないかしら?」
六華の司会兼解説がつづく。
そして子虎退場。
「ありがとうございました。それでは、投票時間をかねた30分の休憩の後審査結果を発表します。相変わらず屋台をお楽しみください」
復活したソラが審査をしめて休憩へと入る。
●結果発表
「それでは、結果発表を行います」
「まずは浴衣審査の最優秀賞からです」
とはファイナ。
「浴衣審査の最優秀賞は、(ドラムロール)Anbarさんよ」
拍手。
「どうですか、Anbarさん感想は?」
尋ねるソラに
「まあ、悪い気はしないな」
と答えるAnbar。
「そうですか。では、続いて歌唱審査の最優秀賞の発表に参りましょう」
「じゃあ行くわよ、歌唱審査の最優秀賞は(ドラムロール)金城 エンタさんよ。兵士達を乗せたのが効いたかしらね」
「そうですね。では、投票結果も含めた、総合結果の発表に参りましょう」
とファイナ。
そして総合審査の結果を見た六華が笑い転げる。
「あっはっはっは。いいわね、これ。じゃあ、発表するわよ。第三位は、(ドラムロール)神崎・子虎さん」
「やったー、なのだ♪」
「そして三位に圧倒的な差をつけて、(ドラムロール)ククク‥‥ふぁ、ファイナさん!」
「な、何で僕が‥‥」
涙目になるファイナ。
「そして、堂々の第一位は(ドラムロール)柚井 ソラさんです。いやあ、投票の結果だけでこれよ。笑うしかないわね」
「なんでですかっ!? ちゃんと出場者に投票してください」
これまた涙目になるソラ。
「まあ、投票の結果だから素直に受け入れなさいよ。やっぱりソラさんとファイナさんが男の娘なのよ」
「ちがう!」
「ちがいます!」
「違わないからこんな結果になったんじゃない。と言う事で、エルドラド男の娘コンテストは柚井 ソラさんの優勝で終りました。ありがとうございました」
拍手。
退場する出場者と司会たち。
●祭りの後
「はいはい。ブロマイドはこちらですよ〜。ソラさんのも勿論ありますよ〜」
小雪は相変わらず店を捌くのに追われていた。そこに綾が現れる。
「悪いねみんな、そろそろ閉店の時間だ。祭りの後片付けに入るよ」
綾は覚醒すると屋台を片付け始める。
その中で、エルドラドを見渡しながら、改革中に関わる事になった様々な出来事に思いを馳せる。
「‥‥ここが再び、戦火に包まれたりしない事を祈るばかりだな」
「そうですね」
いつの間にかユイリーがそばに来ていた。
「ただ、南米では現在戦闘が激化しています。エルドラドがいつ巻き込まれるかも分かりません。そのときは、また綾さんやキョーコさんにお願いすることになると思いますが、よろしくお願いします」
「ああ、あたしに任せときな。二度とここは焼かせないよ」
と、いつの間にか来ていたのかキョーコがそう言う。
「ユイリー代表、一人でふらりと出歩かれちゃ困りますぜ」
タランチュラが自警団のメンバーを連れてやってくる。
「よう、タランチュラ。コンテストはどうだった?」
「なかなかに面白かったですな。こういうお祭り騒ぎもたまには悪くない」
尋ねる綾に答えるタランチュラ。
「そうかい、そいつは良かった」
「しかし、祭りの後ってのはなんか寂しいものだね‥‥」
キョーコがそういうと
「まあ、それも平和の証なのでしょう」
ユイリーがそう答える。
「そうだね」
キョーコは火のついていないタバコをくわえながらそういった。
こうして、エルドラド男の娘コンテストは終了した。平和への祈りを残しながら‥‥
了