●リプレイ本文
「こんにちは。自分はラスト・ホープから来ました瞳といいます」
瞳 豹雅(
ga4592)は町に入るなり手近な人間を捕まえて地図を広げ、「森の中の開けた場所」について詳しく聞いた。だが、大人はあの森に滅多に近づかないので、有益な情報を得ることができなかった。
「あっ、そうだ。森の外れに住む猟師のバルマーさんなら、森の中のことも詳しいかもしれないな」
「ありがとうございます」
瞳は男に礼を言うと、それを仲間に報告した。
「とにかくそのバルマーさんとやらにあってみましょう」
瞳の言葉に一同は頷くと、バルマーに会いに行った。その結果、バルマー手製の森の簡単な地図を手に入れた。子供たちが遊んでいた「開けた場所」への道も記されてあった。そして‥‥大きな犬を見たポイントが×で刻まれていた。元々は狩り場だったが、大きな犬のせいで狩りができなくなった場所だ。そしてそれは森の反対側から「開けた場所」付近までつながっていた。
「このままじゃ俺も廃業だ。何とかしてあの犬共を追っ払ってくれ」
「言われるまでもありません。私たちはそのために来たのですから」
シア・エルミナール(
ga2453)がそう言うとバルマーは喜んだようだった。
「さて、そろそろ行こうぜ」
ファルロス(
ga3559)がそう言うと、しばしの談笑に緩んでいた能力者たちの気配が張り詰めた。
「そうさね。子どもに手ぇ出すなんざ不逞なキメラだ。そんなお痛をする犬ッコロにはお仕置きとして必殺の真っ向唐竹割りを脳天から食らわせてやるさ。容赦? 躊躇? そんなものは今月の第二火曜日の燃えないゴミの日に捨ててきた。うん、今日のあたしは最高に怒髪天だよ」
子供好きのマートル・ヴァンテージ(
ga3812)は、今回の犠牲者が子供だと言うだけあってかなり怒っていた。
「さて、とっとと犬っころをとっちめにいこうぜ」
マトールの言葉には誰も逆らえなかった。そして老人からもらった地図を頼りに、「開けた場所――俗称、広場」までつながる道の入り口にたどり着いた。
「さて‥‥」
翡焔・東雲(
gb2615)は一呼吸してから覚醒し、左手に巻いていた包帯をほどいた。聖痕から血が流れている。後は地図にあるように、道を進んでいくだけだった。
「敵は狼、場所は森‥‥正直アウェー感が否めませんねぇ」
蓮角(
ga9810)はため息をつきつつ、警戒しながら道を進む。
「まあ、瞳のおかげで森の地図を得ることができましたから、この地図を見る限りでは広場までは遭遇することはないでしょう」
セレスタ・レネンティア(
gb1731)は警戒を怠らないようにサブマシンガンを構えながら言った。地図を見る限りでは広場はまだ敵の狩り場には入っていない。途中で遭遇する確率は低そうだ。
「と言うことは広場でおびき寄せて戦うと言うことになりそうね。陣形を組めれば群狼戦術でも対処できそうだから、広場で戦いたいわね」
紅 アリカ(
ga8708)がそう言うと、シアが同意した。
「そうですね。できれば固まってきて欲しいものです。敵も連携を取りやすいでしょうけど、討ち漏らすよりはましですから」
それに翡焔が黙って頷く。彼女の歩いた後には血が転々と一定の間隔でついている。やがて広場に近づくと、広場の周辺に血を巻きちらし、キメラをおびき寄せる準備を整える。
シアは陣形を取るポイントの近くの物陰に、隠密潜行のスキルを使いながら忍び込む。がシアの側で息を潜めながらキメラを待ち構えている。ファルロスは物音をわざと立てながらキメラをおびき寄せようとする。マートルは翡焔のそばで周囲を警戒している。
セレスタはサブマシンガンを数発、空に向けて発射した。
「セレスタさん、何を?」
蓮角は突然の銃声に驚き、セレスタに尋ねる。
「ここに敵であり獲物でもある者がいることを教えたのです。これにおびき寄せられると良いのですが‥‥」
セレスタはそう言うと引き続き警戒の態勢を取る。
陣形を組み、キメラの出現を待つ。それは血の臭いに惹かれたのか物音に興味を持ったのかは分らないが、一匹だけが現れた。そして能力者たちを見渡してから遠吠えをあげる。
「襲って、来ませんね」
シアが警戒しながら言う。銃はすでに構えてあるが、発射するのはなぜか躊躇われた。
「仲間を待っているのでしょう。我々を敵だと判断したようです」
セレスタがしゃがんでサブマシンガンを構え、戦闘に備える。
「そいつは都合がいいな。犬っころども、まとめてぶっ殺してやる」
マトールが啖呵を切る。慎重に周囲を警戒しながらスピアを構える。
「どうやら来たようだな。一匹だけでかいのがいる。あいつがリーダーか?」
ファルロスの言葉通り、五匹のキメラが現れた。そして一回り大きなキメラがいる。どうやらそれが群れを仕切っているようだった。
「半包囲ですか‥‥どうやら敵も馬鹿じゃないらしい」
豹雅がキメラたちの動きを見ながら言う。その言葉通り完全な包囲陣形では無く、半円を描く形での半包囲陣形をキメラたちは取っていた。どうやら数の上での不利を悟ったらしい。
「来るか‥‥今だっ!!」
ファルロスがタイミングを見切って敵の群れに袋を投げ、それを銃で撃ち破る。すると何かの粉がキメラたちに降り注いだ。それは乾燥させたタマネギの粉末であった。相手が犬型のキメラと言うことで、タマネギ中毒を狙ったのであろうか? だが、キメラは生物の弱点は消して作られる。猫型キメラにマタタビが効かないように犬型キメラもタマネギ中毒にはならない。だが、タマネギの粉末が鼻に入り犬たちは大きなくしゃみをした。それもすぐに回復するであろう一瞬の出来事だが、キメラの足並みを乱すのには十分だった。
「喰らえ!」
強弾撃で強化された銃弾が、一回り大きなキメラの足に命中する。その一撃は前脚を文字通り破壊し、大きなダメージをキメラに与える。
「まだまだ!」
ファルロスは再度大きなキメラを狙って銃弾を解き放つ。それは弱っていたキメラの命の灯火を消し去るのには十分すぎるだけの暴風だった。
別のキメラが吠える。そして駆け出し、正面にいたアリカに向かって飛びかかる。口を大きく開けて首元に噛み付く。だが、アリカはその寸前にその攻撃をしゃがんで避けると、そのまま地面を一回転した。標的を一瞬見失ったキメラはすぐにマートルに目をつけ炎の息を吐き出す。マートルはそれを何とか避けると体勢を立て直した。だが、そこに生えてあった草が燃え始めた。
「くっ。これじゃ陣形が!」
マートルの言葉通り陣形は崩れていた。戻ろうにも炎が邪魔をして戻れない。だがそれで良かったのかもしれない。キメラの吐く炎の範囲は広すぎた。下手をすればファルロスや蓮角も巻き込むところであった。
「これは‥‥やっかいだな」
蓮角が盾で炎を遮りながら言う。そんな蓮角に三匹目のキメラが体当たりを仕掛ける。蓮角はそれを盾で受け止め何とかダメージを受けることを防いだ。キメラは向きを変えて離脱すると、次のキメラがセレスタを目がけて体当たりをかける。
セレスタは元々しゃがんでいたため、そのまま転がり、何とかその攻撃をかわすことができた。
「狭い場所で戦った方が楽だったかもしれませんね‥‥」
愚痴を言うセレスタを余所にキメラは離脱し、また別のキメラがファルロスを狙って体当たりを仕掛ける。ファルロスはそれを難なくかわし、キメラは離脱する。
「完璧に陣形が台無しだな‥‥」
淡々とした口調でファルロスが言う。離脱したキメラたちは翡焔や蓮角を正面にみれる場所に集合していた。そして最後の攻撃が再び蓮角を襲う。蓮角はそれを盾で受け止めるが、キメラはやはり離脱して集合した。
「リーダーを倒しても統率が乱れませんね。厄介です」
シアが連続攻撃に嫌気をさして呟く。
「陣形は崩れてしまったけど、やるしかないね。こっからは反撃だ、行くよ!」
豹雅が前進し、キメラを斬りつけ、返す刀でとどめを刺す。
「なんだ、他愛ないね」
「これで‥‥」
セレスタはサブマシンガンを乱射し、傷を負っていなかったキメラたちにダメージを与える。キメラたちは血を流し、敵意のこもった瞳で能力者たちを睨む。
「この‥‥ド畜生がッ!」
もはや陣形など意味はなく、蓮角は目の前のキメラに三度刀を振るった。その斬撃は確実にキメラの活動を停止させる。
「地獄の番犬なら地獄で大人しくしてろ!」
翡焔は豪破斬撃で攻撃力を上げ、キメラの急所を狙って自動小銃の銃弾をキメラに叩き込む。銃弾の洗礼を受けたキメラは虫の息になっていた。
「仕留める‥‥」
アリカの銃が吐き出した銃弾が虫の息のキメラにとどめを刺す。
「生命力自体は普通のキメラと大して変わらないのね」
シアは淡々と小銃でキメラを集中攻撃し、三度目の攻撃を受け、キメラは倒れた。
「そりゃね。アンタ等は生まれた時からそんなで、それ自体には罪は無いのかもしれない。が、子供に手を出したアンタ等を許さない!」
マートルはそう叫ぶと、パイルスピアで最後のキメラを串刺しにし、それを引き抜いて斧の部分で頭を叩き潰す。
キメラは、それで全滅した。
だが、キメラの置き土産が残っていた。
キメラの吐きだした炎によって燃え始めた森である。幸いファルロスが消火器を借りてきていたので大火には至らずに済んだが、下手をすれば森全体が燃えていたかもしれない。
キメラが炎を多用しなかったのも運が良かった。リーダーらしき一回り大きなキメラをファルロスが倒しても統率を失ったようには見えなかったが、やはり全体の意思の統一がとれなくなっていたのだろう。
「なんとか殲滅‥‥任務完了、でしょうか‥‥」
セレスタがそう呟くと、皆の緊張の表情が消えた。覚醒も解除される。
能力者たちはその後バルマーに地図を返した後、キメラを殲滅したことを報告し、町を後にしたのであった。なお、その際数人の子供からお礼の言葉と手作りの花飾りをもらった事を付け加えておく。