タイトル:【エル】聖地奪還01マスター:碧風凛音

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/19 03:27

●オープニング本文


 シェイド討伐戦の後、北米の各地で戦力図は変わりつつあった。
 むろん熾烈な激戦区であることには変わらず、作戦中の戦力移動によって劣勢に立たされた地域もある。しかし、逆に失地奪還に戦力を回す余裕が出てきた地域もあった。
 エル・ウッド(gz0207)の故郷であり、ネイティブアメリカンの聖地のある地域も、そのひとつだった。
 元々エルは聖地と崇める土地に村を築き細々と暮らすネイティブアメリカンの少年にすぎなかった。それが競合地域となりキメラが増えるに従って聖地と崇める土地を捨てUPCが用意した新たな土地に逃げるように住み着いたのだった。
 そこでの生活は快適だった。村での貧しく慎ましい暮らしとは違い、豊かな生活が保障されていた。彼らは古くからの伝統と文化を守る貴重な存在であり、その文化が途絶えることを恐れたUPCが最大限の配慮をしたからだった。
 それでも少年の心には故郷を失った悲しみと奪われた憎しみが募った。それ故彼は能力者の適性試験を受けた。そしてネイティブアメリカンが聖なる獣と崇めるジャガーの力を持つビーストマンの素質があることがわかり、手術を受け、訓練を受け、実戦経験を積み、今一人前の傭兵として認められ、大小数々の以来をこなしていた。
 そして今回、故郷を奪還する作戦をUPCが立てたことを知り、真っ先に依頼を受けた。
「エル、よかったな」
 顔なじみの傭兵はそう言った。
「うん!」
 エルは真剣な顔で答え、ブリーフィングルームへと向かった。
「諸君、今回の作戦には障害となるようなバグアの大きな基地がない。そのかわり何百匹ものキメラの群が各所に点在している。バグアの浸透作戦でBFから撒かれたキメラだ。それが各地に巣を作り土地を荒らしている。先行偵察の結果判明した巣に諸君は侵入して、キメラの討伐を行ってもらうことになる」
 そこまで言うと作戦士官は手元のコンソールを操作してキメラのデータを示した。
「今回戦ってもらうキメラは20匹。チャージ・ビーストとガード・ビーストの強化型と思われるキメラで、コードネームはハイ・チャージとハイ・ガードとつけた。このキメラは初心者が相手にするにはきつい。志願するものは低レベル能力者用訓練の必要のないものにしてほしい。以上だ、質問は?」
 エルが手を挙げる。
「えっと、俺は志願して大丈夫ですか?」
 作戦士官は傭兵のデータベースからエルを調べると大丈夫だろうと太鼓判を押した。
「よっしゃ!」
 エルはガッツポーズを取ると早速作戦に志願した。

●参加者一覧

黒川丈一朗(ga0776
31歳・♂・GP
植松・カルマ(ga8288
19歳・♂・AA
美崎 瑠璃(gb0339
16歳・♀・ER
雪代 蛍(gb3625
15歳・♀・ER
イーリス・立花(gb6709
23歳・♀・GD
ユーミル・クロガネ(gb7443
12歳・♀・DF
湊 影明(gb9566
25歳・♂・GP
9A(gb9900
30歳・♀・FC

●リプレイ本文

「あれが問題のキメラか‥‥ふむ、確かに手強そうだ」
 洞窟の中に入った9A(gb9900)がキメラを確認してつぶやく。
「さて、閉所戦闘ですか‥‥跳弾と同士討ちに気を付けなければ」
 湊 影明(gb9566)がそう言うと、9Aが同意した。
「それじゃ、行こうかの」
 ユーミル・クロガネ(gb7443)が気負うでもなく言う。
「望郷の思いは私も良く分かります。‥‥頑張りましょうね」
 イーリス・立花(gb6709)がエルに声をかける。彼女も故郷をなくしたのだろうか? その言葉には真心がこもっていた。
「はい!」
 エル・ウッド(gz0207)が答える。イーリスの言葉が単純にうれしかった。
「故郷か‥‥どうなったかな。あれから帰ってないし今は戻る理由も無いから‥‥奪われた何て話聞いたこと無いからまだ無事だろうけど‥‥、あたしはそう成ったとき何をするだろう」
 両親をキメラと傭兵の戦闘に巻き込まれ死亡し孤児となった雪代 蛍(gb3625)には故郷に戻る理由がない。だが、エルの境遇を考えて自分だったらどうするか、それを考えていた。
「そーいえば、エル君と実戦で一緒するのはこれがはじめてかな? がんばろうね」
 美崎 瑠璃(gb0339)はエルの訓練時代からの馴染みの傭兵だった。色々と手ほどきを受けたが、今ではエルも瑠璃に負けず劣らず成長した。
「はい、頑張ります」
 エルは気合をこめる。
「‥‥故郷奪還、かー。そう言えば実家の父さんと母さん、元気にしてるかなー?」
 瑠璃は両親の反対を押し切って能力者となった。その関係で両親とは絶縁状態のため連絡は取っていないが、折につけ心配になる。
「大丈夫ですよ。元気な瑠璃さんのご両親ですから、きっと元気に決まってます」
 エルがへんなへんな励まし方をするが、瑠璃は素直にありがとうと言った。
「はっ! いくッスよ」
 植松・カルマ(ga8288)がランタンを腰に括り付けながら気合を入れる。
「エル、お前の気持ちは良くわかる。負けるなよ」
 アニメヒーロー的な意匠の戦闘服を着た黒川丈一朗(ga0776)がバイザーで顔を隠しながら言う。丈一朗は元バンタム級プロボクサーだが、帰る故郷と所属ジムを共に失い能力者になったと言う過去をもつ。故郷を失った丈一朗にはエルの気持ちが痛いほど良くわかる。
「誰にでも大切なものはある。俺にとってはジムがそうだった。そして、新しく大切なものも出来つつある。大切なものは、守らないとな」
「新しい大切なものって、あのオペレーターさんとかですか?」
 エルが揶揄するようなことを言う。
「ばっ! 馬鹿! そんなんじゃない。あれはだな、あれはだな‥‥えーとなんだ? とにかく、今はそれは関係ない」
「まあ、そうですね。じゃあ、行きましょう」
「こいつ‥‥」
 丈一朗は複雑な気持ちでエルを見た。軽口を飛ばせる余裕があるから大丈夫かもしれないな、などと思いながら。
 丈一朗は覚醒すると戦闘服が赤く変色する。
「ここは聖地だ。悪魔は帰るんだな。カルマ、援護頼む。エル、9A、いくぞ!」
「ひゃっはぁ、了解ッス!」
「はい!」
「了解だよ!」
 カルマがフォルトゥナ・マヨールーで援護射撃を行う中、三人は前に飛び出した。
 2発を撃ちつくしてリロード。そして更に二発撃ってリロードする。
 ハイ・チャージを狙ったその攻撃はハイ・ガードが庇う。が、カルマの攻撃力の前にはさしものハイ・ガードも持たなかった。
 一匹のハイ・ガードが絶命する。
「ぐおおおおおおお!」
 仲間の死に怒ったのだろうか? ハイ・チャージが雄叫びを上げながら突進してくる。作戦通りだった。
「よし黒川君、今だッ!」
 9Aが叫ぶ。
 丈一朗がハイ・ガードとハイ・チャージが離れたところですれ違うように瞬天速で間に割って入る。
 エルも瞬速縮地で一気に隙間に入る。
 9Aも迅雷で分断するような立ち位置につく。
「チャージ‥‥インパクト!」
 丈一郎は試作機械拳「烈空」を発動させる。それは、音声とアクションによって発動する特殊な武器だった。
 放電がハイ・チャージを襲う。
「行くよ、ガンドルフ!」
 エルが爪でハイ・チャージを引き裂く。それはさながら肉食獣のように。
「忍刀「颯颯」!」
 9Aが迅雷の勢いを利用してそのままチャージする。
 その連携攻撃を続けること3回。一匹のハイ・ガードを倒すことに成功する。
 まだ行動の出来る丈一朗はハイ・ガードのあごの下にアッパーを叩き込み浮かせると、連続で拳を叩きこむ。いわゆる空中コンボだ。倒すには至らなかったがそれなりのダメージを与えることには成功した。そして閃光手榴弾のピンを抜いて時間を数える。
「次はあたしの番だね!」
 瑠璃は超機械「牡丹灯籠」で光源を確保すると共に、電磁波で丈一朗が攻撃したハイ・ガードを攻撃する。
 電磁波の渦はハイ・ガードを苦しめ、二度、三度と繰り返すことによって全ての生命力を奪いきることに成功する。
「バジリスク、行くよ!」
「いきます!」
 蛍とイーリスがそれぞれ銃撃でハイ・チャージを攻撃する。
 吸い込まれた銃弾は2回の攻撃で一匹目のハイ・チャージを倒し、更に二回の攻撃でもう一匹のハイ・チャージも倒す。
 まるでひき肉のようになって息絶えたハイ・チャージを見て、イーリスは吐き気をこらえる。
「さて、行くかのう。若いの、撃つぞ」
「はい!」
 ユーミルの言葉に影明が頷くと、ユーミルはフォルトゥナ・マヨールーで、影明はシエルクラインで射撃を行う。
 二人は銃を乱射し次々にハイ・チャージを狙っていく。結果、2匹のハイ・チャージを重症に至らしめる。そして傭兵の攻撃が終わったころ、獣たちの反撃が始まった。
 重傷を負ったハイ・チャージは手負いの獣と化してイーリスに襲い掛かる。
 2匹の集中攻撃はイーリスにダメージを与える。2方向からの突撃をくらい後方に大きく吹き飛ぶ。
「イーリス君!」
 瑠璃が悲鳴を上げる。
「っ‥‥くっ。大丈夫です。まだ行けます」
 とっさに自身障壁を使ったのでダメージは抑えられている。
 今度は別の2匹が蛍を狙ってくる。
 かわしきれないと悟った蛍は武器での受けに切り替える。
 それでも突撃は命中しAU−KVの装甲が火花を上げる。
「くっ‥‥」
 更に2匹のハイ・チャージがカルマを狙ってくるが、カルマは紙一重でそれをかわすと、「うっひょー、アブねー」と叫んだ。
 残りの4匹がハイ・ガードとハイ・チャージを分断した丈一朗めがけて攻撃を仕掛けるが丈一朗は余裕でそれらの攻撃をかわす。
「甘いな!」
 ハイ・ガードもハイ・チャージと合流すべく突撃を仕掛けてくるが回避力の高い丈一朗とエルが前面に立って9Aを庇いながらその攻撃をいなす。
「エル、ナイン、跳べ!」
 エルと9Aが跳躍すると丈一郎が水溜りにむかって裂空の高圧電流をたたき込む。
 それは水溜りにいたハイ・ガード3匹を感電させて痺れさせる。
「蛍、二発目の閃光弾の準備頼む」
 丈一郎のその言葉に従い蛍が閃光手榴弾のピンを抜く。
 そして、丈一朗、エル、9Aの連携攻撃で一匹のハイ・ガードを倒す。
「ふむ、順調だね」
 9Aがそう言うと、カルマが「その調子で頼むッスよ」といいながら、銃をイリアスに持ち替え、流し斬り、二段撃、両断剣を発動させながらハイ・チャージの群れの中に飛び込む。
「俺の剣が光って唸って大騒ぎ! お亡くなりになりやがれェッ!!」
 その攻撃は重傷を負っていた2匹のハイ・チャージの首と腹を切り絶命させ、さらにもう3匹のハイ・チャージを一瞬のもとに倒す。
 このチームの中でもカルマの攻撃力はずば抜けていたが、これほどまでにあっさりと敵を倒してしまうとは味方も思っていなかった。
「カルマ君に負けられないね、蛍君、イーリス君、連携で行こう」
 瑠璃が叫ぶ。
「わかりました」
「了解」
 超機械の電磁波と、急所を狙う蛍の薙刀、足元を狙うイーリスの颯颯の攻撃力が合わさって、2撃でハイ・チャージを一匹倒す。
「便利ですね、やはり」
 イーリスが颯颯を使用した感想を言う。
「良し、この調子でもう1匹もいこー!」
 瑠璃がそう言うと、もう一匹のハイ・チャージに連携攻撃が仕掛けられ、同じ要領で倒していく。
「では、わしらで最後のチャージを倒すとするか」
「ええ」
 剛拳「エリュマントス」 に装備を変えていたユーミルと、名刀「飛天」を構えた影明がハイ・チャージに接近しユーミルが頭を影明が頚動脈を狙う。頭蓋骨を陥没させ、切り裂いた頚動脈から飛び出す返り血を浴びる。そうしてハイ・チャージは息絶えた。
 ガードする対象がいなくなったハイ・ガードは攻撃を前に立っている丈一郎、エル、9Aに集中させる。丈一郎とエルは余裕で、9Aは疾風を使ってその攻撃を回避しノーダメージでやり過ごす。
「使うぞ! 目に注意!」
 閃光手榴弾が爆発するタイミングだったので丈一郎は警告する。全員が目と耳を庇い、衝撃から身を守る。
 対するハイ・ガードは全てがうろたえてあちこちで同士討ちを起こしている。
「よし、エル、カルマ、ナイン、一気にガードを殲滅するぞ。四方から囲め!」
「了解!」
「オッケーッスょ!」
「わかったよ!」
 丈一郎の拳が、エルの爪が、カルマの二本の剣が、9Aの刀とナイフが1匹のハイ・ガードに襲い掛かる。
 丈一郎の拳がハイ・ガードを浮かせ、そこに攻撃を叩き込む要領だ。
 そしてそれは一撃でハイ・ガードの命を奪う。
 同様の手段で合計3匹のハイ・ガードを倒し、9Aが離脱して離脱した分をエルが二段撃でカバーする。
 それで更にもう1匹のハイ・ガードを倒し、今度はエルが抜ける。
 そしてカルマが二段撃と流し斬りと両断剣を使って全力で丈一郎と共にハイ・チャージに攻撃する。丈一郎が抜けてカルマ一人になってもカルマは全力でハイ・チャージに攻撃を仕掛ける。それは同士討ちで傷ついたハイ・チャージ1匹を屠る。
「お亡くなりになりやがれぇ!」
 そして残るは一匹のみ。
「みんな、一斉に行くよ。ラストワン!」
 瑠璃の合図と共に瑠璃が牡丹灯篭で蛍が薙刀でイーリスが忍刀で、ユーミルが拳で、影明が飛天で一斉に攻撃を仕掛ける。
「オーバーキル、ですね」
 ハイ・チャージの死体を見て影明が呟く。
「何じゃ? つまらん奴じゃの。もう終わりか?」
 ユーミルがさもつまらないと言った風に呟く。
「あ、閃光行きます!」
 蛍が慌てて叫ぶ。
 それを聞いた皆が慌てて目と耳をガードする。
 衝撃が体を貫く。
「閃光手榴弾は発動までの時間が長すぎる。戦局にあわせて適宜に使用できないのは欠点というべきですね」
 影明が戦いのスペシャリストらしくそう言う。
「そうだな。5秒ぐらいで発動してくれるといいんだが」
 丈一郎がそれに同意する。
「さて、任務完了だね」
 9Aが呟くとカルマが「これで聖地奪還の第一歩ってわけッスね」と答える。
「大切な場所か‥‥」
 影明の呟きにイーリスが反応する。
「故郷は遠くにありて想うもの、とはいいますが。遠すぎるのも考え物ですよね‥‥」
 そしてエルのほうを向いて言った。
「エルさんの聖地奪回、上手くいくよう祈ってます」
 それにエルは満面の笑みで答える。
「そうだ、エル、近いうちにエルが好きな人に合うからサインとか貰って送ろうか、ってまだ知り合ったばかりだけど」
「良いんですか? やったー!」
 蛍は役者として、近々ハリウッドのテレビ番組と共演する。その番組のキャストの中にエルの好きな役者がいるのだ。
「エル君、色々と良かったね。これからも頑張るんだよ」
「はい」
 瑠璃の言葉にエルが頷く。
「さて、エル。これで第一歩は終了だが、先はまだまだ長い。気を抜くなよ」
 覚醒を解いて戦闘服が赤から黒に戻った丈一郎が言う。
「わかりました。これからも‥‥」
「そうだ。これからもだ。さて、UPCに報告しないとな」
 そう言うと丈一郎は洞窟の入り口へと向かって歩いていった。近くの広場に高速移動艇が待機しているはずだ。
 それから、一行はUPC軍基地で報酬を受け取り疲労を癒すため一泊すると、また新たなる依頼へと向けてラスト・ホープへと戻ったのであった。