●リプレイ本文
「さて、復興協議を始めたいと思う。まずは、自己紹介からはじめよう。私はジャンゴ・コルテス大佐。作戦コードJTFMの司令官をやっている。一応UPCの責任者と考えてもらって差し支えない」
ジャンゴが髭を捻りながら言った。
「ソフィア・バンデラス准尉です。大佐の補佐官をやらせていただいております」
「地堂球基(
ga1094)だ。復興が速やかに実行できる様手伝うつもりだ」
「アンジェリナ(
ga6940)。アンジェリナ・ルヴァンだ。傭兵になって約2年、戦闘と破壊と解放は何度も携わって来た。自分の仕事はそこまでと割り切っていたためにその先の事は考えないようにしていたが、自分たちの戦いの結果世界がどうなっていくのか、それを見てみたくなった、知りたくなったために参加した。復興の現場を知らないのでアイディアを出したりはできないかもしれないが、実際の労働やその他頼まれごとがあればいくらでも引き受ける」
「我はフラウ(
gb4316)だ。復興の参考になるような資料を持ってきた。それから、この場に住民代表を呼ぶように依頼しておいたはずだが、そこにいる汝らがそうか? あとで自己紹介を頼むぞ」
「俺は鹿島 綾(
gb4549)だ。インフラの現状調査をしてきたが、なかなか凄惨な状況のようだな。上下水道、特に下水道と処理施設の整備を重点的に提案するつもりだ」
「拙僧はゼンラー(
gb8572)と申す。と、堅苦しいのはここまでにして、争うばかりが、傭兵の仕事じゃないしねぃ。昔、救われない人たちを訴えて逝った改造人間のためにも、この手が届く限りは、可能な限り救うよぅ。‥‥救うと約束したからねぃ」
「アセリア・グレーデン(
gc0185)です。復興と聞いて馳せ参じました。いずれは我が一族の復興のためにも、色々と勉強するつもりでおります」
「わたくしはカルミア(
gc0278)と申します。貧困からの脱出を第一テーマに、プランを提出していきたいと思っています」
「イッヒッヒ。ブラドダーム博士(
gc0563)じゃ。何はなくとも国が富み栄えるためには、人こそがその礎となるのじゃよ」
「エイシャ(gz0282)、エイシャ・アッシュフォードや。こき使われるの覚悟でやってきたで」
そして、三人の住民代表の挨拶が始まった。
「住民代表のカタリーナ・マリンです。バグア支配時代にボゴダ住民の代表のようなものをやっておりました。主にバグアにこき使われる役目ですけどね」
ボゴダの名士の未亡人だという、中年だが、蠱惑的な魅力を持つ美女がそう挨拶をした。
「フェルナンド・ロペス。コロンビア革命軍の代表だ。エイシャ嬢ちゃんの伝で出席させてもらった。コロンビアを愛する気持ちなら、誰にも負けん」
浅黒い、精悍な男がそう言った。
「ラファエル・べレスです。元バグア派の兵士の中で一番階級が高かったということで、代表として選出されました」
白人の血の混じった中肉中背の男が言った。
「ラファエル、きみの階級は?」
「はっ、元中尉です。私の活動していた地域では、高級将校はみな戦死か自決、あるいは国外に逃亡です。おかげで私のような半端ものが代表という形になりました」
球基の質問にラファエルが答える。生真面目そうな気質の男だった。
「彼らは将来の議員候補だが、今は各派住民とのパイプ役と言ったところだ。さて、それじゃあ早速協議を始めたい。お嬢さん、資料を持ってきてくれたということだが、どんなものがあるのかな?」
ジャンゴがフラウにたずねた。
「資源国の遍歴、特に経緯とその後の対策を重点に、他に貿易、都市計画、農業、環境に関する書籍を厳選して収集してわかりやすいように改変した。綾にも手伝ってもらったがな。臨時政府ができたら、そちらで保管してもらいたい」
「了解した。もっとも、政府機能が出来上がるのは首都機能が回復してからになるだろうがな。資料はそれまでUPCで預かる」
「理解した。よろしく頼む」
ジャンゴの言葉にフラウが答える。
「今までは中米バグアから南米本土へ楔の一角としての役目だったコロンビアだけど、人類側へ移行する競合地域化と何れはこちら側から中米・カリブ海方面へ打ち込む逆の楔になる形だろうな。それに、地政学的な部分からパナマ地峡を挟んで太平洋・カリブ海の両方に面してて地域全体が復興し出したら流通が大きな意味を持つかなと思ってる。将来に向けてまずは道路整備の再構築辺りを始めないとだろうね。資源開発・生産品流通で必要な処から始めてそこから広げていく形になるだろう。それで尋ねたいのだけど、コロンビアの道路の状況というのはどうなっているのかな?」
「メデジン基地やボゴタ基地の幹線道路は激戦でボロボロだが、その他はそれほど派手な陸戦をしていないので普通に通れるだろうな。道路整備をするなら、やはり港町と首都ボゴダからだろうな」
球基の意見を読む形で、ジャンゴが答える。
「道路工事は典型的な公共事業やな。道路工事に必要な重機の類は足りてるんか?」
エイシャが尋ねると、ソフィアが否と答えた。
「整備されるべきインフラに対して数が圧倒的に足りません。かといってレンタルするにしろ買うにしろ、資金が足りないのが現状です」
それを受けてゼンラーが発言した。
「広大なインフラ整備には金がかかる。それを捻出する意味でも、地下資源をカードとして考えるのは悪いことではないとおもうねぃ。個人的な案だけど、奉天ではKVを重機として用いる方向性も検討しているようだし、地下資源で協力を取り付けられないかねぃ。メリットとしてはインフラ整備期間の大幅短縮と復興国に大企業とのパイプができるのがあげられるかな? デメリットとしては癒着と産業の偏りだねぇ。どうだろう?」
「製油プラントは安全なブラジルの国境側にありますが、油田地帯はバグア勢力の強いベネズエラ国境の近くに分布しているので、安全な石油採掘ルートの確保が第一条件になりますわね」
ソフィアがそう言うと、ジャンゴが答えた。
「石油の採掘は南中央軍にとっても命綱になる。軍でも油田の確保を急ぎ、その後は護衛部隊を出そう。将来的に石油の採掘権が見込めれば、ドロームやメルス・メスに重機の貸出しを打診できるだろう。KVは一回動かすだけで何百万とかかる代物だ。その分重機を借りたほうが安上がりと言うものだ」
「そのことだがな、インフラ整備は地域差は可能な限り廃し、均等な整備を徹底してほしい」
フラウがそういい、地元住民の意見を求める。それにゲリラ代表のフェルナンドが答えた。
「俺もフラウ嬢ちゃんの意見に賛同だな。都市と地方の格差は国民同士の対立を呼ぶ。可能な限り都市と地方の差がないようにしてもらいたい」
それに対しジャンゴが難しそうに答える。
「とは言ってもコロンビアの国土は広大で、野良キメラも400〜500匹はいると見られている。地方に行くほどキメラも増えるだろう。護衛をつけながら工事するか、それとも大規模な野良キメラ狩りをするかは上層部とも話し合ってみないとわからないが、いずれにしろ最初は都市部に集中するのは避けられんな」
「そういう事情ならば仕方がない。だが、二手先、三手先を読んで案を提出してほしいと言ったのはそちらだ、ちゃんとした対応をとってもらいたい」
「わかった」
フラウの言葉にジャンゴは神妙に答えると、意見を促した。
「それから、ゼンラーがあげたデメリットに関してだが、過度な依存による技術的及び経済的な不安定さの助長になる懸念は無論ある。したがって、初期は仕方ないとしても、将来は加工貿易を視野にし、採掘や販売の企業とは単年契約とし、その間に地元企業を育成して既存産業との収入比率の健全化を徹底をはかる。これが良かろうと思う。地元住民の意見やいかに?」
その問いにはカタリーナが答えた。
「バグア支配下でも企業活動と呼べるものは若干はありました。その企業に助成金等を投入することで、地元企業の育成とはならないでしょうか?」
それに対し元バグア兵のラファエルが意見を挟む。
「残念ながらそれらの企業はバグアに組することで利潤を上げてきた企業だ。バグア派の兵士だった私が言うのもおかしな話だが、それらの企業に過度な期待はしないほうがいい。それよりも国有企業を育て上げ、軌道に乗ったところで民間に売却するほうがいいと思うのだが」
「それは私に対する当てこすりですの? バグアの尖兵となって住民達を苦しめてきたあなたが言うことですの?」
「まあ、まて。ここで争ってもどうにもならないよ。それよりも今はどうやってこの国を復興するかが先じゃないのかい?」
綾が仲裁に入る。
「余計なことはおっしゃらないでください。バグアの尖兵に侮辱される筋合いはありませんわ」
「なんだと!? 我々だって望んでバグアに従ってきたわけではない。そうすることがコロンビアの住民の安全につながると思えばこそ、バグアに従ったんだ」
「それで私達住民から搾取したもので懐を閏わせてきたんじゃありません?」
「いい加減にしろ!」
綾が怒鳴る。
「そんな醜い争いをしている場合か。国のことを考えろ。あんたらに愛国心はないのか?」
「ありますわ」
「ありますよ!」
「だったら、今は少しでも前向きな意見を出すときだ。コロンビアを愛する気持ちは形こそ違えど皆同じだろう。もっとも、その形の違いがこうして些細なことで対立を引き起こす原因になっているんだろうがな」
フェルナンドが事実だが、どうしようもない事実を言う。
「はー。今がこれじゃ将来が思いやられるな。ともかく、昔はどうであれ、今は同じ国を立て直す者同士なんだ。仲良くやらなきゃ損だよ」
「そうだな。お二人さん、われわれコロンビア革命軍はエイシャ嬢の武装勢力とともにインフラ整備の現場で働くが、お二人さんは何ができる?」
「私は、地元の住民に呼びかけて、一緒に復興のお手伝いをさせていただきますわ」
「私も、仲間に呼びかけて現場で汗を流します。それが私たちのできる罪滅ぼしでしょう」
フェルナンドの言葉に、カタリーナとラファエルがそう答える。
「ならやることは一緒だ。ここで言い争ってもいい結果は生むまい」
「そうだな。フェルナンドの言うとおりだ」
綾が賛同し、何とか落ち着いたその場の雰囲気にほっと一息つく。
「それじゃあ、話が落ち着いたところでインフラ整備のことから話し合おうか」
ジャンゴが促すと、アセリアが意見を述べた。
「貿易の主軸を海運に置くのであれば、港からの再開発と区画整備が必要でしょう。ボゴタと同時に行うべきです。今現在居住地となっている場所も、将来的には整備の必要がありますが‥‥まずは物資の保管、供給を確保が大事かと。並行してインフラの整備を進めていけば、徐々にだとは思いますが確実に発展していくと思います」
それにカルミアが続く。
「まずは道路・治水・港・発電・インフラ整備が最優先です。とにかくこれが無いことには先に進めません。またこれにより雇用を確保することにより貧困からの脱出です。まずは職をということですね。そうすれば貧困からくる反政府活動や親バクア等の問題解決への貢献もできるかと思います。その中でも私としては港に力を入れるといいと思います。そうすれば物資の大量の輸出入により、復興の速度がかなりはやまるかと思います。もっとも、輸送艦護衛任務が増えそうですが」
「パナマはバグア領だからいずれは奪還しないと拙いにしても、それまでは当面太平洋からカリブ海へ抜けてく経路はコロンビアの幹線頼りになると思う。その点はかなり大掛かりな道路工事をした方が良さそうだね。太平洋側の制海権はこちらで抑えて有るから、将来に向けての港整備も計画として入れておいてほしい」
球基がそう述べ、さらにカルミアが発言する。
「それから、UPCの大規模基地建設もいいと思います。落したバグアの基地を再利用すればコストも下がりますし、雇用にも治安にもバグア対策にも良いです。まずはボゴダ基地を復興させて、そこに臨時政府の拠点を作るとかどうでしょうか?」
「なるほど。意見はわかった。とりあえずは石油資源を担保に機材と資金を借りる。そして復興に当てよう」
ジャンゴが意見をまとめてからそう述べる。
「資金、というか人件費だけど、復興が軌道に乗って資金が十分な域に達するまで、生産した物を現物支給する事で補えないかな?」
綾が提案する。
「なるほど、そいつは名案だ。で、生産というと農業の復興だが、コーヒーのほかに何があるかね?」
「生活必需品の生産に直結する様な物の生産。例えば衣類に使える綿花や、食料となる物だな」
「植物油や花なんかもあるねぃ。バイオ燃料にも転用できるのがいいと思うよ」
綾に続けてゼンラーがそう言う。
「あとは煙草栽培ですね。現在では比較的高価な嗜好品であるため、ある程度のクオリティを保てればそれなりの収入になるかと。高品質のものを生産することが出来るようになれば大きな収益が見込めると思います」
そしてアセリアが意見を出す。
「なるほど。意見は承った。ほかに何か?」
「イッヒッヒ。教育体制の整備を具申しておこうかのう。小学校から大学まで、10年20年先を見据えて、小さな子供たちへの指導もできるようにな。それから、さしあたり復興に必要な技術に関しては、専門家を招いての技術学校のようなものが良いじゃろう。優秀な指導者を一人でも多く育成することが小目標。荒廃したコロンビアが自主独立し、他の国への援助もできるくらいの国力を取り戻すことが大目標じゃ。住民代表の諸君、おぬしらが立て直した国をこのわしに見せてあっと驚かせて見せよ。時間がかかっても構わんぞ。わしは不老不死のジジイじゃからな。イーッヒヒヒ」
「望むところですわ」
「必ずや」
「この国を立て直して見せましょう」
ブラドダーム博士の言葉に、住民代表は奮起させられた様子で答える。
「まずはボゴダに学校を建設しよう。首都を復興させ、整備することで、国としての機能復活を促すことができるだろうからな」
ジャンゴがそう答える。
「とはいってもコロンビアの現状はようやくバグア領から競合地域になりつつあるところで、まだ人類勢力は強くない。諸君の将来を見据えたアイデアには頭が下がる思いだが、まずはボゴダと港町の復興から始めようと思う。それに伴い、野良キメラの討伐依頼、工事の護衛依頼、海上輸送の護衛依頼などなど多くの依頼が出てくるだろう。その際は協力を頼む」
そういってジャンゴは頭を下げた。
それから、道路の工事から始められ、そこには多くの住民の姿と、彼らとともに働くアンジェリナの姿が見られた。周囲に紅茶姫と呼ばれるほど紅茶党のアンジェリナは、休憩時間には自前の紅茶を皆に振る舞い、住民同士の軋轢の緩和に貢献していた。
了