●リプレイ本文
●アバンタイトル
ネクロマンサーのラボの地下深く。基地設備からも断絶されて、カインですら知り得ないエリアに佇むネクロマンサー。
眼下には、影を蠢く『何か』が。
ネクロマンサーは悲しげに笑った。
情報室。白夜はクリュッタロスを巧妙にまいて、情報を盗み出していた。
「これは、メイさんとイェルさんに‥‥それから‥‥カイン‥‥なるほど」
そんな白夜の背後から、忍び寄る影が一つ。
「白夜ちゃん。何しているの?」
と優しく声がかかる。
リシアだった。
背後から首に絡めるように腕を回して抱きつく。そして白夜が手に持っているものを覗き見る。
それは、バグラムの極秘資料だった。
「白夜、貴様最初からそのつもりだったな?」
声の調子が一転して冷たくなる。そして絡めていた腕で、そのまま首を絞める。
「ぐっ‥‥」
うめく白夜。
必死の一撃で肘を入れる。
白夜はそのままリシアを振り向き手刀を首筋へ叩き込む。
背後を取っているとの油断から、リシアは白夜の攻撃をまともに受けた。
意識が遠のく。
「貴様‥‥覚えておけよ‥‥」
呪いの言葉を吐きながら倒れるリシア。
『なにをしている』
そこに、カインの声がした。
白夜が顔を上げると、殺気を放つカインの姿があった。
「‥‥あなたの正体はわかりました。ニュクスに、彼女にもう一度会いなさい。それですべてが分かる」
『‥‥』
黙り込むカイン。
「フェンリス!」
部屋の影に潜んでいたフェンリスがカインを襲う。
「ごめんね!」
「ぐうっ‥‥」
とっさのことで対応出来ず、強力なボディーブロー受けて崩れ込むカイン。
「転移装置、いただきますね‥‥」
そしてカインの転移装置を奪う白夜。フェンリスを連れ転移する。
『くっ‥‥ナナシ』
とっさにナナシに通信を入れる。
「なんでしょう、司令?」
『転移装置の座標をランダムにしろ。緊急にだ』
「了解‥‥」
深く事情も聞かずネクロマンサーのアンデットを研究中だった手を止め、転移装置にアクセスし、座標の虚数展開の数値をランダムに書き換える。
白夜が転送された先は南米のかつてのバグラム基地跡だった。
「ここは‥‥」
白夜はなにがあったのかを即座に理解すると基地跡を探索する。そしてこの基地にあった転移装置を見つけ、奇跡的に生きていたそれのリンクを書き換えると転移したが、装置が壊れかけていたため転移場所が若干ずれ、カナダ付近に現れた。
「大統領閣下‥‥」
白夜はジョナサン・エメリッヒ大統領に通信を入れる。
「白夜君か、無事脱出できたようだね」
「敵幹部カインについてのデータ他、いくつかの機密情報を入手しました。これより転送します」
「了解‥‥なんと、これは‥‥」
大統領は転送されたデータを開いて驚愕の表情を見せる。
「至急ニュクス君に送ろう。彼女は先の戦闘の負傷がまだ治っていないがな‥‥」
「そうですか‥‥」
大統領の言葉に白夜は沈痛な面持ちを見せる。それから二言三言会話して通信は切れた。
『リシア、大丈夫か‥‥?』
カインはリシアに駆け寄り彼女を介抱する。意識を取り戻したリシアはカインにつぶやいた。
「カイン様、あのガキ、資料を探していた‥‥ココに来たのも、それが狙いだったんだ‥‥」
そして謝る。
『気にするな、責は俺にある。‥‥今はゆっくり休め、リシア』
カインのその言葉を聞いてリシアは再び気絶した。
「私です。予想通り裏切ったようです。
‥‥これで、我が方も、敵達も動かざるを得ないでしょう」
シュトゥルムヴィントの指示を受けて白夜を泳がせていたクリュッタロスは、通信で主にそう報告した。
「あぁ、俺だ‥‥やはりな。これで、動きやすくなる。
クリュス、お前も流れに乗っておけ。俺は、やる事がある」
「了解です。すべては主のために‥‥」
「‥‥やはりですか。追跡のワームを出します。ランダムの転移先は‥‥南米の基地跡ですか。‥‥リンクが切れている? まさか!?」
ナナシは珍しく表情を変え、南米の基地跡にワームを送る。そしてサーバーが生きていることを確認して、カインに報告した。
そこにシュトゥルムヴィントが通信を入れてくる。
「よー、どうするよ? この始末?」
それしか言わなかったがカインには通じた。
『責めは甘んじて受けよう。だが、今は奴を阻止する事が急務。
都合が良いのは承知しているが、手伝って貰うぞ』
「了解。が、その前にやることがあるんでね、ワームにでも追わせとけ、な、ナナシ?」
嫌悪を隠さずナナシを呼ぶ。
「ええ‥‥」
しかし自身についてどう思われようと気にしないナナシはそう言っただけだった。
「それにしても、データが色々と荒らされていますね。
ここのセキュリティは甘いものではないのですが‥‥ん? 融合体に関する情報まで持っていくとは、まさか検体がいるのでしょうか」
データベースを調査し白夜がどんな情報を持っていったのかを調べるナナシ。
暗転
●Aパート
パワーアップ機構を完成させたシリウス・ブレイダー博士。パワーアップの内容は、出力強化による各性能の劇的な向上である。
しかし、制御システムが不完全であるため、異常なまでの余剰エネルギーが発生し、そのエネルギーのせいで使用者の命が奪われてしまう。
無論、本人もそんな欠陥品で納得するはずもなく
「お子様にだって矜持はあるし、受け継いだ名前そのものは嫌いだけど、
ご先祖様の顔に泥を塗るわけにはいかないからね。どうにかして使い物になるようにしないと」
と、ほとんど眠らずパワーアップの改良を行っている。
「シリウス君、ここのところ不眠不休のようだね。少し休みたまえ」
大統領がSPに温かいココアを運ばせながらシリウスのところにやってくる。
「はい。ただ、余剰エネルギーが問題で‥‥でも、制御システムの完成にはまだ時間がかかるし」
半分眠った頭でそう答え、ココアをすするシリウス。
「ああ、もう余計なエネルギーが邪魔!」
と叫ぶと、ふと何か思いつき
「邪魔なエネルギー‥‥邪魔だからどこかにどかせばいい」
と呟きながら猛然とパソコンの操作を始める。
「シーどうかにゃ、少しは安定感出せたと思うけど」
そして、父親が技術者であるメイに手伝ってもらいながら実際の作業を行う。
メイはあれから半獣人のまま元の身長に戻り、胸が多少豊かになるという変化を見せていた。
「大統領、至急ドラグナイツのメンバーを集めてください。パワーアップについての問題点がある程度解決しました」
「ご苦労。すぐに集める。それまで君は休んでいたまえ」
「‥‥はい」
大統領の言葉に甘え、仮眠室で眠りに入るシリウス。と、大統領の端末に通信が入った。エオス・アイオーンからだった。
「大統領、先程の戦い、介入には感謝しています。ですが、国民の代表たる貴方が一体何をしているのですか」
「あれは譲れない戦いだった。あそこで諦めたら、我々は全滅していただろう」
「ジョナサン、貴方のその行動がいずれ身を滅ぼすのではないかと気掛かりで成らないのですよ」
「落ち着きたまえ、エオス。君は冷静でなくてはならない」
そう言われてエオスは我を取り戻した。
「すいません私としたことが取り乱してしまって、全く私は魔女で女神に成れはしないと言うのに」
大統領に秘めたる思いを持ちながら、それを隠し続ける。エオスは、つらい恋をしていた。
「いい。それより、基地に来てくれたまえ。ドラグナイツのパワーアップについてひとつの結論が出た」
「‥‥そうですか。了解です」
そうして通信は切られた。
その後、ドラグナイツとゴットホープのメンバーは基地に集まり、シリウスからパワーアップの説明を受ける。
曰く、発生した余剰エネルギーを背部の放出装置から外部に放出して、光の翼へと変える。
ただし、翼といってもそれらしく見える程度。
光の翼は、自由自在とまではいかないが、攻防や推進力に利用できる。
ただし、放出装置などに一発でも被弾した場合は、大爆発を引き起こす。
「そんな‥‥ずいぶんとリスキーなパワーアップね」
カレンが呟く。
真由はパワーアップの話は右から左といったふうである。
ニュクスの件で落ち込んでいるのだ。
「それから、ひとり紹介するものがいる。きたまえ」
そう言われて、黒いパイドロスが入ってきた。
「あれは‥‥」
ざわつく室内。
「今まで隠密行動をとりながらドラグナイツのサポートを行っていたが
戦況の悪化により合流してもらうことになったハイン・リーヴェル君だ。よろしく頼む」
「ハインです。よろしく‥‥」
大統領に紹介され、ハインは居並ぶメンバーに懐かしさを感じながらも仮面の奥に素顔を隠している。
「顔くらい見せたらどうなの?」
そう言うカレンにはある種の期待があったのかもしれない。
しかし兜を取った青年の髪は黒く瞳も黒かった。チェスターに似ていなくも無いがチェスターではなかった。
「‥‥では、よろしく」
そういうとハインは部隊へと入った。
「‥‥フふフ‥‥迎えに来タよ‥‥ハイン‥‥イナイ?」
ハインの部屋に現れたレムレース→ネクロマンサーは書置きを目にする。
「しばらく留守にします。部屋のものは自由に使ってください」
「‥‥‥‥」
沈黙。
「そウ‥‥ワタシを拒絶するのね‥‥」
ハインはレムレースのためにこの書置きを残していったのだが、すでに精神の糸が切れているネクロマンサーにはハインの気持ちは通じなかった。
エオスの端末に、シルバー・クロウの頃から持っていた端末に通信が入った。何事だろうと彼女は思いながらも回線を開いてみる。
『よぉ、俺だよ。物持ちの良さは相変わらずだな。だが、こいつは流石に捨てとけよ』
「シュトゥルムヴィント!」
『ま、おかげでこうやって連絡取れたんだがな。‥‥街外れの丘に来な』
「なにを考えているのです?」
『テメエ、とケリをつけたくてな。待ってるぜ』
「いいでしょう。ただし、その前に私は妹に活を入れておかねばなりません。少し遅れますよ」
『なに、かまわん。いくらでも待つさ』
「それはどうも‥‥では、街外れの丘で」
『ああ。じゃあな』
そうして通信は切れた。
「シュトゥルムヴィント‥‥貴方もやはり戦いたいのですか」
エオスの魔女としての部分の血が騒ぐ。ゾクリ、と。
それからエオスはニュクスの病室へと向かうと、そこでツバメと真由が話し込んでいるのが見えた。
「‥‥パワーアップ、大丈夫だよ。何とかなるって。」
暗い表情の真由を慰めるようにツバメが明るく言う。だが、
「でも、駄目だったじゃないですか。結局、私は誰も守れなくて。ニュクスさんだって、私のせいでっ!」
真由は叫ぶ。負の感情で。
パシーン!
快音が響いた。ツバメが真由の頬を張り飛ばしたのだ。
「真由‥‥一人悲劇のヒロインなんか演じないでよ。それに今まで一緒に頑張ってきたじゃない
今回は結果が悪かれ、みんな生きてる。それでも責任感じてるなら、私に相談してよ。
AUKVの事はあまりわかんないけど、私でも力になれる事があるでしょ? だから‥‥」
ツバメはあえて真由をさん付けで呼ばず、真っ直ぐに前を見ながら話す。
真由はショックでボーっとしながらもつぶやいた。
「頼っていいんですか、本当に?」
グッとうつむき、頬には一筋の涙を流すツバメ。
そして涙目のままま再び真っ直ぐ真由を見る。
「だから、もう少し私を頼って。もし、またそんなこと言うんならまた引っ叩くよ」
「‥‥はい」
真由は頷くとツバメの腕を絡めとった。
そして心を預けるようにして二人で歩いていく。
そこに、エオスが話しかけた。
「真由、ツバメ、これからニュクスのところに行きますが、貴方達も来ませんか?」
「行きます」
「はい」
二人は頷くと、エオスのあとを付いていった。
それをメイが物陰で見ていた。
「ツバメも変わったにゃ‥‥もうボクはお役ご免か。シー、作業を急ぐにゃ」
そしてシリウスと一緒にAUKVのパワーアップ作業を急ぐ。そして‥‥
「できたー!」
「よし、完成にゃコレが父さんの夢の結晶そしてボクの翼」
新型AUKVが誕生した。バグラムに協力せざるを得なかった父の汚名もこれで返上される。
メイはそう思ってひとり喜んだ。そして、寝おちするシリウス。
「今は休むにゃ‥‥」
そう言って端末に触れる。端末からデータを読み取る能力を新たに得たメイはそこに、ワームが密かに接近しているデータが有ることに気づく。
「させないにゃ‥‥」
そう言うとイェルを呼び出してワームのところへと向かった。
「‥‥手伝うよ‥‥これでもまだロートルってほど、能力も衰えてないから」
「頼むにゃ、イェル」
「うん、姉さん」
ニュクスの病室。
瀕死の重傷を負い、意識不明のニュクス。
アロンダイトを制御し自己回復力に頼っているようだった。
「さて、真由、ツバメ、これからニュクスの精神世界へダイブします。良ければ貴方達もついてきてください」
「どうやるんですか?」
「目をつぶって意識を集中させなさい。あとは私が導きます」
「分かりました」
そして、三人はニュクスの精神世界へダイブする。
「パパー、ママー、おねーちゃーん!」
精神世界で子供のニュクスは泣いていた。バグラムの作戦ですべてを失った時の記憶。
ニュクス祥龍に駆け寄ると冷たくなった彼の体を抱きしめる。
「‥‥彼は‥‥心底貴方を愛してたのに‥‥何で‥‥なんでっっ‥‥」
ニュクスの叫びは、ドロマイトの冷たい言葉で砕け散る。
「あいつがあたいを拒絶したからさ!」
「ウルさん‥‥」
「あたいはウルじゃない。ドロマイトだ。バグラムのドロマイトだ!」
「彼が幸せなら‥‥それでよかった‥‥二人が結ばれるなら‥‥辛くても痛くても笑顔でいようと思った‥‥父さんも母さんも、お姉ちゃんも失ってから初めて得た大切な人だったのにっ!! 私だって、彼が大好きだったのに!! お前だけは、絶対に許さない‥‥」
祥龍が死んだ時の記憶が‥‥
そして、アロンダイトが出てきて呟く。
「私はねあの子の、家族を失った絶望、愛する人を殺された悲嘆、姉の様な人に裏切られた憎悪‥‥その他、あの子が封じた幾多の感情‥‥」
アロンダイトは世界に叫ぶ、悲嘆を憎悪を絶望を。ニュクスの変わりに。
「‥‥なにを! 何を無様を晒しているのですかニュクス! あなたに守りたいものはなかったのですか! あなたに愛するものはないのですか!?」
そんな心の叫びを聞いて、エオスが吠える。
「エオス、姉‥‥?」
「ドラグナイツは人々の『希望』なのだから、勇気を出して、諦めないで。そう言ったのはニュクスさんじゃないですか! こんな、こんなところで立ち止まらないでください」
涙目になりながら真由が叫ぶ。
「真由‥‥?」
「アロンダイト、感情を封じる必要はありません。ニュクスと一緒に戦いなさい。そして感情を開放するのです」
「‥‥でも」
「貴方なら出来ます。私たちを信じて。自分を信じて」
「そうだよ、ニュクスさん」
ツバメも叫ぶ。
そして彼女たちの説得により、ニュクスと同化するアロンダイト。
「目覚めの時が来ましたね。私たちはそろそろ消えましょう。ニュクス、あなたは独りではない。忘れないで‥‥」
そう言って三人は精神世界から離れていく。
「ん‥‥ここは」
「よかった、目覚めましたか‥‥」
ニュクスはあたりを見回し、状況を把握する。
「そっか‥‥私は一人じゃなかった‥‥みんな、ありがとう」
「良かったです‥‥」
涙を隠そうとしない真由。
つられてツバメも泣き笑いする。
「ニュクス、傷が治ったら特訓です。いいですね?」
「うん」
微笑み合う姉妹。そこに絆は確かに存在した。
「さて、特訓です。ニュクス、基地に戻ってアロンダイトになりなさい」
「えっ! でも‥‥」
「大丈夫です。貴方は私シルバー・クロウの妹なのですから」
「うん‥‥」
ニュクスは顔をあげると病衣を脱いで軍服を着た。そして、凛々しい表情で歩いていく。
「では、初めましょうか‥‥但し、一切手加減しませんが」
奇形剣を構えるエオス。十手剣を構えるニュクス。
シルバー・クロウの力に圧倒され、なんども倒れるニュクス。
心を鬼にし、立ち上がる度慈悲のない連撃で何度となく地面に打ち据える。
「さぁ、立ち上がりなさいアロンダイトあなたもこのままでは強くは成れませんよ。そしてニュクスに追いつくことも」
「っく! うわああああああああああ!」
全体重を載せての突撃。うけた奇形剣が弾き飛ばされ自身も吹き飛ばされるエオス。
「よく、やりましたね。コレを託しましょう今の貴女になら使えるはずです。扱うには骨が折れるでしょうが」
そして奇形剣とアロンダイトの剣を融合させる。
「ありがとう。お姉ちゃん」
「いえ‥‥それより私はやらねばならぬことがあります。しばらく留守にしますが、あとを頼みますよ、ツバメ」
「マスター、どこに?」
「秘密です」
街外れの丘――
そこには赤いマフラーの死神が待っていた。
「来たか。殊勝なこった。てっきり部下でも潜ませると思ったぜ」
「そんな無粋なことは不要です。ところでね、ヴィント、貴方を倒した場合、クリュスタッロスを貰い受けて宜しいですか?」
「俺に勝ったら‥‥か。いいぜ。俺が勝ったら、お前を貰う」
そして、シュトゥルムヴィントはクリュッタロスとの通信回線を開く。
「クリュス。シルバー・クロウがお前に話があるとよ」
『‥‥‥何か?』
「これから私とヴィントは戦いますもし私が勝ったら貴方を貰い受けたい」
『万が一にも無い事。絵空事も甚だしい』
「そうですか? ではその万が一が起きたら?」
『‥‥大概にしろ。八つ裂きにされるがいい!』
通信が切れた。
「ふられたか。まあ、関係ない。やろうゼ、クロウ。殺し合いをなぁ!」
そして、二人は激突する。
「追跡用ワームが破壊された? 何があったのでしょう?」
ナナシはそう言って転移する。そこにはメイが、シルキーキャットとなったメイがいた。
「貴女‥‥融合体ですね」
「誰にゃ、名を名乗れ」
「初めまして、私の名はナナシ。バグラムです。不躾で申し訳ないのですが、私と一緒にきて貰えませんか? 貴女のことを色々調べたいのですが」
「断るにゃ。ちなみにボクはシルキーキャットにゃ」
「解りました。シルキーキャット、貴女を倒して連れていくことにしましょう」
そうナナシが言った時だった。
「姉さんには手出しはさせない!」
電磁投射砲の弾丸がナナシの目の前をかすめる。
「イェル、邪魔するにゃ! こいつとはボクが戦うにゃ。イェルは周りの小型ワームを頼むにゃ」
「了解!」
そしてナナシは転移装置で月詠を召喚するとシルキーキャットに向かって突撃した。
そのころハインは自宅に帰っていた。
玄関の鍵が開いている。レムレースさんが帰ってきたのかな?
そう思いながら扉を開けた。
「オカエリ‥‥ハイン」
だが、部屋の中にいたのはバグラムの幹部。
「なぜバグラムの幹部が僕の部屋に!」
「あら? この声を聴いても、まだ誰だカ分からナいの?」
そう言うとネクロマンサーはフードを外す。
「私だよ。ハイン」
「レムレースさん!」
ガリガリ‥‥部屋の壁を弾痕が穿つ。
ネクロマンサーが隠し持っていたガトリングだった。
「な、あなたは‥‥何故‥‥」
「安心してハイン。体なンて只の器でしかナイの。その体を壊しタら、すぐ新しいのを作っテあげる」
「待ってください! 僕はあなたと戦いたくはない!」
銃撃をカインは必死に回避しながら叫ぶ。
「あなたは心優しい人です。それが何故バグラムに!?」
「u−h−a−k−」
ネクロマンサーの言葉はもはや声にならない。呪詛の言葉。
「戦わなければ‥‥いけないのか‥‥」
「諸君、朗報がある。月影白夜君だが、このたび潜入していたバグラムの基地から情報を持って抜け出し、無事脱出に成功した。
彼は密命を帯びてあのような形でこちらを抜け出したので、衝撃を受けたものも少なからずいたと思うが、敵を欺くには先ず味方からと言う。
私の判断でもあった。許して欲しい」
大統領がそう言うと、周囲にざわめきが漏れる。
「裏切ったわけじゃないんだ‥‥みんな、戦ってる」
真由が呟く。
「あの白夜が裏切るなんて、おかしいと思ったんだけど‥‥」
カレンが安堵したように言う。
二人の心が上向いた。
「それからニュクス君、カインと言う敵幹部についての正体がわかった。君の端末にもデータを転送しておく。気が向いたら見るといい」
「はい‥‥」
正体が、わかった――
ニュクスの心が、揺れた。
そしてCMが入ってBパートへ
●Bパート
何かに呼ばれたような気がして、閉店後の喫茶店でハーモニカを吹いて居るニュクス。
端末には目を通していない報告書。
扉が開く音がした。
「お客さん、閉店です――貴方は」
『君は――』
「ここに来れば、何となく会えると思ってた。ねえ、カインさん、ここに貴方の正体に関する報告書があります。一緒に、見ませんか?」
『いいだろう。私も、自分が何者か知りたい』
カインの同意を得て、ニュクスは報告書のデータを開く。そこには
カインの素体は『藍祥龍』
空間操作の実験中にバグラムが偶然手に入れた『異世界の藍祥龍』を洗脳したもの。
『祥龍中尉』本人ではない。
リシア――遺伝子的にはドロマイトと一致。ただしそれ以上は不明。
と言うデータが書いて有った。
『――なんと』
「そんな‥‥」
『ニュクス、と言ったか。藍祥龍とはどんな男だ?』
カインの問に祥龍の思い出を語るニュクス。
「そうか‥‥」
「あの人に励まされ慈しまれて、私は生きてこれた‥‥私は、あの人を愛していました。心の底から」
『戦え。仮に俺がお前達の言う男でも、敵は倒せと告げる筈だ』
「そう。あの人がどれだけ世界を、人々を守って来たか知っているから‥‥それを壊すなら、私は戦う。たとえ貴方とでも」
会話が終わり、外に出ると、強化の終わったAUKVを装着。
十手刀とエオスから譲られた奇形剣の融合したツインブレイド風を構え、少し微笑んで戦闘開始。
「オラァッ!」
薙ぎ、切り上げ、切り下ろす。
そんなシュトゥルムヴィントの攻撃を必死で捌くエオス。
「喰らいなさい、銀の雨!」
空中に浮かび、一本の弓から放たれた矢が無数の矢となって降り注ぐ。
「ははっ! 楽しいねぇ! やっぱりお前と死合うのが一番おもしれぇ!」
ヴィントが叫ぶ。
「お前はどうなんだ? えぇ、シルバークロウ! 血沸き、肉躍らねぇか!?」
「そうですね、楽しいですよ」
「俺とお前は同じだ! タイプは違うが、根っこの部分は同じなのさ!」
「それはつくづく感じています」
「俺ァお前が欲しい! その力を持ち、在る。お前がな!」
「貴方との戦いは楽しいですがそろそろ終わりにしましょう」
私は選択しなければならない。清らかな恋と刹那的な愛を。
「私は、貴方との愛より恋を選ぶ!」
エオスのバスタードソードと、シュトゥルムヴィントの死神の鎌が交差し、両方が砕け散る。
澄み渡る金属音。
「‥‥俺の得物をか‥‥やっぱりな。
やっぱりお前だ。シルバークロウ。俺の心を満たせるのは、お前だけだ」
後ろに大きく跳び距離を取る。身構えるエオス。
「じゃあな。次で、最後だ」
そう言って転移で消えていく。
「ええ、終りにしましょうにしましょう、ヴィント‥‥」
メイはイェルの精気を一部吸収し戦闘形態になるとナナシに向かっていく。
メイが攻めるのをナナシは捌く、そんな戦いが何度か続き、ナナシが反撃に流し斬りを叩き込む。
メイは体をひねってすんでのところでかわし、二段撃を叩き込む。
仕留めたと思った刹那、二本の剣の内一本が弾かれる。
「やるにゃ、けどボクもここで退くわけにはいかないにゃ」
流し切りで間合いに入り込むが、すんでの所でかわされナナシの頬をかすめる。
「熱くなりすぎたようですね、私はこれで引かせて貰います。また縁があれば逢いましょう」
「会いたくなんか無いにゃ。べー!」
舌を出すメイ。
そこにイェルからの援護要請が入る。
「姉さん、数が多い!」
「わかった、今行くにゃ!」
そして二人は小型ワームを掃討していく。
そして戦いが終わった頃、大統領から「融合体の融合解除の方法」と言うタイトルの通信が入った。
「これは‥‥」
「これが本当にゃら‥‥」
二人の未来に、希望がともる。
「喫茶店とハイン君の自宅周辺で戦闘が起きている。カレン君と真由君はそれぞれ部隊を率いて戦闘を止めてくれたまえ」
『了解!』
大統領の命令に二人はバイクにまたがると現場に急行した。
そして真由は喫茶店に到着する。
「ニュクスさん!」
「邪魔するな真由! これは私の戦いだ!」
『クリュス、来い!』
叫ぶニュクスとクリュッタロスを呼ぶカイン。
シュヴァルツメッサーが勢ぞろいし、シュトゥルムヴィントの命を受けていたためにカインの指揮に従う。
「死ぬがいい! 何も成せず、何も出来ずに、無意味に終われ!」
「させない!」
真由が吠える。
竜の翼で飛び回って相手を翻弄しつつ、光の翼の軌跡を戦場にまき散らしていく。
「力が増して? ‥‥ガッ!」
「とどめ!」
「させるか!」
いざ止めに入ろうとしたとき、クリュッタロスの反撃が真由を襲う。
「やらせない!」
ツバメが割って入る。
バイザーが割れ、額から血が流れる。
(「今、ツバメさんが守ってくれるって確信してた。‥‥私は、一人じゃない!」)
アイコンタクトを取る二人。
友情・確認!
「これ以上は行かせない! ゼロブレイカァァ!」
ツバメの必殺技がクリュッタロスに炸裂する。
「ぐぅ‥‥舐めるなっ!」
「秘技、吼翼竜爪閃!」
竜の咆哮で相手の体勢を崩し、翼で追いつき、爪の一撃を打ち込む必殺技。真由の努力の一撃が炸裂する。
「‥‥見たぞ。刻んだ。貴様の顔」
クリュッタロスは苦しそうにうめく
「この借りは、必ず返す。必ずな‥‥」
転移。
シュヴァルツメッサーもパワーアップしたドラグナイツたちに押され各所で戦線は崩壊し始めていた。
「もう、あなた達なんて怖くありません!」
『撤退だ、撤退しろ!』
カインの命令が響く。
生き残っているシュヴァルツメッサーが転移していなくなる。
「まて!」
そしてカインも消えた。
あとに残るは屍と静寂のみ。
そして、その屍と戦う男が一人。
ハインだ。
アンデットの軍団と、ボロボロになったパイドロスでひとり戦っていた。
そこにドラグナイツの援軍が訪れる。
「カレンさん――」
そこにはドラグナイツを率いる青いパイドロス。
ドラグナイツはアンデット軍団を駆逐すると、ネクロマンサーに迫る。
さらに虚空から現れた翼竜から飛び降りる白夜。
『もう、無茶させるんだから白夜は』
「皆が窮地だからね、其れよりも‥‥」
竜が人の姿に変身する。
「大人の姿だけど、ボクが白夜だ」
『フェンリスだよ』
皆が驚くが白夜は意に介せず虚空よりバイクを呼ぶ。
転移装置を利用した瞬間移動を行いながら槍斧でアンデット軍団を倒していく。
フェンリスも翼だけ出し、飛び両腕部付属機関変形の二丁光拳銃でアンデット軍団を倒す。
と、ネクロマンサーが叫び始めた。
「‥‥そう。ダメなのね、ハイン」
両手を開き空を仰ぐ。
「私には、もう何もない! だから、何もいらない! この世界も、この体も!」
拳銃を抜き、自分の首に押し当てる。
「私の魂を以って此処に到れ‥‥! 『ティンダロス』!!」
「‥‥さよなら、ハイン」
―大好きだったよ―
そして、一発の銃声が響いた。
ハインが止める間もなく。
『グォォォォォォォ‥‥‥!!』
直後、地下からラボを噴き飛ばし、地表へとなにかが出現した。
無数のコードが絡みつき、それは生き物を彷彿とさせた。
KVであったであろうソレは、モノアイを赤く滾らせ、鳴動を続けていた。
暗転。
スタッフクレジットとともにキャストクレジットが流れる。
シュトゥルムヴィント/ゼラス(
ga2924)
ナナシ/優(
ga8480)
星河 メイ(ダークキャット)/柿原ミズキ(
ga9347)
イェーガー/イスル・イェーガー(
gb0925)
ハイン・リーヴェル/チェスター・ハインツ(
gb1950)
月影・白夜/月影・白夜(
gb1971)
エオス・アイオーン(シルバー・クロウ)/烏丸 八咫(
gb2661)
カイン/ドニー・レイド(
gb4089)
クリュスタッロス/クラリア・レスタント(
gb4258)
シリウス・ブレイダー/アーク・ウイング(
gb4432)
リシア/ウレキサイト(
gb4866)
ニュクス・アイオーン/キャプテン・エミター(
gb5340)
須藤 ツバメ/安藤ツバメ(
gb6657)
蔵里 真由/望月 美汐(
gb6693)
レムレース、ネクロマンサー/ファタ・モルガナ(
gc0598)
藍・カレン/サラ・ディデュモイ(gz0210)
大統領/ジョナサン・エメリッヒ北米大統領
機装戦隊ドラグナイツ 第4話 「邂逅の竜騎兵」
END
制作・著作 グリューン・ムービー
●それから
シュトゥルムヴィントは格納庫で鹵獲シュルテンの前に佇んでいた。
「なぁ相棒。いよいよだ。次で、全てにケリを着ける。最後まで、暴れてやろうぜ」
そしてリシア。
カインと共に寝ていたリシアが、カインを起こさないように閨から抜け出し訓練をはじめる。
「あのガキ、タダじゃ済ませないよ」
白夜に不覚を取ったことに苛立ち、自身の肉体を苛め抜く。
本部からの増援を受け、幹部達に決戦の用意を命じるカインは、消えたリシアを探し訓練風景を目撃。
仮面で目元は隠れたまま、一人無言で唇を噛んでいた‥‥