●リプレイ本文
「手配出来る移送手段と救助すべき人数‥‥余裕は全くないか。如何に迅速に動けるかが勝負になるな」
白鐘剣一郎(
ga0184)が無線で呟く。
『陽動部隊がいつまで保つか分からない以上時間との戦いになるな』
榊 兵衛(
ga0388)からの通信が剣一郎の耳に入る。
「そうだな。できるだけ急ごう」
『命懸けの大キャラバン。負けるわけには行かないな‥‥』
ゲシュペンスト(
ga5579)からの通信が入る。
リッジウェイは発売直後からの愛機であり怪我人や民間人の移送任務も経験ある。意地でも負けるわけには行かなかった。
『‥‥エル君。逸る気持ちは分かるけど、落ち着いてね。ボクたちは沢山の人たちを救わないといけない。冷静にね。さっ、それじゃいこうか!』
鷲羽・栗花落(
gb4249)の声が聞こえる。それに対し、エル・ウッド(gz0207)が「分かりました」と答える声が聞こえた。
「人さまから借りたKVなんて初めてだな。しかも初めての陸戦用のリッジウェイ。まあ、エミタの補助があるから何とかなるか」
ホキュウ・カーン(
gc1547)はラサ・ジェネシス(
gc2273)から運転を任されたリッジウェイを操縦しながら呟く。
ホキュウの身体能力ではキメラの麻痺毒にやられる可能性があった。それゆえのKVの貸し借りである。
一方のラサは
(「我々は力なきモノの代弁者ネ。コノ能力生かしてみせル」)
そう静かに親代わりのシスターに心のなかで誓い、リッジウェイの中でその時を待つ。
(「一人でも多くの命を救いたい」)
功刀 元(
gc2818)はそう願いながらエルのリッジウェイに同乗する。
そして20秒後、リッジウェイと収容所を脱出してきた民間人が接触する。
「子供とお年寄りが優先ですっ。必ず全員助けますから、争わないでっ!」
我先にリッジウェイに乗ろうとする民間人相手に旭(
ga6764)が叫ぶ。
「10秒後には敵と接触します。この10秒が肝心ですよ!」
バイクに乗りながら米本 剛(
gb0843)が叫ぶ。
リッジウェイとリッジウェイから降車した能力者達が壁になるように展開していたが、この月明かりでも見える敵の影は非常に多い。
「特殊部隊の方ですね? ご苦労様です。暗視スコープと閃光手榴弾を我々に貸していただけますか?」
「了解した。我々はこのまま民間人の盾になる。健闘を祈る」
特殊部隊の面々はシン・ブラウ・シュッツ(
gb2155)の言葉に答え、
能力者に暗視スコープと閃光手榴弾、救急セットなどを配るとリッジウェイの前に出て対戦車ライフルやバズーカを構える。
「まだだ‥‥出来る限り引きつけろ」
隊長らしき男がそう命令する。
「安心して下さいーっ! 迎えの車はすぐそこまできていますーっ! これから少しでも早く移送車と合流する為、移動開始しますーっ! 皆さんはボク達が守りますので、慌てずついて来て下さいーっ!」
元が叫ぶ。AUKVのライトであたりを照らしながら。
「ドーントウォーリィ! 我々にドーンと任せるネ」
ラサが民間人を元気づけようと胸を張る。それは確かに民間人の心を軽くし、能力者達に対する信頼を増した。
老人や子供、怪我人がエルと榊、ホキュウのリッジに乗り込む。
「壁役の皆頑張ってくれ。こっちはなるべく早く民間人を非戦闘地域に運ぶから何とか壁を持たせてくれ。
まずは怪我人、女、子供が優先だ。男は後からだ。言うことを護れない奴はこの杖の魔力で雷撃を放つぜぇ」
ホキュウはマジシャンズロッドを見せて順序良く、民間人の皆を手早く乗り込ませていく。
「それでは行くぜ。なるべく安全運転したいが、早く脱出もしたいんでね。シートベルトきちんとしてくれよ」
ホキュウは叫ぶとリッジウェイを発車させる。バスと前線の間をピストン輸送し、少しでも早く民間人を後方に移したかったからだ。
「ボクもリッジに乗るよ。怪我人とか運ぶの手伝わなきゃダメだし」
栗花落がそう言って飛び乗る。エルもホキュウの案に従ってリッジウェイを発進させた。
「大丈夫? 今治療してあげるからね」
そして特殊部隊から借りた救急セットで怪我人を治療する栗花落。
「ありがとうございます‥‥」
涙を流して喜ぶ民間人。だが、まだ終わってはいない。始まったばかりだ。
「数が多いとはいえ個々の戦闘力は高くありません」
シンがそう判断しオーソドックスな手段で対応できるでしょうと言う。
剣一郎とゲシュペンストのリッジはその場に留まり盾となり、ラサも生身で待機する。
「健康な人はバスまで走ってください。少しでも早く合流するためです」
旭がそう叫ぶが民間人は疲れきっており走る速度は早くない。なぜなら、収容所からここまでを、必死に駆けてきたのだから。
旭は民間人の移動に合わせて後退しながら戦闘準備を行う。あと10秒で敵と接触するからだ。
60人の民間人が3台のリッジウェイで移動したがまだ100人以上残っている。その中にはさきほどリッジウェイに乗りきれなかった女子供や老人もいる。
「情報どおり酷い物量差だが‥‥まぁ、見掛け倒しにならんようにはしてみるさ‥‥」
ゲシュペンストが呟き20mmガトリング砲を発射する。都合120発の弾丸がキメラに命中し、キメラの群れがはじけ飛ぶ。
「まだまだやることはいっぱいある。とっととバスと合流するぞ」
兵衛がそう叫びながら、リッジウェイを運転する。
民間人を載せている以上リッジウェイは時速80kmしか出せないが、バスも同じくらいの速さでこちらに進んでいる。
予想では民間人とキメラが接触する10秒後にはリッジウェイもバスに接触できるはずだった。
(「子供や老人を移送担当のリッジに乗せる事で民間人の移動速度が上がれば、敵に追いつかれるまでの時間が稼げるはずだ。
そして俺たちが遅滞戦闘を行うことで更にその猶予を引き伸ばす」)
剣一郎はそう考えてリッジウェイを人形に変形させ、ファランクス・アテナイの自動迎撃を行う。
750発の弾がキメラの群れに飛び、キメラをひき肉に変える。
だが、数が多い。民間人とキメラが接触する10秒後までにどれだけ数を減らせるか。それが勝負だった。
そしてさらに突撃仕様ガドリング砲を発射する。
150発の弾丸がキメラの群れを駆逐する。
「くっ‥‥一向に数が減らんな」
ガトリングをリロードして試作型「スラスターライフル」を発射。より遠くにいるキメラの撃破を狙う。
後方から追いついてくるアンドロスコルピオの肉体を正しく蜂の巣にし、その魂を地獄へと突き落とす。
10秒後、キメラが民間人に追いついた。
能力者側の戦力はそう多くはない。輸送用のリッジウェイに同乗したのは失策だったかもしれない。
キメラの矢が思ったよりも長距離から飛び、リッジウェイや能力者の壁の隙間を縫って民間人を貫く。
「糞、犠牲者を出してしまったか」
民間人は一撃で絶命していた。剣一郎が痛みの言葉を吐き出す。
「ちっ‥‥」
兵衛は血涙を流し続けながら舌打ちをした。幸い操縦席の様子は民間人には見えなかったので民間人の士気を挫くことはなかった。
「くっそう。喰らえ、究極! ゲシュペンストキィィィィック!!!!」
ゲシュペンストはリッジウェイを人形に変形させ、キメラの群れに突入する。そしてキックを放つと、数匹のキメラを蹴り殺した。
「畜生、畜生、畜生!」
試作型機槍「アテナ」を振り回し戦女神による無慈悲な死を量産しながらゲシュペンストは吠える。
「ゲシュペンスト、落ち着け! 壁役が敵中に入ってどうする!」
剣一郎が制止するがゲシュペンストはただ叫びながらキメラを殺しまくるだけだった。
それでも、味方が孤立・包囲されないように動いているあたりは戦士の本能と言えるのかもしれない。
そしてバスとリッジウェイが合流する。
「皆さん、降りてバスにのってください。怪我人はみんなで運んで。俺たちはこのまま戻って他の人達を運んできます!」
エルがそう叫ぶと民間人達は助け合いながらバスに乗り移っていく。だが、移動には10秒は必要。
バスと民間人が合流するのとほとんど同じタイミングになる見込みだった。
「エル君、次は戦闘をしながらの撤退になるよ。準備はいい?」
「はい」
栗花落の言葉にエルが頷く。
そして、民間人のバスへの移動は続けられた。
「ハリィ! ハリィ! 地獄の番人が追っかけてくるぞ」
ホキュウは民間人を急かす。だが、女子供と怪我人の集まりである彼らに、それは無茶な話だった。
「救うチカラガあったのに救うことガ出来なかっタ」
ラサは悔しそうに呟くと制圧射撃でキメラの行動を制限する。さらに近くにいるアンドロスコルピオの弓を破壊する。
その行動は上手く行ったがラサは涙を流したままだった。
「足止めは任せて下さい。犠牲者は出たけど、せめてこれくらいは!」
夜間迷彩を着たシンも制圧射撃を行う。大量の弾丸がキメラの群れを圧倒し、これでキメラの行動は完璧に制限された。
身動きをとることも叶わないキメラは、ただオロオロするばかりだった。
そして10秒後、残りのバスと民間人をおろしたリッジウェイが民間人と接触する。
犠牲者をリッジウェイに乗せ、さらに女子供と老人、負傷者もリッジウェイに乗せ、健康なものをバスに乗せていく。
ラサとシンの制圧射撃のおかげで敵の殆どは行動をとることが出来ない。
その間に民間人を乗せる作業は続けられる。
ホキュウが乗るリッジウェイの後部に取り付けられた即席の銃座から、
元が竜の息と竜の瞳を使いながらM−121ガトリング砲で次々とキメラを打倒していく。
「くそ‥‥このキメラは弱いのに。やはり一般人には強敵か‥‥」
犠牲者が出たことを悼みながら、元は射撃を続ける。
能力者達に不手際はない。不手際はないのだが、自らを責め苛む気持ちと戦うのに必死だった。
「仇を取れ。ってー!」
特殊部隊の隊長が命令し、一斉に砲火がキメラを包む。10の射線は1のキメラに集中し、圧倒的な圧力でFFを貫く。
キメラを倒したことで特殊部隊から歓声がわく。
「まだだ! 撃って撃って撃ちまくれ!」
だが、それでも隊長は射撃命令を中止しない。民間人が全員バスとリッジウェイに乗り終えるまで、戦闘を続けるつもりだった。
「敵が行動できないのはいいことですね。間違って私を撃たないでくださいよ!」
剛は制圧射撃を続ける二人にそういうと、バイクで移動しながらキメラの群れに接近する。
「我流‥‥剛双刃!」
時にはバイクを降り二段撃と両断剣を複合させた必殺技で、そして時にはバイクに跨ったまま擦れ違い様に、アンドロスコルピオの弓を切り裂いて回る。
「これで、民間人には手出し出来ないでしょう!」
すべての弓を破壊し終えた剛がそう叫ぶ。全身から蒸気を発生させながら。
この蒸気は感情の高ぶりとともに放出量を増す。従って今の剛の発する蒸気はまるで霧のように周囲の視界を覆い隠していた。
「よくも、よくも、よくも!」
旭は金色の目を光らせながら、青白い燐光を身に纏い、ガラティーンでキメラを切り裂いていく。
『流し斬り』
能力者の状態やスキルの使用を音声(ごく短い英語)を発するOCTAVESと言う装置を取り付けてあるので、ガラティーンが喋っているようであった。
「よし、エル、出発しろ! 俺は足止めをする!」
兵衛は民間人を搭載しながらもH−112長距離バルカンをキメラの群れに向けて発射し足止めを試みる。
「了解です!」
そして満員になったエルのリッジウェイがバスと共に移動を開始する。
「絶対に、見捨てませんからね!」
エルは民間人に向かってそう宣言する。
「よし、そろそろ収容は終わりか。元、閃光手榴弾を」
剣一郎が四足型に戻し民間人を収容しながら指示を出す。
なんとか収容出来るギリギリの人数だったが、ゲシュペンストのリッジウェイをフリーにすることができた。
ラサとシンの制圧射撃の中ゲシュペンストが暴れまわり、キメラの群れは次第に壊滅していく。
そして、30秒間遅延戦闘が行われキメラの群れを足止めする。
「後方に閃光弾を使用しますーっ暗視スコープの使用に注意して下さい‥‥3・2・1投下ーっ」
元が閃光手榴弾を投げるとキメラ達は視界を失って右往左往する。
「ここらが退き時だな」
剣一郎が制圧射撃をしていたラサとシン、そして生身でバスの護衛をしていた栗花落をリッジウェイに収容し、撤退を始める。
「さあ、最終便みたいだな。乗せ忘れはいないな? じゃあ、行くぜ!」
ホキュウのリッジウェイが出発する。元は銃座からずっとキメラに対して射撃をし続けた。
バスはすでにはるか前方。キメラに追いつかれる心配はない。
剛やゲシュペンストもそれに従って殿を守りながらゆっくりと引いていく。
「三十六計逃げるに如かず。目的を果たしたならこれ以上ここに留まる理由も無い」
こうして救出部隊は離脱を果たした。陽動部隊はギリギリのラインで敵を抑えるのに成功したようだった。
陽動部隊がゆっくりと撤退していくのが旭の目にも確認できた。
「何とか上手くいったか。皆、お疲れ様だ」
剣一郎がそういうものの、言葉にはどこか力がなかった。
「まあ、祝える雰囲気じゃないけどな」
兵衛がそう言う。
数人の犠牲者が出た以上、祝賀ムードと言うわけにも行かなかった。
「まあ、そうだな」
「そうですねえ‥‥」
ゲシュペンストと剛が同意する。
「でも、任務は達成出来ましたし‥‥」
旭がそういうが
「とはいえ、犠牲者が出ましたからね」
とシンが悲痛なため息を漏らす。
「皆お疲れ様‥‥エル君もよく頑張ったよ」
栗花落がエルにそう言葉をかける。
「でも、守りきれなかった‥‥」
「仕方が無いとはいいませんが、正直キメラの弓の射程があそこまでとは想像できなかったでしょうし‥‥」
ホキュウがそう言ってエルを慰める。
「シスター、吾輩ハ‥‥」
ラサは静かに落ち込んでいた。
「でも、我々が無事だったことぐらいは喜びましょう」
「そうだな」
元がそう言うと剣一郎が同意する。
こうして民間人救出作戦は終了したが、追悼ムードであった。
それでも、軍は多数の民間人を救助できたことからその評価を「成功」としたのであった。
了