●リプレイ本文
●まずは腹ごしらえから
ブリュンヒルデの食堂で美味しい匂いが立ち込める。
屋台用の調理セット一式も使ってケバブサンド用の羊肉を焼いていた。
現地の人に合わせたチョイスである。
「二人で作ればケバブも楽ですかね?」
「冷めると美味くなくなるから、すぐに配らないといけないがな」
レイン・シュトラウド(
ga9279)とKody(
gc3498)が軽食の用意をしていた。
「給仕をするの♪ 歌うまでは朔はメイドなの」
メイド服に着替え終わっている終夜・朔(
ga9003)がくるりと回るとケバブサンドを作りそれを難民達に配っていく。
子供達は同じ活動をしているアイベックス・エンタテイメントがお菓子を配っているため主に大人たち中心にこの食堂でジラソールは活動をすることになっていた。
「お二人ともがんばっていますね。俺も北アフリカの人々との交流や、他事務所との方たちとの交流も含めて橋渡ししていきますからがんばりましょう」
「皆さん、ずっと囚われの身だったんですよね? きっと言葉では表せないような辛い経験もされてるのでしょうね‥‥」
アクセル・ランパード(
gc0052)に声をかけられるとレインは朔がケバブサンドを手渡している人々を見ると悲痛な面持ちとなる。
疲れた顔や不安そうな顔をしている大人たちは子供達のように割り切れていないのかもしれない。
「衰弱している人もいるだろうと思ったから‥‥香料を使ったクッキーだ。これも配ってくれないか?」
「はいなの♪」
柳凪 蓮夢(
gb8883)からクッキーの入った小袋を受け取ると、朔は配っていった。
「ねぇねぇ、手の空いた人は手伝って〜お姉ちゃんの頼んだお花が届いたのよ〜」
今度は樹・籐子(
gc0214)が悲鳴を上げて食堂の中へ大量の花束を入れてくる。
スイートピー 花言葉:門出
サイネリア 花言葉:いつも快活
キンギョソウ 花言葉:清純な心
リネリア 花言葉:幻想
マーガレット 花言葉:誠実な心
ノースボール 花言葉:誠実
チューリップ 花言葉:思いやり、真面目な愛
と、前向きな花言葉の多い花を選び、2、3本まとめて種類ごとに簡単な花束にしていた。
無機質な匂いや空間にさらに花の香りが混ざり湿った空気も乾いてくるような気さえする。
「アロマキャンドルもあるから近くにおいておこうか」
蓮夢も手を貸すことで兵士達が使っている食堂はどんどん華やいでいくのだった。
●相談事
「あの、今いうことではないかもしれませんが‥‥私、幻想戦隊のアイナとして登場したいんですよ」
用意していた白いエナメルジャケット、白鳥柄の黒いTシャツ、白いダメージジーンズを来た鬼道・麗那(
gb1939)がアクセルに相談をする。
「え、ええっと‥‥それは今回のIRGに入っていない事務所の企画ですよ‥‥ね?」
唐突に相談を受けたアクセルは面食らってふらついた。
IRGはアイベックス・エンタテイメントとローデン事務所とジラソールの共同企画である。
そこにまったく関係のない芸能グループの登場人物を入れていいものか悩んでしまう。
「少しまってください、先方と確認しますから」
アクセルは通信室にいって幻想戦隊の企画を行っている事務所と米田やローザなどに許可を求めた。
しばらくして、アクセルは戻ってきて麗那に結果を告げる。
「先方にはOKがでましたが、ちゃんと確認をとった上でないと問題になることもありますから気をつけてくださいね? IRGでも大丈夫とのことですから」
結果を受けた麗那も大きく息を吐くとすぐに元気を取り戻した。
「ありがとうございます。それではコッソリリハーサルしていますね! あ、あとでアクセルさんを打ち合わせのために呼んでいただけるようお願いします!」
麗那‥‥もといアイドル歌手な正義の戦士『アイナ』はサプライズゲストとして登場するために使われていない部屋へと掛けていく。
「あ‥‥は、はい‥‥」
アクセルはその勢いに気圧され去っていく後ろ姿を見送ることしかできなかった。
●次には心の癒しを
食堂にアロマキャンドルやお香もたかれ、スープも配りだしてきたころ、子供達はハンガーに固定されたKVへ落書きをして楽しんだりしている。
その様子が食堂にあるTVで流れると、大人たちもつられて元気を取り戻してきた。
「では、次の段階にいきましょうか」
アクセルは雰囲気から手ごたえを感じると、事務所で用意してもらったCDコンポで曲を流す。
クラシックやジャズ、そして北アフリカの音楽で大人たちの心を少しでも楽にするためだ。
そのうちの一曲、聖歌の一つにはいると朔が耳をピンと立てて食堂の中央にいき合わせて歌い始める。
自他共に認める天使の歌声を響かせて、朔はドイツ語で歌い上げる。
聖母マリアへ祈りを伝える歌を朔が終えると、食堂の大人たちは大きな拍手と歓声をあげた。
「少し‥‥恥ずかしいの」
照れた朔はそのまま給仕に戻り、ケバブサンドやスープを配って大人たちとの交流を続ける。
「この様子ならコンサートに移ってもいいかな?」
朔の歌のお陰で笑顔を大分取り戻した人々を見て、レインは仲間達に確認を取る。
「いいんじゃないかな? お姉ちゃんも合わせてがんばっちゃうわよ」
アコースティックギターを持ち出して藤子はレインににっこりと笑って答えた。
アクセルがマイクを渡すとレインは食堂の真ん中あたりへ移動し頭を下げる。
「ジラソール音楽事務所のレイン・シュトラウドです。今日は他の事務所の方と共に慰問に来ました」
小さなレインの言葉に大人たちは耳を傾け続きを聞こうとしていた。
緊張で喉が渇くがレインはしっかりと大人たちを見据えて続ける。
「これで、少しでも皆さんの不安が軽くなってくれればいいですけど‥‥死んでいってしまった人、傷ついてしまった人たちのためにレクイエムを贈りたいと思います」
藤子がアコースティックギターを弾くとレインが歌い始めた。
悲しい旋律だが、それはレインの深い悲しみを表している。
戦いに巻き込まれてしまった人々、戦いって死んでしまった人‥‥戦争という言葉で片付けることのできない数多の想いをレインは歌に込めた。
静かに歌い終わると、思わず泣き出してしまった人たちが幾人もレインの肩を叩き「ありがとう」と述べる。
それだけでもレインはレクイエムを歌えたことに誇りを持てた。
「さぁさぁ、まだコンサートははじまったばかりよ? 席について頂戴」
藤子が席に促がす。
食堂でのコンサートはレインのハーモニカと朔の歌などを交え、続いていくのだった。
●負傷者への慰問
難民のうち負傷者も一部拾われ、倉庫区画の一つを臨時の医療場として使われている。
「すみません‥‥お邪魔します」
そこへ自分で作ったクッキーを持った蓮夢とギターをもったKodyが訪れた。
「直接参加できなかった人たちへ少しでもと思いまして‥‥クッキーもって来ました」
封をあけるとそこからは食欲をそそるような匂いが漂ってくる。
手当てをしている医者の許可を貰って蓮夢は自分の手で食べさせていった。
「あ‥‥りが、とう‥‥」
途切れ途切れながらも負傷者は蓮夢に答える。
それだけで胸の奥がぐっと熱くなった。
倉庫区画にも朔の澄んだ声による賛美歌のアカペラが流れてくる。
苦しんでいた人々の顔も少し安らいだようである。
「君達が来てくれて助かったよ。心のケアまでは医者でも難しい‥‥」
歌を聴いている従軍医の男は心底ほっとした様子で手当てを終えた。
「音楽は心を揺さぶるものだから、こんなんで力になるのなら安いってもんだ」
Kodyはアコースティックギターで過去のもち曲であるバラードを弾き語る。
「ブレイズ」というロックバンドでギタリストをしていたプロの生演奏が倉庫区画に広がった。
「ブラボー。上手いじゃないか‥‥アマチュアにしては」
終われば軍医も拍手をしてKodyを労う。
「いや、アマチュアじゃなくて‥‥「ブレイズ」ってバンド知ってる? 10年くらい前に解散したバンドなんだが」
少しばかり期待をもったまなざしを軍医に向けるが軍医は首を横に振るだけだった。
「あ、知らない。そう‥‥。いや、昔そのバンドでギターやってたんだけどねぇ‥‥知らないよねぇ‥‥そうだよねぇ‥‥」
自分に言い聞かせるようにKodyは呟くと、大きくため息をつく。
「よし、ここは気分を変えて再スタートだ。もう一曲聴いてくれ」
アコースティックギターを鳴らし、Kodyは吹っ切れたように怪我人達を見回した。
誰も否定することはなく、Kodyのソロ活動の序曲が掻き鳴らされる。
「それでは‥‥私は他にやることがありますから、彼に残りは任せるとします」
蓮夢はKodyのステージを邪魔しないよう軍医に断りを入れるとひっそり離れていくのだった。
●共に歌おう、共に笑おう
ハーモニカの音色が食堂に広がるとそれに合わせてラバーバと呼ばれる弦楽器を老人が弾き、太鼓を若い男が鳴らして乗る。
題名もなく、即興の演奏だがセッションとなり、勝手な歌がついて盛り上がった。
楽しいことは誰でも好きである。
大人であっても、子供であってもどこの国の人であっても、言葉が通じなくても楽しめる音楽は誰もが心を通わせ合わせることができるのだ。
演奏も終わり、ハーモニカを吹いていたレインも疲れた顔を見せると、一端お開きになる。
「お疲れ様です」
アクセルがレインと藤子に紅茶とケバブサンドを出した。
「ありがとうございます‥‥やっぱり、音楽っていいですね‥‥」
「ほんとほんと、こんなに盛り上がれたなら十分よね」
汗をタオルで拭きながら藤子は暖かい空気に変わった食堂を見回す。
暗い顔の人々はおらず、食事を楽しみ楽器を鳴らし、歌を歌って盛り上がっていた。
苦しさや悲しさを吹き飛ばすだけのエネルギーを彼らは手に入れたのである。
「こ、これは難しいザマス」
戻ってきたKodyが聞きなれない楽器に興味を持ってラバーバを教えてもらうが、なかなかうまくいかないようだ。
弦楽器とはいえギターよりもバイオリンやチェロのようなものであり、また馬の鬣を伸ばした弦は感触が独特である。
それでも老人は教える事が楽しいようで、ああでもないこうでもないとジェスチャーを加えて教えだした。
「子供たちの方もライブをやって盛り上がったようですから、この企画は成功ですね」
アクセルは楽しむ人々を眺め、微笑みを浮かべる。
求めていた形が相手に通じてともに楽しめているのなら何よりだった。
「今、休憩中? 丁度いいかな‥‥フィアナ・ローデン(gz0020)さんから音声メッセージが届いたのでかけましょうか」
蓮夢が食堂にCDを手に戻ってくるとプレイヤーに入れて再生する。
『今回の大規模において、被害にあわれた皆さん。また、今回IRGに参加されている皆さん。私はフィアナ・ローデンです』
うら若き少女の声がプレイヤーから流れ出すと誰もがそちらに集中した。
『私は惜しくも参加できませんでしたが、歌声が皆さんを繋ぎ、そして平和への活力となること願わせてもらいます‥‥なんて、私らしくないですね♪』
格式ばった挨拶が続くかと思いきや最後はフィアナの地がでてくる。
『それでは、皆さんに私の歌を聞いてもらえるようCDを同封するからちゃんと聞いてくださいね☆ フィアナでした』
最後の挨拶が締めくくられ、そのままフィアナの歌が流れはじめた。
●サプライズゲスト参上!
『輝く白は素敵に無敵! 愛の女神ヴァティラウザー!』
フィアナの歌が終わると、マイクによる声が響き食堂の照明が一度落ちる。
何だ何だと騒ぐなかアクセルが食堂の扉の方をライトで照らした。
照明の照らされる先には衣装を着込み、ポーズを決めるアイナの姿がある。
そのまま中央の通路を颯爽と駆けて、レイン達が歌っていた場所までやってくる。
『みんな、アイナのラウザーパワーを感じてる?』
照明がともりハイテンションでアイナは場を仕切るが、あまりの突然のことに食堂の難民達は戸惑った感じだった。
しかし、一部の青年男子が思い出したかのように反応し、声を大きく上げてくれたことで場は戻る。
『じゃあ『フレンズ』いくよ! ハートの準備はいいかい』
イエーと青年グループを中心に盛り上がりなおしたステージを確認するとアイナはアクセルにCDを変えて曲を流してもらった。
―フレンズ―
♪〜〜
夢のままじゃ駄目
諦めない
その勇気がきっと未来をひらくから
自分を信じて飛び立とう
振り返っても
未来は後ろにはない
My Friend
君は独りなんかじゃない
My Friend
躓いたらまた立てばいい
〜〜♪
『ありがとう! またねバイバイ』
風のように現れたアイナは同じく風のように去っていく。
「ステージは以上で終了よ。最後まで聞いてくれてありがとうね。それじゃあ、お姉ちゃんから最後にプレゼントよ」
藤子がすかさず締めくくりの挨拶をすると飾ってある花束をとり難民達へと配っていく。
それにはレインや朔、Kodyや蓮夢も短い慰問ライブの最後を飾るのだった。
●すべてを終えて
片付けもあるため食堂から子供たちのいるハンガーの方へ難民たちには移動してもらう。
寂しくなった食堂を後片付けながらレインはポツリと言葉を漏らす。
「今回の難民の方々のように、世界にはまだ苦しんだり、悲しんだりしている人がたくさんいるんですよね?」
「そうですね。世界各地でキメラやバグアの脅威におびえる人々がいますから‥‥」
片付けを手伝っているアクセルはレインの言葉に答えた。
今回の便には乗れなかったが、他の便に乗った難民達もまだいるのである。
「まだいる難民の方々に人々にメッセージとか送りたいですね‥‥今回のステージのは全部ビデオで収録しましたし」
「フィアナのCDもありますし、ブラット准将とかからも可能ならばメッセージをもらいたいかな‥‥」
「お花も仕入れて贈りたいところだわ」
片付けをしながらも能力者達は次につながることへ話を膨らましだす。
ひとつの終わりはひとつの始まり。
ジラソール音楽事務所としての活動もこれから世界へと羽ばたいていくのだ。
「さ、まずは片付けを終えて降りましょう。一緒に出発するわけにはいきませんからね」
アクセルは今回の貴重な体験を胸にしまい、片付けを再開する。
ブリュンヒルデの人々と別れ、自分達は次の舞台へと動くのだから‥‥。
<代筆:橘真斗>