●リプレイ本文
●1st
「作戦目標は民間人を護るために時間を稼ぐ。だが、数が多すぎるみたいだな。
まったく、可能なら雷電でフレア弾とK−02小型ミサイルで空対地爆撃したいが、それでは誤爆しかねないしな。コイツに頼るしかないか?」
そう言って緑川 安則(
ga0157)はドローム製SMGに弾丸を装填する。
(「やれやれ後始末が大変という事で、難民救助もその一環。色々派生して分担だけども、俺達はもっとも大切な救出を担うと」)
「その為のサイエンティストだからな」
地堂球基(
ga1094)が呟く。
球基のリッジウェイに乗り込んでいた安則が、「なんだ?」と尋ねるが、彼は
「なんでもない」
と答えた。
「さて、ゼカリアの本領発揮じゃ」
刃金 仁(
ga3052)がそうつぶやき回線をオープンにする。
「目的は民間人の犠牲0、キメラ殲滅・後方への浸透阻止じゃ。用意はいいな!」
「綿貫 衛司(
ga0056)、了解!」
「了解!」
「こっちもオーケー」
「そうだ。守れるか? じゃない、「守る」んだ! 自分達がな!」
寿 源次(
ga3427)が吠える。リッジウェイに取り付きながら。
「一人でも多く命を、一滴でも血を少なく」
熊谷真帆(
ga3826)が叫ぶ。雷電を飛ばしながら。
「我も問題はない」
アルヴァイム(
ga5051)がディスタン改を駆りながら言う。
「せめて手の届く範囲くらいは‥‥なんて。安い台詞だ。だが!」
時枝・悠(
ga8810)が吠える。
「‥‥だが、戦う術すら知らない人たちを護るのが俺たちの役割です」
鹿嶋 悠(
gb1333)が時枝のセリフを受け継ぐ。
「絶対負けない、皆助け出してみせるよ!」
鷲羽・栗花落(
gb4249)がそう言うと、指揮車輌のヨハン・アドラー(gz0199)から通信が入った。
「皆さん、その意気です。時に、軍は非情にならざるを得ないのです。民間人の犠牲者は織り込み済みでないと作戦を立てられない。
ですが、皆さんならできると信じています。宜しくお願いします」
「了解です」
従軍経験のある衛司が短く答える。軍の立場はよくわかっているといいたいのだろう。
「民間人との接触です。リッジウェイ改、医療後送車、Mリッジウェイ前へ。難民を収容します」
ヨハンが指示を出す。
それに従って速度を上げた各車両が民間人と接触する。生身部隊の衛司と安則、源次、時枝、が球基のリッジウェイから飛び降りる。
「いくぞ! 各員に通達! これより閃光手榴弾を使用する! 爆発による影響に注意されたし! 後、手榴弾の代金はヨハン少佐に請求だ!」
閃光手榴弾は貴重な消耗品。そのあたりを揶揄しているのあろうが、ヨハンは二つ返事で頷いた。
そして安則が閃光手榴弾を扇型で最大射程に投擲。タイマーを合わせる。
時枝が自身と軍の車輌で民間人を挟むように前に出る。
衛司は戦車部隊の隊列とリッジウェイ、Mリッジの隊列の中間から戦車隊よりに位置をとる。
火線をくぐり抜けて来た敵の撃破と難民の避難誘導が目的だった。
源次が避難民と接触後、怪我人が居ないかを確認し、居れば練成治療で応急処置をほどこす。
その後安則の先ほどの言葉を説明。30秒後にはげしい光と音が鳴ることを警告する。
群衆の中から怪我人や病人を見つけ次第Mリッジへ、あるいは医療後送車へと載せ始める。この間十秒も満たず、当然のことながら収容所の向こうからキメラ達が追っ手としてやってくる。
●2nd
「軍に砲撃を要請する!」
アルヴァイムの要請は指揮車両を経由して各種砲火車両に届けられ、戦車と自走砲が砲撃を行う。ハーピーはいくらか倒せたようだが首刈り女王とシューティングスターはその大半が逃げ切っていた。
その間にもキメラ達は近づいてくる。アルヴァイムは迷わず7.65mm多連装機関砲を発射した。
10匹単位でキメラの群れが散っていく。
戦車は前進し医療後送車の前へ。医療後送車も機銃で対空迎撃を行う。
「シューティングスターは命中と回避に特化しているなら何かを犠牲にしている筈、数で勝負するという事は少なくとも耐久力が低い筈‥‥」
真帆はそう推測し遠くのシューティングスターから狙う。
その読みは当たった。スナイパーライフルD−02から発射された弾丸はシューティングスターに命中しその体をミンチへと変える。
リロードし再度発射。
もう一匹のキメラを肉片へと変える。
「地対空戦闘には弾幕を張るのが一番だな。もっとも、こいつは相手にしたくないがな」
ドローム製SMGで弾幕を張りつつ首刈り女王を狙撃する。そして次第に、<制圧射撃>へと切り替える。
「数が相手ならこれしかないか。時間稼ぎするから頼む!」
そう言って足止めを仕掛ける安則。その目論見は成功し、敵の足はだいぶ遅くなる。
栗花落のアテナイが750発もの弾丸をばらまく。その攻撃はこちらに近づくキメラ達をまとめて掃討した。
そしてツングースカで対空射撃を行う。
「やらせない。絶対に!」
栗花落はそう叫びながら600発の弾丸を発射し切る。50匹近いキメラが一気に落ちた。
それでも再生能力のあるハーピーは地上でぴくぴくとうごめいていた。
だが、脅威ではないとみなし放置することにした。
そんな栗花落に連携して鹿嶋がアテナイとピアッシングキャノンでキメラを迎撃する。
それはキメラの群れを駆逐し、確実に数を減らしていく。
「いけえ!」
時枝は番天印で高速接近してくる首刈り女王を落とす。
耐久力は低いらしく一撃で落ちる。
「よし、これなら行ける!」
時枝はその後も首刈り女王を相手に射撃を続ける。
「首刈り女王、戦車隊を抜けます!」
「了解!」
指揮車輌からの情報を受け取り衛司はショットガンを上空に向けて発射する。それも一度ではない、二度、三度、四度――そしてリロード。
耐久性の殆どない首刈り女王はその一撃一撃で確実に落ちていく。
「危ない!」
源次は首刈り女王の攻撃から、子供を身を持って守る。
肩をやられるが練成治療で即座に直す。そして電磁波で首刈り女王を落とす。
「大丈夫だぞ、嬢ちゃん。嬢ちゃんは自分が守ってやるからな」
恐怖に怯える子供をなだめすかし走らせる。
車輌に入れば兎にも角にも安全だ。
「奇襲の様子は‥‥ないな。よし、戦闘を続行する」
怪我人は練成治療で応急処置を施し、それでもダメなものは医療後送車へ、健康なものはリッジウェイに乗せていく。
Mリッジウェイはもう満員であった。
軍のリッジウェイも次々と砲撃をしている。敵の数は確実に減りつつあった。
球基はGPSh−30mm重機関砲を発射して敵の攻撃を防いでいた。
「絶対に、犠牲者は0だ!」
仁はゼカリアで敵の体当たりを受け止めると、外部スピーカーで笑いながら言った。
「此処は食い止める。走れ、明日はもうそこだぞ」
と。
それは彼らにとってどれほどの希望になっただろうか。
●4th
さらに10秒間の熾烈な戦闘が続き、閃光手榴弾が爆発する時間がやってきた。
「耳を塞いで、後ろは見るな! 前の車両を目指すんだ!」
源次がそう言って避難民達を誘導する。
そして、爆発。
キメラの群れは見事にトラップに引っかかった。
視界をやられて味方同士で接触するものまで出てくる始末。これは時間稼ぎに大きく有効に働いた。
そして
「おあつらえ向きじゃ、丸見えだぞおぬしら」
仁が徹甲散弾を発射する。キメラが十数匹単位で撃破されていく。
源次は避難状況を医療後送車を含めた救護車輌、軍指揮車へと逐一伝達し、車両近くまで来たら誘導人員を要請し、先導を頼む。
「こっちだ! こい!」
軍医が危険を顧みずに源次の期待に答える。こうして次々と避難民が車輌に乗っていった。
「自走高射砲、対空射撃を!」
アルヴァイムの要求で高射砲がハーピーに向かっていっせいに弾丸を発射する。
圧倒的な飽和密度で放たれたそれはFFを突破し単体では考えられないほどのダメージを与える。
墜落するハーピーが数匹。手負いのハーピーが前線を越えようと試みる。
前線を抜けて来るキメラのを警戒していた源次が超機械でそれら手負いのハーピーを落とす。
「戦場の風紀委員真帆ちゃん参上!」
R−P1マシンガンで真帆は後方に抜けたキメラを落としていく。
「紅炎、行くよ!」
時枝は生身で民間人を襲う首刈り女王の盾となっていた。
剣で受け、停止した隙を番天印で射撃する。
所詮は民間人殺戮用のキメラ。民間人には脅威でも能力者にとっては脅威ではない。
「緑川さん、援護する! 自走砲に支援要請」
鹿嶋が前方に向かって続ける安則の制圧射撃に合わせてグレネードを一点集中で放つ。
爆炎が広がり多くのキメラを巻き込む。
そして自走砲の曲射が死の雨となってキメラの群れに降り注ぐ。
栗花落はハイディフェンダーで迫り来るシューティングスターを切り倒す。薬莢が落下しては危険との配慮からだった。
衛司はククリナイフにスマッシュをかけてシューティングスターを切り捨てる。
球基は自分のリッジウェイに載せた怪我人を練成治療で治療するので手一杯だった。
●10th〜
傭兵たちの懸命な努力によって敵の多くが駆逐され、民間人の被害者も彼らが目指したように0だった。
しかし、生身の傭兵たちは満身創痍である。そんな中、満員まで載せた医療後送車とMリッジウェイが最大戦速で離れていく。
「絶対に近づけるな!」
「了解! これ以上の狼藉は許しませんよ!」
アルヴァイムが叫び真帆が答える。
二人は連携してキメラを倒して回る。このころには敵の数は総数ですでに50を切っていた。
「全車両、撃てーっ!」
ヨハンの司令に戦車部隊から砲弾が飛ぶ。だがこちらもそろそろ弾丸切れだ。発射間隔を伸ばすことによって対応していた。
軍のリッジウェイ改もすでに満員である。従って、彼らも微速で後退していた。
それに合わせるように安則は制圧射撃を行う。
「後でメンテの必要がありそうだな」
ぼやきつつも後退し、加熱したSMGをリロードする。
「こちら緑川。数を減らした敵が散開を始めた。多方向から接近されては迎撃が困難になる。そろそろ限界だ」
「了解! 戦車隊も弾丸がなくなりつつあります。あと20秒我慢してください。医療後送車とMリッジウェイが安全圏に到達したらこちらも予定より速いですが撤退します」
ヨハンがそう答えて早めの退却を指示する。
「もう逃げ遅れはいないかな? これ以上はさすがにきついからね‥‥!」
栗花落がレーザーライフルとハイディフェンダーでの迎撃に切り替えながら叫ぶ。
「逃げ遅れはなしです!」
軍からそう連絡が飛ぶと、栗花落は安堵の表情を見せた。
「では、こちらも撤退だな」
鹿嶋は煙幕を張り殿を努めると、双機刀「臥竜鳳雛」で群がる敵を切り裂いていく。
「こちら綿貫。錬力がそろそろ切れそうです‥‥残念ながら、あと20秒持つかどうか‥‥」
「こちらヨハン、なんとかしのいでください。これ以上スキルは使わずにナイフだけででもしのいでください」
「了解しました‥‥やれやれ。これは厄介な戦場ですね」
衛司も血まみれである。それを源次の練成治療が癒して回るが、彼の錬力もそろそろ限界だった。
「あとは覚醒分で手一杯だ。球基、そろそろ変わってくれ」
「こっちも怪我人の治療で錬力を使い果たしそうだ。悪いが無理だ。リッジの操縦も残ってるしな‥‥」
「そうか‥‥」
「吾輩が皆の練成治療をやる。これまで温存してきたからな」
仁がそう言うと、源次は「助かる」と言った。
「ただし、戦闘後だ。今はゼカリアで忙しい」
「了解!」
其れで戦場は一気に活気づいた。火線を抜けてくる敵を接近戦用の武器で薙ぎ払い、傭兵たちは戦いを繰り広げていく。そして、20秒後。
「撤退します! 生身の方は戦車かKVに掴まってください」
退却の指示が出る。
その後も一同は退却しながらも銃撃を行い、遅延戦闘に務めた。
民間人の犠牲者は0。快挙と言ってよかった。これも全員が民間人の犠牲者0に向けて作戦を立てた成果であろう。
そして奇策ではなく正攻法を積み重ねて正しくもぎ取った勝利の果実と言ってよかった。
その功績をたたえて彼らには金一封が与えられたと言う。
了