タイトル:聖母を取り戻せマスター:青峰輝楽

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/02/20 23:05

●オープニング本文


「父ちゃん、もう駄目じゃ。逃げるんじゃ!」
 男の悲痛な叫び声。
 北米、数時間前にキメラの襲撃を受けた村。
 たまたま山に狩りに入っていて難を逃れた父子は、帰宅途中の山道から、村の方々からあがる灰色の煙の筋を見つけ、呆然とした。
「いかん、わしは教会へ行く。村に残していく訳にはいかんぞ! ベン、おめえは先に逃げろ。わしは村へ戻る」
「ばかな事言ってんでねえ。化けもんに殺されっぞ!」
「殺されてもわしは‥マリア様をお守りするんじゃ。化けもんどもに渡す訳にはいかねえ!」
 ベンは、焦燥と苛立ちの混じった表情で、愚かしく頑固な父親を睨みつけた。
「あんな価値のねえ木像なんか、キメラが興味を示す筈もねえ。いつか奴らがいなくなったら、そん時取り戻せばいいでねえか」
「なんだと!」
 息子の言葉にかっとなった老父は、拳で息子の頬を殴りつけた。
「価値がねえだと?! マリア様は、村のもんの守り神だ。おめえが生まれる時、母ちゃんが難産で母子共にもう駄目だって誰からも見放された時、わしの二日二晩の寝ずの祈りに答えて下さったんじゃぞ! あの朝、わしの前に立って下さって、もう大丈夫とお声をかけて下された。その直後、おめえは産声をあげたんじゃ。それを‥価値がねえとは何事だ。他にも、マリア様はたくさんの奇跡を起こされたんじゃ。ここで化けもんどもに渡してしもうては、死んでも死にきれねえぞ!」
 興奮した口調でわめき、猟銃を構えて山道を駆け下りようとする父親。
 ベンは溜息をつく。奇跡の話は物心つく頃から散々聞かされているが、現実的な考え方を重んじるベンは、単なる父親の幻想だとしか捉えていなかった。
 ここで、あんな古い木像の為に父親を無駄死にさせては、昨年亡くなった母親に申し訳が立たないというものだろう。
「父ちゃん」
 ベンは、父親の肩をつかんだ。
「? なんじゃ?」
 怪訝そうに振り返った老父。
「ごめんな」
 謝るなり、ベンは老父の鳩尾に拳を当てた。

 息子の背におわれ、避難した老父。
 収容先で、逃げ延びた村の老人達と再会を果たし、それぞれに鼻息荒く、猟銃や鍬を掲げる。
「マリア様を取り戻すんじゃ!」
「化けもんなんぞに負けんぞお!!」
 士気だけはやたら高い老人たちの背後で、息子や娘たちは、かろうじて残された蓄えを出し合った。
「これで、能力者に‥‥」

 マリア様は、化け物なんかには負けない。今、化け物と戦っておられるところだ。
 老人達が無茶をして化け物の餌食になるのは、マリア様は決して喜ばれない。
 マリア様の為に出来る事は、化け物退治の専門家を雇って、お救いする事だ。

 そんな説得で、何とか老人達をとどめ、代表してベンが、UPCに依頼を提出した。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
ファティマ・クリストフ(ga1276
17歳・♀・ST
ゼラス(ga2924
24歳・♂・AA
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
エリザベス・シモンズ(ga2979
16歳・♀・SN
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
神森 静(ga5165
25歳・♀・EL

●リプレイ本文

●出発前
「まずはご挨拶を。わたくしはイングランドより参りましたエリザベス・オーガスタ・ネヴィル=シモンズと申します。リズとお呼び下さって構いませんわ」
 口を切ったのは、エリザベス・シモンズ(ga2979)。礼儀正しく優雅な挨拶だった。
「けひゃひゃひゃ、我が輩がドクター・ウェストだ〜」
 ある意味彼女とは対照的な雰囲気を持ったドクター・ウェスト(ga0241)が、挨拶を返す。
 だが、ふざけたような言葉遣いとは裏腹に、彼は、
「聖母様は絶対に奪還しなくてはならないね〜!」
 と、かなりのやる気を見せている。
「村人、特に老人達にとってマリア像は何よりの心の支えなんだろうな。無事奪還出来れば、村は復興するのは間違いないだろうし。これは責任重大だな」
 榊兵衛(ga0388)がドクターに同意した。
「えっと、ファティマ・クリストフと申します。私の事はクリストフ‥ないしはクリスとお呼びください。名前は‥その、呼ばれるのが恥ずかしくて‥。あ、でもでも! ゼラスさんは‥その、名前で呼んで貰えた方が嬉しいです‥」
 顔を赤らめ、小さな声で自己紹介をしたのは、ファティマ・クリストフ(ga1276)。 不思議そうに彼女を見つめ返した面々に、ゼラス(ga2924)が説明した。
「俺がゼラスだ。今回は、ファティマ・クリストフの護衛としてついてきた。勿論、作戦を成功させる為に、護衛以外の役割も果たす」
「わかりました‥よろしく頼みます」
 答えたのは、アルヴァイム(ga5051)。
「相手の日常を破壊するのが戦争であると定義するならば、今回の事もそのありふれた一端なのでしょう。ですが‥‥魂を汚す行為だけは許されないっ!! 少し、気合を入れていくとしましょう」
「マリア像の奪還ですか? そうですねえ、お年寄り達の心の拠り所ですから、何とかしたい所です」
 アルヴァイムの気合いに、妖艶な笑みを浮かべて、神森 静(ga5165)が答えた。
「わたくしも国教会で洗礼を受けたクリスチャンですもの。村のご老人方のお気持ちはよく分かりますわ。聖母像は、いわばわたくしにとってのカンタベリー大聖堂のようなもの‥必ずやお救い致しましょう!」
 リズの言葉に、
「マリア像を無事持ち帰る事‥。その願いは、一人の修道女として、また司祭を代行する者として切に叶えて差し上げたいものです。それに私は“キリストを運ぶ者”たるクリストフォロスの意を与えられた者。此度は何が何でもの意気込みなのですよ」
 深く頷き、こう宣言したクリストフのような者もいれば、
(「聖母像なんてどうでもいいが、それが人々の希望となるのなら助けない訳にはいかないだろう」)
 と、心中考える漸 王零(ga2930)のような者もいる。
 だが、依頼遂行の為に励む心はひとつ。
 能力者達は、全力を尽くす事を互いに誓い合った。

 作戦開始前に、無線機を借り受けた能力者達。
 リズは、村人に、洞穴の話を詳しく尋ねてみた。
「教会の裏の丘から、山ん中へ通じとった。子供らがよく、山や小川へ行く時の近道として、使っておった。大人には少し通りにくい場所があってな‥。じゃが、十年前‥いや、十二年前じゃったか? 地震が起きて、子供が閉じこめられてしまったのじゃよ。子供はなんとか救い出して、命も取り留めたが、危険なので、その後、子供が入る事を禁じたのじゃ」
 記憶を辿りながら答える老人。

「おい。兵隊さんや」
 話に入ってきたのは、声の大きな白髪の老人。依頼人ベンの父親である。
「今の話じゃが、洞穴に閉じこめられた子供は、あそこにおるマイクなんじゃ。見ての通りぴんぴんしておるが、あの時は、助け出すのに三日もかかり、もう駄目じゃろうと皆が思うとった。なのにじゃ。なんと怪我ひとつせず、弱りもせずに、岩と岩の隙間に座っておったんじゃ。‥‥これは間違いなく、マリア様のお助けによるものじゃ! ええか、おまえさん達の任務は重大なんじゃぞい。わしがあと十歳若ければ、おまえさん達などには頼まず、この手でマリア様をお助けできたものを!」
 内心、十歳若くても大して変わりはないだろうと思った能力者達だったが、敢えて口にはしなかった。
「そうじゃ、わしが道案内をしてやろうか?!」
 別の老人が声をかけてきた。
「い、いえ、結構ですわ。それより、村の地図を貸して頂けませんか?」
 リズの頼みに、また別の老人が張り切った声をあげた。
「地図など持ち出してはおらんが、すぐにわしが描いてやろう! 待っておれ!」

「爺さん達‥‥今にも自分達で突っ込みそうな勢いだな‥血気だけは昔のままっぽいな」
 ゼラスは、老人達から少し離れた場所で、苦笑しつつ呟いた。

●陽動
 陽動二班がキメラを引きつけ、その間に、保護班が洞穴を通ってへ入り、聖母像を確保する計画を立てた。

 陽動班Aは、ドクター、漸、神森。
 陽動班Bは、クリストフ、ゼラス、アルヴァイム。
 
「いきなり、騒いでキメラを大量に誘き寄せるのは芸がない。まずは、二班揃って行こうか」
 ゼラスの提案に特に異を挟む者もなく、二班はまず合同で、村の正面から近づく事となった。
「さて、聖母様救出のためにひと暴れするとしますか」
 漸が言い、皆は頷き返した。
「数は、いますね? では、始めましょう? 皆様?」
 神森の言葉が終わらぬうちに、視界にキメラの姿が現れた。

 家々の陰から、草むらから、木陰から這い寄るモノたち。
 カブトムシのような形のキメラは、およそ十数体。
「もっと奥にいる筈です」
 そう言うと、アルヴァイムは照明銃を撃ち、呼び笛を吹いた。
 更に、集まってくるキメラたち。能力者達の行く手を阻むキメラは二十体以上になった。
 だが、単体ではそれほど攻撃力はなさそうなキメラである。能力者達は焦りはしない。
 ゼラスは、保護班に、陽動を開始した事を連絡。
 サイエンティストを保護する陣形で、二班は左右に展開する。

「狂いの仮面よ。今ここに」
 漸の眼球が赤く光り、紋様が浮かび上がる。
「さぁて‥来な、虫野郎。どっちが常世で徘徊していられるか‥試そうじゃねぇか!」
 言い放つと同時に、ゼラスの髪が赤く滲み、覚醒した。
「邪魔をするのなら、容赦は、しない。冥界へ送ってやろう」
 神森の茶髪が、銀色に光った。

 ドクターが、前衛に錬成強化を施す。アルヴァイムは、ドローム製SMGで弾幕を展開し、前衛へ近接する敵の数を減らす事を主行動とした。
 前衛の者たちは、休みなくキメラに攻撃を加え続ける。
 やがて、キメラの死骸が、村の地面を埋めていった‥‥。

「あらかた片付いたようだな」
「だが、まだ油断は出来ない」
 軽傷を負った者は、素早く、救急キットや、ドクター、クリストフらの錬成治療で傷を癒す。アルヴァイムは、弾倉を交換する。戦いはまだ終わらない。

「それじゃそちらは任せた。こっちはこっちでうまくやる。またあとでな」
 漸の言葉を合図に、二班は、教会を中心に、円を描くように左右に分かれた。

●洞穴内
「聖ジョージの‥いえ、聖母マリアの加護のあらんことを! 」
 リズと榊は、洞穴を通り教会へ向かい、聖母像を確保する役目を引き受けた。
 洞穴内にキメラが潜んでいないとも限らない。
 リズは、隠密潜行を用いて先に進んだ。暗視スコープも使い、警戒を怠らない。
「大丈夫です、ヒョウエ。何の気配もありません」
 彼女の合図で、榊も進んでくる。
 狭い洞穴である。
 小柄なリズが身を屈めてやっと通れる程度。大男の榊は、半ば這い蹲るようにして進むしかなかった。
「これは、帰りはとても使えませんね‥‥」
 リズの言葉に、榊は溜息で応えた。
 しかし、特にキメラが潜んでいる様子もないまま、二人は陽光の射す出口に近付いた。
 ‥‥突然。
 ドドドドドドドッ!!!!!
 背後で大きな音と共に、岩盤が崩れ落ちた!
 帰り道は、完全に塞がれてしまった。十年以上誰も入らず、ひっそりしていた洞穴を二人が通った事が、落盤を引き起こしたらしい。
「‥頭上に落ちなくてよかったな。これも、ご加護って奴か?」
 榊はやや冗談めかしてそう言うと、軽く肩を竦めた。
「きっと、そうですわ」
 リズは生真面目に応えた。
 
 慎重に外の様子を窺いながら、洞穴を出た。
 遠くから、戦いの喧噪が微かに伝わってくる。
 無線で連絡を受けた通り、陽動班が活動しているようだ。
「急ぎましょう」
 二人は、教会の方へ足を速めた。

●陽動班A
 ドクター、漸、神森は、B班と別れ、更にキメラを引きつけるべく、行動を開始していた。
 教会を中心に円を描くように移動していると、またすぐに、新たなキメラが数体、襲ってきた。
「さぁ、グランギニョルの開演だ。我を恐れ死んでゆけ」
 漸が言い放つ。背後で神森は無線連絡を受ける。
「保護班、洞穴を出たそうですよ?」
 その時にはもう、ドクターは攻撃を始めていた。
「我が輩のエネルギーガンが火を噴くぜ〜!」
 電波増幅で知覚を上げエネルギーガンで攻撃する。一見、乱雑な攻撃のようだが、ドクターは冷静に、キメラを観察していた。
 キメラの種類‥どうやら、ここに出現しているのは一種類、カブトムシ型のキメラのみのようだ。キメラのフォースフィールド‥数が多すぎて、確認する余裕がなかった。
「迷わず終焉なき闇へと帰るがいい」
 群れるキメラをなぎ倒し、漸は呟いた。

●陽動班B
「ファティマ、無理はするなよ? ファティマの進みたい道にある、不用な障害は‥俺が裂き飛ばしておいてやる」
 ゼラスの言葉に、謝意を込めてクリストフは頷いた。
「超機械での非物理攻撃の援護を行います。都合上、アルヴァイムさんよりも前に立たないと出来ないのが難点ですが‥きっと大丈夫でしょう」
 自信ありげなクリストフだったが、ゼラスとアルヴァイムは首を横に振った。
「何を言ってる、ファティマ。ファティマは防具を着けていない。そんな者を前に立たせられるか。後衛に専念してくれ」
 クリストフはゼラスの言葉に素直に頷き、二人に錬成強化を施し、傷を癒す事に専念する事にした。
 ゼラスが呼び笛を吹くと、すぐにキメラが出現した。
 ゼラスとアルヴァイムは戦闘態勢に入った。
 ゼラスは側面から斬り上げ、キメラをひっくり返し、腹側から止めの一撃を加える。
 これは、効果があった。
 アルヴァイムもゼラスと同様の気持ちで、キメラがクリストフに近付くのを阻止する事を最優先に動いていた。
 だが、攻撃の手をくぐり抜けた一体が、クリストフへ向かった。
 無防備なクリストフがキメラの一撃を食らえば、かなりの深傷となり得る。
 だが‥攻撃の一瞬、何かに足止めされたように、キメラは動きを鈍くした。
「阿呆が‥‥向かう相手を間違えたな!」
 ゼラスは豪破斬撃を放つ。続いて、アルヴァイムも貫通弾を使用。呆気なくキメラは倒れた。

●教会
 リズと榊は、教会へ到着した。
「これは‥‥」
 二人は息を呑んだ。教会は、全焼に近い形で、焼け落ちていた。
 だが、二人が、未だ煙燻る木材を押しのけると、目前に、目的のマリア像が姿を現した。どうやら無傷である。
「これだけ信仰が寄せられているのなら神霊が宿っていても不思議ではない」
 榊は呟いた。
 リズが警戒し、榊が「キャンプ用テント」のシートとロープを利用して梱包する。
 神様が宿っているという言い伝えがある日本の古い樹を扱うつもりで丁寧に扱った。
 リズは、無線で、復路が洞穴を利用できない旨を、陽動班に伝えた。

●撤退
 マリア像確保と、復路に洞穴が使えないという連絡を受けた陽動班。
 だがその頃にはあらかたキメラを駆逐し終えていた。
 陽動二班は合流し、聖母を担ぐ榊を警護した。

●任務終了
「おお‥‥」
「マリア様‥ご無事で‥」
 避難所にて。感涙にむせぶ老人達。
 火災に遭いながらマリア像は奇跡的に無傷で、村の老人達に返された。
 依頼を出した息子や娘達も、安堵の吐息を漏らす。
「さすがに霊験あらたかなマリア様だけあって、さしものキメラ共も手出しが出来なかったようだな。こうして無事に救い出す事が出来て、俺もホッとしている」
 微笑して榊が言った。
「信仰心は‥‥虫も避けて通りやがった‥‥か?」
 ゼラスが同調するように笑った。

 クリストフは、静かにマリア像に祈りを捧げた。
(「今回はゼラスさんと一緒の依頼で嬉しかったのです。本当に‥ゼラスさんは兄様みたいで‥。ダメですね、どんどん甘えてしまうのです‥。」)
 言葉に出来ない胸の内。

「兵隊さん達や。ありがとうよ!」
 ベンの父親は、能力者達ひとりひとりの手を、ぎゅっと握って謝意を表した。
 
「お疲れ様でした。フフ・・あれでも、あるだけ救いになるんでしょう。信じる者は、救われるです」
 神森が呟き、一行は、避難所を後にした。