タイトル:annihilateマスター:荒川 流石

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/05/27 13:56

●オープニング本文


――輸送車両護衛任務にて、都市の中で発見された工場。
 そこでは無数の虫型キメラが生産され、都市へと放たれていた。
 放たれた虫型キメラは輸送車両を襲う脅威と化していたが、護衛任務成功により都市の近隣の町に物資を運ぶ事が出来た。
 だがいつまでも町の住民達をこのままにするわけにはいかない。住民達の避難計画が練られた。
 避難する為にはやはりこの都市を通らなくてはならず、虫型キメラ生産工場の機能停止が必要と判断された。
 護衛任務中、別行動を取り探索し工場へ潜入した者の報告により、工場内部には巡回するキメラが数体、それ以外は自動で作動する機械だけが存在しているという事が判明していた。
 数体のキメラしかいないのであれば、と最初は爆撃などで工場ごと破壊する作戦が練られたが、破壊による汚染物質流出等の危険性が考えられた為却下となった。
 工場内にある機械の停止を目的とするために必要なのは、障害となるキメラを排除する事。司令部は兵士を集め、キメラの排除へと向かった。
 数体のキメラであれば兵士だけで十分。そう思っていたのだが――それは大きな誤りであった。

「申し訳‥‥ありません」
 救護室のベッドで包帯を巻かれた痛々しい姿で男性兵士が苦しそうに呟いた。
――工場へ突入した兵隊は、たったの数体のキメラに大打撃を与えられた。
 数多くの負傷者に死者まで出してしまい、撤退を余儀なくされてしまったのだ。
「‥‥傷が痛むところ所悪いが、詳細を報告してくれ」
「はい‥‥」
 苦痛に顔を歪めつつ、兵士は工場であった事を報告した。

――工場の中には、事前情報通り機械と巡回のキメラが存在していた。キメラのタイプは二足歩行人型。数は四体。
 数が少ない事から兵隊は、正面や裏口等から一斉に突入し制圧を試みた。だが、
「‥‥例え戦車砲があったとしても、アイツらに通用したかどうか‥‥」
兵士が悔しそうな表情を浮かべた。
 兵士達の攻撃は通用せず、打つ手がないままキメラの刃のような腕にただ斬り裂かれていったという。
「ちょっと待ってくれ。そのキメラの皮膚は黒かったのか?」
 その言葉に、兵士は頷く。
「ええ、なんというか‥‥真っ黒なアーマーを着たような感じで‥‥」
「おかしいな。確か事前に潜入した者による報告じゃ、皮を剥いだようなピンク色だったと聞いていたが‥‥」
 そう言って報告書を取り出すと、それには『ピンク色の肌をした人型キメラ』との記述があった。
「‥‥そういや、最初はピンク色の姿だったような‥‥そうだ思い出した。俺達を発見して、アイツらは真っ黒な皮膚になったんだ」
 思い出したように、兵士が言う。
「となると、その皮膚が攻撃を防いでいるのだろう。巡回しているだけの時は纏っていないというのは、戦闘状態の時だけ身に纏うのかもしれない‥‥なら、そこを突けば我々にも勝機があるかもしれないぞ」

 こうして、司令部で新たな作戦が立てられた。
 それは工場へ少人数で潜入し、キメラに気付かれぬよう排除するという物であった。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
旭(ga6764
26歳・♂・AA
秘色(ga8202
28歳・♀・AA
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
鈴木悠司(gc1251
20歳・♂・BM
エリーゼ・アレクシア(gc8446
14歳・♀・PN
入間 来栖(gc8854
13歳・♀・ER

●リプレイ本文

●潜入
――工場二階、事務室。かつて整理されていたであろう書類や棚などが散乱し、バグア襲撃の爪痕を残していた。
 その室内に外階段から三人の人間がそっと侵入してくる。
「ふぅ‥‥外に誰もいなくて助かりました」
 ほっと安堵の息を入間 来栖(gc8854)が漏らす。
「安心するのはまだ早いですよ、本番はこれからです」
 そんな来栖の様子を見て、苦笑混じりで辰巳 空(ga4698)が言う。
「そ、そうですよね‥‥ここ‥‥何か嫌な感じがします」
「その嫌な感じの原因はアレだろうね」
 扉を少し開け、隙間からそっと工場内を覗いていた夢守 ルキア(gb9436)が呟く。
 彼女の視線の先にあるのは、フロアに佇む沈黙している機械。そして、その周囲にそのキメラは居た。
 数は二体。一定の距離を取り、機械の周辺を回っていた。
「あの状態が狙い目かもしれない、というわけですか‥‥」
 人体から皮膚を剥がし、筋肉がむき出しになっている様な姿を思わせるピンク色の体をしているキメラを見て空が呟く。
「一体は私が近づいて狙うので、片方を頼みます」
「了解だよ」
 空の言葉にルキアが頷き、武器を構えた。
「わ、私は夢守さんの傍にいます」
 来栖の言葉に頷くと、物音を立てないように空が扉から出て行った。
「‥‥下の人達は大丈夫でしょうか」
 ぽつりと、来栖が呟く。
「そう思うしかないよね。一応デューク君に幸運のメダルを貸したけど‥‥さて、私達も行くよ」
 ルキアの言葉に、来栖が頷いた。
 
 ――その一方、工場の外一階。南側にかつて工場で働く者達が使っていたと思われる小さな扉があった。
「ふむ、向こう側には何もいないようであるね〜」
 先見の目で周囲を把握していたドクター・ウェスト(ga0241)が呟き扉を開くと、その体を滑り込ませる。
「‥‥こいつは凄いのぉ」
「‥‥こんな物があるだなんて」
 後に続いて中に入った秘色(ga8202)が呟き、エリーゼ・アレクシア(gc8446)が言葉を失う。
 中に広がっていたのは、通常の工場では見ることができないような代物ばかり。パッと見ただけでは何に使う物かわからない。
 しかし稼働はしているらしく、機械音が工場内に重く響いていた。
「む」
 ウェストの目に、少し離れた場所にいる一体のキメラが映り込む。侵入者の存在に気付いていないらしく、キメラはただ歩いていた。
「吾輩はアイツを狙うぞ〜」
「なら私はサポートを‥‥」
「けっひゃっひゃっ、吾輩にサポートなぞ不要!」
 エリーゼの言葉をウェストが途中で遮った。口調こそ明るい物の、はっきりと彼女を拒絶していた。
「あう‥‥」
 落ち込むエリーゼの肩を、秘色が慰める様に軽く叩く。
「まあまあ、何かあった時の為におぬしは彼についてやっとくれ‥‥わしは作戦通り北へと行かせてもらおうかの。もう一体をそこで狙うとしよう。遮蔽物も音もあるから気を付けていれば見つかる事もあるまい」
「なら僕は外から北側へと回らせてもらいます」
 旭(ga6764)の言葉に秘色が頷く。鎧姿である彼は歩くだけで音が響きやすい。内部での暗殺作業は不向きだ。
「何かあったらすぐにバックアップさせてもらいますよ」
「その何か、が無い事を祈ろうかの‥‥ああそうそう、軍から『なるべく中の機械は壊さないでくれ』とのお達しじゃ」
「こんな宝の山、壊すだなんて馬鹿な事はするわけがないだろうにねぇ〜。とっととアイツらを排除して色々と調べたいね〜楽しみだよ〜けっひゃっひゃ」
 そう言って、愉しそうにウェストは笑った。

●悲鳴
 音が鳴る地面に気をつけながら、空は機械の裏側まで回り込み近くに積み重ねられている機材の物陰に隠れる。キメラは全く気付いていないようで、巡回を続けている。
「‥‥こちら二階の辰巳。今物陰に隠れてキメラを狙っています」
 物音に気をつけつつ、通信機に空が語りかける。
『こ、こちら来栖です。今ルキアさんが狙撃の狙いを定めています。いつでもいい、とのことです』
『一階の秘色じゃ。わしも狙いは定めておる。いつでもいいぞ』
『一階エリーゼです。こちらもいつでも』
 即座に通信機から返事が返ってくる。
「‥‥私は今通り過ぎたキメラの背中を狙います。合図を出すので、そこで一斉に攻撃を仕掛けましょう」
『ろ、ろじゃーです!』
『了解じゃ』
『了解です』
 了解の声が届いた直後。カン、カンと足音を立てキメラが空の目の前を通り過ぎた。
「――今です」
 空はそう言うと、物陰から飛び出しキメラの背中目がけて真音獣斬を放つ。黒い衝撃破が、無防備なキメラの背中を斬り裂く。
 大きく裂かれた傷口から血か体液か、液体がまき散らされる。
「ギャアアアアア!」
 そして――その痛みにキメラは工場内に響き渡るような大きな悲鳴を上げて倒れ込むと、二度三度身体を痙攣させ事切れた。
「悲鳴だと‥‥くッ‥‥しまった!」
 空はそう呟くと、足音など気にせず走り出した。

「な、何でしょうか、今の声は‥‥?」
 来栖が狼狽えながらルキアに問いかける。
「さあ‥‥けど、ちょっとまずい状況になったっぽいよ?」
 そう言ってルキアは笑みを浮かべる。
 ルキアは合図を確認してすぐに矢を放っていた。その矢は真っ直ぐとキメラへと向かっていた。
 だが、聞いて行動に移した分、微妙な時間差がある。到達したと同時に、フロアに悲鳴が響き渡った。その瞬間キメラの皮膚は黒い装甲へと変わり、矢は半ばで止まったのであった。
 そして矢が放たれた方向――ルキア達が居る場所を見ると、腕を刃へと変貌させる。そして、駆け出した。

 襲撃タイミングに合わせ、ウェストは物陰からキメラに一気に接近していた。
 距離は射程範囲内。持っていたエネルギーガンを構えた――瞬間。
「む?」
 キメラの皮膚が、黒い装甲へと変貌する。そして、振り返りウェストの姿を捉えた。
「ドクター!」
 エリーゼの声が響く。直後、装甲とほぼ同時に変形させていたキメラの刃が、ウェストに向かって振るわれた。

「やれやれ‥‥」
 秘色が溜息を吐く。小銃から放たれた三発の弾丸は、サプレッサーにより発射音を消され気づかれぬままキメラの胴体へ命中した。
 しかし着弾したと同時に、侵入者を感知したキメラの皮膚は変わり、狙撃で受けた傷を覆い隠した。
「黒になりおったか…面倒くさいのう」
『何かあったんですか?』
 通信機から旭の声が聞こえてくる。
「うむ。おぬしの出番がありそうじゃぞ」
『――居るのは北の扉側ですね? すぐそちらに向かいます』
 それだけ言うと、通信機が切れる。
「さて、わしも全力で参るぞえ」
 そう言うと持っていた小銃から、日本刀へと持ち替えた。

●殲滅
「けっひゃっひゃっ、そう簡単に吾輩はやられんよ〜!」
 咄嗟に刃を避けたウェストが高笑いを上げた。だが完全には避けきれず、刃が掠った腕から血が流れていた。
「けどぉ‥‥吾輩に傷をつけた罪は重いぞ〜?」
 そう言うとウェストは顔を歪めて笑った。そんな彼にキメラは再度、刃を振るおうとする。
「させませんよ!」
 キメラの横からエリーゼが瞬天速を使い、一気に近づく。
「やぁッ!」
 そして目にも止まらない速さで刀を振り下ろした。狙いは関節部。
 その速度にキメラは対応できず、エリーゼの刃は関節部からキメラの腕を斬りつける。柔らかい感触を感じたと思うと、関節部から体液が流れた。
「やった‥‥!」
 だが、キメラの動きは止まらない。エリーゼはそのまま離れようとしたが、既にキメラは行動を取っていた。
 もう片方の腕を刃に変え、エリーゼに振るう。
「あぅッ!?」
 避けきれず、エリーゼの腕を刃が斬り裂く。少し深い傷口から鮮血が流れ出る。
「よそ見していていいのかな〜?」
 追い打ちをかけようとするキメラに、ウェストはエネルギーガンを向ける。
「これに耐えられるかな〜?」
 嫌らしい笑みを浮かべるウェストの周囲に浮かぶ映像紋章の配列が並び代わり、電波増強が完了。エネルギーガンを放った。
 増強され放たれた攻撃に、キメラはたまらず吹き飛ばされる。そして、装甲が大きくひび割れ剥がれ落ちる。強力な攻撃に耐え切れなかったのであろう。
 その隙間に、変形前の皮膚が見えた。
「けっひゃっひゃっ、流石に無敵というわけではなかったようだね〜」
 高らかにウェストは笑うと、起き上がれないキメラの装甲の隙間に機械剣を突き刺す。
 キメラは呻き声のような物を上げたかと思うと、そのまま生命活動を停止した。

「くっ‥‥!」
 キメラの斬撃が秘色の腕を軽く掠った。
「む‥‥中々厄介じゃのぉ」
 掠った傷を見て秘色が呟く。
 秘色は刀で斬撃を受け流しつつ、隙を窺う戦法を取っていたがキメラの両腕を使った素早い刃の斬撃に中々隙を掴めずにいた。
「さて、ここからは僕の出番かな」
 ガチャン、という金属音にキメラが振り向く。そこに立っていたのは旭であった。
 そして直後、一瞬旭の姿が消えたかと思うと次の瞬間には飛び蹴りが決まり、キメラが吹き飛ばされる。
「美味しい所を持っていくとはずるいのぉ」
「はっはっは‥‥む?」
 吹き飛ばされたキメラが立ち上がる。鎧の皮膚に大きな罅が入っていた。
「あれで効かないか‥‥なら、こいつはどうかな?」
 旭が構えると、剣が紅く光った。キメラが両手を上げて旭に襲い掛かる。
「おっと!」
 真っ直ぐ向かってきたキメラの胴を旭が蹴る。ダメージは無いが、キメラの身体は押されバランスを崩した。
「わしを忘れてはおらぬかえ?」
 その隙を狙い、肩の関節を狙った秘色の斬撃が思い切り振り下ろされた。斬り落とされた腕が、地面に落ちた。
「いくぞぃ!」
 続けざまに、腹部の関節部分に当たる場所に刀を突き刺した。抵抗無く突き刺さった刃を秘色はそのまま、横に薙ぐ。
「トドメだ! ライトブリンガー!」
 そして、旭が輝く剣をキメラへと振り下ろした。剣は装甲ごと、キメラを真っ二つに斬り裂いた。

「やってくれるね、キミ」
 武器を交換する際、受けた攻撃による傷から流れる血を見てルキアが笑みを浮かべた。
 そんな彼女に、キメラが両腕を構えて突進してくる。
「ッ‥‥!」
 膝に数発、カルブンクルスの攻撃を放ちルキアはキメラを避ける。
 攻撃は確実にヒットしているが、機動力に衰えは見られない。
「うーん、効かないね」
「弱体化はかけたんですが‥‥」
 それに加え、ルキアも来栖も攻撃を強化しているのだが、膝前面にある鎧が攻撃を防いでしまっている為ダメージを与えられないでいる。
「ど、どうしましょう‥‥」
 不安そうに来栖が言う。
「さーて、どうしよう」
 笑みを浮かべてルキアが言うが、その頬に冷たい汗が伝う。
 そんな二人にキメラが構える。だがその時、キメラの体が淡い光に包まれたかと思うと動きを止めた。
「‥‥ど、どうしたのでしょうか?」
「わからないけど、とりあえずチャンスってことかな」
 そう言うと、ルキアがカルブンクルスを構える。狙いは首。
 二度、三度と放たれた火炎弾が頸部を襲うと、耐え切れなくなったのかキメラは頭から倒れ、ピクリとも動かなくなった。
「‥‥間に合いましたか」
 その時、二人を目にした空が安堵の笑みを浮かべつつ歩いてきた。
「今の、きみが何かやったのかな?」
「ええ、呪歌を。効くかどうかは賭けでしたが」
「助かったよ、ありがと」
 ルキアの言葉に、いいんですよと空が言う。
 その時、通信機から通信が入る。
「あ‥‥はい‥‥そうですか! わかりました!」
 通信機を切ると、何やら嬉しそうな笑みを浮かべ、来栖が二人に向き直る。
「下の階も制圧できたようです!」
「それじゃあみんなと合流しましょうか」
 空の言葉に、ルキアと来栖が頷いた。

●収束
「ルキア君、このメダル効かないじゃないか〜!」
 ウェストがルキアに不満げに言う。
「あれ、そうだった?」
「そうだぞ〜! かすり傷だが怪我はするし、バグアに関しての情報は余り得られないし‥‥」
 そう言ってウェストはルキアに幸運のメダルを押し付ける様にして返すと溜息を吐いた。

――戦闘終了後、一行は工場内を探索していた。
 キメラ製造工場、ということで何かしらの情報は得られる、というのを期待したのだが結果は芳しい物ではなかった。

「もっと詳しく調べれば何かわかるかもしれないのだがね〜‥‥」
「それはやらん方がいいじゃろ。後程司令部で調査班が入るそうじゃ」
 秘色の言葉に、ウェストが大きく溜息を吐いた。軍の調査が入るとなるとあまり弄繰り回すわけにはいかない。今回の任務は調査ではないのだから。
「でもこれで街の人たちも安全に移動できますね‥‥あ、これありがとうございました」
 エリーゼがウェストに救急セットを渡した。先ほどの先頭の後、負傷したエリーゼに『自分で直したまえ〜』とウェストが渡した物である。
「活動している虫キメラも残っているわけではなさそうだし、良いじゃないですか」
 旭の言葉に空が頷く。
「今機械に培養されている方も問題は無さそうですしね」
「でも‥‥そのキメラから何か分かれば良かったんですが‥‥」
 来栖が申し訳なさそうに言った。
「全く‥‥踏んだり蹴ったりではないか〜‥‥」
 大きく溜息を吐くウェストの肩をルキアが慰める様に叩く。
「まぁ、そのうちいいコトあるカモね‥‥って、デューク君、魂出てるよ?」
 落ち込むウェストの口から、魂のような物が漏れていた。