タイトル:【CC】招かれざるモノマスター:ArK

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/11/15 13:41

●オープニング本文


 11月某日、どんより曇り空。
 9月の入学式、人が多くてびっくりした。
 こわかった。
 ひとりではぐれたこと、あのあと怒られた。
 気をつけないと、ここは山とは違う。
 学園祭、初めての、大きなお祭りがはじまった。
 入学式より、もっともっと沢山の人がいる。
 最後までがんばらないと。
 おばあちゃん元気かな?
 ――マリナ・ノワールの日記より――


 遡ること一ヶ月。
 カンパネラ学園の体育教員であるエルシーは、受講生徒に声をかけた。
「みなさんご存知と思いますが、学園祭が近いです。わたしも担当する企画を持つことになりました」
 柔らかな微笑を浮かべながら言葉を続ける。
「今回はKV闘技場の件もあり、多くの人出が見込まれます。来場者が安心できるよう、よからぬ人や招かれざるモノにも警戒しなければいけません」
 周知の為、大々的に告知をしたのは仕方がないことだが、同時に悪意のある何者かにも伝わっている可能性は否めない。学園祭中、万が一の事態に備える部隊が必要となった。エルシーはその編成担当らしい。
「楽しみにされているお祭り時に申し訳ないのですが、もし都合つく方いらっしゃいましたら連絡くださいね。では解散」
 エルシーが訓練場に背を向けると受講生達はざわめいた。
 予定がある者、ない者。興味がある者、ない者。反応は様々。
(「出店の手伝い、より‥‥こっちのほうがいいかな‥‥?」)
 何事もなければ人と関わる可能性が低いだろう――、とマリナは参加を心に決めた。


 当番当日。
 他の仲間達と交代で警備と巡回を行った。
 迷子の子供化と思ったら同じ生徒だったり、先生かと思ったら来賓だったりと、小さな勘違いは時折あったが、大きな事件はなかった。
 その時まで――
『そっちにいったはずなんだけど!』
『いない! D区は!?』
『今、横を‥‥くっ、速い!』
 無線機を介して焦燥雑じる会話が飛び交っていた。
 いつ、どうやって入り込んだのか分からないが、巡回中に小型キメラが発見されたのだ。
 最初はただの迷い猫かと思い、手を出した。
 しかし能力者としての勘だろうか、悪寒を覚え、すぐさま差し出した手を引っ込めた。すると触れていないにも関わらず指先に血が滲んでいたのだ。
 仲間に連絡するよりも早く、ソレはその場をすり抜けていった。
『遅れてすみません。こちらも取り込んでいたもので――』
 騒ぎを聞きつけたエルシーが全体へ指示を送る。
 警備も強化してある為、複数の潜入を許したとは考え難い、付近の訓練施設を開錠するので、追い込んで倒せとのこと。待機中の別チームを他の警戒にあたらせることも伝えた。
 一同は了解、と返し現在追跡中のキメラにターゲットを絞るのだった。
 そんな中、マリナは1人落ちつかな気に周囲に目を泳がせていた。
(「あれ‥‥が、ない‥‥」)

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
草薙 涼(gb2336
25歳・♂・SN
マルセル・ライスター(gb4909
15歳・♂・HD
ユーミル・クロガネ(gb7443
12歳・♀・DF
白蓮(gb8102
18歳・♀・PN
星月 歩(gb9056
20歳・♀・DF
ダグ・ノルシュトレーム(gb9397
15歳・♂・SF

●リプレイ本文

●黒猫の円舞曲
『任務了解です、先生!』
 訓練施設階層を縦横無尽に駆け回る目標を追いながら、マルセル・ライスター(gb4909)は応答した。歩きなれた施設間の通路も今や緊張感に満ちている。
 奇しくも見失い、周囲を見渡した時、座り込んで物陰を窺っている艶やかな華が目に留まった。
「‥‥小さく、すばしこく‥‥まるで猫‥‥」
 通路脇の植込みやベンチの陰に潜んでいないかと、石動 小夜子(ga0121)が覗き込んでいた。
「あ、小夜子さん〜! キメラ、こっちに来ませんでした?」
「いえ、私もこの辺りで見失ってしまいまして」
 マルセルの存在に気づくと、小夜子は立ち上がり巫女装束の襟元を正しながら首を横に振った。
「そうですか。そうだ、今のうちに‥‥神経接続、AU−KVミヒャエル起動っ!」
 近く起こる戦闘に備え、マルセルはAU−KVを装着しておくのだった。

 別の通路でも捜索と追跡は繰り広げられていた。
「小回り利いて、逃げ足が速いってっ!」
 通信を受け、相手の特長を口にするのは白蓮(gb8102)。しかし、自分は追いかけるのは得意だ、と笑みを浮かべている。
「わ、わしには、少々キツいかの‥‥」
 その少し後ろをユーミル・クロガネ(gb7443)が走っている。時折己の腰を労わるように、手の甲で軽く小突いている。
「‥‥おおぅっと!」
 不意に白蓮が失速し脚を止めた。突然のことだったのでユーミルはその背に抱きつく形で停止。
「ど、どうしたのだ」
 目標でも見つけたのかとすぐさま体制を建て直し、前方に目を凝らすと、そこにはマリナがいた。なにやら焦った様子で床に這い蹲って視線を彷徨わせている。
「あ、マリナさんも探し中ですかっ! よかったら一緒に探しましょうっ」
 同じ班として声を掛ける白蓮。動作にチョーカーの鈴が小さな音を立てた。
「っ! 鈴! ‥‥あ、違う‥‥ごめんなさい」
 声ではなく音に反応を示し、2人の顔を見るや、慌てて謝るマリナ。相当混乱しているようだ。
「ん〜何か探しものですかっ? 自分達はキメラを追ってきたのですけどっ?」
「探しモノは探しモノでもキメラではなさそうじゃのぅ」
 お互い簡潔に探し獣と探し物の情報を交換し、ひとまず合流して任務に臨むことにした。

「小さいのが人ごみにまぎれたら堪らない、早く何とかしないとな」
 落ち着いた様子ながらも新条 拓那(ga1294)の言葉には力強い決意があった。依然目標の情報はまばらで、追跡もすぐに振り切られてしまっていた。遭遇時に頬に引かれた一閃の紅を、手で拭う。
「本当、せっかくの学生の楽しみを邪魔とは無粋にも程があるだろう」
 己の背丈程あるレールガンを背負い、移動しているのは草薙 涼(gb2336)。眼鏡の奥の瞳は捕らえたものを簡単に逃がさず、その腕前はかなりのものと噂されている。
「肝心の目標がいないと‥‥あ!」
 新条が草薙に視線を移した瞬間、その端に影を捉えた。草薙も同じくそれに気づく。
「今度は見失うわけには行かないな‥‥」
 正面から2人目掛けて駆けて来る小さな影。新条はすぐさま発見の報告を回した。

『こちらも現在追跡中です! 早くどこか施設に誘導しませんと』
 ほぼ同時刻、星月 歩(gb9056)もひとつの黒い影を追っていた。途中で合流したマルセルと石動も共に居る。
(「学生さんが、早く安心して楽しめる時間をつくりませんとね‥‥」)
 その意気は星月をはじめとして一同が同じく思っていた。
『拓那さん達も追ってらっしゃるということは2体居る、訳ですね』
 石動が無線越しに問うと同じ確認が返ってきた。
「あのキメラ、何かが足にくっついてるようだけど‥‥」
 影が駆ける度に、乾いた音が床を打つ。マルセルはそれに気づき目を凝らした。鈴が付いた小さな袋が上下している。
『誘導する施設だが平原を模したものがある。そこがいいでしょう』
 息を切らせた声でダグ・ノルシュトレーム(gb9397)が意見を送った。どうやら施設を一通り確認してきたらしい。
『狭い場所は追い込みに有利ではありますが‥‥発覚しているキメラの能力を纏める限り、視界が広い方が有効だと思います』
 過去に観察してきたものの情報を整理しながら仲間達に説明していった。相変わらず息切れしているものの、頭脳労働を専門としているだけあり、内容は濃い。
『それでは早々にその施設に追い込むとしよう! ゆくぞ、みなのもの!』

●黒猫の狂詩曲
 立ち上げた作戦は簡単だった。追っている班は、黒猫を平原を模した施設へ牽制しながら追い込み、残りの1班が先回りをして施設内部で待機、囲い込む形で迎撃できるよう準備をするというものだった。
「ふむ、そろそろ来るようじゃの」
 無線機からの報告を確認して、ユーミルは呟いた。白蓮、マリナも、共に待機中だ。その施設内は一面人工芝の平原で、四面は重厚な金属の壁で仕切られていた。
「あ、きたきたっ!」
 SMGスコールの銃身の構えをはじめる白蓮。マリナも震える手で剣を構えている。
 最初に飛び込んできたのは黒猫のキメラ。追って石動、星月、マルセルが姿を現す。
「訓練施設内なら‥‥武器を使っても大丈夫ですね‥‥」
 星月は長身の両手剣コンユンクシオを抜き、構えた。
「もう少し奥まで! 後ろも着ますし、迎撃班の方まで詰めましょう」
 軽く内部を見渡し、もう1班がきていないことを知るや、石動は入り口付近で止まらぬよう告げた。こちらが挟み撃ちを受けてはかなわない。
 そして直ぐに新条たちが黒猫を追って到着した。
「ったく、手間取らせてくれて。けどこれでもう袋のキメラだな」
 飛び跳ねる黒猫を、ツーハンドソードの切っ先で調整しながら真っ直ぐに駆け抜ける。
「舞台は整いましたね、ですが早急にご退場願いましょうか」
 草薙は長距離射撃での援護を行う為、比較的入り口に近い位置で足を止めた。
「はぁ、はぁ‥‥ぜ、全員入った、か?」
 相変わらず息苦しそうなダグは、折角追い込んだキメラを逃さないようにする為、入口を閉じられないかと壁を調べた。しかしそれらしい装置が見つからなかったので、管理室にいるエルシーに施設の封鎖を願う。すると、ダグの鼻先三寸で扉がすばやく閉じた。同時に重い金属音が響き施錠されたのが感じられた。
「な、なにごとですかっ!?」
 施設全体へ響いた重厚な音に飛び上がるマルセル。
「あ、ああ。逃げられないよう封鎖してもらっただけだ‥‥」
 淡々と告げるダグだったが、もう少し扉に近かったら、と額に冷や汗を浮かべていた。
 追い込まれた黒猫は、何度か金属の壁に体当たりをしたが、音が響くのみで崩れることはなかった。

 一匹は足に絡みついた何かを邪魔そうに引きずっている。その物体に気づいたマリナが叫びを上げた。
「んっ、もしかして探し物ってあれですかっ!?」
 話を聞いていた白蓮がまさか、と確認すると「そう」とのことだった。
「どうかなさいました?」
 会話が耳に届いたのか、向かい合うように位置する石動が尋ねた。黒
 時折飛び掛ってくる黒猫を蝉時雨ではじきながら、その足に絡んでいる物体が『マリナの捜し物』だということが説明された。
「じょ、状況が状況ですから‥‥仕方ないと思うんです。気にしないで下さい‥‥」
 マリナは申し訳なさそうに首を振り、諦めた様子だ。
「様子がおかしいと思いましたけど、そういうことなのですね」
 目を凝らし小さな袋を見つめる石動。
「‥‥俺、どうにか押さえつけてみますよ!」
 ヴィーナスの盾の主に構え、マルセルが一歩踏み出す。
「うむ、試してみる前から諦めるでない、倒す前に押さえ込むとするかの!」
 ユーミルも賛同し、黒猫を押さえ込むことになった。退治行動により小さな袋が損傷する可能性を避ける為だ。

「と、なるとこっちの一匹は邪魔になる、な」
 目前の、四肢異常のない黒猫を見据え新条は呟いた。
「それじゃこっちを先に片付けるとしますか」
 ダグはスパークマシンαを手に新条に並んだ。草薙も照準を黒猫に合わせタイミングを窺っている。
 真っ先に飛び出したのは新条。小さな対象に対しての巨大な剣、一撃でも当てればその身を砕くことは容易だろう。しかし初撃は思わぬ受け流しをされることになる。柔軟に思われた髭が剣を受け止め、火花を散らして退けたのだ。ただし重量で劣る黒猫は反動で体制を崩す。
「なっ」
「あの髭も武器だったようですね。身体を狙うしかないでしょう。ふふ、何事もない警備だけなら退屈でしたからね‥‥。お礼の変わりに苦しまずに逝かせてあげる、よ‥‥」
 うっすらと青白いオーラを纏ったダグが不適に笑み、超機械から電圧を放つ。それは真っ直ぐに飛び、黒猫の身体に命中。受け流されることはなかったが、致命傷にもならなかった。一瞬ひきつけを起こした黒猫だったが、すぐに体制を建て直し飛び掛ってきた。髭が妖しく煌く。
 すかさずダグは受身に入るが、丁度その瞬間に合わせて一発の弾丸が飛んできた。草薙の射撃だ。その軌道は黒猫の後ろ足を捉え、一直線に飛ぶ黒猫の軸を僅かにずらした。それにより鋭い髭を正面から受けず、追ってきた尾の端が白衣の端と皮膚の表層を切り裂くに済んだ。
「おしい、な」
 草薙の覚醒は驚異的な力の発揮を代償に体力を著しく奪うものだった。一撃で決められなかったことに舌打ちし、覚醒を解く。そして再びレールガンの照準装置に集中するのだった。
 何度か攻撃と回避、援護を繰り返していた時、ダグが新条と草薙も含めての行動パターンに気づいた。それとなく意識してみると極めてそれに近かった。
「観察してみると色々わかることもあるんだよ。多分、そう動けばうまくやれると思う」
「観察って‥‥優位に戦えるなら越したことはない、決めに行こう」
 新条が剣を振り上げると猫は背を引き、いつでも動けるよう構えた。そこへ虚をつくように草薙が電圧、ダグが弾丸を放ち両側の退避路を塞ぐ。その一瞬の判断の遅れだけでことは成った。新条の重い一撃が黒猫の胴体を捉え、両断したのだ。

 捕獲作戦を決行したメンバーは悪戦苦闘していた。倒すならばともかく、敵意のある獣を損傷なく生け捕りというのは難しい。
「はっ!」
 星月が剣を黒猫のギリギリ側面の地に打ち込み、向かわせる方向を制限。方向転換で正面を向いたところを待ち構えるのは石動。刀を仕舞い、反撃の負傷覚悟で両手を伸ばすが、
「あ‥‥」
 そのしなやかな肢体はするりと捕獲の手を逃れ、石動の腕に数筋の切り傷を残していった。
「あーっ、またダメかっ」
 距離を置こうとする黒猫を阻むように、白蓮が瞬天足で道を塞ぎ、逃げ場を狭める。マリナはその反対側に立っている。
 施設の隅に追い込んだはいいが、なかなか捕獲に至れない状況だった。
「年寄りをなめるなよ!」
 と、愛らしい少女の容貌をしたユーミルが、謎の言葉を吐きながら漆黒の拳を伸ばすが掴めない。彼女が制限を設けた動きをしている為かもしれないが。
(「キメラは怖いけど‥‥それは、彼女にとって大切なものだから!」)
 意を決したマルセルが何度目かの追い込みを実行する。盾を前面に押し出しAU−KV装着時のみ仕様できる能力を駆使し追い詰める。壁際にそのまま押しつけようとしたが、その直前、するりと逃げられてしまった。
「倒すか、ないのでしょうか‥‥」
 星月がぽつりと漏らした時、ユーミルが何かを思い立ったようにそれを遮った。
「いや、ひとつ試してみたいことがある‥‥協力してもらえんか?」
 深く息を吐いて、拳を握り締める。ここまでは損害を与えないことを注意していた、それならいっそ考え方を逆転して――と、温存していた体力を一撃にこめた。一気に距離を詰めてくるのをみて黒猫が退く、しかしユーミルはその跳ね上がった腹にアッパーを食わせ、その身体を高く跳ね上げた。
 打ち上げられれば次は降下してくるのみ、
「ほれ、頼む!」
 屈みこみ、援護を求める。急な一撃を受けて黒猫は、宙で回転し、着地体制を整えているものの、その動きは鈍い。
「は、はい!」
 真っ先に動いたのは石動、素手のまま落ちてくる黒猫をその胸に確保した。腕の中で髭を震わせ何度となく抵抗を試みていたが、石動は攻撃に耐え決して放さなかった。
「あの、早くお願いします、手、離せないので!」
「あ、うんっ!」
 両手がふさがっていては絡まったものも取れない、声に応じ白蓮がそれを解いた。手に平に収まるほど小さな袋。
「と、とったよっ! 後は倒せばいいよねっ! 一気に――」
 八咫烏の爪を装着した足を振り上げ、構えた白蓮だったが、
「いえ、もし可能ならこのまま、カンパネラで捕獲できないかと思うのです」
 石動は、腕の中で抵抗を繰り返す黒猫を押さえつけながらそう告げた。

●黒猫の葬送曲
 程なく、エルシーから通信が入り、施設内にキメラ研究棟で使われている保管用の特殊ゲージが届けられた。その中へ黒猫を押し込み、ロックを施す。生きた研究素材としてなら引き取るとのことだった。
 それは研究棟のキメラではなく外部から連れ込まれたキメラだったということも発覚した。犯人は捕獲したが、まだ取り調べの最中で詳しいことは不明とのこと。
 石動が運ばれていく黒猫のゲージを複雑な表情で見送っていると、いつの間にか新条が隣に立っていた。
「あ、拓那さんもご無事だったのですね」
「俺は無事だが‥‥まーったく、小夜ちゃんも無茶するな‥‥傷だらけじゃないか」
 新条は、石動の装束と肌に残る奮闘の痕を見てため息をついた。

 一同は休憩室に戻り、獲得したものをマリナに確認してもらうと、すぐにそれが捜していたものだと判明し、表情が明るくなった。
「えっと、少し汚れちゃったけど、よかったね!」
 黒猫が引きずりまわしたせいで付着した汚れはあるものの、それ以外の損傷はない。マルセルは笑顔を浮かべた。
「ところで、それは何なのでしょう?」
 大事そうに握り締める姿をみて、草薙が尋ねた。
 紐解いて中を見せてもらうと、石のサイコロが3つ入っていた。結び紐には小さな鈴。これは勝運上昇のまじないを込めたお守りで、学園に来る前に祖母から渡されたものなのだという。
「大事に持っているということか、おばあちゃん思いの良い子じゃのう‥‥」
 その心構え、最もという様子でユーミルが何度も頷いている。
「本当、大事なもの見つかってよかったですね。俺も大事なアレがなくなったら泣きながら、全力で探すと思うし!」
 手に力を込め、もし自分が大切なものをなくしたら、を想像しダグは同意する。戦闘中に気が散って集中できないのも問題ではあるが――。
(「大事な‥‥探し、物。私の大事なものも、いつか‥‥見つかると、いいな」)
 自分の失った『何か大切な物』、思い出せない大切な物を星月も探していた。それをいつか掴み取れるよう、手繰りよせられるように、己も祈るのであった。