タイトル:白く佇むもこもこ。マスター:ArK

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/11/29 15:21

●オープニング本文


 秋、実り多き季節。しかし冬が近づくにつれ寂しくなる山肌。
 この時期に山を訪れる人達をターゲットにしてみようかな?
 青年は観光ガイドブックを見ながら目論んだ。

 計画が整った時、またしても不慮の事態が発生した。
 ――あの山、地元猟友会が厳戒態勢を布いたようだけれど?
 女性がニュース番組を見ながらため息を漏らす。
 今回は自分の企画ではないし、と女性は呆れながらもキメラを放つことにした。


 トコロはニッポン、四国のとある山。その麓にある小さな村で、猟銃を携えた者たちが会を成していた。
「今年は例年に増して熊の被害が多発している。本日は被害削減対策の為、こうして集まってもらった」
 越冬の為、冬篭り前の熊が人里を荒らすのは、いまや珍しい話ではない。この村でもその被害は小さくなかった。
 一通りの挨拶と作業の確認を行なった後、それぞれ担当区域へ向かう。
 乾いた畑の上を移動する茶色の生体。それを発砲して山へ追い返したり、あるいは進入事態を阻む為に柵を設けたりとやることは多く、忙しかった。
 そんな、作業も中盤に差し掛かった時のことだ。山に入って警戒にあたっていたはずの2人が、代表の下に息切らせ駆け込んできた。
「白いのと黒いのがたたがっでよる!」
「白熊が一撃でおぐまを蹴散らしたで!」
 2人は我先にと、声を荒げ、見たままを報告した。
 白子と思えばこの地に白い熊がいてもおかしくはないだろう。しかし白い熊が近づいてきたので引鉄を弾いたのだが、発射された弾丸が弾かれたという。
「本当に弾かれたのか?」
「ああ、勢いよぐ跳ね返って、真横の木に穴を開けだど?」
 それが事実であるならばキメラであると言える。代表は急ぎ役場に走るとキメラ出没の防災放送を流し、UPCに能力者の派遣を求めるのであった。

●参加者一覧

千道 月歌(ga4924
19歳・♂・ST
百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
キャンベル・公星(ga8943
24歳・♀・PN
カレン・ベル(gb9446
14歳・♀・HG
ユーフォルビア(gb9529
16歳・♀・SF
湊 影明(gb9566
25歳・♂・GP
ディストピア(gb9818
18歳・♂・FC
祝部 流転(gb9839
19歳・♀・ER

●リプレイ本文

●晴れた秋空
 急ぎ駆けつけた傭兵達は、依頼主に状況を確認する為、村役場へ足を向けた。
「それじゃあ、気をつけるべきは足場だな」
 依頼主――猟友会の代表に山の状態を尋ねる千道 月歌(ga4924)。主戦場の情報を確認しておくのは重要だ。問題になりそうなポイントを教えて貰う。
「しかし、シロクマはないよね‥‥。見つけやすいから敵としてはいいけど」
 カレン・ベル(gb9446)は目撃されたキメラの情報を整理しながら言葉を零した。
(「んー、また微妙にずれた戦況ね」)
 それに相槌を打ちながら百地・悠季(ga8270)はココロに浮かんだ疑問符へ首を傾げる。
「ともかく、被害が出る前に処理しないといけませんね」
 漆黒の礼服を纏う祝部 流転(gb9839)が告げるや、要点のみの打ち合わせが行なわれた。
 初めての依頼という者も何人かいたが、訓練者や熟練者の教授もあって進行はスムーズに進んだ。主な内容は捜索ポイントと班編成、戦闘時の役割分担。
「ま、概ね賛成‥‥ですね。そのプランでいきましょうか」
 その内容に、刀の最終点検をしていたディストピア(gb9818)は静かな了解を返す。
「被害にあった生物のことは残念ですが、彼らのおかげでキメラの早期発見に至ったのは幸運なことですわ」
 倒れた生物を想い、キャンベル・公星(ga8943)は小さく祈りを捧げた。そして野生生物との共存は困難な道だが、キメラとの共存は不可の道と言葉を続ける。
「うん〜可哀想な子が増える前に、おしまいにしないとね」
 ユーフォルビア(gb9529)も、おっとりした口調ながら明確な決意を示す。
「――では宜しくお願いします‥‥」
 作戦開始前の挨拶に、と湊 影明(gb9566)が恭しく一礼した――が返すものはなく、背後から扉の開く音が耳に届いた。
(「タイミングが悪かった‥‥か?」)
 おそらく皆は荷物に目を移し気づかなかったのだろう、と己に言い聞かせ、湊自身も遅れぬよう仲間の背を追って飛び出した。

●澄んだ秋山
 その頃、隣の峰の休憩所で――。
「あー!! 山だと、近くじゃ観戦できなかった!」
 少年のような青年が双眼鏡を振り回し地団駄を踏んでいた。
「そういうことも今後は考えるように。でも、戦況は見えませんが戦場は想定できます」
 青年の向いに立つ背の高い女性は目を細めると、キメラを放った山を指し示した。


「紅葉狩り特集の山ってココじゃなくて隣なんだね」
 斜面を登りながら、隣の山を見たカレンが言った。この山の道が整備されていないのは当然、依頼の山は観光地ではなかったのだ。
「不幸中の幸い、というやつかな。敵の足取りもわかりやすい」
 先導する千道が前方の異質な空間を指して告げる。十数メートル先の木々が力ずくにへし折られた痕跡を残し倒れていた。
「うわぁ〜‥‥ささったら痛そ〜」
「気をつけないと危ないね」
 ユーフォビアと祝部が僅かに顔しかめる。
「倒れている方向が足取り、だったりしないかしら?」
 キメラと思しき敵影がないのを確認したキャンベルが木々に近づく。
「知能が高かったら足取りを隠す為の撹乱、もあるだろうけど、それはないのかな」
 カレンもいくつかの木を確認したが、素直に進行方向を向いていると見てよいだろう。
「あっちにも倒れてる木があったわよ」
 少し離れたところを確認していた百地が遅れて斜面を登ってきた。上を向いている痕跡と下を向いている痕跡があることになる。
「だとすると分かれる、か。下側を多めにした方がいいだろう」
 村にたどり着かれると厄介、とディストピアが足を向けた。
「自分はこれがあるから上に向かうよ」
 湊はドラグーンとしての愛機、傍らに置いたバイク形態のリンドヴルムを小突いた。小回りの利くバイクは、乗りこなす腕さえあれば山肌だろうと地面があれば機動力の基点となる。
 登頂組とわかれた下山組は、枯葉に足を取られないよう留意しながら斜面下る。百地が目撃した問題の箇所までは遠くなかった。そして程なく――
「何か音が、聞こえない‥‥か?」
 千道の呟きに一同は足をとめ、息を殺し、聴覚に神経を集中すると乾いた音が耳を掠めた。この場に動いているものは居ない、風が葉を揺する音にしては荒々しい。
「近くにいるな」
 ディストピアは数メートル先の木が倒れかけていることに気づいた。仲間に合図を送り臨戦態勢を取る。木の元に白く丸い生物――シロクマが一匹。
 ユーフォルビアは超機械「牡丹灯籠」を、祝部は 超機械「ST−505」を手に、前に出過ぎないよう注意しながら木陰に身を隠す。シロクマは、まだ背後の気配に気づいていないようだ。倒した木に爪を立てている。
(「キメラとして生を受けたことが貴方の不運――」)
 月詠を携えたキャンベルは、足場に気をつけながら慎重に進む。同じく刀を携えたディストピアはそっと木の陰に身を隠した。
「そろそろ頃合かな」
 全員の間合いがキメラを捕らえたのを確認するや、千道がユーフォルビアと祝部の超機械へ練成強化を施し、キメラへ練成弱体を施した時が一同にとって開戦の合図となる。
 一斉に各自の足元から、渇いた草木を荒く蹴る音が鳴る。音に振り返るシロクマ。
 先制は覚醒により性格が一変したキャンベルの流し斬り。正面から即座に跳び、側面に回りこむ。
「生きる為に戦う自然のおきてに従い‥‥死んでもらうよ!」
 その一撃は重かった。シロクマは方向を直す間もなく弾き飛ぶ。キャンベルは反動で転ばぬよう重心を低くし堪えた。
「当たれぇ〜いけ〜」
 淡い銀光に包まれたユーフォルビアが放った電磁波はシロクマに命中。白い毛皮をわずかに燻る。当たったことに安堵の表情を浮かべるが、まだ倒したわけでないと再び表情を引き締める。祝部もエレキギター型の超機械から放つ衝撃波でシロクマへの攻撃を繰り出していた。
「‥‥っと、危な――っ」
 弾丸のように跳んで来たシロクマの体当たりをギリギリで回避するキャンベル。しかし前肢の爪で肌に傷を負う。
「その隙、もらう!」
 キャンベルの脇をすり抜けるように、今まで身を潜めていたディストピアが刀を構え現れた。シロクマが背を向けている間に斬りつけようというのだろう。
 刹那、目にも留まらぬ一撃を叩き込む。シロクマの背に一太刀の痕跡が残り、白い毛が宙に舞った。そして息もつかず横跳びで場を離れ、間合いを取る。
「あ、そこは足場が!」
 着地点に気づいた千道が声を張り上げる。
「ちっ」
 声は耳に届いたが行動には足りない。一見地面にみえたが、その地点は落ち葉が積もったくぼ地だった、後ろ足が埋もれる。
「間に合え!」
 いち早く状態を悟った千道が超機械から電磁波を放つ。今まさにディストピアに跳びかかろうとしていたシロクマを捉え、足止めに成功。ユーフォルビアと祝部も追撃を見舞い、時間を稼いだ。
 満身創痍。
斜面と素早いシロクマの動きに翻弄されながらも、利は傭兵側にあった。練成治療が傷を癒し、連携を後押しする。
「これで、仕舞いだ‥‥!」
 後衛の支援を受け、キャンベルとディストピアはそれぞれの刃をシロクマに突き立てた。蓄積したダメージに動きの鈍ったところへとどめの一撃。抵抗する間もなく、それはその場で動かなくなった。


 再び、隣の峰の休憩所。
「あー、本当だ。キメラが歩いたトコロが道になってるね」
 双眼鏡から隣の山を窺う青年が感心したように息を吐いた。しかし肝心の戦闘風景までは見えず、時折光が上る程度。


 登頂組は二匹のシロクマと遭遇、交戦していた。下でも交戦があっただろう事は音で知ることができた。
「ふぅ‥‥いくよ!」
 意を決しアンチシペイターライフルで制圧射撃を行なうカレン。対峙しているのはカレンの倍の背丈はある巨大なシロクマだった。
 弾丸は大きな身体を貫き、その動きを鈍らせる。射撃後は飛ぶように別の木の陰に滑り込み様子を窺う。
(「あと2回‥‥」)
 その間に、仲間が小ぶりのシロクマを倒し終えてくれることを信じ、カレンは単騎足止めに徹していた。吐き出された冷気が周囲の木々に氷の礫を作っている。
「にっかり青江‥‥参る!」
 湊はAU−KVを着装し、百地と共にシロクマを挟撃していた。互いに位置関係を気にしつつ、逃がさぬよう攻撃を続ける。
「いくわよ! 退いて!」
 湊が牽制し、注意が逸れたところへ百地が駆け寄り、ガトリングシールドを放つ。両断剣強化を施したのもあり、弾丸は確実にシロクマを貫通。連射が切れるや退きリロード。
「熊鍋のため!!」
 百地が離れ、ふらつく足取りのシロクマの元へ追い討ちをかけるよう、湊は手に構えた小銃「シエルクライン」の引き金を弾く。AU−KVの消耗に加え、銃による消耗も大きかった。百地と比較するとその疲弊は明らか。
 しかし弱音を吐くことなく、シロクマを倒すことに集中する。それは覚醒により変化した攻撃的な性格がもたらすものか、特殊部隊における訓練の成果かまではわからなかった。
 互いに射線を確保しながら足場から崩していく。
「大分弱ってきたわね。こっちも安泰、とは言いがたいけど」
 深く息を吐き己に活性化を施す百地。
「あ、ああ。畳み掛けて終わらせよう」
 蒼い闘気を纏う湊と、5対の翼を背負う百地は、シロクマとの距離を一気に詰めた。相手も転がり、距離を縮ませまいと動いたがもたつく足が絡まり失敗に終わる。それぞれの銃身から立ち上る硝煙がシロクマの終焉を暗示していた。
 しかしこれで終りではない。
「ベルさん!」
 足止めを買っていたカレンの銃撃音がいつの間にか聞こえなくなっていた。最悪の事態の想定など拭い去り、探しに走ると、シロクマの巨影が目に入る。
 シロクマは辺りに首を巡らせていたが、駆けつけてきた二人を視界に捉えるやブレスを吐き出す動作をとる。
「あ、だめ! 早く隠れて!!」
 どこかから少女の声が聞こえた。しかしそれを探すよりも身を隠す方が先と湊、百地の二人は直ぐ近くの木をシロクマとの間に挟み隠れる。間もなく冷たく熱い冷気が肌の先を掠めた。
「ブレス、か」
 冷気の放出が留まるのを待って、百地がシロクマを窺った。ゆっくりとした足取りでこちらへ来るのが見えた。もう身を隠せる場も限られる程、木々はなぎ倒されている。
「練力たりなくなっちゃって」
 カレンが別の木陰から顔をみせる。己の限界数と決めていた使用回数に達してしまったとのことだ。二人は無事であったことに安堵を浮かべる。
「お待たせして申し訳ありません!」
 そんな時、凛とした女性――キャンベルの声が響いた。状況から、何処にいるかわからなかったが無事を信じての発声。声に反応し、方向を変えるシロクマ。
 示し合わせたように超機械が電磁波を吹き、その動きを若干鈍らせた。よろめく隙を認め、木陰に潜んでいた三人が姿を現す。
「助かるわ! あとこいつだけなの!」
 百地が声を張り上げ答を返す。下方の五人と上方の三人で囲う陣形が築かれた。合流後の傷具合を確認した千道がすかさず湊とカレンに練成治療を施す。
 最初に飛び出したのはディストピア。ブレス動作も気に留めず懐へ飛び込み、刺突。小型とは違う手ごたえが腕に響く。
「この貫く手ごたえ‥‥何事にも代え難い」
 ディストピアは両目を閉じたまま、その余韻を味合うように呟いた。
「今度は逃げるだけじゃないんだから!」
 カレンが背を向けているシロクマの足を狙い、ライフルで狙撃を試みる。命中はしたが体制を崩すまでに至らない。
「これならどう!」
 続けて百地のガトリングが吠え、湊も小銃を放つ。
「恐れることなく次に繋げる一撃を!」
 両断剣を付与した月詠で体重をかけた一撃を打ち込むキャンベル。僅かに肉に刃がめり込んだ時、反動をつけた大きな掌が目の前に迫っていた。転倒しないよう踏ん張り、受け止める。祝部は後方で仲間の支援に徹していた。
 ブレスを吐き出す間を与えぬよう前衛が囲い、一撃離脱を繰り返す。合間に後衛が遠距離攻撃を挟むことでひたすら攻撃を繋ぐ。時折危うい連携もあったがどうにか乗り切った。
「そろそろ終わってもらいましょうか」
 動きが鈍り、四肢を地面につけた時を見計らうように、ディストピアが延髄に突きを叩き込んだ。息苦しさを感じたのか口を大きく開き咽るシロクマ。
「畳み掛けるんだ!」
 湊は銃を直刀に持ち替えると竜の爪を発動し斬りつける。最後の抵抗か、ふるわれた腕で弾き飛ばされる湊。その負傷を無駄にしない為、全員一斉砲火。何度も頭を振り、腕を振り、もがくが、徐々に動かなくなっていった。


 見届けた隣の峰から。
「ところで何故白い熊なの?」
「自然に優しく? 着色剤も漂白剤も使ってないんだよ♪」
 女性の問いに、にこりと笑み返す青年。
(「‥‥製造過程は優しくとも、活動過程は優しくないと思うけど‥‥」)

●夕焼けと熊鍋
 湊の意向で、倒したシロクマキメラを村に持ち帰った。一部の肉塊はその場で直ぐに捌いたもの。
 目撃者の視認も行い、退治したことを示す証拠にもなった、が、真の目的はそれではなかった。
「とある本で熊肉は牛肉よりも旨いと見たのだが、どうだろうと思ってね」
 倒した直後に捌いたのも獣臭が残る、という文献を見たためだろう。完璧な対処が行なわれたものかはわからないが。
「あ、いいかも。食べられるキメラも多いみたいだし!」
 その言葉にカレンも同意する。小さく、当たっても責任は取れないけど、と呟いたように見えたが、それは誰の耳にも届かなかったようだ。
「そういえばドングリ等の実を結ぶ木を植樹してみては如何でしょう?」
 猟友会の代表に、キャンベルが提案を行なう。熊が人里に降りるのは山の実りが不足している為ではないか、と。それについては、なぎ倒された木の件もあるため来春に試してみるとのこと。

 その後、キメラ警報解除を聞きつけた村人たちも集まり、熊鍋パーティが開かれることになった。
「別の熊の肉、ですか‥‥」
 猟師の話を聞きながら祝部が繰り返した。恩人への歓迎を込めて、きちんとした熊肉を振舞いたいという猟友会の意向だった。
「厳しい戦いも、おいしい料理で笑顔に〜♪」
 武器を包丁に持ち替えて、ユーフォルビアは下ごしらえの手伝いをしている
 その一方で千道は負傷した仲間の治療をしていった。
(「次はもうちょっと値のいい仕事を請けるかな」)
 大きな依頼ならば報酬も大きいがリスクも大きいだろう――報酬を確認したディストピアは、次の依頼に向けて思いを巡らせていた。

 1人釜戸から離れたところで、百地は観光地とされている山を見上げていた。依頼に入った山も観光地の山も、赤々とした紅葉が彩りを添えている。
(「もしズレた事件の首謀者がいるなら‥‥次はゴーレムでもないと――また失敗ね」)
 眼に見えない何者かを挑発するよう、空に向けて口だけを動かすのだった。