●リプレイ本文
●しんそう
「僕はいつもみたいに秘密基地で先輩を待ってて、突然瞬間的な大きな地震があって、頭が痛くて外が真っ暗で倒れてて、気づいたら目の前に先輩がいたんだ」
カウンセリング用に設けられた一室。城野シロウはムーグ・リード(
gc0402)が用意した木彫りの蝶を撫でながら、ぽそりと答えた。
「じゃ、プロジェクト中ってどんな生活してたんだい? 食事とか、検査とか‥‥なんて聞いたらいいんだろ〜なぁ?」
確認したいことは多々あれ、フォルテ・レーン(
gb7364)は直球を避け、外側から順々に崩していくつもりで質問を続ける。
「ご飯は先輩とかが用意してくれたよ? あれ、でも先輩料理できたっけ‥‥。完成品は検査というより実験だったかな。時々見に行ったけど、どうしても負けちゃったんだ」
いまだ精神が不安定なのか、言葉は落ち着いているが、言葉や時系列の繋がりがおかしいことが部位が見られた。
「いや、プロジェクト員も検査したりしてないのかな〜って」
「あ、健康診断みたいなのなら月1くらいで受けてたよ。機械の中で寝る感じ。先輩が必要だからやりなさい、って。他の人はしらないけど」
城野は、はっと思い出し返答。
「月1って‥‥シロウさん、何か持病でもありまして?」
それまで黙り、眺めていたカンタレラ(
gb9927)が口を挟む。
「ううん、知る限りはないけど‥‥そういえばそうだよね。研究の為だっけかなぁ」
城野自身も違和感に気づいたのか、蝶を撫でる手を止め、物思いにふけっているようだった。
(「洗脳装置か何かにかけられた線が濃厚かしらね」)
(「おそらく、な。推理モノなら黒幕は先輩って思ったが‥‥」)
カンタレラとフォルテは互いの感想を確認しあった。その間にムーグが城野に歩み寄り、声をかける。
「ソノ蝶、気ニイッテ、モラエマシタカ? ソレ、キメラト呼バレテ、マス。コウシテ‥‥人ヲ襲ッテマシタ」
2体ある木像のうち、醜悪な1体を掴み、口部分を自分の腕に押し当ててみせた。城野は無言でそれを見ている。
「コノ意味、ワカリ、マス‥‥カ? マダ混乱シテル、思イマス。ユックリ、思イ、出シテ、下サイ」
責めるでもなく、赦すでもなく、ムーグはゆっくりと説明。先日の尋問で発覚した認識「能力者が悪者で、キメラが英雄」というのは、おそらく洗脳によりつくられた記憶。それを本来あるべき姿に戻す為、ゆっくりと。
そんな最中だ。
「取り込み中すまない! 先発調査隊からの応援要請だ、ワームがでたらしい!」
御守 剣清(
gb6210)。普段穏やかな彼が珍しくあわてた様子で飛び込んできた。
室内にいた3人は即座に顔を見合わせて急ぎ退出。きょとんとした城野に、御守は言葉を投げる――。
「ええっと‥‥先日はごめんな?」
「あなたは確か、偽記者の」
「あ、あれ、覚えてるのそこ‥‥?」
「まあいいか。『能力者』、俺たちは今みたいなことの為にいるんだよ。君にもその素質があるって話は聞いたかな? 多分この戦闘は――」
「おい御守! 何してんだ行くぞ!!」
言いかけた言葉は仲間の呼び声によってさえぎられた。
「あ〜っと‥‥ごめん、戻ってきたら話そう! ゆっくり心を整理して、今は俺たちが守るから!」
扉を丁寧に閉ざし、御守を含めた4人は、敵遭遇地点へと急ぐのだった。
●そうぐう
「ちっ、こんなところで鉢合わせなんて面倒なこった」
太い幹に背を預け、ジャック・ジェリア(
gc0672)は舌打ちした。わずかに顔を出して様子を伺うと、そこには2体の小型ヘルメットワームが浮遊していた。こちらを探しているのが明らかな動作だ。
「応援要請はした、今はこの場を守りきることに専念しよう」
巨大な両手剣の柄を握りなおし、エメルト・ヴェンツェル(
gc4185)が目標を見据えながら告ぐ。
そのとき、一部の傭兵にとっては見慣れた飛行生物がヘルメットワームの横を抜け進んでいくのが見えた。城野シロウ関連事件にかかわりを持つ蝶型キメラ――。
「あれがいるってことは‥‥あの子関連の敵かもしれないわね。これ借りておいて正解だったわ」
百地・悠季(
ga8270)は巨大で重量のあるエネルギーキャノンを手にしていた。本来彼らは町の調査に向かう手はずであったが、敵拠点の可能性が高いのもあり、重装備を選んでいたのは正解だったといえる。
「さて、そろそろかくれんぼはやめて動くとしないか? これ以上進まれても困るだろう」
イレイズ・バークライド(
gc4038)は木陰から顔を出している仲間にハンドサインを送り、直刀を手に飛び出した。同時に敵も彼を認識する。しかし先制はイレイズ。
「ほら、やれるならやってみるといい‥‥!」
間近にいた一匹の蝶をすばやく両断し、草むらに転がした。一体のヘルメットワームもそのときには砲撃ターゲッティングを完了、目立つように飛び出していたイレイズを狙う。
「そう簡単には狙わせないさ」
ジャックは、今まさにイレイズを打ち抜こうとしていたヘルメットワームの背後からガトリングを打ち込んだ。その衝撃で照準がずれ、ヘルメットワームの砲撃は、誰もいない部位の木々をなぎ倒すだけに止まる。
「っと、あぶなっ! なかなか狙わせてくれないわね‥‥」
また別のヘルメットワームと相対していたのは百地。エメルトが敵の狙いを逸らすよう援護してくれているのが幸いしているという状況だ。
「あ〜、ライフルがジャンクになってなければもう少しまともな攻撃ができたものですが」
刀を振り回しながら一人つぶやくエメルト。そう零しながらも威力は一撃で蝶を凪ぐに十分だった。数は少ないが集中力をそぐように視界を行き来する蝶、それを掃うのも今は重要なことだった。
「そんなに落ち込まないで大丈夫よ」
百地もその点に気づいたのか合いの手を打つ。そう話している間に砲撃。二人は慌てて身を屈め、近距離砲で辺りを焼いた。薙がれた切り口が、小さな紅い火花をあげる。
「危ない危ない‥‥数は少なくても流石の破壊力といったところか」
「各個撃破するのはいいけど、されないようにしないとね」
どこか爆音が聞こえる場所、そこに背の高い女性――羽根石コウ――は居た。何かを待っているのかその場から動こうとはしていない。
「能力者4と交戦。別ルート先行1が能力者4と遭遇‥‥こっちは応援でしょうね、流石に相手基地近くとなると対処も早い」
手元に残っていた一体の蝶を、今戦地へ放つ。
「もっと呼び寄せられると思いましたがこれが限界なら‥‥」
どこでもない宙を仰ぎ、女性は呟いた。
ムーグのジーザリオで現場へ向かっていた四人は、その途中一体のヘルメットワームと遭遇していた。
カンタレラ、御守らがすかさず車から飛び降り武器を構える。
「報告にあった戦地にはまだ距離があるとおもうんだけど‥‥崩されてないよなぁ」
心配そうにする御守、
「不吉なこと言わないの。きっと別に動いていたやつよ。むしろ遭遇できてよかったと思いましょ」
その言葉を制し、カンタレラは前向きに現状を受け止めた。
「私を潰さないとここは抜けられませんわよ? しっかり狙って‥‥ね?」
挑発的に鉄鞭型超機械を構え、相手を誘うカンタレラ。ムーグとフォルテが合流。
「噂の蝶はいないみたいだな、無関係のワームか?」
辺りを見回して、ヘルメットワーム以外に敵意を向けてくる存在がないことを確認したフォルテが呟く。
「ソレ、ナラ、ソレデ、脅威排除、デス」
敵であることに変わりはないと、ムーグは番天印を構えた。むしろ、単騎である今が一番の好機であるとも言える。
「ほら、早く降りてこないと‥‥」
カンタレラは微笑み、手の届かないところに浮かぶヘルメットワームへ電磁波を一射。それは移動する腹に当たり、火花を散らせた。しかし進行を止めるには至らない。逆に真上から砲弾を放たれ、慌てて回避する一行。
「どうにか引きずり落とさないとならないなぁ」
刀では木に登ったところで威力のある攻撃を与えることは厳しいだろう。御守は小銃に持ち替え機を待つ。空から降り注ぐ砲弾は一時の収束を見せる。その間を突いてムーグは番天印で集中砲火を放つ。何弾となく打ち出される弾に、流石のヘルメットワームも制御を狂わされたのか、推進力が弱まり、徐々に高度が下がってきた。それでもまだ先へ進もうとする姿勢は崩さない。
「なにがなんでも前に進みたい、って? 俺らを倒さなきゃそんなの無理に決まってんだろ!」
フォルテは動きが鈍った今を狙い、扇風で竜巻を起こした。それは周囲の木の葉を枝から引き剥がし、敵の周りに巻き上げた。
「今なら避けられんだろう」
動作が鈍ったところを狙い、御守は小銃を連射し、ダメージの蓄積を促す。そしてさらに追撃、
「まったく、この私を無視しようだなんて駄目ねぇ。お仕置きよ?」
カンタレラが放つは強化に増幅を乗せた電磁波の苛烈な一撃。高められた知覚はヘルメットワームの装甲を容易に貫いた。まさに怒りの雷光。連携による集中砲火は、敵機を一瞬で沈黙させるに至るのだった。
「シカシ、‥‥攻メル、ニハ、攻撃力、ガ、カケル‥‥? マサカ」
「そうだな、下手するとこれは陽動じゃないのか? もし敵がこっちの動きに気づいてたら‥‥」
ムーグ言葉を受け、フォルテは叫んでいた。守るべきものが奪われてしまうかもしれない、と。
「撃破の件と支部帰還の件、連絡しておかないとね」
「斥候機撃墜。偵察は存命‥‥継続し報告を。陽動1大破、2損傷‥‥か」
誰もいない道を、女性は一人ゆっくりと歩いていた。人も動物も居なく、ただ彼女だけ。
「なんとか1機ね」
爆風に煽られ、風に髪を揺らす百地が苦しそうに告げる。パラパラと敵機の破片が周囲に散った。
「少しは楽になるといいなぁ、流石に2機はきつかったしねぇ」
ジャックも苦笑いを浮かべ、残った敵を見据えていた。ヘルメットワームに集中すると、視界外から突如割り込んでくる蝶に虚を衝かれ隙が生まれた。仲間の援護があったからよいものの、大きなモノと小さなモノの両相手は厳しいものがあった。
「視界に残る蝶は二匹、か。イレイズさん、一匹任せてもいいかな」
「そうだな、片付けてしまうとしよう」
戦場を見渡し、残り少ないとみるや、エメルトはイレイズと示し合わせ、厄介者の排除に走った。合間ヘルメットワームの射程に入らないよう牽制を加えつつ、まっすぐに襲い来る蝶を一刀に斬するエメルト。宙で羽ばたき、鱗粉を撒き散らす個体には、イレイズが、フォルトゥナの宿す数少ない弾丸を撃ち込み地に引きずり落とす。
「これでお前は終わりだな」
黒い涙と共に最後の蝶は落とされるのだった。しかし息をついている暇はない。視界外にも敵がいる可能性は否めないのだ。
姿勢を崩しながらも最後まで撃ち続けようとしているヘルメットワーム。
「大分見晴らしがよくなっちゃって、狙いやすくはなったけどね」
「確かに、でも狙われやすくもなったなぁ」
ジャックは苦笑い交じりに言葉した後、制圧射撃を行い、ヘルメットワームの行動を制限。
「そろそろおしまいにしましょ!」
動作が鈍くなったところへ、百地がすかさずエネルギーキャノンを放った。非常に威力の高い一撃はヘルメットワームの胴体を容易に貫通した。回避さえ封じてしまえばタダの大きな的。高火力の敵ではなかった。
「おつかれさん、応援が別のとこで足止めくらったって聞いたときはやばいと思ったけど、どうにかなったな」
巨影が消えたのを見て、ジャックは構えていたガトリングガンを地に降ろすのだった。
●てがみ
御守らが支部に慌てたどり着いたとき、連絡のおかげで守備は完了していた。警戒して待ち構えても見たが襲撃はなかった。
しかしただ、一匹の小さなキメラだけが飛来した。
無論それは一瞬のうちに蒸発、何かの前触れでないかと一層の警戒をするも何事も起こらなかった。そのうちに先発調査隊からヘルメットワーム殲滅の報告が入ると幾分かの巡回員を残して厳戒令は解除された。
「それで、そのキメラがこの手紙を持ってきたっていうの?」
百地は机の上に厳重に置かれた一枚の紙切れをさして言った。それは蝶キメラの残骸を調べたときに発見したもの。紙事態はどこにでもあるメモ用紙、特殊なものではなかった。仕掛けもなにもない。
「コノ、内容ハ‥‥」
ムーグも床にひざを着いて眺める。
「やっぱり奪還を狙う存在がいるってわけね」
「ちっ、ある意味宣戦布告じゃねーか!」
深く息を吐くカンタレラと、憎憎しげにこぶしを打ち合わせるフォルテ。
「洗脳しようとしてた勢力にようやく動きか。まあ、動かないならそれもよかったんだが」
保護後一切アクションがなかった敵、それを不審に思っていたのはイレイズだけでなく、
「夢も現実もまだ、終わっても始まってもくれず‥‥ですか」
エメルトにも思うところはあった。
「ところでこれ、彼にはもうみせたのかな?」
支部の局員に確認するジャックだったが、局員は首を横に振る。
『帰ってきなさいシロ。
鍵を失くした訳じゃないでしょう?』
その手紙の存在も、内容も、まだ城野には知らせていなかった――。