●リプレイ本文
●たずねよ
「さてシロウ。腹は括ったか?」
何度も何度も、短い手紙に目を通し続ける城野へ、レイード・ブラウニング(
gb8965)は言葉を投げた。
手紙の開示。城野はそれが『先輩』の直筆であることを一目で見抜き、歓喜した。しかし同時に傭兵たちから様々な説明を受け困惑、しばらく虚ろに何かを呟いていた。
――オレ達の守りたいモノを傷つけるヤツと戦わなきゃなんない。分かってもらえっかな?――
そんな城野に、御守 剣清(
gb6210)をはじめ、かわるがわる声を掛け、動向に関する説得を続けていたのだ。
「覚醒しなくては怖くて戦場に立てない私‥‥。あなたは能力者でなくて、力もない。そんなキミに頼むことも心苦しい‥‥でも、わかって‥‥」
静かな口調で、静かに肩に手を重ね、流叶・デュノフガリオ(
gb6275)が再度声を掛ける。
――先輩と向き合わないと何もはじまらないよね。
――もしかしたら、もしかしたらがあるかもしれないし‥‥
作戦への参加を、城野シロウは、了承した。
●はじけて
以前の調査で発見した横穴。それは秘密基地――相手拠点への入り口だった。時間を稼ぐべく車やバイクを駆使して即行。移動手段、場合によっては逃走手段の安全を確保し、一行は中へと向かった。
「どう、開きそう?」
前に後ろに、右に左に厳重な注意を払い、進行したどり着いた扉の前。百地・悠季(
ga8270)は城野の様子を確認しながらそっと尋ねた。それに、彼は緊張した様子で頷いて返す。
「センサーの類が一切消えてる‥‥罠と疑うべきか」
そう言うのは桂木穣治(
gb5595)。すでに敵が襲撃を予測して拠点を移動している可能性、招待状に基づく罠の可能性――どちらも共存する確立。
「何があっても‥‥シロウ君を護ること‥‥これは、変わらない」
静かに感情少なく語るフィー(
gb6429)は、拳銃を手に、いつ敵が現れてもいいよう神経を研ぎ澄ましている。
「それもこの扉が開けばわかること」
水無月 神楽(
gb4304)は城野の手元を覗き込んだ。『かつて』の記憶にないとは言っていたが、いざ扉の前に立つや、突然中空に手をかざし、無言で指を動かしだした。
「――鍵、‥‥あけていいなら、あくよ」
道中見せていた元気さはどこへか、囁くように呟く城野。その言葉を伝達、全員が扉の前へ集い――開錠。扉に見えたものが消え去った。
同時、一面白の空間から、白い巨体が飛び出してきた――キメラだ。
「待ち伏せか!」
咄嗟に反応したのはハミル・ジャウザール(
gb4773)。硬い岩の地面を蹴り、城野めがけて跳ぶ。腕を伸ばし、抱えるようにして、共にその場に倒れこむ。追いかけるようにシロクマの爪が宙を裂く。
「っ! 予測が甘かったか」
御守が即抜刀、真白の胴に紅い線を描いた。そして遅れ、続けに反応したレイードが側面から電磁波を纏う拳を打ち込んだ。立ち塞がったシロクマは、その後の追撃も含めて撃破され、内部への道は開かれた。
――連れてくることを選びましたか‥‥ならばこちらの手ですね。
――確かに山ごと潰せば一瞬。
――それでは、本当に片付けたか確かめられないでしょう?
――万が一はありますから。
研究所内の通路は全面白い金属で覆われていた。まぶしく、目がくらむような空間。壁自体が光っているようにも見えた。さらに、白にまぎれた真白の物体が襲い掛かってくる。
「大丈夫‥‥守るよ」
流叶はそう告げ、仲間を援護しながらも城野の傍を離れないように尽くす。同行理由は『進入』の為であったが、目的を終えたとはいえここは敵地。戦力のない彼を入り口に残すことも、ひとり帰すことも危険が伴う。その解が護衛。
「獣臭い‥‥何か構えてそうね」
そこは丁度直角の曲がり角、百地はデヴァステイターの装弾を確認し構え待つ。
「挑発して誘い出すか」
AU−KVを装着したレイードが単騎突出。瞬時に状況を把握、己が目に捉え、敵が目に捉えられるのを確認し後退。
「クマ2」
仲間の元に戻ると同時、一息で敵勢報告。まもなく振動は近く大きくなりシロクマが姿を現す。それを確認して、
「兆弾に気をつけて‥‥!」
フィーが言い放つのが合図、百地と共に銃弾を連射。飛び出してきた的が大きいのが救い、ほとんどの弾丸はシロクマの身体に吸い込まれ、赤い水玉を散らした。
「お前は伏せとけっ」
桂木は万が一に備え、城野を床に伏せさせる。能力者組なら擦り傷でも、非能力者である彼にとっては致命傷になりえることもある。本来ならばその場に居ること自体危険が伴う。
「一瞬で終わります」
連射が止む頃合を見計らい、金色の瞳を閃かせた水無月がツインブレイドを揮い、たじろぐ片側でシロクマを切り裂き、
「僕の後ろへはいかせません!」
ハミルが直刀を突き立て、仕留めた。周囲に他の敵が居ないことを確認し、城野を立ち上がらせる御守。
「きつい道が続くかもしれないがこれも守るため、だ」
目の前の戦闘、血溜まりにおびえないかと掛けた声だったが、当人はあまり怖がっている様子はない。流叶に掛けられたゴーグル越しというのが現実感を遠ざけているのか、もしくは既に麻痺しているのか――。しかし竦まれて動けないよりはまし、というところだろう。
道中の、開けられる扉という扉は、あらかじめ用意して置いた金属の棒等でこじ開けた。ロックは掛けられていたが特に問題はない。
「キメラだらけだったり、慌てて夜逃げしたような部屋ばっかり‥‥もともとこうだったりしないわよね?」
入り口から奥に向け、順に確認しているがあるいみもぬけの殻、と百地がため息をひとつ。ただし大きな装置は破壊して進んだ。
「居場所を当てられて、いつまでも同じ場所に留まっている‥‥敵もそこまで馬鹿じゃないってことだな」
トラップが設置されている可能性も考慮し、目を光らせていたレイードであったが、実に何もなかった。
「口の開けられた巨大な檻が目立ちますね‥‥」
それはおそらくキメラが入れられていたもの、フィーは付け足す。
「‥‥あ、待って‥‥!」
不意に、それまでおとなしく着いて来ていた城野が、流叶の手をすり抜け部屋を飛び出した。無論すぐに追いつき、拘束される。
「まだどこにキメラがいるか分からないんだ! 飛び出すんじゃない!!」
「部屋に戻ったら何か残ってるんじゃないかって‥‥!」
取り押さえる御守の言葉に、城野は拘束から逃れようとしつつ応える。最初はおとなしくついてきていたが、途中からせわしなくあちこちに目を走らせていた。そしてこの行動、
「‥‥そういえば城野さんはここに居たんでしたね」
失念をハミルは思い出した。ひとりで飛び出さないことをよく言い聞かせ、一行は城野の示す道を歩いた。
たどり着いた扉、それはこじ開ける必要もなく城野が触れるとロックは解除された。
「あ、扉は開けるな。下がれ‥‥耳障りなのがいるようだ」
御守は城野を流叶と桂木に預け、下がらせる。そして扉を、スライドさせた。
とたん部屋内部から生ぬるい風とともに怪しく煌く鱗粉が通路へ押し出されてきた。咄嗟に口元を塞ぎ吸い込まないよう注意。また、同じ風の流れにのって厄介なものが飛来する――蝶型のキメラ――。
「これが面倒って噂のそれか‥‥」
度重なる報告例があったおかげで対処もたやすかった。レイードは早期決戦を決める為竜の角を拳に乗せ潰し、ハミルは機動力を殺ぐべく翅を落す。数は多かったが通り道はひとつ、通路に出られる前にしとめて仕舞えば難ではなかった。
改めて打ち止めの頃合を見計らい内部へ侵入。部屋中に閉じ込められていた蝶が撒き散らした鱗粉が堆積している。城野は通路に残し、数人で内部を捜索。城野に確認が取れない為、居たときと同じかどうかは分からなかったが、いくつか成果はあった。
謎の機械が添えられた寝台。機能していなかったが破壊しておいた。持ち出すには大きい。 そして床に散らばった、折り紙や用紙。
「これが‥‥キメラの設計図‥‥? 城野君が描いた‥‥?」
フィーは確認するように、汚れ破けた絵の中でもマシな方のものをつまみ、鱗粉を払うと城野に確認を求めと。それはいうなればただのイラスト。城野は想ったものを描いていただけ、そう頷くのだった。
●もうひとり
路の終に辿り着いたのは大きな広間。扉を開けてすぐ、何者かが慌てて消える影を目にもしたが、捉えることは出来なかった。
白光する壁は光を抑えられているのか、全体的に薄暗く、巨大な演算機のようなものも電源は入ってはいなかったが、大部分が丸々残されていた。
「ここが最深部? 確かに見た目はそれっぽいが‥‥」
「持ち帰れそうなデータ類があれば敵の調査に役立ちそうなんだけどなぁ」
流叶と桂木は城野を連れ、先行組が索敵を終えた部位を、ゆっくりと部屋の確認をしていく。城野曰くこの部屋の装置を触ったことはないとのことで、データ媒体の持ち出しはかないそうになかった。ほとんどが部屋と一体化した機械、どのように接合されているのかも不明。
「ともかくこれ以上ここでキメラが作成されないよう破壊をしましょう。製作に関わっているのは確かなようですし」
水無月は扉をこじ開けるのに使った金属棒を機械の継ぎ目等にねじ込み、扉と同じ原理で分解していく。
「壊したいだけ壊してくれて結構。その代わりこちらも壊させていただきますが」
破壊活動の最中、広間の入り口方面から、仲間の誰のものでもない、無感情な声が聞こえた。全員が一斉に向き直る。
「せんぱ――」
彼にとっては聞きなれた声。近くで確認しようと身を乗り出す城野。その彼へ向かい、音も前触れもなく光線が一閃。
「だめだ! ‥‥っ!」
慌てて桂木が腕を引き、場を入れ替わり――盾になる。桂木の光線は桂木の背を焼いた。城野が無事で、目を白黒させているのを確認し、荒い息をつきながら己に練成治療。
「何の報告も‥‥」
突然の出現、それは敵。可能性として、集音機を用い挟撃回避を試みようとしていたのは叶わなかった。人間側の技術による通信機器はこの辺りではすべて無効化されているらしい。しかしひるんでいる間はない。躊躇いのない初撃と言葉から、相手の狙いは察せた。城野の守りを固める。
「壊させてあげたのに壊させてくれない、と。贅沢ですね――まあ、想定内ですが」
通路からの逆光に浮かぶ女性が、城野が『先輩』と呼んだことから羽根石コウで間違いないだろう。彼女が入り口付近、床の一部に足を滑らすと、部屋の四方からキメラがどこからともなく出現。
「後ろからっ」
援護射撃の為後方に下がっていたフィーが叫ぶ。囲まれてしまえば前衛も後衛もない、ましてや外へ繋がる通路は羽根石が構えている入り口のみ。
(「これはどうにかひきつけて――」)
(「突破か――」)
瞬間的に定距離を駆け抜けるスキル、ひとまずここでの戦闘を避けるには突破しかない。振り切る為狙おうと、レイードが同様の能力を持つ御守へサイン。幸い入り口へ向かう途中に遮蔽物はなかった。
シロクマの上げた咆哮が開戦の合図となる。羽根石の意図に従うかのよう、城野目掛け最寄りのキメラが飛び掛る。回復中の桂木と、放心中の城野を守るよう流叶が飛び出し、超機械から電磁波を見舞った。振り上げられた腕は難なく回避。次の手で降下してくる蝶を焼き落とした。その間に御守が駆け寄り、城野の傍に待機。
フィーは己を落ち着かせ、白銀の引き金を引く。対するのは蝶。命中はするものの致命傷には至らなかったようでまとわり付かれてしまう。そこへハミルが応援に付く。フィーと同様に一撃必殺には欠けるがすばやさと命中精度を生かし、弱った蝶を確実に仕留めるよう心がけ。
「ブレス気をつけて!」
シロクマの動作を見ていた百地が叫んだ。放射範囲は他の交戦中の仲間に及ぶことは想定された。注意を促したところですぐに対応しきれるかは分からない。幸――先ほど破壊中に誕生した謎の鉄板、丁度フランジになった部分を勢いよく踏み、立ち上がらせる、足りない部分は己の身で受け止め、防いだ。
レイードと水無月は羽根石と城野を繋ぐ線を塞ぐよう立つ。羽根石は距離を詰めずじっと構えている。様子を伺いながら、飛び込む機会を狙う為、水無月が声を掛ける。
「せっかくの機会ですし聞かせてもらいましょう、なぜ彼を」
――生殺しのような飼い方になったのはこちらも失敗。と、一言答えて横に一歩。
――この女は失敗、正解がそっちだっただけ。と、二言答え、わずかに射線をずらして放つ光線。
「そう好きな様にやらせるものかよ‥‥!」
狙いは明確だが、護衛もついている、とレイードは拳を構え懐へ飛び込み、銃を握る手元を払う。続いて水無月も飛び込み一閃刻んで退避。羽根石の狙いは完全に城野だけの模様で、他の能力者の動向はあまり気にしていなかった様子。光線は想定通り後方で防がれていた。
「‥‥っ」
不意打ちを狙い、追い込み、囲えば容易というおごりがあったのだろう、羽根石は自嘲気味に悪態づく。武器が手にない今を、と互いに連携してたたみかける二人。攻撃は当たるも威力は殆ど通っていない様子。息ひとつ乱さず、広間の様子を確認しているように見えた。それは排除されつつあるキメラ。手が空き、応援に駆けつける能力者。
「威力、それほどじゃないのね。こんな生身ならいくらでも撃退してあげるわよ!」
挑発的な言葉を吐き、レーザーナイフを手に飛び込む百地。
「冷静に見ればそうですね――」
攻撃を受け止め、にやりと怪しい微笑を浮かべる。射程は十分、すぅっと息を吸い込み、羽根石が吐き出したのは冷気のブレス、シロクマが使っていたものだった。
「こいつ、キメラの能力を!」
威力はシロクマの比ではない。肌を焼く熱さも勿論、風圧により吹き飛ばされる一行。部屋全体が一瞬にして冷凍庫に成り代わった。城野は――桂木に守られ無事。
「本当、勘が鈍りすぎ」
ブレスでも十分仕留められると想ったがギリギリ届かず、とみるや部屋の隅に転進。白くかすむ中、手馴れた操作で装置を起動、身を滑らせ、一瞬で消失した。瞬間移動装置か何かだろう。仕組みを調べようとしたが基盤と思われる部が転送直後破裂したのだ。これでは調査も無理だろう。一行は無事を確認し、可能な限りの破壊をしてから元研究所を後にした。
●さらば‥‥
――なんで、なんでなんで? どうして? 本当に先輩はいないの?
――身体だけ生きてる? 助けたい、でもどうしたら――
――こちらの知識はもう残ってない、放置したところで勢力に支障はない。
――‥‥が、私は、おそらく、失敗者として――