●リプレイ本文
●愚鈍な子供
「大きな子‥‥大人しそうだけど、油断は禁物ね」
ナレイン・フェルド(
ga0506)が双眼鏡でキメラの様子を確認する愛輝(
ga3159)の傍らで呟いた。
周辺の木などよりキメラは大きい為、存在自体は肉眼でも見えている。
「前の落とし穴で使えるかな? もう少し広げた方が‥‥でも、人型を相手するのは抵抗があるなぁ‥‥」
さらにその隣では、篠原 凛(
ga2560)が落とし穴の位置を確認してため息をついた。
巨大な姿をし、何を探しているのか分からず歩くキメラの姿は赤ん坊のように映ったのか、凛の表情はく暗い。
「まずは残りの人に連絡をし、そのあと誘導しましょう。俺が見張りしてますから‥‥」
「双眼鏡1つじゃ、確かに苦しいものね。任せるわ」
「誘導するときになったら、改めて連絡するね」
「はい、そのときはお願いします」
ナレインと凛は愛輝に一言いって、待機している能力者たちのほうへと駆け出した。
二人を見送って再び双眼鏡を取り上げた愛輝は見張りを続ける。
「それにしても、動きの遅いキメラだ‥‥何を目的にしているのやら‥‥」
愛輝は呟きながら、愚鈍なキメラの動きをじっと見ながら呟いた。
●落とし穴を広げろ
ナレインと凛から連絡を受けた残りのメンバーは落とし穴の拡張作業に入っている。
「私みたいなちびは軽く触られただけでぺしゃんこになりそうです‥‥はう」
その1人、九条院つばめ(
ga6530)はスコップで穴を広げつつ、落とす相手を想像して眼を回した。
「スコップを持ったままふらつかないでくれ。戦う前に味方にやられるなんて遠慮したい」
ふらつくつばめの肩を月影・透夜(
ga1806)が支える。
「なにいってんの、怪我が怖くちゃファイターができるか! 気合とド根性で乗りきれ! あ、痛いのはパスね」
「いっていることが微妙に矛盾しているような気がするんですけど‥‥」
「細かいことは気にせず次いってみよー!」
ツルハシでがりがり穴を削っていたミア・エルミナール(
ga0741)はビシっとつばめに言い切るも、つばめから突っ込みを返された。
笑ってごまかしたミアはそのまま掘削作業を続ける。
「時間からして、片足を嵌めるサイズが精一杯だな‥‥これ以上深くは掘れない」
掘り起こした土を回収してる九条・命(
ga0148)は深さ2mはある穴の上から声をかけた。
「もう少し、穴のサイズを広げたらカモフラージュしましょう。土の量もそれで丁度良さそうですし」
新居・やすかず(
ga1891)も運び出した土の量とビニールシートのサイズを測りつつ、穴の上から声をかかける。
「はぅぅ! それじゃあもうひとがんばりしましょう!」
もう少しと聞いてとたん、つばめは気合を入れて穴を広げだした。
「お、やるな。私も負けてられないぞー」
「二人とも穴掘り勝負が仕事じゃない‥‥本番が後にあることを忘れないでくれ」
つばめに対抗するかのように掘り出すミアをみて、月影は不安を拭いきれない。
「そうだ! パイプを切って仕込まなきゃいけなかったっけ」
本番という言葉にミアが道具をおいて穴から外へと這い出した。
「ミアさーん。パイプはもらえませんでしたー」
ハルトマン(
ga6603)がビニールシートを持ってやってくる。
「えー!」
「たしか、昔の戦で竹やり入れた落とし穴をつくったりすることは聞いたことがあったゆえ、拙者も説得に回ったのでござるがフォースフィールドを破れるかどうかといったところでござるな」
オットー・メララ(
ga7255)が流れを補足した。
「断念するしかないのか‥‥いや、やるだけやるっ!」
ミアは近くから手ごろな木の枝を調達すると、それをカットして用意する。
「ビニールシートに被せる土や抑える石も探してください」
やすかずの声に掘削作業をしていなかった能力者達は手ごろな岩などを用意して穴の周りに準備をした。
「まだ、埋めないでくださいねー下にはまだ人いますよー」
不安そうなつばめの声が穴の中から聞こえてくる。
「つばめ、月影! 中にいるなら設置の方を手伝ってー」
ミアが斜めにカットした木の槍を数本、穴の中へと下ろした。
「これ、何ですか?」
ツバメが見慣れないものを見て首をかしげる。
「トラップだ。落とし穴に落ちたあと、こいつで刺すためのな‥‥」
月影はつばめに説明しつつ即席の槍を底面に力任せで差し込んでいった。
「備えあれば嬉しいなって言うでしょ」
「憂いなしだと思いますよ」
ウキウキ気分で作業するミアへ突っ込みをいれつつ、つばめは作業を続けた‥‥。
●銃声の鳴る方へ
「準備完了みたいよ、可愛い坊やと追いかけっこをしましょうか」
ナレインが愛輝と凛へ準備ができたことを知らせに来る。
「キメラを12時の方向から誘導開始。挟み撃ちの用意をお願いします」
『こちら月影だ。準備はしておく、攻撃は大雑把のようだが、当たったらシャレにならないらしいから気をつけろ』
『九条だ。狙撃ポイントを確保した、待機する』
穴の準備をし、前衛組と狙撃部隊からそれぞれから連絡が届いた。
連絡を受けた凛がクルメタルP−38を、ナレインが小銃「S−01」にて巨人キメラに攻撃を仕掛ける。
足元に何発か撃ちこまれるも、キメラの動きは変わらなかった。
「痛覚も鈍い?」
「力が足りないなら、頭を使えばいいんですっ!」
手ごたえの無さに怪訝そうな顔をする愛輝に対し、凛は眼を見開いてキメラの首などを狙う。
人間と構造が同じなら、痛い部分、気になる部分は同じだという考えだった。
その考えが当たったのか、キメラの動きが止まる。
『フゴォォォォ!』
攻撃を首に受けて巨人キメラは奇妙な声を発した。
のそのそした動きで巨人キメラが3人の方を向く。
「『鬼さんこちら』といったところか」
愛輝も大木のような足を攻撃し、移動速度に合わせて下がっていった。
「本当に赤ん坊を扱うようね‥‥」
ナレインがよちよち歩きに近い動きで寄って来るキメラに苦笑をする。
凛はその言葉を眼を伏せながら受け、その後決意したかのように攻撃を続けた。
ひきつけては攻撃をやめ、注意を惹く。
「あと50m、そっちが落ちないように後方に注意してよ!」
ミアの叫ぶ声が響き、愛輝達は互いの顔を確認して頷きあった。
ナレインと愛輝は攻撃をやめて両翼に散り、凛だけが残りクルメタルで攻撃をする。
じれったくなるようなゆっくりした動きで寄ってくる巨人キメラをカモフラージュした穴へと誘いこんだ。
「もう、ちょっと‥‥そこ!」
穴を回りこんでもひきつけている凛が叫んだタイミングで巨人キメラの片足がズボッと嵌る。
急ごしらえの木槍は拉げて折れていた。
「あっちゃー、やっぱり無理だったか」
ミアが残念そうに呟く。
「総攻撃チャンスです。今のうちに間合いを詰める人は詰めてください」
ハルトマンが巨人キメラの背後から関節を狙って弾頭矢による攻撃を加えた。
衝撃に巨人キメラが揺れる。
その間に、隠れていたメンバーと合流し10人の能力者が巨人キメラを挟み込んでいった。
「遅さに意図があるかと思うたが、気の迷いか‥‥」
間合いを詰めて背中からオットーが蛍火による一撃を浴びせる。
「バカと言っても放っておくわけにも行くまい。退場願おうか」
何が起きたのか分からない様子のキメラに、隠れていた別班である月影のカデンサによる斬撃を幕開けに一斉攻撃が始まった。
元々攻撃していた、足に更なる銃撃、そして斬撃が重なる。
「よそ見しないで、こっちがお留守だよ!」
凛の貫通弾が巨人キメラのアキレス腱を撃ちぬいた。
●倒れる巨人
「キメラが倒れるよ! 後ろにいる人は避けて!」
凛の大きな声があたりに響き、10mの巨体がドスンという物音と共に倒れこんだ。
「あの巨体だ、すごい振動だな」
九条が振動を足を踏ん張って耐え抜く。
「倒れましたが、頭部をこのまま攻撃していきます」
距離をとっているやすかず、ハルトマンはその間にも照準をずらさないよう狙いを澄まして射撃を続けた。
スナイパーライフルの銃弾や弾頭矢がキメラの頭部へと叩き込まれる。
『フゴォォォオォア!』
その痛みに対するものか、キメラから怒号が発せられた。
「何か、少しかわいそうです‥‥」
つばめの手が攻撃をやめる。
痛みに苦しむ姿に優しい彼女のココロが痛んだためだ。
「同情は無用でござる‥‥このまま苦しますより、楽にさせてやるのもまた1つの優しさでござる」
オットーが警戒しながらも、血の溢れる足を攻撃する。
弱っている部分を蛍火による急所突きで攻めて、少しでもはやい決着を目指した。
「は、はいっ!」
つばめはオットーの言葉をかみ締め、弓を引いて弾頭矢をキメラの眼に向けて放つ。
ドォンという爆発音に巨体が揺れた。
倒れている巨人キメラの眼が一撃でえぐれ、両手とアキレス腱の切れた足をばたつかせる。
「ゆっくりだが、軌道が読めないね‥‥ヒット&アウェイで攻撃喰らわないようにしなくちゃね」
ミアがバトルアックスを振り下ろし、弱ったアキレス腱を痛めつけた。
戦闘をとにかく続けるが、ナレインもつばめのように人の姿をしたキメラへの攻撃が緩む。
「ごめんなさい‥‥」
そう呟き続けて戦うのは味方に対しての謝罪か、キメラに対する慈愛なのか分からなかった。
「謝るより、攻撃を続けてください。私じゃまだ力不足ですから」
凛がナレインに声をかけつつ、積極的にキメラに近づき刹那の爪できりつけ、また攻撃するそぶりを見せれば離れて自動小銃による弾丸を浴びせる。
「キメラの動きがさらに鈍ってきた、ラストスパートをかけるぞ」
九条はリボルバーでとにかく距離を開けつつ攻めた。
「手早く、倒さないと」
愛輝も急所突きを使って、弱った目やアキレス腱を銃で撃ち続ける。
「おとなしくしてっ!」
つばめの矢がもう一方の目をえぐった。
遅かったキメラの動きがさらにゆっくりとしたものになり、攻撃すらしてこなくなる。
やすかずや、ハルトマンも鋭角狙撃によるラストスパートをかけていった。
弾丸の穴が空き、矢が刺さっていったキメラはやがて動かなくなる。
「これでトドメだ。永久に眠れ!」
「恨むならパッパラパーに作られた、己の生まれの不幸を呪うがよい!」
月影のカデンサとミアのバトルアクスによる流し斬りが巨人キメラにとどめを刺した。
●キメラに対して‥‥
「生まれ変わった時、幸せな一生を送れる事を願っているわ‥‥今はただ安らかに‥‥」
動かなくなり、そしてボロボロになった巨人キメラの死体にナレインは青薔薇を献花する。
「救急セットもってきても使う必要なかったですね。穴から抜け出すこともできず一方的でした」
愛輝がナレインとキメラを離れて見ながら声をかけた。
「何か、釈然としないで御座るな‥‥拙者もまだ未熟といったところでござろうか」
オットーもナレインに習ってか、両手を合わせて祈りを捧げる。
人型であったためなのか、弱者に対して大勢で叩いたことが理由なのかはオットーには分からなかった。
「依頼は依頼です。今回は俺達はこいつを町に近づけないよう倒すのが仕事でした。仕事も終わったから帰りましょう」
愛輝は二人に声をかけて、高速移動艇へ乗り込んでいく。
キメラとの戦いは続くが戦う意味について、能力者たちは何か考えさせられる依頼だった。
<代筆:橘真斗>