●リプレイ本文
●小鳥は鳥籠へ
「さぁいらっしゃいな、小鳥さん」
キメラを挑発する智久 百合歌(
ga4980)に、彼女を庇うように立つ鈴葉・シロウ(
ga4772)。
そんな2人に奇声を上げながらキメラは飛びかかった。
上空から急降下するキメラを間一髪で避ける百合歌。
攻撃後、素早く空へと飛び上がったキメラに攻撃手段のない彼女は悔しげな素振りを見せる。
シロウもロジー・ビィ(
ga1031)から借りた小銃「S―01」 で反撃するがキメラからは大きく外れ、その先にある木の葉を何枚か散らした。
――どちらも故意だ。
急降下した際にカウンターで攻撃を叩き込む事も百合歌には出来た。
小銃の扱いについてシロウは甘〜い講義を切望したものの、蒼い闘気に身を包み紫色の瞳で無表情に見つめるロジーに恐れおののいて話に身が入らなかった訳ではない。
百合歌は反撃の機会を敢えて見送り、シロウは銃の狙いをわざと甘くしている。
共に相手を油断させるためだ。
退治を諦めた様に見せかけて背を見せて逃げ出す2人に、キメラは自分の優位を見て取ったのか追撃してくる。
彼らが様子を見ながら速度を調整しているせいか、キメラと2人の距離は着かず離れずといったところだ。
目標地点――他の能力達がキメラ迎撃の為に待ち構えている場所――はもう目と鼻の先だった。
と、キメラは追いかける速度を落とし、大きく翼を振りかぶったかと思うと彼らに向かって勢い良く振り下ろした。
その翼の先から幾多の羽根が放射状に打ち出される。
それに気付いたシロウは先行して走る百合歌に飛びつき、彼女を庇うようにしてしっかりと抱きしめる。
サラサラとなびく白色の毛が瞬時に硬化し、降り注ぐ羽根の刃がキンキンと軽い音を立てて弾かれた。
「百合歌さんには大事な人が出来た事ですし、傷を負ったりなんてしてほしくないですから」
そうニコヤカに笑いかけるシロウに、
「‥‥ありがとう、シロウさん。でも、そろそろ手を離して下さらないかしら?」
百合歌はお礼を述べながらも、シロウの手の位置に少し困惑していた。
そこに駆けつけるドクター・ウェスト(
ga0241)と、彼を守るようにしてロジー、キリト・S・アイリス(
ga4536)、木花咲耶(
ga5139)の3人が前に立つ。
「今よ!」
葵 宙華(
ga4067)の声に、気配を消して潜んでいた鳳 湊(
ga0109)、エスター(
ga0149)、小鳥遊神楽(
ga3319)の4人のスナイパー達も姿を現し、エスターと宙華、湊と神楽がキメラを挟み込んだ。
キメラ包囲網はこうして完成された。
●籠の中の小鳥
「物の怪や! さぁ参りなさい」
挑発する咲耶に奇声を上げて威嚇するキメラ。彼女を憎々しげに見つめる薔薇の瞳が不自然に揺らめいた。
彼女の周囲にいたのはドクター、ロジー、キリトの3人。
その揺らめきを見るか見ないかでドクターは目を逸らし、ロジーと咲耶は身に着けていた盾で視界を塞ぐが、キリトは避けられずにまともに見てしまう。
彼の身体が硬直したように動かなくなった。
「キリト兄!」
キリトの様子が変化した事に宙華が悲鳴を上げる。
瞳に何か特殊な能力があるのではないかと推測したドクターが、
「皆、視界を塞ぎたまえ〜」
と声を上げキメラに向かって照明弾を撃つ。その声にそれぞれの手段で視界を遮る能力者達。
打ち上げられた光の球はキメラの身体へと当たるか当たらないかの距離で赤い壁に弾かれたものの、そこで眩い光を放ち、キメラにも多少の火傷を負わせる事に成功する。
視界を眩ませられ闇雲に動くキメラ。
能力者達に向けて羽根を打ち出すが、狙いの定まっていない攻撃を避ける事は容易だった。
「さあ、今のうちだ、しっかり当てたまえ〜」
ドクターの声にキメラに銃弾が雨霰のように降り注ぐ。
「人様に投げつける程、いらない羽なら毟りとってあげるよ! 根元からねっ!」
「墜ちなさい! あんたは地を這いずるのがお似合いよ!」
宙華と神楽の銃弾が目にも止まらぬ早さで翼の根元へと着弾し、悲鳴を上げるキメラ。
怒りに身を任せてエスターに飛来してきたキメラを咲耶が身を盾にして庇うと、ロジーの放った衝撃波と湊の銃弾がキメラの翼へと突き刺さる。
たまらず上空へと飛び上がったキメラに百合歌が精神を集中させると、布のような黒い衝撃波がキメラに襲い掛かった。
能力者達の見事な連携に、かつて5人の能力者達を敗走に追い込んださしものキメラも傷つき、その高度が徐々に下がっていった。
●連撃/最後の抵抗
刀の届く距離まで降りてきたキメラの右側へと回り込んだ咲耶。
「さぁ、こちらもいきますわよ!」
その声に同じように左側へと回り込んだロジー。
お互いの目配せに合わせ、2人はキメラへと駆け寄り、流れるように刀を振るった。
再三攻撃を受けて弱った翼が中程まで斬られ、血が噴き上がる。
咲耶とロジーの華麗な連携にキメラが嘶いた。
今までにない程に強く。
その声に応じるように。
風が。空気の流れが変わった。
キメラを中心にして風が集まり、あの鋭い刃のような羽根を内包して目に見える形で渦を巻いていた。
叫び声とともにキメラが力強く羽ばたくと、その風は包囲していた能力者に烈風となって襲い掛かった。
それぞれ防御行動を取った能力者達だったが、魅了状態で身動き出来ないままのキリトは、風に混じった羽根によって多数の切り傷が、また生じた爆風で遥か後方へと吹き飛ばされ、その先にあった木へと叩き付けられる。
衝撃で身に着けていたイヤリングが2つ、何処かへと飛んでいった。
一方のキメラも無事では済まなかった。
羽ばたく度に傷口が広がりその身を赤く染め上げ、遂には翼が千切れとんだ。
それとともにあれ程吹き荒れていた暴風も徐々に弱まっていくが、両方の翼を無くしてもなおキメラは宙へと浮かび続けていた。
(「やはり、敵の飛行は翼によるものではなかった‥‥」)
思考を巡らせる湊。
激しい攻撃で視界を眩ませられた能力者達の前で、キメラは今正に離脱しようと高度を上げていた。
「Rest in Peace!」
いち早く立ち直ったエスターがキメラの背に銃弾を浴びせてその動きを牽制する。
それによって生じた相手の僅かな隙を突いて、百合歌へと声を掛けたシロウ。
中腰の姿勢で両手を前に出すシロウに百合歌が迫る。
「ちぇりおー」
掛け声を上げる彼を踏み台にし、キメラよりも高く跳躍した百合歌。
「Fiore Povero ――No.Uccello Povero」
くすりと笑った彼女はキメラに続けざま二太刀加え、キメラは逃げる事も叶わず地面へと落下していく。
その先にはフォルトゥナ・マヨールーへと武器を持ち替えた湊の姿があった。
そんな彼女に爪を突き出すキメラ。避けずに迎え撃つ湊。
落下の勢いを乗せて振るわれた爪に湊は右肩の肉が多少削がれたが、その代わり彼女は至近距離での発砲でキメラの頭を粉砕する。
「『肉を切らせて骨を断つ』という言葉を‥‥貴女は知らなかった‥‥」
地面に赤い華を咲かせるキメラを見下ろしながら呟く湊。
「ミッション・コンプリートです」
そんな彼女の横では、貴重なサンプルだね〜とドクターがキメラの肉片を回収していた。
●目を覚まさない仲間
木に寄りかかったまま動かないキリトに、ドクターは超機械を向ける。
彼を取り囲む様にして立つ能力者達は、それぞれ不安げな表情でドクターを見つめていた。
と、キメラの攻撃によって顔に幾多に刻まれた傷がみるみる塞がっていく。
「治ったね〜」
その言葉に皆は安堵の表情を浮かべたのだが、ドクターの練成治療を受けてもなおキリトは地面を見つめたまま動かない。
キメラの瞳の効果かね〜と思案気な表情のドクターに能力者達が重い雰囲気に包まれる中、
「ラッコキメラに魅了されたレディは助けても、男に対して特殊技能キス・クマを使う気は一切ないですからね!?」
シロウがそれを突き刺し、破り捨てて、踏みにじるような発言を行った。
‥‥言わなければいいのに。
「‥‥その手がありましたわね」
シロウの言葉にはっと気付いたような百合歌が彼の左腕に自身の腕を絡ませると、
「シロウ兄、良い事言うね」
それに呼応するように宙華も右腕をがっしり掴んで、2人で彼をキリトの方へと引っ張っていく。
数分後には訪れるであろう悲惨な結末に慌てたシロウが辺りを見回すと、周囲の能力者達は無言で視線を送った。
他に妥当な方法がないからね〜、面白そう、何をやっているんですか‥‥等々。
その意味こそ様々だったが、皆一様にやんわりと受容モードに入っていた。
(「四面楚歌!?」)
孤軍奮闘するシロウ。そんな彼に埋め込まれたエミタは、持ち主が危機的状態に陥ったと錯覚したのか、シロウを愛らしい白熊へと変化させた。その様子に、
「まぁ、嫌だなんて嘘ばかり‥‥」
ふふふと笑う百合歌。その背に純白の翼が現れたかと思えば、
「すれば楽になる‥‥」
容疑者を尋問するような台詞を吐いて黒い笑みを浮かべる宙華。
嫌がるシロウの必死の抵抗もむなしく、宙華と百合歌は問答無用で引きずっていく。
「我輩もキメラに魅了されていたらああなっていたのかね〜」
その壮絶(?)な光景を前にドクターが呟くと、咲耶は微笑を浮かべながら、
「そうなりましたら、わたくしが正気に戻れるようお手伝い致しますわ」
こんな感じかしら‥‥とその方法――平手打ち――を実演してみせる。
彼女の爪の色は常ならぬ深紅に染まっており、その手の動きは非常に素早い。
その勢いは困るね〜と助けを求めるようにロジーへと目を向けたドクターに、彼女はころころと笑い声を上げながら咲耶と同じように覚醒してみせた。
――数分後。
幾多の攻防に打ち勝って遂にシロウをキスさせる事に成功した宙華・百合歌。
達成感に満ち溢れた表情の彼女達の横では、
(「け、穢された‥‥」)
両手・両膝を地面につき、真っ白に燃え尽きてしまったようなシロウと、
「‥‥ハッ、ぼ、僕は何を‥‥」
正気へと戻ったキリトの姿があった。
●ぷらすあるふぁ
跳躍補助により、上空へと飛び上がった百合歌。
そんな彼女のスリットから覗いた足を、シロウがそれはそれはにこやかな笑顔を浮かべて見つめていたのを目敏く見つけられ。
女性陣総出で踏みつけられたシロウは『何か』に目覚めかけた。だが、それはまた別の話‥‥。