タイトル:【響】Searchマスター:朝臣 あむ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/03/04 14:22

●オープニング本文


 崩れかけたビルの階段を、エリス・フラデュラーはメモを片手に上っていた。
 階段を上るたびに響く足音。
 その音を聞きながら上りきると、彼女の目がメモに落ちた。
 メモに書かれているのは、この建物の住所と尋ねるべき部屋番号だ。
 彼女は目的の場所を確認すると、メモと並ぶ部屋の表札を眺めながら足を進めた。
 そして一番奥の部屋の前で足を止めると、表札を見上げる。
 部屋番号以外、何も書かれていないそれに目を瞬き、いま一度メモに目を落とす。
 そうして僅かに思案した後、彼女の手が呼び鈴に伸びた。
――ピンポーン‥‥。
 辺りに響くほど大きな音に、ビクッと身を引く。
 すると直ぐにその扉が開かれた。
「ハイハイ、どちら様ですか――‥‥っと?」
 ボサボサの金の髪に、億劫そうな瞳。
 僅かに生えた髭がこの人物の不摂生ぶりを想像させる。
 男はエリスの姿を捉えると、僅かに驚いた表情を浮かべて見せた。
「‥‥キルトさん、こんにちは‥‥お久しぶり、です」
 ぺこりと頭を下げたエリスに、男――キルト・ガングが慌てて頷く。
 そしてその首を傾げると、彼女の手に握られたメモに目を向けた。
「その字は‥‥何か訳ありか」
 メモの筆跡は、キルトが良く知る人物の物のようだ。
 彼は僅かに思案の間を見せると、小さく息を吐いて扉を開け放った。
「依頼か、面倒事か‥‥どちらにしても長くなりそうだな。入るか?」
 そう問いかけて中に促す仕草に、エリスはコクリと頷きを返し、中に足を踏み入れたのだった。

「――あの森にもう一度行きたい?」
 訝しげに紡がれた言葉。
 それにエリスの首が縦に揺れる。
 そんな彼女の手には、キルトが用意したホットミルクのカップが握られていた。
 そして彼の手元にも同じものが握られている。
「何だって、あんな危険な場所に。また救助者が出たとかでもないだろ」
 エリスが言う『森』とは、キルトが先日遭難した場所のことだ。
 磁場が悪く、KVでさえ故障してしまったそこへ、誰が好んで行くだろう。
 それにあそこには危険なキメラがいる。
 それはキルトやエリス、彼を救助に来た能力者たちも確認済みだ。
「‥‥落とし物、したの‥‥」
 小さく零された声に、キルトはカップの中身を啜ると目を眇めた。
「何、落としたんだ。化粧品か? それとも金とか」
「‥‥フィルム」
 ふるふると首を横に振った彼女の首からは、高そうなカメラが提げられている。
 そう言えば、救助に来た時にしきりに写真を撮っていた。
「そう言やあ、写真家だったか。しっかし、フィルム1つの為にあそこに行くったってな」
 フィルムと命。一般の人からすれば、考えるまでもなく命を取る選択肢だ。
 だがエリスは言う。
「‥‥あれがないと、キメラの調査‥‥してもらえないの‥‥」
「調査?」
 問いかける声に頷くと、彼女は落としたフィルムの説明を始めた。
 どうやらフィルムは、森の中にいた『危険なキメラ』を撮ったものらしい。
 大きな甲羅を背負った鰐――そんな言葉が合うキメラは、生態は愚か能力すら不明だ。
 だが姿がわかれば何か対策や、わかることがあるかもしれない。そして写真は能力者の勧めがあって撮ったものでもあるのだ。
 調査のために、今後のために‥‥そんな想いで危険を冒して撮ってきた物。それをどこかで落としたらしい。
「‥‥フィルムは‥‥キルトさんに会ってから、3回換えてるの‥‥それの、どこかで落としたと思うの‥‥」
「帰り道か‥‥まあ、探せなくはないだろうが。あのキメラの目を掻い潜ってとなると大変そうだな」
 思案気に呟きながら、キルトはふとテーブルに置いていた書面を拾い上げた。
「まあ、助けて貰った恩もあるしな。今は大人しくしてろってお達しも来てるし‥‥まあ、良いか」
 そう呟くと、彼は書面を置いてエリスの頭に手を置いた。
「わかった、手を貸してやる。ただし、他にも手伝いは寄こせよ。俺1人じゃ無理難題過ぎる」
 言って笑った男に、エリスはぱあっと表情を明るくすると、何度か頷いて見せた。

●参加者一覧

瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
リヒト・ロメリア(gb3852
13歳・♀・CA
ネジリ(gc3290
22歳・♀・EP
一ヶ瀬 蒼子(gc4104
20歳・♀・GD
ミコト(gc4601
15歳・♂・AA
王 珠姫(gc6684
22歳・♀・HA

●リプレイ本文

 高速移動艇の中でネジリ(gc3290)は、右往左往と落ち着きのない動きで遠巻きにエリス・フラデュラー(gz0388)を見ていた。
 その右手はずっと握られたままだ。
「エリスが自分で選んだというのは判ってる‥‥だが‥‥でも‥‥」
「ネジリさん?」
「!」
 ビクッと肩を揺らして振り返った彼女に、瓜生 巴(ga5119)とリヒト・ロメリア(gb3852)が顔を見合わせる。
「ネジリさん‥‥もしかして、まだ気にしてます?」
 出発前に、エリスが再び森へ向かう理由を作ったのは自分だと、彼女は自己嫌悪に陥っていた。
 巴は自分が掛けた問いに視線を落としたネジリを見て、僅かに首を傾げた。
「エリスさんなら、何も言わなくても撮ってたんじゃないかな」
「そうそう。それにフィルムを見つけて皆無事に帰れればそれで全て事もなし。あのキメラを討伐する糸口も見つけられるかもだし、大団円」
 巴の言葉に続いたリヒトは、ニコリと笑ってネジリの顔を覗き込んだ。
「でも、俺が写真を撮ることを提案したりしなければ‥‥」
 そう呟き、ネジリは握り締めたままの手に視線を落とした。
 そこに声が響く。
「嬢ちゃんたち良いか?」
 声を掛けてきたのは、キルト・ガング――前回、要救助者だった男だ。
「さっきからエリスがおかしくてな。如何にか出来んか?」
「エリスが‥‥?」
 躊躇いがちに見た先にいるのは、カメラを見詰めたまま動かないエリスだ。
「何か考え事してるらしいんだが、俺には教えてくれなくてね」
 苦笑するキルトに、ネジリが戸惑う。
 その様子にリヒトが囁いた。
「大団円‥‥そうなる為に頑張らないと、ね?」
 再び笑んで見せる彼女に、漸くネジリの足が動いた。
 そこにはエリスの他に、一ヶ瀬 蒼子(gc4104)もいる。
「人間誰しもミスはあることだし、何よりもう一度あの場に行って探したいという貴女の考え方は好意が持てる」
 言って、蒼子の手がエリスの頭に伸びたのだが、その動きが不意に止まった。
 視界にネジリの姿が入ったのだ。
「ま、まあ、あれよ。アフターケアもしっかりこなしてこそプロってね。失せ物探しは本職じゃないけれど、ま、任せときなさい」
 咳払いをして、僅かに顔を赤らめて言う言葉に、エリスの目が上がった。
 数度目を瞬き、頷き返した彼女に蒼子はホッと息を吐く。そこにネジリが声を掛けた。
「あ、の‥‥エリス」
 ビクンッと跳ね上がった肩に、ネジリだけではなく蒼子や巴たちも目を瞬かせる。
 そして僅かな間の後に向けてきたエリスの目は、戸惑いに満ちていた。
「‥‥ごめん、なさい‥‥」
 小さく零された声に、ネジリの目が見開かれる。
「‥‥フィルム、落として‥‥ごめんなさい」
 そう言って落とされた視線に、蒼子は今回依頼を聞いたいときに思ったことを思い出していた。
――写真家が肝心のフィルムを落としたらマズイ。
 彼女は確かにそう思っていた。
 だがその考えは、エリスが自らフィルムを探しに行くと言う事で打ち消された。そして、どうやらエリス自身もその思いを持っていたようだ。
「‥‥怒ってる、みたいだったし‥‥あの、頑張って、見つけるから」
 だから許してほしい。
 そう言外に告げられて言葉に詰まった。
 そもそも、ネジリが近付けなかったのは自己嫌悪をしていたからであって、エリスを怒っていた訳ではない。
 だがエリスはそう受け取らなかったようだ。
「あ゛〜‥‥う゛〜」
 頭を抱えそうになるネジリの肩を巴が叩いた。
「大丈夫です」
 勇気付ける声に、ネジリは目を戻した。
 そして閉じたままの右手をスッと差し出す。
「て、敵が来れば戦えばいい、勝てないのなら逃げればいい‥‥」
 手を出すように促す彼女に、エリスが不思議そうに手を差し出す。すると、そこに銀色の小さな笛が落ちてきた。
「これ‥‥」
「危機が迫ったら使え。後の事なんて俺達がどうとでもする――いや、してみせる」
 言ってそっぽを向いた彼女に、エリスは目を瞬いた後に笑みを浮かべると、笑顔でそれを抱きしめた。
 その姿にネジリはホッと息を零す。
 そして、その様子を離れた位置で見ていたミコト(gc4601)は、自分の手を見るとギュッと握り締めた。
「‥‥今回もしっかり、守ってみせるよ‥‥」
 口中で呟き、顔を上げる。
「やぁ、また一緒だね。今回もよろしくね、エリスちゃん」
 明るく笑顔で掛けた声に、エリスが笑顔を返す。
 そこに王 珠姫(gc6684)が近付いて来た。
「エリスさん、キルトさん。はじめ、まして。‥‥よろしく、お願いします」
 穏やかに微笑む彼女に、エリスは頭を下げ、キルトが片手を上げて見せた。
「何か新しいことが判るかも、しれませんし‥‥お力添えできるよう、頑張ります、ね」
「ああ、よろしく頼むよ」
 軽く笑って言葉を返すキルトに、珠姫は穏やかな微笑みを浮かべて頷きを返した。

●捜索開始
 森は予想以上に蒸し暑かった。
 原因は数日前に降ったと言われる豪雨だ。
「想像以上に、暑い‥‥」
 運を味方に付けるスキルを発動させた蒼子は、周囲を見回すと息を吐いた。
 森の中を歩き始めて少し。
 それだけなのだが、既に汗が頬を伝っている。この状態では目的地に着く頃には汗びっしょりになっているだろう。
 それに問題は暑さだけではない。
「大丈夫? 2回目だから慣れてるかもしれないけど、油断したら怪我しちゃうからね」
 雨に濡れてぬかるんだ場所に足を取られたエリスをミコトが支える。
 彼が言うとおり、油断は禁物だ。
 それに足場は以前とは比べ物にならないほど悪い。
「それとも、少し疲れたかな?」
 問いかけるミコトの声に、エリスは慌てて首を横に振った。
 歩き始めてそんなに経っていない。慎重に歩くことで神経は使うが、ここで疲れていると言う訳にはいかなかった。
 だが――
「エリスちゃんも疲れてるみたいだし、少し休憩したらどうかな? 無理はしないで万全の状況を保つようにした方が、結果的に良いかもしれないよ」
 ミコトがそう言うと、皆の足が止まった。
 その様子に、エリスが慌てて口を開こうとするのだが、不意に彼女の動きが止まった。
 見覚えのある目印と、木の並び。
「‥‥ここで、フィルム‥‥替えた‥‥」
 ポツリと呟かれた声に、皆が顔を見合わせる。
「それじゃあ、ここにテントを張ろう」
 巴はそう口にすると、仲間と共に野営の準備を始めた。
 その姿を見詰めながら、ふと彼女の目が瞬かれる。
「‥‥何、してるの?」
 テントを張り終えた後、別の行動を取った巴に、エリスは首を傾げた。
「区画ごとに釘って、そこを一つずつ潰して行くんです。高低差や水の流れを意識しながら、盤目を周囲に拡張して行って、しらみ潰しの精度を上げるんです」
 地面に打たれた杭。それに張られた紐が、周囲を碁盤の目のように区切る。
「素人なりに、プロの真似事というのは効果があるもんです」
 彼女はそう言うと、区切り終えた区画を眺めた。
 出来上がった区画は整っていてわかり易い。
 それを感心した面持ちで眺めていたエリスに、ネジリが声を掛けた。
「‥‥エリス‥‥その、出来れば前にここでした行動を再現してほしいんだが‥‥」
 遠慮気味に問う声に、エリスは素直に頷いて見せる。
 そして、実際にフィルムを交換して見せると、全員があることに気付いた。
「エリスさん、そのままフィルムを入れるのですか?」
 フィルムを鞄の空いたスペースにただ突っ込むだけの姿に、珠姫が問う。
 それに頷きを返すと、蒼子は苦笑を浮かべた。
「それは、落としても仕方がないな」
 そう口にして班を捜索と護衛に分ける。
 そして動き出す前に、珠姫が超機械「スズラン」を構えた。
「まずは、敵の有無を‥‥調べます、ね」
 木々の影にしゃがみ込み、意識を集中させると、横笛に唇を寄せた。
 研ぎ澄まされた感覚が大地に糸を張る蜘蛛の如く生き物を探ってゆく。
 そして僅かな時の後、彼女はゆるりと立ち上がって皆に微笑んで見せた。
「異常、ないようです‥‥」
「では捜索を開始しよう」
 蒼子の声に皆が動き出す。
 だが、ネジリだけは躊躇いがちに足を止めると、エリスの護衛として残る、珠姫とミコト、そしてキルトを見た。
「エリスを頼む‥‥もし怪我したら‥‥泣く」
――主に俺が。
 若干目を潤ませて告げる言葉に3人が頷きを返す。
 こうしてフィルムの捜索を始めたのだが、捜索は思いのほか難航した。
 捜索の際には、巴と蒼子がスキルを使って運を上昇させている。
「豪雨が降ったって話だったから、土に埋もれてる可能性も無いとは言えない、ね」
 リヒトはそう言って、区画を慎重に探してゆく。
 フィルムは踏まない様に歩き、被った土や草がある場所は残すことなく確認する。
 そして蒼子もまた、念入りに区画を捜索していた。
「結構、酷い雨だったみたいだね」
 土の流れが急になっている様子に呟き、一時でも小川や池が出来ていたことを確認する。
 その上で流される可能性を考え区画を増やしてゆくと、不意に巴が空を見上げた。
「流されていたら相当。運よく何処かに引っ掛かっていると良いのだけど‥‥ネジリさんはどう?」
 見上げた先には、ネジリが使い捨てカメラを使って周辺の写真を撮っていた。
 その手には、周辺の地図を記した紙もある。
「変わったものはないな‥‥ただ、もうすぐ日が落ちそうだ」
 そう言ってカメラに目を落とす。
「使い方を、エリスに教えて欲しいが‥‥むむ‥‥」
 話は出来るようになった。
 だが自分の中に僅かなわだかまりがある為に、素直にお願いが出来ない。
 そんなジレンマに襲われながら写真を撮り終えると、彼女はスルリと木を降りた。
「残念だけど、1つ目はハズレだね」
 蒼子はそう言って姿勢を正すと、他の仲間と共にエリスの元に戻った。
 そして一夜をこの場所で凄し、別のポイントに向かったのだが――
「――ここにもないですね」
 巴は新たな区画を見回して呟いた。
 既に日が傾き始め、辺りは薄暗くなっている。
 時間的にもこれがタイムリミットだ。
「戻りますか?」
 リヒトの声に巴が頷いた時、彼女たちの耳に草を割る音が響いた。
 その音に全員が武器を取る。
 そして戦闘態勢を整えた所で出てきたものに、一行は目を瞬いた。
「うさぎ‥‥?」
 茶色い野兎が飛び出してきたのだ。
 ヒクヒクと鼻を揺らして周囲を見回す様子に、思わず誰ともなく笑い声が零れる。
「戻りましょうか?」
 巴はそういうと、構えていた武器を納めて皆を振り返った。

――一方、エリスの元では想像外の事が起きていた。
「エリスちゃんは、俺たちの後ろにいるんだよ」
 ミコトはそう言って前を見据える。
 その先に居るのは野生の猿だ。
 木の上からエリスたちを見下ろす猿は、手に何かを握り締めてウキウキしている。
「お猿さんが、フィルムを‥‥どう、しましょう」
「撃てばいいだろ」
 あっさりそう言って小銃を構えたキルトに、珠姫とエリスが慌てて彼の腕を引き止めた。
「だ、ダメです。何も、悪いこと‥‥していないのに」
「‥‥気絶は‥‥ダメ?」
 2人の少女から言われては彼も無暗に撃てないようだ。
 小さく舌打ちを零して狙いを猿から別の場所に移す。
 これに猿が警戒した。
「あ‥‥――待て!」
 木を伝って逃げ始めた猿を、ミコトが慌てて追いかける。
 そこに捜索班が到着した。
「猿が持ってましたか」
 言って、巴がエネルギーガンで猿の進行方向にある枝を撃ち落す。
 これに猿の動きが止まった。
「ここで一気に仕留めて――」
「それはだめだ!」
 ミコトの声に、駆け出そうとした蒼子とリヒトが止まる。
「エリスちゃんが、殺しちゃダメだって‥‥気絶で如何にかならないかな?」
「‥‥気絶。手加減が難しそうです」
「確かに。私達では殺しかねない」
 戸惑い動きを止めた能力者に、猿は急いで別の枝に移ろうとする。
 だがそれをネジリが青色の剣で叩き落とすと、猿が木のさらに上へと進みだした。
 このままでは逃げられてしまう。
 誰もがそう思った時、涼やかな声が響いてきた。
 そして彼らの目の前を、実態を持たない鳥が横切る。
「ハーモナーの、呪歌‥‥」
 歌を紡ぐのは、珠姫だ。
 彼女は目で猿を捉えるよう仲間に指示すると、更に歌を歌い続けた。
 これに蒼子とリヒトが同時に銃を構える。
 そして――
 狙い通りに落とされた枝。そこから落ちる猿をネジリがキャッチすると、フィルムは無事彼女たちの手に戻ってきた。

●やや難‥‥?
 帰り道、杭を集めていた巴は、ふと以前この森で会ったキメラを思い出した。
「今回は会わずに済みましたが、もし次に会ったら面倒ですね」
「毎回逃げるわけにもいかないし、何か対策が取れると良いのだけど」
 巴の声を拾って蒼子が呟く。
 そこにネジリも加わると彼女はある疑問を口にした。
「あのワニは、元からああなのか? だとしたら何か目的があって‥‥それとも、成長か?」
「その辺は調べないとわからないだろうけど、エリスちゃんのフィルムも見つかったし、これでここのキメラの事が少しは分かるかもしれない」
 確かに、彼女の撮った写真がキメラ退治のキーワードになる可能性は高い。
 だからこそここまでフィルムを取りに来たのだ。
「そしたら、お手柄だね」
 にこっと笑ってエリスの顔を覗き込んだ彼に、エリスは少しだけはにかんだ笑みを返す。
「あとは無事に戻れれば、それで問題なしかな」
 蒼子はそう口にすると、僅かに離れた位置に立つキルトを見た。
 未だ彼の戦闘能力はわからない。そして、難のある性格も見えてこない。
 思案気に彼を見ていると、リヒトが近付いて行くのが見えた。
「お疲れさまでした」
 その声にキルトの目が向かう。
「キルトさんは傭兵なんですよね。どんな武器や戦闘が得意なんでしょう。いろいろ経験も積んでそうですし、バグアとかにも会ったこと――あれ?」
 言葉の途中でリヒトの目が瞬かれた。
 お互いを知れば戦術の幅も広がるかもしれない。そう思って話しかけたのだが、彼女の目がキョロキョロと揺れた。
「リヒトさん、ここ‥‥」
 巴の声にリヒトの目が向かう。
 そこで彼女が目にしたのは、巴の後ろに隠れてブルブル震えているキルトの姿だった。
「え‥‥ちょ、どういう‥‥」
 今にも泣きだしそうな彼に、他の皆も唖然としている。
「今の会話の何処に、怯える要素が‥‥だって経験を積んでそうだし、バグア――」
「ぎゃんっ!」
 奇声を上げて今度は木の影に隠れたキルトに、リヒトの口元が引き攣る。
「もしかして、バグ――」
「何度も言うんじゃねえええ!!!」
――やっぱり。
 そんな声が何処からともなく聞こえた気がした。
「もしかして、これがやや難の性格、でしょうか?」
 珠姫の声に巴が苦笑を滲ませる。
「性格と言うよりも、傭兵として難がある気がしますね」
 その声に、皆は子犬のように震え続けるキルトを、何とも言えない表情で見詰めたのだった。