●リプレイ本文
「はじめまして、キョーコ・クルックよ」
戦闘用メイド服に身を包んだキョーコ・クルック(
ga4770)はそう言って、ビューティーホープ(gz0412)こと君塚愛に手を差し出した。
普段はマスクとマントも愛用している彼女だが、子供たちの手前それは不用だろう。
キョーコはこちらを見ている子供たちに微笑むと、軽く手を振って見せた。
それに子供たちの目が輝く。
「子供達の笑顔が見たいから参加したけれど、やっぱり良いものね」
子供たちがすぐ傍に居る。それだけでも気分は違うものだ。
そしてその声に同意したのは殺(
gc0726)だ。
「ああ。たまには、こういう人の為になるのも良いな」
本部で依頼を目にした時から気になっていた。
彼は握手を終えた愛に視線を向けると、キョーコと同じく手を差し伸べた。
これに愛の動きが止まる。
「殺って言います」
穏やかな笑みに、愛の目が手と彼の顔を行き来する。そして躊躇いがちに伸ばした手が彼の手を取ると、それを握り返したのだった。
「子供たちが、喜んでくれる様な物が出来ればいい、そう思っています。ですので今日はよろしく」
「こ、こちら、こそ‥‥」
よろしくお願いします。
愛は消え入りそうな声でそう言うと、直ぐに手を放してしまった。
それを見ていたリヴァル・クロウ(
gb2337)は先ほど見た愛の身体能力を思い出す。
「‥‥見かけによらず随分と高い身体能力を有しているな」
呟き思案気に視線を落とす。
内気で引っ込み思案な性格。それを考慮するならば、愛はリスクを考えてしまい踏み込めないタイプであろうと考える。
そして考え込む彼の呟きが聞こえたのだろう。ミコト(
gc4601)がその声に同意した。
「そうなんだよね。見た目よりもいい動きするよねぇ」
そう言って愛に歩み寄ると、彼は遠慮なしに彼女の顔を覗き込んだ。
「っ、‥‥なん、でしょうか?」
一歩下がって訝しげに向けられた視線。それにミコトの首が傾げられる。
「? どっかであったことある? なんか同じような雰囲気の人と会ったことがあるんだけど‥‥」
「え‥‥あの‥‥」
愛自身は覚えていることがある。
しかし答えるわけにもいかず戸惑っていると、救いの手が伸びた。
「ふふ、正義の美少女戦士がいると聞いて見に来たわ」
少し勝気な印象を与える少女――エヴァ・アグレル(
gc7155)は、そう言って愛の前に立った。
「はじめまして。エヴァは小さい頃に自分の物は自分で作れと教えられたわ。自分でやるのは学べる事が多くて楽しかった」
今回の遊具作成の依頼。それは彼女の経験上とても有意義なものになろうだろう。
だからこそ子供達にも同じ経験をして欲しい。
エヴァは新たな提案しながら愛に握手を求めた。
そんな彼女の目が飛んだ。
「あら」
目に入ったのは、もじもじとこちらを伺っているクリスティン・ノール(
gc6632)の姿だ。
エヴァはにこりと笑んでクリスティンにも手を差し伸べた。
それに彼女の顔が明るくなる。
「はじめまして。クリスですの!」
笑顔で握り返した手に、エヴァが頷く。
「エヴァよ。11歳のレディなの。宜しくね」
「11歳――じゃあ、エヴァねーさまですの!」
1つだけだがエヴァの方が年上。そう聞いてクリスティンは素直に喜んでいる。
「ぜひ、お友達になって貰えたら嬉しいですの」
ニコニコと言うクリスティンは愛と同じく施設の出身者だ。
彼女が育った場所もマリア様に見守られた素敵なところだったと聞く。
同じ年頃の女の子2人が話をしているのは実に華やかだ。
その姿を見ながら、リヴァルは再び考えに浸っていた。
「ごっこ遊びとは言え、かなり大胆な行動に出ていた‥‥それは、それなりの根拠があるといこと」
それらを踏まえた上で出る答えは――愛も能力者である――という事だ。
そしてもう1つの答えに到ろうとした所で彼の思考は遮られた。
「あたしは滑り台を提案するよ」
キョーコはそう言うと、自らが考えた設計図を取り出した。
「強度、安全性等も計算してある。それにここに来る前に役所にも顔を出してきたんだけど――」
彼女はここに来る前、役所で話してきた内容をシスターに聞かせた。
これにシスターは嬉しそうに耳を傾けている。
「資材の調達も楽になるし、子供たちの遊び相手も増える。一石二鳥だと思うんだけどどうだい?」
「そうですね。地域の子達と一緒に遊べるようになれば、この子達の成長にも良い影響を与えるでしょう」
彼女の提案は施設の遊具を地域の子達も使えるようにするというもの。そうすることで資材の調達の協力を役所に言うこともできる。
そしてその提案に乗る形で他の者達もそれぞれ意見を交わし始めた。
「俺の案はここに」
殺が差し出したのは、ビッシリと遊具のアイデアが書かれたノートだ。
「‥‥凄い」
「タイヤを横にして吊るしたブランコ、タイヤを下半分地面に埋めた跳び箱兼飛び石、木の板と丸太で作るシーソー‥‥どれも俺たちで制作可能なものだ。どれが良いだろう?」
確かにこれらは力のある能力者なら作ることが可能だろう。
それに書かれている設計方法はどれも精密で、安全に作ることが出来そうだ。
「クリスも、ブランコは作りたいですの! それと、秘密基地もですの!」
目を輝かせるクリスティンにエヴァも同意する。
「秘密基地なら、子供達と一緒にも作れるわね。私は他に竹馬なんて考えてるけど‥‥」
どうかしら?
そう首を傾げる彼女に、愛とシスターは顔を見合わせると嬉しそうに笑いあった。
「こんなに‥‥たくさん‥‥嬉しい」
来て貰えたことだけでも嬉しいと言うのに、ここまでして貰えることが嬉しい。
そう口にする愛の肩をミコトが叩いた。
「さってと。こういうの作るの久しぶりなんだよねぇ。ちょっと大物だから‥‥端っこのほうがいいのかな?」
言って彼が広げるのは、アレチックコースを考えた設計図のようだ。
愛は能力者たちの姿に胸の前で手を組むと、静かに例の言葉を口にして作業に移って行った。
●遊具作成
「施設が2階建てならそこから庭に滑る形に出来たんだが‥‥」
リヴァルはそう呟き腕を組んだ。
生憎と孤児院は1階建て。流石にそれは出来ないと、彼は2階からの構想を諦めてキョーコの手伝いをしていた。
「砂場はこんな感じで良いかね」
穴を掘って囲いを板で作った場所。そこに砂を流し終えたキョーコは、腰に手を添えるとリヴァルを振り返った。
その視線に彼は神妙に頷きを返す。
「これならば安全面での問題もないだろう」
滑り終えた後、硬い地面があったらそれだけで足を挫く可能性もある。だが砂がその場にあるのなら話は別だ。
「それに――」
リヴァルはキョーコと共に作った滑り台を見て僅かに苦笑を滲ませた。
「形も個性的だ」
「個性的なんて酷いじゃないかい。可愛い象の形だろう?」
確かに滑り台の形状は象で出来ている。
2人で協力してささくれや鉄のバリ等に注意を払ったおかげで子供が怪我をする可能性は殆どない。
キョーコは満足そうに滑り台を見ると、笑顔でこちらを見ている子供たちを振り返った。
「よ〜し、みんなであの滑り台を象さんの色にしようか〜♪」
そう言った彼女に、子供たちは大喜び。
それぞれペンキを手に楽しそうに色を塗り始めた。
「はい、あんたはこれを頼むね」
言って手渡されたのはカメラだ。
これで写真を撮れということらしい。
リヴァルはフッと笑みを零すと、カメラを構えフィルター越しに子供達を捉えたのだった。
殺はクリスティンと共にブランコの作成を終えると、満足そうにそれを眺め見た。
「よし、これでブランコの完成だ。安定感も悪くなさそうで良かったよ」
「タイヤのブランコは、くるくる回って楽しいですの♪」
クリスティンはそう言うと、鉄パイプを固定して作ったブランコを見た。
タイヤを乗り場にして回転する様に作られたそれは、子供たちが喜びそうな遊具に仕上がっている。
「だな。後は、跳び箱兼飛び石を作って‥‥ん?」
殺は残ったタイヤを手に動き出すと、ふとその動きを止めた。
その視線の先に居るのはミコトだ。
「ロープと丸太があれば結構なんでも作れるんだけどねぇ。後はメンテナンスなんだけど‥‥その辺は、年長の子たちがやってくれるかな?」
ニコリと笑ってロープの結び方を披露する彼の周りには、彼の年齢に近い男の子たちが集まっている。
彼らはミコトの手元を見ながら、ロープの結び方を教わっている様だ。
ミコトもまた、そうした彼らに丁寧に指導してゆく。
「やっぱ傭兵やってるとこうしたことも出来るようになるのかな?」
ロープの結び方を教わっていた少年の一人が呟いた。
その声にミコトは手を止めると、自らが地面に突き立てた木の杭や丸太を見て首を横に振る。
「無人島でサバイバルするゲームとかでちょっとね。あるものを使って生活するって大変だったよ」
言って笑って見せる彼に、少年たちは興味津々の様子。
手を動かしながらその時の様子を聞くなど、終始和やかな雰囲気に包まれていた。
そしてもう1カ所、和やかな雰囲気に包まれる場所があった。
「手軽なのはダンボールハウスかしら?」
口にして首を横に捻ったエヴァに、クリスティンが目を輝かせる。
「ビニールシートを敷いた上にダンボールで作るですの。上からビニールシートをかぶせれば、防水対策にもなるですの!」
「そうね‥‥」
どうやら2人は当初予定していた通り秘密基地を作るようだ。
その周辺には孤児院の子供たちもいる。
「床上浸水防止と地熱冷気の軽減の為に、一番下の床に敷くパレット状の物が欲しいわ」
「床上浸水‥‥えっと、難しい事はクリスは解らないですの。エヴァねーさまは凄いですの!」
クリスティンはそう言うと、エヴァの指南の元準備を始めた。
段ボールをガムテープで繋ぎ、ベニヤ板で補強。ダンボールとベニヤ板の間にはビニールシートを敷き込んで雨対策にした。
「出来れば、通湿シートで外部を覆い、発砲系板状の断熱材を施したいわ。屋根は傾斜させないと雨で水が溜まり危険ね」
着々と出来上がる秘密基地。
既に指揮官はエヴァ、その指示で動くクリスティンと子供たちの息はぴったりだ。
そうして出来上がった秘密基地に、寒さ対策の毛布を敷くと、彼女は満足そうに出来上がった基地を見詰めた。
「あとは好きなものを持ち込んで――あ、もちろん大人禁制よね?」
肩目を瞑って見せるエヴァに、クリスティンが笑顔で頷く。
「そうですの。あとハンモックがあると楽しいと思いますですの」
「ハンモック‥‥確かに良さそうね」
そう言うと2人は最後の仕上げにと、残ったロープをミコトから分けて貰い、ハンモックの作成に入ったのだった。
●美少女戦士ごっこ☆
出来上がった滑り台の上、華麗に登場した仮面の戦士。
彼女は赤く染まる唇の口角を上げて微笑むと、前を閉じていたマントを勇ましく開いた。
「正義の戦士メイド・ゴールド参上! 伯爵に代わってお仕置きだ♪」
青い空に舞い上がるマント。それの行く先を見届ける暇もなく、彼女の足が地を蹴った。
ヒラリと舞い上がる黒いメイド服。それに子供たちの歓声が上がる。
「メイド・ゴールドだと? 小癪な!」
言ってロックを掛けた機械剣を構えた殺は、その切っ先を彼女に向けた。
それにメイド・ゴールドの鉄槌が向かう。
だがそれは別の勢力によって遮られる。
「ふふ、面白そうね」
黒光りする大鎌を手にメイド・ゴールドの攻撃を遮ったのは、エヴァだ。
彼女は間合いを取った彼女に向かって大きく振り上げた鎌を向ける。
「何者!?」
「私? 私は殲滅天使エヴァ。美しい希望を殲滅するわ」
「きゃぁ!」
鎌の柄で器用に引き寄せたのは、人質の役を買って出たクリスティンだ。
「助けてーですのー!」
若干抜けた感じはあるのもの、能力者同士の立ち回りということもありその動きはかなりなもの。
子供達も真剣にその姿を見詰めている。
その姿を感慨深げに眺めると、リヴァルは穏やかに眼鏡の向こうの瞳を細めた。
「何の為に戦うのか、その本質がここにはある」
静かに紡ぎ出された声に、紫の風呂敷を肩にかけた愛が微かに微笑んで頷いた。
「この子たちの笑顔‥‥それを守れるなら、私はどんなことでも‥‥」
その声にリヴァルの目が向かう。
「その風呂敷はビューティーホープを演じるためのものか?」
問いかけに彼女の首が縦に揺れる。
それを見止めて彼の目が美少女戦士ごっこを繰り広げる仲間たちに向いた。
「初見の人物に言うのも違和感があるかもしれないが‥‥ビューティーホープは、君に良く似ている人物であった」
「!」
微かに息を呑む音が聞こえたかもしれない。
しかしそれに目を向けるよりも先に、子供たちの声援が彼女を引き戻した。
「ほらほら、逃げられちゃうぞ〜」
目を向けた先ではミコトが子供達ではなくメイド・ゴールドを相手に立ち回っているところだった。
3人対1人。
人質がいる以上、圧倒的劣勢なのは確実だ。
「行くと良い」
リヴァルの声に愛は僅かに躊躇った後に頷くと、完成したアスレチックの遊具の上に飛び乗った。
「そこまでよっ!」
高く響く声に敵役の目が向かう。
「何者!」
「悪に名乗る名前は持ち合わせてないけど、折角だから教えてあげるわ!」
愛はそう叫ぶと、人差し指を彼らに突き付けた。
そして――
「よーく耳をかっぽじって聞きなさい! 私は美少女戦士ビューティーホープ、らす☆ほぷの傭兵に変わって貴方達を爆散してあげる!」
この決め台詞に子供たちは大喜び。
遊具を蹴って一気にエヴァの元まで詰めた彼女の身が、片足を軸に綺麗に回転する。
そうして大鎌が弾かれると、クリスティンが彼女の後ろに逃げ込んだ。
「くっ‥‥」
「メイド・ゴールド。一気に片付けるわよ!」
「わかったわ!」
2人は背を合わせて頷き合うと、それぞれの武器を手に敵役との距離を詰め、一気に地面に叩き伏せたのだった。
「ふふ、楽しかったわ、正義の味方さん」
エヴァは服に付いた砂を払いながらそう言うと、愛に握手を求めてきた。
その傍ではクリスティンが目を輝かせて彼女を見ている。
「クリスはこの間、本物にお会いしたですの!」
言って、興奮気味にビューティーホープの感想を紡ぐ彼女に、愛は穏やかに微笑んで見せた。
そしてその姿を地面に伏したまま見ていた殺は、僅かに苦笑を浮かべて頬杖をついていた。
「‥‥何時まで、こうしてればいいのかな?」
「さあ‥‥」
同じく地面に伏したままのミコト。
そんな彼に子供の一人が近付いて来る。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
その声にミコトの口元が引き攣った。
「いや‥‥俺、男だから‥‥」
そう言って苦笑した彼に、子供はきょとんとして目を瞬いたのだった。