タイトル:第2の美少女戦士現る?マスター:朝臣 あむ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/06 11:56

●オープニング本文


 雨が降り、人通りの少なくなった商店街の一角に存在する喫茶店『リリアン』で、大きな眼鏡に三つ編みおさげの少女が、嬉しそうな表情でフォークを口に運んでいた。
 彼女の目の前にあるのは、ふわふわのクリームが乗ったショートケーキだ。
 大きくて赤いイチゴのそれを口に運びながら、ふと窓の外を見る。
「‥‥雨、まだ降ってるのね‥‥」
 呟き、ケーキをパクリ。
 口の中で広がる程よい甘みのクリームが彼女の頬を綻ばせる。
 そうして全てを食べ終えると、彼女の目が紅茶のカップに落ちた。
「‥‥ケーキは、あたり‥‥紅茶も、あたり‥‥次は、モンブランかな‥‥♪」
 喫茶店『リリアン』は実は孤児院のシスターお勧めの店だ。
 久しぶりに孤児院を訪れた彼女は、買い出しを頼まれたついでに寄り道を勧められた。
「きっと、ここのケーキ‥‥お土産にしてって、ことなんだろうね‥‥」
 口にして思わず笑ってしまう。
 何せ、このお店の話をした時のシスターは凄くイキイキとしていたのだ。
 あの様子を見る限り、ここのケーキに焦がれていると言っても過言ではない。
 彼女は店員に声を掛けると、孤児院の子供たちを含めた人数分のケーキを注文した。
 荷物としてはかなりなものだが、子供達やシスターの笑顔が見れるならそれも良い。
 彼女はそうして再び紅茶のカップを手にしたのだが、直ぐにその動きが止まった。
「‥‥あれは」
 彼女の目が捉えたモノ、それは一定方向に逃げてゆく人々の姿。
 そしてそれを追いかけるのは、頭に布を被った人型のキメラだ。
 顔面に「へのへのもへじ」が書かれ、全身に白いシーツを被っている。
 言うなれば「テルテル坊主」そのもののキメラは、青い傘を手に人々を追いかけている。
「あーした天気に、なっちゃいやーん♪」
 回転する身体に合せてスカートの裾を翻すように広がったシーツ。そうしてキメラが傘を開くと、そこから無数の飴が放たれた。
 氷の礫ならぬ、飴の礫が人々を容赦なく襲う。
「いかなくちゃ‥‥っ!」
 その様子を店の中から見ていた彼女は、勢いよく立ち上がると、店の外に出ようとした。
 それを店員が引き止める。
「お客様、お外は危険です。それにケーキのご準備がまだ――」
「あ‥‥えっと、すぐに戻ります‥‥あの、この荷物、預かってくれませんか? お財布も、入ってます、から」
 言って、彼女は全ての荷物を店に預けて駆け出した。
 そうして向かったのは人目に付かない路地だ。
「ここなら‥‥」
 建物のお陰で雨を凌げるその場所に身を置いた彼女の目が、自らの手に落ちる。
 そして拳を握り締めた所で、思わぬ声が響いた。

――そこまでよん♪

 艶やかでしっとりとした声が響き渡る。
 その声に彼女の目が商店街の中央に向いた。
「頬を濡らし、色香を誘う雨滴‥‥女の価値は色気と美しさで決まるもの」
 声の主は見えない。
 代わりに真っ赤な薔薇の花弁が、雨に混じり降り注ぐ。
 それにキメラの目が向かうと、その顔が街灯の上にある影を捉えた。
「水も滴る良い女――そんな言葉がある程に、雨は女を美しく艶やかにするものよ。それを馬鹿みたいな駄洒落で汚すなんてナンセンス☆ 第一回らす☆ほぷ美少女コンテストの優勝者が許しても、わたくしだけは許してあげない♪」
 ブロンドの背までの髪を靡かせ、薔薇の花弁を振り撒く女性は、緑色の澄んだ瞳をキメラに向けると妖しげに微笑んで見せた。
 そんな彼女が纏うのは、身体の線を強調するような赤色の衣装だ。
 所々に施されたレースが可愛らしいが、スリットの入ったミニスカートから伸びる足は色香を纏っている。
 彼女は呆気に取られているキメラを見詰めると、スラリと無駄のない動作でレイピアを抜き取った。
 そして――
「愛と美の女神、美少女戦士セクシーホープ! お色気満載で、らす☆ほぷの傭兵に変わって悩殺してあ・げ・る♪」
 台詞が決まると同時に舞い上がった薔薇の花。それを受けて微笑むと、セクシーホープ(以下、SH)のレイピアがハートを描いた。
「うふふ、愛を分けてあ・げ・るっ♪」
 描いたハートが光の線を描く。そしてそこに投げキッスを落とすと、ハート形の光がキメラに向かった。
 実はこれ、レイピアにボタンがついており、そを押すことで電磁波を放ったのだが、これは少しだけ秘密にしておこう。
 キメラは、襲い来る光に、慌てて傘を開いた。
 そしてその光を飴の礫で打ち砕くと、改めてSHに攻撃を放つ。
 だがSHは怯まない。
 瞬時に街灯から飛び降りると、一気にキメラとの間合いを詰めた。
 そしてその胸にレイピアを刺そうとしたのだが、キメラはシーツを翻すと彼女の視界奪った。
 その瞬間に出来た隙、そこにキメラの傘が向かう。
 だが、飴の礫が放たれる前にSHの体がキメラの間合いから消えた。
「っ‥‥誰だか知らないけど、真っ直ぐ突っ込むなんて無茶よ。もっと慎重に行きなさい!」
 叱咤する声に目を向ければ、紫の瞳と目が合う。
 紫のちょっと痛い衣装を纏う、紫の髪の少女‥‥こんな人物は彼女しかいない。
「ビューティーホープ‥‥」
 SHはそう口にすると、自らを掴む彼女の手を振り払った。
 それに紫の瞳が見開かれるのだが、彼女は直ぐに気を取り直すと、キメラに目を向けた。
「こんな街中で暴れるなんて許せない。急いで退治しないと!」
 そう口にして腕を振り上げる。
 そして紫の電流を放つのだが、唐突に彼女の動きが遮られた。
「ふぎゃんっ!!!」
 突然髪に痛烈な痛みが走り、気付いた時には地面に倒れていた。
 目に入るのは、くすんだ雲と降り注ぐ雨だ。
 ビューティーホープ(以下、BH)は何が起きたのかと目をパチクリさせている。
 そしてそれを鼻で笑って見下ろしたのが、SHだった。
「あらあら無様ねえ♪ でも、いい格好‥‥美少女戦士は1人で充分だもの。お子ちゃま戦士は家に帰って寝てなさいな♪」
「なっ‥‥!」
「キメラはわたくしがじっくりねっとり倒してあげるから、安心して良いわよん♪」
 ふふっと、妖艶に微笑む彼女に、BHは口をパクつかせている。
 だがここで言われっ放しな彼女ではない。
 勢いよく立ち上がると、ビシッとSHの眉間に指を突きつけた。
「な、なんなのよ、貴女はっ!! 元祖美少女戦士はこの私よ! パッと出のお色気ババアになんか負けられないっ!!」
「お。お色気、ばばあ!? ぺちゃぱい小娘が何言ってんのよ!!」
「ぺ、ぺちゃぱいぃ〜!?」
 双方の米神に青筋が走った。
 そして弾ける激しい火花。
 まさに一発触発な状態が繰り広げられる中、その様子を少しだけ離れた場所で見ていたキメラが呟く。
「あーした天気に、なっちゃいやん?」
 寂しげに零された声に、誰が気付いてくれるだろう。
 スッカリ蚊帳の外に置かれたキメラ。
 その前で火花を散らす2人の美少女戦士。
 色々な意味で商店街は危機的状況に陥っていた。

●参加者一覧

葵 コハル(ga3897
21歳・♀・AA
王 憐華(ga4039
20歳・♀・ER
キョーコ・クルック(ga4770
23歳・♀・GD
エレノア・ハーベスト(ga8856
19歳・♀・DF
アルジェ(gb4812
12歳・♀・FC
殺(gc0726
26歳・♂・FC

●リプレイ本文

 雨滴を弾いて駆けるバイク。
 それに乗る殺(gc0726)は、ヘルメットの向こうにある表情を微笑ませハンドルを切っていた。
「楽しんでくれてて良かった」
 そう呟き思い出すのは、以前遊具を作った孤児院の事だ。
 実は先程までその孤児院の様子をコッソリ見に行っていたのだが、途中で雨が降ってきて切り上げたのだ。
 彼は自然と零れる笑みをそのままに商店街に入ると、通行人の為にバイクのスピードを落とした。
 そんな彼の横を通り過ぎる人々。明らかに普通ではない様子にバイクを止める。
「‥‥なんだ、この騒動」
 このタイミングで起こる騒動。これには覚えがある。
 殺はバイクを再発進させると、見えてきた光景に思わず目を見張った。
「あいつ、何してるんだ‥‥」
 ヘルメットを外して見た先にあったのは、キメラを放置して見覚えのない美少女戦士と言いあうビューティーホープ(gz0412)(以下、BH)の姿だ。
 幸いなことに、一般人の避難は終了しているようだ。
 しかし、この状況はよろしくない。
「キメラ‥‥それに、アレは何やってんの一体」
 呆然とやり取りを見ていた殺。その隣で足を止めたた葵 コハル(ga3897)が眉間に皺を寄せて呟く。
 美味しいケーキ屋があると聞いたから来てみれば、とんだ騒動に遭遇してしまった。
「まあ良いや、まとめて大人しくさせてとっととケーキを頂くとしますか!」
「何?」
 コハルはそう呟くと、ニッと笑って駆け出した。
 その手は帯刀している刀に伸びている。その様子から察するに彼女は能力者だろう。
「俺も‥‥ん? アレは‥‥無言実行・シスターズ‥‥?」
 コハルに続き、自らも現場に入ろうとした殺の足が止まる。
 ゴシックな衣装に白銀の髪を持つ少女――アルジェ(gb4812)が、じっと美少女戦士たちを見ているのが見えた。
「‥‥なぜ、敵を前に喧嘩を始められるのか‥‥不思議だ‥‥」
 呟き出した声は本音の本音。
 ただし表情は変わっていないのだが‥‥
「ヒーローとして美しくない‥‥根性を、叩き直す」
 彼女はそう呟くと、新調した礼服の外套を広げ、そこに隠していた武器を取りだした。
 そしてコハル同様に駆け出す。
 目指すのは勿論、美少女戦士とキメラの元だ。
 そしてもう1人、傘を片手に光景を見詰める者がいた。
「あそこで言い合ってる2人組も気になるけど‥‥」
 エレノア・ハーベスト(ga8856)はそう口にすると、傘を手にオロオロしているキメラを見た。
「あれをほっといて被害が出るんも見過ごせへん」
 言って閉じられたパラソル。
 彼女はそれを置くと、髪を金色に、瞳を深紅に染めて現場に向かった。
 その姿を見届け、殺もまた現場に駆け出したのだった。

 一方、別方面から商店街に入ったキョーコ・クルック(ga4770)は、騒ぎを聞き止め颯爽と現場に到着していた。
「ビューティーホープ、えんご――何、してるの‥‥?」
 目の前で繰り広げられる惨状にキョーコは思わず呟いた。
 以前、孤児院で見たBH。子供たちに慕われる姿に好感を持っていただけに落胆せずにはいられない。
 それでもキメラを放置するわけにはいかない。
 彼女は込み上げる感情を、拳を握ることで押し込むと、歩き出そうとした。
 だがその目に、彼女と同じく2人の醜態に呆然とする人物が入った。
「これって、いったいどういう状況なのでしょう‥‥」
 何やら面白い気配がしてきて見れば、面白いと言うよりも厄介な状態になっているではないか。
 キメラが最優先なのは確実として、目の前の2人をどうするか。
「きっと、2人はこちらの話に聞く耳は持ってくれないでしょうし、どうすれば‥‥」
 王 憐華(ga4039)は、そう口にするとハッと表情を明るくした。
「そうだ、いいこと思いつきました♪」
 言って手を叩いたのも束の間、直ぐに表情が曇る。
「とはいえ、1人だと恥ずかしいですし‥‥」
 呟いた所で合った視線。
 これにキョーコの目が瞬かれる。
「キョーコさん、ちょうど良いところに!」
 パタパタと駆け寄る憐華にキョーコは頭を下げる。
 そしてコッソリ耳打ちされた提案に視線を彷徨わせた。
「あ〜‥‥」
 カシカシと髪を掻いて苦笑する。その視線はシェア争いをしている美少女戦士たちにある。
「‥‥このままじゃ、あの子達が可哀相だからね‥‥仕方ない、協力するよ」
 キョーコはそう口にすると、美少女戦士を止めるべく動き出した。

●サクッ!
「だーかーら、なんなのよ!」
「さっきから言ってるでしょ、頭の悪い!」
 言いあう2人の美少女戦士。それを前に、困惑した様子のキメラが、攻撃をするかどうか迷っている。
 止める者が無ければ、延々と続きそうな言い争いに、颯爽とした声のメスが入った。
「待ちなさい!」
 突如響いた声、そして足元に放たれた光の弾に、2人は咄嗟に飛び退いた。
「誰!」
 自分達を狙い撃つのは新たな敵の存在だろうか。
 声を上げたセクシーホープ(以下、SH)に続いてBHも声の方を見た。
 雨だと言うのにビルの屋上に降り注ぐ逆光。それを背に現れた金色の髪のヒーローにBHの目が見開かれる。
「‥‥メイド・ゴールド‥‥?」
「悪が暴れ、人々の悲鳴が轟く時!」
 メイド服にマント。それを胸の前で抑える彼女は、凛とした声を放ち一歩前に出る。
 それに並びもう一つの影が姿を現した。
「利害を超え、力を合わせ、その身を張って悪と戦う美しき乙女!」
 メイド・ゴールドと同じマスクで顔を覆う人物に見覚えは無い。それでも今の口上から彼女もメイド・ゴールドと同じ立場だということはわかった。
 2人は互いに背を合わせると、言い争っていた2人に向け指を突き付ける。
 そして――
「「――人それを、美少女戦士という!!」」
 綺麗にハモった声。それにBHの目が僅かに見開かれる。
 逆にSHは今の口上を聞いて若干眉を寄せただけだ。
「愛の戦乙女、ヴァルキリー・ホープ」
「メイド・ゴールド」
「「推参!!」」
 2人は息を合わせて飛び上がると、同時にキメラに立った。
 そしてすぐさまキメラを離れた位置に誘導するよう攻撃を放つ。
 そこに新たな援軍が加わった。
「まったくだな。争っている場合ではないだろうに」
 雨に濡れて輝く刃。それを手に斬り込んできたのは殺だ。
 彼はキメラの間合いに入ると片足を軸に回転し、右下から斜めにそれを斬り上げた。
 それに対してキメラは傘を構えるが、それが無情にも振り払われる。
 空に舞い上がった傘に、キメラの顔が上がる。
 宙に伸ばされた手が、唯一の武器を取り戻そうと動くのだが、それを光が遮った。
「隙あり、やね」
 クスリと笑って傘を撃ち抜くのはエレノアだ。
 彼女はキメラの背後にその身を置くと、畳み掛けるように炎を模した刃を敵に叩き込んだ。
「――っ」
 キメラは与えられた攻撃によろめく。そして、その度にエレノアの刃が叩き込まれてゆく。
 強さは圧巻。敵は怯み、勝負はもう少しでつきそうだ。
 そう思った時、もう一つの光がキメラを突いた。
「‥‥雷光‥‥一閃!」
 呟く小さな声はアルジェのものだ。
 彼女はキメラの影に身を投じ、死角から蒼い刃を突き上げた。
 それがキメラの胸に深く突き刺さっている。
「ッ、‥‥あーした天気に、なっちゃ、いやーんっ!!!」
 叫び、崩れ落ちるキメラ。
 これで人々を襲う脅威は去った。
 美少女戦士たちはその様子を呆然と見ていたのだが、そんな彼女のたちへ一斉に目が向けられた。
「キメラをほったらかしとは、大層な方々やねぇ」
 呆れた声で言葉を発したエレノアは、同じく呆れた視線を2人に向けると盛大なため息を零した。
「正義の味方を語るんやったら私事は後回しにするもんやとおもいますけど」
 なあ、皆はん?
 そう問いかける彼女に、首を横に振るものはいない。
 皆、そうだと言わんばかりに首を縦に振っている。
 それを確認して、彼女は赤の瞳を2人に向けた。
 そしてSHの姿を上から下まで確認する。
「そこのお頭の螺子が飛んだ様なカッコしてる人」
「ね、螺子が飛んだ格好‥‥!?」
 ガーンっとショックを受けている彼女に、エレノアは整った唇の口角を上げると、大和撫子のように優しい動作で小首を傾げた。
「もう少し、TPOを弁えたカッコした方がええとちゃうやろか」
 SHからしたらかなりショックな言葉だろう。しかし、エレノアの言う言葉は尤もだ。
 その証拠に、誰一人として擁護する者はいない。
 スッカリ気落ちしてしまったSHとBH。
 そんな彼女たちに更なる声が降り注ぐ。
「さて、それじゃあ、とりあえず座ろうか?」
「「え?」」
 突如振られた話題に目を向ければ、そこには笑顔なのにどことなく怒気を滲ませるコハルがいる。
 だが、意味が分からない。
 そんな様子で固まる2人に、コハルは極上の笑みを見せ――
「正座!」
「「は、はい!」」
 有無を言わさない口調に、2人は慌てて正座をした。
 こうして、対キメラではなく、対傭兵となる第二ラウンド――基、お説教タイムが幕を上げることとなった。

●お説教タイム☆
 抜き身の刀を前に、仁王立ちするコハル。
 彼女は2人の姿を交互に見ると、スッとその目を細めた。
「あ、あのさ‥‥何も正座しなくても‥‥ヒッ!」
 笑って振り上げられた刃が、SHの前髪をハラリと落とす。
「おかっぱ頭になりたいならそのままでも良いよ、でも手元が狂って余計な所落としちゃったらゴメンね♪」
 てへっと笑って舌を出す彼女に、刃を突き付けられた2人は笑ってられない。
 サアッと血の気が引いた表情で唾を飲み込み、反論を全て飲み込んだ。
 それを確認して、コハルが大きく息を吐い込む。
 そして――
「あんたたち、最悪! 特に、セクシーホープ、もう人として最悪だよね!」
 吐き出すように言われた言葉に、SHが目を瞬く。
「敵対視するのは良いけど、後ろから髪を引っ張るなんて下衆の所業。あんたみたいなのが人を救おうなんてお笑いよね!」
「そ、それは‥‥少しやり過ぎたとも、思うけど‥‥さ」
 もごもごと呟き視線を下げた瞬間、顎に冷たいモノが触れた。
 これに彼女の口元が引き攣り、顔が上がる。
「話はまだ終わってないの。それにあの薔薇、誰が片付けるの? うん?」
 刀の刃で顎を抑えられ、笑顔で顔を近づける彼女に、目を逸らしたい衝動に駆られる。
 しかしここで反論すれば確実に火に油。普通なら素直に反応して謝るはずなのだが、SHは違った。
「‥‥どうせ、地元の人が片付け――ィッたぁ!!」
 不貞腐れたように発せられた声に、強烈な一撃が頭上に降り注いだ。
 それを目にしたBHの肩が竦んだのはここだけの秘密である。
 コハルは拳をSHの頭に擦り付けると、キッと彼女の目を睨み付けた。
「馬鹿も追加」
「なっ」
 ぃ荒れた言葉にまじまじと見た彼女の顔。それに、ふとSHの目が瞬かれた。
「アンタ‥‥アイドルの」
「あら、気付いた? なら、いいことを教えてあげる」
 コハルはアイドルとして芸能事務所に籍を置いている。そんな彼女の立場からSHだけでなくBHに言いたいことがある。
「主役だけじゃライブは成立しない。関わる色んな人がそれぞれの仕事をこなすからこそ楽しませる事が出来るの」
 そう口にした上で、彼女は突き付けていた刀を下げると、それを鞘に納めた。
 その顔に怒りの色はない。
「さっきもそうだけど、他の敵の存在を確認したり、避難誘導をしたり、身体の符中な人の手伝いをしたり‥‥他にも出来ることはあったハズ」
 確かに、闘うだけが能力者の仕事ではない。
 それに‥‥と、彼女は言う。
「何よりあたし達が身に宿したモノが、人類の希望だって事を忘れないでね」
 そう言って彼女はそれ以上の言葉を呑んだ。
 エミタがバグアに対抗するためのもので、下らない争いをするための物ではない。
 彼女たちになら、わかってくれる。そう思い、言葉を呑んだのだ。
 コハルの言葉に声を失い黙り込んでしまった美少女戦士たち。
 それを近くで確認していた憐華はそのまま静かに立ち去ろうとした。
 しかしそれを次の声が遮る。
「あの‥‥」
 声を発したのはBHだ。
 彼女は正座したまま彼女を見ると深く頭を下げた。
「ヴァルキリー・ホープ、ありがとうございました」
 先程助けに入ってくれたこと。それに対する感謝の言葉だろうか。
「いえ、私はキョー‥‥メイド・ゴールドがいたから出来ただけで‥‥」
「はい!」
 2人だから出来たというその言葉に元気に頷いたBHにキョーコは先ほど口にした台詞を思い出していた。
『利害を超え、力を合わせ、その身を張って悪と戦う美しき乙女。人それを美少女戦士という』
 この言葉が彼女に何かを教えたのかもしれない。
 そう思いふと笑み零す。
「まあ、あの言葉はしまっておきますか」
 天使の園の子供たちが争うBHとSHを見たらどんな顔をするか。それを問いかけようと思っていた。
 だが、その必要はないかもしれない。
 そう思い腕を組んだ彼女の前に、スッとアルジェが進み出た。
 彼女は正座したままの美少女戦士に近付くと、2人の首根っこを引っ掴んだ。
「「!?!?」」
 これに驚いたのは、当然2人共だ。
「あ、あの、何を‥‥」
「ちょっといきなり何よ!」
 それぞれの反応でじたばたする2人を引きずり、アルジェは商店街の開けた場所に移動した。
 そして淡々と2人を見下ろすと、ビシッと指を突きつけた。
「ヒーロー養成、地獄の特訓を開始する」
「「地獄の特訓!?」」
「二人はヒーローとしての自覚が足りなすぎる、アルが鍛えなおしてやる」
 遠慮したいんですけど。
 そんな言葉を呑み込んだ2人に、アルジェは言い放つ。
「報酬はいらない、遠慮するな。壱から鍛えなおしてやる」
「いや、遠慮じゃな――」
「ハーイ、みっちり鍛えなおしてあげる♪」
 逃げようとする2人の背を塞いだのは、キョーコだ。
 彼女はニコニコと2人の前に立ち塞がる。
 こうなると逃げ場などない。
 それでも逃げ場を探して視線を彷徨わせていると、殺と目が合った。
「あ‥‥」
「どうせまだ満足に闘ってないだろ。それじゃ詰まらないよな」
「‥‥え?」
 なんだか凄く良い笑顔で言い放たれた言葉に、2人は血の気の引く思いで顔を見合わせる。
「なんなら俺が2人の相手をしてやろう。なあに、2対1だからな、全力でお相手するよ」
 言って抜き取られた2本の刃に、2人の足が下がった。
 しかし、それをアルジェとキョーコ、それに帰ったはずの、コハルに憐華、エレノアが立ち塞がり遮る。
「さあ、始めようか」
 そう言って零されたのは今まで見たこともないような極上の笑顔だ。
「大丈夫、アルも加勢する」
 そう言ってそれぞれの能力者たちは各々の武器を手にする。
 それを見て、2人は泣くような悲鳴を上げたのだが、能力者たちは一切手加減をしなかった。
 こうして、前代未聞の美少女戦士の争いは平和の元に幕を閉じたのだった。