●リプレイ本文
オフィスビルの合間を駆け抜けるバイク。
それを操縦するのはユーリ・ヴェルトライゼン(
ga8751)だ。
彼はヘルメット越しに見える光景に眉を潜めた。
「‥‥死んだ街、だな」
暗く沈んだ雰囲気が漂う街は、彼の言うとおり死んだ街だ。
至る所に放置された車と破壊されたオフィス。剥き出しになった鉄筋は、どこかのビルが崩れて出てきたモノだろう。
ユーリはバイクのスピードを落として注意深く周囲を探る。
逃げ遅れた一般人はいないか、危機的状況にいる一般人はいないか。
目を凝らし、路地の先まで視線を走らせる。
「――っと、アレは」
ブレーキを握り締め見止めた先に居たのは一般人らしき者の姿だ。
彼はヘルメットを外してバイクを下りると、避難誘導のために近付こうとした。
しかし、直ぐにその足が止まる。
「‥‥操られた、人間‥‥?」
事前に本部で得ていた寄生型キメラの情報は彼も勿論知っている。
だが実際にキメラに寄生された人間に会うのは初めてだ。
「武器を手にして街を徘徊か‥‥ホラー映画のようなシーンだな」
手にされたアーミーナイフのような物。顔面に残る幼さから見るに10代前半の少年だろうか。
「‥‥こんな子供まで」
言って僅かに視線を逸らす――と、その時だ。
彼の視界を物音もなく通り過ぎるものがあった。
「操られてるなら、うちが解放してあげる」
通り過ぎ様に囁かれた声に、ユーリの目が瞬かれる。
そうして目に飛び込んできたのは特殊ショットガンを手に間合いに入ったハルトマン(
ga6603)だ。
彼女は至近距離から弾丸を放つと、手にしているアーミーナイフと共に一般人の胸を貫いた。
能力者でも、キメラでも、強化人間でもないただの人間である少年は、彼女の攻撃にあまりにも呆気なく倒れ込む。
しかし闘いはこれからだった。
「蟯虫キメラ‥‥出た、っ!」
傷口から溢れ出した白い糸のような虫に、ハルトマンの手が新たな弾を装填すると、間髪入れずに弾を叩き込んだ。
その戦闘時間は本当に僅かで、あまりにも簡易に終わって行く。
「コイツが蟯虫キメラの戦い方か‥‥」
口にして息を吐くと、無線機が鳴るのが聞こえた。
それに応答して彼の眉が顰められる。
「どうかしたのです?」
「複数の一般人を確保したらしい。協力を頼めるか?」
「勿論です」
頷いたハルトマンに、ふとユーリの目が向かう。
「なあ、蟯虫キメラについてどう思う?」
ヘルメットを被りながらの問いにハルトマンの首が傾げられた。
「幾ら一般人でも寄生されてたのならしっかりと処分させてもらうのです」
それが先程の行動でもある。
彼女はそう言うと歩き出そうとした。
それをユーリの声が引き止める。
「そうだな。どうしようもない以上、せめて一撃で楽に――それくらいの考えでいないと駄目か」
「迷いは危機的状況しか生み出さないです」
ハッキリ言いきった彼女に、ユーリは「そうだな」と声を零し頷くと、自らのバイクの後方を示した。
「乗れ」
「?」
「目的地は同じなんだ、急ぐなら乗った方が速い」
彼はそう口にしてハルトマンを後方のシートに乗せると、急ぎその場を出発した。
一方、住宅街もオフィス街と同様に酷い有様になっていた。
路上に放置された車。
その陰に潜む生き物を発見した王 珠姫(
gc6684)は、急ぎ同行する一ヶ瀬 蒼子(
gc4104)を見る。
「一ヶ瀬さん‥‥そこに、何かいます‥‥!」
「了解よ」
蒼子は拳銃「ブリッツェン」の引き金を引いて威嚇射撃を行う。
これに獣の唸り声が聞こえた。
珠姫の情報では敵は1体。それを倒した先に、複数の生体反応があるという。
「この先に一般人が避難している可能性があるわ、一気に突破するわよ!」
「はい‥‥っ!」
蒼子の声に頷き、珠姫も己の武器を構える。
そうして飛び込んだ先に居たのは豹型キメラだ。
次々と打ち込まれる弾丸。
敵は身軽な動作でそれを避けながら接近してくる。
「ッ、速い‥‥!」
攻撃が追いつかない。
焦りに弾を装填するタイミングがずれる――そこに、豹型キメラの唸り声と飛び掛かる姿が見えた。
だが、その衝撃が蒼子に届くことはなかった。
目の前で降り注がれるキメラの体液。それを正面から浴びる人物には覚えがある。
「あなた‥‥無事、だったの?」
「何だそりゃ、俺が無事で残念ってか?」
冗談めかして発せられた声に、蒼子の目が見開かれる。
「誰もそんなことは言ってないでしょ!」
言って、未だ動く敵に弾丸を撃ち込む。
そうして敵が動かなくなるのを確認すると、彼女の目が改めて助けに入った人物に向いた。
「私は、死にたがりの困ったちゃんの見張りが必要だと思って、ッ!」
本当は緊急招集の際に受けた説明で、キルト・ガング(gz0430)の話を聞いていた彼女は、例によって彼が無茶をしていないか心配していた。
だがそれを素直に出す彼女でもない。
「とりあえず、無事でよかったわね。それで現状はどうなってるの」
平静を装い問いかけると、キルトは刀に着いた露を払って路地の先を見据えた。
「この先に一般人がいるって情報を得たんだが、誰が発した物なのかわからなくてな‥‥ちとキナ臭いと思ったんで、情報収集をしてた」
「一般人の情報‥‥発信元がわからないのは、確かに、不安ですね‥‥」
珠姫はそう口にして先程感じた生体反応を思い出す。
確かにこの先には複数の生き物がいるはず。それが一般人かどうかわからないが、何かがいる事だけは確かだ。
「‥‥行って、みましょう」
本当はこの先に進み、『何か』を確認するのは怖い。
しかし進まないわけにはいかない。
「よく逃げずに来たじゃねえか」
歩き出した珠姫に掛けられた声。それに彼女の目が瞬かれる。
「臆病もん同士、頑張ろうぜ」
な? 言って片目を瞑って見せる相手に、珠姫は神妙な面持ちで頷くと、止まりかけた足を前に動かした。
こうして路地を抜けた先にあったのは公園だ。
その中央には無数の人影がある。
「アレは‥‥一般人?」
訝しむように眇められた蒼子の目が人垣を捉える。
キルトが得た情報と、珠姫が得た情報。
それらに間違いはないようなのだが、何かがオカシイ。
そこにバイク音が響く。
「待たせたな――っと、キルト?」
ヘルメットを外しバイクから降りたのはユーリとハルトマンだ。
ユーリはキルトと蒼子、それに珠姫の姿を確認して目を瞬く。
「‥‥さっきの無線はキルトか。それならあの一般人を保護すれば、この辺一帯は誘導完了で良いのか?」
思案気に問いかける視線。
それを受けてキルトの眉が上がった。
「俺は連絡なんざ入れてねえ。どうも無線の調子が悪くて、巧く繋がんねえ‥‥なもんで、弄ってなかったんだが」
彼は「ふむ」と思案気に視線を落とし、自らの無線機を取り出した。
そこに通信が入る。
――一般人の集合場所には辿り着いたようですね。そのまま保護をお願いしますよ。
届く声にキルトを含めた全員の眉が顰められる。
そして――
「誰だてめぇ」
この問い掛けに、無線の向こうからクツクツとした笑い声が響く。
その声を聞いて更なる問いを掛けようとした時、彼らは思わぬものを目にした。
「アレ‥‥ただの一般人ではないのです」
ハルトマンの声に皆の目が飛ぶ。
その目に飛び込んできたのは、包丁や鉈、鍬を手にこちらを見る一般人の姿だ。
「寄生型キメラにやられた人間ってわけか――って、珠姫!?」
不意に飛び出した銀色の影にキルトの声が飛ぶ。
その声に慌てて蒼子も飛び出すのだが、彼女が追いつくよりも前に、珠姫は一般人の前に立って両手を広げた。
「救助に、来ました‥‥どうか、武器を下げてください‥‥!」
「珠姫さん、何を‥‥」
戸惑う蒼子に、珠姫は目を向けずに言う。
「もしかしたら‥‥操られてではなく、疑心暗鬼に、なっているのかも。だから‥‥」
「‥‥珠姫さん――っ、危ない!」
咄嗟に目を逸らした瞬間、嫌な音が響いた。
その音に、蒼子の目が戻り――見開かれる。
「珠姫さんっ!」
振り下ろされた包丁や鉈。それらを避けることもせずに受けた彼女に、悲鳴に近い叫び声が上がる。
「ユーリ!」
「ああ‥‥援護を頼む!」
ユーリはキルトの声に頷くと、ハルトマンに援護を願い出て一気に駆け出した。
そしてその身が珠姫と一般人の間に入り込み――
「一般人が紛れている可能性もなくはない、か‥‥ッ」
ユーリは奥歯を噛み締めると眩い光を放つ光の刃を振り下ろした。
これに珠姫を襲った一般人が倒れる。その瞬間に溢れだしてきた白い虫をハルトマンが残らず叩き伏せると、蒼子の腕が珠姫の腕を取った。
「大丈夫!」
血塗られて膝を折った彼女に、急ぎユーリが癒しの手を施す。
この間にも一般人の攻撃は続いている。
それをキルトとハルトマンが抑え込んでいるのだが、彼らの動きに躊躇いは見えない。
それを視界に納めながら、珠姫は片刃の刃を握り締めた。
「‥‥敵意はないと、示したくて‥‥近くで見れば、何か兆候がわかるかも、と‥‥もし、一般の方で、恐ろしく思われているなら‥‥恐ろしくないと、救助に来たと、お伝えしたかったんです」
唇を噛み締め、受けた傷の深さに彼女の目が落ちる。
「珠姫、辛いならてめぇは下がっとけ!」
苦痛が無いように急所を突いて一般人を伏せてゆくキルトの声に、珠姫は小さく頭を振った。
「大丈夫、です‥‥それよりも、キルトさん」
「あん?」
「帰ったらまたエリスさんと約束し直し、ですね?」
小首を傾げて言われた言葉に、キルトの口元に苦笑が浮かぶ。
それを目にして珠姫は自らの想いを刃に託してそれを振り下ろした。
途端に上がる炎。それが一般人の身を焦がし崩れ落ちさせてゆく。
「――ああもう! どこの大馬鹿野郎よ、こんな悪趣味で胸糞悪くなるような真似しやがった奴はッ!!」
目の前で自分たちの手で倒れてゆく一般人の姿。それを視界に納めた蒼子の叫び声に、皆が一様に唇を噛み締め、そして新たに命を奪うための刃を振り下ろしたのだった。
●潜む敵を討ち‥‥
竜巻き起こし、立花 零次(
gc6227)は空から落ちてくるハゲワシ型キメラに黒光りする美しい刃を構える。
「――これで終いです」
優しい声音とは逆に、鋭い一撃がハゲワシの胴を薙ぐ。これに悲痛な声が上がるが、手を緩める気などない。
零次は刀に付着した羽根と血痕を払うように刀を振り下ろすと、空を舞う鳥を地上に叩きつけた。
そうして振り返った先に居たのは、ティームドラ(
gc4522)だ。
齢100歳に及ばんとして見事な筋肉を晒す彼は、空を舞う蛾型キメラに向け隙のないファイティングポーズをとる。
「さて、多少の運動も必要ですからな」
明らかに運動と呼ぶにはハードすぎる状況だが、ティームドラにとってはそうでもないらしい。
彼は年を感じさせない軽やかなステップを踏むと、手に装備していた黒色の篭手に炎を宿した。
「行きますぞ」
ニヤリと口端に浮かぶ笑み。
それを隠しもせずに地を蹴った彼の身が蛾型キメラの側面に飛ぶ。
だがその距離は僅か上方にあって届かない。
しかし――
「お手伝いしますよ」
舞い上がった竜巻が蛾型キメラの体を絡め取る。
これにより敵が地に落ちてきた。
ティームドラはそれを見逃さず一気に接近を果たす。そして自らの拳を叩き込むと、鈍く嫌な音が響いた。
「もう、一撃――」
炎に混じる赤いオーラ。
彼は大きく振り上げたそれを、先程攻撃を叩き込んだその場所に撃ち込む。
そうして身を引いた場所に粘着質の糸が伸ばされた。
だがそれが彼に届くことはない。
零次が放った竜巻が、キメラの体と糸を後方に飛ばしたのだ。
「ご老体、お怪我はありませんか?」
彼は言って、周囲に視線を馳せる。
その声にティームドラは覚醒を解いて頷きを向けると、零次と同じく周囲に目を飛ばす。
先程からどれだけのキメラを退治しただろう。
倒しても倒しても溢れてくる敵の数は相当なものだ。
中でも厄介なのは、物陰に潜み飛び掛かってくる豹型キメラだろうか。
「否、一番厄介なのは――」
零次が思わず呟いた時、彼の危惧するモノが近付いて来た。
「おや、アレは‥‥」
ティームドラも彼が目視したものを見たようだ。
警戒を僅かに滲ませる呟きに、零次の足がツッと動く。
「ここは危険です。すぐに避難してください」
不意に掛けた声、これに近付くモノが足を止めた。
言葉が通じるのだろうか。
だとすれば彼の危惧するモノではない可能性がある。
「あなたはまだ、『生きて』いますか?」
窺うように問いかけ、それでも警戒を解かずに徐々に接近してゆく。
そして彼が一定の距離近付いた時だ。
「!」
頬を掠めた銃弾に彼の瞳が眇められる。
「『生きて』ないようですな」
ティームドラの声に零次の瞳が鎮痛の色を浮かべて落ちる。
そして彼の手にしている竜巻を生み出す超機械――扇嵐が空を仰いだ。
「――ご老体」
「私の名前はティームドラに御座います」
彼はそう言葉を残し、銃弾を避けて一気に接近した。
能力者でも、軍の関係者でもない、ただの人。
それを相手に接近するのは容易だった。
それに加えて零次の竜巻による援護がある。ただし、彼の援護は地に在する塵を巻き上げること。
視界が不十分になり、それでも無理に突っ込んで来ようとする一般人に、ティームドラが透かさず死角に入る。
そしてその動きを拘束するように手を胸に突き入れた。
「ご容赦くださいませ」
目を剥き硬直するその顔を見て黙祷を捧げる。そして彼が目を伏せるのとほぼ同時に、一般人の首が飛んだ。
そこから溢れ出した白い糸状の虫。
それはティームドラの手にも付着していた。
しかし彼らは慌てず対処する。
自らに付着した虫の全てを、怪我を厭わず払うと、残りは零次の竜巻が倒した。
「あまり気分の良いものではないですね‥‥お体に変わりはありませんか、ティームドラさん」
「ええ、私は問題ありません。貴方様こそ大丈夫ですか?」
「ええ、私はあまり接近していませんから」
零次はそう言って己の持つ超機械を示すと、ティームドラは「なるほど」と声を零して頷きを返したのだった。
その頃、別の場所でキメラの対処に当たっていたジャック・ジェリア(
gc0672)は圧倒的な敵の数に、辟易とした様子で息を吐いた。
「次から次へと飽きずによくもまあ」
言って取り出した煙草を咥えて火を点けると、彼の耳に羽音が近付いて来た。
「次の敵のお出ましってか?」
苦笑気味に構えた巨大な銃器。それを空に向けると、羽音と共に別の音も彼の耳に届いてきた。
「湊獅子鷹探検隊ヒャッホー!!!」
襲来した蛾型キメラを撃ち落としながら、ジャックの目が声の方を向く。
そこにいたのは湊 獅子鷹(
gc0233)を含めた数名の傭兵たちだ。
彼らは何かを探すように街の中を歩き、襲い来るキメラを倒している。
「何処に行くんだ?」
純粋な疑問とそれに関する問いかけ。
ジャックは空になった銃身に弾を装填すると、改めて獅子鷹たちを見た。
キメラはまだ街の中に沢山いる。
それを放って何かを探しているらしい様子に、彼の目が眇められた。
しかしその視線は咎めるものではない。
窺うように彼らの行動を見定めている、そんな感じだ。
「UNKNOWN達の手を借りて親玉に喧嘩を売りに行くんだよ」
獅子鷹はニイッと笑って拳を握って見せた。
その仕草に、ジャックの目が後方に飛ぶ。
「その面子で、か‥‥? いや、皆までは言わんが‥‥」
言って、彼は獅子鷹の傍にいる異様な姿の面々を捉えた。
どういった経由でこうなったのかは定かではないが、獅子鷹の前にいるのは赤と緑の竜の着ぐるみを着た人物。
「‥‥それ、UNKNOWNとミリハナク‥‥だよな?」
見知った人物であることは確かだ。
恐る恐る問いかけたその声に、UNKNOWN(
ga4276)らしき緑の竜(の着ぐるみ)が口を開く。
「みぎゃっ!」
黒のビキニがチャームポイントな竜に、ジャックの目が逸らされた。
そして今度はミリハナク(
gc4008)らしき赤い竜(の着ぐるみ)を見るのだが‥‥。
「みぎゃみぎゃ」
どちらも人語じゃねぇ‥‥そんな言葉を呑み込み、彼の目が彷徨った――と、その目が後方に控える男と合う。
「なーが君とな〜がちゃんらしいです‥‥よろしく、と言っていますね」
平然と言ってのけたアルヴァイム(
ga5051)にジャックはもう「そうか」としか返せない。
正直いろいろと思うところはある。
それに加えて、彼らに原因の究明とその対策を任せて良いのかという迷いもある。
だが、全員がその対策に出る訳にもいかない。
「‥‥仕方がないのかね」
彼はそう零すと、銃の先を空に向けた。
そこにいるのは新たな蛾型のキメラだ。
鱗粉を撒き散らしながら近づくそれに、容赦ない攻撃を注ぎ込む。
「――ったく、しくじるんじゃねえぞ!」
次々と叩き込まれる弾丸に人外の叫びが聞こえるが、彼はそこから目を逸らさずに、ただひたすらに攻撃を繰り返す。
そうして近くにあった足音が遠ざかると、灰褐色の銃身を構え直し、赤と緑に変色した瞳を空に向けた。
「精々、こっちはキメラの殲滅に力を注ぐかね」
言って捉えた新たなキメラ。
彼は死肉を漁る為に訪れたキメラを見ると、口角を上げて銃弾の雨を降らせた。
●実験観戦会場にて
オフィス街にある一番大きなビル。
その屋上にやって来た獅子鷹たちは、重厚な扉を開け外に出た。
その目に飛び込んできたのは、蛾型キメラとハゲワシ型のキメラ。そして地には豹型キメラが2匹いる。
そしてその中央には、ビルの屋上から地上を見詰める白衣の男がいる。
「高い建物にいるかと当りを付けて正解でしたね」
アルヴァイムはそう口にして、今にも飛び出しそうな獅子鷹を引き止めた。
「このままでは無駄な体力を消耗します。此処は――我に」
スウッと細められた目。
彼は籠手型の超機械を構えると、一気に拳を振り下ろした。
瞬間、発生した電磁波が地上に位置する豹型キメラに向かう。
これが戦闘開始の合図となった。
一気に駆け出した豹型キメラに、アルヴァイムと獅子鷹の前方に立つUNKNOWNとミリハナクが出た。
「ぎゃお〜!」
開口一発。
UNKNOWNは咥えた煙草をそのままに龍が描かれた深紅の銃から炎を放った。
まるで緑の竜が火を噴くように放たれた炎の弾。それが豹型キメラを撃ち抜く。
それは一瞬の出来事だった。
圧倒的な力で叩き伏せられた仲間に、残る豹型キメラが怯む。
「よし、UNKNOWNよくやったぜ!」
獅子鷹は言って、UNKNOWNの肩を叩いた。
これに得意気に彼のサングラスが光る。
一方、空を舞うキメラを相手にしていたアルヴァイムは、所持していたタッパーから死肉を取り出すとそれを後方に放った。
事前に得ていた情報通り、ハゲワシ型キメラは死肉を求め飛んでくる。
その姿を見止め、アルヴァイムは赤い竜を見た。
「な〜がちゃん、行けますか?」
「みぎゃっ!」
白銀の弓を構えて空を見据える赤い竜。
彼女は弦をギリギリまで引くと、死肉を咥えたハゲワシに放った。
滑る様に空に舞い上がった銀の矢がハゲワシの頭部を貫くと、そこにアルヴァイムの電磁波が加わる。
先程のUNKNOWNが倒した豹型キメラ。
それと同じくらい呆気なく砕かれたハゲワシ型キメラだったが、白衣の男はこの騒動を物ともせずに背を向けたままだ。
その姿に獅子鷹が吠えた。
「そろそろこっちを見たらどうだ!」
その声にカツッと靴音が響く。
そして徐に振り返った顔を見て、獅子鷹がニイッと笑った。
「てめぇ、人間じゃねえな?」
明らかに人とは違う、縦横無尽に動く目。それを見て問う彼に、白衣の男――レプトンは「おやおや」と手にしていた無線機を握り潰して息を吐く。
「これは予想外でしたね。私の元に辿り着くのがたったこれだけとは‥‥」
「勝手に驚いとけ。こっちは特に、これ以上言うこたぁねーや‥‥」
獅子鷹は暴れる衝動を抑える肉食獣のように目を輝かせる。
唇に浮かぶ薄らとした笑みは、これから得れる戦闘への意欲の表れだろうか。それとも別の何かなのか。
だがレプトンにとってそれは如何でもいいことだった。
「豹と蛾が消えていますね‥‥見たところ一撃‥‥いえ、一撃は豹だけでしょうか」
自身を護衛するよう配置したキメラが減っている。
しかも瞬時にそれが消えたらしい様子に彼の興味は向いたようだ。
そこに新たな足音が響く。
「待たせた‥‥って、何だソレ」
勢いよく戦闘ステージに飛び込んできたのは煌 闇虎(
gc6768)だ。
彼はレプトンの顔を見て思わず呟くと、この場に残るキメラを見て、再びレプトンにその目を止めた。
「1人増えましたか。まあ良いでしょう。然して結果は変わりません」
言って、左右対称に動いた瞳の焦点を合わせる。
「だなぁ‥‥結果は変わんねぇ‥‥――死ねぇ!」
「同時だな。とりあえず今猛烈に虫の居所が悪いんだ‥‥暴れさせてもらうぜ」
獅子鷹の声に同調して呟くと、闇虎は地面を蹴った。
それに合わせて獅子鷹も飛び出すと、レプトンの手がおもむろにポケットから取り出される。
「よし、アンノンシールド発動――‥‥って、いや逃げんなよっ!」
獅子鷹はレプトンの動きを見てUNKNOWNを盾にしようとした。
だがUNKNOWNは意外に自由だった。
着ぐるみの尾を振りながら身を反し、ダンスをするように彼の前から退いたのだ。
これに獅子鷹が焦る。
そうしている間にも、レプトンは禍々しい黒い本を取り出すと、そのページを捲り始めた。
そして――
「うあああああああ!!!」
衝撃波張りの電磁波が飛んでくる。
本来なら直撃する筈だった攻撃。しかしそれは獅子鷹の腕を掠めるだけで済んだ。
「おや、避けましたか‥‥否、避けざる終えませんでしたか?」
蛾型キメラの対応に意識を向けていたアルヴァイムが、獅子鷹の腕を引く形で彼を助けたのだ。
だが反応が遅れた手前、完全に避けさせることは出来なかった。
腕を負傷した彼は、そこを抑えながら舌打ちを零す。
「この野郎‥‥っ」
本来此処は避けたUNKNOWNに対して敵意を向けるべきなのだが、彼はレプトンに苛立ちの全てを向けた。
そしてUNKNOWNはというと‥‥
「みぎゃみぎゃ、ぎゃお?」
あれあれ? と首を傾げて横飛びしている。
その上でクルリと尻尾を回して回転すると、着ぐるみに装備していた爪を翻した。
瞬間、獅子鷹の受けたダメージが軽減される。
そして再び踊りを披露とすると、彼は自由気ままに動き出した。
「なかなか面白い検体ですね。そちらのお嬢さんも同じような能力をお持ちなのでしょうか」
実に興味深い――レプトンは手にしている闇書の超機械を捲ると、試しにと言わんばかりにミリハナクへも一撃を放った。
「みぎゃっ!?」
彼女は矢を番えた状態でキメラの対応に当たっていた。
故に普段以上に反応が遅れる。
そして――
「おや、吹き飛びましたか‥‥詰まりませんね」
しれっと電磁波に吹き飛ばされた彼女を見て呟く。この声に全身を強打したミリハナクの口から血の混じった息が吐き出された。
「大丈夫ですか?」
問いかけながらアルヴァイムの持つ小銃が蛾型キメラの胴を貫く。
これで残るは豹型キメラとレプトンだけだ。
「想像以上に強いですね」
「‥‥、‥‥みぎゃ‥‥みぎゃみぎゃ‥‥ふぎゅ‥‥」
「まあ、確かにそうですよね‥‥」
途切れ途切れに吐き出される声に、アルヴァイムは平然と頷く。
まるでミリハナクの言っている言葉が分かるとでもいうようなスムーズな遣り取りにレプトンの喉が鳴った。
「是非とも私に通訳をしてください。彼女は何と言っているのですか?」
「知る必要なんざねぇ!!!」
怒声と共に駆け出したのは闇虎だ。
一気にレプトンとの距離を縮めに掛かった彼を豹が遮る。
「チッ、邪魔すんじゃねえ!!」
振り上げた拳。自身の為に改造した超機械を振り上げて掌を翳して衝撃波を放つ。
だがそれが触れる前に、豹は彼の前から姿を消した。
一瞬の判断で彼の行動を回避したのだろう。
死角に入り飛び掛かろうとする。
だがその動きを闇虎の目は捉えていた。
片足を軸に身を反転させ、全身にエミタを行きわたらせる。そうして再び地を蹴ると飛び掛かるその身に自ら飛び込んで行った。
「ゼロ距離で喰らいな!」
側面に回り込んだ彼の両の手――否、彼の嵌める武器が赤く染まった。
「虎哮掌っ!」
アスファルトを踏み締め叩き込んだ一撃。それを受けた豹の目が見開かれる。
「もう一丁喰らっとけぇっ!」
後方に飛ぶキメラにもう一度距離を詰める。
再び叩き込んだ一撃は、止めになり得たようだ。
地に沈んだ豹キメラを見て、肩で息を吐いた彼の目がレプトンに向かう。
「さあ、残るは――、っ‥‥!」
闇虎がレプトンを視界に納める直前だった。彼の身を凄まじい衝撃が駆け抜ける。
避けることも、見定めることも出来なかった攻撃に、後方に吹き飛んだ彼の体がフェンスに叩き付けられた。
そして金網を突き破って屋上から落ちようかという時、彼の腕を力強い手が掴んだ。
「‥‥、‥‥頼むぜ、ンなとこで落ちんじゃねぇ‥‥」
脂汗を額に闇虎の腕を掴んだのは、無線の発信源を辿ってきたキルトだ。
彼は蒼い顔で闇虎を屋上に引き上げると、口を押えてその場に蹲ってしまった。
「オイオイ‥‥俺よりヤバいじゃねえかよ‥‥」
全身ボキボキ言っているが、UNKNOWNのお陰で傷の殆どは癒えている。
だがキルトは怪我とかではないらしく、全く使い物にならない状態でその場に蹲っていた。
「‥‥到着と早々に戦線離脱とは‥‥使えませんね」
やれやれと息を吐くアルヴァイム。
そして彼はレプトンに目を向けると、肩を竦めて見せた。
「先程の通訳をしてあげます」
「おや、良いのですか?」
「それくらいならば良いでしょう。ただし、手は止めません」
放たれた声と共に2つの影がレプトンに迫る。
「仕方ありません‥‥私としてもただお話を伺うだけは詰まりませんし、良いでしょう」
広げられた腕に合せて風に舞う白衣。
そこに斬り込むよう、二刀小太刀で接近する獅子鷹は、後方の味方の動きを確認しながら腕を振り上げた。
だが彼がレプトンの間合いに入る前に、彼は身軽に後方へと飛んでしまう。
「避けんじゃねえ!」
「これは無茶を仰いますね」
クツクツと笑いながら本を片手に様子を伺うレプトンは余裕の表情だ。
「こっちも気にしたら如何だ!」
闇虎は獅子鷹に気を取られている敵に、赤の衝撃波を見舞った。
だがこれすらも軽々避けると、レプトンは改めて距離をとった。
「弱い、弱いですよ。そんな攻撃では私を倒すなど百と二十六年、三日ほど早いでしょう」
「その物言いからして既に二番煎じなんでしょうね」
「‥‥何がです?」
アルヴァイムの声にギョロリとした目が向かう。
それを受けて彼は照準を合せ、引き金に指を掛けた。
「先程の通訳です。『よくいる下種な自称天才が馬鹿なことやっているという感じでしかない。二番煎じ三番煎じで、敵としても大して面白くない』だそうですよ?」
「‥‥」
どうします? そう問いかけながら引かれたトリガー。迫りくる弾丸を、本から放つ電磁波で振り払うと、彼は新たな矢を手にこちらを見据えるミリハナクに目を向けた。
「二番煎じ三番煎じ‥‥なかなか仰いますね。では今の言葉を後悔して死地に向かって頂きましょう」
「みぎゃっ!」
確実にミリハナクを狙って放たれた一撃だった。
しかし彼女は辛うじてその攻撃を避けると、番えていた矢を放つ。それがレプトンの腕を掠めた。
微かに舞った白い衣に彼の眉が上がる。
「ほう‥‥?」
「みぎゃみぎゃ!!」
もう一撃。そう更なる攻撃を放つ。
だが流石にこれが避けられてしまった。
しかし攻撃の手は止まらない。
獅子鷹が改めて心臓目掛けて一撃を見舞う。
だがこれは掠りもせずに避けられ、代わりに強烈な蹴りが彼の胴に叩き込まれた。
「がァ‥‥、はッ!」
目を剥いて吐き出した声。
だが蹲るには時間が足りない。瞬時に態勢を整えようと足を踏ん張る――と、その目に、闇虎の攻撃が見えた。
「ば‥‥、‥‥」
獅子鷹は咄嗟に小太刀を突き上げ彼の動きを援護する。
喉を裂くように突き出された刃にレプトンが身を逸らす。
その瞬間、闇虎の掌撃がレプトンの額を掠めた。
だがその代償は大きかった。
獅子鷹と同じく体に叩き込まれた蹴りに、彼の体が後方に吹き飛ぶ。
「やれやれ、ですね‥‥、――ッ!?」
相手にならない。
そう息を吐いた時、思いも掛けない衝撃が走った。
「ぎゃお〜!」
先程まで自由に動いていたUNKNOWNが炎の弾をレプトンに放ったのだ。
それが彼の腕に直撃。爛れたように焼けあがった皮膚が眼前に晒される。
「っ‥‥これは‥‥」
UNKNOWNの能力は把握していた。
にも拘らず彼を戦闘対象として捉えなかったのは、あまりに動きが自由すぎるから。
だがそれは間違いだったようだ。
「私としたことが早計でしたね‥‥検体を大人しくさせる必要があったというのに」
レプトンは片腕を垂らしたまま本を開くと、UNKNOWNに対して電磁波を放った。
しかしこの攻撃はスレスレの所で避けられてしまう。この間、獅子鷹と闇虎も接近を試みる。
その援護にミリハナクとアルヴァイムも遠距離攻撃を降らすのだが、当たる気配がまるでない。
見た目は科学者然としていて鈍そうなのに、その動きは想像を越えて速い。
急所を狙い加えられる攻撃はことごとく避けられる。
代わりに、能力者たちに時折降ってくる攻撃は、その度に重いものとなって彼らの身を蝕んでいた。
それでも致命傷にならないのは、UNKNOWNの放つ癒しの賜物だろう。
だが疲労だけは癒しきれない。
傷が癒える代わりに蓄積されてゆく疲労。これに焦りが生まれてくる。
「さあ、そろそろ本気を出しましょうか」
「!」
まだ本気ではなかったというのか。
驚き、目を見開いた闇虎の胴をゴスッという鈍い音が叩く。
何が起きたのか、一瞬わからなかった。
だが直ぐに状況を把握する。
至近距離にいた彼の腹部をレプトンの足が突いたのだ。
その衝撃たるや息を失うほどで、彼はその場に膝を折って蹲る。
咳き込み涙目を浮かべる彼にレプトンは容赦をしなかった。
禍々しい本から電磁波を放ち、後方に吹き飛ばす。そうして容赦なくアスファルトに叩き付けると、彼の目が次のターゲットを捕捉した。
「さあ、次はどなたです?」
クツクツ笑って掲げた本。
彼が次にターゲットとして捕捉したのは、同じく接近戦で攻撃を加えようとする獅子鷹だ。
獅子鷹はレプトンの目が自分に向いたのを確認すると、自らの防御を引き上げた。
だが――
「ぐぁっ‥‥!」
二刀小太刀で攻撃を受け止めたが、衝撃まで抑えることは出来なかった。
何とか自身の腹で止めたものの、込み上げる吐き気までは抑えきれない。
彼は口を吐いた物を吐き捨てると、咳込みながら足を踏ん張った。
そして何とか一撃だけでも加えようと足を踏み出す。
「しぶといですね‥‥まあ、貴方も良い検体ではありますか」
打っても打っても倒れない相手に、レプトンは新たな楽しみを見つけたようだ。
しかし獅子鷹からすればそれは不快以外の何者でもない。
「避けんじゃねえ! 躱すんじゃねえ! 受け止めるんじゃねえ!」
ありとあらゆる怒声を上げて、死角から急所目掛けて刃を突き入れる。
だがそれら全てを避けると、レプトンは渾身の力を籠めて電磁波を放ち、獅子鷹の体も後方に飛ばした。
回転しながら転がって行く獅子鷹を見ながら、レプトンの指が頬を撫でる。
「掠めていきましたか‥‥まあ良いでしょう」
呟き、親指の腹で血を撫でる。
そして次に捉えたのは赤き龍――ミリハナクだ。
「みぎゃみぎゃ!」
威嚇と共に矢を放とうとする彼女に、レプトンが本を翳した時だ。
彼の視線を逸らすように弾丸が視界を掠めた。
「また貴方ですか‥‥」
アルヴァイムの放った攻撃が次なる一手の邪魔をする。ならば――と、レプトンが攻撃に移った。
行動を牽制するように降らされる弾丸の雨。
レプトンはその攻撃を負傷した腕で受け止めると接近を果たした。
「少し大人しくしていましょう」
良いですね。そう囁き負傷した腕で攻撃を見舞う――が、それが受け止められた。
直後、籠手型の超機械から電磁波が放たれる。
「くっ‥‥これだけの力がありながら、何故後方に徹するのか‥‥実に、興味深いですね」
言葉の切れ目と同時に、アルヴァイムの腕から嫌な音が響いた。
拳を受け止めていた腕がおかしな方向に曲がっている。そこに充てられているのはレプトンの脚だ。
「もう一撃、行きましょう‥‥ただし、その脳は残して」
クツリ。嫌な笑いが耳をつき、再び凶悪な音が周囲に木霊する。
これにアルヴァイムの膝が折れた。
「――、‥‥」
残る腕もおかしな方向に折れる。
彼は息を殺して悲鳴を呑み込むと、頭は残すという彼の言葉を心の中で反芻した。
だがそれが実行されることはなかった。
彼の目の前で吹き飛んだ焼けただれた腕。そして舞い上がった鮮血に目が見開かれる。
「‥‥腕を持って行きましたか」
白銀に輝く美しい矢がもう片方の腕を貫こうと機会を伺う。
だがその間に、レプトンは間合いを詰めていた。
「!」
「お嬢さん、少しオイタが過ぎますよ」
ガスッと嫌な音が響き、彼女の胴が薙がれる。
そうして上がった赤い滴は、レプトンの本を持つ手を濡らした。
彼はそれを受けて口角を上げる。
「お仕置きです」
「‥‥――ッ!」
傷口に触れた本から直接放たれた電磁波に、声にならない悲鳴が上がる。
これによりミリハナクは意識を失ってその場に倒れ込んだ。
これで動ける人間は残り1人。
だがこの1人が問題だった。
屋上にた戦闘不能にまで陥った傭兵が其処彼処にいる。ある者は起き上がる事も出来ない状態で叩き伏せられ、ある者は文字通り動きを断たれた、そしてある者は意識を失い倒れている。
このままいけば、確実に全滅してしまうだろう。
「みぎゃっ!」
状況を察してなのだろうか。
UNKNOWNの動きが僅かに速くなった。
反復横飛びの要領で近づく彼にレプトンは急ぎ電磁波を放つ。だが彼はそれを避けて接近を果たすと、着ぐるみに付けている爪で彼の身を掻いた。
「ッ‥‥」
胴を裂く痛みにレプトンの顔が歪む。
だが彼もただ攻撃を受けている訳ではない。踏み込み、ずらした足でUNKNOWNに蹴りを加える。
だがその攻撃を爪で受け止めると、UNKNOWNは赤い銃をレプトンに向けた。
「ぎゃお?」
可愛らしく傾げられた首。
それを目にしたレプトンの目が見開かれるのだが、それが完全に開くことはなかった。
炎によって焼かれた面。
筋肉が露出した顔に妙にグロテスクな目が覗く。そうしてぐるりと視界を巡らせ戻って来た目がUNKNOWNを捉えると、2人は同時に己の持てる攻撃の全てを放った。
電磁波と炎の最大放出。
足元に溜まった塵を巻き込んで舞い上がる攻撃に、2人の姿が掻き消える。
「す、げ‥‥」
溜まった血を吐き出しながら獅子鷹が呟いた。
そして塵が静かに地に落ちると、ダンディズムに煙草に火を灯す竜の姿が飛び込んできた。
その足元にいるのは、黒焦げになった元レプトンという塵だけ。
UNKNOWNは満身創痍、全員に受けた傷をそのままにレプトンが使っていた本型の超機械を踏み潰すと、勝利の雄叫びを上げたのだった。
そしてその声を耳にした宗太郎=シルエイト(
ga4261)は、バイクを止めるとヘルメットを外して空を見上げた。
彼は郊外での戦闘を終え合流した者の1人だ。
これから街には軍と警官がやって来る。
今の雄叫びが何なのかはわからない。だが、事態は収束に向かっている。
今の声を聞いて、彼はなんとなくそう感じていた。