タイトル:【BS】実験都市・地下マスター:朝臣 あむ

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 11 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/28 07:20

●オープニング本文


●???
 高層ビルの屋上に佇む影。
 白衣を揺らして眼下を見下ろすのは、分厚いレンズに顔面を隠す人物だ。
 彼は手にしたスナック菓子を開くと、それをポリポリと食べ始めた。
 そこに近付く影が1つ。
「準備完了デース♪」
「ジョニー、遅いですよ‥‥25秒作業が遅れています。修正には次の作戦行動を45秒早めなければいけません」
「レプトンさーん、細かいことはノーセンキューデース♪ それにしてもベリービッグな企画デース、ナニがしたいデース?」
 ジョニーはそう問うと、レプトンの瞳が動いた。
 褐色の肌にシルクハット、インカムを着けた彼の姿を見止めると、再び街を見下ろした。
「単なる好奇心です。私の行う実験によって人がどのような反応を示し、どのような行動に出るのか‥‥想像もし得ない行動に出たら――そう考えるとゾクゾクします」
「好奇心デスか‥‥そのソウル、わからなくもないデース。悲鳴と血はゴージャスなショーデスから」
「与えた役割さえ全うすれば、幾らでも見れるモノです。その為には邪魔の入らないよう、十分注意して下さい」
 レプトンはそう告げると、スナック菓子の袋に手を突っ込んだ。
 ガサガサと乾いた音が響き、続いてその袋が燃え上がる。
「終わってしまいました。もう少し量が欲しいですね‥‥ああ、そうだ。この実験が終了したら街のお菓子を制覇しましょう。ええ、それが良いですね」
 彼は眼鏡の向こうの瞳を光らせると、不気味な笑いを零した。
 これにジョニーが肩を竦めると彼は踵を返した。
 だがレプトンは見送る気はないようだ。
 一切視線を向けなかった彼の耳に、意外な声が届く。
「――ソウルの加護がアルとイイデスネ」
「心配してくれるのですか?」
 思わず振り返った先に、ジョニーの笑い顔が飛び込んでくる。
 彼はレプトンの問いに片手を上げると、滑るような足取りで後方に退いた。
「ノンノン、レプトンさんのステージはベリーグッドデース。それがロストするのは、ソー、バッド」
「――成程」
 この答えに、納得以外の何があるだろう。
 レプトンは分厚いレンズを取り払うと、爬虫類のようにギョロリとした目を動かして、眼下を見た。
 人類よりも特化した目、そして人類よりも特化した耳が数多の音を捉える。
「さあ、実験の開始です。良いデータの提供をお願いしますよ、人類諸君」
 彼は吹く風に目を細めると、楽しげな笑い声を零したのだった。

●地下
 不穏な空気渦巻く街の地下。
 そこを赤の着物に身を包んだ傭兵が歩いていた。
 その人物の名は枯巣(カラス)。
 扇子型の超機械で空を飛ぶムカデと、巨大なハエを倒すその人は、行く手を阻むモノ全てを排除しながら奥を目指す。
「此処に鳥がいれば、良い餌になったのだけれど‥‥残念」
 然して残念でもない声を零して足を動かす。
 ここは過去に使用されていた地下水道がそのまま残された道。広さは3人の大人が優に歩けるほどだ。
 水は通っておらず、清潔感は欠片もない。
 正直、虫が湧いても違和感のない場所だ。
「さて‥‥」
 枯巣は自らの懐中時計に目を落とすと、緩やかに足を止めた。
 地下に潜って1日が経とうとしている。
 此処まで歩いた感想を言うならば、キメラの強さはそこそこ、問題の無い強さと言えるだろう。
 問題があるとすればその数と、地下の構造だ。
「迷路のようにも見えるけれど、東西南北にそれぞれ貯水プールがあったね‥‥そこに上手く誘導出来れば戦い易くなる、かな」
 言って、通信機を取り出し、本部に今まで得た情報を流す。
 その上で、枯巣は別の者にも通信を飛ばした。
「やあ、死にたがり君。異変には気付いているかい?」
『てめぇ、今頃連絡してきて如何いうつもりだ!』
 怒声を響かせ答えたのは、共に街を訪れたキルト・ガングだ。
「そう怒るものではないよ。それよりも、地上の様子は如何だい?」
『‥‥地下にでもいるのか?』
 彼の疑問は尤も。
 キルトとは情報収集の為に共に街に入ったのだが、枯巣は入ってすぐに別行動を申し出た。
 以降、連絡を入れていないので彼は枯巣が何処にいるのか知らない。
「気になる事があってね。地下に潜ってみたのだけれど‥‥随分と面白いキメラがいるよ」
『あん?』
「本部にはキメラと地下の情報を送っておいたよ。悪いけれど、こちらを片付けないと地上には上がれないようだ」
『‥‥どういうことだ?』
 訝しむような声を聞きながら、枯巣の目は人影らしきものを捉えていた。
 現れたのは作業着を着た男――一般人だ。
 枯巣は相手が一般人とわかっていながら、扇子を構えると、迷うことなくそれを振るった。
「ああ、それは‥‥寄生型のキメラが原因なのだけれどね」
 放たれた旋風は男に直撃。
 旋風を浴びた個所から血を溢れ出し倒れたのだが、その直後、異変は起きた。
 男から溢れる血に、白い糸のような虫が混じっている。
「‥‥これで何人目だろう。キルトには急がせないといけないね」
 地下に入って目にする何人目の人だろう。
 何かしらの凶器を持って襲い掛かってくる人。それを倒す度に体内から溢れ出る白い虫に、枯巣は幾度となく止めを刺してきた。
「例えるなら蟯虫‥‥寄生先を見つけると次々に溢れてくる。けれど、元があるはず」
 彼は通信可能な場所を探して歩き出すと、再び回線を繋げるよう動いた。
「キルト、聞こえるかい? 蟯虫キメラの対象方なのだけれど――」
『枯巣! 一般人が襲ってきてる!』
 切羽詰まった声に、枯巣の端正な眉が寄った。
 事態は既に地上にも及んでいると言うことだろうか。
「‥‥成程、此処にはもう、殆どいない可能性があるね」
 人間に寄生するならば、キメラの目的は人間の筈。そしてその人間が多く存在するのは地上だ。
「キルト。蟯虫型の寄生キメラの対象法だが、それは寄生された者を倒すことなの。躊躇わないことだよ‥‥躊躇えば被害は拡大する」
 そう言葉を向け、回線は切れた。
 彼ならば今の指示を受けて的確な行動を取るだろう。
「さて、詳細を連絡しなければならないね」
 言って、枯巣は更に通信が行える場所を探して地下を歩いて行った。

●UPC本部
 緊急で届いた通信に、本部は慌ただしく動いていた。
 そこに新たな通信が入る。
「――っ‥‥派遣した軍と現地の警察が何者かにより拉致されました!」
「何だと!」
 本部は届けられた情報を元に、すぐさま軍と警察に連絡を入れていた。
 そして各所、対処に乗り出していたはずなのだが、それが全て姿を消したという。
「如何しましょう。急いで警察と軍の援軍を――」
「そんな暇はないわ! 民間人の保護と避難を最優先! 原因究明とキメラの排除に全力を注ぐのよ!」
 傭兵は集められるだけ集める。
 ここは傭兵たちの実力を知るオペレーターの腕の見せ所だ。
「情報整理と侵入ルートの割り出しを急いで!」
 この声に一度手を止めた者たちが、一斉に動き始めた。

●参加者一覧

/ M2(ga8024) / 最上 憐 (gb0002) / 番場論子(gb4628) / ソウマ(gc0505) / 赤月 腕(gc2839) / マリンチェ・ピアソラ(gc6303) / 住吉(gc6879) / 月隠 朔夜(gc7397) / 霧島 葵(gc7435) / 賀村 省(gc7487) / 音無 慰留(gc7541

●リプレイ本文

 バグアの実験場とされた街。
 その地下に足を踏み入れる前、傭兵たちはオペレーターからとある指示を受けていた。
 その指示というのがコレだ。

『地下水道には街の東西南北に当たる部分に貯水プールが存在します。
充分暴れられる広さがありますので、そこにキメラを誘導し倒して下さい』

 彼らはこの指示に従い班を4つに分けた。
 そして地下に足を踏み入れた傭兵たちは、枯巣(カラス)が用意した地図を頭に焼き付け、今まさに動き出そうとしていた。

●東
 東の通路を視界に留め、M2(ga8024)は携帯している銃を抜き取ると息を吐いた。
「人に寄生とか‥‥相変わらずヤな事するな」
 銃身を撫でながら思い出すのは、寄生型キメラに操られた人の姿だ。
 地下に足を踏み入れてすぐ、彼はキメラに寄生された人間と遭遇した。
 そしてそれを躊躇いもなく倒す、枯巣という傭兵の姿を見ている。
 目の前で倒れる一般人には衝撃を受けたが、それ以上に目に焼き付いているのは、白い糸のようなキメラだ。
「‥‥とりあえずこっちをどうにかして、上の負担を減らしてやらなきゃ」
 言って、共に待機する仲間を振り返る。
 そこにいるのは、ヘヴィガンナーを主に集められた新人の傭兵だ。
 彼らは、この依頼に参加した傭兵の数がULTが想定していたより少なかったため、少しでも戦力の足しになればと急遽召集され、地下の各方面に配置された者たちだった。
 しかし、人数は多くない。
 少ない戦力で依頼を成功させられるかどうかは、傭兵達が立てた作戦にかかっていた。
 M2と彼らはこれからここに集められるであろう敵を待っている。
「ここにキメラが来てからが勝負だね。がんばろう」
 そう口にして空の貯水プールに配置された仲間の位置を確認する。
 そんな彼の耳には微かな物音が届いている。
 それは徐々に近づき、戦闘の時がもうすぐ訪れると知らせている。
「‥‥がんばろう」
 彼はいま一度、今度は自分に対して呟くと、安全装置に手を掛け、銃口を通路の入り口に向け翳した。

 一方、中央部分から東の貯水プールへ誘導を行っていた月隠 朔夜(gc7397)と賀村 省(gc7487)は、顔色を青しながらキメラと戦っていた。
「初めてのキメラ討伐任務でこれって‥‥」
 そう言いながら、朔夜は蛇のような和槍を構えて突く。
 これを浴びたハエ型キメラが、ゴロンっと音を立てて地面に落ちた。
「俺だって初依頼だよ‥‥って、ぅわっ!?」
 羽を断たれたハエが、口から管のような物を伸ばしてきた。
 省はそれを傭兵刀で振り払い、一気に胴体を突き刺す。そうしてキメラの息の根を絶つと、省は大仰なため息をついて、刃に付いた奇妙な液体を払った。
「見た目がグロイ‥‥」
「だな‥‥やっぱ気持ちわりいなあ‥‥」
 朔夜と省はそう言って再び重いため息を零す。
 何にしてもここで彼女たちがやらなければいけないのは、仲間の元にキメラを誘き出して誘導すること。
「‥‥すぅ‥‥はあー‥‥」
 省は大きく息を吸い込んで唇を引き締める。
 やらなければいけないことがあるなら、実効あるのみ。
「‥‥うおっし! やるかぁ!!」
 柄を握り締めて張り出した声。それが勢いよく地下に響き渡る。
 そしてその声が木霊す中で、嫌な音が耳を掠めた。

――ザワ、ザワザワ‥‥バタ、バタバタ‥‥。

「‥‥あの‥‥凄い音、してますね‥‥」
「だなあ‥‥って、うげえ」
 薄暗い闇の先、そこに見えた黒い塊に省と朔夜の顔色が悪化する。
「き、気持ち悪っ!」
「なんでよりによってこいつらばっかなんだよ!」
 迫ってくるのはハエ型キメラの軍勢だ。
 もっと他にも種類はいたはずなのに、なぜこれなのか。
 言いたいことは山ほどあるが、それよりもまずは手を動かさなければ。
「ああもう、やるぞ!」
「あ、はい‥‥派手にぶっ飛ばしますよッ!」
 2人は武器を手に頷き合うと、キッと前を見据えた。
「どうせだ、もっと惹きつけてやる!」
「え‥‥省さん、それ‥‥」
 ニヤリと笑って彼女が取り出したのは呼笛だ。
 省は息を吸い込んでそれを咥えると、一気にそれを吹いた。
「おらー! こっちだぞー、そこの気持ちわりいのー!!!」
 耳を劈かん勢いで響く音。
 だがキメラはその音に反応するというより、見えた獲物に急加速しているようだ。
 省が動く度に、僅かな照明で彼女の刀が光る。
 そこに惹かれているように見える。
 だがやってくれば条件は同じだ。
「朔夜、行くぞっ!」
「あ、はい!」
 見た目に反さず素早い動きで迫る敵。
 それを前に2人は体を反転させると一気に駆け出した。
 勿論、ハエ型キメラの軍勢は、逃げる彼女たちを逃がして堪るかと追いかけてくる。
 その距離はかなり際どいが、ギリギリのところで捕食は免れている。
「もう少し、もう少しで――」
 朔夜の目には彼女たちが目指す、貯水プールの入り口が見える。
 そこには複数の仲間がいて、敵と自分たちの来訪を待っている筈だ。
 2人はあと僅かで貯水プールに入る。そこまできて足を止めると、自らの武器を振り上げた。
「――くたばりなっ!」
 銀に染まった朔夜の髪が、彼女の動きと共に舞いあがる。そうして叩き落としたキメラを、省の傭兵刀が止めを刺す。
 敵は怯む様子などない。
 数で押し切れる。そう考えているのかもしれない。
 だが、こちらだって策はある。
「朔夜、行けるか?」
 ニイッと笑った省の声に朔夜が頷く。
 それを見止めた省の手が彼女の腕を掴んだ。
 そして――
「そらっ、歓迎のお出迎えだぜ、いっひっひ!」
 強引に引っ張り込んだ朔夜の腕。
 それを離さないように貯水プールに飛び込むと、M2と含めた仲間の姿が見えた。
「目標捕捉、そこから離れてっ!!」
 M2の声に、朔夜の腕を抱き込むようにして省が戦線を離れる。
 そしてそれを待っていたかのように、M2とヘヴィガンナー達の銃口が火を噴いた。
 入り口周辺を覆う弾丸。
 次々と止まることなく降り注ぐそれに、誘い込まれたキメラたちが次々と崩れ落ちてゆく。
 だが弾丸の雨が止んでも敵を全て撃ち落とせたわけではなかった。
 視界に飛び込んできた残り僅かの敵に、M2が弾を充填しながら叫ぶ。
「省、朔夜、一気に畳むよ!」
「了解です」
「おう、俺に任せな!」
 3人は今得た勢いを殺さないように、一気にキメラの掃討に掛かった。
 そしてある程度敵を潰したところで、全員の目が入り口に飛んだ。
「あれは‥‥危ないッ!」
 省を庇うようにして飛びついた朔夜。
 その直後に飛び込んできた弾丸に、M2が透かさず銃を構える――しかし、その動きが止まった。
「まさか、一般人‥‥?」
「‥‥っ‥‥M2、援護してくれ!」
 朔夜の肩を叩くことで感謝を伝え、省は一気に駆け出した。
 相手は一般人、銃を持っていようが彼女の速さに敵う筈もない。
「悪いな‥‥これしか‥‥出来ないんだ」
 瞬時に間合いに入った省に、一般人が照準を急ぎ合せようとする。しかしそれを合わせきる前に銃はM2の射撃によって弾かれた。
「‥‥、‥‥悪い」
 人が生存するのに必要な鼓動を彼女の刃が一突きにする。
 そして崩れ落ちた身を倒したその手で受け止めようとしたのだが、そこに再び無数の弾丸が迫った。
「!」
 咄嗟に弾を避ける様に飛び退いた省。彼女の目がすぐさま見開かれてゆく。
「寄生型キメラ‥‥」
 省が貫いた先から溢れてきた白い糸のような虫。それを全て撃ち払おうとM2は容赦の無い攻撃を注ぐ。
「――」
「省さん!」
「わかってるよッ!」
 彼女は朔夜の声に刃を構えると、それを一気に振り下ろした。
 そうする事で溢れ出た白い虫を朔夜やM2、背後に控える仲間たちが倒してゆく。
 こうして全ての戦闘が終わると、M2が省に近付いた。
「さっきは当たらなかった? 取り付かれるよりはと思って撃ったんだけど‥‥ごめんね?」
 優しく肩を叩きながら言われる言葉に彼女の首が横に振れる。
「怪我はしてないみたいですね」
 朔夜も省の事を気にしていたのだろう。
 彼女の姿を確認すると、ニコリと笑んでその手を取った。
「怪我がなくてよかったです」
 本当に良かった。そう言葉を返した彼女に、省は頷きを返す。
「ここに誘い込んだキメラは退治終わりましたね。あとは、残っているキメラがいないか確認をして、他の班に合流しましょう」
 朔夜はそう言葉を向けると、まずはキメラが残っていないか確認に向かった。

●西
 地下の通路で、ソウマ(gc0505)は腕を組みながら僅かな音も聞き漏らさない様に耳を澄ましていた。
 微かに響く羽音と、戦闘音。それと共に近付く足音に彼の瞳が上がった。
「そろそろ始めますか?」
 言ってソウマが見たのは、彼と同じく囮を申し出てくれた仲間だ。
 彼らも東班と同じく囮を使って貯水プールまで敵を誘導する。
「色んな意味で困難な依頼ですが、不思議と失敗するとは思えないんですよね」
 ソウマはそう言って超機械「スパティフィラム」を構えた。
 その表情はこれから闘いを迎えるものとしてはあまりに清々しい。
「僕のカン、結構当たるんですよ」
 茶目っ気たっぷりに片目を瞑って見せる彼に、同行している仲間から僅かに笑みが漏れた。
 そしてそれを確認して彼の手が壁に添えられる。
「‥‥敵は今どのあたりかな」
 呟き、掌に伝わる振動を受け止める。
 だが伝わってくる振動はほんの僅かで見逃してしまいそうなほど小さい。
「敵の殆どは空を飛んでるとの情報だったし、まあ妥当な結果かな。となると、この近付く気配は――」
 顔を上げた彼の目に飛び込んできたスーツ姿の男性。
 千鳥足で包丁らしきものを手に近付く姿に、ソウマの目が眇められる。
「‥‥一般人ですか」
 ソウマはそう呟き、迷いもなく電磁波を放った。
 当然、男性はあっけなく崩れ落ちるのだが、彼が怪我を負ったその場所から無数の白い虫が溢れてきた。
 それを目にしたソウマの手が超機械の弦を弾く。
「‥‥、‥‥虫を一掃しますよ!」
 彼の声と共に放たれた弾丸が、次々と白く小さな虫を落としてゆく。
 結果、虫は跡形もなく姿を消し、新たな敵を銃声が呼び寄せることとなった。
「あなた達は先に貯水プールへ行ってください。僕はギリギリまで敵を惹きつけて、それから動きます」
 徐々に近づく羽音に耳を澄まし、離れて行く仲間を見送る。
 そうして姿を現したムカデ型のキメラに彼は改めてリュート型の超機械を構えた。
「さあ、派手に行きましょうか」
 言って微笑んだ彼の指が、激しく弦を弾いた。

 その頃、マリンチェ・ピアソラ(gc6303)は貯水プールに陣取っていた残りの敵を葬った。
「ううッ‥‥結構エグイのいるわね‥‥」
 斧についた汚れを払い口にする彼女の目が、貯水プールの入り口に向く。
「慰留さん、大丈夫?」
 確か音無 慰留(gc7541)は、今回が初めての依頼だと言っていた。
 だからこそ気遣う意味も込めて声を掛けたのだが‥‥如何だろう。
 程よく肩の力を抜いて振り下ろした刀の綺麗な軌跡に、マリンチェは感心したように息を吐いた。
「凄い‥‥ん、あたしもがんばるぞッ!」
 見た目がどれだけ厳しくても、倒さなければいけないのは事実だ。
 それにもう少しすればソウマが複数の敵を連れて戻ってくるはず。
 それまでに完璧に近い戦闘態勢を敷く必要がある。
「‥‥ピアソラ‥‥」
 慰留は眠そうな瞳を瞬くと、眼帯に隠れていない方の目を彼女に向けた。
「そこ、危ない‥‥」
「へ?」
 指摘されて目を瞬く彼女が立つ場所は、これから訪れるキメラが飛び込む予定地だ。
 闘っている内にここまで来てしまったのだろう。
 このまま此処に居れば、確実にヘヴィガンナー達の射撃に巻き込まれる。
「あ、っと‥‥確かに、ここだと射程範囲内ね」
 苦笑して立ち位置をずれた、その時だった。
「お待たせしました!」
 目にも止まらぬ速さで駆け込んできたソウマ。
 彼の声にヘヴィガンナー達は武器の照準を合わせた。
 寒気がするほど聞こえてくる無数の羽音にマリンチェの眉間に深い皺が刻まれる。
「敵位置把握‥‥――3、2、1‥‥」
 ソウマはそう言って、床に手を添えた。
 壁に羽根が当たっているのだろうか。先程よりも感じることのできる敵位置に彼の声が響く。
 そして――
「来た‥‥――撃てぇーっ!!!」
 合図と共に撃ち込まれる雨のような弾丸に、飛び込んできたキメラが次々と落とされる。
 だがこんな大量の攻撃の中でも、ダメージを避けて貯水プールに飛び込んでくる敵はいた。
「音無さん、そっちにいきましたよ!」
「了解‥‥」
 クルリと手の中で回したナイフが、迫るハエ型キメラの目を貫く。
 そしてそれに怯んだ隙を見て、下から抉るように刀を振り上げると、キメラは奇妙な声を上げ地面に落ちた。
「――と、結構残ったわね」
 射撃終了後、マリンチェは残ったキメラを見て呟いた。
 だいぶ撃ち抜いたはずだが、それでも残ってしまったキメラは結構いる。
 それでも数は連れてこられたものと比べれば少ないのだ。
「貯水プールに誘導して撃ち落とすわよ」
 彼女はそう言って、手にしている斧を大きく振り上げてキメラに接近してゆく。
 そうして踏み込んだ足を軸に体を回転させて斧を振り下ろすと、遠心力をプラスして降り注ぐ斧がハエキメラの胴を一刀両断にした。
 幸いなことにハエキメラが中心だからか、ムカデ型キメラが放つ毒への影響は気にしなくてもよさそうだ。
 だが、ある程度キメラを倒したところで、何かが視界を掠めた。
「っ!」
 咄嗟に飛び退くマリンチェ。
 だが傍に居た傭兵の1人が反応に遅れた。
 皮膚に付着して顔を減り込ませるように動く糸状の虫。それにゾクリと背を震わす。
「寄生型キメラ‥‥、貸して!」
 マリンチェは急ぎ寄生型キメラが潜り込もうとする腕を取った。
「慰留さん、ナイフを!」
「あ、うん‥‥」
 彼女は慰留からナイフを借りると、迷いもなく傭兵の腕に突き刺した。
 そうして抉るように肉を切る。
 これに傭兵の悲痛な叫びを上げるが、逃げることは許さない。
「痛いだろうけど死ぬよりマシでしょ! 我慢しなさい!!」
 叱咤する声に傭兵は目を見開き、そして唇を噛み締めると苦痛に耐える様、目を閉じた。
「良い子ね」
 マリンチェはそう言葉を添え、潜り込んだキメラを取り出す。
 すると透かさずソウマの癒しの手が伸びた。
「もうキメラの気配はなさそうですね。蟯虫――‥‥いえ、寄生型キメラの存在も大丈夫そうです」
 バイブレーションセンサーで周囲の確認をしたのだろう。
 それならば信用のできる言葉だ。
「次、行く‥‥?」
 西側の貯水プールの制圧が終了したのなら他を手伝うべきではないだろうか。
 慰留のその声にソウマやマリンチェが頷きを返す。
 こうして西側の貯水プールも制圧が終了した。

●南
 闇に閃く一筋の閃光。
 両断されたムカデの胴が地に落ちると、霧島 葵(gc7435)は同じく囮の為に通路に出てきた番場論子(gb4628)を振り返った。
「よっと‥‥これで、何体目やろ?」
 刀に付着した奇妙な色の液体を払い呟く。
 それを見ながら視線を巡らすと、諭子は眼鏡の向こうにある瞳を眇めた。
「事前情報通り、ムカデには毒がありそうね。それに、音にも大分敏感みたい」
 冷静にそう分析しながら、地下を照らす照明の位置を確認する。
 等間隔に設置された照明器具は、辛うじて機能しているようだ。
 だが、全ての灯りが生きているわけではない。
 中には切れかかっていたり、蛍光灯が割れていたりと、照明だけを頼りにするのは厳しい様相だ。
「しっかし、地下の虫型キメラなぁ‥‥」
 葵はそう口にして周囲に視線を走らせる。
 多方面から響く羽音は明らかに敵のものだ。
「ココでしっかり殲滅しとかんと、また地上に被害が出るかもしれん」
 地上での情報は事前に得ている。
 相当酷い状態になりつつあると聞いたので、ここでキメラを抑えられないと状況は更に悪化すると考えて良いだろう。
「そういや、ソウマさんとは前の依頼でも一緒やったな。挨拶くらいしといたほうが良かったやろか」
 呟き、思案気に目を流した時だ。
 視界に黒い物体が飛び込んできた。
「!」
 咄嗟に刀を構えるが微妙に追いつかない。だが、彼に対する危機は直ぐに去った。
「考え事は後にしたほうが良いわ。今は敵を殲滅する事だけを考えて」
 言って、諭子の美しい刃がハエ型キメラを突き刺す。
 そうして敵が動かなくなったのを確認すると、彼女は息を吐いて周囲を見回した。
「さて、少し派手に行くわよ」
 カチリとなった機械音。
 彼女は大型の灰褐色の銃身を構えると、遠慮なしにトリガーに手を掛けた。
 そして――
「うわっ、すっごい音やな」
 思わず耳を塞いだ葵の目に飛び込んできたのは銃弾の雨だ。
 容赦なく降り注ぐそれは、キメラに向けた物ではない。
 壁を激しく打ち鳴らし地下に激しい音を響かせる。
 それに羽音が近付いて来るのがわかった。
「さあ、もう一度!」
 諭子は濡れる足元をしっかり地を踏み締めて、再度銃身を構える。
 そして再び弾丸を放つと、音がする方へ視線を飛ばした。
「来たわね」
「げっ、流石にキモいわ」
 表情を歪める葵に対し、諭子は得た成果に僅かに口角を上げる。
「さあて、目的の場所まで誘導するわよ」
「了解や。戦略的撤退開始! プールまで全力で走るで!!」
 葵はそう叫ぶと、キメラに背を向けて走り出した。

 南側の通路を進んだ先、そこにも他の場所と同じく貯水プールが置かれている。
 そこで静かに時を待つのは住吉(gc6879)だ。
 彼女は遠くに聞こえる銃声や羽音を聞きながら、新人傭兵のヘヴィガンナー達と共に諭子や葵が来るのを待っている。
「ふむ‥‥地下水道って名称のステージは、たいていの作品でグロテスクな連中しか出て来ませんよね〜‥‥」
 呟き、事前に得た情報を思い出す。
 ハエ型キメラとムカデ型キメラ。
 多少特徴は違うモノの本物の虫とほぼ同じで、大きさがデカい。正直、直視するのもどうかと思われるキメラなのだが、住吉は意外なほど落ち着いていた。
「敵の数が多そうですからね、効率的に狙って行きましょうか‥‥あ、そうそう」
 ふと振り返った先に居るのは、緊張の面持ちで攻撃の時を待つ仲間だ。
 彼らは住吉の視線に気付くと、何事かと首を傾げる。
「暗所での作戦行動となりますので、巻き込まない様に注意してくださいよ」
 そう、この場は多少灯りがあるものの暗がりには変わらない。
 地上で戦闘するのとは明らかに違う条件での戦闘なのだ。
 ヘヴィガンナー達は彼女の言葉に頷くと、真剣な面持ちで貯水プールの先にある通路を見詰めた。
 そこに銃声が響く。
「来ましたね‥‥」
 住吉は檜扇型の超機械を広げると、ニヤリと口角を上げた。
 そして手にしていたもう一つの超機械、天狗ノ団扇と合せて広げる。
「さあ、キツイ一撃を入れますよ」
 楽しげに笑みを含ませ囁く彼女に合せ、他の面々も攻撃に備える。
 そして、些細な出来事も見逃さないよう凝らされた瞳が、銃弾を放ち駆け込んでくる諭子を捉えた。
「番場様、霧島様、巻き込まれにご注意ですよ!」
 振り上げた二翼の扇。それが一気に振り下ろされた。
「汚物は消毒だー、って気分ですね〜♪」
 軽快に放たれた声と共に上がった、竜巻と旋風。それが誘い込まれたキメラに叩き込まれる。
 それに合わせてヘヴィガンナーの砲撃も加わると、入り口は一気に戦場と化した。
 次々と浴びせられる砲撃は、集められたキメラを容赦なく叩き落としてゆく。
 それでもそれらの攻撃を免れたキメラもいた。
「あまりしつこいのは嫌われるわよ」
 諭子は羽根をもがれても迫ろうとするキメラに刃を振るう。
 地を抉る様に振り下ろされたそれが、容赦なく敵の胴を切り裂き次の敵に迫る。
 それをサポートする様に住吉が新たな風を放つのだが、ふと彼女の目が葵の立つ場所に向かった。
「霧島様、足元にお気をつけ下さい」
「?」
 何事か。そう視線を落とした彼の目に届いたのは、白い糸状の虫――そう、寄生型キメラだ。
「ッ、こんなんに寄生されてたまるか!」
 葵は急ぎ蟯虫キメラの殲滅に行動を転じる。
 しかし迫る敵はそれだけではなかった。
 不意に響いた銃声に残る蟯虫キメラを倒し終えた彼の目が飛ぶ。
「ムカデの毒には注意しないと、ね?」
 奇妙な液体を吐き出して倒れるムカデ型キメラに止めを刺しながら諭子が言う。
 そうして周囲を見回すと、彼女の腕を住吉が取った。
「怪我をしていますね。まだ闘いは続きます、治しておきましょうか」
 言って癒しが降り注ぐと、彼女は小さく礼を口にして銃を下げた。
「これで全部かしら?」
「せやな。ここに誘き寄せたキメラはこれで全部みたいやな」
 葵も諭子と同じく周囲を見回し、高ぶった気持ちを抑える様に息を吐くと、気合を入れる様に自らの頬を叩いた。
「よっしゃ! ここは片付いた! 他の援護に行くで!!」
 そう言って刀を握り直した彼に、諭子と住吉が頷きを返したのだった。

●北
 北の貯水プール。
 そこへ向かう前、最上 憐(gb0002)は中央で誘導に当たっていた枯巣に声を掛けた。
「ふぅん‥‥そう、私に協力を頼むの」
 紅を引いた唇を弓なりにして囁く枯巣に、憐は表情もなく頷く。
「北が。一番人が少ない。だから。可能なら。来て‥‥」
 じっと見上げる幼く大きな瞳。
 それを見返し、枯巣は赤の着物を翻した。
「良いよ、手伝ってあげる。それで私は何をすればいいの?」
 あまりにあっさり了承した枯巣に、僅かに拍子抜けするものの、それを表情に出すことなく頷くと、憐は傍に立つ赤月 腕(gc2839)を指差した。
「一緒に。北の。貯水プールに。行って‥‥」
 よろしく。そう頷くように頭を下げた腕に、枯巣は唇に笑みを刻んだまま頷く。
 こうして憐をその場に残し、腕と枯巣は他のヘヴィガンナー達を伴って北の貯水プールに向かった。
 そんな腕は出ない声を燻らせて息を吐く。
(息抜き程度にはちょうど良いか‥‥)
 特に目的もなく今回の依頼に参加した彼は、急遽集められた傭兵の中でも一際、生への執着が低い。
「君、オモシロイね」
 枯巣はそんな彼に声を掛け、先を歩いてゆく。
 当の腕はと言えば、聞こえた声に何を言うのかと目を瞬いていた。
 だが問いを向けようにも声が出ない。
 彼は思案気に落とした瞳を上げると、「まあいいか」と息を零して奥へと足を進めた。

 一方、中央付近に残された憐は、事前に聞いていた北側の貯水プールへ向かう道順を思い出していた。
「‥‥タイミングが。重要」
 口にして1人頷く。
 そうして動かした目は近付くムカデ型のキメラを捉えていた。
 彼女は身の丈よりも遥かに大きい鎌を構えると、小柄な体に似合わない身軽な動作でそれを振り上げた。
「可能な限り。集める」
 ぶんっと振り下ろした瞬間に響き渡った、美しい音色に、音に敏感らしいムカデ型キメラが接近してくる。
 そして間近までそれが近付いて来ると、彼女の目がそれとは別の方向を捉えた。
「まだ。少ない」
 響く鎌の音色に誘われ敵は集まってきている。それでも望む量はまだ来ていない。
 それは他の班が上手く立ち回っている証拠でもあるのだが、それでも足りない。
 彼女はムカデ型キメラの攻撃をギリギリのところで避けると、大ぶりの動作で鎌を振り下ろした。
 瞬間、彼女の鎌が壁を叩き僅かな火花を散らす。
 これに釣られるように羽音が増した。
「ん。来た‥‥」
 鎌の音色と、壁を叩く音。
 それらを響かせる憐の足取りは軽い。
 彼女は集まるキメラを視界に留め、ステップを踏むようにその身を反した――と、その瞬間、憐の姿が消える。
 否、彼女の身が消えたように見えたのは、彼女が発動したスキルの影響だ。
 キメラの脇をすり抜け北側の貯水プールに向かう通路に出た彼女は、鎌を手にしたまま後ろを振り返る。
 そうして再びそれを振り上げると、悲しくも優しい音色が響いた。
「‥‥こっち。良い子だから。来て」
 音に釣られるキメラ、そして憐の姿に釣られるキメラ。生態は様々だがキメラたちは確実に彼女の誘導に従っていた。
 そして枯巣に教えられた場所に近付いたのを確認して、彼女の手が懐を探る。
「そろそろ‥‥」
 口にして取り出したのは手榴弾だ。
 彼女は次第に見え始める出口へと進みながら、チラリと後ろを振り返った。
 そこにあるのはキメラの大軍だ。
 そしてその大軍の音を耳にしていた枯巣は、隣でブルーベリージャム入りのルリーナー・プファンクーヘンを食べて待機している腕に目を向けた。
 先程からもそもそと口を動かしているが、警戒は解いていないようだ。
(暴れられそうに無いな‥‥)
 聞いていた情報では、ここにはキメラと、それに寄生された人間しかいないという。
 地上に行けばバグアがいる可能性もあるのだが、彼は地下に来た。
 腕は指に付いた食べカスを舐めとると、憐が飛び込んでくるであろう入り口を見た。
(まぁ、楽させてもらうか‥‥)
 口中で零した溜息。
 それを静かに呑み込むと、腕は用意しておいた巨大なライフルに武器を持ち替えた。
 そうして照準を合わせ、近づく羽音に意識を向ける――と、その時だ。
 入り口のすぐ傍で爆音が響いた。
「憐君が来たようだね」
 枯巣が扇形の超機械を構えるのと同時に、腕の手にするライフルが機械音を響かせる。
 そしてその時はきた。
「――撃つ」
 ただ一言零された声。それに添うように目にも止まらぬ速さで飛び込んできた憐。
 彼女が安全な位置に入るのを確認すると、一斉にヘヴィガンナーが銃弾の雨を注ぐ。
 それに添って枯巣の旋風も攻撃に加わるのだが、腕はただ静かに前を見据えたまま動かない。
 しかし、その彼の指が不意にトリガーを引いた。
 銃弾の雨、そして旋風から逃れたキメラを彼の放つ弾丸が撃ち落とす。
 そして地に落ちたそれを憐が止めを刺した。
 だが逃れてた敵はそれだけではなかい。次々と漏れこんでくる敵。
 それに射撃を加えながら、腕の目が先程まで装備していた武器に落ちた。
「武器を持ち替える。その間の援護を頼む」
「‥‥了解」
 覚醒し声を得た腕の声に、憐が頷きを返す。
 そして彼女は大鎌を振り上げると、自らの残像を残し敵の背後に回り込んだ。
 そうして突き上げた刃が、キメラの体に深く突き刺さる。
 だがキメラはそれだけで動きを止めない。
 しぶとくもがくその姿に、枯巣の一撃が加わると、憐は鎌を振り下ろしてキメラの亡骸を地に放った。
 そこに新たな敵の手が伸びるのだが、それを凄まじい勢いで緋色の刃が叩き落とす。
「暴れ足りなかったところだ、本気で行くぞ」
 腕は瞳に狂気を覗かせて囁くと、残るキメラの殲滅に身を乗り出した。
 こうして一気にキメラの殲滅を終えたのだが、ふと憐の視線が下に落ちた。
 その様子に、怪我でもしたのかと皆の目が向かう。
 しかし――
「‥‥お腹。空いた」
 ぽふっとお腹に添えられた手と零された声に、皆の口からホッと安堵の息と笑みが零れる。
 そしてそんな彼女の前に、中華粽が差し出された。
「冷めているが、これでも食うか?」
 腕は自前の小型携帯用保冷ボックスを開いて見せると、納まっている大量の粽を見せた。
 これに憐の目が輝く。
「平和な事だね」
 枯巣はそう口にして通信機を取り出した。
 そこに響くのは各所の制圧の報告だ。
 枯巣はそれらを受けると本部に連絡を入れ、そして撃ち漏らしが無いかの確認を行うよう、地下にいる面々に連絡を入れたのだった。