●リプレイ本文
ホーピー商店街を訪れた鳴神 伊織(
ga0421)は、ふと現実を思い出し、眉を潜めていた。
「お祭り‥‥か、アフリカの方では大変ですが、束の間の休息という感じになるのは、必至でしょうから」
いつでも休息は必要だ。
だからこそ今回の祭りには多くの人が集まった。
矢神小雪(
gb3650)もその中の1人だ。
「さてバイト諸君。君達にはバイトをしながらある女性を見つけて欲しい」
彼女はそう言って、出店する「オープンカフェ【子狐屋】」の面々を見回した。
小雪が開くのは和風メイド喫茶スタイルの、デザートを中心としたお店だ。
店は勿論やる。だがそれと同じ位大事なことがある。と、彼女は言う。
「見つけるだけで良い‥‥彼女は能力者だ一般人の君達ではかなわないからな」
そこまで言って、表情を強張らせるバイト諸君に気付いた。
「ああ、彼女が何か罪を犯したとかそう言うのではない。ただの私情で見つけたらボーナスを出す」
この言葉にバイト諸君はやる気満々で商店街に消えた。
一方、気晴らしで足を運んだリヴァル・クロウ(
gb2337)はある情報を思い出していた。
「夏祭りと聞いて赴いてみたが‥‥この辺りは確か、ビューティーホープという人物の出没区域だったと記憶している」
彼は何度かビューティーホープ(gz0412)(以下、BH)と遭遇している。
そして最近では類似した別の能力者も目撃されていると言うではないか。
「変な事にならなければよいが」
そう言ってため息を零した彼の目に見知った姿が飛び込んで来た。
「流石に全部に手を出すと食べきれないでしょうか」
伊織はそう呟き、手元にある焼きそばやたこやき、それに綿あめを見た。
「珍しい所で会ったものだ。随分と食べ物を買い込んでいる様だが‥‥」
突然の声に振り返った伊織の顔が若干赤くなる。
「こ、これは‥‥傭兵になった後だと、あまり出来る物でもありませんでしたから」
つい‥‥そう言って、綿あめを差し出す。
「良いのか?」
「はい、たぶん食べきれないでしょうから」
そう言った彼女に、彼は綿あめを受け取ると暫し談笑に興じた。
その頃、鐘依 透(
ga6282)は眠そうな顔で前を歩く2人を見ていた。
「うーん‥‥」
実は彼、昨日は木彫りをして徹夜した為、寝不足ったりする。
それでも足を運んだのは、エヴァ・アグレル(
gc7155)が原因だったりする。
「急に『お祭りに行くわ!』だもんな‥‥ふぁ、眠」
小さい子2人では何かあっても問題だろう。故に保護者と言う立場で来たのだが、やはり眠い。
「こんなに可憐な花が両手にあるのに、失礼だわ」
欠伸を零す透にジト目を送り、エヴァは唇を尖らせたのだが、そこにクリスティン・ノール(
gc6632)の声が聞こえてきた。
「とっても楽しそうですの! いっぱい遊びますですの♪」
確かに露店は魅力的だし、来たからには楽しまなければ損だ。
「‥‥クリス、次はあっちよ」
エヴァはそう言うと、彼女の手を引いて歩き出した。
そうして向かったのは林檎飴のお店だ。
「可愛いですの♪」
「ふふ、お祭りの買い食いは花なのよ。今日だけは、食べ歩きもはしたなくないんだから」
得意気に言って、透を振り返る。
そこに見えた何度目かの欠伸にエヴァの眉が寄った。
「3つちょうだい!」
エヴァは林檎飴の1つをクリスに渡し、もう1つを透に差し出した。
「え?」
「レディだけに食べさせるなんて失礼だわ」
言って強引に押し付けて歩き出すのだが、透には意味が分からない。
そこに再びクリスの声が届いた。
「か、可愛いぬぐるみ発見ですの!」
パタパタと駆け寄ったのは射的屋で、彼女はそこにある黒いうさぎのぬいぐるみに心奪われたようだ。
そして果敢に挑戦するのだが取れない。
「‥‥ウサギさん」
残念賞を手にしょんぼりするクリスに透が歩み寄る。
「‥‥欲しいの?」
「!」
この声にクリスの目が輝いた。
「透さま取って下さるですの!?」
「まあ、食べ物奢られたこともあるし」
透はそう呟くと銃を構えた。
「頑張ってなのですの!」
ドキドキと両手を握り締めて見守るクリス。
そして――
「透さま、ありがとうですのー!」
「はは‥‥うん。上手くいって良かった。どういたしまして」
笑顔でうさぎのぬいぐるみを抱きしめるクリスの頭を撫でると、彼はエヴァにも同じぬいぐるみを手渡した。
「エヴァなら自分でも取れたけど‥‥殿方のプレゼントを受け取らないのは失礼だもの‥‥一応喜んであげるわ」
言ってぬいぐるみを抱きしめる。
その様子に少し笑って、彼女の頭を撫でた。
「それは余計なことをしました‥‥」
「っ、レディの髪に軽々しく触る点は減点だわ!」
言って歩き出すエヴァに目を瞬く。
「あれ?」
先程よりも機嫌が悪くなっている?
徹は小さく首を捻ると、彼女の後を追った。
そして彼らが消えた場所から、元気な声が聞こえてくる。
「ニャー! お祭りにゃー!」
「リュウナ様、楽しみましょうね♪」
元気に目を輝かせて辺りを見回すのはリュウナ・セルフィン(
gb4746)だ。
その隣には東青 龍牙(
gb5019)がいる。
「リュウナ様の身に危険が及ばない様に‥‥暴走しない様に警戒しないとですね」
密かに呟き、露店に興味津々な様子に不安が募る。
「‥‥青龍神様、どうかリュウナ様が暴走しない様にお守り下さい」
彼女は小声でそう呟くと、浴衣姿で右往左往するリュウナに歩み寄った。
「にゃ! ワタアメにフランクにたこ焼きに焼きそばにかき氷に‥‥」
何処もかしこも誘惑いっぱいだ。
「にゃー! 沢山有りすぎて何から食べて良いのか分からないなりー!」
どれにするなり? そう問いかける彼女に、龍牙はそっと人差し指を立てて見せた。
「リュウナ様。お小遣いの無駄遣いはダメですよ?」
そう言いながらも彼女の顔は穏やかだ。
近くの焼きそば屋へ向かうと、そこで1人分購入してリュウナに手渡した。
「ありがとうなのら〜♪ あ、龍ちゃん!」
「はい?」
「あ〜ん♪」
目の前に差し出された焼きそばを、龍牙は迷うことなくそれを口にする――と、その目にふと射的屋入った。
「にゃ! やってみたいのら! スナイパーの腕前、龍ちゃんに見せてやるのら!」
「リュウナ様。射的屋さんで覚醒するのはダメですよ?」
「にゅ? 覚醒はダメなりか?」
「メッ! です♪」
そう言って片目を瞑る龍牙にリュウナの目が瞬かれ――
「‥‥リュウナ、それくらい分かってたなり」
完全に棒読みだ。
それでも、実行しなかっただけ良いだろう。
龍牙はクスリと笑みを零すと、リュウナの為に射的屋に足を運んだのだった。
山田 虎太郎(
gc6679)はキルト・ガング(gz0430)と美少女コンテストの観客席、最前列にいた。
「山田は美少女コンテストの様子をカメラに収めて、スケベな男性の方々に売りさばいて一儲けしようと考えているのですよー」
「‥‥そりゃ凄い」
「全ては生活費確保の為です。今月は冷たい物を食べ過ぎたせいで、微妙に家計が火の車ですからねー」
それは自分の所為だろ。そう言いたいのをグッと堪えて前を見る。
彼がここに来たのは昨夜だ。
虎太郎が夜道を歩いていたので声を掛けたら、こんな事になってしまった。
「そもそもあの時間にガキが出歩いてること自体問題だろ」
「そう言えばキルトさん」
「あ?」
「この前はお疲れさまでした。今日は迷子になってないんですか?」
「なりようがねえだろ!」
思わず叫んだものの、彼女は気にしない。
「キルトさん、所でかき氷を山田に奢ってみませんか? 今奢ると山田の好感度が2ポイント上がりますよ?」
「‥‥何だ、好感度って」
そう言いながらも立ち上がると、彼はポンッと彼女の頭を撫でた。
「カキ氷とラムネでお願いしますよー」
「‥‥へいへい」
もう何でも良い。そんな思いで歩き出した彼の目にピンクのツインテールが飛び込んできた。
そこを歩くのはエリス・フラデュラー(gz0388)だ。
その隣にはミコト(
gc4601)もいる。
「いきなりごめんね。お祭りだって聞いて、普段と違う雰囲気ってもの楽しそうだと思ったから」
確かにミコトの言う通り、普段とは違う活気に包まれる場所は楽しい。
「エリスちゃんは、露天巡りとかしたことある?」
露店巡り‥‥そう聞かれて首を傾げる。
「実は俺、あんまりこういうことしたこと無いんだよね。ってことで適当に楽しもうか」
この声にコクリと頷き返した彼女の目が、ある店に釘付けになった。
「気になる?」
問いかけに、躊躇いがちに頷いたエリスが見ていたのはパンダのお面だ。
「お金は、お兄さんに任せなさ〜い。こういうときは、女の子の御代を持つのが役目なんだから」
「え、でも‥‥」
躊躇っている内に行ってしまった彼は、露店でお面を購入すると戻って来た。
「はい、どうぞ」
言って差し出されるお面に笑顔が零れる。
それを見ながら、ミコトは露店で聞いてきた話を口にした。
「午後に美少女コンテストをやるんだって。エリスちゃんは出てみたりしない?」
お面を頭に掛けた所で動きが止まった。
「良いところまで行くと思うけど‥‥あ、もちろん、俺は票を入れるしね」
「‥‥ミコトさん、は‥‥?」
「え?」
「ミコトさんは、何処に、いるの‥‥?」
「あ、ああ、そう言うことか」
一瞬浮かんだ勘違いに、思わず視線を逸らす。
それでも直ぐに視線を戻すと、ニコリと笑った。
「俺は最前列で応援してるよ」
この言葉に、僅かに思案した後、エリスはコクリと頷き返した。
この頃、美少女コンテストの受付にいた春夏秋冬 立花(
gc3009)は、ある悲劇に見舞われていた。
「あれ? 小雪さん?」
「六花たん発見!!」
「ひっ!? なんだかわからないけど逃げるっ!」
物凄い勢いで走ってくる小雪の目が、なんだか光っただから駆け出したのに、その前を黒服の面々が塞ぐ。
「い、一般人が相手だとっ!」
恰好こそプロだがどう見ても一般人だ。
たじろぐ立花に迫る足音。そうして足音が真後ろで止まると、耳元にぼそっと声が落とされた。
「逃げたら恥ずかしい写真をばらまく」
ピタッと立花の動きが止まった――そして‥‥
「やっ。やめろぉぉぉぉ!」
数分後、彼女はシースルーのメイド服(パッド付)に身を包み、立ち尽くしていた。
「立花たん、その服を着て司会に行くのです」
ビシッと突き付けられた指に目が見開かれたのだった。
さて、気を取り直して他の露店も見てみよう。
「お祭りかぁ‥‥お祭りなんて久しぶりだなぁ〜♪」
言って、普段と変わらぬ和装に眼鏡を掛けた明河 玲実(
gc6420)は、同行した白神 空狐(
gc7631)を振り返った。
「そうだな、祭りなら‥‥楽しまなきゃ損ってなもんさ」
「そうそう‥‥たまにはこうやって息抜きをすべきだよ、例えどんなときだってね」
空孤の服装は浴衣にいつもの狐の面を着けている。
2人の手には金魚掬いの戦利品や、綿あめなどがある。
「なんでお祭りの時って財布のひもが緩くなるんだろうね?」
玲実はそう言って笑みを零すと、不意に足が止まった。
「この匂いは、クレープっ!」
クレープとチョコバナナだけは必ず食べると決めていた。
玲実は勇んで列に並ぶと、空孤の分も購入した――だが、戻ってくると彼の姿がない。
何処に行ったのだろう。
「ごめんごめん」
「あ、どこ行ってのさ。はい、クレープだよ」
下駄を鳴らし戻って来た空孤にクレープを差し出す。
彼は笑顔でそれを受け取ると、ある事を口にした。
「実は美少女コンテストの登録に行ってて」
「へえ、クウコが出るんだ?」
「違う違う。レイジの事を明河玲実(レミ)で登録しておいたから♪」
「ちょ、ちょっと、なんてことしてくれてるのさ!?」
今回開かれるのは美少「女」コンテストだ。
自分が出るのは場違いも良い所。しかし、登録されてしまったという‥‥。
「うぅ〜、もうっ‥‥出るからには、優勝目指すからね?」
「おお、頑張れ〜♪」
言って拍手した空孤に、玲実は大仰な溜息を零すとクレープに齧りついた。
一方、思い切り祭りを楽しむ住吉(
gc6879)は林檎飴に舌鼓を打っていた。
「夏祭りといえばこれですよね♪」
口の中で広がる飴の甘さと、林檎の酸っぱさが絶妙で美味い。
「ん〜‥‥こうなったら、全部の露店を制覇する気分で頑張りましょうか〜♪」
そう言って歩き出した彼女の足が止まった。
「美少女コンテスト‥‥ですか。まあ、あとで見るくらいはしてみましょう。それよりも露店です」
彼女はそう言うと、手に入れた案内図に目を落した。
「ふふふ、金魚すくい、ヨーヨー釣り、射的、籤引き‥‥後、攻略していない露店は何がありましたかね〜♪」
わくわくと呟くその目に飛び込んで来たのは、カメ掬いだ。
「カメって‥‥あの亀、ですか?」
覘いてみると、確かにミドリガメがいる。
「これは掬い甲斐がありそうですよ♪」
住吉はそう言うと、早速カメ掬いの挑戦を開始した。
そして彼女と入れ違いに露店を離れるのは須佐 武流(
ga1461)だ。
「さて、どうするか‥‥」
輪投げに射的、ヨーヨー釣りに金魚掬い。
既に大概の事を終えて暇になってきている。
「そう言えば、美少女コンテストとやらに出るオカシナのが――‥‥って、あれか!」
思わず視線を釘付けにしたのは、ちょっと痛い衣装の女の子だ。
そして彼女に躊躇いも無く声を掛ける人物がいる。
「よ、元気にしてたか?」
「っ‥‥さ、サヨナラ!」
殺(
gc0726)が声を掛けた瞬間、猛ダッシュで逃げようとしたのはBHだ。
「逃げるな、逃げるな。何もしないって」
殺はそう言うと、彼女の腕を掴んだ。
何だかんだとトラウマになっているのだろうか。彼は小さく咳払いをすると、持っていた焼きそばを差し出した。
「これをやるから、少し歩かないか?」
美少女戦士が食べ物に釣られた。
結局、一緒に歩くことになったのだが気まずい。
「そう言えばまだ名乗ってないよな。殺って言う、今後『も』よろしく」
言って手を差し出すと、彼は思い出したように周囲に目を向けた。
「活気が有るのはいいよな、こういうのを護りたいのか?」
「そう、ね。自分の手が届く範囲は全部護りたい‥‥そう、思ってるけど」
BHは差し出された手を見ると、さも渋々と言った様子でそれを取った。
そして自らの自己紹介を済ませて手を放す――と、巨大なポスターが目に飛び込んできた。
「‥‥こういうのはやらないと思ってた」
「べ、別にあたしの意志じゃ――」
そう口にした時だ。
「そこのペチャパイ出番よ、って‥‥貴方はいつぞやの‥‥」
増えた美少女戦士に殺の口元に苦笑が浮かぶ。
「ま、まあ良いわ、その子貰って行くわよ」
セクシーホープ(以下、SH)はそう言うと、BHの腕を引いて行った。
この様子に殺が声を上げる。
「おい! コンテスト、頑張れよ」
この声にBHの手だけが上がった。
「しかし‥‥終わりまで持つのか?」
あの状態は覚醒時のものの筈。ずっと覚醒したままでは辛いだろうに。
そう呟いた彼の耳にある声が届く。
「あれは、普段からああなのか‥‥っと、ああ、いきなりすまん。けどな、普段からああだったら‥‥相当痛いだろ」
武流はそう言うと、BHとSHが去って行った方向を見た。
「キメラと対峙している時はあの格好だな」
「となると、覚醒していて‥‥ってことか。大変だよな」
「それには同意する」
覚醒状態を維持するのは大変の筈。だが武流が心配しているのはそこではなかった。
「キャラを崩さないためなんだろうが‥‥ある意味で尊敬するぜ。疲れそうだもんな」
ああ、そういう事か。
殺は苦笑気味に頷くと時計を確認した。
「そろそろ行かないと場所が確保できなくなるが‥‥?」
そう言った彼に、武流は頷きを返し会場まで同行する事にした。
●
「さて、良い映像をお願いしますよー」
虎太郎がそう言ってカメラを構えると、司会が登場した。
「みんなー! コンテストは楽しみでしたかー!」
大音量で響く声に歓声が返ってくる。
これに無理矢理司会に送り込まれた立花は、半ば自棄で司会を続行する――が、そこに野次が飛んできた。
「お前はまずパッド取れや!」
「うおぉぉ! 自分でしたわけでもないのに文句を言われている! ってか、なんで判るんじゃい!」
野次を飛ばした一角に指を突きつけ叫ぶ。
「お前のないむねパワーを期待して司会に採用したんだよ」
「そんな後ろ向きな理由!?」
ガックリ項垂れるが落ち落ち込んでいる訳にはいかない。
「ま、まずは、美少女戦士2人の登場だぁ!」
突如逆光を作り出す照明。そこに現れたシルエットに歓声が上がる。
「‥‥これは」
透はエヴァとクリスと共にコンテスト会場に来ていた。
「美人さんを選ぶですの? エヴァねーさまが出られたらきっと優勝ですの!」
「あら、レディはナンバー1よりオンリー1に輝くべきよ? 誰が一番とか無粋だわ」
そう言いながらもコンテストには興味がある。エヴァはクリスに笑みを向けると舞台を見た。
その瞬間、クリスが「あ!」と声を上げる。
「正義の味方、美少女戦士ビューティーホープ! らす☆ほぷの傭兵に代わって、爆散してあげるわ☆」
「美の女神、美少女戦士セクシーホープ! らす☆ほぷの傭兵に代わって悩殺してあ・げ・る♪」
そう言って決めのポーズを取った2人にクリスは大興奮だ。
「ビューティーホープさまー! 頑張ってなのですのー!!」
手をぶんぶんと振る姿に気付いたのだろうか、BHが少しだけ笑んだ気がする。
「ふふ、楽しそうなお姉さん達ね」
エヴァはそう評価して笑むのだが、透だけがついていけない。
「‥‥知り合いなの?」
「ファンなのですの!」
目を輝かせるクリスに、透は「へぇ」と頷いて舞台に目を戻した。
一方、リヴァルは客席から冷静に分析する。
「あれが、レポートにあったもう1人の能力者‥‥セクシーホープ‥‥」
実際に目にしたのは初めてだが‥‥
「恐らく、ビューティーホープと大差はないのだろうな」
――色んな意味で。
そう言葉を零して隣を見る。
「参加しなかったのか?」
「私は美少女という年齢でもないので参加はしません‥‥」
そう言って伊織は舞台を見る。そんな彼女が思うのは「若いのは良い」という事だ。
「そう言えば、ラストホープのミスコンでは男性が‥‥と言うことがありましたね」
「そのミスが紛れているとの噂だ」
「‥‥それは」
狙っているのだろうか。
そんな言葉を呑み込み、伊織は奇抜な衣装で動く戦士に目を戻した。
「か‥‥カッコイイなり! カッコイイのら!」
リュウナもまた、美少女戦士の登場に興奮していた。
「にゃー! リュウナもいつかビューティーホープみたいにカッコイイ大人になるのら!」
そう言って、ふと隣のSHに目が行く。
その瞬間、彼女の大きい人センサーが反応した。
「ハワワワ! 大きい人が沢山いるのら!?」
「りゅ、リュウナ様!?」
龍牙は暴れ出しそうになった彼女に気付くと、急いで彼女を連れて走り出した。
「ハワワワワ!!」
「リュウナ様、落ち着いて下さい! リュウナ様は今のままの方が十分に可愛いですから!」
そう言って会場を抜け出したのだが、リュウナの持つ大きい人センサーと言うのは、主に女性の胸だったりする。だがまあ、これ以上触れるのは止めておこう。
そして視線を会場に戻すが、そこはよりカオスな世界と化していた。
「愛の戦乙女、ヴァルキリー・ホープ参上!」
仮面をつけた戦闘スタイルで現れたのは王 憐華(
ga4039)だ。
彼女が飛び入りしたには訳がある。
「だから誰がペチャパイよ!」
「貴女でしょ、つるぺちゃ!」
「つる‥‥!」
突然言い争いを始めた彼女たちに憐華の鉄槌が下る。
「あなたたちは、この前言った事を分ってくれなかったんですか!」
そう言って頭を押さえる2人を見る。
「あなたたちは人々の平和を守るために戦っているんじゃないんですか! 美少女戦士に1、2はないんです!」
この言葉に2人が顔を見合わせる。
「そんなことにこだわる暇があるのでしたらまずはしっかり平和を守りなさい!」
そう言って再び指を突き付けると、彼女は張り上げた声を下ろして会場を見回した。
「それぞれが1を主張するより、合せて1以上になればいいんですよ」
ですよね? そう言って微笑んだ彼女に、会場から拍手が湧き上がった。
この様子に立花も拍手をして進行表を見る。
「えっと、お次は‥‥え‥‥ハンサム・紅姫・仮面‥‥?」
ハンサムと言うあたりで嫌な予感しかしない。
「ハンサム・紅姫・仮面よ。美の追求の為にこのジャンルにも挑戦してみたの♪」
うふっとぶりっ子して現れた人物に会場が騒然とする。
明らかに男な裏声に姿も男な彼は、辛うじてウィッグを被り胸に何か入れてるらしい。
だが違和感はバリバリだ。
「嗚呼、私ってばなんて美しいのかしら‥‥罪だわ‥‥」
うっとりしながら取るポーズは、筋肉を強調するマッスルポーズ‥‥全てにおいて何かが違う。
「自分にキスしてしまいたいわ‥‥でも無理なのよね‥‥!」
ああっと崩れ落ちた瞬間、呆然とする立花と目が合った。
「ねえ、そう思わない? 司会さん!」
「ノー!」
これ以上は無理、と六花のSOSが飛ぶ。
しかし、ハンサムなんちゃらこと鐘依 飛鳥(
gb5018)はまるで人の話を聞いちゃいない。
「最愛の人が自分だなんて‥‥なんて悲劇なの‥‥」
瞳を潤ませて拳を唇に当てる。
これが美少女なら案外いけている構図だが、これだけはダメだ!
「嗚呼、神よっ! 俺は美しい――」
ゴスッ☆
「‥‥俺もこれ以上は無理だ」
そう言って飛鳥を止めたのはキルトだ。
彼は少し痺れた拳を擦り息をつくのだが、その恰好がまた困ったことに‥‥。
「これは新たな美少女戦士の登場?」
黒い美少女戦士の衣装に身を包んだキルトが、腕を組んで状態で仁王立ちしている。
その後ろには、縮こまったエリスもいる。
彼女はピンクの衣装に身を包んでいるが、いったい何が起きたのか‥‥。
「美少女戦士ノーホープ、らす☆ほぷの傭兵に代わってデリートしてあげる」
「美少女戦士、フラッシュホープ‥‥えっと‥‥らす☆ほぷの傭兵に、代わって、あの‥‥きゅんきゅん、させてあげ、る‥‥です」
最後は消え入りそうな声で言ったエリスと、完全に棒読みのキルト。
彼らを嵌めたのは彩倉 能主(
gb3618)だ。
「メシアさん、やりましたよ」
クククと笑う能主は、ミコトとエリスを発見した後、キルトの存在に気付き保護者にサインをと言って署名を求めた。
それがコンテストのエントリーシートだったのだ。
「さて、あとは‥‥おや、メシアさんどうし――」
「コンテストの参加時間ですわ。さあ、参りましょう、美の伝道へ!」
「え‥‥あ、あの‥‥」
引きずられて向かったのは控室だ。
どうやら能主もエントリーさせられていたらしい。
「‥‥裏切られたです」
呟き、更衣室のクローゼットを開けて驚愕した。
「なん‥‥だと‥‥」
気になるだろうがここで視線を会場に戻そう。
一カ所に集められるスポットライト、そこに浮かび上がる白衣に歓声が上がる。
「マッドサイエンティスト・ローゼウィドウ、華麗に参上させて頂きますわ」
決め台詞と共に舞いあがった赤い薔薇。
和名で薔薇の未亡人と名乗った彼女の正体はメシア・ローザリア(
gb6467)だ。
メシアは白衣の下にスリットの深いドレスと赤いハイヒール、黒網タイツに、胸元には赤い薔薇を添えている。
彼女はスリットが見えるか否かの状態をキープすると、BHとSHを見た。
「そこのお2人、わたくしと観客の前でどちらが美しいかが勝負よ!」
そう叫んだ時だ――
「そこまでです」
声と共に現れたふりふりの白灰パールを基調とした魔女っ子コスをした能主。
彼女はナイスバディで若干似合わない衣装に肩身を狭くしつつ、白く美しい槍の石突で舞台を叩いた。
「カラミティホープ、参上!」
石より硬い無表情と血獄の怨磋のような声に会場が静まり返る。
だがメシアはやる気だ。
「うふふわたくしに勝てるかしら」
「ぶっちらばったる‥‥」
能主はそう言うと、物凄い勢いで槍を投擲した。
これをメシアが飛んで避けると、舞台は美少女戦士ショーに変じた。
そしてこのやり取りを同じく観察していた虎太郎がポツリと呟く。
「やれやれ、うるさくて撮影に集中出来ないの、おやすみなさいー」
言って発動された子守唄に、舞台が静かになった。
「おおっとぉ! 美少女戦士脱落か!?」
眠らされた面々を見て立花が叫ぶと、虎太郎は満足そうに頷いて、倒れたベストアングルを撮影した。
そして舞台は改めて整えられ――
「あれに絡むのはちょっと‥‥」
世界が違い過ぎる。
エイミ・シーン(
gb9420)はそう呟くと息を吐いた。
「パステルさんの手によってコンテストに参加はしましたが‥‥と、とりあえず、明るくいきましょう!」
エイミはそう言って拳を握ると舞台に出た。
「え、エイミ・シーンです! アピール出来ることは少ないかもですけど、私らしさをしっかり見てもらえれば嬉しいです!」
そう言ってはにかんだ笑みを見せると、彼女は自分が傭兵として頑張ると決めた理由を話し始めた。
そして全ての言葉を終えると、彼女は「トウッ」と地面を蹴った。
これによって披露されたバク宙に拍手が降り注ぐと、次々とアクロバティックな動きを披露される。
そうして最後に大きくジャンプをして半回転して見せると、彼女の顔から極上の笑顔が零れた。
「楽しいですね♪」
客席からは惜しみのない拍手が降り注ぎ、エイミはホッと胸を撫で下ろした。
おしてコンテストは次に進む。
「さあ次は正統派ー!」
声と共に現れたのは、琴を手にした玲実――いや、レミだ。
彼は琴を舞台の上に置くと、慣れた動作で正座をした。
そうして奏でるのは日本の和と伝統の曲だ。
響き渡る琴の音と、自然すぎる女性らしい動作に、会場内から感嘆の溜息が零れる。
「――以上です。お聴き汚し、失礼致しました」
去り際も礼儀正しく、お辞儀も美しい。
これではどこからどう見ても女性。そう、例えるなら大和撫子だ。
しかし彼の性別は――
「‥‥はあ」
レミは大きなため息を零すと、自らの性別を思い出し、自己嫌悪に浸ったのだった。
そこに新たな紹介が響く。
「さあ、次も正統派ですよー!」
葵 コハル(
ga3897)は、今回ある決意を胸にコンテストに参加していた。
「地位を築いてもそこで満足してたら、あとは追い抜かれるだけの運命‥‥そう、常にファンの拡大は意識しなければいけないの」
キリッと表情を締めるが、食べてる焼きそばが気分を台無しにしている。
「とりあえず、アイドルであることは伏せないとね」
コハルはアイドルグループに所属している。今回は所属するグループの知名度を上げるために参加したのだ。
彼女はキーボードを手に舞台に上がると、慣れた手つきでそれをセットした。
「葵コハル、歌います!」
そう言って奏でる音も確かだが、合わせて紡がれる歌声も綺麗だ。
声量もしっかりしており、音にぶれもない。これは好感触かもしれない。
彼女が奏でるのは日本で昔流行った楽曲だ。
夏にぴったりの曲を選んだだけあって、演奏が終わった後は好感触だった。
これに彼女の顔がにやける。
「なんだかんだと良さげじゃない?」
にひひと笑って舞台を後にする。
そしてパステルことパステルナーク(
gc7549)の横を通り過ぎると、労いの声が聞こえてきた。
「エイミさん、お疲れさま。えへへ‥‥楽しんでるみたいで良かった」
彼女はそう言ってエイミとエレシア・ハートネス(
gc3040)と共に会場を見る。
「お祭かぁ、この雰囲気が良いんだよねっ。露店も後でまわりたいなぁ」
「ん‥‥結構大きいお祭りなんだね‥‥」
エレシアはそう言って会場を見回した。
そんな彼女の着ているワンピースは胸元がかなりきつそうだ。
「さあボクの番だ!」
言ってパステルは元気よく舞台に出た。
「今日は、皆よろしくねっ!」
大きく掲げられた手に歓声が上がる。
「そんなに上手じゃないけど、行くよー!」
パチンッ☆
鳴らされた指に合せて音楽が鳴り始めると、彼女は軽やかにステップを踏み始めた。
その姿は実に楽しそうだ。
「あはっ! 皆とお祭りを楽しめるのがとっても嬉しいなっ♪」
更に軽くなるステップ。
会場と一体になって踊る彼女は、満足そうな笑顔を浮かべて最後まで踊りきった。
そして来た時と同じように元気な一礼を向ける。
その姿を舞台袖から見ていた樹・籐子(
gc0214)は恍惚と息を吐く。
「本当、可愛い子が多いわぁ♪」
日本の商店街主催でお祭りがあり、そこで美少女コンテストがあると聞いて駆け付けた彼女は、自分の目的を達成している最中だ。
「まさに『麗しの美少女世界』ね」
途中おかしなのも混じったが、それを相殺するのに十分すぎる程の美少女が出てきた。
そして次は自分の番だ。
「おろしたての浴衣のお披露目も兼ねて‥‥ふふ、行くわよー♪」
籐子はそう言うと舞台にアコースティックギターを持って出た。
彼女が着ている浴衣は白地に大柄の百合を描いた清楚なものだ。
「美少女でなく美女でごめんなさいね。では聞いてちょうだい♪」
籐子は投げキッスを会場に寄越すと、ノリの良い曲を奏で始めた。
その中に混ぜる歌声に会場内外から歓声が上がる。
そして最後は皆と共に歌い曲を終えると、盛大な拍手が降ってきた。
これに彼女は再び投げキッスを放つ。
「ふふ、ありがとうー♪」
何度も惜しみなく放たれる投げキッスに一部の男性はメロメロだ。
「では次はエレシアちゃんですね。私は彼女に会うたびに重力は仕事をしているのかって思いますね‥‥ギリギリ!」
軽く嫉妬しながら上げた声に、エレシアが出てきた。
彼女はつばの広い帽子を被って現れると、カクリと首を傾げた。
本当は見学するつもりだったので、何をするか決めていない。
「ん‥‥アピールすることがないからジャグリングをする‥‥」
彼女はそう言うと、係の人を振り返った。
「空き瓶‥‥10本くらい、貰える‥‥?」
彼女の声に急遽集められたビール瓶。
エレシアはそれを受け取ると、平然とした様子で回し始めた。
これに会場からは「わあ!」とか「きゃあ!」とか声が上がるが、彼女は全く動じない。
最後まで冷静に演技を終えると、何事も無かったかのように頭を下げて去って行った。
それを客席から見ていた住吉は、お好み焼きを食べながら目を瞬く。
「いやいや。同姓でもこれだけ可愛らしい方々を拝見出来るれば眼福ですね〜♪」
ほくほく零れる笑顔を、お好み焼きで更に深めると、彼女は次なる参加者に目を向けた。
「さーって、皆様方お待たせいたしました! LH会が誇る性別:迷子! 我らがエンタちゃんでーす!」
この声に大歓声が上がる。
そもそも性別:迷子、と言う段階でアウトな気がするのだが、ここでは平気らしい。
「な、何でこうなっちゃうんですかぁっ!?」
金城 エンタ(
ga4154)はそう叫んで頭を抱える。
そもそも彼は祭りを楽しんでいたはずだ。
朝早くから会場巡りをし、もう少しで露店全制覇がされるはずだった。
しかし――
『美少女コンテストにエントリーされた、金城エンタ様。至急更衣室前受付まで、お越しくださいませ』
このアナウンスに呼び出された。
そんな彼の格好は、極薄めのメイクに浴衣。しかも髪はポニーテールと女性として申し分ない。
彼はもう一度だけ溜息を零すと、意を決して舞台に出た。
その姿に立花が親指を立てて見せる。
「ま、まさか、立花ちゃんの仕業だったのっ!?」
「違うよー!」
笑顔で言っても説得力ないから。
エンタはガックリ項垂れると、気を取り直して顔を上げた。
「こうなったら‥‥金城エンタ、歌います!」
彼は女性アーティストの夏恋歌を選ぶと、ノリノリで歌い出した。
その動きは審査員を意識しない自然なものだ。
舞台を余すことなく使用して歌う姿に観客もノッてくる。
そして曲の盛り上がり部分まで来ると、彼はマイクを手に客席に向かって大きく腕を振り招いた。
この仕草に会場は一体となって歌い出し、コンテストは大盛況の内に幕を閉じ――てはいなかった。
「えーっと。最後は春夏秋冬立花さんですね。あははは。珍しい。私と同じ名前――」
そう口にした瞬間、彼女は逃げ出そうとした。
しかし強烈な打撃が彼女の動きを阻む。
「ごふぅっ!」
「逃がさん」
「離して下さい! 私はコンテストに参加したくなくて司会になったんですよ!」
彼女を引き止めたのは小雪だ。
彼女は問答無用で立花を舞台に返すと、耳元で先程と同じ脅し文句を口にした。
「不本意だー!」
そうは言っても仕方がない。
結局このあと、彼女はコンテストに参加することになったのだった。
●
「いやぁん、おめでとー♪」
籐子はそう言って、コハルに抱き着いた。
可愛い女の子の感触は違う。とハグハグする。
そうして手を放すと、コハルはコンテスト優勝と言う名目を手に、ある行動に出た。
「IMPをヨロシクお願いしますねっ☆」
そう、新規ファンの獲得に乗り出したのだ。
しかしこれをある男性が止めた。
「コラ、まさか本当に出ているとは」
「あ‥‥」
表情を強張らせた彼女が見たのは、事務所の人だ。
その様子を遠目に確認した能主は満足げに頷き、人混みに消えて行く。
こうなると優勝者が変わってくる。
「え、私が優勝?」
「‥‥おめでとう」
「おめでとうだね!」
優勝はエイミ。それにエレシアとパステルが祝辞を述べる。
「ありがとう‥‥ねえ、これから露店を見に行かないですか?」
「賛成ー♪ 露店の食べ物って、普段食べるより不思議とおいしいんだよね♪」
そう言ってパステルは、ふと2人を振り返った。
「今日は楽しかったなぁ。2人ともありがとうっ!」
そう言って笑った彼女に2人は頷く。
そしてエレシアの目が舞台の方に向いた。
「ビューティーホープ、いなくなってた‥‥」
見かけたら一緒にお祭りに誘おうと思っていたのだがもう居なかった。
「おぉ! アレなんてどーですか!」
「ん‥‥焼きそば‥‥」
エレシアはパステルの声に視線を戻すと、香ばしい匂いのする場所へと足を運んだ。
「はあ‥‥終わった‥‥」
玲実はそう言って息を吐く――と、そこに紙コップが差し出された。
「ははっ、悪い悪い‥‥でも、楽しかったろ?」
「それはそうだけど‥‥」
でもやり過ぎ。と、言葉を返してカップを受け取る。
「‥‥まぁ、今は凄く混沌としてるからさ。たまの息抜きも必要ってことさ」
言って頬を掻く空弧に、玲実も僅かに視線を落とし、頷きを返した。
そして彼らの近くでは、小雪が次なる商売に出ていた。
「コンテスト参加者プロマイド、5枚セットでこのお値段!」
素晴らしい商売魂だ。
そしてそんな彼女を見ながら、メシアは初めて体験するお祭りに身を投じていた。
「次はあれね」
メシアはそう呟くと綿あめを手に、金魚すくいの屋台に歩いて行った。
その頃、透とクリス、そしてエヴァは今回の祭りの反省会を行っていた。
「うさぎが無かったら赤点だわ」
言って腕を組むのはエヴァだ。彼女の顔には呆れが浮かんでいる。
「レディと一緒にいるのに退屈そうにしてるし‥‥透は本当になってないわ。引き篭ってばかりだから誘ってあげたのに」
何だか恥を掻かされた気分。そう呟き、視線を落とした。
「‥‥エヴァねーさまに聞いたですの。心配してたですの」
エヴァが透を誘った本当の理由は、彼を心配しての事だった。
だが透は楽しそうではなかった。
「‥‥ごめん。悪かった」
言って、エヴァに頭を下げる。
そしてクリスを見ると、そっと彼女の頭を撫でた。
「クリスさんもありがとう。楽しかった」
「世話が焼けるんだから‥‥」
そう言って呟いたエヴァの顔には、もう呆れの表情はなかったという。
一方、楽屋を出たBHはリヴァルと遭遇していた。
「なんだ、もう上がるのか」
楽屋まで労いに行こうと思っていたのに‥‥と、彼は露店で買った飲み物を差し出す。
「疲れたもの帰るわ」
まあ覚醒状態を維持していれば疲れるのは当然だ。
「お疲れ様」
リヴァルはそう言って肩を叩くと、静かにその場を去って行った。
そしてBHも去ろうとしたのだが、思わぬ方面から声が掛かる。
「それは覚醒状態なのか?」
「‥‥いきなりね」
「ああ、すまん。つい好奇心で、な」
視線を向けた先に居たのは武流だ。
「もし覚醒状態なら、たまには休んでも良いんじゃないか‥‥とね」
隠されれば素顔が見たくなるのは世の常。そう言って口角を上げる。
その様子に目を瞬くと、BHは微かに笑んで彼の前を通り過ぎた。
「秘密よ、美少女戦士の正体は誰にも暴けない」
「あ、おい。気が向いたら‥‥そこらへん回ってみないか?」
「また今度にするわ」
そう言って手を振ると、BHは去って行った。
そしてそれと同じ頃、楽屋を出たエリスはミコトと合流していた。
「エリスちゃん、今日は楽しめたかな?」
「‥‥うん」
「そっか。楽しんでくれたならそれで十分。また誘うからね」
そう言って彼は、エリスを自宅に送り届ける為に商店街を後にしたのだった。