タイトル:【PG】SECRETマスター:朝臣 あむ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/08/19 21:52

●オープニング本文


 誰にでも秘密にしていることはある。
 大であれ、小であれ。
 それが本人にとっては些細なことでも、他の人からすれば大きなことだったりもする。
 もし、その隠しごとが、知った者にとって大きいものだとしたら‥‥人は、どう変わるのだろうか。

――‥‥パパを、越えたい‥‥パパと、同じ目線に、なりたい‥‥。

 エリス・フラデュラー(gz0388)は胸にあるカメラを抱きしめて、そう思った。
 そうして歩き出した足が、真っ直ぐにある場所に向かう‥‥。

●UPC本部
「ちょ、ちょっと待て、今、何て言った?」
 早朝、あることを尋ねにUPC本部を訪れたキルト・ガングは、オペレーターの山本・総二郎の話を聞き、驚きを隠せずにいた。
「だから‥‥エリスちゃんが研究所に行って、その足で医療機関に行ったよって言ったんだ」
「研究所って‥‥医療機関って、まさか‥‥」
 ごくりと唾を呑んだ彼に、総二郎が頷く。
「未来科学研究所と、エミタの埋め込みを行ってくれる医療機関だね」
 あっけらかんと言ってのけられた言葉に、キルトがその場に崩れ落ちた。
 否、実際には崩れ落ちたのではなく、その場に項垂れただけだが、その落ち込み具合は崩れ落ちたと言っても良いほどにガックリしている。
「‥‥それって、いつのことだ?」
「確か、3日前だったかな‥‥今期の個展を全て終えた‥‥とか言ってたから、仕事に支障はないはずだよ。何、エリスちゃん、何も言わずに行ったの?」
 個展を全て終わらせて行ったということは本気だ。
 しかも完全にエミタを埋め込み、能力者になる気でいる――いや、既に3日前に向かったというなら、能力者になっている可能性が高い。
「何で俺に相談もなく‥‥」
「ふぅん‥‥あれ? でも、キルトって確かエリスちゃんの正式な保護者になったんじゃなかったっけ?」
「ああ‥‥3日前に手続きが完了したんだよ。んで、写真撮りに行くっつって帰ってこないんで捜索願に来たら‥‥くそっ!」
 ガンッとカウンターを殴った彼に、総二郎が思わず飛び退く。
 手加減はしたらしいが、微妙に殴った部分に罅が入っている。これは後で弁償請求しなければ。
 そんなことを考えながら、ふと思ってしまう。
「エリスちゃん、仕事を全部終わらせて、身の置き場を作って行ったんだな」
 仕事を終わらせたのは、自身の責任を果たすため。
 では、身の置き場を作ったのは――
「大丈夫、帰ってくるよ。もしかしたら、検査が長引いてるだけかもしれないしさ」
 そう言って、総二郎はキルトに厚めの報告書を差し出した。
 それに彼の目が落ちる。
「エリスちゃん、数日前にこういう依頼を出しているんだよ」
 エリスが未来科学研究所に向かう前、彼女はある依頼を出しに総二郎の元を訪れていた。
 その時に出した依頼の文章がこれだ。

――戦場カメラマン兼傭兵として活躍した、故リーアン・フラデュラーの調査をお願いします。
  どのような能力者であったのか、また、どのような戦闘をしていたのか、出来るだけ調査したくお手をお貸しください。
  その際、皆さんの能力者としての考えもお聞かせ願えればと思っています。

 エリスらしくない事務的な文章だった。
 だがこれを読めば、彼女がどれだけの覚悟をしていたのか、彼女を知る人ならばわかるかもしれない。
「俺じゃなく、能力者に相談を‥‥そうか‥‥」
 書面に綴られているのは、エリスが能力者と共に調べた父親の情報。
 そしてその後、彼女がどういった話を能力者に聞いたのか、その内容が切々と書かれている。
 その内容は、あまりに詳細で多少疑問を覚えてしまうほどだ。
「随分と細かいんだな」
「そりゃね。エリスちゃんの要望だから」
「なに?」
 どういうことか。
 訝しげに視線を向けたキルトに、総二郎は詳細を記す理由を説明した。
 それはエミタを埋め込まれる際、能力者の精神状態が覚醒後の姿に影響する場合がある‥‥そう、総二郎が話したところ、エリスはそれに興味を示したらしい。
 そして自身の精神状態がどのような効果をもたらしているのか、記録を残しておけば分かるのではと、話を持ちかけたそうだ。
 総二郎としてもその結果には興味があった。
 だからこそ、記録係として依頼の場所に同行し、詳細な記録を記したのだ。
「完全に実験じゃねえか‥‥だいたい、なんだって急に能力者になろうなんて考えたんだ‥‥」
「フラデュラー氏はある超機械を使っていたんだよ。そしてそれがエリスちゃんを能力者にする切っ掛けになってしまった‥‥彼女は、自分に能力者の適性があったことは、偶然ではないと感じたいみたいだよ」
「‥‥何?」
「だからさ‥‥」
 総二郎は書面をめくると、リーアンの所持していた超機械の情報を指差した。

――超機械・一眼レフカメラ。

 エリスの父、リーアンが持っていたのは超機械型のカメラだった。
 それは、いつもエリスが大事にしていたカメラだ。
 何処でも、どの場所でも、彼女は父の遺品と首からカメラを下げて持っていた。
「これが、切っ掛け‥‥」
 エリスにとって、父親は越えるべき存在であり、憧れでもある。
 そしてその父と対等になるにはどうするべきか、彼女はその方法を見つけてしまったのだ。
「‥‥山本」
「何かな?」
「この報告書、詳しく読ませてくれ‥‥あいつが戻るまでに、如何するか決める」
「如何するって‥‥エリスちゃんを叱るつもり?」
「‥‥それも含めて、考える」
 キルトはそう言うと、罅の入ったカウンターに凭れて報告書に目を通し始めた。

●参加者一覧

RENN(gb1931
17歳・♂・HD
メシア・ローザリア(gb6467
20歳・♀・GD
ネジリ(gc3290
22歳・♀・EP
一ヶ瀬 蒼子(gc4104
20歳・♀・GD
ミコト(gc4601
15歳・♂・AA
イスネグ・サエレ(gc4810
20歳・♂・ER

●リプレイ本文

●柿原 錬(gb1931
 錬は、UPC本部近くにある図書館でエリス・フラデュラー(gz0388)を待っていた。
「あ、こっちこっち」
 どうやらエリスが来たようだ。
 彼女の首からは先日、依頼を受けた際にも掛けていたカメラがある。
「‥‥超機械、か」
 呟き、前の席に腰掛けたエリスを見た。
 エリスが聞きたいのは「能力者とは?」というものだ。
 これに錬は僅かに思案する。
「ん〜‥‥強風に晒される炎かな」
「‥‥炎?」
「僕の姉さんは、愛する人と結ばれたけどいろんな物を抱え込んで‥‥精神が、壊してしまって今でも不安定なんだ。それなのに、今でも戦ってる」
 強風に晒される炎――それは、困難に立ち向かう能力者を現している。
 そして錬の姉は、その困難が極端に強い様だった。
「いつか、壊れてしまうのじゃ無いかって‥‥恐れてる」
 錬はそう言って小さく頭を振った。
 その姿を見て、ふと不安になってくる。
 しかし、それを見透かしたように声が響いた。
「でもね。僕は、能力者になってすごく変わったんだよ‥‥病弱ではなくたったし」
 自分にも弱い部分はあったのだと、彼は言う。
「一番変わってしまったのは考え方かな。青臭いのは、変わってないけどね」
 それに――と、彼の視線が制服に落ちる。
「この格好するようになったのも、ね」
 この格好と言われても、彼はカンパネラ学園の制服を着ている。
 おかしな部分は無いはずなのだが――。
「僕、男の子だから」
 そう言われた瞬間、エリスの目が見開かれた。
 その様子に、クスクスと笑って、彼の瞳が金色に変わった。
 そう、覚醒したのだ。
「能力者になった意味は、あったとは思いたいかな。僕は、ぬぐえない無力感も、やり遂げた達成感も知ってる――最近は、血まみれでぶっ倒れてる事が多いけど」
 軽く言っているが、血まみれで倒れるというのは尋常では無い。
 そして能力者になると言う事は、そう云ったことも起こり得るのだ。
「覚悟があるからって、親父さんと同じに成っちまうのは‥‥」
 彼の瞳がスッと細められる。
「戦場で写真とってんならわかってんだろうけど、死んじまったらそこまでだ」
 いくら覚悟を決めていても、死んでしまっては‥‥それではまるで‥‥
「呪いじゃないか。それさえ無ければ――」
「違う」
 ポツリと零された声に、ハッとなった。
「ごめん、言い過ぎた」
 そう言って視線を外す姿にエリスが首を横に振ると、錬は改めて口を開いた。
「ただ、心配してくれる人とは、たとえぶつかり合っても伝えるべきだよ。一人じゃないだからさ」
 そう言うと彼はニコリと笑んだ。

●メシア・ローザリア(gb6467
 メシアは静寂漂う教会でエリスを待っていた。
「一枚の写真が、雄弁に語る。人種も性別も、宗教も超えて」
 囁き、彼女が見るのは、エリスの父・リーアンの写真だ。
 そこに扉の開く音がする。
 現れたのはエリスだ。彼女は自身の隣の席を勧めると、エリスの話を聞き始めた。
「難しいですわね」
 能力者とは? この問いに、メシアは思案する。
「わたくしは、爵位を継ぐためだけに生まれ、育てられ、望まれた」
 能力者には宗教や人種、性別、様々な考えがあり、メシアもまた、他人とは違う境遇を持って生まれた。
「わたくしは、人類圏の安全な家で、外で朽ちて逝く人の断末魔も知らず、守られて参りました」
 淡々と、感情を出さずにメシアは言葉を続ける。
「親バグア派が起こす、資金の強奪、隙あらば家を乗っ取ろうとする人類も、知らなかった。わたくしがそれを知ったのは‥‥」
 ここで言葉を切り、息を吸う。
 知らなかった現実を知った切っ掛け。それは――
「外出したわたくしを庇い、執事が1名、護衛が5名亡くなりました」
 亡くなった使用人の名も姿も声も、全て覚えている。
 あの時覚えた感情は全て、忘れる事は出来ない。
「ノブレス・オブリージュ。守られているだけの主君はいりません。わたくしは、わたくし自身が主君としてローザリア侯爵家に胸を張る為。その為に能力者になったのですわ」
 力強い、意志の籠る声。
 これにエリスは小さく息を呑んだ。
「‥‥強い、ね‥‥」
 ポツリと零された声に、メシアの首が小さく横に振れる。
「強いのではありませんわ。これがわたくしの為すべき事だから、そうしているだけですの」
 そう言って微かに笑んむと、ふとある思いが過った。
「個人で考え、決断する事は誰にでも出来ることではありませんわ」
 先ほど見たリーアンの写真。それと同じものを彼女も撮るのだろう。
 そしてそれは彼女の意志で撮っている筈。
「善悪など、今は決める事は出来ませんもの。貴女がその決断を、永久に誇る事が出来るなら。それは貴女の道なのでしょう」
 他人の道に口を挟むことなど出来ない。
 自分に出来る事があるとすれば――
「――主よ、エリス・フラデュラーの足元を照らし、彼女に祝福を与えて下さい」
 メシアはそう囁き、胸のロザリオに手を当て、祈りの言葉を捧げた。

●ネジリ(gc3290
 ネジリは、海の見える場所でエリスを待っていた。
 そこに、息を切らせて駆けてくるエリスが見える。
 そうして彼女が到着すると、早速相談が開始された。
「能力者、か」
 問いかけに、ネジリの眉が寄る。
「俺には‥‥ただの力だな。エリスのカメラと同じだ。要はそれをどう使うか、だ」
 言って、ネジリの目がエリスのカメラに落ちる。
 それにつられてエリスの目が落ちると、次の問いが投げかけられた。
「それじゃあ‥‥変わったこと、は?」
「出会いが増えたな。良いも悪いも色々と‥‥」
 クスリと笑った彼女に目が瞬かれる。
「‥‥本当に多くの出会いがあった。勿論、エリスともな?」
 そう口にして微笑み、彼女の目が海を捉える。
 エリスの問いは、これだけではない。彼女は能力者になった意味も聞いた。
 ネジリはそれにも答えてくれる。
「戦争を終わらせて、故郷の海でのんびり泳ぎたい‥‥守りたいモノを守る。その力を得る‥‥というのがそれだな」
 守りたいモノは人それぞれだろう。
 ネジリは故郷の海を、そこでの生活を守ろうとしている。
 それなら自分は‥‥そう思った時、新たな声が届いた。
「意味があったか‥‥という意味なら、あった‥‥充分過ぎるほどにな」
 その意味の中には、先程言った「出会い」も含まれる。
 いい出会いも、悪い出会いも、たくさんあった。
 そしてそれは、傭兵たちと関わる機会も多かったエリスにもわかる。
「能力者は傭兵として依頼を受け、活動している。つまり仕事だ。今エリスと話しているのも仕事な訳だ‥‥」
 そう、これは仕事。
 そう口にして、ネジリは不意にエリスを抱きしめた。
「ふふ、エリスは凄く心地いな」
 突然のことに目を瞬く彼女に笑んだまま言う。
「どういう事かわか‥‥らんよな、流石に。要は、依頼は完遂する。だが、どうやるかは俺が決める。俺の納得できるやり方で、責任を負う覚悟を決めて」
 言ってエリスを開放すると、ネジリは彼女の顔を覗き込んだ。
「まぁ、つまりだ‥‥エリス。退けないモノがあるなら絶対退くな。お前にそれだけの理由があるのなら」
――退くな。
 この言葉に、エリスは素直に頷いた。
 そこに手が差し伸べられる。
「それでもし俺達と敵になったら‥‥喧嘩しよう、気がすむまでな」
 そう言った彼女に溢れんばかりの笑顔が零れ、2人は新たな約束を交わしこの場を後にしたのだった。

●一ヶ瀬 蒼子(gc4104
「こういう日が来ることは、薄々予測していたわね。なんにしても、能力者の先輩として、そして友人として何か助言ができれば‥‥」
 幾度となく依頼を共にしたエリス。
 今までの行動を顧みれば、当然の結果なのかもしれない。
 蒼子は景色の良い屋上のフェンスに凭れ、エリスが来るのを待っていた。
 そこに非常階段の扉が開く音がする。
「こんにちは」
 そう言って手招いたエリスを見て、蒼子は今回の依頼内容を思い出す。
「‥‥確か、能力者になった意味、だったかしら?」
 この声にエリスが頷きを返くと、彼女は語り出した。
「私は幼い頃に両親を戦災で亡くして、それからは兄妹だけで生きてきたの」
 能力者の誰しもが、円満にこの場に居る訳ではない。
 そして蒼子も、その1人のようだった。
「兄が親代わりになって養ってくれてたけど、楽な生活とは程遠い毎日で‥‥そんな時、たまたま私に能力者の適性が見つかったの」
 そう言ってた彼女に悲観する色はない。
「兄の負担を少しでも減らせるのならって、特に迷いもせずに能力者になったわ」
 そして――
「力を生かして始めた身辺警護業の収入と合わせて、以前よりは楽な暮らしをさせてあげられるようになったわ」
 傭兵の収入は一般人の収入とは違う。
 危険と隣り合わせでも、それに見合うだけのものが手に入るのだ。
 そしてそこまで口にして、ふと蒼子の目がエリスを捉えた。
「‥‥あと、親友は増えたわね。エリスさんを含めて」
 若干照れ気味に紡がれた声。
 これにエリスの表情が明るくなる。
 その顔を見ながら、蒼子はある出来事を思い出していた。
「ねえ、エリスさん。能力者って言うのは、『何か』を成す為の力を持つ者の事を言うと思うの」
 彼女が思い出すのは先日の大規模な戦いの事だ。
「エミタには思いを形にする力みたいなものがあると思うのよ。だから――」
 蒼子の目が改めてエリスの目を捉える。
「思いを抱き続けて、努力すれば‥‥きっと叶う」
 父親を越える事も、成したいと願う事も。
 そう言ってくれる彼女に、エリスは心からの笑みを零した。
 そして別れの時。
「次に会う時は同業者、戦友かしら? その時は、よろしく」
 そう言って差し出された手を取ると、2人は何時かの再会を誓い別れた。

●ミコト(gc4601
 ミコトは喫茶店でエリスを待っていた。
 その視線は窓の外に向いているのだが、視界にピンク色の髪が横切る。
「来たかな」
 そう呟き姿勢を正すと、ちょうどエリスが入ってくるのが見えた。
「やぁ、エリスちゃん、この前は付き合ってくれてありがとね」
 そう言いながら片手をあげて招く。
 そうしてエリスの飲み物をオーダーすると、早速彼女の相談に乗る事にした。
「今日はどんなお話? 聞きたいことがあるなら何でも答えるよ〜」
 笑顔を向ける彼は、普段から飾らない雰囲気がある。
 そして今も、その雰囲気のまま問いかけてくれている。
「‥‥能力者とは‥‥何だと、思いますか?」
「ん〜‥‥そうだね‥‥俺の考えは『ただの人間』かな。できないことはできないもんだし、できることはできる。それだけのものだよ」
 予想外の言葉に、エリスの目が瞬かれた。
「俺は、能力者になって変わったことは殆どないから」
「‥‥どういう、こと?」
 今までの皆は、変わった事があったと言った。
 しかし、ミコトはないと言う。
「俺は、他の人みたいに見た目が変るわけでもないし、エミタのスキルが使えるくらいだから」
 言われてみれば、ミコトは覚醒した後の変化がない。
 それを思えば、確かにそうなのかもしれない。
「それじゃあ‥‥意味、とかは‥‥?」
「ん〜‥‥俺は、自分の力ってモノを少しだけ理解できたかな。あとは‥‥自分だけじゃなく、自分が助けたいと思ったモノを守れるくらいの力を手に入れられた、と思うけど‥‥」
 そう言葉を切り、ミコトはエリスを見た。
「意味って言うのとは少し違ったかな?」
 この声にエリスは首を横に振る。
――自分が助けたいと思ったモノを守れるくらいの力を手に入れられた。
 それは能力者になって出来るようになった事。
 そして能力者になった意味に近い気がする。
「とりあえず、エリスちゃんがやりたいことをやるためには、この力が必要なんでしょ。そして、手に入れられるチャンスがあるんだったら‥‥」
 言って、彼は穏やかな視線でエリスを見た。
「迷うことないよね。エリスちゃんにそういう『想い』があれば、エミタも答えてくれるんじゃないのかな?」
 ミコトはそう言うと、優しく微笑んで見せた。
 そしてふと思い出す。
「そうだ。約束は忘れないようにね。また一緒に遊びに行くんだから、ね」
「‥‥うん!」
 そう言って笑ったエリスに、ミコトは笑みを返すと、雑談に花を咲かせたのだった。

●イスネグ・サエレ(gc4810
「エリスさんも能力者かぁ」
 公園のベンチに腰を下ろしたイスネグは、聞こえてきた足音に顔を上げた。
 そうして見せたエリスの姿に、彼は自分の隣に彼女を座らせると、早速話を聞き始めた。
「能力者とは‥‥。そうだな‥‥能力者は普通の人に比べて特殊な力を持っているよね。そして能力者になれるのは千人に一人と言われている」
 でしょ? そう窺う様に傾げられた首に、エリスが頷く。
「残りの999人を守らなければならない。それが能力者に課せられた義務だと思うんだ‥‥少なくとも、私はそういう存在でありたいな」
 限られた能力。そしてそれを成す力がある以上、義務は果たすべきだ――そう、彼は言う。
「私はね。ここに来て幾つかの依頼を受けて、大規模とか戦ったりして」
 なんだろうなぁ‥‥と、彼は空を見上げた。
 その目が眩しそうに細められる。
「うん‥‥命の大切さを考えるようになったなぁ」
 命が失われることは悲しい。けれど、闘う以上は仕方のないことなのかもしれない。
 イスネグは1つ息を吐くと、エリスを見た。
「後は‥‥エリスさん初めいろいろな人と出会えたこと。これが私にとっての、変わったことだね」
 そう言うと、イスネグは少しだけ笑んで見せた。
「‥‥意味は、ある?」
「難しいことを聞くね」
 そう呟き、イスネグが苦笑する。
「能力者になる事によってエリスさんや大切な友人や家族を守れるようになった事かなぁ」
――守れるようになった。
 何度聞いた言葉だろう。
 エリスはふと下げているカメラを見た。
 それに気付いたのだろう。
 イスネグの手がエリスの頭をゆっくりと撫でる。
「エリスさんはお父さんと同じ道を行くんだね」
「‥‥うん」
「お父さんは立派な人だったんだね。でもエリスさんはエリスさんだから、いずれ自分の道を見つけないとお父さんは超えられないよ」
「自分の、道‥‥?」
「うん。自分の道‥‥でも困った時、迷った時は皆に相談するんだよ――と言うわけで、レッツ能力者!」
 トンッと押された背中に自然と立ち上がる。
 そうして振り返った先にあった暖かな笑みに支えられ、エリスは未来科学研究所へと向かった。

●後日
「ハーモナーのスキルや実績は今後積んでいくしかないですから、頑張って下さい。それと、定期健診にはきちんと顔を出すように」
 エリスはこの日、能力者になった。
 クラスはハーモナー‥‥。
 エリスは相談に乗ってくれた傭兵たちに感謝の気持ちを抱きつつ、新たな気持ちで研究所を後にしたのだった。