タイトル:【BS】暴走列車Aマスター:朝臣 あむ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/09/10 04:17

●オープニング本文


●Runaway Train
 荒野を駆け抜ける列車。
 その先に見える同じ線路を走る列車を視界に、ライフル銃を構えた男が目を細める。
「衝突まで時間がない、何か方法は――」
 男の言う様に、2つの列車はあと少しで正面衝突する。
 残された時間は少ない。
「この先に使用されていない線路があるわ。そこに入れれば、衝突の回避ができるかもしれない!」
 男と行動を共にしていた女が叫ぶ。
 彼女は窓から身を乗り出して前を見据えた。
 その先に在るのは彼女が口にしたもう1つの線路だ。
「あ、あれ! あのレバーを撃って!」
 彼女が指差したのは、別の線路に列車を導くために使用されるレバーだ。
 アレを動かせば列車は他の線路に移動するはず。
「了解した」
 男はそう言うと、女が身を乗り出すのとは反対の窓から身を乗り出した。
 そうして構えたライフルがレバーを捉える。
「衝突まで1分を切ったわ、早く!」
「そう焦りなさんな‥‥――百発百中、一発で決める!」
 ニッと上がった口角。それと共にトリガーが引かれ――

 ガタンッ‥‥。

 目の前を物凄い勢いで列車が横切って行く。
 それを視界に留め、男はホッと息を吐くとライフル銃を下げた。
「‥‥後は、この列車を止めるだけだな」
「確か先頭車両に列車が暴走した原因があるはず。急ごう!」
 2人は窓から身を戻すと、顔を見合わせて先頭車両へと駆け出して行った。

●Director
「あーん、面白かったわぁん♪」
 テレビモニターの向こう。
 白のフリルシャツに、ピッチリの黒革パンツ。ピンクの髪を角刈りにしたガタイの良い男が、腰をくねらせて後ろを振り返った。
 そこにいるのは、体育座りをして同じモニターを眺める強化人間だ。
「あたし決めたわ。次の脚本は今の映画をモデルにするっ!」
「今の映画でありますか?」
「ありますか?」
 正反対に傾げられた首。
 まったく同じ顔で、真逆の動きをする強化人間を見ながら、彼は夢心地に手を組む。
「ええ、素晴らしいじゃないの〜♪ 荒野を駆ける2つの列車。それが間一髪のところで衝突を避けて横切る姿なんて、もうカ・イ・カ・ン(ハート)」
 確かに見た目が派手な上、演出も巧かった。
 それを考えれば彼の反応も相応と言えるだろう。
「この近辺に荒野はないから山間部を使えば行けるかしらね」
「マスター‥‥マイクは、何をすればいいのでしょう?」
「カメラは、何をすればいいのでしょう、マスター‥‥」
 再び傾げられた2つの首に、彼は人差し指を立てて見せた。
「ダ・メ・よ! あたしのことは、『ディレクター』って呼びなさい。それが嫌なら『ミス・クールビューティー』でも良いわよ♪ あら、結構いい呼び名だと思わない?」
「‥‥ディレクター、仕事をください」
「仕事をください‥‥ディレクター」
 どうやら、ミス(以下略)呼びは却下されたらしい。
 ディレクターはその反応を見ると、ふむと視線を泳がせた。
 そうして手の取ったのは愛用の万年筆だ。
 彼は400文字詰の原稿用紙数枚に話のあらすじを書くと、強化人間に差し出した。
「今回の脚本はこれよ。この通りに舞台を成功させて見せるわ!」
「了解です、ディレクター」
「ディレクター、了解です」
「ああん、想像しただけでゾクゾクしちゃう♪ 良い絵が撮れると良いわね〜♪」
 彼はそう言うと、キュッと締まったお尻を振って準備に取り掛かった。

●暴走列車A
 山間部に敷かれた1本のレール。
「あれが例の列車か‥‥」
 キルト・ガング(gz0430)はそう呟くと、双眼鏡を覗いた先の単線を見た。その先には運転室を除いた3両編成の列車がある。
 その列車はどう見ても普通の蒸気機関車だが、明らかに怪しい点があった。
 それは進行予定表にその列車の記述が無い――と言う事だ。
「残り1時間ってとこか‥‥」
 残り1時間――たったこれだけで、列車と乗客の運命が決まる。
 単線を走る列車。実はこの列車の他にもう1つ、別の列車がここを走っていた。
 そしてその列車は、こちらに向かってきている。
「‥‥坊や、聞こえるか?」
 キルトは無線機をONにすると、その向こうにいるであろう相手に声を掛けた。
 この声に、もう1つの列車を担当するカシェル・ミュラーの声が答える。
「こっちは列車の捕捉完了だ。飛び移れるポイントも幾つか発見できたぜ」
 そう言いながら、線路を描いた地図を見る。
 そこに落とされた印は3つ。
 1つはトンネルの出口。
 もう1つは、現在使用されていないホームだけの駅。
 そして最後の1つは、衝突予測地点から一番遠い崖の上だ。
「線路まで崖を降りる必要がある上、下り坂でスピードが上がってるだろうが‥‥まあ、ここが一番無難か」
 単線の先には、別の線路に列車を導くためのレバーがある。それを操作し、互いの列車を別の線路に乗せるのが第1段階。
 その次に列車を停車させるという作業が第2段階だ。
「流れとしてはレバーを狙撃して衝突回避。その後、列車の暴走の原因を突き止め排除する、か」
 そう口にした時、無線機に雑音が混じった。
 ザザザ‥‥と、砂嵐のような音が響き、続いて軽快な音楽が響いてくる。
 そして――
『はぁ〜い♪ 傭兵の皆さん、元気してるぅ?』
 キャピキャピのオッサン声にキルトが唸った。
「誰だ、テメェ」
『あらん、良い声だわぁ♪ あたしはミス・クールビューティーこと、ディレクター。ぜひ、ミス・く――』
「ディレクターな。んで、そのディレクターとやらが何の用だ」
 キルトは長くなりそうな自己紹介を強制中止させて問いかける。
 これに「んもう、いけず!」との声が響くが無視だ。
『今、お兄さんたちが見てる列車についての情報よん』
 言って、ディレクターはキルト側の列車の情報を話し始めた。
『あの列車には、強化人間が3人。各車両に1人ずつで、先頭車両には人質を取った強化人間がいるわ。列車を止める為には、先頭車両の強化人間を倒せば良いの』
 あまりに唐突な情報に、キルトの眉が寄る。
 はたして信じて良いのか――
『信じる信じないはお任せね。でも早くしないとぶつかっちゃうわよん♪ あたしはカッコイイシーンが見たいだけなのよぉ、信じてん♪』
 チュッ☆
 どうやら無線機に投げキッスをしたらしい。
 それに対して顔を逸らすと、キルトは遠くに見える列車を見据えた。
「何が目的だ?」
『詮索はダ・メ♪ それと、列車の中にマイクを持った強化人間がいるけど、攻撃しちゃだめよ。攻撃した瞬間、列車は木端微塵‥‥お兄さんたちも死んじゃうかもしれないからぁ』
 うふふ、そう言って無線が切られた。
「‥‥何だ、今のは‥‥」
 情報は思い切り怪しい。だが詳細はこれくらいしかないのが現状だ。
「‥‥仕方ねえ、やるか」
 そう言うと彼は、崖を降りる為に動き始めた。

●参加者一覧

メシア・ローザリア(gb6467
20歳・♀・GD
赤槻 空也(gc2336
18歳・♂・AA
一ヶ瀬 蒼子(gc4104
20歳・♀・GD
那月 ケイ(gc4469
24歳・♂・GD
モココ・J・アルビス(gc7076
18歳・♀・PN
クラフト・J・アルビス(gc7360
19歳・♂・PN

●リプレイ本文

 夕日に映える蒸気機関車。
 その独特の音色を耳に、能力者たちは時刻表にない列車の最後車両に立っていた。
 彼らの前にはピンクのメイド服に同色のタイツを着た少女がおり、その手にはマイクが握られている。
「‥‥この子が強化人間、か」
 ポツリと呟き、那月 ケイ(gc4469)が息を吐く。
「‥‥無駄に濃い敵だな」
 列車に飛び移る前、無線機を通じて耳にしたディレクターと名乗る男の口調を思い出し、更に溜息が漏れる。
 そこに響いた壁を撃つ音に彼の目が向かった。
「濃さなんて関係ねェ‥‥クッソ外道どもがよォ‥‥遊びてェならテメェらで潰し合ってろよッ!」
 怒声と共に強化人間を睨み付けるのは、若干キレ気味の赤槻 空也(gc2336)だ。
「ヒサビサに気持ち良く、顔面ブン殴れそうだぜッ!」
 彼は壁に叩き込んだ拳を引くと、ケイに目を止めた。
「まあ、この面子ならいけそうか‥‥」
 よく見れば、この場には彼が良く知る者達が集まっている。
「思いっきりブッ飛ばしちまおうぜ」
 空也はそう言うとケイの肩を叩いた。
 そして次に見たクラフト・J・アルビス(gc7360)も、空也の良く知る人物だ。
「そんなに映画撮りたいなら、強化人間達を役者にして、自分で撮ればいいのに‥‥エキストラも、強化人間で」
 口元に手を添えて呟くクラフトはかなり不服そうだ。
 そんな彼に、恋人のモココ(gc7076)が心配そうに視線を注ぐ。
「なぜわざわざ事件を起こすんだ‥‥」
「そうだね。娯楽の為に人の命を危険に晒すなんて‥‥でも――」
 彼女はそう言うと、クラフトの手を握って目を落とした。
 その目が足元に漂い始める闇を捉える。
「久々に殺せるんだ‥‥ワクワクしちゃうよ」
 クスリと笑んで顔を上げた彼女は、残忍な性格を覚醒と共に晒し、囁いた。

 その頃、キルト・ガング(gz0430)から無線機を借りたメシア・ローザリア(gb6467)は、思案気に眉を寄せていた。
「マイクを持つ強化人間へ攻撃しない事‥‥これが提示された『条件』ならば、それを満たせば他にどんな手段を使っても構わない」
 そうじゃないかしら? そう視線を投げ掛ける彼女に、キルトの首が竦められる。
「そうだとして、使えないなら意味がない」
 メシアは無線機を敵の牽制や、彼との交渉手段に使用したいと考えていた。
 しかし――
「特別に借りた軍用の無線機でも使用が出来なくなってる。他のでも無理だろうな」
 そう、無線機は何かしらの妨害が入って使用できない。つまり、敵方と連絡を取る手段がないと言う事だ。
 そこにケイの声が届く。
「無人駅‥‥もうすぐトンネルじゃないですか?」
 彼の言う通り、もうすぐトンネルだ。そしてそこを抜ければ、別の線路へ列車を入れる為のレバーがある。
「メシア、行けそうか?」
 レバー狙撃は今回の任務で最重要と言っても過言ではない。
 もし失敗すれば、2つの列車が正面衝突をし、想像外の被害が起きるだろう。
「当然ですわ、わたくしにお任せください」
 メシアはそう言って、白銀の銃を取り出した。
 正直、ライフルの様な威力が期待できる訳ではないが、覚醒して放てばそれなりの威力はある筈だ。
「それじゃあ行くか‥‥って、如何した?」
 早速行動に移ろうとした所で、キルトの目が一ヶ瀬 蒼子(gc4104)と合った。
「‥‥のっけから死にかけてないのが珍しいと思って」
 言って肩を竦める彼女は、毎回窮地に陥った状態のキルトと依頼を共にしている。
 故にこうして健勝な様子は珍しく、内心では安心する気持ちもあるのだが、彼女はそれを微塵も出さずに視線を外すと、マイクを持つ強化人間に目を向けた。
「ディレクターとか言う敵の思惑に乗るのは癪だけど、列車を止めて人質を助けるためにはその通りにするしかないのよね」
 列車停車の条件は各車両にいる強化人間を撃すること。
「――それなら、さっさと片付けてやるだけよ」
 蒼子はそう言うと、拳銃から小太刀に武器を持ち替え突入の準備に掛かった。


 突き破った扉と共に飛び込んだ能力者たち。
 その先頭に立つのは先手必勝を使った蒼子だ。
 彼女はメトロニウム合金の盾を翳すと、降り注ぐ銃弾の雨を受け止めた。
 その上で周囲に目を向け一般人の有無を確認する。
「いないわね‥‥今よ、前へ!」
 この声にクラフトがモココを捉えた。
「‥‥気を付けて」
「また後でね‥‥クラフトさん‥‥」
 この声に頷き、クラフトは蒼子の後ろで待機する。
 そこにケイの呟きが届いた。
「っ、狭いな」
 想像以上に狭い通路に眉を寄せる。その瞬間、列車がトンネルに突入した。
「狙撃地点まで時間が無い。メシア、今行けるか!」
 戦闘は始まったばかり、しかし狙撃地点まで時間が無い。
「那月様、順序は違いますがフォローをお願いしますわ」
 メシアはそう言うと、最後部座席に移り、それを援護する為にケイも彼女の前に移動した。
「想定外の状況だね‥‥でも、時間そんなにないらしいからさ、サクッと落とそう‥‥さて、今回は上手くいくかな?」
 呟き、クラフトは僅かに入ってきた西日に目を伏せる。
 そして次に目を開いた時、彼の左目が蒼に染まっていた。
「狙撃が終了して、敵に隙を見付けたら直ぐに中央車両に移動するんだ。それまで待機‥‥できる?」
 銃撃を引き受ける蒼子の限界が近い。
 クラフトはモココにそう声を掛けると、空也と目を合わせ――
「今だ、飛べェ!」
 空也の合図と共に飛び出した。
 瞬天足の勢いと、自らの足。その両方の勢いを借り、壁、そして天井を蹴って前に出る。
 透かさず撃ち込まれる無数の弾丸に、双方に傷がつくがどれも致命傷ではない。
 やはり強化人間1人に対し、両サイドから迫ると言うのは攻撃が定まらないと見える。
「‥‥っしゃ! 貰ったぜ――おりゃあア!」
 空也は炎を纏う拳を振り上げると、一気に強化人間を討った。
 反射的に放たれた銃弾が彼の腕を傷付ける。
 だが片方を相手にすればもう片方が留守になるのは必須。
 クラフトはトンネルを抜ける瞬間の光を利用して、敵の死角に入った。
 そして鋭い爪を強化人間の胴に叩き込む。
 こうした戦闘の隅で、もう1つの闘いが幕を上げていた。
 蒼子は武器を拳銃に持ち替え、メシアとは反対の窓から身を乗り出す。
 万が一メシアが狙撃に失敗した時、補佐に回る為だ。
「メシアさん、蒼子さんが掩護に入りましたよ。後ろは任せてくださいかっこいいトコ、期待してますよ?」
 力強く、それでも敢えて軽く掛けられた声にメシアの目が頷く。
 両手で拳銃を構えて、窓から身を乗り出す。片足は窓枠に固定し、伸ばした手は動かさないよう頬に添えて金色の瞳がレバーを捕らえる。
 その視界端には単線を走るもう1つの列車が入った。
「レバーだけに集中して下さい。他は何とでもなります」
 もう1つの列車が気にならない訳ではない。だがこの一撃に成否が掛かっている。
 ケイの声に表情を引き締めたメシアは、スゥッと息を吸い込むと引き金に指を掛けた。
「射止めなさい‥‥――ジャッジメント!」
 鼓膜を打つ音。
 この音と共に響き渡る風の音に、メシアは転がり込むように座席に倒れ込んだ。
 その瞬間にすれ違う列車。
 その様子にモココがケイとメシアに近付く。
「‥‥殺りに行こう。キルトも、来て」
 よく見れば、空也が強化人間を組み敷く形で抑え込んでいる。
 今なら中央車両に向かえる。
 彼らは互いに頷き合うと、通路を駆け出した。
 そして当初の予定通り中央車両に向かうと、空也の口角が上がった。
 その額には強化人間の持つ銃が添えられている。
「しゃらクセぇ‥‥このまま寝やがれ」
 彼の拳は強化人間の眼前にある。
 双方一発触発。
 どちらかが動けば勝負は決する。それはイチかバチかの勝負だ。
 しかし均衡は銃声によって打ち破られた。
 弾き飛ばされた拳銃をクラフトの足が遠くへと飛ばす。
「これで終いだ‥‥――崩合拳ッ!」
 装甲の薄い場所を見抜き貫いた空也の拳。
 同時に舞い上がった飛沫が彼の頬を濡らすと、強化人間はピクリとも動かなくなった。


 中央車両突入後、探査の眼を使ったメシアは、強化人間と乗客の有無を確認して拳銃を構えた。
 それに合わせて、盾を手にケイが通路を駆けて行く。向かうのは強化人間の元だ。
 彼は敵の放つ銃弾を、重く丈夫な盾で遮断すると抑え込みに掛かった。
 だが容易にそれはさせてくれないようだ。
 銃撃により足を止めたケイを見て、モココが足を踏み出す。
「時間との勝負だから確実に急所を狙うよ」
 これにメシアやキルトも続く。
 その頬や腕、足などに流れ弾が当たるが、それすらもモココには心地良い。
「‥‥ふふ、楽しい♪」
 嬉しそうに浮かべた笑み。それに呼応し広がる闇に笑みを深めると、彼女の足が強化人間の間合いに入った。
 彼女は青黒色の篭手を振り上げ、拳を突き入れる。これに敵の意識が向いた瞬間、ケイの盾が敵を抑え込んだ。
 そこに飛び込んで来たスラリとした足。
 それが強化人間の顎を撃ち抜くと、ケイの目が見開かれた。
「め、メシアさん、足」
「今は気にしてられる状況ではなくてよ」
 メシアはタイトなミニスカート姿で着地を果たすと、次の行動に出た。
 これにケイも援護の意味で動き出す。
「ほら、こっちも相手してくれよ!」
 攻撃は全て自分へ。
 声に気迫を乗せて叫ぶ。その声に敵の意識がケイへと向いた。
「一気に決めるよ!」
 ケイが作り上げた隙。
 その姿に、モココは犬足を思わせる脚爪を振り上げると、メシアも彼女と同じように足を振り上げた。
 低い体勢から蹴り上げるメシアと、上方から肉を抉る様に動くモココ。
 2人の足が同時に強化人間の体に叩き込まれると、ケイはひと足先のその場を引いた。
 支えを失った体は当然のように揺らぎ、倒れようとする。
 だが彼らの攻撃は終わらない。
 2人の足が地面に着くと同時に、息をピッタリ合せて体を回転させる。そうして繰り出された見事な蹴りが強化人間の身を貫くと、中央車両の制圧も無事終了した。
「‥‥出番、なかったな」
「まだ最後が残ってますよ」
 女性陣2人の活躍に呟くキルト。
 そんな彼へ声を掛けると、ケイは先頭車両にその目を向けたのだった。


 ゴロンッ。
 先頭車に放り込まれた手榴弾。これに車内から悲鳴が響く。
「閃光手榴弾よ! 伏せて!」
 蒼子はそう叫び、中に入ろうとした――が、その直後、目の前に手榴弾が戻ってくる。
 しかし、足元に舞い戻ってきた手榴弾は何の反応も示さない。
 そう、これは空のマガジン‥‥つまり、フェイクだ。
「チッ」
 空也は舌打ちを零すと、中にいた車掌姿の強化人間を目に止め、本物の閃光手榴弾を取り出した。
「――皆、目ェ潰れェえ!」
 1つ目は偽物、では2つ目は――
 空也はピンを抜かずにそれを放つと人質解放の機を招こうとした。
 だが、本物の閃光手榴弾も彼らの足元に戻って来てしまう。
 その経由は至極簡単な物。
 敵の放った弾丸が的確な動作で撃ち返したのだ。
「仕方ねェ。キルト、とりあえず一般人だ。迷ったら一般人で今後は行こうぜ!」
 空也は強化人間の腕に捕獲された乗客を見て叫ぶと、中に向かって走り出した。
 これにケイと蒼子も続く。
 先頭車両は座席が全て外されていて何もない。
 人質までの距離は僅か。
 2人は敵の側面から接近を試みる。
 しかし、強化人間は彼らの動きに対し、人質の米神へ銃口を添える事で対抗を謀った。
「させるかぁっ!!」
 ケイの聞き迫る声に敵の意識が向かった。
 これが隙を生み、蒼子が人質の手を取って引き寄せる――

 パン、パパパパンッ!

 銃声に誰もが目を剥いた。
 音は人質がいる方から、状況的にも一般人が撃たれた――そう、思っていた。
 しかし実際には‥‥
「一ヶ瀬さん‥‥大丈夫、か?」
「‥‥当然、でしょ」
 ボディーガードを使用した2つの盾――ケイと蒼子が銃撃を受けて人質を護っていた。
 蒼子は盾で阻みきれなかった弾を身に、ケイは人質を抱え込み背で弾を。本来なら動ける筈のない傷だが、それでも動く事が出来、話す事が出来るのは能力者故だろう。
「蒼子、那月、お前らはこっちに来い!」
 言って、キルトは人質になっていた一般人と負傷した2人を車両の隅に招いた。
 そこに高らかな笑い声が響く。
「アハハハハッ! 君の血はどんな味がするのかなぁ?」
 モココは楽しげに笑い、一気に敵の懐に入った。
 そして拳を打ち込もうとするのだが、人質が無くなり自由になった敵の手に新たな銃が握られる。
 それがモココの拳を撃つと、彼女の唇が弓なりに歪んだ。
 拳から流れ落ちる滴を舐めとり、一瞬の怯みも見せずに振り上げられた脚。それに着いた爪が敵の腕を裂く。
「痛い? 痛いよね? だってそういう顔してるもん! アハハハッ!」
 強化人間とは言え痛覚はある。
 彼女の言葉通り不快そうに眉を寄せた強化人間が、負傷した腕と健勝な腕を振るって銃を構える。
 そしてそれが、モココと同じく懐に入り込んだクラフトに向かった。
 銃口はモココとクラフト双方に。
 そして引き金はモココに向けられた銃が先に引かれる――と、瞬間、銃が舞い上がった。
「この子は、やらせられないね」
 スッと眇めたクラフトの瞳が鋭い光を帯びる。
 そして勢い良く強化人間の肘を討つと、小気味良い音を立てて敵の腕がオカシな方向に曲がった。
 残る腕は1つ。
 1人の強化人間に複数の能力者。この時点で決着はついていた。
 前衛を務めるモココとクラフト、そして空也が一斉に攻撃を強化人間に叩き込むと、全てが決した。

――キイィィィッ!

 強化人間が倒れると同時に響いた音。そして車両を襲った衝撃に全員が崩れ落ちた。
「これは‥‥遠隔操作‥‥?」
 操舵室で列車の操作を試みていたメシアが呟く。
 そう、列車はディレクターの言う通り、全ての強化人間を撃破した事で止まった。
 それと同時に響く窓を突き破る音に、全員の目が向かう。
「逃げたのか‥‥?」
 窓の外に消えてゆくピンク色の物体。
 そう、マイクを持った強化人間は役割を終え早々に現場を離脱したのだ。
 これに空也の拳が車両の地面を叩く。
「ッ、‥‥そんなに面白いモンが見たきゃ、テメーの面でも殴ってカメラで撮っとけよ!」
 本来なら映像を介して挑発の1つでもしたい所。しかし現状ではそれも出来ない。
 空也は苛立った様子で舌打ちを零すと、無事確保された人質に目を向けた。
「もう大丈夫ですよ。さ、掴まってください」
 モココは覚醒を解いた状態でそう言うと、人質の無事を確認した。
 そんな彼女にクラフトが声を掛けてくる。
「大丈夫? 怪我してないかな?」
 これはモココを心配するもの。
 彼女はその声に頷き、負傷した手を振って見せた。
 そこに無線機から通信が入る。
「――向こうも終了、だそうだ」
 そう口にしたキルトに、皆がそれぞれの反応を返して任務は終了した。