タイトル:Red☆Albumマスター:朝臣 あむ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/10/27 13:42

●オープニング本文


「あのね‥‥夕日が、見たいの」
 ある日、UPCに訪れた少女は、オペレーターの女性にそう云うと好奇心にあふれる瞳を瞬かせた。
 あどけなさを残す顔に、長すぎるツインテールを揺らす少女は、女性の顔を覗きこんで言う。
「夕日が、見たいの」
「見たい、って言われても‥‥夕日だったら、どこでも見れるじゃない」
 そう、夕日を見るだけならどこでも見れる。
 それは少女もわかっている。
 だからこそ彼女は女性に詰め寄った。
「あたしが見たいのは、この夕日なの‥‥これと、同じ夕日を見て、写真が撮りたいの‥‥」
 差し出された一枚の写真。
 画面から光が溢れてきそうなそれは、海辺で撮られたものだ。
 砂浜を埋めつく光を海が反射して、まるで光のシャワーを思わせる幻想的な風景が広がっている。
 まさにコレが撮れたのは奇跡――そう、言って良い程の写真だ。
「綺麗な写真ね。でも、この景色を撮りたいって‥‥場所はわかってるの?」
「わかってる。だって‥‥これ、あたしのパパが撮ったんだもの」
 顔に少しだけ笑みが乗る。
 嬉しそうな、切なそうな、複雑な表情を浮かべる彼女の表情を見れば分かる。
 少女がパパと呼ぶ存在は、既にこの世に居ないのだろう。
「でも、それならなおのこと、ここに来るのは――」
「‥‥キメラ」
「え?」
「キメラが、出るの‥‥そこ‥‥」
 呟かれた声に、漸く彼女がここに来た理由に思い至った。
 しかし、キメラが現れる場所に彼女の様な子供を連れていくのは憚られる。
 どうせなら、退治を終えた後で連れて行くのが得策だろう。
「それじゃあ、キメラ退治をした後で行ったらどうかな?」
「それじゃ、ダメなの‥‥キメラを倒す瞬間に、パパはこれを撮ったの‥‥だから、一緒に行かなきゃ意味がないの」
 意味がわからない。
 そう言った表情を浮かべた女性に、少女の視線が落ちた。
「‥‥本当、なの‥‥ただ撮っても駄目だって‥‥普通に撮っても、そんなに綺麗なじゃないの‥‥駄目、なの‥‥」
 徐々に浮かぶ涙に、女性の目が泳いだ。
「そうは言われても‥‥」
 キメラ退治は遊びではないのだ。
 それを考えれば譲れる条件ではない。そう思って、ふと彼女の目が少女に向いた。
「そう言えば、あなたのお名前は?」
「‥‥エリス‥‥エリス・フラデュラー‥‥だけど‥‥?」
 突然何を聞くのか。そんな風に少女の首が傾げられた。
 そしてそれと同時に、女性の目が見開かれる。
「エリス・フラデュラーですって!? あなたみたいな子供が!!??」
 叫ぶ彼女に、周囲の視線が突き刺さる。
 その事に咳払いをして誤魔化すと、彼女は改めて少女を見た。
「エリス・フラデュラーって言ったら、最近出てきた写真家の名前じゃない‥‥それも、凄く綺麗な写真を撮るっていう」
 そう呟く彼女は、エリスの撮った写真を見たことがある。
 まるでその場に自分がいるような錯覚を与える風景の写真を中心に、人物、キメラなども撮る写真会の新鋭だ。
「ね、ねえ。先日発表した写真‥‥あれって、何処で撮ったの?」
「この前の‥‥? えっと‥‥光の花?」
 首を傾げたエリスに、女性がコクコクと頷く。
「あの写真好きなのよー! まさか、本人に会えると思ってなかったし、写真だけで我慢しようと思ってたんだけど‥‥ねえ、教えてくれないかな?」
 ニコニコと問いかける声に、エリスの目が瞬かれる。
 そして僅かの間を開けて、彼女の顔に柔らかな笑顔が浮かんだ。
「夕日見せてくれたら、教えてあげる‥‥」
 にこっと笑ったエリスに、女性の目の色が変わった。
「わかった! 見せてあげる! その代わり、さっき言った場所‥‥教えてね?」
「うん!」
 そうと決まれば善は急げだ。
「――じゃあ、そのキメラって、どんなキメラなの?」
「赤くて丸いの! ふわふわ浮いてて、近付くと、レーザーみたいな光を撃って‥‥えっと、背中に、蜻蛉みたいな、羽があった‥‥かな?」
 何だろうそれは。
 想像できない物体に首を傾げる女性。
 だが引き受けると言った以上は、やるしかない。
「他に、情報はある?」
「‥‥いっぱいいるの」
「へ?」
「砂浜に、いっぱい‥‥虫みたいにいっぱいいるの‥‥それを、倒すと光が出て‥‥パパは、同時に倒して、撮ったんだって」
 オペレーターは、その情報を全て書き止めると首を傾げた。
「‥‥それって、強いのかな?」
「えっと‥‥簡単に倒せたって、パパは言ってたけど‥‥わからない」
 きょとんと目を瞬くエリスを見て、オペレーターはある事を決めた。
 この無茶苦茶なキメラの情報は、そのまま載せてしまおう‥‥と。
 そして後日、オペレーターの考え通り、エリスの言葉を元に作成された依頼が掲示された。

●参加者一覧

ティム・ウェンライト(gb4274
18歳・♂・GD
九頭龍 剛蔵(gb6650
14歳・♂・GD
ネジリ(gc3290
22歳・♀・EP
國盛(gc4513
46歳・♂・GP
ミコト(gc4601
15歳・♂・AA
イスネグ・サエレ(gc4810
20歳・♂・ER

●リプレイ本文

 目の前に広がる透き通った海と、耳を擽る心地良い波音を耳に、依頼人の少女――エリス・フラデュラーは、一心不乱にカメラのシャッターを押していた。
 その姿を國盛(gc4513)が見つめながら口にした煙草から紫煙を吐き出す。
「小さな写真家か‥‥」
 そう口にしながら、今回の依頼内容を思い出す。
「父親と同じ写真が撮りたいとは‥‥最愛だったのだろうな‥‥」
 言って彼の足が動いた。
 向かうのはエリスの元だ。
 彼はエリスの傍まで来ると、シャッターを押す手が止まるのを待って声を掛けた。
「良い写真が撮れると良いな‥‥」
 そう言いながら彼女の頭に手を置く。
 その仕草に、大きな瞳が動いた。
 自分よりも遥か上にある厳つい顔、それを目にした彼女の目が瞬かれる。
 そしてそれに怯える間もなく、彼女の視界を遮る者があった。
「國盛さんの言うとおり。美人の頼みは聞かないとね」
 笑顔で視界に入ったミコト(gc4601)は、彼女が撮っていた海を見ると首を傾げてみせる。
「構図とかどんな感じ〜とか教えてくれると、そのためにがんばるよ」
 何処から写真を撮れば良いのか、何処にキメラをおびき出せばいいのか、そして倒すタイミングも聞いてみたい。
 そんな思いを籠めての問いに、エリスは漸く海から皆を振りむいた。
「この直ぐ下の砂浜‥‥今日は、あそこに夕日が沈むから‥‥ここから海への直線上‥‥あの辺りが撮影スポットなの‥‥」
 言って、エリスの小さな手が地平線を臨む海を示した。
「そっか、あの辺りかぁ」
 エリスが指差す先を見つめて、イスネグ・サエレ(gc4810)が呟く。
 今はキメラの姿が見えないが、彼女の情報が確かなら、キメラが複数やってくる事は間違いない。
「私は芸術に疎いからなぁ。でも、どんな素敵な写真が出来るか楽しみ」
 穏やかに微笑んだイスネグに、エリスは目を瞬いた。
 どう見ても彼は能力者のイメージとは違う。
 穏やかで闘いとは無縁そうな彼の雰囲気にのまれ思わず笑みが零れる。
 その表情にイスネグはニッコリ笑うと、頷きを返してきた。
「という訳で、しっかり頑張っていこうか」
 そう言いサングラスを掛ける仕草に、目が瞬かれる。
 何故サングラスなのか――その問いを向けるよりも早く、今度は別の声がエリスの注意を引いた。
「海か‥‥海だ」
 目を向ければ、金糸の髪をなびかせ感慨深げに海を眺めるネジリ(gc3290)がいる。
 自称元・海賊兼漁師であった彼女にとって、この場所は何かしらの思い入れがあるのかもしれない。
 もしくは、海に反応しているだけかもしれないが、それでもエリスからすれば何か特別な物があるのではないかと見えてしまう。
「俺は九頭龍・剛蔵というもんや。よろしゅうにな」
 思いの他じっとネジリを見ていたエリスに、九頭龍 剛蔵(gb6650)が声を掛けた。
 その声にハッとなって目を向けたエリスの頭が、勢い良く下げられる。
「まずはキメラをどう倒せば良いかやな」
 彼女の仕草に少し頷いて見せた剛蔵は、若干幼い黒の瞳を砂浜に向けると、思案気にそれを細めた。
 今回の依頼はあそこに現れるはずのキメラを倒すこと。
 それをどう倒すかは、依頼人の指示に任せようと思っている。
 だからこその問いだったのだが、その問いに彼女の首が傾げられた。
「‥‥同時に‥‥いっぱい?」
「ふむ、同時にか。どれ位倒せばいいんだ?」
――どれくらい。
 ネジリの問いに、エリスの目が瞬く。
「どうも、正確な数はわからないみたいだね」
 言って、エリスの顔を覗き込んだのは、ネジリと同じく金糸を風に揺らす少女――いや、青年ティム・ウェンライト(gb4274)だ。
「数は不明。では、やはり俺達は撮影の邪魔にならない様に、遠距離からの射撃が良いか?」
 再び掛けられたネジリの問いに、エリスは首を横に振る。
「映らない様に、撮るから‥‥大丈夫‥‥」
「どんな写真にするのかは決まってる、のか‥‥?」
 今までやり取りを聞いていた國盛は、煙草の火を携帯灰皿の中で消すと、彼女に目を向けた。
 その問いに一枚の写真が取り出される。
 依頼を出す際にオペレーターにも見せた物だ。
「へえ、綺麗だね。これは是非、写真の撮り方教えて貰わないと」
 ティムはそう言いながら、出発前に購入しておいた使い捨てのカメラを取り出した。
 その姿にエリスの瞳が緩やかな笑みを刻んだ。
「終わったら、教えてあげる‥‥だから、写真撮らせて‥‥」
「勿論だよ。でも、写真撮影の成功もさせなくてはならないけど、俺としてはエリスさんの身の安全を一番に考えたいな。弱いと言ってもキメラはキメラだからね」
「そうだな。キメラは殲滅させて貰うぞ。幾ら弱くても、お前さんの様な一般人には脅威となるのでな‥‥」
 ティムの声に続き、ネジリが呟く。
 その声に無言で頷くと、エリスは大事なカメラを両手に抱き締めた。

 エリスが指差した砂浜を、能力者たちは念入りに調べていた。
「なあ、イスネグさん。その格好どうなんや?」
 スーツにサングラス、スニーカーと言った奇妙な姿をしたイスネグに、剛蔵が問いかける。
 その声に足元の砂を踏み固めていたイスネグは、サングラスを指で持ち上げると、ほんわか笑って見せた。
「この格好は譲れないな」
「いやな‥‥その、サングラスなんやけど‥‥」
「光を出すキメラらしいから――ほら、準備は大切!」
 にっこり笑ったイスネグに、剛蔵は「そうなんやけど」と口の中で苦笑する。
 そんなやり取りを近くで聞いていたティムは、ふと海を見ると青の瞳を眇めた。
「そろそろ、日が沈みます」
 海に着いてなんだかんだと時間が過ぎた。
 よく見れば、到着時には頭上にあったはずの太陽も、だいぶ傾いて足元の影を長く伸ばしている。
 そんな中、國盛の目が上がった。
「‥‥来たか」
 耳を叩く微かな羽音。
 その音を聞きながらジャングルブーツで砂浜を踏み締めると、彼の足が後方に控えるエリスへと向かった。
「良い写真が撮れるよう――」
「闘いが無事終わるよう――」
 國盛とネジリが同時にGooDLuckを発動させる。
 そして海の方から川のように集団になって飛来してきたキメラを見ると、全員が戦闘態勢を取った。
「それじゃ、囮として誘導をがんばってみるよ。エリスちゃんの護衛とか、援護とかは任せるから」
 ミコトはそう言うとキメラが飛来するその場所に向かって駆け出した。
 そしてその途中でふとエリスを振り返る。
「一応、死にそうになったら助けてね?」
 冗談めかして笑うその姿に、エリスの目が見開かれる。
「あはは、冗談だって。それじゃがんばってくるから、エリスちゃんはシャッターチャンスを逃さないようにね」
 そう言って、彼は他の仲間と共にキメラに向かって行った。

●赤いシャッターチャンス
「さて、謎のキメラの掃滅にかかるとするか」
 剛蔵はそう口にすると、瞳の奥に冥き炎を宿し、自らの体を堅く強化した。
 そうする事でこれからの戦闘に備えようと言うのだ。
「――にしても、海岸には似つかわしくない物だぜ、あれは」
 目の前に見える大量のキメラ。
 赤い個体が無数いるせいか、砂浜全体が赤く染まっているように見える。
 だが、それはエリスが望む夕日の写真ではない。
「まずは、キメラを一カ所に集めないとね」
「おい、そっちいったぞ。逃がすな!」
 ネジリの声に、ミコトの手に握られたデュミナスソードが唸る。
 風を斬りキメラを切り裂くその動きに、対象は容易に弾け飛んだ。
 その瞬間、仄かな赤い光が発生して直ぐに消える。
「これか‥‥うわっと、砂浜はやっぱ脚が取られるなぁ‥‥」
 キメラと距離を取ろうとしたのだが、どうにも巧く行かない。
 それでもイスネグが事前に砂を固めてくれていたおかげで、転倒するには至らなかった。
「こんな簡単に倒れちゃうんじゃ、誘導するまで攻撃できないね。仕方ない――」
 ミコトはそう言うと、砂に埋もれる貝や小石を取りあげ、キメラに向かって放った。
 その動きに集団の動きが止まる。
「日没前までには終わらせるぜ」
 剛蔵のM−121ガトリング砲が、ミコトを援護するように弾幕射撃を行う。その事で飛ぶのを止めたキメラが一気に動き出した。
 放たれる石と、撃ち込まれる弾丸。それらから逃げるように飛び交うキメラに、ネジリの小銃「S−01」が火を吹く。
「思った以上に楽に集められそうだな」
 國盛はそう言いながら、仲間の動きを注意深く観察した。
 キメラは剛蔵、ミコト、ネジリの活躍により徐々に一カ所に集められてゆく。その動きは見事な物で、無数のキメラが円を描きもう1つの夕日を作っているかのように見える。
「夕日のタイミングも良さそうだね」
 イスネグの声に、カメラを握り締め能力者を見ていたエリスの目が動いた。
 地平線を臨む海、そこに近付き始める太陽の光が僅かに赤くなり始めている。
「この光が撮影の邪魔にならないといいんだがなぁ」
 じっと太陽を見つめるエリスの耳に響いた声。
 それに目を向けると、周辺の武器が輝いているのが見えた。
「使って、大丈夫だったかな?」
 イスネグは本来、事前に断るつもりだった。
 だが、戦闘は既に始まっている。それに駄目と言われれば、次に使用しなければ良い。
 しかし、エリスはその問いに首を横に振った。
「そっかぁ。それじゃあ遠慮なく、行くとしようかな」
 言うが早いか、イスネグの手の中でシャドウオーブが不気味な光を放つ。
 それが輪を抜けこちらに向かってきたキメラを撃つと、國盛とティムもエリスの前に出た。
「わたしの後ろに隠れて!」
 一体抜ければ数体抜け出てくるのは仕方のない事だった。
 出来た道を辿るようにやってきたキメラが、小さな羽根を震わせ近付いてくる。
――と、その直後、赤く鋭い光が3人を襲った。
「コイツがレーザーか‥‥兆候は、見えたな」
 身を呈してエリスを庇った國盛が、向かい来るキメラをスティムの爪が着いた足で蹴り上げる。
 これにキメラは容易に姿を消した。
「銃で撃つまでもないか」
 呟き体制を整えるが、ふと視線が気になった。
「‥‥危ないから下がっていろ」
「でも――」
「エリスさん、危ない!」
 國盛の怪我に気を取られていたエリスを、ティムの女性化した体が抱き締める。
 そしてキメラの放ったレーザーを腕に受けると、彼の整った顔に歪みが浮かんだ。
「‥‥あ‥‥怪我‥‥」
 自らを庇い怪我をしたティムに、エリスの戸惑う目が向かう。
 しかし彼は彼女の頭を撫でると、自らの背に彼女を寄せた。
「彼女はわたしが守ります! 國盛さん、イスネグさん!」
「ああ、エリスの希望する構図にしてやらなきゃな」
 國盛はそう言いながらティムの傷を治癒すると、拳銃を構えた。
「‥‥無理は、しないで‥‥」
 写真を取りたい気持ちはある。しかし、彼女の中に戸惑う気持ちが生まれたのも事実だ。
 その事に気付いたイスネグが彼女の頭をそっと撫でる。
「必ず守るから安心して撮ってね、でも無理はするなよ〜」
 そう言いながら向けられた背に、カメラを持つ手に力が篭る。
 そしてそれを構えると、ファインダー越しに能力者の姿を捉えた。
「ん〜こんなタイミングかなぁっと。良い絵が撮れると良いんだけどね」
 キメラの攻撃を交わしながら、ミコトの目がカメラを構えたエリスを捉える。
「そろそろだな‥‥っと!」
 キメラの放つレーザーの軌道を読み、剛蔵が身を低くして貫通弾を放つ。
「夕日が沈む――今だ!」
 海を熟知したネジリの声に、全員の攻撃が一斉にキメラに降り注いだ。
 そしてそれを待っていたかのように、エリスの指が、カメラのシャッターを押していた。

●記念撮影
「あ〜がんばった。流石にこれ以上は無理だ〜」
 キメラを退治し終え、砂浜に大の字に寝転がったミコトは、紺と赤のコントラストが浮かぶ空を見上げて息を吐いた。
 キメラは一斉攻撃の後、僅かにその存在を残し撃破した。
 そして残ったキメラも含め、皆で退治し終えたのが今。
 意外にも重労働だったそれに、寝ころぶ彼を見ても誰も文句を言わない。
「夕陽の海ってこう‥‥叫びたくなるな〜」
 寝転がるミコトの隣で、砂浜に腰を下ろしたイスネグが呟く。
 その手にはサングラスが握られており、今は完全に沈もうとする太陽を見つめている。
「写真を撮るときにはぶれない様に、脇をしめて構えて‥‥っと」
 ティムはエリスに写真の撮り方を教えて貰っていた。
 使い捨てのカメラでも、撮り方によっては上手く映す事が出来る。そう語るエリスにティムは嬉しそうに笑って見せる。
「いつか『父親』になった時のために勉強しないとだから」
「‥‥父親、か」
 國盛はランタンを点けながら、感慨深げにティムとエリスの様子を眺めた。
 彼の年を考えると、エリスと同じくらいの子供が居てもおかしくない。そう考えると少々複雑な心境なのだろう。
 無意識に咥えた煙草に火を灯す彼に、エリスが気付いた。
「ん?」
「‥‥怪我、大丈夫‥‥?」
 大きな瞳がじっと見上げる。
 それに苦笑を零すと、國盛の大きな手がエリスの頭を撫でた。
「気にするな。それよりどうだ? 巧く写真は撮れた‥‥か?」
「そうだった。良い絵が撮れてると良いね!」
 國盛の声を聞き取ったミコトが言えば、イスネグも同じように声を重ねる。
「それはまぁ、杞憂ってヤツじゃないかな〜」
「それはそうかもだけど‥‥あ、出来上がったら見せてね〜」
 明るく寝転がったまま声を駆けるミコトに、エリスは笑顔を浮かべて頷く。
 そこにスクール水着姿のネジリが近付いてきた。
 手には海で捕って来たのだろうか、数匹の魚が握られており、彼女が何処で何をしていたのか容易に想像が出来る。
「ネジリさん、海に潜っとったんか?」
 剛蔵の声に頷くと、ネジリは取ってきた魚を砂浜に下ろした。
「ふむ、能力者の体とは便利だな‥‥力加減は必要だが」
 魚の捕れ具合を言っているのだろうか。
 呆気に取られる一同を他所に、ネジリはエリスに近付くと、彼女の目線に合わせて驚く顔を覗き込んだ。
「‥‥食うか? ひとまず1人2匹は食える位には捕って来たんだが‥‥」
 鋭い目つきで、しかも真顔で言う言葉に、エリスの瞳が際限なく瞬かれる。
 そして――
「‥‥は‥‥はい、食べます‥‥ッ、ふ‥‥あはははは!」
 突然響いた楽しげな笑い声。
 その声にネジリは首を傾げたが、他の皆は何処か微笑ましげに笑う彼女の顔を見ていた。
 写真を撮っている時には見せなかった子供らしい笑顔は、今回の依頼が巧くいったことを示している。
 だからこそ、イスネグは提案した。
「折角だし、皆で写真撮影なんてどうかな?」
 この声に、皆が顔を見合わせる。
「写真撮影‥‥か」
 剛蔵が呟き、それに続き、皆が思い思いの言葉を口にする。
 そして撮ることになった写真は、夕日の沈んだ海をバックに、皆で寄り添う写真で、その中央には、嬉しそうに笑うエリスの姿があった。