タイトル:沈黙の聖女マスター:朝臣 あむ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/11/26 23:13

●オープニング本文


 薄ら白い空を見上げ、シーリア・C・クレッセンは静かに頬を撫でる風を感じていた。
 耳に響くのは潮騒。
 鼻を掠めるのは潮の香り。
「‥‥あの空の何処かに、居ると思っていたのに‥‥」
 囁き、そっと瞼を伏せると顔を前方に戻した。
 耳に響く音も、鼻を擽る香りも変わらない。
 彼女はそれらを胸いっぱいに吸い込むと、ゆっくり瞼を上げ、眼前に控える墓標を見詰めた。

――ジョニー・マクス。

 それが墓標に刻まれた名だ。
 墓標は海を臨める丘の上に立ち、その下には何も眠っていない。
 ただ石が在るだけの空虚な場所。
 遺体は状況的に見つける事が出来なかった。けれど、亡くなる姿はこの目で見ていた。
 なのに、何故――
「全てが‥‥夢であれば、良かった‥‥」
 消えた命も、現れた命も、何もかも。
 全てが夢であれば悩む必要も、ここにいる必要も無かった。しかし、全ては夢ではなく、彼女は現実の中にいる。
「‥‥ジョニー‥‥」
 シーリアはそう囁き、顔面を片手で覆うとした。
 その時だ。

 カサッ。

 不意に草を踏む音がし、彼女の目が振り返る。
「マタ、会いましたネ」
 オドケタ口調に彼女の目が見開かれる。
 視線の先に居たのは、目にも痛い赤のスーツを着た男性。彼は被っていたシルクハットを外すと、優雅な一例を向けてきた。
「マイ・バード。またお会いシマーシタ、ネ?」
 褐色の肌故に映える白い歯を光らせて笑う彼の名は、ジョニー・マクス――バクアだ。
「バードは何故、ココに?」
 彼はそう問い、首を傾げた。
 それにシーリアの目が落ちる。
 シーリアは先日、この場所でジョニーと名乗ったバグアに襲われた。そして傭兵によって助けられ、今がある。
 本来ならこのような場所に居る事も、ジョニーと再会する事もない運命の筈。にも拘わらず、彼女はここにいる。
「バード?」
「‥‥貴方に、聞きたい事があって来ました。‥‥貴方は、私の知る、ジョニー‥‥なのでしょうか?」
 上げられた瞳は期待に満ちていた。
 過去に失った筈の命。それがどのような形であれ前にある事が、彼女にとっては軌跡だった。
 それが例えバグアであったとしても、だ。
 しかしその期待は、直ぐに打ち砕かれる事となる。
「アイ・ドッ・ノー‥‥そのアンサーを、私は持っていまセーン」
 先と同じようにオドケて見せる彼に、シーリアは胸の前で手を組んで視線を落とした。
 その眉間には深い皺が刻まれ、彼女の苦悩が見て取れる。
「‥‥別人‥‥いえ、記憶がない、だけかも‥‥されど、彼は‥‥」
 彼はバグア。
 この事実がシーリアを辛うじて引き留めている。
 過去、何度も苦い思いをさせられ、そして今もさせている存在。それに対して何を期待しているのか。
「バグアは、敵‥‥バグアは、ジョニーを――」
「鳥籠を用意したデース」
「!」
 突如掛けられた声に、シーリアの目が上がった。
「ベリーグッドな、バードの為の、鳥籠デース」
 ドクンッ。と、胸が高鳴った。
 声は同じ、顔も同じ。
 弱い心の半分以上はジョニーに向いている。しかし引き留めるモノもある。
 それは、彼女を探しに来てくれ、そして護ってくれた傭兵の存在。
「‥‥私は‥‥」
 胸の奥で燻る嫌な感覚。
 認める事も、立ち止まる事も、立ち向かう事も、もう出来ない。したくない。そう何かが行っている気がする。
 それに――

『もし、この闘いで無事戻る事が出来たら、私だけの聖女になってくれますか?』

 彼の人が残した言葉が、脳裏を過る。
 努めて忘れようとし、努めて思い出さないようにしていた言葉が、目の前にいるバグアによって思い出させられる。
 歌も、癒しも、優しさも。
 全ては、この人の為の物だった。
「私は、弱いのです‥‥」
 シーリアはそう、極々小さく囁くと、目の前に差し出された手に、そっと手を伸ばしたのだった。

●UPC本部
 デスクに備え付けられた電話を耳に、山本・総二郎は最大出力で叫んでいた。
「だから、シーリアさんがまた行方不明なんだっ! 何でこんな時にこっちにいないんだよッ!!!」
 バンバンとデスクを叩く彼は、正直周りの迷惑だ。
 その為、今彼のデスク周辺には人がいない。その事が彼を更にヒートアップさせる。
「書置きも、伝言も、手掛かりも皆無! 教えて貰った墓も行ったけどいないんだよ!!!!」
 バンバンバンバン。
 もうデスクが破壊寸前だが、彼は気にしない。
 そしてその向こうで話を聞いていたキルト・ガング(gz0430)は、ややゲンナリした様子で息を吐いた。
『その内、戻って来るだろ。シーリアだって子供じゃないんだ。イチイチ目くじら立てる必要もないだろ』
「キルト‥‥この前の依頼以降、シーリアさんに冷たくないか? あんなに心配してたのに、今じゃそっけないもんな」
『さあ、どうだっけかな』
 キルトは現在、依頼で別の場所に行っている。
 その為に電話で遣り取りなのだが、前の彼なら確実に駆け付けるなりなんなりの行動に出た筈。
 この前の依頼で何かあったのだろうか。
「そもそも2人‥‥いや、3人が知り合いだったってのも不思議だし。なあ、ジョニーって人はどうやって死んだんだ? 何か情報とか――」
『用件が以上なら切るぞ。俺も暇じゃないんだ』
「え、ちょっ、待って‥‥おい、キルト! キルト???」
 電話は一方的に切れてしまった。
 何と言うのか、キルトらしからぬ、不器用な電話の切り方だ。
 誤魔化すなら他にも方法があるだろうに。
「もしかしたら、キルトのバグア恐怖症も、この辺りに関係してるのか‥‥?」
 もしそうだとするなら、この件を調べる事が多くの事柄を解決する事に繋がるのではないだろうか。
「‥‥やって、みるか」
 そう呟くと、総二郎は集められるだけの資料を集め、キルトには内緒で依頼を出す事に決めた。

●参加者一覧

UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
ウラキ(gb4922
25歳・♂・JG
御法川 沙雪華(gb5322
19歳・♀・JG
メシア・ローザリア(gb6467
20歳・♀・GD
フォア・グラ(gc0718
30歳・♂・ST
寺島 楓理(gc6635
26歳・♀・HA

●リプレイ本文

 UPC本部に集まった能力者たちは、山本総二郎と依頼の確認を行っていた。
「出来れば、カメラを人数分貸して欲しいのだが」
 そう総二郎に告げるのはUNKNOWN(ga4276)だ。
 総二郎はこれに快諾し、全員にカメラを渡した。但し、フィルムは1人に1つずつ。
「自分が用意出来るのはこれだけです。予算的に厳しくて」
 総二郎はそう苦笑を零した。
 そんな彼を見ながら、御法川 沙雪華(gb5322)が口を開く。
「私も、山本さんにお願いしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」
 この声に総二郎が頷く。
「シーリアさん、キルトさん、それにジョニーさんが参加され、ジョニーさんが亡くなった依頼の報告書を探して頂けないでしょうか」
 依頼書が残っているのであれば、そこに書かれる文字だけでなく、多くの情報を得れる筈。そう言葉を紡ぐ彼女に総二郎は頷きを返す。
「わかりました」
「有難うございます。何か情報が分かり次第、連絡をいただけたら嬉しいです」
 言って、穏やかに微笑む彼女に頷く総二郎。と、そこにウラキ(gb4922)も頼みごとを持ってきた。
「僕も、行方不明者の資料が欲しいんだが」
 彼の言う行方不明者とはシーリアの事だ。
「それなら、ここ数か月の依頼書と、彼女の過去の経歴で良いでしょうか?」
「ああ」
 そう頷きながら、資料を引き寄せる総二郎に、ふと問いが浮かんだ。
「‥‥何故、この依頼を出した?」
「え?」
「個人的理由もあるだろうが、教えてくれればそれに応える情報を集め易い」
――理由。
 総二郎は思案気に視線を落とすと、ポツリと言葉を落とした。
「‥‥シーリアさんのファンだったから、かな。でも彼女に関わる内に、彼女の葛藤する物に興味が湧いて‥‥あと、キルト――友人の事が心配だから、かな」
 やたらと多くの事に首を突っ込む友人の異変が、総二郎を動かす切っ掛けとなったようだ。
 ウラキは「そうか」と声を返す。
 そこに新たな声が響いてくる。
「そういえば、シーリアのこと何も知らなかったんだよな」
 そう呟くのは寺島 楓理(gc6635)だ。
 彼女は依頼でシーリアの救出に向かった事がある。その時の事を思い返しての呟きだった。
「喪失感なら知ってんだけどな‥‥」
 溜息交じりに呟くその声を聞き、彼女の傍にいたメシア・ローザリア(gb6467)はゆっくりと胸の前で十字を切る。
「――主よ、あなたがご存知です」
 全ての行動、全ての出来事を知っているのはそれこそ神だけだろう。ならば――
「貴方の聖霊の導きがありますように」
 これから行う調査の全て。
 そこに神の――主の導きがある様。メシアはそう口中で囁き、胸元に着けた薔薇のブローチに手を添えた。

 UNKNOWNは高速移動艇の中で、シーリアの行動の裏を読むよう思考を巡らせていた。
「魂に従ったのか、情に流されたのか、心に狂ったのか、声に乗ったのか‥‥」
「行方不明者の事か?」
 不意の問いに、UNKNOWNの目が動く。
 そこに居たのはウラキだ。
「‥‥まぁ、人の動機はそれぞれ、ということだ」
 まるで他人事。そんな雰囲気を漂わせ囁く声に、それを耳にした沙雪華は総二郎から見せられた報告書を思い出し視線を落としていた。
 総二郎が見せた報告書は、一見すれば普通の物。
 キメラとバグアを退治した依頼。異変があるとすれば、そこに死亡者の名がある事だ。
「血の滲むような、悲しい過去の傷‥‥とてもお辛いことでしょう。私たちは、励まし支えになることはできても――」
 乗り越えるべきは自分自身の力で。
 沙雪華はそう心の中で呟き、そっと両の手を握り締めた。
 そして各々が意気込む中、は巨体を揺らしたフォア・グラ(gc0718)大きく両の手を握り締めていた。
「今回はふぉあぐら、探偵さんなのね!」

●1日目
 海を臨む丘。そこに建てられた墓を前に、UNKNOWNとウラキは注意深く辺りを見回していた。
「何をどう見ているのかね‥‥」
 ポツリと呟き出された声を耳に、ウラキの目が墓を見る――と、そこには白い花が。
「‥‥献花だ」
 ウラキはそう言うと、先ずは状況をカメラに納めた。そしてUNKNOWNが花弁に手を添える。
「2、3日と言ったところかな」
「誰が備えたかが問題だが‥‥」
 2、 3日前と言う事は、そう遠くない過去だ。少しくらい形跡は残っているか?
 そう視線を動かした時だ。
「ん?」
 墓から僅かに離れた場所。
 草を強く踏んだような跡に、ウラキの目が向かう。そしてそこに、UNKNOWNの声が風に乗って届いた。
「『ジョニー・マクスここに眠る』」
 流暢に読み上げられたのは墓石に刻まれた文字。変わった点も、違和感もない。
 雨に濡れて汚れた石には、苔も見て取れる。
「随分と放置されていたのだろうね。可哀想に」
 UNKNOWNはそう呟くと、指の腹で苔を払い落した。

 その頃、廃墟と化した修道院を訪れていた沙雪華は、其処彼処に転がる瓦礫を見ながら表情を落していた。
「シーリアさんのお部屋、そこへ行けば‥‥」
 何かあるかもしれない。
 そう胸の内で呟き、修道院の中を歩いてゆく。そうして辿り着いたのは、扉が崩れた部屋。
 人1人の部屋と呼ぶにはあまりに狭く、ただベッドが置かれているだけの部屋は、本当に何もない質素な物だった。
「‥‥ここがシーリアさんの」
 沙雪華は中を見回し、ベッドに歩み寄る。机もないこの部屋で、もし何かあるとすればここだけだ。
 彼女はシーツを捲り上げると、そこに置かれた物に目を瞬いた。

 そして、以前キメラに襲われた教会には、楓理が足を運んでいた。
「どうもっす、あん時ぶりっすね」
 言って笑顔で手を上げた彼女を、教会の神父も子供達も笑顔で受け入れてくれた。
 その上で彼女はここを訪れた事情を説明したのだが――
「シーリア様の事ですか? 私はそう詳しくは‥‥」
「あれ? シーリアはここの聖女様じゃなかったの?」
「違うよー!」
 驚く楓理に答えたのは子供達だ。
 楓理は子供たちに目を向けると、彼等と視線を合わせて、ニッと笑んだ。
「シーリアってお姉さんの事おせぇて」
「シーリアのお姉ちゃんの事を知ってるのは、あのお姉ちゃんだよ」
 言って子供の1人が、指差したのは、幼い印象の修道女だ。
「あんたは?」
「シーリアお姉様と共に過ごし、お姉様に助けて貰った者です‥‥貴女は、お姉様の何を知りたいのでしょうか?」
 そう告げた彼女に、楓理は今回の事を詳しく話して聞かせた。

 一方、メシアとフォアは本部に残り、総二郎と情報の整理を行っていた。
「最近のシーリア様とガング様、何か変わった点はないのでしょうか」
「んー‥‥シーリアさんはずっと考え込んでて、キルトはシーリアさんを避けてた感じ、だったでしょうか」
 良く考えれば、前の依頼からおかしい点はあった。と彼は言う。
「そう言えば、あの墓の場所に、バグアが発生した事は?」
 彼女の言う『あの墓』とはジョニーの墓だろう。
「いや、ジョニー以外はないですよ。過去にそう云った事例があれば、マークされる筈ですから」
 メシアはその声に成程と頷き、フォアはその情報をメモに書き写したのだった。

 そして、1日目終了後。
 一行は、行動しやすい街で宿を取り、情報の交換をしていた。
「墓は献花があったくらいかな」
「あと、足跡だな‥‥」
 UNKNOWNとウラキは、そう口にして得た情報を示す。それに続いて口を開いたのは沙雪華だ。
「私は、教会で空の銃身を見付けました」
 彼女はそう言って、皆の前に銃を置く。
 銀色の、良く手入れのされた銃には刻印がされている。それを目にしたメシアが口を開く。
「その刻印。マクス様が使われていた刻印に似ていますわ」
 彼女はそう言うと、本部で手に入れてきた情報を開示した。
「マクス様は確実に、シーリア様の元恋人の姿でしょう、お2方の動揺を見る限り‥‥そして、恐らく彼女達が原因で亡くなった」
 その依頼は、シーリアが失踪する直前の依頼が元の筈。
「そのシーリアなんだけどさ、シーリアは失踪後、全く声を出さなかったらしい。髪も、染めてたみたいだし‥‥」
 楓理はそう口にして眉を寄せる。
「過去に縛られてどうすんだ‥‥。ましてや囚われたいとか馬鹿か」
 そう口にしながらも、肯定する言葉が頭を過る。
――彼女ならば、自分を偽っていたシーリアならあり得る、と。

●2日目
「キルト‥‥あのなぁ、部屋の整理とか‥‥」
 突然部屋を訪れた楓理に、キルト・ガング(gz0430)は眉根を寄せていた。
 本当なら門前払いだが、それは彼の同居人が遮ってしまった為出来ない。結果、憮然とした様子で見守っているのだが――
「楓理も、さして変わらんし‥‥調べさせて貰うよ」
「あ? って、オイ! 他人様の家で何し始めんだよっ!!」
 壁に手を当てて部屋を探り始めた彼女に、キルトは慌てて静止に踏み出した。

 キルトが何だかとんでもない状況に陥る中、メシアとフォアは前日に沙雪華が訪れた教会にやって来ていた。
「傭兵のメシア・ローザリアです。シーリア様について、お話を伺いに来ましたの」
「貴女もシーリア様について‥‥」
 神父は前日の事もあってだろう。修道女を呼び寄せると、彼女と共に話に興じた。
 その間、フォアは子供たちと遊んでくれている。
 それを確認した上で、メシアは問いを向けた。
「この方を、御存じありませんか? ここに来た、とか」
「‥‥ぁ‥‥」
 メシアが見せたのはジョニーの写真だ。
 修道女は初めの内はキョトンとしていたが、直ぐに表情を正すと「見たことがあります」と声を漏らした。

 そしてUNKNOWNとウラキは、廃墟と化した修道院を訪れていた。
 但し捜査する場所は別々。
 UNKNOWNは、神父や他の修道女、教会内部をくまなく捜索してゆく。
「――彼女の訪れた時期は、そう遠くはないのだね。となると、塞ぎ込んでいた時期というのはここではわからない、か」
 とは言え、前日のメシアが得てきた情報から大体の推測は出来る。
「LHに来る前から塞ぎ込んでいたと言うのは間違いないだろう。となると、切欠はどこから始まったのだろうか、ね」
 彼はそう呟くと、ウラキが捜索中の部屋のある方角へと目を向けた。
 そしてそのウラキはと言うと――
「やはり、御法川さんの情報通り何もないか」
 幾ら調べても、シーリアの残した物はない。
 ウラキは僅かに息を吐くと、気を取り直して捜索を再開した。

 その頃、沙雪華は墓に来ていた。
 但し場所は、丘の下にある海。彼女は借り受けた小舟を海に出し、そこから辺りを見回した。
「ジョニーさんが亡くなったのはここではない。とすると、崖に何かあるかと思ったのですが‥‥」
 呟き、見回した場所にあるのは崖と海のみ。
 他に見付けることの出来ない現状だが、彼女は何かないかと、そのまま調査を続けた。

 その夜、能力者たちは再び顔を合わせていた。
「あんた‥‥この件どう見る? 僕は――」
 ウラキはそう言いながら、酒の入ったグラスを傾けた。
 その声にUNKNOWNが答える中、メシアがある情報を開示する。
「マクス様は教会を訪れてはいないそうですわ。ただ、シーリア様はマクス様のお写真をいつも持ってらっしゃったようです」
 ただこれ以外に情報はない。そう言う彼女に、ふと楓理が口を開いた。
「そう言えば、キルトが来たがってたけど、置いてきた」
 そう、キルトは今回の調査にご立腹らしく、参加者全員と顔を合わせると言い張ったらしい。
 だが同居人の宥めもあって、それは免れたとか。
「でさ、やっぱあの部屋には何かあると思うんだけど‥‥旅人さんよ、あんたはどう思うよ」
 実は、UNKNOWNはウラキとの捜索を途中で切り上げ、キルトの部屋に来ていた。
「さあ、どうだろうね。ああ云った場所は、中々に難しいものだよ」
 そう言って僅かに口角を上げて見せる。
 そんな彼に楓理は苦笑しつつ頬杖を突くと残念そうに息を吐いた。
「そうかい、人生の先輩として聞いただけっすよ」
 その声に目を伏せると、UNKNOWNは緩やかに煙草を口に運んだ。

●3日目
 楓理とフォアは、廃墟を訪れ、その後墓を訪れていた。
 廃墟はシーリアが護ったとされる場所。墓はシーリアが護られた場所。
 彼女はどんな場面でも1人では無かった筈だ。
「シーリア、なんで見えてねぇんだよ周りがよ」
 そう口にして、思わず墓を睨み付ける。
「籠の鳥になる気かよ。今まで、出会ってきた人間は大切じゃねえのか‥‥自分を粗末にしないでくれよ」
 調べれば調べる程、憤る気持ちが大きくなる。
 彼女は苦々しげに拳を握ると、供えられた花を睨み付けた。
 そんな彼女を遠目に見るフォアは、今回の情報を克明に記してゆく。
「完璧なのね」
 そう言った彼は満足そうにメモをしまったとか。

 その頃、教会を訪れたウラキは、駆け寄る子供を抱き止め、神父と修道女に頭を下げた。
「また来たぞ」
 そう口にする彼は、初日に少しだけここを訪れていた。
 その証拠に、会話は終始和やかな物だった。
「確か、シーリアは声が出なかったのだっけか。となると、修道院に来る前の話も知らないかな」
「そうですね‥‥お姉様は、喋れないものと思っていましたから。それでも、皆の為に獣を追い払うなどはしてくれたのですよ」
 傭兵職を離れても、人を護る事は止めなかった。
 そう告げる彼女に、ウラキは「そうか」と頷きを返し、修道女の過去話に耳を傾けた。

 そして、キルトの部屋を訪れたメシアは、部屋の中を見回して眉を寄せていた。
「庶民の部屋って、汚いのね」
「‥‥オイ」
 前日の楓理に続いてメシアまで。
 怒る気力も失せたキルトが、同居人に宥められて腰を据えている。その中で、UNKNOWNとメシアは彼の部屋を調べに掛かった。
「探すとすれば、机や書籍関連か、な」
「あ? ちょっと待――」
 当然キルトは止めに入ろうとしたのだが、沙雪華がそれを遮った。
「キルトさん。お伺いしたい事があるのですが‥‥」
「‥‥あ?」
「えっと‥‥お話では、軍学校でシーリアさんと知り合われたそうですね。元は軍人さんだったのでしょうか」
「ああ、その事か」
 キルトは僅かに頷くと、シーリアとジョニーと自分の3人で軍学校に通っていた事、一時は自分とシーリアだけが軍人だったことを明かした。
 その時だ。
「これは興味深いね」
「!」
 声と共に出されたのはキルトの日記だ。
 UNKNOWNはそれを捲りながら、僅かに眉を潜める。
「これは借りて行こう。ここで見るにはあまりにも酷だろう」
「見といて言うんじゃねえ!」
 この反論が元(?)で日記はその場で読まれたのだが――
「シーリア様とガング様がマクス様の居た建物を爆破?」
「その理由は、ジョニーがヨリシロに成ろうとしていたから。それも、キルトの代わりとなって、か」
 居た堪れないね。
 彼はそう言葉を添えると、メシアと沙雪華と顔を見合わせた。