タイトル:らぶ☆りあマスター:朝臣 あむ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/03/20 09:44

●オープニング本文


 日が完全に落ちようとする午後。
 読みかけの本を片手に喫茶店を訪れたキルト・ガング(gz0430)は、静かに流れる時間をのんびり過ごしていた。
「最近色々あったからな。少しくらいのんびりしても罰は当たらんだろ」
 そう口にして珈琲のカップを持ち上げる。そうして喉を潤そうとカップを唇に当てた時だ。
「うふふふふ、ふふふふー」
「!」
 耳元に響いた声に飛び退いた。
 その拍子に珈琲が零れたのはこの際如何でも良い。
「てっめぇ、何気色の悪ぃ笑い方してんだよ!!」
 バンッとソファーを叩いた音に、周囲の目が向かう。
「キルト、煩くしたら周りの迷惑だよ」
 シーッと口に手を添えて注意したのは、ULTのオペレーター、山本総二郎だ。
 彼はキルトの前の席に移動すると、新しい珈琲とフキンを頼んで腰を据えた。
「随分と暇そうだね。シーリアさんの事が一先ず落ち着いたから‥‥そう考えるのが妥当かな?」
 律儀にキルトの零した珈琲を拭いて問う彼に溜息が零れる。そもそもキルトがここで時間を潰していたのには訳がある。
「シーリアの件が動かねえから、仕方なく‥‥だ。それに俺には解決してない問題もある。あんまのんびりしてる時間なんてねえんだよ」
「そうは言うけど、今は暇なんでしょ?」
 確かに今は暇だが、いつこの状況が変わるかはわからない。だからこそ、油断はできないのだ。
「俺はいつでも動けるようにしてなきゃなんねえ。出来る事なら放っておいてほしいんだが?」
 言って、キルトは閉じてしまった本を捲り始めた。
 その様子に総二郎は運ばれてきた珈琲に手を付けて苦笑する。
 キルトの言っている言葉の意味も、彼の態度の意味も分かる。わかるのだが、だからと言ってここを訪れた理由を無下にする訳にもいかない。
「実は、キルトに割の良いバイトの話を――」
「却下」
 速攻で取り下げられた提案に、総二郎の頬が膨らむ。
「えー、時給に換算すると凄く良いバイトなんだよ。ちなみに、これくらい‥‥」
 もにょもにょもにょ。
 顔を寄せて放たれる額。その声にキルトの目が動いた。
「‥‥臓器提供ならお断りだ」
「そんな出所不明の仕事じゃないって。ただ単に、とあるお嬢さんのお願いを聞いてくれれば良いんだよ」
「‥‥あー‥‥そういう意味わかんねえ依頼は、大抵良い話だった試しがないんだ。悪いな」
 キルトはそう言うと手をヒラリと振った。
 しかし総二郎は諦めない。
 彼に見えるように写真を差し出すと、スッと読んでいる本の間に挟んだ。
 これには視線を落とさざる負えない。
「この子の名前は、エルル・ラウ・シーフォン。とあるお金持ちの家の子で、年は今年で16歳‥‥可愛いでしょ!」
 得意気に総二郎が言うだけのことはある。
 ふわふわの金の髪の毛を風に靡かせ、儚げに花に囲まれて微笑む少女。穏やかな双眸は優しげな蒼を持ち、桜色に染まる頬は白い肌に良く合っている。
 美少女――そう表現してもおかしくはないだろう。
「まあ、可愛いっちゃあ可愛いが‥‥あー‥‥ってか、俺は話を聞く気なんか――」
「仕事は簡単。エルルさんに愛を注ぎ、愛を囁けば良いんだ!」
 目を輝かせて言い切った総二郎。
 それを冷静に見据えるキルト。
 温度差は歴然。正直言って彼が何を言ってるのかもわからないし、正気なのかもわからない。
「宗教なら他を当ってくれ。俺には無宗教論者なんだ」
「違うって! これは宗教じゃなくて、個人がシーフォン家の執事さんから頼まれたお話なんだって」
「だったらお前がやれば良いだろ。俺を巻き込むな!」
「だって、僕仕事があるし‥‥そもそもキルトは暇で、こういう変なの得意じゃんか」
「‥‥得意とか言うな。誤解だ、誤解」
 勘弁してくれ。そう呟きカップを持ち上げる。
 どうにもここ最近まともな依頼が来ない。大体の原因は想像つくが、それでも勘弁して欲しいのは確かだ。
「とにかく、却下だ却下。どっかの馬鹿みたいなお嬢の面倒なんて見てられるか。俺だっていつ暇がなくなるか、わかんねえんだからよ」
 最後はぼやく様に呟き、言葉を区切った彼に総二郎の視線が落ちる。
「ねえ、キルト。‥‥実はこのお嬢さん、一週間後に手術を控えてるんだ。その成功率は10パーセント未満。成功するかどうかわからないって‥‥」
「あ?」
 成功率10パーセントに満たない手術。
 この声にキルトの目が戻ってきた。
 総二郎の話によると、エルルは元々体が弱く、屋敷にこもりっきりの生活を送っていたらしい。
 だから当然、友達も恋人もいない。
「そんなエルルさんの心の支えは小説だったんだ。そして彼女が最近読んだ小説がコレ」
 スッと差し出された小説。そこには『らぶ☆りあ』と書かれており、見目麗しい男性が数名描かれている。
「1人の女の子を巡って繰り広げられる男たちのアピール合戦。その末の告白に主人公の女の子がどう答えるか――それが、この小説のあらすじ」
 『最近読んだ小説』『愛を注ぎ、愛を囁く』。
 今ので総二郎の言葉が全て重なった気がする。
「‥‥ま、まさか‥‥」
「うん、そのまさかだよ」
 笑顔な総二郎に突っ込みたい事はある。あるのだが、確認しなければならない。
「あー‥‥要は、大勢の男に告白されたい‥‥そういうこと、か?」
「まあ、そんなところ」
 正直、こんなばかげた事に付き合いたくない。
 ガックリ項垂れたキルトだったが、どうにも先程聞いた手術の成功率が頭を掠めてくる。
「くそっ‥‥こうなったら、山本。お前の顔使って能力者集めろ」
「え、引き受けてくれるの?」
 能力者を集める=協力してくれる。
 そんな図式しか思い浮かばないらしい総二郎に、キルトの口角が上がった。
 その顔はちょっと悪い。
「いいや、能力者に押し付ける。んでもって、俺は高みの見物をする!」
 断言したキルトに、総二郎は絶句。
 それでエルルの望みを叶えるには相応の人数が必要なのも確か。総二郎は溜息を零すと頷きを返した。
「わかった。それじゃ、キルトを省いた6人を応募して、お嬢さんには7人の男性が来るって言っておくよ」
「あ?」
「そうと決まれば準備しなきゃな!」
「お、おい‥‥山本‥‥俺はやらな――」
「却下!」
 珈琲を一気に飲み干して言い切った彼に、今度はキルトが言葉を失う。

 こうしてUPC本部に依頼が掲示されるのだが、はたして依頼は成功するのだろうか。
 そして、エルルお嬢様の運命や如何に‥‥。

●参加者一覧

ラルス・フェルセン(ga5133
30歳・♂・PN
兎々(ga7859
21歳・♂・BM
メシア・ローザリア(gb6467
20歳・♀・GD
サウル・リズメリア(gc1031
21歳・♂・AA
追儺(gc5241
24歳・♂・PN
セシル・ディル(gc6964
22歳・♀・CA

●リプレイ本文

 私はエルル・ラウ・シーフォン。
 屋敷と言う籠に捕らわれた、数日後には成功率の低い手術を受ける、死神に魅入られた鳥。
「私の王子様は、どこに‥‥」
「お嬢様、失礼致します。実はお嬢様にお客様がお見えに――」
「お客様‥‥私に?」
 私に客人などありはしない。けれど誰か来たと言うのなら、少し位はこの寂しさを紛らわせる事が出来るかしら。
「わかったわ。通し――」
 そう言って振り返った先に見えた6人の男性。それもどの方々も見目麗しい、まるで奇跡のような光景に、思わず言葉を失ってしまった。
「お嬢さんがエルル嬢だね」
 タキシードを着た仮面の紳士(後にメシア・ローザリア(gb6467)様と名を知る方)がそう言って頭を下げる。硬く、張りのある声が心地よい彼は、私の手を取ると仮面に隠れた眼差しを私に向けてくれた。
「私は、きみの心に応えた者だ」
 声が穏やかに微笑み、思わず倒れそうになる。そんな私を支えた手。それはきっと執事の彼――そう思ったのだけど、現実は違った。
「やあ、エルル‥‥大丈夫かな?」
 中性的な美貌を持つ男性(セシル・ディル(gc6964)様)は、陽の光の様に穏やかな微笑みで私を見詰め、心配して下さっている。
「あ、あなた方はいったい‥‥」
 頬が上気して普通じゃいられないけど、ここは堪えないと。
「あんたがエルルか。俺は追儺。で、こっちが‥‥おい、キルトっ!」
 逞しい印象の追儺(gc5241)様。そんな追儺様が引っ張り寄せた、不幸酬漂う男性はキルト・ガング(gz0430)様。
 お2人とも仲が宜しいのね。と、そんな事を思っていると、少し影のある微笑が近付いてきたの。
「ねえ、エルルって呼び捨てでいいのかな?」
 そう囁く男性(この方は、兎々(ga7859))は、少しだけ頬を染めて囁いて来る。
「‥‥いや、そう呼びたいんだけどね」
 ついつい2度目のノックアウト――いえ、眩暈に踏み止まる。そうしなければ、あと1人、あと1人の自己紹介が聞けないものっ!
「待ちたまえ。その残る1人の自己紹介にサウル様が混ざっているのだろうか!」
 甲冑姿で進み出た鎧――いえ、男性はサウル・リズメリア(gc1031)様と仰るらしく、ウザやか――いえ、爽やかスマイルで微笑んだわ。
 そう言えば、この方を数に入れ忘れていたわ。でもそれは黙っておきましょう。
「‥‥それ以前に、心の声、漏れてたかしら?」
 そんな事を零していると、今度こそ残るお1人の男性が――
「初めまして。私はラルスです。君の名前を教えてくれますか? 一目で私を虜にした天使の名を、この胸に刻み込みたいのです」
 そっと手を取って触れた温かな感触。陽の光を集めたかのような王子様こと、ラルス・フェルセン(ga5133)様の口づけに、今にも倒れてしまいそうっ!
「お嬢様。皆様、お嬢様にお会いしたく集まって下さった方々ばかり。如何なさいますか?」
 私は動悸膨らむ胸を抑えつつ起き上がると、改めて皆様を見たわ。
 ここまで麗しい方々が揃ったのなら、やるべき事は1つ。
「勿論『らぶ☆りあ』を実行するわ」
 こうして私の楽しいひと時が始まったのよ。

●サンルーム
 温かな光の元、お花たちに囲まれてのティータイム。今日は更に、素敵なお客様も加わって、私の心は弾むばかり。
「今日のお茶は――え、これは‥‥」
「さあ、俺の手作り紅茶、サウル紅茶だぜ!」
 サウル様が差し出した異様な紅茶(?)。色味と言い、香りと言い、嗅いだことのない匂いがして来る。
 けれど折角のお茶だもの。飲まないと‥‥
 そう思っていると、突然別の手がカップを攫ったの。そして――
「サウル、口を開けろ」
「ぅ? ふげええ!」
 物凄い勢いでキルト様がサウル様の口に、異物を流し込んだわ。しかも、飲み終えたサウル様は、ピクピクして倒れてる。
「エルルのお茶はこっち。執事さんが淹れてくれたお茶だから大丈夫だよ」
 兎々様がそう言って渡して下さったのはローズティー。確かにこれは、何時ものお茶ね。
 ホッと息を吐いてカップを口に運ぶと、兎々様の声が聞こえてきたの。
「ねえ、エルルはイマとミライどっちが欲しい? もしもイマなら飛び出しちゃおうか?」
 ごきゅっ。
 思わず飲み込んだ紅茶に目をパチクリ。
「わ、私は‥‥その‥‥」
 真正面から男性に目を見られた事など無かったからかしら。頬が熱くて、目も逸らし――
「!」
 兎々様の視線から逃れるように動かした瞳。それにぶつかった視線がもう1つ。
「ラルス様、何を見て‥‥っ」
 再び逸らした視線。
 少し失礼だったかしら。でも、ラルス様ったら、皆様から離れた場所で私を見てらっしゃるんだもの。
 恥ずかし過ぎて、私、顔がっ。
「そう言えば、エルルは何の花が好きなんだ?俺は、断然百合だな、俺の家の紋章だしよ」
 何時の間に回復されたのでしょう。
 サウル様が問いかける声に、追儺様が重ねて問いを向けてらっしゃいます。
「見た所、薔薇が多いか‥‥好きなのか?」
「え、ええ。薔薇は種類も豊富ですし、何よりも咲き誇る姿の美しさが好きです」
 追儺様は先程から私に合わせて話をして下さってるみたい。
 私の好きな物や興味のある物、そうした物を探そうとして下さっているのが伝わってくる。
「セシル様は、どのようなお花がお好きなのでしょう」
 この方はどのような花を好むのでしょう。そう、問いかけたはずでしたのに‥‥
「僕はキミと居られるだけで嬉しいかな」
「え」
「花も良いけど、キミが居る、この時に、この世界に在れた事を嬉しく思うよ。キミこそが、僕の花。キミと居るだけで‥‥心が、満ちていく」
 慈しむように向けられた微笑みに、ふらぁっと意識が遠退いてしまいそう。
 もう、もう、駄目っ!
 このままだと私が溶けてしまいそう!
「エルル嬢、甘い時に溶けてしまうにはまだ早い」
 現実に引き戻す、ローズの香り。
 そうだったわ。私はまだこの空間を味わいきって無いもの!
「メシア様、有難うございます」
 言って、紅茶を受け取る――と、それを何かに攫われて――
「きゃあっ!」
「失礼を許して下さいね、エルル君」
 突然の浮遊感に目を瞬くと、ラルス様のお顔が間近に。
 彼は皆様から少し離れた場所に私を座らせると、別に用意して下さったお菓子を勧めて下さったの。
「あの、何故ここへ‥‥」
 お茶なら皆様と一緒でも。
 そう言おうとした私に、ラルス様の繊細な指が唇に触れる。そして――
「私はね、こう見えてヤキモチ妬きなんですよ?」
 そう言うと、彼は新たな紅茶を私に勧めて微笑んだの。

●エルルの部屋
 皆様とのティータイムはとても楽しくて、時間が過ぎてしまうのも忘れてしまう程。けれど、体調の事もあるし、今度は皆様を自室へお招きする事になったの。
「そうだ、エルル嬢。もし体調が良ければ、ピアノを弾いてくれるかい?」
「え‥‥」
 確かに自室にはピアノがある。
 けれど、私の弾く曲など皆様が聴きたいと思えるかどうか。
「音楽を嗜む者が少なくってね、飽き飽きしていたところだ」
 是非とも。そう告げて下さるメシア様。勿論私は不安なまま。
 そんな私の気持ちを汲んだのでしょう。
「俺もピアノが聴いてみたい。少し位、心に安らぎを求めたっていいだろう?」
 優しく笑んで促して下さる追儺様。そしてメシア様と追儺様の言葉を確実にするよう、兎々様の声が響いてきたの。
「エルルの世界を聴かせて」
「私の世界‥‥」
 ピアノが世界と繋がる。
 そんなこと考えた事も無かったわ。
 私はピアノに向かい、メシア様のリクエストでミサ曲を奏でたの。きっと皆様が期待する程、上手くなかったでしょうね。
 それでも心を込めて奏でたわ。
 そんな折、ふと、兎々様の悲しげな表情が目に入ったの。憂いながら、何かを想い聞き入る姿に、胸が締め付けられそうになる。
「なんだかエルルの気持ちが少し伝わってきた気がする。だからこそ、今幸せでいてもらいたい。幸せにしてあげたい」
 ポツリと響いた声に、鍵盤を弾く指がずれてしまう。けれど、補う手が鍵盤を叩き、私は直ぐに持ち直したの。
「エルル嬢。こんな男が神を讃える、滑稽だろう?」
「そ、そんなことは‥‥」
 仮面の向こうで笑みが零れる音がしたわ。
 私の演奏を助けて下さったメシア様を滑稽と言えるかしら。それに、この方はこの後、一曲奏でて下さった。
 それは――
「貴族の娘と、独りの男の愛の曲だ」
 初めは奇抜な容姿で驚いてしまったけれど、今ならこの方の優しさがわかる。
「‥‥ありがとう」
 素直な言葉でそう零すと、ピアノが優しい音色で答えてくれたの。

●愛の囁き
 お別れは必然的に訪れるもの。
 皆様が私に挨拶して下さると言うので、お1人ずつ会う事にしました。
「ミライの話がエルルとできたらそっちの方が幸せか。じゃあ、エルルは兎々さんとどんな未来を描く? 兎々さんはねぇ‥‥」
 先程お話しした「イマ」と「ミライ」の話。
 それをもう一度話しながら、兎々様は儚げに首を傾げる。
「んー。なんだろ? ただ一緒なら、それでいいや!」
 何か吹っ切った様に顔を上げた兎々様に、ふとある思いが過る。
「手術の件、皆様ご存じなのですね」
 そう、今の話と皆様の様子を見ればわかってしまうわ。
 皆様がお優しいのも、きっと――
「関係ないよ」
 そう言って離れて行こうとする兎々様を追おうとした時、彼の唇から言葉が漏れて‥‥
「兎々さんはエルルにとっての心臓のような存在になりたい。そうすれば全身に愛を送り続けられるから」
「!」
 またね!
 そう言葉を残し、部屋を去って行った兎々様に、顔面真っ赤。思わず座り込んでしまいました。

 次に来て下さったのは、セシル様。
 セシル様は私の手を取ると、その中に何かを置いて握らせたの。そして暖かな手で包み込んでくれた。
「キミにプレゼントがあるんだ。僕とお揃い。受け取ってくれるかな?」
 そう言って開けられた手には、幸運のメダルが。
「キミの為でもあるけど、僕とお揃いだから、受け取って欲しいんだ」
 穏やかな視線と共に見詰められると耳まで熱くなってしまう。それでも頷きを返すと、セシル様の手がメダルを首に下げて下さった。
「‥‥エルル‥‥僕は、キミを‥‥愛して、いるよ」
 セシル様は耳元でそう囁くと、私の体を抱きしめて下さったの。

 次に訪れたのは、目の前で膝を折る仮面の紳士。彼は恭しく私の手を取ると、力強く語りかけて来たわ。
「私の胸を開けてみれば心に記されているのがわかるだろう〈エルルは私の愛である〉と」
 演劇を思わせる彼の声。
 その声に酔っていると、メシア様から愛の歌が響いてきたわ。
 真っ直ぐで、心に滲みる歌。
 愛の歌を語る術を持たず、それでも何かを伝えようと奏でる声に、私は静かに目を伏せ、その音に酔い痴れたの。

「エルル、ここはアレだ。お姫様抱っこで、温室とか歩いて良いか?」
 いえ、ここは温室ではなく私の部屋です。
 そんなツッコミをどこへやら。
「なんつーか、その、俺が歩きてーからよ」
 言って、そっぽを向いたその姿に、きゅんっと胸が高鳴ったのはココだけの秘密です。
 とは言え、ここでお散歩は無理。
「サウル様、そのお心は、次の機会まで取っておいて下さい」
 次には是非。そう言葉を添えると、突然サウル様の顔が近付いてきて。
 ちゅっ。
「!」
「好きだ!」
 額に触れた唇の感触と、手に握らされたメダル。
 何もかもがチグハグで、順序も行動も伴ってない。けれど、何処となく憎めない彼の言葉に、思わず――
「っ、ふふ‥‥サウル様は面白いお方ですね。私も、嫌いではありません」
 笑って、思わず頭を撫でてしまいました。

 そして残るは御三方。
 そう、思っていたのですが、何やら私の前には2人の男性が‥‥
「もうすぐ、成功率の低い手術を受けるんだろう? でも、俺はお前と出会えた‥‥そんな奇跡があったんだから、絶対に成功すると思ってる。戻ってくるのを待ってる」
 追儺様はそう言うと、私の手を取りました。
 人と人が出会う確率と言うのは、とても凄い物だと聞いた事があります。
 それは数日後に控える、手術と同じくらい――いえ、それ以上に。
「戻ってきたら、お前にもう一度愛していると言うよ」
 熱の篭った瞳で見詰められ、ボッと頬が上気する。そもそもこの姿、キルト様にも見られているのですが‥‥
(‥‥キルト、やれ)
 追儺様が何事かを呟くと、キルト様の憂い気な目が私を捕らえました。
 そして、大きな手が私の頭を撫で――
「頑張って来い。んで、コイツじゃなくて俺の元に戻って来い。そしたら俺が愛してるって、言ってやるよ」
 そう言って力強く笑んだキルト様。
 お2人の励ましに、私は自然と笑みが零れたのです。

 最後に訪れて下さったのは、ラルス様です。
 彼は私をベッドへ寝かせると、自らも添い――添い寝ですって!?
「君は、罪な人ですね」
 そう言いながら髪を弄る姿が、何とも艶やかで、私、別の意味でベッドに沈みそうです。
 けれどラルス様はそのような事など気にも留めず、穏やかな視線を注いでくださるのです。
「誰にも渡したくないくらい君を愛してしまいました。これ以上は愛せない程。そう‥‥神様にだって渡しはしない」
 絡め取られた髪に、ラルス様の唇が触れ。
「君は必ず私の元へ帰ってくるのですよ?」
 そう囁く声に、私は知らず、頷きを返していました。

 こうして私の『らぶ☆りあ』は終わりを告げました。
 私は後日、手術を受けます。
 そして手術が無事終わったら、たった1人の王子様へ、赤い薔薇の花を贈ろうと思います。
 皆様、ありがとうございました。

●終焉
 エルルの家の帰り道、追儺は項垂れて半分再起不能。キルトを巻き込む事には成功したが、精神的に彼の方が堪えたようだ。
 そしてそのキルトはと言うと‥‥
「ところでガング様、貴方に愛は囁けるのかしら?」
「‥‥もう囁いて来ましたが」
 やはり疲労困憊の様子で、メシアの言葉に答えている。それでも何かを思い出したのだろう。
 懐から白い薔薇の花を取り出すと、メシアに差し出した。
「この前のお返しだ‥‥貰いもんだけどな」
 どうやら執事に頼んで1本拝借したらしい。
 キルトは花をメシアに押し付ける形で手渡すと、追儺の元に駆けて行った。

 そして和気あいあいと帰路に着く傭兵たちの最後尾で、兎々とセシルが仲良く手を繋いで歩いていた。
「あの子の手術上手くいくといいね」
「‥‥成功、きっとするわよね」
 兎々の言葉に頷く、セシル。
 そんな彼女を見て、ふと兎々の足が止まった。
「嫉妬してくれた?」
「嫉妬?」
 先程までのエルルとのやり取り。それを思い返せば、嫉妬しない訳がない。
 何せ2人は互いを想い合う仲なのだから――
「ねぇ、兎々さん、私の事‥‥好き? 私はね、兎々さんの事、大好きよ」
 そう言って微笑んだセシルに、兎々がどう答えたか。
 それは2人だけの秘密だ。