タイトル:【LP】消えたアルバムマスター:朝臣 あむ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/12/03 20:57

●オープニング本文


 UPCに依頼を出して写真を撮影した帰り。
 新鋭の写真家であるエリス・フラデュラーは、高速移動艇の出発を待つ中で、一枚の写真を眺めていた。
「‥‥パパ‥‥」
 呟いて握りしめたのは、亡き父が残した写真。
 戦場を駆け抜け、多くの写真を撮って来た父――自分とは比べ物にならない程、多くの人に真実を伝えて来た父を、エリスは誇りに思っている。
 それと同時に、父の背を追いかける自分を思い返すと、あまりに差があり過ぎて情けなくなってくる。
「パパに近付きたいのに‥‥」
 焦る思いとは裏腹に、結果だけが追い付いてこない。
 別に風景だけを撮っているわけではない。
 危険な場所にも足を運ぶし、そうした場所へ足を運ぶ覚悟も持っている。
 だがもしかすると、その覚悟が弱いのかもしれない。
 エリスは込み上げてくる思いを呑み込むように息を吸い込むと、顔をあげた。
「‥‥ん、決めた‥‥!」
 呟いて、写真をポケットに突っ込む。
 そうして立ちあがると、父の形見であるカメラを手に歩き出した。
「ん? あれは、写真家のお嬢ちゃん?」
 お手洗いにでも行くのだろうか。
 高速移動艇とは逆の方向に歩いて行くエリスに、UPCの関係者は首を捻った。
 だが大したことではないだろうと、関係者は自らの仕事に戻ってしまった。

●スチムソンの写真
 戦場に、カメラマンが同行することは良くあることだ。混乱する中での配信では、撮影した写真が誰の撮影になるものか、分らないこともままある。前線から流れてきた『その写真』を最初に見つけた諜報担当士官は、速やかな情報管制を指示すると共に、撮影者の確認を急ぐべく指示を出した。
「人類で最重要な人物だ。知っているだろう。‥‥トマス・スチムソン博士」
 撮影場所は北京包囲網のどこか。撮影者も、おそらくという但し書きつきでしか判っていない。しかし、早急にそれを見つけ出さねばならないと、彼は言う。
「バグアもこの情報を察知している可能性がある。急いでくれ。写真の撮影者を連中に抑えられ、撮影場所が分れば博士の身が危険だ」
 写っているのは、どこかの小さな村だろう。鶏と農民を背景に、なぜか白衣姿の老人。少し猫背で眠そうな目をカメラに向けてくるスチムソンの視線は、どこか遠くを見ているようだった。

●UPC本部
「中国辺りに行った写真家ですか?」
 本部に席を置くオペレーターの女性は、上司の問いかけに首を傾げた。
「ああ、もし覚えがあれば、その人物の身柄を確保したいんだが‥‥」
「いきなり言われても、簡単に出てくるはずが‥‥あ」
 心当たりはない――そう、言おうとした彼女の目が、デスクに置かれた写真に向かった。
 光溢れんばかりの砂浜の写真。
 赤い光と太陽の光、そしてそれらを反射する海面が作りだした瞬間は、正に奇跡と言っても良いものだろう。
 そしてこの写真を撮ったのは、能力者の力を借りたエリスだ。
「そう言えば、エリスちゃんが行ったのも中国近辺だったわね」
 エリスから依頼を受けていた彼女は、彼女が何処に写真を撮りに行ったのか知っている。
 だからこそ、写真を見て彼女のことを思い出したのだ。
「確か新鋭の写真家だっけ?」
「はい。この子のお父さんも素晴らしい写真家で、そのお父さんを目指して撮ってるそうです」
「そうか‥‥で、この子と連絡は取れるのかい?」
「たぶん取れると思いますよ」
 言って、彼女は依頼の情報を引っ張り出すと、エリスに連絡を試みた。
――しかし‥‥。
「え‥‥それって、どういうことですか?」
 突如上がった驚愕の声に、上司の眉が寄る。
 そしてすぐさま顔を寄せると、「どうしたんだい?」と問いかけた。
 それに彼女の思案気な目が向かう。
「‥‥エリスちゃんが、いなくなったそうです」
 エリス自身への連絡が取れなかった為、依頼場所へ向かった高速移動艇に連絡してみた。
 すると、依頼主であるエリスの姿が無くなったと言うではないか。
「‥‥これって、相当マズイですよね?」
「勿論だ。至急、傭兵を募って捜索させるんだ」
「はい。いなくなってからまだそんなに時間も経っていないようですし、近くに農村もありますので、そこを捜索するように指示を出しておきます」
 そう言うと、彼女は物凄い勢いで依頼書を作成し、掲示にエリスの捜索願を張り出したのだった。

●参加者一覧

UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
ソウマ(gc0505
14歳・♂・DG
ネジリ(gc3290
22歳・♀・EP
ティナ・アブソリュート(gc4189
20歳・♀・PN
ミコト(gc4601
15歳・♂・AA
カイン・メンダキオルム(gc6217
17歳・♂・FC

●リプレイ本文

 エリスがいなくなった高速移動艇の発着場。
 そこを訪れた能力者は、逸る気持ちを抑えながら捜索前の準備にあたっている。
 その中の1人、UNKNOWN(ga4276)は、咥えていた煙草に火を落とすと、手にしていた写真に目を落とした。
 そこにあるのはエリスが撮った写真と、彼の父親が撮った写真。
「カメラマン、か――背中を追い求めるモノではないのだ、が」
 写真は同じ風景、同じ条件で撮られた物だ。
 それらは彼女が父親の背を追い続けていることを物語っている。
「ま、それが若さ故、というのだろう」
 呟き紫煙が漏れる。
 そうして歩きだした姿に、捜索時共に行動することになっている、カイン・メンダキオルム(gc6217)が首を傾げた。
「UNKNOWNさん、何処に行くんですか?」
「捜索地の地図の調達と、今どうなっているのかの確認――だね」
 足を止め振り返る彼に、カインは「私も行きます」と言って駆け寄った。
 そして彼らと同じく情報を確認していたソウマ(gc0505)は、写真の中のエリスを見て息を吐いた。
「良い年して迷子だなんて、困ったお姉さんですね」
 呆れながら顔を上げると、聞き込みを行うUNKNOWNやカインの姿が見える。
「そんな頼りない彼女ですから、早く見つけてあげないといけませんね」
 思わず肩を竦めて呟く。
 状況的に、エリスは自分から姿を眩ましたのだろう――ソウマはそう思っている。
 だからこそ呆れが募るのだが、それとは裏腹に彼女を心配する気持ちも強かった。
 だがそれを表に出すには彼は素直ではない。
 口から洩れるのは捻くれた言葉ばかり。それでも――
「‥‥無事でいて下さい」
 祈るような気持ちで、口中で本音が漏れた。
 そして彼と同じく、エリスの無事を心から願うのはネジリ(gc3290)だ。
 彼女は変装にと用意したカツラを手に、捜索へ向かう時を待っていた。
「無事でいろ」
 そう口にする彼女の金色の瞳が黒い。
 これもカツラと同じ変装の1つだ。普段は目立つ彼女の瞳を隠すのに、コンタクトを使っている。
「‥‥まだ行かないのか」
 エリスがいなくなったと聞いてからどうにも落ち着かない。
 不安だけが募り、気だけが焦る。
「ネジリさんはエリスさんと面識があったのでしたね」
 急く気持ちを何とか抑えようと写真を見ていたネジリに、ティナ・アブソリュート(gc4189)が声をかけた。
 そして彼女の目がネジリの写真に落ちる。
「良い写真ですよね」
 ニコリと笑って言われた言葉に、ネジリの目が瞬かれた。
 その声にネジリの顔に笑みが浮かぶ。
 それを見てから、ティナは改めて写真の中のエリスを見た。
「それにしても、無事だといいけど‥‥」
 溢れてくる思いは誰しも同じなのだろう。
「そうだね。エリスちゃん‥‥無事だと良いんだけど‥‥」
 ティナに同意して呟いたミコト(gc4601)は、彼女から貰った写真を見た。
 あどけない笑顔のエリスを見て、緩く首を横に振る。
 ここまで来たからには心配するだけではダメだ。
 そんな思いで顔を上げると、彼は写真を手に皆を振り返った。
 そこにティナの声が響く。
「集中集中‥‥よし!」
 勢い良く上がった赤の瞳がミコトと合った。
「何かあってからでは遅いですからね、迅速に行動しましょう」
 そう言って笑った彼女に、ミコトの唇に笑みが乗る。
「そうだね――っと、移動中でも出来ることをやらなきゃ‥‥」
 ミコトはそう口にすると、エリス捜索の決意を改めて固めた。
 そこにUNKNOWNとカインが戻ってくる。
「車を借りれたよ。それとこれが地図だね」
 差し出されたのは道中の地図と、農村の簡単な地図だ。
 これを受け取りネジリが呟く。
「‥‥行くか」
 この声に、皆が頷きを返したのだった。

●捜索
 農村に入った後、能力者は分かれて聞き込みをすることになっていた。
 その内の1つ、ソウマとミコトのペアは老人や子供を中心に聞き込みを行っていた。
「思った以上に人が少ないですね」
 そう呟いたのはソウマだ。
 彼の言うとおり、人の姿が極端に少ない。
 農作業の時間なのか、それとも別の問題か、村は思った以上に閑散としていた。
「それでも、少しでもエリスちゃんに繋がりそうな情報なら‥‥どんな小さなものでも‥‥」
 手にした写真に力を籠めるミコトの肩を、ソウマがそっと叩く。
「全く人がいない訳でもないですしね。ほら、あの子たちに話を聞いてみましょう」
 先ほどから発動させてある探査の眼。
 その前にはGooDLucKも発動させている。
 そうする事で五感と第六感を活用して調査を行おうと言うのだ。
「ごめんね、少しだけ話を聞かせて貰えると嬉しいんだけど‥‥ダメかな?」
 声を掛けたのは2人の子供。
 地面に落書きをしている所で、子供たちはソウマの声に気付くと、不思議そうに顔をあげた。
「‥‥何?」
「人を探しててね。このお姉ちゃんなんだけど‥‥見たことないかな?」
 そう言いながら、ミコトは子供に目線を合わせて膝を折る。
 そして写真を見せると、女の子の方が口を開いた。
「知らない人と話をしたらダメなの」
 ふるふると首を横に振る姿に、「ああ」と苦笑が漏れる。
「ごめんね、少しで良いんだ。これあげるから‥‥ダメかな?」
 ミコトはそう言うと、持っていた飴を差し出した。
「如何してもこのお姉ちゃんを探さないといけないんだけど‥‥そうだな、他にこのお姉ちゃんを探してる人とかは、いなかったかな?」
 答えて貰える可能性は低い。
 それでも聞ける事は聞いておいた方が良いだろう。
 子供たちはミコトの言葉に顔を見合わせると、貰った飴を口に含んだ。
「お兄ちゃんたち以外の人は来てないの」
「でもちょっと前に、同じカメラを持ったおじさんなら見たことある」
 思いがけない情報に、顔を見合わせる。
「その人、何処で写真を撮ってたとかわかる?」
 問いかけに子供は一生懸命に記憶を探り、「あっち」と村の外れを指差した。
「行ってみる価値はあるかもしれないですね」
 ソウマの声にミコトは頷くと、子供頭をクシャリと撫でた。
「いろいろとありがとう。それじゃ、また何かあったら教えてね」
 言って、歩きだしたミコトの足が早い。
 その事に気付いたソウマも歩く速度を上げるのだが、それでも若干遅れている。
「焦っても仕方ないですよ」
 掛けられた声にミコトの足が止まった。
 そして振り返った焦りの浮かぶ顔を見て、彼は1つ息を吐いた。
「追手の可能性はなさそうですけど、万が一という事もあります。警戒して向かいましょう」
 確かミコトはエリスと面識があったはず。
 だとするなら彼の焦りは尤だ。
 だが急ぎ過ぎれば失敗してしまうことだってある。
 そんなソウマの思いを汲み取ってか、ミコトは静かに頷きを返すと、止めていた足を動かした。
「‥‥何もないのが一番。無事で居てね、エリスちゃん」

 車で村の中を走るUNKNOWNは、助手席に座らせたカインに双眼鏡を貸して、記憶したエリスの姿を探していた。
「UNKNOWNさんは、エリスさんの行きそうな場所に心当たりはあるんですか?」
「写真家としての経験と勘から、探す場所の眼星はついているかな」
 口にして車を止める。
 ここは村の入り口から少し入った場所だ。
 彼はエンジンを止めて降りると、緩やかに辺りを見回した。
「こっち――いや、焦りからこちら、か。少し危険に近付き過ぎているかな?」
 呟き、短くなった煙草を落とす。
 その上でカインを見ると、彼に電源を入れた無線機を手渡した。
「持っていたまえ。連絡手段を保つ事も重要だよ」
 今回が初めての依頼であるカインに助言を向け、彼らは農作業を終えたらしい女性に近付いた。
「すみません、ここに幼い女の子って来ませんでしたか?」
 屈託なく掛けられたカインの声に、女性の顔に警戒が浮かぶ。
 そして無言で彼らを通り過ぎようとしたのだが、UNKNOWNがそれを遮った。
「礼儀を掻いた事は謝罪しようか。だが如何しても探さなければならない子でね‥‥些細な事でも構わないのだよ。何か知らないかい?」
 帽子を脱ぎ一礼する姿に、女性は思わず足を止めた。
 農村と言う場所柄か、彼の様に礼儀正しい男性に出会う事は稀だ。
 女性は戸惑うように視線を泳がせると、上ずった声でこう言った。
「そ、そうね‥‥そう言えば、さっき畑仕事をしている時に、見覚えのない女の子を見た気がするわね」
「ふむ、こっちか。情報に感謝しよう」
 僅かでも情報が得れれば充分だ。
 UNKNOWNは教えてくれた礼にと、彼女の手を取ってその甲に唇を落とした。
 これに女性は真っ赤になって声を失ったのだが、当の本人は全く気にした風もなく、一礼を向けて歩き出した。
 その一部始終を見ていたカインは「流石!」と目を輝かせていたとか。

 ティナはネジリから借りた携帯を手に、出来る限りの人から話を聞いていた。
「そうですか‥‥あ、良いんですよ。ただ、他所から来た方がいたらすぐ分かるかも‥‥とか、思っただけですので」
 そう口にして笑ったティナに、話を聞かれた村人が恐縮して頭を下げる。
 それに慌てて手を横に振ると、ふと思いついたことを聞いてみた。
「そう言えば、この近辺でキメラが出たとか言うお話はありませんか?」
「いや、ないねぇ」
「そうですか‥‥ありがとうございます」
 そう頭を下げると、ティナは息を吐いた。
 村人の反応は様々だが、それなりに話を聞くことは出来ている。
 だがこれと言った手掛かりは掴めていない。
「うーん、厳しいですね」
 呟いて視線を巡らせた先にはネジリがいる。
 彼女もティナと同じように聞き込みをしている最中だ。
「この子が何かしたのかい?」
 エリスの写真を見せたネジリに、中年の女性は興味津々だ。
 人探しをすると言う事は、それなりに理由があるものだ。
 そして彼女はそれに興味を持った。
 その問いにネジリの顔にフッと笑みが落ちる。
「親戚の子なのだが驚かせたくてな。耳に入らない様にこの事は他言無用で頼めるか?」
「へえ、探し出して驚かせようってのかい?」
 面白いねぇ、と声を潜める女性に、僅かに嬉しそうな笑みを零して頷く。
 その姿に、女性は頑張んなと背を叩いて傍を離れて行った。
 それを見送ったネジリの目が周囲に向く。
 探査の眼を使い注意を払っているが、今の所おかしなことはない。
「ティナ、尾行の確認をする。そこの角を曲がれ」
 携帯電話でティナに連絡を取ったネジリは、そう口にする歩きだした。
 これに従ってティナは路地に入った。
 そして後ろを振り返る。
 だが追手の気配はない。その事にホッと息を吐くと、ネジリも路地に入って来た。
「私達以外にエリスさんを探してる人も、カメラマンを探している人もいないようですね」
「ああ、だがエリスがこの村に来たのは間違いなさそうだ」
 手に入れた情報は微々だが、エリスが村にいる事だけは間違いないようだ。
「もう少し聞いて――」
 言って歩き出そうとした時だ。
『エリスを発見したよ。場所は――』
 無線機からUNKNOWNの声が聞こえる。
 これに顔を見合わせると、2人は急ぎ路地を飛び出した。

●迷子発見
「‥‥あ、あの、止めて‥‥」
 エリスの前にはガラの悪い男が2人いた。
 その手に握られているのは一眼レフのカメラ。
「コイツは売れば金になるぞ」
「だな。にしても、ガキ1人でこんな場所にとは、何考えてんだかね」
 マジマジと見下ろされる視線に、エリスの足が下がった。
 だが大事なカメラは彼らの手の中だ。
 それを盗られたまま逃げる訳にはいかない。
 エリスはぎゅっと拳を握り締めると目の前の男たちを睨みつけた。
「だ、大事なカメラ、なの‥‥返して‥‥っ!」
「返してって言われて簡単に返せるかっての。悔しかったら取り返してみろよ」
 へへんっと、笑う相手は、エリスでは無理だと踏んでいるようだ。
 馬鹿にしたように笑って、彼女に手を上げてきた――その時だ。
「カイン、前に」
 不意に駆けこんできた風、それに男達の目が見開かれる。
「きゃ!」
「少しだけ、大人しくしていなさい」
 UNKNOWNはそう言うと、視界を覆うようにエリスをコートの中に隠した。
 そこに複数の足音がしてくる。
「エリスちゃん。助けに来たよ」
 聞き覚えのある声にエリスの顔が上がった。
 その目に飛び込んできたのは、ミコトや彼女を探していた能力者の姿だ。
「さって、悪い奴らにはお仕置きが必要だよね‥‥」
 そう口にすると、ミコトは他の能力者と共に男たちをあっさり捕縛してしまった。

「心配掛けさせるな、たわけ」
 おデコに落ちたチョップに、エリスの首が竦められる。
 散々心配して探しまわったネジリからの、ちょっとしたお仕置きだ。
「まったく‥‥1人で頑張りたかったのか?」
 怒った声とは逆に、今度は優しく問いかけてくる。
 その声に顔を上げると、彼女はコクンと頷いた。
「適性の事は聞いた‥‥確かに能力者なら動ける幅は効く、だがエリスが能力者である必要は無い、大事なのはエリスの意志で何をするかだ。エリスの親父さんは撮影技術が有り能力者だっただけで活躍したのではない、親父さんは親父さんなりに持っている物がある‥‥と思うのだが」
 どうだろう? そんな風に首を傾げるネジリに、エリスの目が落ちた。
 その頭に大きな手が触れる。
「慌てる事は、ない。ただ、無茶はほどほどに、な」
 UNKNOWNだ。
 彼は煙草の煙をエリスに届かない様に消すと、優しい微笑みを浮かべ彼女を見た。
「能力者でないからこそ、見える景色もあるのでは、ないかな?」
「能力者では、ないからこそ‥‥」
 その言葉に大きな目が瞬かれる。
 そこにカインの声が響いた。
「エリスさん、怪我してるじゃないですか」
 その声にティナが彼女の手を取った。
「本当です。もう、なんでこんな無茶をしたんですか」
 たぶんカメラを取られた際に付けられた傷だろう。
「何も言わず勝手にいなくなって‥‥本当に‥‥心配、したんですから」
 そう言って俯いたティナの様子に、エリスは申し訳なさそうに「ごめんなさい」と呟いた。
 そこにハンカチが差し出される。
「本当です‥‥無茶だけは控えてくださいよ」
 ソウマだ。
 彼はティナにそれを渡すとエリスを見た。
「お姉さんの写真を楽しみにしている、大勢のファンが悲しみますからね」
 そう言って「僕もその一人です」と誰にも聞こえないよう囁く。
 その上で言葉を紡ぐ。
「一人で悩んで突飛な行動をするのも、今回限りにして欲しいですね」
 素直ではない、それでも心配している事が伝わる声に、エリスは大きく首を縦に振った。
 そしてそんなエリスの頭をミコトが撫でる。
「‥‥本当に、心配したよ。次からは‥‥一人で行っちゃダメだよ」
 そう言った彼に頷きを返すと、エリスは「ごめんなさい」と「ありがとう」を伝えたのだった。