●オープニング本文

※このシナリオはハロウィンドリームシナリオです。実際のWTRPGの世界観に一切関係はありません


　私の名前はアストレア（１７）北米軍学校に通う女子高生。
　ＢＬを専門に扱う第ｘ文芸部・ローゼス組のエース、鳳凰院　雪姫と言えば私のことである。

　私はＢＬ小説書きとしてこれまでに、幾人もの『いい男達』を作品に登場させてきた。
　特に学校の個性的な教員達をモデルとしたものなどは好評をいただいた。
　今、続編を希望する声に応えるべく構想を練っているのだが、壁に突き当たってしまった。
　展開を陳腐化させないためにも、新機軸のキャラクターが欲しいところだが、これ以上学校関係者をモデルにして行くと身バレに繋がりかねない。学校は少数精鋭。あまり人数がいないのだ。

　ああ、それにしても物語の中心人物が思い浮かばない。
　湧き上がる創作意欲が空回りしてしまっている。

　一行たりとも進まない、白紙状態のノートを前にぐだぐだと腐っていても仕方がない。
　気分転換にとパソコンを起動しネットにつなぐ。
　巡回先となっている曼珠院　紗華子氏のサイトにお邪魔するとちょうどチャットが開設されていた。
　曼珠院氏は私と同年代で、ＢＬ小説のサイトを運営されている。氏の小説はモデルが存在するのか、生き生きとした『いい男達』の存在に事欠かない。

　チャットを覗いてみれば、ちょうど曼珠院氏がいらっしゃるではないか。
　モデルとなった人物達の話が聞けるかもしれない。
　また、同好の士との出会いがあるかもしれない。

　入室ボタンを押す私に何の躊躇いもなかったのは言うまでもない。

●参加者一覧

●リプレイ本文

蜃気楼（ファタ・モルガナ（gc0598））：聞いてよ同志紗華子ー。最近先生が冷たいんだよー
紗華子（山田　良子（gz0332））：え、今度は何をやったんですか
蜃気楼：ちょっと僅かに力加減誤って日傘でお気にのクッション貫通させたからってさぁ‥‥私は寝てたらまた主任に怒られるんじゃないかなって思って起こそうとしただけなんだよー
紗華子：相変わらずアグレッシブなご様子でｗ　冷たいって言うより、ヤツは身の危険を覚えたんでは？

　※　雪姫（アストレア（gz0377））さんが入室しました　※

蜃気楼：うん、ガチ警戒されてるみたいで‥同志も先生をなだめるのてつｄ‥‥っと、こんちゃー
雪姫：こんばんは
紗華子：雪ちゃんktkr！　こんばんはー
蜃気楼：初めまして、だっけ？【蜃気楼】だよ。よろしく
雪姫：よろしくお願いします。鳳凰院　雪姫です。
蜃気楼：雪姫‥？　って鳳凰院　雪姫？　おぉ！　あなたの作品には色々な可能性と夢を貰ったよ
雪姫：え、わ、ありがとうございます！！
紗華子：雪ちゃんの王道路線ロマンティックワールドは乙女のバイブルですｊｋ


　これは嬉しい。正直嬉しい。好意的な評価を受けて嬉しくない人間がいるものか。
　これだけでもテンション上がってくる。
　話を聞くところによると蜃気楼氏は、大学の研究室で助手として働いているそうだ。
　前述の会話は研究室の教授との日常のやり取りであるという。扱いも呼び方も結構ぞんざいのようであっても、教授本人のいないところではちゃんと『先生』と敬称を付けて呼ぶなど、実のところはちゃんと敬っている様子だ。しかしながら傘で刺すとは、なんという隠れツンデレ。いろいろと仕方ないね。


　※　星空きらら（天戸　るみ（gb2004））さんが入室しました　※
　※　司令（南桐　由（gb8174））さんが入室しました　※

星空きらら：こんばんはぁ（゜ー゜＊）
司令：こんばんは、遊びに来たよ
蜃気楼：こんちゃー
紗華子：きららちゃんと先輩キター！（°∀°）
雪姫：お二人ともこんばんはー


　おお、ここであの星空きらら氏に出会えるとは。
　彼女は某国立大の文学部考古学専攻に在籍する現役大学生で、大学のアイドル「ミス大和撫子」的な存在である。
　そんなリア充でありながら、裏の顔は女性向け同人漫画家で、個人サークルを運営しており夏と冬の祭典には欠かさず参加しており、他の各種オンリーイベントにも参加するなど、精力的に活動を続けている。
　リア充と同人作家の二重ライフを満喫している模様で、私のような北国引きこもりにとっては憧れの存在と言っても過言ではない。
　そして指令氏。
　紗華子氏の先輩にして酷道801号線上の魔術師。ミラクルYUIとは彼女のことだ。

　この偉大な先達と出会えたのも何かの縁だ。思い切って悩みを打ち明け、克服のヒントを聞いてみるのも良いかもしれない。

雪姫：あの、いきなりですみませんが、皆さん、思うように筆が進まないときって、どうなさっていますか？　今ですね、どうしても新しいシリーズに踏み出せなくて‥‥
紗華子：あー、スランプですね。わかります。
星空きらら：自分もそういう時期がありましたよ。そういう時は誰かに見せる見られる云々関係無しにとにかく書きたいもの、好きなものを書くのが一番でしょうか。商業作家でも無いんです。こういうのは自分が一番楽しまなきゃ損ですよっ　♪d（´▽｀）b♪
雪姫：好きなものを楽しむ、ですね！　でも、そうすると同じパターンになってしまうのがちょっと‥白衣鬼畜眼鏡ｘ天真爛漫腹黒少年（リバあり）は何度書いたことか（爆
紗華子：ウホッｗ　雪ちゃんのシリーズには大変お世話になりましたｗ
蜃気楼：ネタに困るって誰にでもあるよぅ。焦る気持ちもあるよねー。でも、そういう時こそ原点に帰るのも大事だよー。自分が物を書いてる原点に、さ
蜃気楼：ふむ、新しい境地を開拓したいってことなら、主任×先生を提供しようじゃないかぁ。鬼畜とＭの織りなす喜劇だよぅ。

　ここで蜃気楼氏が語ったのは腐ィルターを通した教授と主任の日常。

蜃気楼：『まったく、お前は俺が見てないと本当に駄目だなコイツゥ』『しゅ、主任』‥‥と、二人の仲はより深まるのだねぇ。ああ、うん。敬ってたってオカズにはなるよ。

　なんだか蜃気楼氏の背後で（；´Д｀）という表情をしたスーツ眼鏡のラテン系アラサー男性が「腐ってやがる‥‥遅すぎたんだ」と呟いているのが見えた気がした。

星空きらら：ん、とりあえず私の好みは【弱気攻め×誘い受け】です！　もちろん作家をしている以上他のジャンルもおいしく頂きますが、好物と言われたらこれ一択ですね！　もっと突っ込むとサクランボ狩りが特に‥‥おっとこんな時間に誰でしょう
紗華子：無茶しやがって（AA略　ヘタレ攻め女王様受けがテラ萌えることは激しく同意しますｗ
司令：とってもおいしいよね‥腐女子系妄としては‥やっぱりこの時期ならハロウィンネタが‥いいんじゃないかな？
紗華子：季節ものは押さえておくべし！　そういうことですね！
司令：うん‥たとえば‥ハロウィンなら‥吸血鬼のコスプレをしているけど‥かわいい子には目がない男の子が‥お菓子をもらいに来たショタッ子を連れ込んで白いものを吸い取ったり‥学園物で出し物が終わった後、繰り広げられる‥秘め事とかいいんじゃないかな
蜃気楼：トリック・オア・トリック、ということだね
雪姫：一択！？
司令：‥しまった‥こよりから鼻血が滴っちゃった
紗華子：ちょｗｗ先輩荒ぶりすぎｗｗ

　背後にモノリスを従えながら机に両肘を乗せ、両手を組み口元を隠す司令。そんな彼女の姿が幻視できた。

　※　謎の美幼女（最上　空（gb3976））さんが入室しました　※
謎の美幼女：はい、今夜は理想のＢＬ主人公に付いて語りにきましたよ！
　※　内藤来栖（夜十字・信人（ga8235））さんが入室しました　※
内藤来栖：悩んでいるようだな。乙女諸君
　※　黒耀（御巫　雫（ga8942））さんが入室しました　※
黒耀：こんばんは、だ。
　※　仏貴族（サウル・リズメリア（gc1031））さんが入室しました　※
仏貴族：日本のサブカルチャーについて詳しく聞けると聞いてきたんだ、が‥

紗華子：おおお、一気にキター！

　内藤来栖氏は某大手少女漫画雑誌で、傭兵アイドルという新ジャンルを開拓した人気急上昇中のイケメン漫画家だ。
　盆暮れの大祭で紗華子氏と知り合ったそうだが、女が男を語る、男が女を語るというお互い真逆の方向性の違いにより衝突し、拳で語り合った（？）末に、強敵と書いて友と読む熱い友情で結ばれたという。今では描き下ろしの挿絵を提供しているほどだ。
　氏はその際、BLと言う新しい乙女ジャンルの需要に唸らされたそうだ。

　黒曜氏はインディーズロックバンド『壽恵屡（じゅえる）』のボーカリストだ。美男子を引き連れてセンター取っている凛々しい彼女の姿には男女問わずファンが多い。
　BLにはあまり詳しくないそうだが友人に腐女子が多いとのこと。

　仏貴族氏はフランスから留学生。なんと貴族階級出身なのだそうだ。
　文字だけのやり取りなので彼の外見は想像するしかない。やや癖っ毛の短髪にダークゴシック系の服装なんではないだろうか。ううんわからないけどきっとそう。
　戸惑う様子からどうやら腐男子でもないノンケのようだ。彼はなぜこのサイトに迷い込んでしまったのか。

　謎の美幼女氏は本当に謎だ。
　紗華子氏、司令氏、蜃気楼氏とは同志と呼び合う間柄であり、かなりの混沌力の持ち主であることだけは確かなのだが。

黒曜：そうだ、空、頼まれてた例の美少年の半ズボン姿。あとで、添付送る。言われた通り踏みつけて、愚物を見る様な視線を投げたら、よくわからんが、あっさり了解してくれた
謎の美幼女：ありがとうございます。やはり空の睨んだ通りですね！

　黒曜氏の交友関係は一体どうなっているのだろうか。
　そんな私の些細な心配を他所に会話は進んで行く。

紗華子：相変わらずブレのないショタ好きですね、同志！
謎の美幼女：ええ、ショタは良いものです。ですが、主人公はガンガン攻めるキャラが良いですね！　二重の意味で！　外見も中身も繊細で、ナヨナヨした美少年ショタ主人公は飽きました！　まぁ、主人公以外でなら美少年金髪碧眼半ズボンヘタレキャラとかは好きですがね。
蜃気楼：ああ、男ならやってやれの世界だね
司令：ようこそ男の世界へ‥
謎の美幼女：そう、やはり、押して駄目なら押し倒せ！と言った多少強引で押しの強いのが良いです！更に『お前が好きだから！全力で押し倒す！！』と言った暑苦しいまでの熱血が入るとより良いですね。古臭いとか古典的だと思われるかもしれませんが、ＢＬはある種のファンタジーですからね。主人公が事ある毎に、モラルとか世間体とか細かい事で悩まれると萎えますし、細かい事を気にしない豪快で剛毅な性格は大切です
紗華子：とてもよくわかります。お前が好きだああ！！！　お前が欲しいぃぃいいい！！！　というノリですね
司令：二人のこの手が真っ赤に燃えるゥ！！　っていうノリなんだね‥
内藤来栖：なるほど。俺もこう言う方向性を少しは取り入れるべきか？

　途中で微妙に方向性が変わっているような気がするが突っ込みは野暮だろう。熱い男の世界の延長線上にある愛。素晴らしいではないか。まさしく東西南北中央腐敗だ。

謎の美幼女：後はですね、主人公なのですからやはり常に「攻め」で居て欲しいのですよ！　主人公なのにされるがままとか「嫌がっていても、口は正直だな」とか他のキャラに言われるのは、空の中では邪道です！　主人公なのですから、常に「攻め」て欲しいのですよ！

　BLにおいては兎角、女性である作者が自己投影してしまうのは受身となるキャラであるが、それを否定せよという謎の美幼女の言には目から鱗が落ちる思いだった。BLというのは男と男の関係であるのだから、どのような状況、立場に置かれようとも男らしくあらねば、ということか。

謎の美幼女：外見は「黒髪＋短髪」であれば他はどうでも良い感じですね、クラブ活動は「陸上」「剣道」「柔道」辺りが良い感じですかね
紗華子：鉄下駄はいて神社の石段うさぎ跳びしてそうなイメージですね
蜃気楼：なんという昭和ノスタルジック
内藤来栖：ふむ、これは参考になるな。次の読み切りでは明日・トレア君と山田・良君という二人の男キャラを軸に展開させてみよう

　なぜ私達の本名がばれている。イケメン漫画家恐るべし。

紗華子：有名漫画家のBLが読めるとか、しかもそれが自分モデルとか胸熱ｗ
星空きらら：すっごい楽しみですねっ（＾＾）
蜃気楼：掲載号が決まったら教えておくれ

　そしてなぜ喜べる。紗華子氏のポジティブなタフネスさには私でもたまに引く。
　BLを扱う人間として面の皮が厚‥もとい、何をされても動じない度量が必要だということなのか。自分の狭量さを思い知るばかりだ。

黒曜：そうだ。バンド内ではやたらと胸元開くヘタレのシンセ担当と、ギター担当のその親友が怪しくてな‥。よく２人きりで、深夜にF1を観ている場面に出くわすんだ。どうにもシンセの男が昔、女と色々あって少々人間不信でな。その相談に乗ってるそうなんだが
紗華子：けしからん位にぁゃしぃですね！
黒曜：うむ。さらにムードメーカーのベース担当は顔は良いが女にモテない。お調子者で酔うと脱ぎ、男にやたらと絡む。自称女好きらしいが、そっちの気があるのかもしれん。ドラム担当のリーダーは歳が結構離れた子持ちのバツイチ。皆の父のような存在なんだが

　芸能界というのはやはりアレか。そういうアレなのか。

黒曜：‥いやもう、いっそ男性だけという環境に、女性の主人公を入れてみてはどうだろう。BLにそれほど深くないが、男性から男性を見る視点と、女性から男性と男性を見るという視点はまた違う筈だ。あえてノーマルな恋愛を混ぜるというのも悪くない。空に見せてもらったが、ごく普通の少年漫画の二次創作のほうが面白いしな。
紗華子：おこげ女子を入れろとそういうことですね！
仏貴族：さっきから何かわからんが、恋愛小説の悩みか？
雪姫：ええ。良いカンジの登場人物が動かせなくて‥
仏貴族：そうか‥定義が分からんが、自分が愛せる相手、キャラクターと言うべきかが、良い男だと思う
紗華子：おお、自分の理想像を当てはめてみるのも手というわけですね
仏貴族：俺だったら‥もし、恋人がいるなら乗馬とかいいな‥手ほどきしてやりてぇ。もち得る全て、この心はあんたにやるよ‥とか。言う相手が欲しい
蜃気楼：先生、かっこよすぎでしょうｗ
星空きらら：すっごいキュンキュンきました！
仏貴族：男はいいカッコしてぇんだよ。本気の相手には、本気だ。カッコ付けるし、見栄張ったり。裏から見りゃ、カッコ悪ぃが、必死に決まってんだ
司令：‥萌えるね‥これは萌える‥
謎の美幼女：天然でこの威力とは、侮れません
仏貴族：余裕なんかねぇし、カッコ悪ぃかもしれねぇが‥俺ならそっちの方が好感持てるな
紗華子：はい、いただきました！　萌え男子いただきました！！
仏貴族：Je　veille　sur　toi―お前を守ると言った意味だ。言える相手がいねぇが、フランスではラブ・カード、ラブレターは割と書く。まどろっこしくねぇな、赤いハート、それからJe　t’aime（あんたを愛する）の言葉。本気の直球に勝るものはねぇ
内藤来栖：ああ、技巧を凝らすよりもシンプルなもののほうがかえって心を打つことも多いからな
黒曜：原点回帰、か。なるほど

　ああ、やはり勇気を出してよかった。
　こんなにも参考になる話を聞くことが出来たのだから。
　もっと深く、根掘り葉掘りでお話を聞きだしたいところなのだが、鈍いアラームが私を呼ぶ。

雪姫：すみません、そろそろ落ちないとです（´・ω・ヽ）
紗華子：あら、残念。雪ちゃん滅多にこないのに。じゃあ、またの機会に、ということで
蜃気楼：次の祭典では期待してるよ同志雪姫。きっと、また会おう
司令：お疲れ様、新刊、楽しみにしてるね
謎の美幼女：是非、男前ショタもお願いしたいです
黒曜石：達者でな
星空きらら：またね〜っ（＊＾▽＾）／★。．SeeYou．。★
内藤来栖：再来月を楽しみにしていてくれ
仏貴族：良い作品が出来るといいな
雪姫：はいっ！　それでは皆さん、またお会いしましょう。今日はありがとうございました！！





　ゆりかごの中で私は幸せな夢を見ていた。


　その中で私は、ごく普通の学生でごく普通に友人達との会話を楽しんでいた。（情報端末を通じての文字でのやりとりではあったが）
　本当に、酷く楽しかった。楽しかったのだ。


　刺すように冷たい無貌の仮面を手に取り、心地よい余韻を振り払う。


　私の名はアストレア。
　スノーストームの生体パーツ、そして、ハーモニウム──