●オープニング本文

　傭兵達の助力により、相馬原奪還は成功した。

　軍事作戦の足場となるうる確固とした基地を手に入れたUPC軍は、他県から戦力・物資を運び入れ、次の攻撃目標である旧UPC軍高崎新町駐屯地へと向けて、着々と準備を進めていった。
　そして、国道17号線上に展開するバグア軍と激突する。

　強化型キメラの群れを率いる強化人間は、上小泉　源太郎（gz0464）UPC軍中尉の幼馴染であった井坂　雄二。
　20年前と変わらない姿、20年の歳月を重ねた姿が対峙する。
「バグアに魂売りやがったか、ユージぃぃ！」
「うっせぇ！！　ゲン、テメェに何が分かる！！」
　彼らはバグア侵攻が起こるまで、所謂『地元のヤンキー』グループに属していた。
　運命を分けたのは侵攻のその日。
「ヨシ坊はどうした！」
「殺されたよ、バグアにじゃねぇ、人間にだ！」
　はぐれ、取り残されようとしていた弟を救い出すため、雄二は避難バスから飛び降り高崎市内に戻った。
　雄二は弟との再会を果たすものの、バグア支配下におかれた社会でパニック状態に陥った住人の暴動に巻き込まれ、そこで幼い弟は落命してしまった。
「笑えるよ。殿は俺達に危害を加えなかった。変わったことといえば、買い物と医者が不便になったってだけだ」
　ビッグゴールドは人類に対し比較的に寛容な態度を示し、締め付けることも、不必要に痛めつけるような真似もしなかった。
「それだってのに、いい歳した大人連中が勝手に脅えて、勝手に騒いで‥‥」
「‥‥おめぇ、だからって」
「殿は！！　殿は俺の復讐を許容してくれた！　そして生き甲斐を教えてくれた！　武を磨き、高みを目指す、そのことを！　だから俺は、殿のために！！」



「純粋であること。美しくあるが、それだけでは生きて行くことはできない。あなたはよくご存知だと思っていましたが」
「なに、ワシは暗愚よ。到底、利口者にはなれぬ」
　簡素な茶室の中、静かに滾る音を響かせる茶釜を挟んで、金獅子ビッグゴールドとサラリーマンが向かい合っていた。
「そも、利口であれば身に過ぎる役目など引き受けておらぬ。ワシはな、一隊を率いれば他に引けも取らぬが、そこまでの才よ。支配者の身分など」
「けれど誰かが引き受けねばならなかった。‥‥ま、痛し痒し、ですな」
　さらりと言い放って、サラリーマン、春遠　朱螺（gz0367）は茶を口にする。
「結構なお手前で」

　相馬原が攻撃を受けた後、ビッグゴールドは驚くべき指示を下した。
『去るものは去れ』
　部下であるバグア、強化人間をはじめ、協力者全てに対して、城を捨てろと命じたのだ。
　この命に群馬での敗退を察した大半が他地域へと退転。残ったもののうち戦力となりうるものは出撃し、17号線上でUPC軍と戦火を交え、そうでないものは、居城周辺を全て無人とすべく、住人を強制的に他地域へと退避させていた。

「ブロンゾはな、ワシに『憂いなく武勇を示せ』と言いおった」
「故に、余剰戦力は必要ない、と。しかし、人類住人は使い道があったのでは？」
「力無き生物を盾にしたとあっては、ビッグゴールドの名が廃るわ。『渡り鳥』、そなたのようにはなれぬ」
　黒楽の茶碗を置き、春遠は旧知の戦友の意固地なまでの高潔さに微笑む。
「そう。ですから私はあなたが好きなのです」
「褒められておるのかな」
「最大の賛辞のつもりです」



「‥‥ゲンよぉ‥‥祭りは、いつか、終わるもんだよなあ‥」
　国道17号線上の戦闘はUPC軍の勝利に終わった。
　ありし日の思い出を共有できる友を、かつての己を知るただ一人を上小泉は自分の手で斃した。
「‥‥生きてくってのは、時に辛ぇな‥」
　自らが流した血の中に沈み、穏やかな表情を浮かべ永劫の眠りに就いた雄二は何も答えない。
　友の屍を越えて上小泉は歩き出す。



「殿、万事整いましてございます」
　音もなく庭先に現れた灰猫が茶室の軒先に跪く。
「うむ。シルバミードよ、大儀であった。『渡り鳥』、そなたは早う立ち去るがよい」
「いえ、もうしばらくは」
　怪訝な表情を浮かべるビッグゴールドに春遠はほのぼのと笑いかける。
「友の飾る有終の美を、また、友を斃したものの顔を見知っておきたいのです」



　UPC軍は間を置かず高崎へと攻め入った。
　上信・上越方面では未だ、バグア軍が抵抗を続けている。UPC軍が優勢にあるとはいえ、戦力が無尽蔵にあるわけではない。多少の無理を押してでも決着を急ぐ必要があったのだ。
　そうして高崎新町に到着したUPC軍が目にしたのは、無人となった市街、そして。
「聞けぇい！　我が名はビッグゴールド！　この地を預かりし者なり！　勇猛なる戦士よ、そなたらが我が屍を越えて行くに相応しいか、武によって見極めようぞ！！」
　もともとはUPC軍基地であった場所に築かれた、壮麗な城を背に立つ金色のタロスだった。

●参加者一覧

●リプレイ本文

●
「へへっ‥良いね、こっからでもビンビンと奴さん達のやる気を感じる」
　スコール・ライオネル（ga0026）は、かつて繰り広げた熱戦を思い出し、高揚感に大きく体を震わせ不敵に笑う。
「バグアの中にも稀に不器用で真っ直ぐな奴が居る。そういう奴とやり合えるのは楽しくて仕方が無い‥ヨリシロになる前のダル・ダム然り、デヴィル然り‥」
「じゃあたしらも正々堂々口上でも？」
　冗談めかして狐月　銀子（gb2552）が肩をすくめた。
　小細工は行わず、小賢しい詐術も用いず、真っ向からの力比べを提示してきたビッグゴールド。
（戦う必要があるなら、受け入れ、覚悟できる者同士だけでやりたいもの）
　彼女は敵の姿勢を割合好意的に見ている。
「武を以て美具らを試すとは地球に巣くう害虫のくせに勘違いも甚だしいわ」
　それとは逆に、美具・ザム・ツバイ（gc0857）は憤りを覚えていた。
「侵略者の分際で上から眼線で鼎の軽重を問おうとはなんたる傲慢。敢然と叩き潰してくれる」
「戦禍の被害者には少々応える口上、ですね」
　アルヴァイム（ga5051）は静かに息を吐く。
「ただの敵よ。ブッた斬るか、穴空きチーズにするだけ」
　神楽　菖蒲（gb8448）はクールに言い捨てたが
「何あれ、気持ち悪い口上‥‥」
　敵だけではなく、口上に共感、または好意を示した仲間までをも貶めるような百地・悠季（ga8270）の言に菖蒲は眉を顰める。
　菖蒲の知る悠季は、このようなことを言う人間ではなかった。
　場に漂いかけた険悪な空気を吹き飛ばすかのように、スコールが声を上げる。
「つー訳でちょっくら喧嘩してっくっから雑魚は任せたぜ？　旦那」
「あいよ！　いっちょ派手にぶちかましてきてくんなぃ！」
　快活な笑顔とサムズアップで上小泉　源太郎（gz0464）がそれに応えた。



●
　街中各所に展開しているキメラをUPC軍に任せ、傭兵達は大まかに二手に分かれて、移動を開始した。
　軍との情報共有を徹底し、近隣の遮蔽物配置を注視。各友軍の交戦状況と敵との相対位置、行動傾向と反応、双方の動静の変化から其々の意図を推察し、行動調整に活用するアルヴァイム。
　目標への包囲戦術を駆使し、敵の注意散漫と友軍の隙補完を両立させ、間断なき攻勢を以て、敵の攻勢の封殺や反撃を狙う。
　悠季は同じ方面から接近を行うアルヴァイム、スコールらと周囲の警戒方向を分担し、お互いの死角を補い、建物の死角より迫る敵を順次撃退していった。
　銃器でのフルオート射撃を加えながら、剣で薙ぎ払い確実に潰して行く。
　スコールも後れを取るまいとプラズマライフルにて敵を牽制し、接近してきた敵を切り捨てる。
「銀子、いつかあなたにやらせた事、今日は私がやるわ」
「任せるわね」
　隠し武器の類への留意を伝えながらの菖蒲の言葉に、装甲の厚い機体を盾にスラスターを前方へ向け、敵の排除を行っていた銀子は全幅の信頼をこめて応える。
　そんな彼女らの背後を守りながら、美具は道程の障害排除に勤めていた。
　双機槍「センチネル」を敵の足元に突き入れ、掬い上げるように持ち上げて裏返し、一時的に無力化、ナックルフットコートによって強化済みの脚で蹴り潰す。
　間断なく飛来する砲撃は盾で受け流し、または、浮上回避を行い。一箇所に留まることなく被弾を避けていった。


　今朝方までは人が住んでいた住宅が、道路が、キメラとともに潰されて行く。
　戦闘となればどうあっても無傷ではすまない。わかりきっていたことではあったが、バグアが壊さずにいた街を自分たちが進軍したことによって、結果、破壊することになってしまった。
　追従を行い、KVでの過大な攻撃に巻き込まれそうになりもしたUPC兵は複雑な感情を抱かずにはいられなかった。


　やがて、傭兵達は進路上に立ち塞がるキメラを排除し、最大の目標である金色のタロスと銀色のゴーレムへと接近を果たす。

　シルバミードを狙い、菖蒲と銀子が連携をかけようと合図を交わすが、それよりも早く悠季が動いていた。

　味方の存在をまるきり無視したブースト吶喊。
　くるであろうカウンター攻撃を予測し、盾を構え懐に飛び込もうとしたが、目の前にあったのは銀色の大盾だった。
　盾と盾とがぶつかり合い、弾ける。
　一瞬早く体勢を立て直したゴーレムの拡散プロトン砲が放たれる。
　素早く斥力制御スラスターを起動し回避行動を取るが、そこへとタロスの槍の穂先が迫っていた。
　予めフィールド・コーティングを起動させてはいたものの、重い一撃に機体が傾ぐ。
「ももちー！」
　銀子がフォローに回ろうとするものの、プロトン砲に阻まれる。
「まだっ！」
　悠季は盾を再び構え、死角へと突撃するが槍の石突に殴打され、さらには弾き飛ばされた。
　宙を舞って地面に叩きつけられるHeralldia。
　だが、タロスもゴーレムもそれ以上の追撃を行わなかった。

　敵と相対しながら心を千々に乱し、命を賭して戦うということの意味すら見失っている。そんな悠季をビッグゴールドは斃すに値しない、と判じていたのだ。

　情報面の指標や方針に元に連携し、他機の死角補完、挟撃が可能な位置に調整し、隙の補完を図っていたアルヴァイムは即座に悠季を庇い立て、UPC兵に周辺のキメラを優先して排除するよう指示を出す。
　完全に私情を挟んでいたが、ここに彼を責める人間はいないだろう。
　半壊したHeralldiaのコクピットの中では、能力者であること、傭兵であること、妻であること、母であること、今まで悠季を『百地・悠季』たらしめてきた全てをかなぐり捨て、ただ一人のヒトとして彼女は憎悪にも似た苛立ちと怒りを吐き出していた。
「なによ！　なんなのよ！！　もう嫌、嫌、嫌ああああああ！！！！」
　何一つ、思う通りにならない。自分の無力さと友人の死という重い現実が悠季を自暴自棄へと駆り立てていた
　アルヴァイムは黙って側に寄り添うのみ。

　瓦解しかけた戦術、仕切り直しを行おうとでも言うようにスコールがビッグゴールドへと呼びかける。
「あんたがビッグゴールドか‥不謹慎を承知で敢えて言わせてもらう。話を聞いた時からあんたと戦りたくて仕方なかった。ダル・ダムやデヴィルと同じ様な匂いを感じた、そういう奴と戦った時のように‥‥」
「ほぅ、そなたはかの英傑達と相見えてきたか」
「だからよぉ‥俺達と喧嘩しようぜ大将！！」
「喧嘩とな、小僧がよくも言いよるわ。なれば来い、そなたの全身全霊でもって！！」



●
　同刻、市街地にてキメラの排除を進めていた、上小泉率いる小隊は一人の男と遭遇した。
「ビッグゴールドさんも、シルバミードさんも良い戦いをする。これまで己が積み上げてきたものをこの一戦に全て注ぎ込み、命ごと燃やし尽くす闘争だ」
　紺のシングルスーツを着た何の変哲もない男に見えたが、キメラが跋扈する戦場の真ん中に脅えもせず平然と、それどころが笑みさえ浮かべているその様は尋常ではなかった。
「そう、闘争。敵、強者との闘争こそが生そのものである。そうは思いませんか？」
　上機嫌といった様子で大きな身振りを交えて語り、笑いかける男‥‥春遠　朱螺（gz0367）
「総員退避！！！」
　目の前の男の危険性を察した上小泉は、即座に非能力者である小隊員に退避指示を出し、自らは愛用の斧で切りかかっていた。
　赤い火花が散る。
　春遠は平然と、片手で斧を制する。
「‥ッ！　あとは脇屋の指示に従え！　ぐずぐずすんなぃ、とっとと逃げろ！」
　上小泉は小隊員に退避を促し、春遠を留め置こうと渾身の力をこめて圧すが斧はびくともしない。踏みしめた足元のアスファルトが割れ、いびつにめくれ上がった。
「仲間の逃走のために敵の足止めを行う。それは結構ですが、あなた一人でどうにかなるとでも？」
「どうにかならなくてもやらなきゃなんねぇんだよッ！」
　あまりにも無謀な行動だったが、そこに上小泉の覚悟、そして『命を燃やし尽くす闘争』の予感を見て取った春遠は喜色満面の笑みを浮かべる。
「──よろしいでしょう」

　傭兵が一人か二人、その場にいれば防げた事態ではあった。



●
　止まった流れが再び動き出す。
　菖蒲のレイナ・デ・ラ・グルージャに一歩遅れて銀子のSilverFoxが続く。
　銀子は菖蒲とは別方向からアプローチ、砲撃を警戒し、直進を避け斜めに回り込む様に移動し、距離をブーストで補う。
　菖蒲がおとりとなって攻撃を集中させ、その隙を突いて銀子が攻め上がるといった形を狙っていた。
　それをスカラムーシュ・Ω・ブーストのGPSh−30mm重機関砲による砲撃支援が支える。
「将を射るにはまずは馬から射よじゃ。楽には逝かせまいぞ」
　彼女らの目標は銀色のゴーレム。シルバミード。
　菖蒲は銀子との位置関係に注意しつつ、ゴーレムとタロスの間に入り込み、二機の連携を分断しようと指向する。
　煙幕を展開し、寸毫の隙を突いて二機の間に潜り込む。
「獲った！」
　ゴーレムを狙い銃口を定めるが、思わぬ方向、タロスからの一撃が菖蒲を打ち据える。
　咄嗟に構えた盾そして、フィールド・コーティングのお陰で幾分軽減できたが、ダメージは深刻な物だった。
　手負いとなった菖蒲を無視する形でゴーレムがプロトン砲を銀子へと向ける。
「女王を、ナメるな！」
　正面接敵から斥力制御スラスターを起動させ、軸をずらしてのカウンター攻撃。
　95mm対空砲「エニセイ」を強引に盾へと集中射、攻撃を挫き抑えこむ。
「こちとら、正義の味方と騎士なのよ」
　そこへとオーバーブーストを起動し、速度を更に上昇させた銀子が、飛び込んでくる。
　受防を前提においた突きが繰り出される。案の定、盾で突きを防いだゴーレム。銀子は力比べになる瞬間に機槍「グングニル」のブースター噴射させ、鍔競り合いの形に持ち込み、菖蒲から注意を逸らすのと同時に砲撃の抑制を狙う。
「逃がさないわよ‥ってね！」
　防戦一方となったゴーレムに対し、さらに追撃とばかりにスパークワイヤーを放ち腕部に絡め盾を抑える。
　一瞬ではあったが、動きを制限されたゴーレムの盾を美具の砲撃が腕ごと砕きさった。
「‥‥殿、お先に」
「うむ」
　金と銀の主従の間に短いやり取りが交わされ、ゴーレムはプロトン砲を乱射しながら銀子へと迫る。
　それを冷静に機槍にて迎撃する銀子だったが、機槍に深々と刺し貫かれながら、ゴーレムはショルダーキャノンを至近距離にて発射し、もろとも爆発四散した。
「意地、執念、ってとこかしらね‥‥」
　寸前のところで退避し、大破を免れはしたものの、銀子が苦々しく呟く。
「悠季を頼む」
　ゴーレムとの戦闘で継続戦闘が危うくなった銀子と菖蒲へとアルヴァイムが短く呼びかけた。
　二人は異論なく下がり、かわりに【字】、アルヴァイムが攻め上がる。

　残るはタロス。

　金色のタロスは菖蒲を攻撃している間にアルヴァイムからの攻撃受けていたが、驚くべきほどの修復能力を見せ、今尚堅固な城が如く威容を誇っている。
　通常のタロスを凌駕するようなその能力。先刻、散ったゴーレムにしても同じく。
　ビッグゴールドやシルバミードは既に機械融合を果たしていたこと、傭兵達とのこの一戦、文字通りに全てを賭けていたことを察したスコールは、プラズマライフルをその場に投げ捨て、機刀「建御雷」を正眼に構える。
「この戦いに飛び道具は無粋ってもんだ」
「小僧めが、粋な真似を」
　砲撃特化のゴーレムやキメラこそ配下に従えていたが、最初からタロス自身の武器は十文字槍一本しかない。
　己が信条のために不利を承知であえてそれを選ぶ。
　あまりにも愚直であったが、誠実とも言えるその姿勢にスコールは好意めいた感情を覚えていた。
「大将、決着つけようぜ！」
　美具の援護を受け、スコール機、ムラサメが駆ける。
　アルヴァイムも合わせて攻め入り、リッターシュピースを用い牽制攻撃。タロスの退路を塞ぎ、遮蔽物を利用した防御行動の阻止を行う。
　行動制限を受けながらもタロスは槍を振るう。掠っただけでも粉々に砕かれそうな、恐ろしいまでの威力の乗った穂先を紙一重で回避し、スコールは接近仕様マニューバを起動。
　槍の真価を発揮させまいとタロスの懐に飛び込んだ。
　ならば、と石突での打撃で迎え撃とうとしたタロスの動きを、アルヴァイムの放った真デアボリングコレダーの電撃が停止させる。
「ぬぅ！！？」
「根性見せろ相棒ーー！」
　機体内蔵『雪村』。ムラサメの腕から高出力のエネルギーが噴出する。
　刹那の勝負。
「うぉぉぉぉぉぉ！！　せいやーーー！！！」


　単純な武力勝負であれば、ビッグゴールドに分があった。
　だが、仲間の援護を得、若々しい気概に満ちたスコールに軍配が上がった。

「‥‥小僧、精進せいよ」
　ムラサメを突き飛ばした直後、金色のタロスは各所から爆発を起こし、炎を吹き上げ崩れ落ちていった。
　その残骸、敗者を見下し美具は毅然と言い放つ。
「我らの意思をしかと見よ、バグア」



●
　かくして、高崎新町での戦闘は終了した。
　市街地のキメラもUPC軍の手によって排除が完了し、当地の解放は成就した。

　戦の後、散った二機の残骸から赤い月へと向かって細く立ち上る黒煙。
　それを目で追いながら、スコールは敵への敬意、友情にも似た感情を敬礼といった形で示していた。
「‥‥楽しかったぜ、大将。いつかあの世でな」


　機体から降りた悠季は仲間と視線を合わせようともせず、迎えに来た高速移動艇へと足早に向かう。
「まって、ももちー」
　引きとめようとした銀子の腕を邪険に払いのけ、吐き捨て、当り散らすように叫ぶ。
「どうせ先走り過ぎてるって言いたいんでしょ！　あんなの何か殲滅できてれば良いんだから！　だから一気に攻めたててあげたんじゃない、文句有る！」
「ガキみたいに騒いでんじゃないわよ！？」
　菖蒲はそんな悠季の横っ面を思い切りひっぱたいた。側に夫であるアルヴァイムがいたがお構いなしに。
　苛立ちの上にあればただの暴力でしかないが、菖蒲の行動は親友の身を案じてのものであった。それ故に銀子は止めずにいた。「止めるなら旦那が居るでしょ」とアルヴァイムに聞こえる様に呟きつつ。
「‥‥私が親友のそんな姿見て、黙ってると思うか」
　心のどこかで修正を求めていた悠季は叱責を受け入れ、打たれて赤くなった頬を手で覆い俯く。瞳に涙が溜まる。
　そんな悠季を菖蒲は何も言わず抱きしめた。
「ごめんなさい‥‥ごめ‥なさ‥‥」
　謝罪を繰り返しながら、堰が切れたように号泣する悠季の背中を菖蒲は優しく撫で慰める。
「‥‥今後、目に見える範囲での無茶はさせませんよ」
　アルヴァイムは穏やかに諭すように妻へと語りかけた。


　撤収の前に挨拶だけでも、とスコールはUPCと傭兵の仲介役を勤めていた上小泉の姿を探していた。
「あの旦那はどうしたんだい？」
　スコールの問いに初老の兵士は一瞬、目を泳がせた後に瞑目し、淡々とした低い声で告げた。
「上小泉中尉は、帰還しておりません」