タイトル:その日、どこかでマスター:敦賀イコ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/11/01 10:02

●オープニング本文



 宇宙にてバグアとの決戦が開始されたと発表があってから、幾日が経った頃だろうか。
 就寝中にふと目を覚まし、何気なく窓の外に目をやれば、夜空を切り裂いて飛ぶ、おびただしい数の光があった。
 寝具から身を起こし、上着を手に外へと出た老翁は、明け行く東の空に次々と燃えては尽きる星々の姿を見上げ、長く続いた一つの時代が終わったということを悟った。


 やがて日が昇り、溢れんばかりの光が薄暗闇を放逐する。
 老翁は一度、住居にしている社務所へと戻り、きちんと身支度を整えると、その手に竹箒を持ち、ライフワークとなっている境内の掃除に取りかかった。
 お供として腰にぶら下げた携帯型ラジオからは、地域FM局のアナウンサーの興奮した声色が流れ、人類の勝利を繰り返し伝えている。

 戦争が終わった。
 誰もが待ち望み、ようやく訪れた区切り。

 ただ、彼の日常と彼を取り巻く世界にはそこまで大きな変化はなく。

 河川を見下ろす山の中腹にある神社。
 街のシンボルとして愛され続けている場所の管理を請け負っている老翁にとって、終戦や勝利はどこか遠い場所での出来事であった。
 それよりは秋を迎え無遠慮に次々と葉を落とす広葉樹の後始末の方が、現実的な問題として老翁の目の前にあったのだ。
 それでも、生命や生活が脅かされる、不安を煽るサイレンの音とともに避難所に逃げ込むことがなくなる、そのことはとても喜ばしいことに思えた。
 心なしか普段より身体が軽く感じた老翁は、年がいなくはしゃいでいる己の心中をそっと笑う。

 そこへと、毎朝に神社の石段を登ることを日課としている老婦人がやってきた。
 老婦人は今日も、いつものように自分が歩いてきた道のりを振り返り、見下ろす街の景色と河川の光景に満足そうに頷いた。

 老翁と老婆は、おはようと変わりない挨拶を交わし、世間話を始める。
「ついに終わったねぇ」
「終わりましたねぇ」
「ずいぶんと長かったけど、本当に終わったんだねぇ。まーず、わしらが生きてるうちに終わってよかったよ」
「本当にねぇ。ウチなんて孫が兵隊になるって聞かなかったけど、これで一安心ですよ」
 他愛ない話の後、ぽつりと訪れた沈黙。
 強く香る金木犀の香気とともに清廉な空気を肺に吸い込む。
 そして、雲ひとつない青空を、過去ずっと変わることなく、そして、未来永劫変わることもないだろう青空を見上げ、二人はしみじみと噛み締めるようにつぶやいた。


「終わったんだねぇ」
「終わりましたねぇ」



●参加者一覧

寿 源次(ga3427
30歳・♂・ST
ラルス・フェルセン(ga5133
30歳・♂・PN
瑞姫・イェーガー(ga9347
23歳・♀・AA
イスル・イェーガー(gb0925
21歳・♂・JG
最上 空(gb3976
10歳・♀・EP
相賀翡翠(gb6789
21歳・♂・JG
ジェーン・ドゥ(gb8754
24歳・♀・SN
村雨 紫狼(gc7632
27歳・♂・AA

●リプレイ本文



●Nobody Knows
 ジェーン・ドゥ(gb8754)は、通い慣れた酒場に羽を休めていた。
 照明の抑えられた店内、カウンター越しに広がる夜景をひとり楽しみながら、手の中にあるグラスを弄ぶ。
 そうして思いを馳せるのは。今までとこれから。
「あーあ、私のしてきたことって、何だったのかな」
 埋め込まれたエミタに目を落とし、吐息と共に零す。
「‥‥憧れたあの人。帽子かぶった粋な人‥‥。側にいることも出来なかったけど、あの出会いは、意味のあるものだったと思う」
 過去の一つの出会いこそが自分にとって意味のあるものだった。それを再認識し、顔を上げた。
「これから、これからを考えなきゃね。無くした名前を戻して、もう一度あっちの仕事をしても、いいかもね」
 自分を励ますように、ことさら明るい声色を作り、先を考える。
 モデルの仕事に戻るのであれば、過去に捨てた名前をもう一度名乗ってみようか。
「過去に浸るより、未来に向けて、進むだけよ」
 自ら『匿名』と名乗り、歩んできた彼女。
 進む未来がどうなるのか、『誰も知らない』



●空に祈る
 ラストホープの一角にこじんまりとした紅茶の専門店がある。
 各国から仕入れた様々な茶葉が揃う店の片隅には、3人座ればいっぱいの小さなカウンターが備えられており、そこで新ブレンドの試飲や、好みの紅茶を頼み、店主とゆったり会話する。
 ラルス・フェルセン(ga5133)にとって、ささやかな幸せの時間を過ごせる場所であった。

 その場所にて、ラルスは少女と出会った。
 彼女は偶にカンパネラ学園の制服を着ており、それで能力者と知れた。
「時々ー、お会いしますね〜。君もー、傭兵ですか〜?」
 幾度目かの出会いの際、何気なく声をかけたラルスに、少女は穏やかな微笑みとともにその名を告げた。
──春に咲く花の名前。
 日本語には詳しくないが、ラルスは少女に良く似合う名だと、何となく感じたのを覚えていた。

 やや久方ぶりにラルスは店を訪れた。
 静かに、落ち着いた店内。顔なじみの店主はカウンターへとラルスを迎える。
「ご主人ー、新しいブレンドをー、頂けませんか〜」
 シンプルな白磁のカップに注がれた紅茶。
 紅の水面からふわりと昇りたつ湯気を眺め、ふと、空いたままの席を見て思う。
(‥‥もう、彼女はいないのですね)
 少女はバグアとの決戦で、味方を庇って戦死したという。
 よく知っている訳ではないが、彼女らしい最期だとラルスは思った。
 宇宙にて繰り広げられた激戦。遺骨も何も残らなかっただろう。
 遺された家族の哀しみはいかばかりかと胸が痛む。
「‥‥寂しい、ですよね〜。二度とー、お会い、出来ないのは〜」

 静かすぎるひとときを過ごし、店を出たラルスは頭上に広がる空を見上げた。
 この地球をとりまく空を、少女は包んでいるのだろうか。
 自分の生を追い越して逝ってしまった少女。
 その眠りが安らかであらんことを、ラルスはそっと祈った。



●家族
 イスル・イェーガー(gb0925)は相棒である、瑞姫・イェーガー(ga9347)と共に各地を巡っていた。
 自分がこれから出来ること、やりたいと思うことも山ほどあり、何から手をつけて良いのか、見当もつかなかったが、瑞姫と共にこれまでを振り返り、そして、自分たちが次にすべきことを考えようとしていた。

 まず、二人は山間の寒村を訪れた。
 強化人間をヨリシロとしたバグアと能力者が対峙した現場。
 もう何も残っていない現場に佇み、瑞姫は静かに呟く。
「戦争が、終結したので報告に来ました」
 かつて、辛苦に苛まれ『生に絶望した人間』を殺していった強化人間と瑞姫は対決した。
「私は今でも許せない。確かに悲惨な暮らしをしている人達も居るけれど。きっと、それでも幸せを、見いだしていた人も居たはずだから。これからまた人間同士の争いが始まるだろうけど」
 一度言葉を区切り、イスルの腕に縋りながら、強く言い切る。
「私は、人間に絶望しないから」
 イスルは瑞姫のそっと手を握り、支えるように応えた。
「‥答えが出せたなら。それでいいと思うよ‥。人はいつだって、自分が選ぶ道のソレを探しているんだから」

 次に二人は、瑞姫の母親の墓前を訪れた。そこで瑞姫は亡き母に人類の勝利を報告し、夫と孫を紹介する。
「‥はじめまして‥。こんにちわ」
 イスルは小さく笑みを浮かべ、静かに頭を下げた。
「‥今度から僕もここに来るときは、ただいまと言っていいのかな‥?」
 そして、瑞姫に小さく問いかける。
 イスルの故郷には、彼の家も両親の墓も既に残されていないため、これからはここを自分の故郷としてもよいのかと。
 勿論、と瑞姫は笑顔で頷いた。

 最後に瑞姫の実家、彼女の父親が経営する町工場へと訪れたが、工場の事で揉め、早々に父親と喧嘩を始めてしまった瑞姫。
 剣呑な空気が場を包むが
「あっ‥‥、歩いてる。とっ、父さん写真、イスル、デジカメとか無い!?」
 よちよちと歩き始めた子の姿に一変。カメラというカメラを集めた撮影会が始まった。
 やがて、落ち着きを取り戻した瑞姫はばつが悪そうに苦笑する。
「イスル、ありがとう。ごめんね、大人げないところ見せちゃってさ」
「‥いいんじゃないかな?いっぱい話して、いっぱい怒りあって、いっぱいお互い知り合えば‥今はせっかく時間が出来たんだ」
 どんな自分でもありのままに受け入れ、包容してくれる相棒の言葉に、瑞姫は支えられ、そして、孫をあやす父親と向き合い、真摯に想いを伝えた。
「ここで、暮らしていきたいんだ。ここがどんなに大切か思い知ったから」
 父親は答えの代わりに茶封筒を瑞姫に渡す。
「これって、まさか‥‥権利書だよね。父さん、ありがとうございます」
「良かったね、瑞姫」
「うん。平和がいつまで続くのか不安だけど‥‥我が子、いえ孫の代まで続いて欲しい。だから」
 守ってみせる。
 瑞姫は決意し、大切な家族へと微笑みかけた。



●信念
 村雨 紫狼(gc7632)は宇宙岩礁の一つを訪れた。
 岩礁に危険性は無かったが、バグアが細工したものであったため、爆破処理が確定している。
 その最終調査、という名目を取り付け、紫狼は岩礁へと降り立った。

 かつて、彼はそこで風変わりなバグアを討伐した。
 些か苦い結末を迎えたが。

「俺は貴方の言葉を忘れない、死ぬ瞬間までな。泥をすすってでも、俺は信念を貫き人々を守る」
 決戦に人類は勝利した。だが、完全な平穏にはまだ遠い。
 バグアの残党は依然脅威として存在している。
(だが、彼らも同じこの宇宙の命。例え憎い敵であっても、俺が守りたい人々の命と、なんら変わらないたった一つの命だ)
「それでも、倒さなければならない」
 拳を握り、両の脚でしっかりと地面を踏みしめる。
「‥‥能力者もいつまで必要とされるか分からないがな」
 力を持つ者と持たない者の軋轢は、近い将来に起こるだろうと紫狼は予感していた。また、バグアへの復讐心を捨てられないまま、晴れない憎しみを募らせる能力者の暴走もあるだろうと。
「それでも俺は」
 覚醒を行い、炎を纏う仮面の騎士へと姿を変える。
「俺は、恐怖を生み出す者の敵、そして、抗う術無き人類の味方、ただの、正義のヒーローさ」
 自分に言い聞かせるように言葉を紡ぎ、
「この刃、この命はその為のものだ‥‥じゃあな、あばよダチ公!」

 立ち去る紫狼を白い影が見送り
『信念は免罪符に非ず。他者の理解と共感を得られなければ、それは独善と身勝手だ。ゆめゆめ、忘れるな──バグアの二の舞にならないように』
 消えた。



●午睡
「終わった、んだよなぁ」
 昼下がりの公園にて、寿 源次(ga3427)は快晴の空を見上げ、しみじみと呟いた。
 今まで、我が物顔で空に居座っていた赤い月、バグア本星はもうどこにも見当たらない。
 制御惑星破壊、という今から思えばとんでもないことを成し遂げてしまった人類。
「人間やれば出来てしまうモンなんだな」
 バグアの警戒も尤もだと、そんな作戦任務に志願した自分も自分だが、と、感慨と呆れとが入り混じって、困ったように眉根を下げて笑った。

「終わった、んだがなぁ」
 自販機で飲み物を買い求め、手近なベンチによいこらしょ、と腰を下ろした源次は、思い当たった危惧に表情を硬くする。
 異星人は退けたが、それで地球人類同士での諍いが収まったわけではない。
『わかりやすい敵』がいなくなったがために、その矛先が何処へと向かうのか。予断は許されない状況ではないのか。
(能力者はその力を持て余すぞ、大佐)
 だが、未だバグアの脅威は地球に残されおり、能力者・KVが必要とされる場面も多い。
 聞くところによれば、能力者向けの仕事の斡旋も始まるという。
(猶予期間はある。まだ、大丈夫、か)

 手にしていた缶の中身を飲み干し、ぐ、と伸びをする。
 無意識に強張らせていた身体が解れ、背筋が控えめに音を鳴らす。
 うー、とも、あー、ともつかない呻きと共に、身体を脱力させ、ごろりとベンチに横になる。

 刷毛で掃いたような薄雲の浮かぶ秋の空を見上げ、源次はぼんやりとグリーンランドへ行こうかと思いついた。
 かつて、強烈な個性と生き様を見せ付けて逝った強化人間がいた。
 自分の中に、忘れようもない記憶を刻んで行った者への報告へ。
 望まれもしてないだろうし、そもそも自己満足でしかないが。
(互いに守りたい・譲れないモノがあった、自分等能力者とハーモニウムと、さて何が違ったのか。アレは能力者の一つの未来だったのではないか)
 そもそもエミタとは、とまで考えた源次の口から、ふぁ、と欠伸が漏れる。
 昼下がりの日差しと温もりに、睡魔が忍び寄ってきていた。
(‥‥ま、せめて今この時くらいは。のんびりと何も考えずに。この睡魔に負けておきますか)
 ひと時の平和を享受し、源次は微睡に沈んで行った。



●変わるもの、変わらないもの
 激戦の舞台となった宇宙要塞カンパネラでは、昼夜を問わず修理と改修が行われ、ロズウェル・ガーサイド(以下ニートと呼称)は、ニートという立場、そして、断りきれない性格が災いし、馬車馬が哀れむ程の労働を強いられていた。

 この状況を小耳に挟んだ最上 空(gb3976)は危機感を抱き、そして考える。
 ニートの元に仕事が来なければ、自然にニートに戻り、地下室に逆戻りするのではないかと。
 空にとっては、ニートがニート返上しそうな程働くなんてとんでもないことなのだ。元のニートに戻す為に、彼女は迅速に行動を起こした。

 まずは自ら執筆したニート攻め、仕事を依頼した男性へとニートが報酬代わりに関係を迫ると言う内容の、年齢制限無しのライトBL本(にーと☆テクニック)を腐っている女性陣に無料配布。
 文芸部の自称エースも一噛みし、密かに、かつ、局地的にではあるが、ニート攻めというジャンルが発生し盛り上がりを見せ、それと同時に、ニートに仕事を頼んだり、割り振ったりすると、腐っている女性陣にネタにされると言う噂が発生していった。

 そんな水面下の様子を露知らず、相賀翡翠(gb6789)はニートへと差し入れを届けにカンパネラを訪れる。
 新しい生活を始める前に、友人に挨拶をしておきたい。そういう心境もあった。
「よう、久しぶり。生きてっか?」
「一応‥‥」
「あーあ‥‥相変わらずの扱いか」
 長椅子にぐったりと腰掛け、のろのろと片手を上げて答えるニートに苦笑いしつつ
「ま、何をするにも栄養が大事、だろ」
 翡翠はランチジャーから、卵焼き、唐揚げなどの定番おかず弁当、温野菜サラダとニートの好物であるエンパナーダを取り出し並べる。
「味は保証するから、心配すんな」
 丁度昼時、料理上手である翡翠の手料理を前にして、ニートの腹が盛大な音を立てた。
「翡翠兄さんありがとう! いただきます!」
 遠慮なしに差し入れを食べ始めるニートに、こんだけ食欲があればまだ大丈夫だな。と、笑いかけ、翡翠は水筒に入れいてた温かい野菜スープをカップに注ぎ手渡す。
「そういや、これからどうすんだ? まだ落ち着きそうにないんだろうけどな」
 スープを啜りながら曖昧に首を傾げるニート。
「俺は、整理がついたら日本に帰る。おふくろんトコ帰ってやんねぇと」
 戦闘を離れ、新たな『日常』に生きることを決めた翡翠。
「肝は据わってっけど、一人にしとけねぇし、それに、帰ったら傭兵で稼いだ金で家族で喫茶店やる事になってんだ。俺がシェフで兄貴が経理、おふくろ達が接客やるんだって張り切ってんだ」
 照れくさそうに笑いながらも、そこには覚悟と決意が表れていた。
「‥‥ニートに会うのは、これが最後かもな。援軍行ったり、コスプレしたり、いろいろだったが、今となっては楽しかった。日本に来る事があったら寄ってくれよ。サービスしてやっから」
「記憶から抹消して欲しい部分もあるが、お前さんには何かと世話になったよな。ま、なんだ、達者でな」
 万感の思いと友情をこめて握手を交わす翡翠とニート。
 そこへと空がやって来る。
「男ばかりで、むさ苦しい所に、美幼女の空が降り立ちましたよ!」
 久しぶりに、ニートをいぢったり、弄んだり、色々して遊んだり、面白おかしく騒ごうと思います!との宣言に、翡翠は相変わらずだと笑みをこぼす。
「メロンパンやるから、そろそろ勘弁してやんな」
「ありがとうございます! では、今日のところは加減します」
 翡翠お手製のメロンパン(普通、チョコチップ、メロンクリームの3種)に上機嫌となった空は、早速かぶりつき舌鼓を打つ。
「メカメロン思い出してメロンパン焼いてきて良かったなぁ。あれ、どうなったんだ?」
「学園に置いてきた。アレも含め、時期が来たらどうすっか考えねぇとな」
 再び、しんみりとなる空気を空が吹き飛ばした。
「ニートさん、今の内に言っておきます、強く生きて下さいね!」
「ん? 何そのいきなりの処刑宣言」
 そういえば、と翡翠はニートの居場所を尋ねた際に、女性職員から手渡された小冊子を取り出す。表紙には『にーと☆テクニック』の印字。
 薄い本を開いた翡翠、それを覗き込んだニートの顔がみるみるうちに青ざめる。
「ざっとxx部程ばら撒きましたが、布教は順調のようですね!」
 空は満面の笑顔と共にサムズアップ。
「ニートを返上するなら、この程度の困難軽く乗り越えてくれますよね♪」
「テメェの血は何色だぁぁぁ!?!」
 相変わらず、というより何やらスケールアップしているニートいじりに、翡翠は腹を抱えて爆笑する。
「ああ、そうだ。物整理してたら出てきたんだ。これで乗り切れよ」
 笑いすぎて目じりに浮かんだ涙を拭い、ニートの煤けた背中を労わる様に叩きながら『ジョンブレストの胃薬』を手渡した。
「‥‥ありがとよ‥」
 口から魂的なものがズルリと抜け出したかのようなニートの様に、翡翠は更に噴出した。





 その日、世界のどこかで、人は人として生き、未来へと歩んで行く