タイトル:metal ogresマスター:長南二郎

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/17 00:33

●オープニング本文


 その日は朝からULTの斡旋所に入り浸っていた。今思うと、そのこと自体がダメだったのかもしれない。
 僕はモニターを見上げながら、自分の能力とそれに見合った報酬の依頼を探していた。幾つかの依頼が目にとまり、後で吟味する為、それらを判り易く手帳にメモしていたときだった。
「なあ、聞いたか?」
 完全な不意打ちであった。後頭部のすぐ後ろから聞こえてきたその声に僕は驚声を挙げ、何事かと後ろを振り向く。
 そこに居たのは、いつも与太話ばかりを僕に持ちかけてくる友人であった。彼はいつものとおりのにやけ顔に紙コップ入りのコーヒーを持ちながら、近くにあったベンチへと僕を手招きする。
「聞いたって、何を?」
 僕は胸に手を当て、混乱と焦りの両方を静めるために一つ大きく息を吐いた。
「あ、やっぱ知らねーの?」
 そういうと彼はコップのコーヒーをグビと飲み込んだ。僕は嫌な予感がしていた。
 彼とは長い付き合いになるが、こういうときは決まってろくな事が起きない。
「なんか変なキメラが出たらしいぜ」
 やっぱりだ。こちらに来てから幾度目かのその話の種に、僕は無意識に嘆息した。
「変なって、どんな」
 そう呟きながら僕はどんな話題が出てきてもそれをいなす心構えをしておきながら視線を窓の外に逸らす。
 しかし、今日は違っていた。
「鬼、だってよ」
「‥‥鬼?」
 その単語に僕は彼のほうへと向き直った。その顔は至極冷静な雰囲気を持っている。
 珍しく今日はまじめな話を持ってきたのかと思ったが、よく考えると、その会話の流れにどこか引っかかるところがあった。
「鬼って、あの鬼か? それのどこが変なん‥‥」
 僕はしまったと思った。彼の顔が見る見るうちにいつもの顔に戻ってゆく。
「聞くか?」
 その時、今日の僕の昼からの予定が決まった。

 実に笑えない話だ。
 小一時間ほどその他のろくでも無い話の中に織り交ぜられたそれは、いくら有形無形のバグアの話としても、あまりにも馬鹿なものだった。

「は‥‥?」
「だから、本当だって。体に金粉を塗ってんだよ。んで、河川敷に潜んでて液体の金粉をぶっ掛けてくる」
 僕はすぐにでも席を起ちたくなった。
 一言でいうとありえない。ジョークにしてもシュールすぎて笑いどころか疑問符が出る。
「そんなの、ただの変人じゃないか」
 僕は率直な感想を述べた。しかし、彼は予想通りというようなしたり顔を作る。
「それがな、残念なことにFFが確認されたんだと。いくらヒトでも、FFを張れるまでのレベルのヒトはいない。だろ?」
「‥‥」
 僕はその言葉の意味が解らなかった――いや、理解しなくていいと思った。
「で、何で『鬼』なの?」
「鬼ごっこを仕掛けてくるから」
「‥‥‥‥」
 暫しの沈黙。
 そこまで来て、僕はようやく席を起つ決意をした。

「何だよそれ‥‥」
 またか、というのが正直なところだ。
 僕は直前まで行っていた依頼探しのことも忘れ、気がつくとULT斡旋所を後にしかけている。
 第一、先程まで見ていたモニターにはそんな呆けた文字は躍ってはいなかったし、態々それを再び確認するような気力も僕には残っていない。
 今回のような彼のそれも、もう自分としては慣れてしまっていた。
 だから、お互い明日には笑い話で済まされる。その筈だった。
「‥‥?」
 なんだか背後が騒がしい。
 それは、難題依頼が写し出されたときの類の物とは明らかに違う、異質なものだった。
 時折聞こえてくる失笑めいた声が、それを物語っている。
「まさか‥‥」
 どこからか彼の笑い声が聞こえた気がして、僕はただ、それにつられて笑うしかなかった。

●参加者一覧

ハルカ(ga0640
19歳・♀・PN
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
クロスエリア(gb0356
26歳・♀・EP
八葉 白雪(gb2228
20歳・♀・AA
森居 夏葉(gb3755
25歳・♀・EP
黒羽 空(gb4248
13歳・♀・FC
フィルト=リンク(gb5706
23歳・♀・HD
御守 剣清(gb6210
27歳・♂・PN

●リプレイ本文

● 一
「随分とケッタイなキメラが出て来たもんだなぁ‥‥ま、迷惑なことには変わりはないか‥‥さっさと退治しちまおう」
 開口一番、御守 剣清(gb6210)は呆れたように嘆息する。
 8名の傭兵は、そのヒトに対してどういう被害をもたらすのか判りづらい敵に対し、その思いも様々であった。
「キメラ退治って聞いてたけど、鬼ごっこだったのだ。よく解んないけど、頑張るぞ〜」
 グラビアアイドルも仕事の一環としてこなすハルカ(ga0640)の姿は、まだ初夏だというのに既に白のビキニであった。尤も、それは敵の箔攻撃への配慮の為である。事実、森居 夏葉(gb3755)のように、彼らの中にもそうした対策をとっている傭兵も複数名居た。
 しかし、ただ単に討伐を目的としている訳ではない顔ぶれもちらほら。
「金箔かぁ‥‥、手に入れて売り払えば大儲けだな〜♪ っと、キメラ退治だよな、うん。でもキメラ退治の副産物を有効利用するのは別に悪くないよな!」
 普段は赤い瞳の黒羽 空(gb4248)の眼は、何故か今日はやや山吹掛かっていた。何だか足取りも軽い。
「桃太郎も鬼を倒して財宝を奪い取った。つまり、鬼から宝を奪っても合法ってことだよな!」
 その昔話を喩えとした動機は言いえて妙である。しかし、放って置いたらポワポワと何処かへ飛んでいってしまいそうな空へとフィルト=リンク(gb5706)が近付く。
 ‥‥お、なだめてくれるのかな?
「バケツ一杯の金箔ですか‥‥遊技場のメダル、何枚分でしょう」
 あら、ダメだ。
「ふふふ‥‥。鬼ごっこね。楽しませてもらうから」
(‥‥般若の面かぶってるとどっちが鬼だかわからないね)
「失礼ね!」
 その身に二つの魂を宿す白雪(gb2228)。白銀の髪と相反するような赤い瞳は姉・真白の現出を意味している。
「――敵は、前にいるのではない。心の中に居るのだよ。さあ、油断せずにいこう。――後は私に任せておけばいい」
 どんな時と場であってもダンディズムを貫き通すUNKNOWN(ga4276)。そのコートが今日は肉襦袢を詰めたように膨らんでいるのは気にしない。
「なんか皆さん気合の入り方が違う‥‥てか、気合の入ってる方向が違くないですか?」
 剣清が他の7名に対し冷静に突っ込む。しかしそれを耳に入れるものはその場に居なかった。
 ‥‥負けるな、剣清!
 しかし、とにもかくにも8名は噂の河川敷へと到達したのだった。

● 二
「皆さん、滑るので気をつけてくださいね」
 フィルトが川原に降り立った全員に注意を促す。その背後からクロスエリア(gb0356)が呟いた。
「わ〜‥‥、キラキラっていうより、テカテカって感じだね。む、あの金のバケツ、ちょっと欲しいかも」
 人型で体に金箔を塗り鬼ごっこを仕掛けてくるというキメラを見てみたかったという参加動機を持つ彼女であったが、実際に目にしてみるとその異様さに呆気に取られてしまった。
「にしても‥‥何か、ボディービルダーみたいだね」
 傭兵達が到着するや否や、雑草の繁る一角からヒョコっと姿を現した計6体の鬼達は皆筋骨隆々としており、そのどれもが自らの肉体を箔によって彩らせていた。
 まるで何かの大会かと目紛う様なそれらは、ただでさえ目に毒な上、陽の光をあらぬ捻じ曲げ方で此方に反射させていた。
 そんな今回の敵に真白の堪忍袋は既にパンパンに膨れ上がっている。
「‥‥構いません。早く終わらせましょう」
 その耳に白雪の声はもう届きそうに無かった。姉の気負いに対して吐いた白雪の溜息が真白の深い気息となって現れる。鬼達もそれに呼応するように、バケツの中に手を突っ込み、固まらないように液状化した箔をかき混ぜている。
 時間一杯。
「――さて」
 先ず動いたのはUNKNOWN。隠密潜行を発動し、自らの気配を消す。そのまま敵に気取られる事も無く手近な処に居た銅鬼へと接近、その足元を狙い銃弾を放つ。まるで警戒もしていなかった銅鬼は、銃声の方向を見るよりも先に自らの創に体勢を崩した。
 そして再びスコーピオンは啼く。今度は突然倒れた銅鬼に気を取られていた銀鬼の一体が、同じく足に弾を受けて大きくよろめいた。
「そこの鬼さん! 私が相手だぞっ!」
 次に出たのはハルカだ。その身軽さを生かし、文字通り跳ねるようにして銅鬼との距離を縮めてゆく。
「えい!」
 ボクシンググローブをはめた右手のジャブがクリーンヒット、すかさず攻勢に出ようとして銅鬼が辺りを見回すも、そこにはもう誰も居ない。
「こっちだよ〜。ぴょーん、ぴょーん」
 声のするほうを見ると、ハルカは既に十分な距離をとって逃げていた。思わず悔しそうに筋肉を振わせる銅鬼。しかし、次の瞬間、その身に一筋の清冷とした風のような戦慄が走る。
 真白だ。
「八葉流弐の型改‥‥鬼双葉」
 二段撃と両断剣を組み合わせたその技に、淡い朱が描く楕円の斬影の中に銅鬼は音も無いままに伏す。真白は錆刀となっていた血桜を一閃、その身についたものを振り落とす。
(わー‥‥すごいなー‥‥)
 目前の光景に白雪が思わず声を漏らした。しかし、その何処か皮肉を含んだような言葉は真白の琴線に触れたのか、その瞳の紅みがより鮮烈になる。
(じょ、冗談、冗談!)
 あわてて撤回する白雪。これでは敵わないと感じた彼女は暫くその所懐をひた隠すこととした。
「鬼さんこちら‥‥ってか」
 他方では剣清が銀鬼に対し円閃を発動。敢えて敵の注意を自らに惹き付ける事で味方の戦闘の有利化を図ろうとしている。銀鬼はその策にまんまと引っかかり、夏葉のクルメタルP‐38の照準が自らに向いている事など全く目に入っていなかった。
「ガラ空きね。‥‥やる気あるのかしら?」
 その射線には障害物もなく、放たれた弾は当然のように的中した。その、練習用の的を撃つかのような手ごたえの無さに、夏葉は思わず嘆息する。
「こっちです!!」
 フィルトも果敢に敵を欺こうとフィールドを駆けてゆく。
 しかし、鬼達も鬼達で、ある一定のラインを境に割って入ってくることは無かった。傭兵達が川を背に固まって陣取るため、自分達から攻撃してもあまり意味がない、と感じたのかもしれない。

● 三
「私が道を作ります。後は、頼みました、空さん、真白さん」
 殲滅班の真白、空、フィルトの三名がラインを超えて攻勢に出ようとしていた。危険さはあったが、個としての差は此方に大分有利と見、その上での作戦のつもりであった。
 だが、
「あいたっ!」
 フィルトは思わず声の方へ向き直る。そこには、どうやら転んでしまったのか、ハルカが腰を撫でながら呻いていた。
 これを機と見た金鬼と銀鬼が彼女へ接近する。
「ハルカさん、危ない!」
 リンドヴルムの出力を上げ、彼方へと向かわんとするフィルト。しかし、
「え‥‥?」
 その歩みはすぐに止まった。
 ハルカは此方に向けてポッと舌を出していた。
「隙あり〜、バチ〜ン!」
 最接近してきた銀鬼に対し、ハルカは渾身の右ストレートを見舞った。そして何事も無かったように立ち上がると、
「ウソだよ〜、ぴょーん、ぴょーん」
 と、これまでのように飛び跳ねるように敵との距離をとった。
(転ぶ‥‥フリ)
 フィルトの口からは自然と溜息がもれ出ていた。しかし、結果的に金鬼と銀鬼をより傭兵達が陣取る川原方面へと誘き寄せることとなった。
「その腕貰った! あとバケツも!」
 なんだかより瞳の色が黄色掛かってきた空の菫が円閃の威力をもって強力な打撃を与える。更に二連撃の発動も宣言。振りぬかれた菫を反すと、再び金鬼の腕に切りかかった。
「避けるなよ、バケツに傷がついちまう!」
 別にその令を聞いたわけではないが、空の執念の前に金鬼は身動きが取れず、刀を防ぐために構えていた左腕がその力をなくし、だらんと垂れ下がった。
「どれ――私も動こうか」
 目深に被ったボルサリーノの下から覗くその口元はまだ微笑を湛えていた。UNKNOWNは黒の烈風となって戦場を駆け、金鬼・銀鬼をそれぞれ確実に射撃する。再びの『銃声しか聞こえない』その攻撃に対し鬼達はなす術が無い。
 しかし、体に数発の傷を作りながらもしっかりとバケツをその腕の中に抱えている金鬼に対し、銀鬼はその攻撃の反動でバケツを放してしまった。
 その落下地点に居合わせたのは夏葉。
「わっ!?」
 弧を描いて飛んだバケツはゆっくりと半回転し、丁度夏葉の頭へスッポリと被さった。同時に、バケツに満ちていた銀箔が夏葉の身体を覆う。
「な、何なのコレ〜!?」
 ドロドロとしたそれはだんだんと足元から固まり始めていた。このまま放って置けば全身が固まってしまう。
「‥‥こうなったら」
 銀の像になってしまう前に、夏葉はその身に着けている上着を全て脱ぎ去ると水着姿となった。箔自体は服に付いており、その服さえ脱いでしまえば後は問題が無かった。
 その光景を目の端で捉えていた真白が猛然と金鬼に斬りかかる。再び鬼双葉は敵の血を得て咲くも、まだその動きを完全には押さえつけきれていない。
 反撃とばかりに金鬼が真白と空に向かってバケツを振り上げる。
「くっ‥‥」
「うわっぷ!」
 その箔をかろうじて蛇の目で防いだ真白であったが、その雅な文様は一面の金色によって覆い尽くされてしまった。畳もうとも振り払おうとも、金箔に包まれた傘はうんともすんとも言わない。
「‥‥折角の傘を‥‥。許さないからね」
 緒が切れる前に堪忍袋は破れた。一縷の冷冽とした風が辺りを抜けてゆく。怒りを滾らせるその姿は、まるで雪華の如く白き鬼火であった。

 一方。
(残念だったな。そんなもの固まる前に脱いじまえば‥‥)
 空も箔に対しての対策を講じようとしていた。しかし、どうも上手くいかない。
(ならっ! 固まる前にミネラルウォーターで洗い流せばどうだ!)
 コレも上手くいかない。
(おかしい。‥‥っていうか、何でさっきから両脇が「」じゃないの?)
 ‥‥どうやらまだ自らが既に固まっていることにお気づきで無い。
(‥‥!)

● 四
 空の声にならない悲鳴はフィールドを揺るがした。フィルトは自らが操るリンドヴルムのレスポンスの差で空を庇いきれなかった。
「くっ‥‥そんな」
 その顔に悔しさが滲む。
「待ってて、今行くから!」
 それに対し真っ先に応えたのはエリアだった。先手必勝を発動し、立ちはだかった銀鬼を薙ぎ払いながら彼女は進む。
 その想いは剣清も同じだった。
「退け‥‥急いでんだよ、オレは‥‥」
 空を陣地へ運び込むために群がる鬼達を円閃で斬り飛ばす。しかし、敵の予想以上のしぶとさにその歩をあまり進めることが出来ない。
 ただ、懇々と苛苛が募る。
「クソっ、いつまでも彼女をあんな恥ずかしい姿にしておくことは出来ないんだ!」
 剣清が吼える。
 こんなにも必死になる理由は、固まるだけではない、何かがあるから。
 ――黒の烈風。
「わっ、黒服さん?」
 ハルカが叫ぶ。川辺に居たUNKNOWNが何もかもをすり抜け、空の下へひた走る。途中、真白が何か眩しい光を感じたが、次の瞬間には二人は川の中に居た。
「さて――これでもう大丈夫だ」
 自らのコートの中からスポンジと石鹸を取り出し、ジャバジャバと空に付いた箔を洗い落とす。そしてコートから出てきたKVマントで空を包むと、手品師のようにそれを取り払った。
 そこには肩まで川の水に浸かった、元の姿の空が。
「くそっ、もう浴びないからなっ!」
 空は何事も無かったように川から這い上がった。その姿をUNKNOWNがじっと見つめる。
 水着姿である。
「む――」
「‥‥もしも〜し、UNKNOWNさん? どこを見てるのかなぁ?」
 UNKNOWNが暴走しないようにと後を追ってきたエリアが訝しげに尋ねる。額に手を当てながら微笑を漏らすUNKNOWNの後ろで川の中にプカプカとバニーの衣装らしきものが浮いているような気がしたが、まぁそんなのは気にしないほうがいいさ。

「全く‥‥」
 真白はその光景に思わず頭を抱えた。そこに、無防備な彼女へもう一度箔をかぶせようと金鬼が近付く。
 しかし。
「八葉流終の型‥‥八葉真白」
 投擲用小刀『幾禍絶』でその足を縫いつけた後、二段撃と流し斬りを組み合わせた攻撃が金鬼に飛ぶ。圧倒的な破壊力を以って揮われる剣に金鬼の肉体は耐えられなかった。
「あ‥‥バケツに穴開けちゃった」
 エリアの銃撃は、手を狙うが余りバケツに穴を開けてしまったがそのまま射撃を続行、銀鬼一体の撃破に成功した。
「わんつー、わんつー!」
 ハルカも続いて残っていた銀鬼にびしびしと攻撃を当ててゆく。
「行きます」
 夏葉も銀鬼に快刀「嵐真」を以って斬りかかる。
「あっ!」
 フィルトが思わず叫ぶ。前線が苦戦するのを確認し、陣地に居た鬼の金・銅コンビがその場を離れ、傭兵達との戦闘へと参加してきた。
 しかし、それが彼らにとって運の尽きであった。
「‥‥鬼ごっこもこれで終わり。悪いわね、本当の鬼だったのは私のほうみたいね」
 ノコノコとやってきたそのコンビに対し真白の剣が飛ぶ。終の言葉を表すように八葉真白の苛烈な剣を受け、最後に流し斬りと両断剣を以って技は閉じた。
 残るは銀鬼が一体。
「‥‥バケツは置いていきなさい」
 応龍の盾を構えながらじりじりと距離を詰めてゆくフィルト。しかし、銀鬼も懲りずに此方にバケツを向けている。
「ならば」
 フィルトは思い切り飛び出した。銀鬼は防御姿勢をとろうとするも、その上からフィルトに圧し掛かられてはどうしようもない。
「お、ホールドなのだ」
 再び跳ねるようにしてハルカが近付く。
 フィルトとタッチしたその腕が唸りをあげる。
 バチーン、バチーン、バチーン、バチーン。
 かん、かん、かーん。

● 五
「――何事もなくてよかった、な」
 服を乾かす間に作っていたスープを皆に配りながらUNKNOWNが呟いた。
 何本かの厳しい視線があったようだが、彼は紳士。
「‥‥写真、出しましょうね」
 しかし、エリアのこの突込みに対しては反応せずにはいられなかった。
「‥‥ところでお姉ちゃん、鬼って呼ばれる自覚あるんだね」
(はっはっは〜。いい加減にしないとグーで殴るわよ〜?)
 白雪に主を渡した筈の真白が右の拳を大きく振り上げた。
「河川敷に新しい名物銅像が出来なくて、ホントによかった‥‥」
 剣清もほっと胸を撫で下ろしている。
「さーって、何に使おうかなー♪」
 改めて空は金箔の詰まったバケツを手にその目を輝かせている。
 しかし。

 十分後。
「え〜〜!!」
 河川敷中に空の絶叫が木霊した。
 能力者の動きをも止めてしまうその液状の箔を未来科学研究所が研究材料にしたいということで全て持ち帰ってしまったのだ。
「そんなのねぇ〜〜!!」
 結局、傭兵達は金箔を手に入れることは出来なかったものの、平和維持に貢献したという意味で報酬に少し色をつけてもらうことで何とか事態は収まった、らしいとさ。