タイトル:【JB】傭兵結婚式マスター:文月猫

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 2 人
リプレイ完成日時:
2009/07/13 02:22

●オープニング本文


 太平洋上の無人島は、多くの手により急ピッチで調査が進んでいた。仲間達が幸せな結婚式を行う、そのための準備だと思えばやる気も増そうと言う物だ。
「ふむ。思ったよりも快適な場所のようだ。これならば、心に残る祝典が行えるだろうな」
 報告を聞いたカプロイア伯爵は、満足げに頷く。北側に見つかった入り江は遠浅で、泳ぎにも向いていた。海岸で迎えてくれる南国風の植生は明るく、当日の気分を盛り上げてくれるだろう。島中央の静かな湖畔は、ムードのある式を行いたいカップルにうってつけ、だ。
「島内の安全はまだ確認中です。崖などの危険な場所も調査中ですが‥‥」
 手付かずの森や海が見える草原といった安全そうな地点でも、キメラが見つかっている。とはいえ、花の咲き乱れる一角などは、安全さえ確保できればロマンチックな一日に文字通り華を添えそうだ。
「崖には、洞窟のような場所もあるそうだね」
「はい。危険があるかどうか、そちらも報告待ちとなっています」
 執事は、そう淡々と続ける。
「安全確認が終わったら、次の段階へ進もうか。そろそろ、人や物を動かさないとね」
 まだ空白の目立つ地図を、伯爵は楽しげに見た。

☆☆☆☆☆☆

 傭兵達に、「招待状」が届けられたのは、それからまもなくのことであった。そこには、式の日取り、時間、場所が書かれていた。そんな中、新郎新婦と極親しい一部傭兵たちには、通常の招待状とは別に1枚のお願いが同封されていた。
「みんなに、披露宴の演出をお願いしたいんですけど」
 たしかに、式場といっても建物こそあるものの、コーディネーターがいるわけでもないので、式次第の演出は自分たちでやらなければならない。そこで、仲間の傭兵達に、協力の依頼が来たわけだ。むろん、そういうことなら喜んでお手伝いしたいと思う傭兵や、先を越されたか、と忸怩たる思いの傭兵もいるわけで。そんなさまざまな思いが交錯する中、式の日取りは近づいていった。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
水葉・優樹(ga8184
23歳・♂・DF
百地・悠季(ga8270
20歳・♀・ER
紅 アリカ(ga8708
24歳・♀・AA
ジェイ・ガーランド(ga9899
24歳・♂・JG
橘川 海(gb4179
18歳・♀・HD
ソフィリア・エクセル(gb4220
19歳・♀・SF
篠塚 志宇(gb4791
19歳・♀・FT

●リプレイ本文


「汝は、この女‥‥を生涯の伴侶とし‥‥」

「汝は、この男‥‥を生涯の伴侶とし‥‥」

 伯爵様が立ててくれたくだんのホテル風施設。その中にある、簡素ながら挙式をやるには十分のチャペル。今、ここでジューンブライドの名前にふさわしい、一大イベントが行われようとしていた。
 そのメインイベントとなる結婚式を取り仕切るのは、さる人物の尽力により、わざわざ無人島まで出向いてくれた、一人の年老いた神父様。そんな方であっても、今回のような結婚式を執り行うのは長い神父生活でも初かも知れなかった‥‥。そう、それは4組もの傭兵達の『合同結婚式』であった。
 場所と時間の関係で、バラバラに式を挙げることが難しいとの理由で、今回4組8人の新郎新婦が、この場に臨んだわけである。彼らはこの無人島での挙式の情報を得るや、直ちに正式な結婚の準備に取り掛かったのであろうか。すでに結婚間近だった彼らにとって、今回は絶好の機会だったわけである。
 そんな8人が全員集まれば、いくらそれなりのチャペルだといっても、どこか窮屈になってしまうのはいたし方ないことか。緊張気味に見える8人。これからの人生についていろいろと思いをめぐらしているようで。


 新婦控え室は、式当日の朝早い時間からザワザワと騒がしかった。花嫁のメイクやヘアーセットには大変な手間と時間がかかるからだ。ましてや4人分である。

「さあ。がんばらないと。4人分ですからね」

 と気合を入れるソフィリア・エクセル(gb4220)。ヘアーセット道具一式をそろえ、今日は新婦のヘアーセット担当として張り切るつもりのようだ。さすがに一人では無理と思ったのか、式場側でお手伝いのスタッフとしてプロの美容師も用意してくれた。

「なんといっても、一生に一度の晴れ舞台ですからね」

 と4人の新婦を横に並べるような形で、手早くヘアーセットを行う様は、手馴れた美容師のようでもあり。
 百地・悠季(ga8270)には、セミロング髪型に透明感のあるベールプラスティアラでゴージャスな印象を、紅 アリカ(ga8708)には、その自慢の黒髪を強調し、かつ純白のウェディングドレスがよく映えるようなシンプルなデザインを、クラリッサ・メディスン(ga0853)には、カサブランカがアクセントのキャスケード・ブーケが似合うようゴージャスにまとめ、篠塚 志宇(gb4791)には、ドレスは純白のマーメイドラインがよくひきたつような清楚&控えめな髪型と、それぞれに特徴的なデザインをほどこし、そのできに満足そうな表情を浮かべる。その篠塚がかぶるブーケは仲間の傭兵達がこの日のために手作りしてくれたもの。
 すったもんだしつつもどうにか時間に間に合うようにヘアセットは無事終了したのである。

「さて、これでOKね。さあ、まだ次の仕事が」

 とばかり、今度はライスシャワーの準備にとりかかるその姿は、まるで主役を食ってしまいそうな活躍ぶりである。そんな彼女が献身的なのは、どうやら来年自分が本番を行う際に、仲人候補として今回の4組をゲットしておきたいが為ということは内緒。


 かたや、式開始前の新郎控え室。こちらは新婦ほどではないが、スタッフがテキパキと身支度を手伝う中、新郎4人が雑談中。神主の家の者が教会で結婚式を挙げることに苦笑いしつつ、新婦の幸せを願う白のタキシードに身を包む榊兵衛(ga0388)。
 3日もの間、この日にそなえ欲望や煩悩を絶ってきたというアルヴァイム(ga5051)も、白のタキシードで決めている。胸元の白いハンカチが印象的である。
 やっと、実感がわいてきたという風に見える水葉・優樹(ga8184)。タキシードがよく似合う彼は、なんと自分の誕生日であるその日に結婚式をあげるのだという。
 そして、今日が人生最大のイベントだと大いに盛り上がる、ジェイ・ガーランド(ga9899)は自慢のポニーテールを下ろした髪をかき上げながら満足そうである‥‥。
 楽しそうに控え室で談笑する新郎たち。部屋には、仲間の傭兵たちや知り合いから贈られたのであろう、祝電や祝いの品物が雑然とならべられていた‥‥。と、ドアをノックする音。式場の係員が、式の準備ができたことを伝える。あわただしく席を立つ新郎たち。晴れて結ばれる新婦の華やかな姿に思いをやりながら部屋の外に向かう。その顔は全員にこやかであった。


 式場へと向かう4組8人の傭兵たち。まずは、髪型をきちんと整えた榊とAラインのウェディングドレスに身を包んだクラリッサのペア。その指には、以前婚約の証として送られた連理の枝が燦然と輝いていた。この日を神に感謝するクラリッサ。
 続いて、新婦から送られたアクセをさりげなく身に着け、神妙に歩くアルヴァイムと白薔薇とアマゾンリリーのキャスケードブーケが鮮やかな、この日を待ち望んでいたという百地のペア。アルヴァイムは過去の自分自身を顧りみるとき、まるでそこにいるのが自分では無い様に思えていた。変われるのだな、人は‥‥。そんな思いであろうか。
 3組目は新婦の美しさに改めて、自分が選んだ伴侶は間違っていなかったと確信する水葉と、その伴侶たるウェディングケーキ手作りで参加のお菓子好きな篠塚。新郎をしっかりささえるように歩く。
 で最後は、長身のジェイと、決して小柄ではないのだが新郎と並ぶと小柄にみえる、紅。緊張しているのか、ジェイの足取りはかすかに震え気味で。歩幅が違うので、歩きにくそうにも見える。
 通常よりはるかに長い隊列がチャペルへと歩んでいく様は、めったに見られない光景であり、さらに華やかさを醸しだしていた。ソフィリアが自信をもってコーディネートしたであろう髪型は誰のものも甲乙つけがたく、いつにもまして艶やかで、きらびやかでもあった。そこには来年こそは、とひそかに心に硬くちかうソフィリアがいた。


 4組それそれに、オリジナリティ豊かな誓いの言葉があり、いよいよ式のクライマックスである、指輪の交換とキス。クラリーの積極さに驚く榊や、濃厚キスを見せ付けるアルヴァイム、水葉への永遠の愛を誓う篠塚や、中腰でそっと愛の言葉をささやくジェイなど、4組それぞれがそれぞれの表現によって、永遠の誓いをたてたのであった。それは、生涯を誓い合った伴侶たちの美しき姿である。
 以前榊から贈られた婚約指輪が改めて結婚指輪に変わったそれをいとおしそうに見つめるクラリッサの目にはぬれるものが光り、その式自体の豪華さに思わず、夢見心地になる百地がいたりする。
 ‥‥式が無事終了し、出口に向かうカップルたち。と、いきなり新婦を『お姫様抱っこ』し、会場を去るアルヴァイムの姿は、ほのかな笑いすらとれるものであった。重くないのであろうか。

「おめでと〜〜」

 チャペルをでるなり、盛大にばら撒かれるライスシャワー。百地や篠塚らがあらかじめ用意しておいたそれをばら撒くのはソフィリアである。きらきらと輝く米粒が、新婚カップルたちの道行く先を白く染めていく。どこからともなく沸き起こる拍手。それは先ほど式を執り行った老神父様であった。
 そしてブーケトス。ブーケトスの瞬間、紅を抱き上げるジェイの姿がひときわ映える中、4組が4組ともいっせいに投げる様はある意味壮観にも見えるが、それは意図したかのようにソフィリアの手元に無事に収まったのである。そう、それは友情の証としてである。再び沸き起こる大きな拍手。それは式の終了を聞いて駆けつけた参列者たちからいっせいに沸き起こる祝福の嵐である。
 うれしそうに手を振る新郎と新婦。さらに盛大にライスシャワーを浴びせるソフィリア。この無人島でここまで華やかな催しが行われるとは、いったい誰が想像したであろうか。


 さて、披露宴。披露宴といえば、当たり前だがまずお色直しである。先ほどとはうって変わった当事者たちのいでたち。会場に姿を現した彼らに、参列者からさらなる拍手と歓声が沸きあがった。
 まず。同じアイボリー系の略礼装とパールをあしらったカクテルドレスに着替えた榊とクラリッサ夫妻。幸せを分かち合うかのように笑顔を振りまく。
 次は、これまた黒で統一した、おなじみのコートとチャイナドレス姿のアルヴァイムと百地。
 さらに、スタンダードなタキシードと雅な和服姿で登場の水葉と篠塚。最後が、黒いタキシードと赤のドレスという見た目にも鮮やかなコントラストで登場したジェイと紅。いずれも、当人たちの思い入れ満載の衣装である。
 彼らが全員並んで着席すると、思わず漏れる更なるため息と羨望の声。参列者の中には独身傭兵だって多いはず。どれほどの人間が、今回あちらの席でなかったことを悔やんでいるのだろうか。‥‥で、ここで司会役の橘川 海(gb4179)が大人びたスーツ姿でソフィリアとともに登場。百地の招待で参加した彼女は、今回の披露宴の司会進行を任されおおいに張り切っていた。そう、何日も前から入念にリハーサルを行ったくらいである。緊張しつつ会場中央へ。

「本日は、お忙しい中、御参列いただきました、ありがとうございます。披露宴の司会を勤めさせていただきます、橘川 ウミと申します。‥‥」

 心臓バックバクの中、無事に挨拶を終える橘川。ほっとしたのか、少し余裕の笑みがこぼれる。
 気を利かした誰かの発案で、用意された各自のプロフィールを読み上げるのだが、これがなかなかユニークで、参列者や当人たちの笑いをさそう場面も。なかでも、親友百地に対しては、最大限の喜びを込めて祝辞。まるで自分のことのような喜びようである。黒子姿でないアルヴァイムを見て、ちょっと驚いていた様が、周りの笑いをさそう。
 そんな合間に、料理、小道具、演出の調整でさらに忙しそうなソフィリアを気遣う姿も。そう。今回のお色直しもソフィリアの手によるところが大きかったことは間違いない。食事は、各参列者の希望を最大限に考慮し、和洋中なんでもござれの豪華料理が振舞われ、そのおいしさに全員が思わずうなるほどであった。心密かにかの仮面の伯爵様に感謝する参列者もいたのかもしれない。


 披露宴は、4組のもカップルがそろったこともあって、かなり盛大に進行していた。

「アルヴァイム、悠季、結婚おめでとう」

 と心から祝福する榊とクラリッサ夫妻。笑顔で応える百地とアルヴァイム。涙腺がゆるくなっているのか、百地の目には光るものがチラホラ。‥‥そこかしこに、カップルたちを囲んで幾重にも輪ができる。湧き上がる笑い声とうらやみの声。あちこちで光るフラッシュのまばゆい光が、会場内の雰囲気を一層ひきたてていた。

「‥‥この幸せは、こうして2人が出会ったことから始まったのですね」

 と飲めないはずの酒に酔ったような表情で語る紅。普段無口、無表情の彼女にしては珍しく饒舌に見えのはやはりこういった席だからだろうか。いつしか散開状態になり、新婦同士集まって密談などを展開する百地。


「え〜〜。宴もたけなわですが」

 といきなり皆の前に立つソフィリア。どうやら歌を披露するらしい。タイトルは『紡ぐ心』、というらしい。オリエンタル風のゆったりした曲だ。この日のために練習してきたのであろう。披露宴には欠かせない演出である。場内から大きな拍手が沸き起こる。

「‥‥ほんの小さな出来事も‥‥」

 と歌いだす。かつては音○だったらしいのだが、コーラス体験で自分では克服したと思っているようである。

「‥‥手と手を合わせ‥‥」

 人前でもあがることなく実に堂々としているのだが、ジェイは、こっそり耳栓を用意していたらしい、というのは秘密である。どうやら以前どこかで痛い目にあった前歴でもあるのだろうか。本人は黙して語らないらしいが、どうやら直っていないと判断しているようなのだ。紅と2人、聞いているフリをして実は聞こえていない、というわけである。で、本当はどうだったのかは‥‥ここでは語るまい。とにかく最後まで歌うことだけはできたようである。

「最後に今回の新婚カップルさんの、とても身近な方からメッセージが来ておりますので、ご紹介したいとおもいますね」

 と橘川。その手にしたメッセージが書かれたメモらしきものが読み上げられる。まずは、水葉の実弟であるブレイズ・カーディナル(ga1851)からのもの。

『兄貴、いきなりの結婚おめでと−。知らなかったぞ。俺にだまってるなんて』

 と愛情タップリ。続いては、ジェイと紅の友人を代表して、篠ノ頭 すず(gb0337)からのもの。

『おめでとう。本当に。でも、二人は‥‥いつの間にか恋人になっていたな』

 と、軽いジョーク調のメッセージ。会場がさらに大きな拍手に包まれる瞬間であった。かくして、披露宴は無事にその幕を閉じたのである。参列者総立ちの中、退場する傭兵たち。


 さて、式後。
 
「最初は、正直言って君のことが苦手だったけど、それがいつしかいい心地に変わってきたんだ。こんなこというのも照れるんだが、生涯そばにいてほしい」

 と水葉。最初は、手伝い、ということで篠塚に誘われたらしいということなのだが、なかなかしゃれたプロポーズの方法である。

「うん。いい家庭にしようね」

 と作戦大成功に思わず感激新た、といった篠塚‥‥。そんな傍らには、こっそり甘い愛の言葉を交わす百地とアルヴァイムの姿。で、さらにそんな影に隠れて、

「お兄ちゃん、義姉ちゃん、みてる? みんな幸せそうだよ」

 と式目前に逝った兄と義姉をしのび、涙をこらえる橘川。その思いは、果たして天国に届いたのであろうか。こうして披露宴を無事に終えた4組の傭兵達の新婚夫婦。これからそれぞれの新しい第2の人生が始まることに拍手を送りたい。


 最後に、この4組の傭兵達に、なんと、かの伯爵様からということで贈り物があった。それは、カップルのイニシャルが刻まれた【S&J社】製スターリングシルバー食器セット、であった。さらに、大いに手伝ってくれたソフィリアと橘川には、当事者からの感謝のしるしとして、デザインした人のイニシャルが刻まれた【S&J社】製スターリングシルバー食器セット、が贈呈されたのである。
 で、ふと見れば、橘川の手には、式の終わりのブーケトスの合間に行われたガータートスで投げられた、花嫁のガーター、がしっかりと握り締められていた。これは未婚男性が受け取ると縁起がいいとされるもの。なぜ橘川の手に? そう、たまたま飛んできたものが偶然手に入っただけ、と本人は言うのだが、その真相は不明である。
 ‥‥言い忘れたが、無事に結婚式が終わった報告を受けたかの伯爵様は、大いに喜ばれ、祝福されたそうである。さらに、今回出席しなかったレニファー・ドレイク(gz0256)も、無事に終わったとの知らせに、思わずため息をついたそうである。後日彼女の元にも食器セットが送られてきたそうである。