●リプレイ本文
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G。ある意味、地上最強(最凶?)の生物かもしれない。全身黒光りで、猛獣や毒蛇のように肉体を危険な状態にさらすのではなく、精神的に多大なるダメージを与えるという、ある意味非常にタチの悪い生命体である。
地球侵攻以来、バグアも地球人の知識を吸収していく中で、Gについてもいろいろ学んだのかも知れない。その結果、その存在自体が下手な武器による肉体的ダメージよりはるかに効果的で、存在させるだけで人類側に戦闘不能に匹敵するダメージを負わせられることを知ったのだろうか?
武器なくして、相手の戦意を確実に奪う兵器と考えれば、これを有効に使おうとするのは当然かも知れない‥‥。ゆえにこんなキメラが存在し、現に恐ろしいダメージ周囲の人々にを与えているのだ。
だが、キメラである以上駆逐せねばならない。が、傭兵とて人間である。果たして、全長2mにも及ぶというその黒いGとまともに正対し、大丈夫と言い切って渡り合える傭兵が果たして存在するのだろうか? もちろん、敢えて火中の栗を拾うがごとく参加した傭兵たちも例外ではない。
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受けた仕事とはいえ、皆が皆明らかにおよび腰。まともに射程0でヤツと対峙したくないことははっきりしているのである。
「ああ。考えただけで頭痛が!」
と、引き受けたことをどこか悔やんでいる様子の時枝・悠(
ga8810)。いまさら遅いことはわかりきっているのだが、言わずにはいられないのだ。
「G、は女性の敵デスネ。私は橘川さんを守らなければナリマセーン」
とどこか怪しげな日本語だが、それ以上に、その格好は周囲の人間にとってG以上に精神的に危険?なロナルド・ファンマルス(
ga3268)。どう贔屓目に見ても『ヘン○イ』以外には見えない。住民を避難させておいてよかった、と別の意味で安堵する他の参加者。もっとも、彼を越える存在がまさかこの場にいようとは‥‥。で、そんな2人とは対称的に、
「台所の敵は、俺の敵。飯の敵は、人類の敵!」
といわんばかりに、こんな?依頼にもかかわらず真っ先に志願したという、相賀翡翠(
gb6789)。今回幼馴染の橘川 橘川(
gb4179)のお守り?もかねての参加らしいとか。
で、その橘川。翡翠お兄ちゃんがいるから、という気楽な気持ちで参加してみたつもりが、相手がGとわかって、早くも影に隠れ引っ付いた状態。たぶん戦力として計算できないだろうという状況。
「だって、こんな依頼なら入らなかったのに」
と陰でぐちぐち不満をぶつける。と、そんな彼女の隣にいきなり迫る黒い影‥‥。しかも、
「どう? 見える? 完璧な変装」
といきなりしゃべりだす。何に見えるというのだろうか?本人曰く、『敵にまぎれる為』だそうだが、その黒い服装とアホ毛を触角に見立てたコスプレは、味方に無用な混乱を与える結果にしかならなかった。
紫陽花(
gb7372)のそれは、いきなり声をかけられた橘川にはショックが大きすぎたようだ。声にもならない悲鳴とともに、覚醒もしていないうちから全力で吹っ飛ばされる。どこにこんな力が?とあっけにとられる他の参加者。ほとんど2m近くも突き飛ばされて、いやあ、とむっくりおきだす、全身黒い塊のようなもの。悪い冗談というか、本人はいたって真面目というか。
「いや〜〜〜。キメラ〜〜〜〜」
とパニくる橘川。すでに顔は真っ青で人事不省寸前にも見えた。コスプレとしてみればほぼ完全なのだろうが、そのことがかえってマズかったようだ。‥‥あわててなだめる翡翠。この様子に、忍びの末裔でありGなんか、と強がっていた鷹谷 隼人(
gb6184)も、本気で声が震えだす。
「だから‥‥Gなんぞで。耐性を習得‥‥」
と口では言っているのだが、明らかに声の調子が変。
かくして、姿を見る前から戦意が萎え気味の傭兵たちは、おそるおそる住宅街へ向かっていった。たぶん彼も黒いヤツと正対すればその場で戦闘不能になる恐れ。もちろん、誰一人堂々と正対できると胸を張って言いきれる傭兵などいるとは想像できるわけもなく。
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「ゴキ‥‥は、見た目だげ‥‥、たかが昆虫だがら」
と半分こわごわ気持ちを高ぶらせようとするドライツェーン(
gb2832)。得物が得物なので、接近戦で挑むしかなく、果たしてまともに正対できるのか、が不安でたまらなさそう。
相手は2mぐらいあるGである。一目見た瞬間に卒倒していてもおかしくはないし、一般人の犠牲者もほとんどがそのパターンなのである。まだ、普通のキメラの方がある意味戦いやすいかもしれなかった。
「たぶん‥‥Gは大丈夫‥‥、のはず。で、なぜ‥‥ボク、この依頼に‥‥」
と小首をかしげつつ進むフィー(
gb6429)。ポーカーフェイスでほとんど無表情のままである。
そうこうしているうちに住宅街へ到着。住民は一時避難しているので、あたりは人気がなくゴーストタウンの様。とりあえず、周囲を見渡すがヤツの気配やそれらしき姿はない。が、ヤツは間違いなくどこかにいる。キメラとはいっても、生態はたぶんオリジナルに似ているだろう、と予測する傭兵。すべての家には鍵がかけられているので、やってくれば確実に見つかるはずである。
「HAHAHA! ゴキブリ野郎も、コワくてでてこられませんデスネ」
と、なにやら変な自信のロナルド。だが、下半身褌スタイルで、手にはキューピッドアロー、背中には天使の羽をつけ、胸にバラ、といった、見た目、ズバリ『ヘン○イ』そのもののスタイルでキリリと胸を張るその姿は、ある意味キメラ以上に危険でかつ、キメラと同じ扱いしかされないだろうと思われる。
そう、かの大○君と同じ様に。いや、別の意味で大○君以上かも知れない。
「橘川さんは、私が守りマス」
と橘川をがっちりガードする構え。橘川曰く、とっても愉快な外人さん、ということらしいが。そんなぶっ飛んだ状況の中、キメラおびき出しの為の準備開始。
まずはエサをバラ撒き、とりあえずキメラ様にご登場願おうということで、各自持参した、Gがすきそうな餌を適当な場所に。
「ちょっと、もったいないけど」
と某商店製のゼリーとオレンジジュースをばら撒く。確かにGは甘い匂いに誘われて来そうである。なんといっても、忍者以上の隠密潜行に長けている生き物だ。すぐそこまできているかも知れない。その間に全員覚醒。中には、鷹谷のように、半分ヤケクソで覚醒する傭兵も。覚醒すると性格が真逆になるらしいが。
「なら、チョコを」
とこちらは別の場所にトリュフチョコをばら撒く相賀。こちらも幼馴染の橘川が気になる様子。触りたくない、ということもあって、自分自身から距離を置いたところにばら撒きヤツの気配をうかがう構え。
「Gには酒というかアルコールがいいらしいと聞いたが。中毒にできるかも知れない」
ということで、なんとアルコール濃度99%のロシア製スプロフを用意する紫陽花。
だが、彼の場合、見た目がアレなので、仲間?と思ったキメラに真っ先に近寄られるかも知れない。敵にまぎれるというよりも、すでに身内にGもどきがいる、といった雰囲気。
‥‥こうして準備を終え、少し離れた物陰で黒いヤツが現れるのをジッと待つ、傭兵6人、ヘン○イ一人、偽G1匹。傭兵6人はともかく、他ははたから見ればさぞ異様だったに違いない。
あたりには、チョコとジュースの甘ったるい匂いがプンプンと漂い、Gでなくても甘いもの好きには嗜好をそそられる匂いが立ち込める。
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‥‥どのくらい時間がたったであろうか。
「う〜〜ん。来ませんね」
と誰かがつぶやく。
餌が少ないのか、匂いが弱いのか、黒いヤツがでてくる気配は今だなし。かといって、むやみに探すことも徒労だとわかっているので、さらに待つ。
と、どこからともなく、カサカサ。カサカサ。‥‥聞こえる。確かに何者かの気配。それはエサの撒いてある目抜き通りの方へとゆっくり確実に近づいてくる。
構える傭兵達。銃の撃鉄を起こす者、弓に矢を番える者。それは確かに何者かがやってくる気配。
と、鷹谷が素早くそばの建物に駆け寄る。忍びの身軽さであっという間に屋根の上に立つ。上から状況を確認したかったのだ‥‥。
さらに、待つことしばし。それははっきりとした実体として傭兵達の目の前に現れたのである。いよいよ獲物の御登場である。いっせいにその音のする方へ目を凝らす、はずなのだが、みなどこかチラ見程度で済まそうとしている様子。やはり、まともに直視したくないのである。いや、できないのだ。
そんな勇気はまだ誰のハートからも沸いてはこなかったのだ。だが、その緊張と沈黙の時間が破られる時が訪れた。
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「来た〜〜〜〜〜〜〜」
誰かが思わず1オクターブ高い声を上げた‥‥その声の方向を見る他の傭兵達。見れば、確かにどこから現れたのか、2mはあろうかという、黒光った固まりがワッサワッサとやって来るではないか。見る見る接近する塊。それも1匹ではない。そう、少なくとも3匹が大挙してやってくるのだ。
複数いる、という情報は間違いではなかった。だが、1匹でもナニなのに3匹ともなれば精神的にはナニが3倍である。ほとんど精神的クリティカルに近いダメージ。この時点で脱落者がでていてもおかしくはないのだが、なんとか脱落者0である。
「お‥‥おっぎい」
思わず目が点になり、その場で固まるドライツェーン。この時点で卒倒していないのはさすが傭兵といってもよかった。
かたや橘川は早くも逃げ出そうかというモードである。相賀の背後に身を隠すようにチラチラとキメラを眺める。表情はほとんど半ベソで、よくへたり込まなかったものである。なんだかんだいっても傭兵の端くれなのだ。
「確かにキモイな。アップはやめてほしいところだ」
と姿の大きくなる相手を評する時枝。その口調の冷静さがかえって、内心の動揺を隠そうとしているように見えるといったら違うだろうか。
マカセナサ〜〜イ、とばかり弓を構えるロナルド。名前からするとおもちゃのようだが、立派に武器として使える優れものである。
と、頭上で銃声。鷹谷のライフルが火を噴いたのだ。それは確実にGにヒット。と見ればすでにGはそこに動かなくなっていた。
どうやらこの黒いヤツ、ほとんど見た目だけでの精神的ダメージが目的のキメラらしい。そうとわかれば、一気に、と行かないのがGたるゆえん。その見た目ゆえに、なかなか前への一歩が進まない。
しかも今の一撃で相手も警戒したのか、まさにそのものの動きで右へ左へ。だが、エサの誘惑には勝てないらしい。さらに、別の方向からもGがワッサワッサと。四方から迫る黒い巨大なテカる影。
「おおすぎ‥‥。 無理〜〜〜」
と逃げ出そうとするドライツェーン。だが、よく見れば、どれも傭兵達ではなく、一目散にエサ向かってまっしぐら。銃声が屋根上から2発3発。だが、そうは当たるものでもなく。
「別に、ゴキブリが怖いなんて言ってないんだからね!」
と超機械で、さまざまな属性の攻撃を試みる橘川。だが、半分恐る恐るで、腰が完全に引けているので、攻撃というよりもメクラうちに近いものが。これだけの数では、遠距離攻撃だけではラチがあかない。
そう思われたとき決死の覚悟?で行動を起こしたのが紫陽花である。その格好でGキメラにゆっくり接近。と、やはり仲間と思ったのか無防備に近づいてくるキメラ。そいつに向かって、なんとスプロフの瓶を投げつけた。
それは、Gの口元あたりで炸裂し、Gは仰向けになってまさに虫の息状態。いちかばちかのアルコール攻撃が効いたのだ。ついでにもう一瓶。それは別のGに炸裂し、そいつも仰向けになって動かなくなった。
意外というか、あっけないというか。これが引き金となって他のGはパニック状態。で、このタイミングとばかり、勇気?を振り絞った傭兵達が正面から対峙したのであるから、Gにとってはひとたまりもなかった。ただグルグルとあたりを巡りまわるだけのG相手には、ほとんど赤子の手をひねるようなもの。
たださすがに皆、直視はきついのか、目だけはなるべく正対しないように、武器だけを距離を測って繰り出しつつ。
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「いやあ〜〜〜〜〜〜〜〜」
突如、橘川の悲鳴。なんと、彼女の立ち位置のすぐそばの路地から、子供?と思われるGがひょっこり現れたのだ。が、直ちに悲鳴を聞いたロナルドが、アメリカンヒーローの如く駆けつけ、たちどころに退治する。
「海さん守るのが、私の仕事デ〜〜〜ス」
とヘン○イ度たっぷり?なリアクション。まさに偽大○君登場である。顔のネおちシールが汗に光ってよけい‥‥。
「だから、最初からうけなきゃいいのに」
と、半ば呆れ顔でつぶやく相賀。まだGが残っていないかどうか、ジュースをばらまきつつ。と、向こうの方で黒いヤツが仰向けになるのが眼に入った。どうやら、フィーが飴玉をばら撒いたみたいで、それにつられてのっそりやってきたGキメラが殲滅されたようだった。死骸であっても直視するには耐えない。
「黒いヤツ‥‥、駆除終わり‥‥」
ほとんど息があがることもなく、平然としているフィー。台所の敵の駆除が終わり、これで食卓の危機は脱したと、変な感想を述べる相賀。結果、コスプレが役に立った紫陽花はどこか満足そうである。
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Gに対する耐性ができたかどうか、結局よくわからなかった鷹谷。だが、多少は苦手意識が克服されたのではないだろうか?
そわそわ、と落ち着かない傭兵達が多かったのは、水なり風呂なりなんにしても、一刻も早く黒いヤツの残滓を何とかしたいという気持ちの表れであろう。2度とこんなキメラはごめんだと、再び言い始める橘川にしても、無事に終わってほっとしたという安堵の表情が。
「この死体、どうすれば‥‥。まさか処理しろとは言わないよな」
と時枝。といってこのままほったらかしにしておくわけにもいかないのだが。Gも退治されたのでもうすぐ住民が帰ってくる。こんなの放置しておいたらまた大騒ぎに‥‥
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結局死体は、連絡を受けた軍の特殊部隊が、重機を使って撤去したらしい。さすがに、死体処理までは傭兵にさせられなかったようだ。
‥‥こうして彼らは人事不省になる危機を脱し、無事に生還した。が、その精神的ダメージはあとあとまで残っていたらしい。しばらくの間彼らに対して、『黒い』『速い』『飛ぶ』は絶対禁句とすべし、という異例の通達が出たほどである。
さらに言えば、紫陽花のコスプレがあまりにもリアルすぎたので、噂では、LH内で彼が黒い服装で出歩くことが一時的に禁止されたというのだが‥‥。で、そんな彼らに傭兵仲間がつけたあだ名が、そう「人間捕獲器」であるとかないとか。
了