タイトル:亡命者マスター:文月猫

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 7 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/07/28 23:48

●オープニング本文


「今回の作戦の困難さは了解しているが、ぜひ成功させてもらいたい」
 欧州軍上層部からの指令は、単刀直入だった
「傭兵達に頼るしかないと言うわけですね」
 ラフィンはその指令書を見て、ため息をつきつつ、雨模様の窓の外に眼をやった。フランス某所より、機密情報としてもたらされたそれは、直ちに軍上層部に報告された。

☆☆☆☆

 親バグア派内で、内部抗争があり、その結果として、バグア側の一部の人物がUPC側への亡命と身柄の保護を求めているらしい、という極秘情報がもたらされたのは、1月ほど前だった。
 軍では当初、トラップではないかと言うことで、きわめて極秘裏に調査を進めていたのだが、何日か前に、実際に亡命者側からコンタクトがあり、諜報部員が極秘に彼らと接触したところ、身柄の確保と身辺保護を求めていることが明らかになった。バグアも決して1枚岩ではないということらしい。
 が、彼らを実際に人類側で保護するためには、彼らのアジトである村へ侵入し、彼らと接触後、そこから連れ出さなければならないという、きわめて困難な任務が待ち構えていた。
 幸い、亡命者側からは、彼らの村までのかなり詳細な地図と、村内で実際に彼らが潜伏している建物の位置が書かれた地図が手渡されたというのだ。だが彼らの元にいくのも、そこから連れ出すにも、競合地域内の親バグアの村に侵入しなければならない。しかも以前、同様に亡命をこころみた者がいるらしく、警戒は厳しくなっているらしい、ということまで。
「状況が状況だけに、軍が動くわけにはいかないので、傭兵達に任せるしかないというわけですか」
 と仲間の情報部員がつぶやく。機密性、隠密製、困難さ。それは、傭兵達にとっても厳しいミッションに思われた。
「‥‥他に選択の余地がないのなら、彼らに賭けるしかないでしょうね。それなりの覚悟はしてもらわないといけませんが」
 と大きく息を吐くラフィンであった。すでに、あたりは薄暗くなっていた。

●参加者一覧

ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
翠の肥満(ga2348
31歳・♂・JG
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
セレスタ・レネンティア(gb1731
23歳・♀・AA
水瀬 深夏(gb2048
18歳・♀・DG
キリル・シューキン(gb2765
20歳・♂・JG
ノーン・エリオン(gb6445
21歳・♂・ST

●リプレイ本文


 傭兵であることを隠す。これが今回の依頼成功の為のキーでもあり、また最大の問題点でもあった。
 傭兵であることを隠すためには、当然武器も制限されるし、覚醒もほぼ不可能である。したがって、行動中の不可抗力の発生は極力避けるか、いつも以上に万全の備えが必要である。作戦に携わる傭兵達もそこら辺は十分に脳裏に入っていることであろう。
 作戦の事前準備として、UPC側では、亡命希望者に対して、今回の作戦の行動計画および参加傭兵の顔写真を極秘裏のうちに手渡している。ラフィン・ドレイク(gz0257)が準備した事前作戦である。
 ちなみに、その極秘資料には、「決してあわてない」「決してバグア側に今回の作戦を悟らせない」の一文がしっかりと書き込まれていた。うかつな行動は謹んでほしい、ということである。さて傭兵達は‥‥


「用意する車はジーザリオ3台。2台は夜まで近辺の森に隠蔽し、1台は検問を突破して村内に入る。」

 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)は、作戦計画書の一部を読み上げながら装備を確認する。今回、親バグア派のスパイに偽装しての潜入を計画しているため、普段のスタイルではなく、いかにもゲリラ風といった薄汚れたスタイルで身を固める彼ら。ジーザリオも3台自前である。

「ゲリラ達が使用していると思われる武器も調達してきたぞ」

 と、いつもながらに淡々と語るキリル・シューキン(gb2765)。手にはAK系のライフルが握られており、これを分解してジーザリオに隠す計画である。ついでに、自らも気怠げな一兵士を演ずるつもりのようだ。万が一に備え、ニセの身分証も全員分用意する。

「陽動作戦の準備は終了。あとは、潜入作戦に専念と‥‥。 いかにもゲリラっぽく見えますね」

 とはセレスタ・レネンティア(gb1731)。ジーザリオのキーをちらつかせる。放火用のスブロフを大事そうに抱え込んでいる‥‥。こんなやり取りが進み、やがて3台の車に分乗。ホアキン、キリル、とあとひとり、今回救出に回るロジー・ビィ(ga1031)の3人が運転し、現地への道を進む。途中で誰何されたときのことも当然計画に入れながら‥‥。


 今回の救出作戦はこうだ。
 まず、陽動班が村内に侵入。メンバーはセレスタ、キリルとボロを顔にまとい、終始寡黙な水瀬 深夏(gb2048)。しゃべるとボロがでるからということらしい。村内に侵入した彼らが、夜の闇に乗じて行動し、食料庫に放火する。
 で、その騒ぎにまぎれて、亡命希望者達を救出するのが救出班。ロジー、ホアキンに加え、小型カメラをそのヘルメットに備え付け、今回の作戦の行動の記録をもくろむ翠の肥満(ga2348)、亡命者の逃走サポートの為と、女性用カツラ持参で、自ら囮になる覚悟のノーン・エリオン(gb6445)。
 彼らは、村のそばの森に陽動班行動開始まで潜伏する。そのためのジーザリオのカムフラージュ用迷彩シートも用意している。
 で、最後に全員合流し脱出、という段取りだが、途中間違いなくされるであろう誰何をどう切り抜けるかを、車の中でも念入りに確認する。ここで失敗すれば即座に作戦中止となるからだ。


 どのくらいたったのだろうか? 田舎道を進む3台のジーザリオの前に、多数のバグア派らしき人影が。

「おい。そこの車。止まれ」

 といわんばかりに手を振り上げ静止する。‥‥緊張する傭兵達。早速来たな、と思う。さあ、いよいよショータイムの開幕である。‥‥と、手にマシンガンのようなものを持ち、武装した男が一人、ゆっくりと歩み寄ってくる。その男は、ジーザリオの窓を開けさせ、中を一瞥すると告げた。

「悪いが、この先工事中でな。車ははいれないんだ。すまんが、向こうの道に回ってくれ」

 と右奥を指差す。口調は丁寧で、別段疑われている様子もなく。一瞬気が緩む傭兵達。だが、逆になにも始まったわけではない。さらに緊張する。で、いわれるままに右へ。
 と、5分もいかないうちに、先ほどより明らかにものものしく、警備も厳しそうで、簡素ながらゲートも設けられた検問所へ。これからが本番というわけだ。そのときに備える傭兵。俺の出番かな?という表情でニヤリ、とするキリル。

「おい。そこの車。どこから来た? この先は、許可のないものは立ち入り禁止だ。」

 と、旧式と思える銃を携え、こちらを威嚇するような構えで男が近づいてくる。ジロ、と先頭の車をにらみ、さらに、後ろのジーザリオにも目をやる。3台という多さが、余計に目を引いたのだろうか?

「ご苦労さん。ち、なんとか逃げ出したが、こう厳しくちゃ、しばらくは人間どもの地域には潜入できん」

 と堂々とした演技で、話すキリル。‥‥。その演技が功を奏したのか、先ほどより警戒感がゆらぐ警備の男。

「俺たちは、この先のUPC軍の動静を探っていたんだが、バレちまってね。あ、積荷かい? たいしたものじゃないぜ。鉄くずみたいなもんさ」

 と敢えて、積んである偽装武器に相手の注意を向ける。息を殺し状況を見守る他の傭兵。‥‥、と警備の男は、だまって行け、というサインを腕で示す。突破成功だ。
 通過後、ため息をつくセレスタ。最初の関門は突破である。だが、まだこの先いくつあるかはわからない。内心うんざりといった表情。

「事前に地図を確認しておいたが、検問の場所までは書いてなかったな」

 と後続のジーザリオ内でのホアキン。目的地周辺の地形、建物の場所などはしっかり記憶していても、検問のポイントまでは把握できていないだけに、緊張感は想像以上である。
 外はにわかに雲行きが怪しくなり、ポツポツと雨が。これからを暗示しているようでもある。


 森を抜け、急にあたりが開け、目の前に小さな集落らしきものの建物群が視界に入るようになった。さて、いよいよ到着である。

「おい。何者だ? ここから先は証明書がないものは通行できん」

 あきらかに、さっきとは違う人数、装備、ものものしさ。武装した男達に不意に囲まれる。確かに想像以上に厳しい警備だ。ジーザリオはその前から後ろまでじっくりと観察され、積荷である旧式の分解した武器も丹念に調べられようかという状況である。

「我々は、この先のバグア派の拠点から来た。UPC領内へ潜伏していたが、身分がバレたので、脱出してきた。積んであるのは、潜入時に使用していた武器だ。改めるか?」

 とセレスタ。ついでに、疲れているのでここで宿を取りたい、と伝える。よどみなく、演技であることをみぬかれないような滑らかな口調で語るが、内心は冷や汗タラタラである。‥‥。すると、指揮官風の男が近づいてきてこう告げた。

「規則でな。IDカードを拝見させてもらおう」

 慇懃で、かつ威圧するような言い方ではあるが、疑っているような口調ではなかった。
 キリルが用意していた偽の身分証を見せる。偽、とはいっても実際に、親バグア派のある内通者からの情報に基づいてUPCが作成したものなので、本物となんら遜色のない精巧さである。

「ふむ。了解した。だが、あいにく車を3台も止めるスペースがなくてな。1台ならなんとかなるが」

 とさっきの男。どうやら信用したようである。作戦はうまくいったようだ。
 そこで手はずどおり、2台を近くの森の空き地に止めることにして、陽動班をのせた車だけが、村内に進入した。

「うまくいってるわね。ここまでは」

 とこっそりつぶやくロジー。

「確かに。うまく行き過ぎているともいえるが」

 と翠の肥満。車を止める場所を探しつつ、迷彩用のシートをどうしようかと考える。が、警戒が厳しいため、かえって怪しまれると判断し、そこらの木の葉で取り合えずカムフラージュすることに作戦変更する。
 入り口近くに2台とも駐車し、安全の為という理由で、4人(救出班)は車で寝泊りすると伝える。
 かたや潜入した3人(陽動班)は、手ごろなあいている荷物小屋に宿を取ることに。こういったところのほうが、陽動作戦実施の上で、怪しまれなくてすむ、という水瀬の発案。が、本人は相変わらずボロとゴーグルをまとったまま、であるが。

「さて。あとは夜を待つばかりか」

 と、キリル。亡命希望者と落ち合う予定の建物も、ついでに位置関係を把握しておく。さらに、放火予定の食料庫も。もちろん事前にバレては元も子もないので、慎重の上にも慎重に。
 ‥‥そのころ待機組では、ホアキンが双眼鏡を使って、救出のための進入路と脱出路を確認していたのである。
 かくして、亡命者救出のための作戦準備はすべて整い、夜の闇を待つばかりとなった。


 時計を確認するセレスタ。深夜1時近い。幸い空は晴れ渡り、月が美しい。あたりは完全に静寂と闇。良い頃合の時間である。闇の中を音を消し、方位磁石と、月夜の明かりを頼りに陽動班が動く構え。目指す建物は一本道である。
 片手には引火用のスブロフ。火をつけるのはライターである。小屋を出ると念のためあたりを改めて警戒‥‥。無線機は使えないので、お互いの息遣いだけが頼りである。
 ‥‥。同じ頃、救出班もひそかに村の入り口に近づく構え。検問の歩哨は24時間いるので、気づかれぬ距離ギリギリまで接近。騒ぎが起これば、やつらもそちらに気をとられる。そのときの一瞬がチャンスであることは、皆わかっていた。
 スパークマシンの出力を落として、いざ、に備えるノーン。武器をひそかに運び込むべく組み立てるロジー。あくまで素早く、的確に、である。わずかなミスが命取りなのだ。

「!!」

 親指を立てる水瀬。開始のサインだ。いっせいに走る。闇夜とは思えない素早さ、正確さで食料庫に進む。あたりは無人。豹の如く走る人影が月夜にてらされていく‥‥。到着。そこはかなり大きな食糧貯蔵庫である。ここに放火すれば間違いなく、パニックを起こせる。陽動班はそう確信していた。間髪いれず、スブロフを手にとったその瞬間‥‥


「!! ‥‥何者?」

 と、突如大きな声。まさか、のドンデン返しである。たまたま、酒宴でもあったのであろうか。半分千鳥足の親バグアの兵士が一人、陽動班の傭兵達の視界に飛び込んできた。酔ってはいても、そこは訓練されている兵士である。異変に気がつかないわけがない。

「!!! ‥‥ 失敗?!」

 瞬間、動揺するキリル。なんてこった‥‥との思い。この一番大事な場面でのアクシデント‥‥、いや、アクシデントですむ話しではない。作戦にとって致命的である。ここでバレては、今までの苦労もすべて水泡に帰し、自らの生命にも危険が迫るのである。

「いや〜〜。ちょっと月夜がきれいだったもので」

 とセレスタ。なんとかごまかしてこの場をやりすごすしかない。ライト片手に男がさらに近づいてくる。その視線がセレスタが手にしたスブロフに注がれる。瞬間、親バグアの男は、何が行われているのかをとっさにさとったようである。

「敵だ!!!!!!」

 あたりに響き渡る声。直ちに、そこかしこに明かりがともる。ここまで来て、完全に作戦失敗である。それもまったく予期しなかった出来事からである。
 だが、傭兵達はまだチャンスは残されていると思っていた。ここで騒ぎになれば、その混乱に乗じて、救出班が突入できるかもしれない。咄嗟に水瀬が動く。

「閃光手榴弾を使う。みんな逃げろ!!」

 迫り来る男達に向かって、閃光手榴弾を投げつける。それは駆けつけた親バグア兵達の足元で大音響とともに炸裂した。目もくらむ閃光があたりを昼のように照らした。


「!!!‥‥」

 この騒ぎは、検問所の歩哨たちも気がついた。ただちにそちらの方向へ走る。もちろん、救出班にとっては、このチャンスを逃すはずもなく。

「何か予想外の事態が発生したみたいだな‥‥。閃光手榴弾らしい」

 と翠の肥満。飄々としているが、すでに亡命者たちのいる建物に向けて突進。続く他の救出班。

「急ぎますわ! とりあえず、ミッションを優先で。チャンスは今しかない。」

 とロジー。あっというまに、亡命者たちのいる建物に。大急ぎでドアを開ける。中には、今の騒ぎで傭兵達の行動を察知し、脱出の準備をしていた亡命者たちが。一瞬表情が変わる亡命者達。

「大丈夫だ。身柄は保護した。すぐにここをでるんだ」

 とホアキン。3人の亡命者を連れ、前後を挟むように建物からでる。‥‥。ノーンは走りながら、咄嗟に女性用のかつらをかぶり、見た目亡命者の女性を偽装し、別の方向へ走る。ありあわせのボロでつくったと思える頭からスッポリかぶるドレス風の衣装も身にまといつつ。他のメンバーは森に隠してあるジーザリオ目指し。


 背後で、いきなりの銃声と大きな叫び。閃光手榴弾の効果の中、一発の銃弾が走る水瀬の腕に命中。どこか離れた場所から放たれた銃弾のようだ。一瞬はしる激痛。だが、それをこらえなおも車に向かう。その背後から迫る複数の銃弾音。
 と、そこへ武器を手にしたロジーが。救出班と別れ、陽動班に武器を渡すために自らの危険を顧みず銃弾をかいくぐってきたのだ。
 目で合図し、直ちに武器で応戦するセレスタ達。覚醒してはいないが、何とか相手の火力を弱めることに成功したようだ。‥‥負傷した水瀬は彼らの援護の元、かかえられる様に車へ。
 ‥‥その頃、救出班も危機に見舞われていた。
 ノーンの囮の動きにもかかわらず、親バグア派の兵士の放った一発の銃弾が、亡命者の女性のわき腹を掠めた。うす暗闇で狙いが正確でなかった分、致命傷にはならなかったが、思わずうずくまる女性。その肩に手を貸し、脱出を助けるホアキン。
 そして、囮のノーンにも銃弾が。幸い命中はしなかったが、まさに生死の狭間の修羅場状態。だがなんとか脱出し、車に乗り込む。
 ほぼ同時に陽動班も車に。運転できない水瀬に代わりハンドルを握る翠の肥満。‥‥。薄暗がりの月夜の中、来た道を全力で走るジーザリオ。ときどき車が激しく揺れるが、かまう余裕などあるわけもなく。ひたすらフルスロットルである。

「しっかりつかまっていて。もう安心だから」

 と車中で声をかける。怪我した水瀬と女性亡命者は、ホアキンとロジーの救急セットで応急処置。使われなかったスブロフとロジーのウォッカは傷の消毒用として、その使命を果たした。
 なおも背後で響く銃声。だが、この時点で傭兵達は、完全に追っ手の追撃から逃れることに成功していたのである。


 人類側支配地域に着いたときは、あたりはすでに明るくなっていた。
 夢中で飛ばしていたので気がつかなかったが、ジーザリオにも複数の弾丸の痕跡が。まさに、危機一髪の死地から生還したのである。
 水瀬と女性亡命者の傷は幸い、致命傷には至らなかったものの、直ちに、UPC軍の病院で治療が行われることになった。何日かで回復するであろうとのことである。こうして負傷者はでたものの、ミッションはなんとか成功したのである。