タイトル:【Woi】野戦病院攻防戦マスター:文月猫

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/08/03 02:36

●オープニング本文


●北米大陸の事情
 北米では大規模作戦の準備の為、UPC軍が五大湖地域への集結を開始していた。
 しかし、戦力を集めるということは、他方で戦力が引き抜かれる場所もあるということでもある。
 小さな町などに駐留する小規模部隊からの戦力が引き抜けば、出没する野良キメラなどへの対応力が低下してしまう。
 実際、作戦が動き始めてから、徐々にではあるが北米大陸の各地からULTに持ち込まれる傭兵への依頼が増え始めていた。
 傭兵がこれに迅速に対応できなれば、小規模な駐留部隊をそれぞれの任地へ戻す必要も生じてくるだろう。
 それは大規模作戦における戦力の減衰へとつながりかねないものである。
☆☆☆☆☆
 北米某所。ここには五大湖作戦で負傷した兵士のための臨時の野戦病院がおかれていた。当然負傷した兵士たちは、ここで傷をいやしあるものは戦線に復帰し、あるものはさらに大規模な病院へ移送されたりするのだが‥‥
「敵。タートルワーム複数確認。現在当病院に向かって移動中」
 それは緊急事態を告げる一報だった。作戦司令部はただちに色めきたった。この病院自体、戦線からそこそこ離れた場所にあるので、よもや敵襲にあうことなどあまり想定していなかったのだ。
「途中で食い止めなれないのか?」
 作戦司令部からの呼びかけに、モニターの向こうのUPC軍兵士が答える
「現在、この方面の兵力は不足していて、途中での足止めは困難かと」
‥‥事は逼迫していた。野戦病院だけに、いるのは負傷兵だ。とても彼らでは食い止められない。そう判断した司令部は、直ちにLHにいる傭兵達に呼びかけた。
「味方の野戦病院に、敵ワーム接近中。向かえる者は、至急現地に急行しこれを排除せよ」
 その声を受けて、何人かの傭兵が立ち上がった
 その頃、現地野戦病院では、負傷兵の避難がはじめられていた。

●参加者一覧

智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
緑川 めぐみ(ga8223
15歳・♀・ER
音影 一葉(ga9077
18歳・♀・ER
荒神 桜花(gb6569
24歳・♀・AA
九頭龍 剛蔵(gb6650
14歳・♂・GD
犬神 狛(gb6790
24歳・♂・FT
佐賀 剛鉄(gb6897
17歳・♀・PN
佐賀重吾郎(gb7331
38歳・♂・FT

●リプレイ本文


「スクランブルだな」
 と、犬神 狛(gb6790)はULTのモニターを見てつぶやく。直ちに出撃の準備を始める。敵はTWだけとはいっても、決して油断はないように、というUPCからの連絡に、大きくうなずく。TWの狙いが野戦病院なのか、それとも、移動中の進路上にそれがたまたまあったのかは不明だが、事態は急を要する。
 ‥‥そして、今回がKV戦3度目である彼にとって、TWは難敵かもしれないが、経験と実績を作るにはまたとないチャンス。やってやる、という決意がその表情に表れていた。それは、今回出撃する他の傭兵達も同じ思いであろう。病院を守る、それが今回のミッションであり、最大の使命であった。


 その頃‥‥
「急げ。TWが来るぞ。直ちに避難を」
 野戦病院では、負傷兵が右往左往するなか、避難が急ピッチで進んでいた。敵が来るのに、兵隊が逃げるというのも変な話だが、負傷兵ばかりではいたしかたないところ。今回は、普通の兵士ではとても対抗できない相手が迫っているのである。
「敵が迫っている。KVはまだか?」
 と叫ぶ現地病院スタッフ。TWが大地を揺るがす振動がかすかに伝わってくる。その距離3km弱。あと2kmも進めば、この病院がTWのプロトン砲の射程に入ってしまう。その前に避難を終えなければならない。
 と、その時。避難する負傷兵の視界に、確かに巨大なKVの姿が映った。
「来たぞ〜〜〜」
 思わず誰かが、喜びの声を上げる。それは、急激におおきくなり、負傷兵たちの視界を覆いつくした。間に合ったのである。


「敵TW接近中です。フォーメーション展開します。敵との距離1300m。なおも接近中」
 とディスタンのコックピットで声を出す音影 一葉(ga9077)。愛機は歴戦の相棒であるディスタン。防御に強い機体である以上に、さらに重装甲にカスタマイズされていて、まるで巨大な鎧を身にまとっているようでもあった。
「病院を背に距離1000mを死守。これ以上接近させたら、我々の負けですね。絶対に懐に飛び込ませたりはしませんよ」
 とモニターに映る智久 百合歌(ga4980)。愛機ワイバーンはその高機動力をフルに発揮し、TWのやってくる方向に急速に展開する。敵射程に病院が入る前に、その足を止めなければならない。
「此方【狛犬】出撃準備。病院前方への展開開始。」
 と犬神、自らのコードネームを伝えつつバイパーを駆る。妙に手が震えているのは武者震いか、それとも恐怖心のためであろうか? 今回はTWのプロトン砲の前に、壁として立ちふさがらなければならない。そんな役割が余計に緊張をさそったのであろうか?
 ‥‥そんな目の前をすり抜けるようにして、緑川 めぐみ(ga8223)のディアブロが躍動する。その様はまさに赤い「悪魔」の異名に恥じない姿である。増槽を強化し練力も十分である。
 そのあとにさらに4機のバイパーが大きく翼を振りながら、遠くかすむように見えるTWに向かって機首をめぐらしていった。グッドラック、と誰かがつぶやく。親指を上に突き立てる者も。
「ディアブロの戦闘力をあなどってはいけませんわ。撃たれる前に撃てばよいのです」
 とコクピットの中でつぶやく緑川。これからの戦闘を想像し、こちらは笑みがこぼれる。


 正面に2機。音影と犬神。絶対防衛ラインである1000mを保ちつつ、TWのプロトン砲のダメージに耐える、耐久勝負のきつい役回りである。ここを破られることは、敗北を意味しているからだ。プロトン砲の射程は800m。この距離以内にTWを病院に接近させなければ直接の被害はない。もちろん隙を見ては反撃も試みる予定だが、どこまでできるかはまったくわからない状況である。しかも、KVの武器の威力をはるか上回るプロトン砲である。
 ‥‥そんな2機とは距離をとり、TWの射線上を避けるように迂回して、かつ、音影たちの射線を邪魔しないようにして急速接近する、個別撃破を狙う6機のKV。
 緑川、智久の2機のほか、佐賀一族としての、荒神 桜花(gb6569)、九頭龍 剛蔵(gb6650)、佐賀 剛鉄(gb6897)、佐賀重吾郎(gb7331)の4名。いずれもバイパーを駆り、剛鉄は荒神の、重吾郎は九頭龍の護衛という形で、2機がペアとなって敵に迫る。
 武装が近距離主体なので、カベ役の護衛を盾に、0距離近くにまで接近し、敵と対峙する予定。‥‥プロトン砲の射線外から、個々に撃破を狙うのだが、短期に決着をつけないと、音影・犬神機が破られる不安があるだけに迅速な行動が要求される。


 と、はるか前方のTWから閃光が放たれた。射程でははるかにKVの武器のそれを凌駕するプロトン砲が火を噴いたのだ。
「敵発砲。プロトン砲発射確認」
 と音影。これに耐えなければ勝利はない。正面の2機に迫る閃光。
「敵戦力確認。数は6機。3機が横一線で2列です」
 と敵配置を直ちにしらせる緑川。数ではKV有利だが、相対的な能力ではTW優位である。状況を考えると、傭兵側が不利かもしれない。
「TW戦の基本は砲台つぶしですわ」
 と智久。プロトン砲以外、武装を持たないTWはまず砲台から狙うのが鉄則なのだ。と次の瞬間、音影、犬神2機がすさまじい閃光と衝撃音に包まれた。
「!!」
 その破壊力に、思わずゆれる犬神機。なんとか機体バランスは維持したものの、これからこの攻撃がどのくらい続くのだろうか? 内心ゾットする思いである。
「痛いのかな、かなり」
 と衝撃にゆらぐコクピットでつぶやく。バイパーでは持ちこたえられるのも時間の問題だろう、とも思う。
 ‥‥一方、高耐久、重装甲が自慢の音影のディスタンは直撃こそ受けるものの、その攻撃を受け止め、ダメージはまったくといっていいほどない。防衛力を極限近くにまで高めたディスタンである。プロトン砲ごときで、ダメージを受け撃沈するほどヤワではないのだ、と絶対の自信を持つ音影。
「この装甲抜けるものなら、抜いてみなさい」
 とコクピットで笑う音影。立て続けに2撃、3撃。だが、ディスタンはその攻撃を跳ね返す。ショックはあるが、ただそれだけのことである。
「おお〜〜〜」
 この光景を遠くから眺めていた、避難中の一般の兵士から驚嘆の声が。


 TWはなおも接近してくる。KVの武器の射程に入るまでは、一瞬のように思われた。
「当たれ〜〜〜〜」
 とスナイパーライフルD−02が火を噴く智久機。それは斜め前方を進むTWに確実にヒットした。一瞬動きが止まったかに見えるTW。だがすぐさま何事もなかったかのように歩みはじめる。その動きは素早いという印象ではないが、力強く確実である。
 さらにそれに追い討ちをかけるように音影機のブリューナクが。非物理攻撃であるこいつは、TWに対してもっとも効果的な武器であるように思われた。射程ギリギリで放たれたそれはTWの動きを止め、陣形を乱した。
「さてさて、お相手願おうか」
 ‥‥と追い討ちをかけて犬神のスナイパーライフルRが火を噴く。プロトン砲を撃ちつつなおも、接近するTW3機。その後方にはこちらの動きに合わせるかのように、首をふり、射線を変えようとするTW3機。
 こうして戦端はついに開かれたのである。


 編隊を組むかのようにTWの横腹に回り込む6機。剛鉄機の援護を受けた、荒神機が1機のTWに迫る。接近に気がつき、その頭をぐるりとそちらにめぐらすTW。ガトリンググ砲を浴びせ、剛鉄機を盾にさらに接近を試みる。
 ‥‥そこへ射線が一致したTWからのプロトン砲の強烈な一撃。致命的なダメージは免れたが、剛鉄機、荒神機ともその直撃を受ける。メトロニウムシールドの耐久力で何とか行動可能な剛鉄機とそれによって被害をある程度食い止めた荒神機。そのすぐ横では、智久機が接近戦を試みようとしていたが、後方にいたTWの頭が、クルリと自分の方を向くのが目に入った。
 とっさに、そいつに向けスナイパーライフルを発砲。だが、TWは構わず射線を向ける。
 ‥‥閃光と衝撃。ワイバーンがゆれる。こちらも、ディスタンほどではないが、ある程度耐久力のある機体である。致命的なダメージは免れた。


 反対側では、緑川が急速接近した1機のTWにR−P1マシンガンをぶち込む。だが、TWの装甲は厚く、抜けない。そこで、さらに接近し、BCアックスを振り下ろすのと同時に、TWのプロトン砲を、ほとんど0距離でまともに受ける。これは何とか回避。だが、すべてをかわし切れるわけでもない。運悪く何機かに囲まれるような態勢になる。
 本来あってはいけないポジションになったためか、その衝撃で思わず意識が飛びそうになるが、肉をきらせ骨をたつ戦法しか勝機はないと判断したのか。バニッシュメントフォースを発動し、肉弾戦に持ち込む様相である。非物理攻撃がTWの弱点とされるところへ、その非物理攻撃を叩き込もうというのだ。
 と、背後で大音響。重吾郎機の援護を受けた九頭龍機がTWにガトリング砲を浴びせる。そこへプロトン砲の直撃。ディフェンダーで防ごうとする重吾郎機だが、プロトン砲を防ぐには非力である。2機もろとも閃光に包まれ、体勢が崩れる。そこへ、別のTWからの一撃が浴びせられる。おおきく揺らぐ2機。


 陣形はお互い乱れ、肉弾接近戦の状況である。TWの方は、目の前の傭兵達に狙いを定めたよう。どうやら、病院のみがターゲットというわけではないようである。TWは病院へ向けてもプロトン砲を放つが、射程内に届かないため、損害はあたえられない。かたや、KVの攻撃もTWの重装甲の前に、致命傷は与えられない。いうなれば持久戦の様相である。
 だが、彼らは、TWの砲台さえつぶしてしまえばTWが無力化することは十分わかっていた。ひたすら、砲台に狙いを定める。
「犬神さん、支援を」
 と音影。こうしてプロトン砲の直撃にたえつつ、少しずつではあるが、TWに反撃態勢をとりつつある、犬神、音影両機。ちらり、と前方にゆらめく影のように見えるKV。直撃でもあったのだろうか。機体がグラリ、とゆれる。無事だろうか? そんな思いが掠める。


 火力では、TWが圧倒的に優位である。傭兵達は、KVの機動力と陣形、個々の能力で対抗しようとしているのだが、明らかにTWの破壊力に、耐久を削られていく。すでに戦火を交えてからかなりの時間が経過していた。じりじりとするような時間である。
 と、いきなり、困惑し、あわてるような音声が各KVのコクピットに響いた。
「九頭龍機、戦線から離脱。機能低下。戦闘継続不能です」
 と緑川の声。続いて、智久機からも。
「ワイバーン。能力50%ダウン。ダメージ甚大。後退します」
 声は元気なので、まだ、パイロットの生命に危険はないのだろうが、これ以上の戦闘は危険という判断らしい。‥‥が、かたや、
「敵TW1機、砲台沈黙。機能停止」
 と誰かがノイズ交じりの声で伝える。敵も消耗している。こうなれば、どちらが先に倒れるかの状況になってきた。
「当たらなければ、どうということは」
 とバニッシュメントフォース最大でTWと至近距離でやりあっていた緑川だが、やはり限界はきていたようである。モニターに次々とともる危険をしらせるサイン。ついに決断せざるを得なくなった彼女は、こう伝えた。
「機能低下。これ以上の戦闘継続は困難。離脱します」
 というと、そのままTWの射線から後退する。が、見ればやりあっていたTWもその場に鎮座するような格好で、機能を停止していた。相討ちの様相である。


「どうやらわしも限界のようだな。これ以上は‥‥」
 とコクピットで大きく息をする犬神。ここまで敵の攻撃をほとんど受身の状態でしのぎつづけてきたが、バイパーもこれ以上は限界のようだ。音影機の背後に回り、音影機を盾にするようなポジションで、援護に専念する。まだ、機体自体の機能は生きているようだ。縦に2機が並ぶような形になる。
 前方では、同じ頃さらにTW1機が機能停止。だが、それと引き換えに荒神機もおおきく揺らめくように後方へと移動していった。‥‥状況は緊迫していた。これ以上戦闘が長引けば、現在稼動中のKVの沈黙も時間の問題かもしれないからだ。
「TW。1機‥‥。 撃沈‥‥」
 誰の声だろうか? 白煙の中、前足を折ってひざまずくようにその場にくずおれるTW。プロトン砲は沈黙していた。


 どのくらいたったのだろうか? 敵TWがにわかに向きを変え、戦場から離脱し始めていた。4機のTWが機能停止した今、2機では抵抗できないと判断したためだろうか?
 いずれにしても、このことによって、傭兵達とKVにとってはこれ以上の危険が去っていくことの証であった。それは、野戦病院の危機もとりあえず去ったことを意味していた。やがて訪れる静寂の時。
 もはや傭兵達にも、それを追撃する余力は残っていなかった。かろうじて機能しているものの、とても戦闘を継続できる状況ではなかったKVが多数いたからである。
 ‥‥被害は大きかった。味方KV8機のうち、4機が戦場から離脱。とくに、智久、犬神、九頭龍機の損害は大きかった。パイロットが生還したことがなにより奇跡に近いくらいである。他の味方も損傷し、無傷は音影機1機のみという状況。
 だが、戦果もあった。敵6機のTWのうち。4機を機能停止、2機を撤退へと追い込んだのである。撤退した2機もダメージは大きそうで、当分の間出撃は困難だろう。
 戦場には機能が停止、動けなくなったTWが残されていた。本来なら、砲台沈黙後傭兵達がトドメをさす予定だったが、KVの損傷が予想以上であったために、これらの始末はUPCの手にゆだねられることとなった。機能しないTWなら、傭兵達でなくても処理はできるとの判断からか。
 重い体を引きあげるようにKVのコクピットから顔を出す傭兵達。一目に消耗しているのがわかる。あらためて周りを見渡す。動かなくなったTWは巨大なオブジェのようにすら見えた。自分たちの手でトドメがさせなくなったことに多少の後悔はあるが、KVの損傷を考えると、仕方ないといったところか。


「病院はなんとか守れたみたいですね」
 と智久。まじまじと傷だらけのKVを見つめる。
「ディスタンの重装甲に助けられましたわ」
 と音影。見れば機体に傷はほとんどない。
「TWの顔、張り飛ばしたからな」
 と荒神。自身の機の損傷も決して小さくはなかった。
「身内の盾はしんどいわ」
 と剛鉄。佐賀一族は、なんとか全員生還できたようである。
 と、一同病院の方を見る。病院は建物の損傷もなかったのが、今回の作戦が成功したことを証明していたようである。やがて避難していた負傷兵たちも戻ってきた。歓喜の輪の中に包まれるKVと傭兵達。五大湖で戦うUPC軍の兵士たちの士気があがったことはいうまでもない。
 そんな中、
「う〜〜ん。もう少し高機動にしないと」
 と一人ぼやく緑川がいるのであった。