●リプレイ本文
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「チャラチャ〜ン」
などとどこかで聞いたような音楽が流れる‥‥ようなことはない「EDO」。昼間は町人や商人がせわしなく往来する活気ある街。だが、夜ともなればそこは一変。野生犬の遠吠えが時折こだまし、悪の華「馬愚亜」が跳梁跋扈する闇の時間。そう、今日もどこかで、
「あれ〜〜。どなたかお助けくださりませ」
とかいう女の悲鳴や、
「うわ〜〜。 た・す・け・て・く・れ」
といった男の叫び声。さらにそれにあわせるかのように、
「ふはは。よい女子(おなご)じゃ。どれいただくとするか」
などといった、あんなこんなセリフが入り混じる闇。
そんな闇を駆け抜けるいくつかの人影とこだまする剣戟の音。そう。闇に紛れひとしれず、悪と戦う名もなき正義の集団「酔兵」と、彼らとともに戦う、知る人ぞ知るヒーローがそこにいたのである。「EDO」の街の住民達は彼をこう呼んだ。「芋太郎侍」と。そして今日もどこかで、彼の声がこだまする。
「この世に花咲く悪の華、○○してくれよう芋太郎」
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「やだねえ。昨日の夜もどこかの大店が、「馬愚亜」にやられたんだってさ。しかも一家皆殺しだって。やな世の中だねえ」
と、真っ昼間から茶屋で煙草をふかし、茶をすする遊女風の女と、その目の前を通りすぎる、いかにも博打打ち風な男がひとり。と知り合いなのか、
「おや、恵の字でないかい。珍しいね。」
と声をかける。男の方はちょっとびっくりした風であったが、すぐに隣に腰かける。
女の名は、冴城 アスカ(
gb4188)。昼は吉原では人気随一の遊女、だが夜はれっきとした「くのいち」として、「馬愚亜」成敗にいそしんでいる。
「恵の字、あんたも博打ばかりやってないで、たまには真面目に働いたらどうだい」
などと隣に座る男に話しかける。笑ってごまかす男。
男の名は、恵の字こと山崎・恵太郎(
gb1902)。武士にあこがれたものの、いまでは賭場へ入り浸り、負けが込んでいるのにいまだやめられない男である。だいたい遊郭にいく金もないので、冴城が昼間何をしているかは知らないらしい。知り合いだが時たま道で会う程度なのである。
とそこへ、いかにも熱心な街医者風の男が通り過ぎるのが眼に映った。白衣を着た其の男、忙しそうに、どこかへの往診の途中といった風情。
彼の名は、辰巳 青伊こと辰巳 空(
ga4698)。立派な南蛮医として「EDO」では知られている名医であるが、それは表の顔。裏では「闇武人」として「馬愚亜」退治に日夜あけくれる、のだがこの男、現場にいきなり現れるわ、どさくさにまぎれるわ、最後には何食わぬ顔でけが人をさっさと治療していくという、よくわからない所業の人物である。
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同じ頃、「EDO」のとある長屋では、いきなり眠りから目覚めた男、多少驚いたように周囲を見渡す。そばには空のひょうたんが無造作にころがっていたり。
この男、名は、緋亜守ことピアース・空木(
gb6362)。まあただのゴロツキである。うすっぺらの着物1枚で寝ていたようだ。
「うあ、夢か。なんか見たこともない建物が一杯出てきたが」
などといいながら起き上がる。この男することもないので、昼間から街中でいい女にちょっかいをだし、「EDO」では迷惑がられていたりもする。であるときブラブラしている最中に見つけた実にいい女。
それは歌舞伎をやっていた芝居小屋の前で、である。これがまたうなじまで白く、浮世絵に出てきそうな細身の美人。こりゃいい女、とばかりさっそくお近づきに、と言い寄る。見た目は大店の令嬢風である。
「よ〜〜。ねーさん。いい女だね。そんないい女が一人芝居小屋からでてくるとはなんの事情かしらねえが、なんとももったいない話だ」
などと、あんなことやこんなことで言いくるめ、茶屋で団子をおごったり。で、すっかりその気になった緋亜守。あんなことの為にいざ口説きにかかると、なんと、
「僕、歌舞伎役者なんです。女形の」
そう、彼の名は紫陽花(
gb7372)。歌舞伎の立派な女形だったりする彼は、たまたま女物を着ていたために、間違えられただけなのだ。
「オ、オトコ???」
とたん、血の気が引き、その場に卒倒する緋亜守。
「ずっと、言い寄られてるので、お団子ぐらいおごってもらおうかと思っただけなんですけどね」
と、卒倒した緋亜守を放置してそのまま立ち去る紫陽花。だが言っておこう。こんな2人も、実は裏家業は立派な「酔兵」だったりする。
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そんな卒倒シーンが繰り広げられた目の前にある一軒の飯屋。ここを切り盛りしているのが、相賀翡翠(
gb6789)である。周囲には呉服問屋などが立ち並び、結構店は終日にぎわってもいる。が彼もまたこれは副業。本業は無論「酔兵」だったりする。しかも妖刀使いだったりするのだが。
で、そんな相賀の店と並ぶぐらいに評判の店がすぐ近くに。そこは娘が一人で店を切り盛りし、一部マニアに向けそれなりに繁盛している店だというのだ。だが噂によれば、最近この店も「馬愚亜」の被害にあい、店の主人が無残に切り殺された、というのである。それ以降、この娘が一人で店を切り盛りしているということなのだが。
でこの娘、名を「お天」こと鳳凰 天子(
gb8131)というのだが、どうもわけありな雰囲気である。夜な夜などこへともなく闇にまぎれ外出する、という噂があるのだが。
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‥‥さてその日の夕暮れ。空は曇っていて、今宵月明かりはなさそうである。となれば、この「EDO」のどこかで「馬愚亜」が跳梁跋扈するであろう。たぶん今宵もいくつもの悪の人影が闇の中、音も立てずに「EDO」の街を駆け抜ける。‥‥それは「酔兵」達にとっても、「仕事」が今宵は行われる事を意味していた。
そのため、彼らの中でも、副業にいそしむ者は、こころなしか気分が高揚してくる者も現れる刻限でもある。さらには、どこにいるかわからない「芋太郎侍」も。
夕方から遊郭で客と酒を酌み交わしつつ、楽しそうに談笑していた冴城。
「あら、旦那、今日も来てくれたのかい。あたしゃうれしいねえ」
と歓談しつつ、その隙を見計らって店の廊下で間者と密会。
「なるほど、今宵の獲物、「馬愚亜」ってのかい」
とすでに其の顔は「くのいち」の顔である。
客が帰った後、まず夕風呂で体の垢をながす。湯船につかるその磨きぬかれた肉体は実になまめかしく、あんなところやこんなところが実にセクシーである。思わず覗いてみたい衝動に駆られるオトコがいるかも知れないような、その○○な△△や(以下自主規制)。
そのころ飯屋の相賀は、こんな夕方は早々と店じまいし、本業の準備に追われる。同じ頃、ばくち打ちの恵の字は、今日も賭場に入り浸っている。町医者の辰巳は、いつもの如く夕方から患者の所を巡回中である。各自が夜の闇に備え、おのれの牙を研ぎ澄ます時間である。
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やがて漆黒の闇があたりを支配する。そろそろヤツラが現れる刻限である。昼間もヤツラは悪行を行っているが、とくに夜以降はその悪行三昧がエスカレートするのだ。
人通りのある多少明るいうちは通行人に恐喝、強奪、強姦、さらに夜が更けてくればどこかの飯屋でしこたま飲んで、暴れまわるやつらもいる。時には大店に押し込み強盗をしたり、人気のない場所では辻斬りだってしたりするのだ。まさに、悪行三昧である。だからこそ。
とある町角、さっきまでどこかの飲み屋でしこたま飲んだのであろう。その勢いで、通行人から金品を巻き上げ、上機嫌で行く一人の「馬愚亜」が。とそこに立ちはだかる人影一人。
「なんだ〜〜。貴様〜〜。そこをどかんと怪我するぞ」
と恫喝する「馬愚亜」。だが、その人影、動じるどころかゆっくり近づいてくる。気がつけば、雲の切れ間から月明かりが。
「チャララ〜〜〜」
などというBGMが聞こえたかは定かではないが、見れば三味線の弦の端を口にくわえ、ピロロとそれを伸ばす。まるでどこかで見たような風景だが、決してそんなことはない。
と間髪いれず、「馬愚亜」に襲い掛かる。次の瞬間「馬愚亜」の体に巻きついた弦が、ピーンとはじかれる。まさに一瞬の出来事。「馬愚亜」は何が起きたかわからないうちに絶命した。そう。それこそ、「くのいち」冴城の姿。
「お掃除完了」
ニヤリと微笑む冴城。月明かりに照らし出されるそれは残忍な暗殺者の顔。
「さあ、次の相手はどこだい」
とあたりをニラム。いえいえ。もう誰もいませんって。
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その頃。我らが芋太郎侍は一人「馬愚亜」の集団と対峙していた。場所は川べりの船着場のあたりで、ちょうど「馬愚亜」が女子を手篭めにしようとしていたところであった。
だがいかなヒーローといえど、相手は複数。多勢に無勢である。
「○○してくれよう、芋太郎」
などという見栄をきったところで、相手が減るわけでもなし。ここで印○でもでれば、などと思ってもそんなものどこにもなく。ジリジリと後退する。と、そこにひとつの影が。
「助太刀するぜ。芋太郎の旦那よ」
と見ればまさしくそれは緋亜守の裏の姿。彼も「馬愚亜」を求め、この闇の中をうろつきまわっていたのだが、たまたまこの場に遭遇したのである。もちろん「酔兵」として芋太郎に協力すべく。
「おめえら、「馬愚亜」だな。なら、こいつでお相手させてもらうぜ」
とばかりに、いきなり上半身を脱ぐ。月夜に照らされたそれは、桜‥‥ではなく「黒炎」の刺青。右手の鉤爪が妖しく光る。と、一瞬ヤツラの注意が芋太郎からそれた次の瞬間。彼の必殺技?が炸裂したのである。なんだ、それは。と思わずあたりが凍りつくような。
懐から取り出された1本の芋。それを宙高くほおリ投げるやいなや、剣を一閃。なんとそれは、鋭利な刃物のような飛び道具になって「馬愚亜」の一味に襲い掛かったのである。
「食らえ! 必殺、空中芋殺方」
などといっているが、いったいこれはなんなのだろうか? 誰にもわからない。もちろん緋亜守にも。あっけにとられる芋太郎以外の全員。だが確かにそれは、「馬愚亜」一味の手にした武器をたたき落としたのだ。あまりのバカバカしさ?に思わず呆然とする一味。おかげで隙だらけである。当然いとも簡単に成敗されたのはいうまでもない。
まさか、とは思うがこれが必殺技? そのなんともいえないサム〜〜い展開に言葉が出ない緋亜守。これでは覚える気にもなれない、といった風情。
「かたじけない。拙者、先を急ぐので失礼」
と芋太郎。次の瞬間には風の如くどこかへ走りさってしまった。あとには鋭利に切り取られた、芋だけが散らばっていた。う〜〜ん、何者なんだ、芋太郎。
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戦いはあちこちで起こる。たまたま博打で大勝し、上機嫌で帰宅途中の山崎。すでに午前様になった頃、運悪くヤツラに遭遇してしまう。しかもこの男「酔兵」でもなんでもなく、ただのばくち打ちである。あっというまとり囲まれ、身ぐるみはがされようかという危機に。とそのとき。
どこからともなく飛んできた手裏剣が、命中したのである。いや「馬愚亜」にではない。山崎の尻、にである。思わず飛び上がる山崎。で、その手裏剣の持ち主こそ、飯屋の相賀、なのであるからたまったものではない。
「いや、悪い。」
と謝っては見たものの、山崎の姿はいかにも痛々しい。所詮忍びの技は無理だったか、などとまるで他人事である。
そのあまりにも気の抜けた光景に、思わず力が抜ける関係者一同。だが、この相賀手に持った刀で、その瞬間を狙っていたのか、ひとりまたひとり。屋根に上ってみたり降りてみたりで、これがなかなかの手強。なら最初から、手裏剣など使わなければよいのに、などと思うのだが。
さらにそこへ、どこから現れたのか南蛮医辰巳がいつのまにか乱入。どうやってこの場の状況を察知したのか、いつのまにか、自分から戦っているでは‥‥。いや違った。戦っているように見えただけだった。いや確かに戦ってはいたのだ。ただ、「咆哮」という、相手の動きを封じるという、サムイギャグよりさらにサムイであろう必殺技や、まるで「カ○ハ○波」のような「透撃」なる、意味不明の攻撃をしている様は、どうみても遊んでいるようにしか見えず。でもやはり医者である。肝心なところは相賀に任せ、ちゃっかり山崎の負傷の手当てをしていたりする。
戦いが終わったとき、辰巳は影の如く去り、後には法外な請求書が風にヒラヒラと舞っていたのだった。
「ち、もう終わりか」
などと大層なことをつぶやく相賀。
「絶対に、訴えてやる」
と鼻息荒い山崎であった。
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でさらに別の場所。そう昼間は歌舞伎でにぎわっていた、芝居小屋周辺にもヤツラの魔の手が伸びていた。しかも、なぜかそんな夜更けにうろうろしている紫陽花。誰が見ても自分から呼び込んでいるとしか思えないのだが、しかも女装である。当然ヤツラの標的になる。
だが、今回はなぜかその場に突如参上する、「芋太郎侍」。というか、どうみても紫陽花の跡をストーカーしていたとしか思えない現われ方である。ひょっとして、芋太郎も、かどうかはともかく、このヒーロー、女性?の前ではやたら張り切るようである。
傘を投げつけ、助太刀しようとする紫陽花。だがそれは芋太郎に命中。痛い中にも妙にうれしそうな芋太郎。はっきりいって気持ち悪い。まさか、こいつも重大な思い違いをしている、のかと冷や汗ものの紫陽花。気持ちを入れ替えて、簪片手に「馬愚亜」へと向かうのだが。
さらにそこへカオスを生むべく参上する、頭から笠をかぶった男。手には黒塗りの刀。そう誰あろう、この正体こそ、あの看板娘「お天」である。すでに、一人酔いつぶれた「馬愚亜」を抹殺してきた彼女、今回も背後からこっそり忍び寄り、一閃する。芋太郎がその必殺技を披露する暇もなく、である。あっけにとられる一同。
だが、芋太郎はヒーローである。もうすでに死んでいる「馬愚亜」の上にグイと足を掛けなにやら御満悦の御様子。その間にも視線は紫陽花の方へ。まさに猫の如くにそ〜〜とその場から逃げ出す紫陽花であった。
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夜が明けた。こうして我らが「酔兵」と「芋太郎侍」の活躍で、今日も「馬愚亜」一味の悪の華は無事退治されたのである。だが‥‥。
あの日以降、歌舞伎が打たれる芝居小屋の楽屋口の前で、常にうろうろしている人待ち風の侍風情の男がひとり。そう編み笠で顔をかくしてはいるが、例の「芋太郎」である。いやよく考えれば、芝居小屋の楽屋口の前、ということは、もしや紫陽花の正体を知っているのであろうか? だとすれば芋というより、○毛である。なお付け加えれば、あの「お天」は「馬愚亜」が成敗されたことにより、どこかへ出家してしまったらしいのだが。
そしてここにも一人。
「あ〜あ。いい夢見たぜ。でもありゃ、男にしとくのもったいなかったな」
といつもと同じベッドで目覚めるピアースがいたりするのだ。
了