●リプレイ本文
●
KVの闘技場を作る。しかもカンパネラの地下に。この壮大なプロジェクトにかかわる傭兵達の数も多い。そのかかわり方もいろいろ。お掃除するもの、ガラクタを整理するもの、そして今回のようにもっとシビアな任務に携わるもの、である。
闘技場建設のための資材をシベリアから運ぶ。大規模【DR】で人類側の手に入った、極東ロシアの豊富な地下資源を有効活用し、それとあわせてシベリアの開発発展に寄与する今回の試みにもまた多くの傭兵がかかわるであろう。はるかシベリアから資材を運ぶ、あるものは空路、あるものは陸路で。
‥‥だが特に陸路はまだまだ未整備で、かつウラジオストックへ物資を運ぶとなれば、どうしても中国東北部近辺を通過しなければならない。当然そこは競合地域。であれば、バグアも黙って通らせるとは思えない。だからこそ事前に危険を調べ、前もって排除しなければならない。
そう、これはそんな依頼のひとつである。で今回かかわるのが、ベテラン傭兵8人プラス新人1人。新人にとってはいささか重い任務の気もするが、それは周りのベテランたちがうまくカバーしてくれるだろう、と依頼を担当するオペレーターも思ったに違いない。
現地へ向かいながら、改めて現地の現状を確認する参加者。今回もっとも気にしていたシベリアの寒さもまだたいしたことはないようである。防寒対策はひとまず不要と考える、ベテラン傭兵たち‥‥。現場は視界のよいツンドラ地帯。さぞや平和なら何一つない、広大な原野に探検にでもいく気分にでもなれるのだろうか?
●
「さ〜〜。バリバリいくとするか」
と一人だけ妙にテンションの高いシャロン・石崎(gz0286)。まあ無理もない。なにせ初めての依頼である。逆に言えば、緊張の裏返しと言えるかも知れない。ひとり出撃前から妙にソワソワしているのが傍目にもみてとれる。そんなシャロンに声をかける、レベッカ・マーエン(
gb4204)
「そんなに気負うなよ。先ずは無事に生還することを考えろ」
口調は偉そうだが、さりげなく声をかける。そう。シャロン以外はすべて経験者ぞろいである。そんなシャロンを見る眼は、むしろ温かく、どこか子供を見守る保護者のような感じすら見受けられる。暖かく見守ろうというまなざしである。
「まあ初めての依頼だし、無理はしないでおけば大丈夫だと思います」
とは辰巳 空(
ga4698)。何かあればフォローぐらいはできる、と余裕の構え。誰でも新人だった時はある。そんな自分の過去と照らし合わせ、シャロンを見つめるベテラン傭兵。8人もいるのだから、心強いといえるだろう。
「数が多いから、面倒かな? いやたいしたことないといえばない」
とは周太郎(
gb5584)。事前情報からキメラのおおよその強さの見当でもつけている様子で、これまた余裕の表情である。過去の経験から、こういった相手の情報が不十分の場合でも、ある程度予測はつけられるのだ。みればコートを羽織っている。気温から考えると不必要とも思えるが、念のためということだろうか?
「多めに見積もっておけば無理はないと思いますけどね」
とウオーミングアップに余念のないアズメリア・カンス(
ga8233)。敵の数がはっきりしないので、こういう言葉が出たのであろう。多く見積もっている分には間違いはない。
「意外と厳しいものになるかも知れませんよ」
加賀 弓(
ga8749)はむしろそんな楽観ムードを戒めるかのような口調。30匹ぐらいは最悪いるかも知れないと想定し、心の準備をする。今回、より高ダメージを与える貫通弾を携帯してきている。たぶん役立ちそうだ。長引けば不利になるだけに、相手の数がどうしても気になるのだろう。
「敵の知能は低そうですから、単純に切り刻めるだけましかな」
アセット・アナスタシア(
gb0694)も準備は万端。普段の口調はかわいらしさがあるが、愛用の武器コンユンクシオに語りかけるようにつぶやく。
「シャロンさんに活躍の場をもたせるようにこころがけよう。周太郎、よろしく頼む」
と龍鱗(
gb5585)。やはりコート着用だが、動きにくくはないのだろうか? ちなみに、周太郎とは友人である。で、最後がホゥラリア(
gb6032)。闘技場建設という目的のために、今回の依頼に参加している。龍鱗とは友人である。
●
体感だが、営巣地付近の最低気温は1度ほど。この程度なら行動に影響はない気温なのだが、そんなことはよくわからないシャロン。防寒コートを一応持ってきたものの、自らの体感で判断しとりあえず着用せずに臨む。
事前情報では、この営巣地、2種類のキメラがいるとの事だが、実際正確な数や大きさがわからない中で彼らが立てた作戦とは。決して多くない情報から得た中で立案されたものである。
まず体型が一回り大きいとされるサイ型のキメラから先に倒す。キメラの数が多いうちは8人とシャロンで纏まって行動および戦闘を行う。そこである程度戦力を減らしてから、2班に分けるというのがその概略である。初依頼のシャロンについては、あまり負担をかけず、常にフォローを怠らない構え。できれば相手を分散させ各個撃破、といきたいところである。
さらに敵の数が多いので、練力にも注意しなければならない。できれば序盤は練力の消費を抑えたい。そのためにも緻密な連携が必要となる。理想はスキルを発動することなく掃討することがベストではある。
で。実際現地についてみると、営巣地はちょうど窪地のようなところになっており、両側は小高い丘である。奇襲をかけたり、相手に気づかれずに様子を探るのにはちょうどいい。多分敵は分散しているので、こちらの攻撃である程度集めたいところ。
とりあえず、気づかれぬように相手の位置関係を確認。当たり前だが、結構広い営巣地にキメラがあちこちにいる状態。たぶん、こちらから攻撃をかければ集まってくるであろうと考える。
「さて、行くとするか」
と龍鱗が声をかける。全員覚醒し、前衛・後衛に分かれる。ふと見ればシャロンはかなり緊張気味。いよいよである。と、傍らを見ればアズメリア。いろいろと脳内で整理中なのか、我に入って瞑想している。たぶん己のすべきことを整理中なのだろう。さまざまな状況をイメージし、それに対する対応のシミュレーションでもしているのであろうか?
●
まず前衛の4人、辰巳・加賀・アズメリア・アセットは後衛への盾を兼ねつつ、攻撃主体でサイ型キメラから狙う。そのサイのような角は要注意だ。もちろん、トナカイ型への注意も怠らない。
「行くよ‥‥コンユンクシオ! 一撃必殺」
アセットが叫ぶ。迷彩服が躍動する。限られた練力の中、ある程度まとまった相手にはソニックブームを発動。傍らでは盾でガードしつつ、円閃で仕掛ける辰巳。こちらも迷彩服姿で、2人とも実にスマートに決まっている。同時に大きな銃声。加賀の『スノードロップ』が閃光を発する。グリップのスノードロップの刻印が美しくきらめく。着物姿で銃を撃つ姿はある種不釣合いに見えて、むしろ新鮮でさえある。もちろんこの着物立派な戦闘服であるが。
と、1匹のサイ型キメラが大きくなぎ払われ、その場から後方へ吹っ飛ばされた。アズメリアに突進したのだが、『ベオウルフ』でなぎ払われたのだ。返す刀で何匹かも道連れにする。その巨大な斧の破壊力はすさまじいほどである。見た目が戦乙女風なので、どこかアニメチックに見えるが、その動きにはスキはない。
トナカイ型の方は、その傭兵達の気配に押されたのか、こちらの動きを窺ってはいるがさしたる攻撃もできない。もっとも、単独で突進してきても密集した傭兵達にはスキがなく、はじき返されるだけであるが。
ここでひときわ大きな衝撃音が。加賀が貫通弾を使用したのだ。さらにもう一発。強引に突進してきたサイキメラが弾き飛ばされた。
●
で後衛陣。龍鱗が盾のような役割になり、かつシャロンにも負担をかけないような布陣。今回非物理武器がメインのレベッカ。キメラの弱点とされる知覚攻撃を生かし、キメラの撃破を優先し、他のメンバーのフォローや牽制をするといった役割。これがなかなかに効果的である。そして周太郎。今回すべて【OR】の武器で装備を固めた彼、そのオリジナリティあふれる武器はどれもネーミングからしてしゃれているが、決して飾りではないその威力も侮れない。
「石崎さん好きに動いてもいいぜ。フォローはするから」
と余裕を見せつつ、シャロンを眼で追う。
で、そのシャロン。『超機械γ』を主武器としつつ、手ごろなトナカイ型にとりあえず狙いをつけ、距離をとりつつ『ズビーム』と攻撃する。懐に飛び込まれそうになる場面はあるものの、ベテラン傭兵達がフォローに入る。初陣にしてはまずまずのできである。誰でも最初はこんなものなのだろう。
●
さて。巧みな連携と位置取りにより、サイ型キメラをあらたか退治したところで、次の作戦に移行する。ここからは殲滅戦である。まだ、トナカイ型はかなり残っているので、そいつらを片付けつつ、残存キメラの掃討を図る。
が、思わぬ落とし穴も。お互いの射線を邪魔しないように、かつキメラを分断するような動きをした結果、意外と陣形がゆるくなり、いざ第2段階のフォーメーションに移行しようとするにあたって、思ったようにスムーズな陣形変更ができず、つかのまではあるが混乱する状況に。
右から左、前から後ろといった具合に移動する際に、思わずスキができてみたり。でそんな間隙をつかれたのか、残存キメラの思わぬ反撃を受ける結果に。もちろん、大きなダメージこそはなかったものの、多少のカスリ傷程度は受ける状態に。キメラの爪や突進攻撃を受け損ねる場面もみられたものの、まあ、さしたる被害もなく。かくして、態勢を立て直し2班に分かれた傭兵達は、殲滅戦へと移行していくのである。
●
殲滅戦である。幸いなことに、ここまでさしたるスキルを使わずともキメラに対処できたこともあって、表情には余裕のある傭兵達。ここからは敵の数が減っているので、ある程度スキルを使用し、練力を消耗しても問題はないであろうと判断する。となれば、相手が弱体化しているので、先ほどよりはスムーズに進むはずである。あまり時間をかけていると、増援がくることも考えなければならないが、まだ時間の余裕はあるようである。
「意外と邪魔がまだ多いな。」
と周太郎。そこでスキル抜刀・瞬を使用して、【OR】Thinkerに武器を持ち替え対応することに。振り回し、たたきつけ、相手を吹き飛ばそうとする戦法。ここまでくれば短期決戦に持ち込んだ方が有利だろう。数が多くても所詮ザコはザコ。数に恐れることはなかった。
「まだいるんですね‥‥いい加減数は多いんですね」
とはホゥラリア。ひょっとして彼女の予想外の数だったのか? だが、言ってるそばから友人の龍鱗と視線が合い、思わず表情を崩す。なんのことはない。余裕タップリにみえる。まあ、気心のしれた仲間である。相手を信頼していれば間違いはないだろう。2手に別れ、残存戦力の殲滅に挑む。
周太郎、アズメリア、アセット、レベッカの組は、貯めていた練力を一気に解放。自らの行動指針と照らし合わせスキルを活用するアズメリア。短期決戦での決着を図るべく、両断剣を使う。疲れているはずなのに、その気配すら見せないところはさすがである。
ある程度纏まった敵には、ここでもソニックブームを見舞うアセット。敵を固まらせないように大きな動き。強烈なコンユンクシオの打撃は一撃必殺。解放された力が一気にキメラを屠る。
「早くおわらせるのダ〜〜」
といわんばかりに、電波増幅で己の知覚を上げ、攻撃力を高めるレベッカ。今まで押さえていたエネルギーを一気に解放する。
一方の龍鱗、加賀、辰巳、ホゥラリア、そしてシャロンの組も考え方は同じとみえる。一気に相手との距離を詰める龍鱗。続けざまに二連撃で狙う。スキルを温存していた分使用にためらいがなく、一気に残りをかたづけようとアクションを起こす。武器をたくみに使い分け、流し斬り、両断剣を駆使して切り込む加賀。ここまでくれば無駄な時間はかけたくはない。さっさと終わらせてしまいたい。
「ふ〜〜」
と思わずため息をつく辰巳。開始以来、集中力を維持しつつ戦っているので、さすがに疲労の色が見え隠れする。だがもう少しだ。当初は、戦況次第では撤退も選択肢にあったようだが、この状況ならば不要だろう。
瞬速縮地で、一気にカタを付けに行く。30mがあっというまの距離だ。幸い戦場から逃げ出そうとするキメラはいない。そのように仕込まれているのだろうか? 撤退を考えるほど知能がないのかも知れないが。ばらけた形になっている残存キメラに肉薄する。
終始シャロンのそばにいて、彼女に的確なフォローをしているホゥラリア。今は小銃に持ち替え、接近している敵を狙い打ちにしている。ビシャ、と弾が当たるたびになにかがひしゃげる音。首が飛び、胴体が血しぶきとともに砕けるキメラ。見ていて決して気持ちのいい光景ではない。が、これは戦いである。まして相手はバケモノ。遠慮は無用である。やらなければ自分がやられるだけなのだから。殺戮と戦慄は戦場のレクイエムである。
●
どのくらい経ったのだろうか? ツンドラの平原のただなか、おびただしいキメラの骸があちこちに無残な姿をさらす。すべてのキメラが屠られたときに、そこは太古のような静寂さに満ち溢れていた。何者も存在し得なかったかのように。だが、今そこには傭兵達が無言でたたずんでいた。すべて終わりである。
「とりあえず水でも」
とは周太郎。龍鱗にも渡す。お互いに長い戦闘が終わったあとのこの無言の時間が、彼らにとっては労をねぎらう時間でもあったのだ。
「どうだった? 初任務は? まあ傭兵の仕事なんてこんなものだ。はやくなれることだな」
と、シャロンに声をかける龍鱗。だがその眼はいたわりの表情に満ちていた。達成したことへの満足感はどんなに経験を積んでもいつも変わらないもの。そして無事に生還したことへの満足感もまた同じである。
「アセット、ご苦労様」
とホゥラリア。手にしていた小銃を静かに降ろす。
でシャロン。達成感もさることながら、傭兵の仕事のなんたるかが多少わかったのか、いつにない表情。それは想像と現実の乖離に戸惑っている風にも見えた。
「これが戦い‥‥。これが」
遠く虚空を見つめる眼に、なにかが宿ったような気がする。
ポン、と誰かが肩をたたく、さあ、行こうか、と促されたのだ。ゆっくり大地の感触を味わうかのように歩みを進める。夕陽がシベリアを赤く染めようとしていた。
了