●リプレイ本文
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「いや〜〜。待ちかねたぜ」
とシャロン。依頼が出されてから実際に傭兵達が現場に到着するまでの間、さも手持ち無沙汰といった様子で落ち着かなくウロウロしていたのは内緒。実際に依頼を受けた傭兵達が現場に到着するや否や、すでに気分は戦闘モードに突入の御様子。一刻も早くキメラ退治に繰り出したいという想いは強そうである。
だが現場に着いたばかりの傭兵達。なにせ現地の状況も十分に伝わっていないばかりか、実際にどんなキメラがそこにいるのかはその目で見てみないとわからない、そのためには多少なりとも準備に時間が必要、といった様子が伺える。
なお、今回全員があるものを持参。それは小型だったりそれなりに大きかったり形も多少様々だが、その役割はすべて同じ。そう『耳栓』や『ヘッドフォン』等である。今回のキメラ、その羽ばたき音が一種の音波兵器のようなもの、との事前情報を得て、そのための対策として準備してきたものである。すなわち外部からの音を遮断してダメージをなくそうとの考えなのだが、果たして効果があるのかは試して見ないとわからないし、その装着には別の問題も。それはお互いが音声でのコミュニケーションが取れなくなる、と言うものである。当然外部音を遮断するということはそういうことのリスクも負うことになる。そこでベラルーシ・リャホフ(
gc0049)は、指などによる簡単なジェスチャーでお互いの意思の疎通を図ることを考え、実際に戦闘前にあれやこれやサインのようなものを示し合わせることにした。指を立てたり曲げたり、の単純なサインを取り決める。
一方、実際にキメラの様子や特徴、さらには配置や燃料タンクの位置関係を事前に把握しようとする傭兵も。
篠崎 公司(
ga2413)は、タンクの位置関係を調べるべく遠目ながら現場を見通せる位置にまで移動し、その配置を頭にインプットする。まだキメラとの距離はかなりあるが、不気味に聞こえてくる羽音はどことなくいやな感覚を沸き起こさせる。
「ごくごく石油飲んでるよ。よくもまぁあんなものを」
と双眼鏡片手にこれまた遠目にキメラを観察しつつため息をつく新条 拓那(
ga1294)。どうやら原油が水の代わりをしているのだろう。たぶんタンクのスキマからわずかに漏れている原油をのんでいるのだろう。かすかにタンクの下がぬれているのがその証拠。そこからしてさらに不気味である。
上半身はハト、下半身は烏という見た目こっけいに見えなくもないのだが、それがかえって恐怖心を持たせるから不思議である。同じようにキメラを観察するアズメリア・カンス(
ga8233)。ゴーグル備え付けの望遠機能で見る限り、キメラは10匹ほど。確かにタンクの周りにまとわりつくように飛び回っている。まあ正確にはフラフラとしていると言うべきか。もう少し近づけばよりわかるかも知れないと、皆が思う。
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ゴロゴロゴロ‥‥。なにやら背後から大きな音が。それも異様に重量感のある音。見ればなにやら乗っけたカートを引きずってやってくるのはゼンラー(
gb8572)。この男もともとは僧侶なのだが、あることにとりつかれた結果晴れて?仏門を破門されたという怪人物であり、見るからに力がありそうだ。
「こんなこともあろうかと。」
どこかで聞いたセリフだが、よくみるとカートの上に問題の燃料タンクを精巧にまねたミニチュアのタンクが。
とは言っても45Lも入るのだから、ミニチュアとはいってもそれなりに立派に見える。いずれにしてもなぜこんなものを。曰く、
「キメラがなぜあんな事をしてるのか分からないなら、実地で試せばいいのだよぅ」
とか。実際中身は本物の原油。これでキメラが引き寄せられてくればラッキーなのだろうが、こんな物持ち込んで戦闘に影響はでないのだろうか? とも思えなくもないが。どうやらキメラの生態に興味津々らしい。
「で、何をすればいいんだ」
さっきから話に割り込めないシャロン。というか話が彼女抜きで進められているので、ついつい愚痴っぽくなってしまったことは他の傭兵達は気がつかない。
「あ。遠距離射撃をお願いします。飛び上がった敵をビシッと」
と新条。とそれにかぶるようにこんな一言が。
「タンク周辺では超機械の使用は控えてくださいね」
これはベラルーシ。彼女に限らずヘタにタンクに穴を開ければ最悪誘爆ドカンである。よって攻撃するポジションも常に気を配らなければいけない。多少暴走しがちなシャロンではあるがこの状況では自重せざるを得ない。
そんな多少緊迫感に欠けたやり取りが行われているさなか、ひとり銃の手入れを終え、足元の砂地に剣を突き刺しなにやらつぶやく湊 影明(
gb9566)。
「さて、作法は整えた」
その性格からか日ごろの振る舞いからかあまり他人にはいい印象はもたれないが、本人もそのことはあまり気にしてはいない様子。自ら『悪鬼』と名乗るくらいだから。元暗殺者でその陰気な印象は同行する者達に陰鬱な印象をもたれるのかもしれない。
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「コールサイン『Dame Angel』、速やかに鳥キメラ十体を掃討に掛かるわよ」
と準備万端ととのった事を仲間に告げる アンジェラ・ディック(
gb3967)。シャロンに後方援護を頼むと、狙撃にふさわしい位置と場所を、事前に用意した地図で確認しつつ、そのときに備える。
「爆破できれば簡単なんだけどな」
と狙撃用のアサルトライフルを弄りながらキメラの方を見やるウツロ(
gb9633)。だがそれは不可能であることは十分にわかっている。携帯した雲隠がキラリと光る。
こうして準備を終えたシャロンと8人の傭兵は、立ち入りが厳しく制限された発電所の敷地内に向かう。そこで待ち構えるキメラを殲滅するために。だが今だ敵は動く気配なし。それがかえって傭兵達に過度の緊張を与える。動かない敵。そこで待つのは生か死か。
ここで用意した耳栓等、音響対策をする。これ以降は音声でのコミュニケーションは不可能となる。あらかじめ決めたサインとアイコンタクトが頼りだ。
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10個の燃料タンクが巨大な障害物にすら見える距離にまで接近する。敵との距離約40m。
ここでスキルを発動し、敵の様子をさらに詳細に観察するベラルーシ。
「アレですか。あまり可愛くありませんね。しかし場所が悪い」
とキメラの位置を確認してつぶやくベラルーシ。この状況で容姿の感想を語るのはひょっとして余裕?
さてここからが本番である。何故タンクの前から動かないのかはともかく、できれば少しでもタンクから引き離したいところ。もちろん引き離せても射線には注意しなければならないので、できればタンクと平行方向から射撃したいところ。ソレが無理ならタンクと射線のかぶらないタンクの頂点の上におびき寄せたいところだが。
さらに接近。その距離およそ30m強。どうやら耳栓等は効果を発揮しているようだ、羽音はゼロではないが我慢できるレベル。無防備よりははるかに上等である。5分以上の戦闘にも耐えられそうである。
ここで作戦通りに最初に湊が動く。
「人間側の都合により、お前達を抹殺する」
とつぶやき、AU−KVのバイク形態で一気に敵の視界内に突っ込むのだ。キメラはタンクの前を相変わらずフラフラと動いている。群れているわけではないが、適当な場所にと突入する。さらにすぐにアーマー形態に変形し、刀で攻撃し攪乱する。その際にスキルを発動し、敵の特殊攻撃の無効化を図る。
がキメラの反応はある意味予想外。それは待機していた傭兵達にもはっきりとわかるもの。刀で攻撃されたキメラは反撃するのだが、その他のキメラはただ浮かんでいるだけで湊に攻撃してこない。それはある種奇妙な光景にも見えた。
「パッシブ!?」
と誰かが小声でつぶやく。もちろん反応はないが。そう実はこのキメラ、パッシブモンスターであり、攻撃されない限り自分からは攻撃してこないのだ。
それは、
「はいは〜い、気持ちよく飲んでる最中失礼しますが、ここはもう店じまいだよ!」
とばかりに、そっと30m近辺までタンクの陰や上部を伝って接近していた新条や湊の行動を待っていたアズメリアやベラルーシにとってもある意味予想外の光景。だがそうとわかれば逆に作戦は立てやすい、というか単純。目の前のキメラに専念すればいいのである。
そうなれば戦い方も変わる。一気に距離を詰めキメラにあっというまに肉薄する新条。
「泣きながら殺さねえ、笑いながら殺してやる!」
援護射撃する味方の射線にかぶらない動きで、目の前のキメラに攻撃を集中する湊。
「こんな所に棲みつかれてると迷惑だから、駆除させてもらうわよ」
それを見やりつつ接近戦に持ち込みベオウルフで敵をなぎ払うアズメリア。いやな音を立ててキメラにダメージを与える。
だが相手の嘴の攻撃には常に細心の注意を払う。他の攻撃は多少受けても嘴の攻撃だけはなんとしても避けなければならない。「麻痺」の効果を受ければそれだけで大きなダメージになりかねないからだ。
タンクを背にするアズメリア。キメラの攻撃を回避する。麻痺攻撃のリスクが高いと判断すれば、相手からの攻撃は極力回避する。さらに自分から攻める場合は、武器を水平に振るい、タンクへの被害をなくす。場所と場面に応じた戦い方だ。
スキルを使い、敵の攻撃をかわす新条。嘴以外の攻撃を時折受けることはあるが、たいしたダメージにはつながらない。巧みに急所ははずしているからだ。
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ヒュン。という鋭い音と金属的な音。そう援護班の攻撃が加勢する。篠崎、アンジェラの弓が、ウツロのアサルトライフルが湊達を援護する。すでに彼らも30m以内の距離に侵入している。ただしタンク爆発の危険があるために、攻撃目標と位置が限定されるので、効果甚大と言うわけではない。
その傍らでは、ゼンラーが例の巨大な偽タンクをカートからおろし、その怪力でキメラの視線に入りそうなところに設置する。パッシブだとわかっているので作業は安全である。それが終わるとタンクと平行な位置から超機械で自分も援護をしつつ、キメラの行動を監視する。
だがこのキメラ。ミニチュアのタンクには興味がなさげで近づいてくる気配がまるでない。もちろんゼンラーに対して自分から攻撃を仕掛けるようなそぶりは微塵もない。
「こんなに積極性のないキメラは初めて見たかもしれないねぃ‥‥。」
この状況には多少呆れ気味のゼンラー。いったいどういう行動パターンで動いているのだろうこのキメラと、半ば悩みつつの援護である。
ところで遠距離からの攻撃に対しては、キメラは相手にするそぶりを見せない。どうやら肉薄している傭兵達への攻撃に専念しているようなのだが、その間もタンクを背につかず離れずである。まさかタンクを背にしていれば安全だと理解しているとは思いがたいのだが、傭兵にしてみれば爆弾をしょったキメラを相手にしているようなものである。それも飛び切り破壊力の高い爆弾をだ。援護射撃が効果を挙げ難いので、予想外の長期戦の様相すら。
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どんなに注意していてもタイミングが悪いと痛い目を見ることがあるのが戦闘である。そして今回もそういったことが起こったとしてもおかしくはない。
「さぁ‥‥。死の舞踏を‥‥踊りましょうか。一匹残らず刈り取ってあげましょう」
とばかりに目の前のキメラに対峙するベラルーシ。そばで見れば見るほどその姿は奇妙かつ不気味である。
ハトとカラスが合わさったような容姿なのだから無理もないが、大鎌「ノトス」を振りかざしキメラに立ち向かう。当然「嘴」の攻撃だけは避けることを念頭においているのだが、いかんせんこのノトス、鎌という構造上威力はあるが多少扱いにくいのが難点。
ヒュッ、と鎌を振りかざし攻撃するのだが、たまたま何撃目か時にタイミング悪く、キメラに懐に飛び込まれたベラルーシ。
「!!」
と身をかわそうとしたがいかんせん一歩遅く。グシャ、と鈍い音を立てて、左肩に嘴の一撃が命中する羽目に。
瞬間、何が起きたか理解できなかったがすぐに自分の身に起こった状況をわからせられる結果に。
一瞬、強烈な電気が走ったような感覚とともに、急に全身に力が入らなくなり、猛烈な痺れの感覚が全身を突き抜ける。腕の力も抜け。その手にしていたノトスを地面に落とす羽目に。
次の瞬間、全身が硬直しまったく身じろぎすらできないでいる自分に気がつくベラルーシ。発声はできるのだが、いかんせん発声しても仲間には聞こえない。当然身体が痺れているのでボディサインも不可能。
そう、恐れていた「麻痺」のダメージを受けてしまったのである! それを見たのかキメラが2撃目を繰り出す。
だが全身が麻痺しているので、どこに当たったのか目で追うしかない。わき腹のようだ。思わず走る激痛。麻痺していても痛覚は機能しているようだ。思わずひざまずく。
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この異変をいち早く察知したのが新条。ベラルーシがひざまずいた瞬間を偶然目撃したこともあるのだが、咄嗟に何が起こったのかを悟る。そして即座に動いた。当然音声での会話は通じないので、仲間とのコンタクトは事前に申し合わせておいたサインである。同時にアイコンタクトも送る。
そのサイン反応する篠崎、アンジェラ、アズメリアら。事前の打ち合わせで、もし麻痺を受けた仲間がいた場合の対処方を申し合わせてあったのでそれにそってアクションを起こす。
ちょうどキメラがベラルーシに3撃目を浴びせようとする瞬間に彼女を背負い、スキルを使って瞬時にその場から離脱する。当然キメラの射程外へだ。それに呼応して3人が離脱を援護する。麻痺している間キメラの攻撃から守るために壁になるような動きだ。さらにそこへやはり打ち合わせどおりに湊が駆けつけ、救急セットで応急処置をする。幸い深手ではないようだ。
アイコンタクトで無事を確認し、同じようにお互いに礼を告げる。会話が通じない状況では目が大いに役立つのだ。やがて麻痺の効果が消えたようで、ゆっくりと身体を起こすベラルーシ。大丈夫、と今度はボディアクションで示す。いち早い対応があったおかげでダメージも軽くすんだわけである。
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やがて‥‥
「なんとか片付いたみたいやな」
と周囲を見渡すシャロン。いささか物足りなかったような表情ではあるが、それでもほっとした様子で多少笑みと余裕の表情。
特殊な状況下であったため、少々時間はかかったものの何とかキメラをすべて掃討することに成功し、ほっとする傭兵達。爆弾を背負ったようなキメラ相手の戦闘は困難ではあったが。
聴覚をふさいでいたものを解き放ち周囲の音が一斉になだれ込む。
「拙僧の行くところで、ゼンラの神の裁きは下されるのだよぅ」
といつになく上機嫌なゼンラーの声がひときわ響く中、
「悪を殺すのは悪で良い」
と最後まで悪に徹する湊がとてもかっこよく見える。
了