●リプレイ本文
●敵機来襲
澄み渡った空。さえぎるもののないその晴天に、まるで悪魔が引っかいた爪あとのような幾筋もの軌跡。
眼前に立ちふさがるすべてのものを跡形もなく粉砕するが如く、突き進むHWの軌跡。その数は20機。右翼と左翼にある程度間隔を置き、まるで何かに魅入られたかのようにまっすぐ飛来する。
「まったくこんなときに。せっかくのバレンタインも台無しですね」
お楽しみを邪魔された子供のようにむくれるクリア・サーレク(
ga4864)。だが事態が急を要するとあってはやむをえない。
UPC軍、そしてラフィン・ドレイク(gz0257)との合流ポイントに急ぎ向かう8機のKV。すでにその機上レーダーは迫り来るHWの影を捕捉していた。
「ぱっぱかぱ〜〜。真帆ちゃん参上。風雲真帆城参上だよ〜〜」
ノリノリイケイケなオーラを発散しつつ愛機雷電、いや『風雲真帆城』で馳せ参じる熊谷真帆(
ga3826)。陽光に照らし出された銀翼がきらめく。ブリューナクとヘビガトのみのシンプルな武装。
「こりゃ、本来の依頼よりこっちが緊急だよな」
熊谷機と並ぶように飛行するシラヌイを駆るのはAnbar(
ga9009)。すでにそのK‐02の安全装置をはずし、いつでも発射できるように態勢をとる。
「人気者はつらいですね。まあ、しっかり仕事はさせてもらいますが」
同じく雷電の機上で苦笑いの鹿嶋 悠(
gb1333)。吊り下げられたミサイルの数々が獲物を求めそのときを待つ。
するとそこへ、UPCシラヌイ部隊からはいる無線。発信したのはラフィン。
「傭兵の諸君。よくきてくれた。早速だが、敵は両翼に分かれている。特に左翼の大型を含む部隊は我々の手に余る。できればそちらをお願いしたい」
それはこの緊迫した場面でもどこか余裕を感じさせるもの。
「ラジャー。必ず間に合わせますから、待っててください」
その声にソーニャ(
gb5824)が反応する。ブースターを轟かせ、ビュン、と加速するシラヌイS型。
それに呼応するかのように、KV全機が一斉に翼を揺らしながらHWに向けて進路をとる。目標まであとわずか。そして合流するであろうUPC部隊の物と思われる幾筋かのKVの軌跡がかすかに視認できる頃、HWの大群が彼らの視界にも捉えられたのである。
●開戦
なおも突き進んでくる、押し寄せる津波のようなHWの大群。すでにそのプロトン砲の射程にKVが捕捉されようかという時、傭兵達の右翼にはっきりと視認できるまでになったUPC軍のシラヌイ部隊とラル機。
彼らもすでに臨戦態勢。機体を左右に振り、フォーメーションをとる。
「頼みます」
多少ノイズはあるもののクリアーに届くラルの声。そして大きく右翼に展開するUPC部隊。
「了解。全員無傷で帰還します」
守原有希(
ga8582)がそれに応えるかのように愛機シラヌイの翼を揺らめかす。表情が変わる。
敵の両翼の距離約1000m。左翼の敵は小型が10機。大型が2機。上下2段構えで、小型が横一列に並び、大型の前に壁のように展開。
「1、2、3‥‥11、12。全部で12機を視認」
ナンバリングする里見・さやか(
ga0153)。K‐02の標的を作りやすくするために、割り振ったナンバリングである。ウーフーからのそれは傭兵達全機に伝えられた。
「敵、プロトン砲、来ます!」
望月 美汐(
gb6693)が叫ぶ。HWから多数の閃光がKVに。射程で勝るHWが先制攻撃を仕掛ける。だがこれは最初から想定したこと。それを合図に予定通りのフォーメーションを展開する傭兵達。
熊谷機、ソーニャ機、里見機が高度を下げる動き。さらにその前方に突出するかのように鹿嶋機が進路をとる。上下2段のHWの下段側の更に下にもぐるような動き。
「敵は多いですが、アナーヒター、負けるわけにはいきません!」
里見のウーフーがジャミング中和装置を作動させる。さっきまでKVがいたあたりにプロトン砲の掃射がむなしく通過する。
ほぼ同時にこちらは大きく高度を上げ、HWを見下ろすような位置まで上昇するクリア、守原、Anbar、望月機。小型の後方に隠れるように位置する大型HWの姿が視野に捕らえられる位置まで上昇。
「行くよ! エルシアン?! キミの力を」
ソーニャが愛機に気合を入れる。今回初実戦の愛機である為か、かすかな不安がよぎる。
HWがその野獣の如き獰猛さを持って、襲い掛かってくる。
●陽動そして奇襲
高度を下げた4機のKV。彼らがHWの前方から相手の動きを攪乱する、いわば『陽動』役。そして高度を上げた4機がその陽動によってできた敵の隙をつき、ダイブによる奇襲を敢行する『奇襲』役。常に2機以上で連携し、単騎での戦闘は避ける事とする。‥‥それが今回の作戦の概要である。
HWから放たれる幾筋ものフェザー砲がただ1機突出した形になる鹿嶋機に襲い掛かる。長射程の武器を持たない鹿嶋、もとよりある程度の避弾は覚悟でHWの密集陣形の切り崩しを図る覚悟。だがさすがにHWは密集陣形。重装備を誇る雷電といえど、ある程度の避弾は免れない。だがその高機動を生かし、敵の攻撃をわずかにあてさせる程度に留め、致命弾だけは食らわない。
(「多少の被弾は覚悟していますけどね」)
と時折被弾でゆれるコクピットの中で思う鹿嶋。
「やれるのか?」
遠距離からD−02を浴びせ、鹿嶋機をフォローするソーニャ。すさまじい速さで再充填と発射を繰り返し、小型HWに切れ目の無い砲撃を浴びせる。その渾身の一撃に1機の小型HWから白煙が上がる。
「アハトアハト、撃て〜〜〜」
それをタイミングと見たか、ターゲットを大型HWに合わせた里見の8.8cmレーザーが火を噴く。だが、それに事前に気がついた小型HWが咄嗟に立ちはだかる。
「!!」
おおきく揺らぐ小型HW。だが大型HWにはダメージは通らなかった。反撃にレーザーバルカンを放つ小型HW。それをぎりぎりのところで掠めさせる里見機。
「今!」
上空でその光景を見たクリア。HWの陣形が乱れ、そこに生まれたわずかな隙。それを見逃す傭兵ではなかった。K‐02の安全装置を解除するクリア。
「こ、れ、で、も‥‥くらえ!!!」
先ほど里見が施したナンバリングにより敵の数を把握したAnbar、自らの視線にはいる全HWを標的にK‐02を放つ。
「私は‥‥こっちを!」
Anbarが狙ったHWとは別角度からその視界内の全HWをターゲットにするクリア。
「逃がしませんよ!」
その動きにあわせる守原。超伝導アクチュエーターを作動させると同時に、ロケット弾とスラライで敵周囲に弾幕を張る。HWをK‐02の射程内に釘付けにする作戦。その放たれたロケット弾が小型HWの胴体にいくつかの穴を穿つ。
シラヌイから放たれた500発のK‐02。やや遅れて別角度から放たれたクリアの500発のK‐02。それは12機の敵HWに殺到する。おびただしいミサイルの軌跡が空を翔け、敵機に殺到する。
陽動隊にある程度ひきつけられたHW。あわてて何機かの小型HWがそれに反応する。が、いかんせん反応が遅く、フェザー砲で弾幕を張ろうとするが間に合わない。
激しい爆発音、立ち上る白煙と閃光。あたりが一瞬その視界を奪われる。
大型HWに向かったK‐02は、大型HWの放ったファランクスによって大幅にその威力を削がれたものの、小型HWに向かったソレは、確実に小型HWに命中し破壊する。
さらにいくつかの爆裂音に続いて、空中分解し、落ちる小型HW。その白煙が晴れたときには、すでに4機のHWがKVの視界から消えていたのだ!
そして今まで敵HWが存在していた虚空を突き抜けるようにダイブしてすり抜ける4機のHW。すれ違いざまに破曉の高分子レーザー砲と焔刃「鳳」で残った小型HWに一撃を浴びせる望月。おおきく揺らぐHW。そこに守原の8式が襲い掛かる。爆炎を上げそのまま落下する小型HW。
●形勢逆転
傭兵達の奇襲攻撃、とくにK−02の破壊力によって小型HWを一瞬にして4機葬ったことにより、彼我の形勢は一気に逆転したかに思える。だがまだ大型HWはほぼ無傷である。残存の小型HWを盾にするように態勢とる。
眼前の大型HWに対して鹿嶋機のファランクスが猛然と火を噴く。それは確実に大型の足を止める。
「なめてはいけませんよ」
そのまま大型HWと掠めるようにすり抜け反転、背後をとるや至近距離からUK−10をお見舞いし、そのまますり抜ける。さらに反転し、再びUK−10を放ち大型の射線から離脱。地味ではあるが効果的な攻撃。そこへ大型のフェザー砲が鹿嶋機を掠め、虚空を切り裂く。
「チョロチョロとまあ。抜かせませんよ」
かたや8.8cmを小型HWに叩き込む里見。
「てーれって〜。」
さらに後方から熊谷のブリューナクが小型HWを直撃。火花を撒き散らしながら落ちるHW。
「しかと見よ〜〜。このブリューナク」
その破壊力に満足げの熊谷。
一方。大型HWの懐に飛び込まんとするクリア。ミサイルで牽制し、大型が姿勢を変えた隙にUK‐10を叩き込む。がレーザーガトリング砲の弾幕で威力を削がれるUK‐10。
「クリアさん、行きましょう」
クリアとペアで同一目標を捕捉する守原。ロケット弾とミサイルが大型に迫る。だがファランクスとフェザー砲の弾幕がこれを阻む。
「ならば!!」
至近距離からスラライを一閃。大型HWのプロトン砲がほぼ同時にシラヌイに迫る。かろうじて直撃を躱す守原。HWと機体を掠めるようにしてすれ違う。
「ヘビガトヘビガト〜〜〜電光石火!」
大型の背後に迫る熊谷。まるで雨あられのようなヘビガトの銃撃を浴びる大型HW。その巨体がグラリとゆれ、機体から上がるスパーク。ヘビガトの乱射による衝撃が熊谷機にも伝わる。
「まだ小型の数が多い。こっちを先に」
Anbarが今だ稼動中の小型HWに迫る。壁のように大型HWを守る形の小型HW。その小型HWからレーザーガトリングの雨が降り注ぐ。しかしAECを展開しているAnbar機へのダメージは軽微。HWとシラヌイの翼端が掠めるようにすれ違う。反転し、誘導弾で狙うAnbar。さらに、
「目標、エンゲージ!! さあ、格闘戦のお時間」
同じ相手にドッグファイトを仕掛ける望月。レーザーバルカンを至近距離から即射し、すれ違いざまに焔刃「鳳」と高分子レーザーのコンボを仕掛ける。その距離ほとんど0。轟音を上げ、炎に包まれ落下する小型HW。
敵の攻撃をその重装備で耐え抜いた鹿嶋機。形勢が逆転しつつあることにより目の前の状況が有利になる。大型HWの状況が気になるがまだ小型HWの残存機があるので、こちらから先に片付けることに。
「さて、いかせてもらいますよ」
手持ちの残りすべてのUK−10が狙うは手負いの小型HW。間髪いれずに放たれたそれは、敵の弾幕をすり抜けるように的確に小型に炸裂する。メラメラと炎と白煙を上げ、崩れるように落ちていく小型HW。だが敵もひるまない。別の小型から放たれた鹿嶋機へのフェザー砲。それをあえて雷電で受け止めるや、
「うおおおおお」
すさまじい気迫と共にスラライがそのHWに向け轟然と火を噴く。
「援護します」
それに呼応してソーニャのD−02が後方から迫る。さらに返す刀で、AAM発射。迫ってきた小型の足を止め、マシンガンの雨を降らす。それは一瞬の行動。小型HWはまとめて消滅した。
●決着の時
残るは小型1機となお健在な大型2機。すでに形勢は大きく傾き、傭兵達の勝利は目の前である。
「こちら『アナーヒター』。聞こえますか?」
ラル機に呼びかける里見。だが応答はない。UPC軍がどうなっているか視認する余裕はさすがになく。ただ時折聞こえる爆発音だけが、今なお戦闘中である事を示しているのであった。
目の前の小型を葬り去った鹿嶋が再び大型に迫る。スラライが火を噴く。それはその射線上に立ちはだかった小型HWの片翼を貫く。そこからスパークが舞い上がる小型HW。
「お、ち、て〜〜」
絶叫と共に、バルカン砲の雨を大型に浴びせる里見。だが敵は大型。フェザー砲がウーフーに迫る。それは胴体の下を舐めるように通り過ぎる。
「容赦しません」
ヘビガトの雨とブリューナクの強烈な一撃をお見舞いする熊谷。どこからか煙が上がり、何かが爆発したHW。そのメラメラとした炎はまるで断末魔のあえぎのようにも見えた。あと一押し。
「見よ。これが‥‥フェニックスの、本当のチ、カ、ラ!!」
瞬間、フェニックスのスタビライザーを作動させるクリア。その愛機は空中で一瞬にして人型に空中変形。
その手にあるのは『白雪』。すさまじいエネルギーの放出によって生み出されたレーザーの刃が不気味に、まぶしいばかりに揺らめく。
まるで大上段から袈裟切りのように大型HWに振り下ろされるそれは、多量の練力と引き換えに爆発的な破壊力を持って大型HWに襲い掛かる。
「くらええええええええっっっっ」
『ドッカ〜〜〜ンンンン』
ものすごい大音響と共に四散する大型HW。さらにそれがいままでいた空間に一瞬遅れて守原のレーザーカノンの軌跡が到達する。
ほぼ同時にそれより多少小さな爆発音が。望月が最後の小型HWを四散させたのだ。
これで残るは大型HW1機。だがすでにエンジン部からは出火し、その低下した出力のため大口径砲は使用できなくなっていた。
「猛れ、烈火閃剣!」
守原が愛機に最後の気合を入れ、超伝導アクチュエータを作動させつつ、スラライで狙うはその心臓部たるエンジン部分。さらにクリア、ソーニャ機もほぼ同時に大型HWにターゲットをロックさせる。
「こ、れ、で、‥‥お、わ、り!!」
誰の声かこの状況では定かではないが、そんな声とほぼ同時に、3機のKVから1点に集中するすさまじい砲火の轟音。エンジンが損傷した大型HWにそれを避ける余力はもはやなく。
眼もくらむ閃光、火柱、そして大音響を残して100mはあろうかという大型HWは空中に散華した。
●静寂の中で
大型2機、小型10機のHWはこうしてすべて撃墜された。味方の損傷はたいしたことはなく、KVの飛行に大きな影響のでるものではなかった。
「多少、あちこちやられたみたいですけど」
と雷電の状態をチェックする鹿嶋。だが特に危険なサインは表示されなかった。
「シラヌイは?」
と周囲を見渡すAnbar。傭兵達はケリがついたが、向こうのUPC軍の状況は依然としてわからない。見渡す範囲で、空中戦が行われている気配は感じられなかったのだが。
「諸君。無事だったようだね」
といきなりKVに聞こえるラルの無線。その声に思わず安堵のため息をつく傭兵達。
「おかげさまで、こちらも無事に片付いた。今回はキミたちのおかげで、最悪の事態は免れたようだ」
と無線越しの声が喜びにあふれるラルであった。
「さあ、クリアさん。今度デートしましょうね」
ラルのその声をきくやいなや、KVの全員に聞こえるような声でうれしそうな守原。
「若い方は、お熱いですね」
とそれに反応する鹿嶋。照れくさそうに顔を真っ赤にするクリア。そこには普段の表情に戻った傭兵達がいた。
了