タイトル:【KG】を売り込もうマスター:文月猫

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 4 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/03/08 01:10

●オープニング本文


 カプロイア伯爵(一部の人々には【ナイト・ゴールド】とも呼ばれる)とその会社であるカプロイア社。
 本業はもちろん、KVやミサイルなどの軍需関連であり、お得意様は軍や傭兵などその筋の人々である。
 しかしながらこの伯爵。実業家としてもなかなかの手腕の持ち主。であればそのカプロイア社自体、軍事産業以外の民生に向けての商品の開発販売も行っているのことは、直接かかわりの無い傭兵達にはあまり知られていないかも知れない。
 とはいえ民生といっても、民間の航空機を作るとかトラックをつくるとか電化製品を販売する、とかいう内容ではなく、思いもかけないような分野でも商品展開を図っていたりするのだ。それは‥‥

「ほお。新しい男性用コスメの量販サンプルが完成したか」

 と伯爵がうれしそうに見入る、彼の書斎のテーブルの前に並べられたいくつかの大小さまざまな瓶。しかもそのなかに入っているのは、

オーデコロン
トニック
ヘアスプレー
スキンケアクリーム

 などといった、「男性用化粧品」の数々である。それは白いラベルにくるまれた見本品。
 なんでカプロイア社が男性用コスメを手がけるのか? などと思ってはいけない。それなりのきっちりとした理由が存在するのである。
 考えてもみれば伯爵は立派な貴族である。その社交範囲には当然各国の王侯貴族様も多数おられる。よって、そういった方々のパーティーにはたびたび招待されることもあれば、伯爵様がそういった方々を招待することもある。であるからそういったパーティーなり社交界の場においてはそれなりの気品をかもし出すようなメイクも大切かつ重要なのである。

 そこで伯爵様。そういった場にふさわしい男性用コスメに関しても意外なほどの知識と見識を持ち合わせている。かつては既存のそういった商品を数々使ってきたが、今ひとつ自身でしっくりこない。ならば自分で作ってしまえ、というのが事の発端だったのだが。
 とはいえ伯爵のためにだけ単に少量作るのではあまりにも効率が悪いので、それを一般の大衆向として大量生産し商品化する、というのが企業としての普通の考え方。で今回カプロイア社も珍しく?それにならったのだが、一部社員がそれを利用してあることを企む。

「ふむ。で肝心の『ブランド名』はどうするのかな?」
 伯爵が興味津々に尋ねる。どうやら自身満足のいく製品が仕上がったようなのだ。
 そこでこの商品開発を担当した社員、ニヤリ、と微笑むなり小声でこう耳元でささやく。
「それもすでにメディアなどに発表しております。【ナイト・ゴールド】です」

 思わずその表情がこわばったように思えた伯爵。一瞬考え込むような仕草をする。
 なぜなら伯爵御本人、実際は【ナイト・ゴールド】という傭兵をあまり目立たせたくはないらしく、この名前を大げさに扱うのを避けているフシがある。もっともいまさら「手遅れ」なのだが。
 一方この社員。実は『伯爵=KG』だということを密かに知り、常日頃伯爵に振り回されている腹いせ?に、そのような事実は露知らぬフリをして、すでに商品市場やメディアにそのブランド名で売り込んでしまったらしいのである。伯爵の知らぬところで、ブランド名がマスコミなどを通じて公表されているらしいのだ。

「今後はさらに周知度アップの為に、映像媒体を利用したCMなどを計画しております」
 と内心を見せぬように何食わぬ顔で説明するこの社員。
「‥‥少し時間をくれないか?」
 と社員を下がらせて後、どうしたものか、と珍しく考え込む伯爵。

 数時間後。自室に執事を呼び出し、何事かメモを渡す伯爵。メモを一瞥する執事。
「これでよろしいのですか?」
 と念を押す執事。
「まあ仕方ないね。うちの社員の熱意を曲げるわけには行かないし、かといって専門家に頼むのもあまりにも能がないとは思わんかね? 『あの名前』を使うのなら、多少変わったことでもしたほうがいいと思ってね」
 しょうがない、といった諦めの表情の中にもどこかふっきれたような伯爵であった。

 一方この依頼が到着したULT。その一風変わった依頼内容と、その出所のために、モニターの前に人だかりができる有様。そして、その依頼を眺めたある傭兵が一言こういったらしい。

「伯爵ならばしょうがない」

●参加者一覧

緑川 めぐみ(ga8223
15歳・♀・ER
ゴールデン・公星(ga8945
33歳・♂・AA
各務 百合(gc0690
16歳・♀・GD
黒木・正宗(gc0803
27歳・♂・GD

●リプレイ本文

●参加した者たち
 ある日のULTの受付。4人の傭兵がある依頼を受けるためにそこに並んでいた。
「今回の仕事は‥‥ふむ。これか。なになに。ナイト・ゴールドブランドの化粧品のCM? わかった善処する」
 どんな仕事も特に選り好みすることなく引き受けている赤木・総一郎(gc0803)。たとえそれが男性用化粧品のCMであったとしても、である。
「仕事は選ばない主義なんでな」
 受付担当のULT職員の前で口数少なく答え、依頼の内容を改めて確認する。

「始めまして。私アイドルの卵、ムノーです。大のコスメ好きなので参加させてもらいましたーー」
 とうれしそうな各務 百合(gc0690)。むろん彼女は「ムノー」という名前ではない。多重人格気味の彼女、その時によって様々な人格が表にでるらしいのだが、今回はアイドルの卵、『ムノー』という人格が顔を覗かせたらしい。
「へ〜〜。【ナイト・ゴールド】かあ。伯爵様の名前の付いた化粧品のCM撮影ね。なんかとても面白そうで魅力的ね。」
 依頼書の前で熱心にその文面に目を通す各務いや『ムノー』。『化粧品』という3文字以上に伯爵の名前に惹かれたのかも知れない。

「CMか。ならばそれ相応のふさわしいBGMが必要だろう」
 自らピアノやバイオリンを嗜み、依頼の合間には音楽家としても活動するゴールデン・公星(ga8945)。CMといえばそのバックに使われる曲の良し悪しもCMの出来を左右するとあって、今回はその曲つくりにも腐心するつもりらしい。

「参加者以外と少ないんですね。まあ、大規模の影響もあるのでしょうけど。でもがんばっていいCMを」
 なんとかメンバーがそろったことでひとまず安堵する緑川 めぐみ(ga8223)。参加者それぞれが多忙で十分に事前に話し合う時間が取れなかっただけに、無事こうして顔をそろえられてよかった、という表情。

 こうしてにわか役者になりきる4名の傭兵。その出来栄えやいかに?

●伯爵の手元に
 ある日の伯爵邸の一室。大きなソファにゆったりと身をゆだねるカプロイア伯爵様。
「どうやら、CMが完成したようだね」

 執事からとどけられた1枚のDVD。そこに収められているのが、【ナイト・ゴールド】ブランドを売り込むため、傭兵達が一肌脱いだCMである。もちろん事前にその内容はご存知でない伯爵様。今回やむを得ず?この名前を広く世間に広めることを認めたものの、実際にはどんな内容に仕上がっているのか早く見てみたいと密かに思っていたらしい節がある。

 執事を下がらせ、誰もいなくなった部屋で、静かに巨大なプロジェクターのスイッチを入れ、DVDを再生機に滑らすように押し込む。

「さて。どんな風に仕上げてくれたのか、じっくり拝見してみたいものだね」
 とどこかうれしそうな伯爵。そして静かにローディングされたDVDから再生された映像とは‥‥‥。

●シーン1
 どうやらここはとある戦場のようだ。そこにたたずむ2人の男。全身ドロだらけの姿が、つい先ほどまで激しい戦いが行われていたことを物語っているようである。
 その2人。ゴールデンと赤木は、その激戦の余韻がまだ覚めやらぬかのように微動だにせずその場にたたずんでいる。
 そんな2人の心を映し出すかのように重々しいバイオリンの調べがBGMとなって、よりリアルな雰囲気を醸し出している。

 ゴールデンの外見は迷彩模様のコンバットスーツ。髪の毛は無造作に束ねられ、無精ひげを蓄えて精悍そうに見えるその手には、さっきまで砲火をとどろかせていたであろうマシンガンが握られている。その銃口からは御丁寧に白煙まで立ち上っている。
 そして彼の鋭い視線が貫いている方向に映像がゆっくりと振り向けられる。そこにはもう1人の男が同じように鋭い眼光をたたえ、ゴールデンへ射抜くような視線を送っているのがわかる。
 この男は赤木。軍用歩兵外套に身を包み、さらに全身軍服といういでたちで、こちらも眼光鋭く戦う男の雰囲気と迫力満点。その手には細身の剣がしっかりと握られている。やがてこの2人が交互にカメラによってパンされる映像が挿入されたの後、こんなナレーションが語られる。

 『目の前のライバル。それは男の生きる証』

 さらに2人の顔がアップになり、このシーンは終了する。

●シーン2
 いきなり場面は大きく変わる。さきほどまでとは一変し、どこかのシャワールームらしき映像。シャワーを浴びるゴールデンと赤木の映像が交互に映し出される。さっきまでドロだらけだった2人の顔が見る間にすっきりと精悍でたくましい男の顔に戻る。
 そしてシャワーを終えた2人。すると、まずドレッシングルームに入るゴールデンがアップで映し出される。彼の目の前には鏡のついた大きな化粧台。そしてその前には、【ナイト・ゴールド】ブランドの大小さまざまなコスメが無造作におかれている。

 そのひとつを手に取るゴールデン。そして何事か思いめぐらすようにふと視線が宙を泳ぐ。

 それに合わせ映像はフェードアウトし、彼の回想、という形である別のシーンがフェードインして挿入されている。

 どこかとある場所。そこにたたずむゴールデンと緑川。ゴールデンに密かにあこがれる女性という設定なのだろうか、【ナイト・ゴールド】ブランドのコスメを手にし、彼の耳元でそっとささやく。
「あなたは私にとって素敵な男性です。だから‥‥」
 さらにこう続ける。
「これ使ってください」
 と【ナイト・ゴールド】ブランドのコスメを何点か手渡す。その2名の手がアップになった映像で回想シーンは終わる。

 そんな映像の後、再びドレッシングルームのシーンに映像は変わる。

 無精ひげをそり、目の前のコスメを手に取り、顔や首に満遍なく塗りつけた後に、最後に整髪剤で髪型を整える。映像はこうして、戦場での彼とはまったく別人の姿に変わり往く様を映し出していた。
 ゆっくりと化粧台から立ち上がるゴールデン。思わず、にやり、と微笑むゴールデンの表情と共に、こんなナレーションが挿入されている。

 『更なる高みへ』
 
 そしてそのまま映像はとある『パーティー会場』のシーンへと流れていく。
 
●シーン3
 まず映し出されたのは、パーティー会場のドレッシングルーム。そこにその巨体をフォーマルなスーツで包んだ赤木が入ってくる映像。そのまま鏡の前に向かう。見ればその懐から取り出したのは、【ナイト・ゴールド】ブランドのコスメ。それを手に取り、身だしなみを整えるとそれを懐にしまい、ドレッシングルームから退出する。

 次に映し出されたのは、多数の紳士淑女が集う、パーティー会場の映像。ゆったりとしたピアノ曲が流れるなか、笑い、談笑する出席者の表情が何回かカットインされた後、一人のアンニュイな雰囲気の女性、〜ムノー〜がその映像の中心に映し出される。いくつかのテーブルの間を縫うようにして歩くムノー。周囲を見渡すのだがどこか退屈そうである。

「なんか、つまらないパーティー」

 と周囲の華やかな様子がまるで他人事のように冴えぬ表情を浮かべる。
「誰か素敵な彼でもいないかな?」
 などとあたりを見渡したその時に偶然眼に入る彼、赤木‥‥。【ナイト・ゴールド】のコスメをつけた彼は、まるでそこだけ際立ったかのように輝いて見える。その立ち居振る舞いはあくまで優雅に、そして華麗にすら見える。赤木が側を通り過ぎると、その場にいた女性たちが、思わず振り返り、何事かをささやいている様子。

(「素敵‥‥‥」)
 一目で虜になる各務。今までの退屈さなどまるでこの時の為の前触れに過ぎなかったという思い。
(「独り占めしたい、でもなんか恥ずかしい」)
 心に湧き起こる葛藤。でも‥‥。我慢できない。
 そして彼のもとに走りよるムノー。その後ろ姿にかぶさるようにこんなナレーションが流れる。

 『その視線はもうあなたに釘付け』

 その直後場面は再び転換。パーティー会場にあらわれた緑川が映し出される。見れば誰か人を探している風。
(「あ、あれは?」)
 その視線の先にいるのは、【ナイト・ゴールド】ブランドのコスメで見違えるようになったゴールデン。
(「ああ、いとしのナイト様」)
 と心の声をあげ、彼の元に駆け寄る緑川。映像は、駆け寄る緑川とその相手であるゴールデンを交互にカットインしたのち、重なり合う2名の後ろ姿に重ね合わせ、こんなナレーションが挿入される。

 『今宵あなたにも新たな恋の予感』

 そのナレーションが語られた後に、ゴールデンと緑川、各務と赤木の4人が2人づつ交互にカットインで捉えられる画像が映し出され、その4名がその他の多くの出席者の間を縫うように歩く姿が映し出される。それは特殊映像効果なのか、まるで4人の回りにある種のオーラでも湧きあがっているように見え、他の出席者が思わず引き寄せられ、魅入られてしまっているかのようなシーンがつかの間映し出される。ひそひそというささやきと、羨望の眼差しがそそがれる中、人ごみに消えていく4人。
 
 そして‥‥。

 彼らの後ろ姿が徐々にマスクがかけられたようにぼやけていくと、今度は画面全体に【ナイト・ゴールド】のロゴを表面にあしらった大小さまざまなコスメのビンが映し出される。
 ここで最後のナレーションが、このように語られている。

 『ライバルも使っていた。【ナイト・ゴールド】』

 ここですべての映像が終わり、DVDに録画されたCM画像が終了した。

●伯爵唸る
「う〜〜ん。これは」
 映像が終わり真っ黒になったプロジェクターの画面の前で思わず一人唸る伯爵。そして次の瞬間、かすかにうなずくと、執事を呼びこう告げたのである。
「これからは、わが社の広報活動に、傭兵達を活用しようではないか」

 どこかうれしそうな伯爵様がそこにいた。