タイトル:きぐるみひーろーずマスター:文月猫

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/03/29 01:21

●オープニング本文


 とある児童施設の中庭。なにやら簡単なステージがしつらえられ、いかにもこれから何かが始まるぞという気配に満ち溢れていた。
 それはデパートの屋上などによくある、ベニヤ板を組んだような『仮設』ステージ、であった。
 デパートなどのこのような仮設セットやステージで行われるものといえば、大道芸人のパフォーマンスとか、新人の無名歌手やアマチュアのコンサート、あるいはヒーロー戦隊メンバーによるショー、というようなところが定番だと思われるのだが、ここでもご多分にもれずそのようなショーが開かれようとしていた様子。
 そしてステージ前にしつらえられた客席。とは言ってもあくまで『仮設』であるためパイプ椅子がいくつか並べられただけのもので、それは20〜30人も座れば満員になってしまう程度の極めて小規模な客席。

 見ればそこに座っていまや遅しとその開幕を待ち望んでいるのは、せいぜい5〜6歳になるかならないかのまだいたいけな幼児とその付き添いたる大人達。子供たちは付き添いの女性に見守られつつ、その大きな眼を愛らしくくるくるさせながら、その時を楽しみに待つ。

 ステージ上に掲げられた看板には、『よいこのキグルミショー』という文字と、それを縁取る色とりどりのテープや装飾の花。その看板の艶やかさが、これから始まるであろうショーの雰囲気をイメージしていた。
 だが。そんなステージ裏では、予想すらできなかった意外な光景が展開されていたのである。

 時間を少しさかのぼろう。
 LHのとある傭兵君。傭兵になる前に、ある小規模なアングラ劇団ではあるが、一応役者として活躍していたことがある。バグアとの戦いのなかで、能力者の適性が見出されたために、傭兵の道にすすんだのだが、そうでなければ今も役者の端くれとしてがんばっていたかもしれない。
 ところでそんな彼であるが、依頼の合間を縫って、以前からずっと続けていたことがある。

 それはいわばボランティア活動の一環なのだが、幼くして両親を失った戦災孤児相手に、アニメのヒーローやTVで有名な人気者のキャラのいわゆる『キグルミ』を着て、そのパフォーマンスで子供たちを喜ばすこと、なのであった。

 かつての演劇仲間数人と、様々なキグルミを身にまとい、あちこちのこのような施設で数多くのショーを繰り広げてきたのだが、それはかつて自分も孤児であった過去を振り返り、同じような境遇の子供たちを少しでも慰めたいと思う、彼の親心にも似た行為であったのだろう。
 で今回もそんな活動の一環としてこの児童施設の中庭で『キグルミショー』を行おうとしていたのだが。

「え? ショーが開催できなくなった?」
 と児童施設の園長先生。すこし驚いたように電話口で話をする。
 電話口の向こうにいるのはこの傭兵君。非常に落ち込んだ様子で話す内容はこうだ。
 ショーに参加する予定で、施設に向かっていた演劇仲間。彼らの乗った車があろうことか途中で交通事故に巻き込まれ車が大破。死者こそ出なかったもののけが人が出たために、ショーにいけなくなったのだという。
 さらに電話をかけてきたこの傭兵君。本来なら彼も参加するはずだったのだが、あいにくと最近参加した依頼で片足を骨折し、満足に動けない状態なのだという。
 それが意味するもの。すなわち、『キグルミショー』のキグルミを着て楽しませてくれるはずの大人が全員参加できないということであり、それはショーの中止を意味するものだった。
 
 その話を聞いて非常にがっかりする園長先生。当然まだショーを楽しみにしているであろう子供たちには伝えてはいない、というかどうやって伝えたらいいのか言葉を失った状態。それはこの骨折した傭兵君にも痛いほどその気持ちが伝わったのだ。

「でも、安心してください。なんとかしてみせますから」
 と電話口の向こうで努めて明るい口調で話すこの傭兵君。自分がまだ病院で入院中であるにもかかわらずだ。
「期待してもいいのですか?」
 かすかな希望を見出したかのように念を押す園長先生。
「‥‥はい。子供たちが待っていますから」
 ときっぱりと言い切る傭兵君。なにか秘策がありそうである。
 彼はメモを取り出すと、再びいずこかへ電話し始めた。

●参加者一覧

火絵 楓(gb0095
20歳・♀・DF
大槻 大慈(gb2013
13歳・♂・DG
七市 一信(gb5015
26歳・♂・HD
ソウィル・ティワーズ(gb7878
21歳・♀・AA
陽山 神樹(gb8858
22歳・♂・PN

●リプレイ本文

●子供たちはお待ちかね
「ねえ。まだ始まらないの?」
「どんな、ひーろーさんがやってくるのかな?」

 まだ開演までかなりの時間があるというのに、待ちきれないように用意された椅子の上にチョコン、と座って両足をばたつかせながら、付き添いの大人達にすがる子供もいれば、控え室をかねている通路の中をなんとかして覗き込もうとしている子供たちあり、もう夢中で無人のステージの上を走り回っている子供たちあり。
 だが皆、来るべきその時をいまや遅しと待ち構え、そんな騒ぎ立てる子供たちを制止しようとする大人たちの言うことなどまるで聞く耳を持たない様子である。

 そんな喧噪は、建物内に三々五々集まってきた傭兵達にも十分に聞こえるほどの大きさである。その甲高い叫び声が傭兵達の気分を高揚させ、これから自分達がしようとすることへの責任感と義務感がふつふつと湧き上がってきたりするのだ。

「凄い騒ぎね。きっと待ちかねているのね」
 控え室にまで伝わってくるその騒ぎに耳を傾け、キグルミショーの準備にいそしむソウィル・ティワーズ(gb7878)。なにやらいろいろ持ち込んでいるのか、彼女の周りには小道具が散らかっていた。
「子供たちの笑顔は大事ね」
 そんな純粋な思いが今彼女の脳裏をよぎる。
「キグルミなら、まかせときな。子供たちが喜んでくれれば最高さ!」
 持参した自前の『どらごん』のぬいぐるみを身にまといつつうれしそうな大槻 大慈(gb2013)。
 その隣では、カンペ片手に、さっきからなにやらブツブツと小声で何事かつぶやく火絵 楓(gb0095)。みればカンペにはいろいろ司会進行に欠かせないセリフとか演出とかが書き込まれている。そう。彼女の役割は何より大事なショーの司会進行。彼女の盛り上げがショーの成功の鍵を握っているといってもいいかもしれない。
「キグルミ、と聞いてほいほい参加してしまったけど。ま、気分転換にはなるし」
 といつも同様おなじみの『全身パンダ』の七市 一信(gb5015)。最近気の重い依頼が続いたので、よい気分転換になると考えている。
「さあ、今日は立派なヒーローだ。うん。ヒーローになりきってみせるさ‥‥。でもちょっと緊張するなあ」
 自らショーに出演することの意気込みと緊張感が微妙に混ざりあったような複雑な心境の陽山 神樹(gb8858)。自前のパイロットスーツ、マフラー、ヘルメットで着ぐるんだその見た目は、どこかのアニメのヒーローによく似た雰囲気である。

 かくして各自オリジナリティーと成りきり度120%に見える傭兵5名。準備万端整えいざステージへ!!

●キグルミショー始まるよ〜〜
「さあ、みんな〜〜。大きな声できぐるみさんたちを呼ぼう! 1、2、3、はい!!」
 と子供達に呼びかける園長先生。それと同時に華やかかつ軽快なBGMが流れ始め、そのありったけの大声でめいめいに呼びかける子供たち。すでにテンションはMAXである。

「は〜〜い。みんな、待ちかねたかな〜〜??」
 とこちらもテンションMAXで、最初にステージに登場する楓。見れば全身オリジナルの『鳥』のキグルミで颯爽と登場する。にこやかに明るい声で子供達に呼びかけつつ、である。その今にも羽ばたきそうな姿に思わず歓声をあげ、ステージ間際まで駆け寄ろうとする小さな女の子も。
「さあ〜〜。みんな。まずはお姉さんが手品を見せてあげるね〜〜〜」
 とまずはツカミはOKと見たか、ショーをさらに盛り上げるためにマジックを披露する楓。

 それは極めて単純でかつシンプルな、誰が見ても仕掛けミエミエの手品であったにもかかわらず、子供たちの驚きと爆笑を誘うには十分。なにせ、マジックショーなど生まれて初めて生で目にする子供もいたのである。
 シルクハットからいきなり鳩が出てくれば、目を丸くして驚き、首がぐるぐると面白いように動けば思わず爆笑する。それは大きな渦のようになって園内に広まっていく。それはこれからステージに登場する傭兵達を後押しするような力となる。
 かくして、ステージはいよいよメインイベントに突入するのだ!

●お決まりの悪役登場!
 いきなりステージ左右のライトが怪しく明滅し、どこからともなく聞こえる不気味な笑い声。それが途切れたかと思うまさにその時。ステージ上に現れる怪しい影‥‥。 
 見ればそれは不気味な怪人風のかつセクシー目の相の子のような服装の女。その脇にはこれまた全身パンダ風体ながら、悪魔っぽい角とか翼を生やした、その女怪人の手下と思えるこれまた謎のキグルミ。いかにもお約束といった怪しげなこの2名。演じているのは、ソウィルと七市。悪の女幹部『アークムーン』、ソウィルとその手下『パン・ダン』、七市という設定。だがどこか多少お間抜けな感じで、どこぞのアニメにでてくる女幹部のような雰囲気がオーラとして漂っている。しかもその歩き方は傲慢かつ高飛車なイメージ。
 この2人の登場で場内はいっきに緊張感に包まれる。これから何かよからぬことが起きるのでは、という雰囲気は幼い子供たちにも敏感に伝わるのだ。
「ははは。驚いたみたいだね。私は悪の大幹部『アークムーン』。そして私の片腕の『パン・ダン』。今から私たちがここを支配するのさ」
 といかにもお約束、といったセリフで子供たちを驚かす『アークムーン』、ソウィル。それにあわせるかのように鳴き声を上げ威嚇する『パン・ダン』、七市。

「パーーーーーンダ!!」

 いきなり怪人特有の奇声を発するとステージ側にいた一人の男の子を抱きかかえ、そのままステージ上へ。どうやら「人質」にしようという魂胆か。びっくりしたようにステージ上で抱きかかえられたまま立ち尽くす男の子。きゃ〜〜〜、という悲鳴が見ていた幼い女の子の間から漏れる。
「ははは。この子はいわば人質。この施設は私たちが乗っ取ったのさ」
 となにやら勝ち誇ったような『アークムーン』、ソウィル。この高飛車で高慢ちきな態度はまさに悪役にふさわしいものである。その手にしたムチをパシ、とステージに叩きつけると、バチ、と上がる火花。だがその床に打ち付けたはずのムチが、跳ね返って彼女の顔面に直撃。その為思わず顔を押さえる『アークムーン』、ソウィル。なるほど。このどこか多少マヌケなBAKAっぷりまでまさに悪役女幹部そのものである。
 そしてこの2名。勝ち誇ったようにステージ上で仁王立ち。だがここまでくればお決まりの展開が待っているのである。

●ヒーローの登場だよ〜〜
 ここで楓の出番である。ステージ脇でタイミングを計っていたかのように声を上げる。
「さあ、みんな! ここで大声で正義のヒーロー、『どらごん君』を呼びましょうね。せ〜〜の〜〜」
 とオーバーアクション気味に声をかけ、子供たちを煽る。ノリが今一、と見るや更に煽る。
 その声はさらに輪をかけたような渦となってステージから園内へと駆け巡る。そして建物に反響し、絶妙のシンフォニーになってテンションがMAXを更に超える頃‥‥
 ついに、我らのヒーローがその勇姿を現したのだ!!

「やあ、みんな、俺が『どらごん君』だ!! 待たせたな」
 呼ばれて颯爽とステージに駆け上がるのは、自前の竜のキグルミをまとった、『どらごん君』、大慈。だがよく見ればその手には巨大な『ハリセン』がしっかり握りしめられている。その口からは今にも炎のブレスを吐かんばかりの勢いであるのだが。
「悪いやつは、この『ハリセン』をお見舞いするんだぜ」
 と勢いよくそれを振り回す。そのパフォーマンスに場内大歓声。さらにステージ脇まで群がろうとする子供達。
 さらにはその勢いでステージ上の悪役たちと対峙するためにポーズをとり構える『どらごん君』、大慈。

「ふふふ。これでもくらいなさい」
『アークムーン』、ソウィルがそのムチを振るう。するとそれにあわせて爆竹が炸裂。本来ならステージ上での火気使用は危険なのだが、特別に許可をもらっているのでOKなのだ。その勢いに思わずあとずさる『どらごん君』、大慈。
 だが彼も負けてはいない。即座に反撃に転ずる。だが『アークムーン』、ソウィル。その手下『パン・ダン』、七市から子供を預かると後ろに後退。

「パ〜〜〜ン、ダ!!」

 と叫び、襲い掛かるパンダン。だが当然ヒーローは強い。さすがのパンダ怪人も後退し、追い詰められる。そしてあと少し、というところで‥‥

●助っ人参上する
 卑怯なり女幹部。人質を立てにとるや、あからさまに虚勢を張る。
「これが目に入らないのかい? この子の命が惜しくないのかい」
 と、さも子供の命を殺めんかとするような勢いである。
 これには『どらごん君』、大慈も怯んだ。子供を人質にとられては手も足も出ない。無念さを顔にだしつつじりじりと後退。そこへ勢いを盛り返した『パン・ダン』、七市が迫る。ヒーロー絶対絶命?かと思いきや‥‥。
 
 その頃、衝立に隠された通路では。
「緊張なんかしてない、してない」
 とあえてリラックスに努める神樹。そう。このクライマックスシーンでもっとも目立つのが彼の演じるヒーロー、『破暁戦士ゴッドサンライト』なのである!

 ステージ上での煽り声にはやし立てられるようにタイミングを計りつつ叫ぶ。その声は絶妙なエコーがかかってまるで天から降りてきた声のようにすら聞こえる。
「待て! 『アークムーン』。その子は渡さないぞ!」
 そのまま勢いよくステージに飛び出す『破暁戦士ゴッドサンライト』、神樹。即座に女幹部に脳天チョップをかます。怯む女幹部。そのスキに人質の子供を奪回。そしてかばうようにすると決めゼリフだ。
「俺の名は破暁戦士ゴッドサンライト! 人に希望を与えるために生まれたヒーローだ!!」
 ここで一気に盛り上がる場内。子供の甲高い歓声が沸きあがる。いよいよヒーロー揃い踏みである。

 かくしてショーのクライマックスシーンが開始されたのである。

●悪党は成敗されるのだ!
 だが悪党もここで本気モード。共に2名のヒーローに襲い掛かる。押される『破暁戦士ゴッドサンライト』、神樹、と『どらごん君』、大慈。だが正義は決して負けてはいけないのだ。
「ここで!!」
 起死回生のパワーアップとそれを誇示する『破暁戦士ゴッドサンライト』、神樹。それをきっかけに一気に反転攻勢に転じるヒーロー軍団。
 するとその間隙を縫って、『パン・ダン』、七市にこっそり攻撃を仕掛ける楓。だが逆にあっけなく倒され、すごすごとステージ裏に消える。

 雄たけびを上げヒーローに襲い掛かる『パン・ダン』、七市。だがヒーローを後押しする子供たちの歓声が強まれば強まるだけ次第に弱々しくなっていく。
「キ〜〜〜。やったわね!」
 そして『アークムーン』、ソウィル。人質をとられた怒りから悔しがり我を忘れたようにヒーロー軍団に襲い掛かるも所詮は多少マヌケな女幹部。お約束かつお決まりの展開で次第に劣勢になり、ついには‥‥。

「くらえ!! サンライトキック!!」
「ハリセン〜〜〜。スプラッシュウウウウ!!」

 大慈と神樹、2名の正義のヒーローの繰り出す必殺技が悪の軍団に炸裂。悪の栄えたためしはなく、悪2名、仲良くコロンとその場に転がるや、土下座して降伏する『アークムーン』、ソウィル、と『パン・ダン』、七市。
 かくして悪は倒され、正義のヒーロー達は勝利したのであった。めでたしめでたし、である。そんな様を子供目線でいつのまにか眺める楓。完全に傍観者モードである。
 戦い終わって、降伏した怪人2名の元に近づき何事かささやく『破暁戦士ゴッドサンライト』、神樹。どうやらこんなことをささやいていたようである。
「さあ、俺たちと一緒にバグアという極悪非道の侵略者と戦わないか? それが俺たちに与えられた使命なんだ」
 その問いかけにうなずく『アークムーン』、ソウィルと『パン・ダン』、七市。どこからともなく湧き上がる拍手。それは次第に大きな余韻となってあたりを包み込む。最後に5名全員がステージに上がり大きく一礼して、無事にショーは終了したのである。

 それを受けてさらに鳴り響く拍手と響き渡る歓声。それはステージ周辺から、施設の園内一帯へと伝わっていくのである。
「悪は必ず滅びるのだ!! バグアも必ず滅びるのだ!!!」
 そこには啖呵をきるかっこいい『どらごん君』、大慈の姿があった。

●みんな仲良く遊ぼう
 ショーが終わればあとはお楽しみの子供たちとの交流タイム、である。すっかり改心した『アークムーン』、ソウィルと『パン・ダン』、七市も子供たちの輪の中に加わる。とくに子供達は、まさに本物仕様の七市の『キグルミパンダ』に非常に興味を示している様子なのだが、結局今回は最後まで、
「パンダ」
 としかしゃべらずに通した七市であった。

「あら、そこの奥様。最近の子供の教育は‥‥」
 母親と思しきを若い美人を見つけた楓。どうやら子供の教育問題について語ろうとでもいうのだろうか?
 そんな傍らでは子供たちとハグする大慈。『どらごん君』、のきぐるみは大好評のようである。ふと見れば、そこには涙ぐんでいるように見える園長先生の姿が。それはうれし泣きかそれとも‥‥‥。
 今回一番おいしそうなところを持っていった感のある神樹。もちろん彼もの周りも子供たちの輪ができていたりしたことは言うまでもない。

「そう、これだよね。これがあるから戦っていけるんだよね」
 自分の戦う理由を、子供たちの笑顔と園長先生の涙の中に垣間見た気がする七市であった。