タイトル:休暇の代償マスター:文月猫

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/31 23:46

●オープニング本文


 ドイツ南部、ライン川沿いの某町。この町の郊外に、ライン川を渡る、新しい橋が建設された。UPC欧州軍の前線への物資輸送における重要な役割を担うであろうこの橋の建設には、UPC軍も全面的に協力し、工兵隊をも建設作業に従事させていたほどである。もちろん、UPC軍のみならず、地元住民のこの橋に対する期待も大きかった。町の発展につながるからである。が、しかし‥‥

「なんだって? 橋をキメラに占領された?」

 それは、ベルリンにあるUPC欧州軍本部にもたらされたのは、ある暖かい昼下がりであった。その一報を受けたとき、情報管制室の責任将校は、明日から休暇をとって、バルト海沿いのリゾート地へ出かける予定をしており、現地で滞在予定のホテルのパンフレットを眺めていたときだった。

「なんだって、こんな場所にキメラ?」

 彼がいぶかしむのも無理はない。そこは、人類側の絶対支配圏であり、ましてや、競合地域からも距離があり、どう考えても、キメラの存在自体めったにありえないと思われていたからだ。彼は、早速、部下の一人を個室に呼び、詳しい状況を尋ねた。

「確かあの橋は、明日開通式だったはずだが」

 彼は、自分の机の上の卓上カレンダーに目をやった。それは、自分の休暇を示す赤い丸で囲まれた最初の日だった。

「はい。そうなんですが、キメラに橋の上を占領されているらしく、民間人含む関係者が誰一人近づけない状況だそうです」

 部下は、明日から、うるさい上司がいなくなるのを待ちきれない喜びを押し殺しつつ報告した。

「我が軍は? 工兵隊がいるはずだが」

 現地には、UPC軍の工兵隊員の何名かが建設作業に従事していて、今もいるはずである。

「工兵隊員は、全員工事完了とともに、昨日引き上げました」

 部下が、事務的に報告する。よりによってこんなときに、なんとついていないことか、と内心責任将校は思ったが、顔には出さず、

「なんとかならんのか? キメラを排除できんのか?」

 このとき、彼の心配は、自分の休暇が返上になってしまうのではないかという、なんとも自己中な考えに傾いていたのである。キメラ殲滅の為にこちらから部隊を派遣すれば、当然、自分の休暇は返上せざるを得ない立場にいる彼にとり、なんともやっかいなことなのだ。久々の休暇である。やっと、リゾートホテルでのんびりできるかと、今から楽しみにし、あと半日何事もないことだけを願っていたのにもかかわらずだ。そんな責任将校の内心を知ってかしらずか、はたまた、せっかくの鬼のいぬ間なのに、それが実現直前になってお流れになりそうで、内心おだやかでない部下は機械的に告げた。

「今から、キメラ掃討部隊を編成すれば直ちに、現場へ派遣できます。」

(「それでは、私の休暇が‥‥」)

 と危うく口からでそうになるのをこらえ、責任将校は、少し時間をくれ、といって彼を下がらせた。かといって、なにもせずにすむわけもない。今から式典を延期するわけにも行かず、かといって軍を派遣すれば‥‥

「!!」

 突如、彼の脳裏にあることがひらめいた。軍を動かさなければ、自分はバカンスに入れる‥‥。彼は、デスクの上の電話に手を伸ばした。

●参加者一覧

ナナヤ・オスター(ga8771
20歳・♂・JG
エルファブラ・A・A(gb3451
17歳・♀・ER
鳴風 さらら(gb3539
21歳・♀・EP
ヤナギ・エリューナク(gb5107
24歳・♂・PN
緋桜 咲希(gb5515
17歳・♀・FC
キヨシ(gb5991
26歳・♂・JG
御守 剣清(gb6210
27歳・♂・PN
冴木氷狩(gb6236
21歳・♂・DF

●リプレイ本文


 さて今回の依頼である。通常の依頼であれば、ULTのモニターに映し出される依頼に対して、大概は多くの傭兵がその依頼実行に向けて名乗りを上げるのだが、今回はちょっと様相が違っていた。ある者は依頼の経緯をオペレーターに確認するだけで、そそくさとその場を離れ、ある者は、露骨に不快感を浮かべ、また、一度依頼を受けた者でも、あとから断ってくるなど、明らかに反応が普段とはちがっていた。傭兵達が乗り気でないのは明らかであった。よって、今回依頼を受けた傭兵たちも、顔にこそださねど、腹の中に思うところはあったはずである。現場へむかいつつ次々と愚痴る傭兵達。

「なんかなあ‥‥。すっきりしないんだよなあ」

 普段ポーカーフェイスのナナヤ・オスター(ga8771)にしては、珍しく露骨に嫌悪感を露にする。

「責任放棄ではないのか? こういう場合」

 物事にほとんど動じず、また感心も示さない、エルファブラ・A・A(gb3451)にしてはこれも珍しい物言いである。

「なんで、傭兵がやらなきゃいけないわけ? こんなの軍の‥‥」

 当然の仕事でしょ、と言わんばかりに、いらついているのが一目でわかるのが鳴風 さらら(gb3539)短気な性格が、あからさまに現れた言い方である。

「埋め合わせでもしてくれるんじゃないの?」

 酒と煙草を愛し、見かけによらず、ベーシストとしても一流であるヤナギ・エリューナク(gb5107)は、将校様にはまだ一言二言言いたげである。だが、そんな中にも

「食べるためには仕方ないんじゃないの?」

 と割り切った表情の、どこか初々しさが抜けきれない、緋桜 咲希(gb5515)。どうやら、それほど危険な任務ではないということで、あまり後先考えてない御様子。まず、安全第一との思いが強いようだ。

「皆さん、やる気‥‥、あるんですか?」

 とでもいいたそうな表情のキヨシ(gb5991)。はじめる前から戦意なし、といった感じで紫煙を立ち昇らせている。趣味で花を楽しむ青年には見えない。

「今月金欠なんだよ。やるっきゃないだろう、たっくなあ」

 御守 剣清(gb6210)である。いったいなんで金欠なのかは不明だが、当座の金に困っているらしいのは明らかだった。やむにやまれず引き受けたというところか。

「最後に、しっかり自分のケツの始末はしてもらうさかいにな」

 見るからに、京都弁をしゃべる髪の長い女の傭兵にしか見えないが、実は♂である、冴木氷狩(gb6236)は、そういって、その黒髪を手早くまとめた。そのしぐさはまるで元から女性であったかのようだ。‥‥、こうして、内心さまざまな事情を抱えた傭兵達が今回の依頼を引き受けることになったのである。


 さて、現場では、橋の開通式典の関係者が、彼ら傭兵の到着を待ちつつ、遠巻きに橋を見守っていた。UPC軍からは、兵力は出せないが、傭兵たちを向かわせる、と事前に連絡を受けていたので、彼らの姿が見えるなり、そこかしこから集まってきて周りを取り囲む。その表情は、期待に満ちあふれていた。

「やつら、一向に橋から動こうとしないんです。とても、我々の手には負えなくて」

 と関係者の一人、地元の役人と思しき男が、嘆くように語る。動こうとしない、理由がなんなのかはよくわからないが、いずれにしてもキメラを掃討しないことには、目的は達成されないのだ。言われるままに橋の方を見れば、確かに、橋の上そこかしこに、キメラらしき生物が、宙に浮くようにとまっている。遠めでははっきりわからないが、羽のようなもので、浮かんでいるのだろうか? 一見するとハーピー風だが。やつらは、時折、川上や川下へ行き来しつつ、この橋がまるで自分たちの縄張りであるかのように、そこに戻ってくるのだ。その数7〜8体。思っていたよりも多い。しかも、橋を傷つけないように戦闘行動を行わなければならないために、条件はかなり厳しそうである。

「結構いますね。ちょっと手間取るかも」

 と御守。その目は眠そうで、余計やる気のなさがにじみでている様子。まだ、こんな依頼なら受けないほうがよかった、と内心思っているそぶり。

「しゃーないすっね。とにかくやりまっか」

 とはキヨシ。なんと、言いながら大欠伸。やる気がないのは皆おなじだったのだ。かくして、モチベーションが限りなく最低に近い中で、とにもかくにもキメラ退治が行われることになった。


 前衛と後衛に別れ、ゆっくりと橋に接近する傭兵。こちらの気配を感じたのか、動きがあわただしくなるキメラ。接近すると、キメラの姿かたちがはっきりみてとれる。実際、浮かんでは居るのだが、予想していた羽と思しきものが見当たらない。何か、羽ばたき以外の手段で浮いているようなのだが、傭兵たちにはよくわからない。前衛の、ヤナギ、緋桜、冴木、御守が先にキメラと距離を測り、攻撃のタイミングを窺う。ナナヤ、エルファブラ、キヨシ、鳴風は前衛から少し離れ、キメラの牽制、攪乱、狙撃を図る。羽がない状態でうかんでいるので、当初考えていた、飛翔器官への攻撃は不可能である。全員覚醒し、準備万端である。

「隙をみつけつつ攻撃しましょうかね」

 とナナヤがまず、ライフルで狙撃を試みる。弾は手近に居たキメラの胴体に命中した。彼の狙撃が合図となり、前衛がキメラに肉薄する。数が多いので、囲まれないように注意し、後衛が囲もうとする相手を狙撃し、1VS1の状況を作り出す狙いだ。とはいっても、お互いの距離が近いので、どうしても接近肉弾戦に近い様相だ。上空から攻撃してくる分だけキメラ有利に見えるが、傭兵達の絶妙なポジション取りで、キメラの優位を打ち消している。

「ちんたら、浮いてんじゃねえ。とっととおちやがれ!」

 とばかり、ヤナギがイアリスで一閃。もちろん鉤爪には注意しつつ。なおも、キメラに迫る。さらには挑発。だが、そんな行為が、一瞬の隙を生んだ。キメラの鉤爪がわずかにヤナギをヒット。掠めた程度だったがそれでも多少の手傷を負う。この一撃で闘争心に火がつく

「やりやがったな!!」

 即座に円閃を使いイアリスで一撃。キメラに致命傷を与える。さらに一撃。急所にヒットしたようで、キメラは落下した‥‥、その隣では、御守が1匹のキメラと格闘中であった。お互いに相手の出方を窺いつつ、じわじわと接近する。

「落ちやがれ」

 という叫び声とともに。ハンドガンで鉤爪を狙い、さらに接近戦に持ち込む。敵の注意をひきつけ、隙をうかがいつつガードを固め、持久戦の様相だ。がやはり、キメラの攻撃が彼にもキバをむく。鉤爪が彼のわき腹を掠めていった。と、そんな彼に対して、『狙撃眼』を利用したナナヤがライフルによる援護射撃を行いつつ、

「隙発見」

 とばかりに、『急所突き』『強弾撃』による一撃で、キメラを屠った。これでなんとか2匹掃討成功。さらに、彼はその隣に位置するキメラに対しても、狙撃により援護を行おうと、ターゲットを定める。前衛への被害を最小限に食い止めようとの狙いだ。そこには、冴木がまさにキメラと対峙しつつあった。女形と思えぬ身構え方は、柔術の使い手だけのことはある。

「さあ、どっからでもこいや」

 と威勢のいい、気合とともに、ヴィアを振りかざす。片手にはシールド、いわば攻防兼備の態勢で、相手を挑発し、隙を作ろうと試みる。『流し切り』、『両断剣』といったスキルをたくみに使い分け、相手を翻弄し、着実にダメージを負わせる。何撃かの後に、キメラは骸と化した。これで3匹。だが、まだ相手は多い。不利な状況を察したと見え、一塊に固まると、1点突破のような態勢で身構え、さらに上空から襲い掛かろうとする構え。と、そこへ、『弾頭矢』がうなりを上げ、1匹のキメラに襲い掛かる。エルファブラだ。相手の一瞬の隙をも見逃さないといった、凛とした表情で、その場にたちつくす。

「敵の動きを見切った。行動予測済み。さあ、その命もらい受けよう」

 あくまで冷徹に無表情のまま、ギリギリと弓を引き絞る。と、キメラがいきなり、周り込むようにして仕掛ける。だがこれも冷静にかわす。相変わらず、無表情で冷静に相手の動きを分析し、まさにギリギリの距離をとる。その動きは、精密機械のようだ。

「ふん。貴様の動きなど予測済みだ。無駄なことを」

 と叫び、とっさに飛びのく。速い。相手を失ったキメラは無防備な状態。そこへ、キヨシのアサルトライフルが火を噴き、キメラを直撃した。

「側面援護はまかせといてや。気を緩めんとな」

 とエルファブラにアイコンタクトで伝える。うなずく、エルファブラ。逃げようとする相手には、『影撃ち』を使い、相手を追い詰めていく。一撃、また一撃。だが運悪く、キメラに致命傷を与えたものの、急所ははずしてしまったようだ。虫の息になりながら、他の仲間の影に隠れるようにして、戦場を離脱しようとするキメラ。今にも落下しそうな様子で、あと一撃もあれば確実にしとめられそうだった。

「逃がすかい」

 とばかり、ライフルを構える。だが、あいにく味方の影になり、撃てない。一瞬ためらうキヨシ。そうこうするうちにキメラは射程外の河の上に逃げ去った。だがダメージは深そうだ。果たしてどこまで逃げられるかは疑問だ。‥‥その頃。一人イライラと感情を露にしていたのが、鳴風だ。ただでさえ、今回の件に関して不満でもやもやしている上に、キメラ自体が的として小さく、自慢のサブマシンガンで狙うのだが、なかなかあたらないのだ。あざ笑うかの様に右へ左へとやりすごすキメラ
 
「え〜〜い。もうあたらないじゃないの!」

 と我を忘れ感情剥き出しである。戦闘開始時は前衛のサポートをしていたのだが、あたらないことに業を煮やしたのか、いつのまにか、キメラと接近戦を挑んでいる。そのため、ちょうど盾のような役割になり、冴木がその背後からキメラにアタックするようなポジションになり、ちょうど2人がかりで攻撃するような態勢になった。

「すまねえ」

 というような表情の冴木。彼らの渾身の一撃がヒットし、キメラは絶命し落下した。 

「こんなんじゃ、すまないわよ」

 1匹や2匹屠った程度では、彼女の不満の捌け口にはならないようであった。


 そんな傭兵たちの中にあって、ただ一人、他の傭兵達とは少し離れた場所でキメラと対峙している緋桜だけは、キメラに押されぎみで、キメラに対して、有効な手立てが見出せない状態が続いていたのである。手にしているのは、風舞。そのオリジナル武器は、ちょうど鎖鎌のような形状をしており、半径2Mぐらいの有効範囲をもっているが、いかんせん、練度が不足していているためなのか、使い方そのものの問題なのか、攻撃はするものの、なかなかキメラへのダメージにはつながらない。というか、キメラに対して、遅れをとっているような感じで、相手を威圧するのではなく、腰が引け気味で、相手に気おされている様子がみてとれる。試しに、武器をハンドガンへ持ち替えてみるのだが、どうも銃器の扱い方に不慣れ、というか、明らかに経験がない様子。そんな彼女がくみしやすい相手と思ったのか、複数のキメラが彼女に狙いをつける。他の傭兵達は、彼女と距離があり、かつ間にキメラがいるので、なかなかサポートに入れない。なんとか、狙撃によって引き離したものの、なお、1匹接近した状態で、依然彼女にとっての苦戦が続く。

「この! ‥‥いいかげんにしてよ。なんで、私にばかり」

 とほとんど気も狂わんばかりの半ベソ状態。もはやその姿は傭兵ではなく、普通の女の子である。そうこうしているうちに、キメラもあらかた殲滅され、彼女と対峙していたキメラは、その状況を察したのか、たいしたダメージもないままに、隙を見てそこから逃走してしまったのである。残念ながら、撃ちもらした格好になった。サポートが間に合わなかったことをわびる他の傭兵たち。だが、彼女には別段悪びれた様子もなかった。完全に割り切っていたのだ。

「仕方ないさ。いなくなっただけでも、OKとしよう」

 その場は口々に慰める傭兵達。実際、自分たちも目の前のキメラに手一杯だったことも確かである。

「こんなことなら、将校様を餌にでもしときゃよかった」

 と毒づくキヨシ。‥‥。こうしてなんとか、キメラを追い払うことには成功し、無事に予定通り式典が開催される運びとなったのである。が、まだ、傭兵達の仕事はこれで終わったわけではなかった。

「さて、まだ大事な仕事がのこってるやないか」

 と不敵に笑みを浮かべる冴木。そう、彼らには、どうしてもやらなければ気がすまないことが残されていた。
 

 後日‥‥。休暇を終えて任務に復帰した例の将校様は、自分の私室に、大きな荷物が届いているのを見つけた。それは、まるでプレゼントのような包装が施されていたが、差出人の名はなく、結構大きく、またそこそこ重かった。彼は、不審に思いつつ、特にためらう様子もなく箱を開けた。それはアイスボックスのようになっていた。で、中を覗いた次の瞬間、彼は卒倒し、直ちに医務室に運び込まれた。そこには1枚の紙切れがはいっており、こう書かれていた。

「キメラの死体確認は、指揮官様のお仕事です。 by傭兵一同」

 そこには、紙切れといっしょに氷付けのキメラの頭部が収められていた。