タイトル:無人島探索マスター:文月猫

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/07/19 04:57

●オープニング本文


 地中海の某所に浮かぶ、名もなき無人島。以前はバグアが占領したりもしたのだが、現在は人類側が支配する地域になっており、バグアの脅威から解放されたといってもよい地域である。
 島は東西南北2kmほど。温暖な地中海にあるせいか、オリーブやブドウ、柑橘類の植物や、常緑広葉樹林が生い茂るほとんど未開の島なのだが、南の端付近にそこそこの広さの砂地があるのが特徴的である。
 その砂地の広さは東西南北におよそ500mほどの広さで、特になにも障害物が無い白い砂が鮮やかな砂浜と言ってもいい地帯。
 
 で、この無人島に小さな船着場と倉庫を作る計画が。というのもこの無人島、付近が豊富な漁場になっており、そのために付近の漁民が収穫した魚を貯蔵するための倉庫を作りたいのだという。一時バグアに支配されるまでは、ここらあたりでは数多くの漁船が漁をしていたことで有名。バグアの手に落ちてからは、そういったことは出来なくなったが、再び人類側が取り返したので、漁を再開したいのだという。
 もっとも、こんな小さな辺鄙な無人島。バグアとしても別になんら価値を見出さなかったとみえ、ほとんど放置していたのではないかと思えるフシもあるのだが、それはさておき。

「ひとつ問題がありまして」
 と地元の漁業組合の理事長が、ある日知り合いでもある某UPCの高官との会食の席で、ふとしたことからこの無人島の話題に触れる。
「この無人島。バグアがいなくなってから、まだ誰も立ち入ったことがないんですよ」
 バグアが去ってからはや1年近くが経過しているのだが、何故か誰もこの島に立ち入らなかったのだという。
「それはどういうことかね?」
 その話の真意を測りかねて、この高官が尋ねる。
「まあ早い話、まだキメラがいるかも知れないって事です。なにせ安全確認されてないし、うちの組合の漁師の何人かは、海の上からこの島にキメラらしきものがうろついているのを確認したらしいですし」
 抑揚の無い声で語る。
「なるほど。で、そんな島でも倉庫やら船着場を作りたいという事かね?」
 再度念押しするよう尋ねる高官。
「まあ、そういうことです。ここら辺は非常にいい漁場なんでね。バグアにしてみればなんの価値もないかも知れませんがね」
 哀願するように頼み込む理事長。

 数日後。ULTにUPC軍から直接依頼が届いた。

『地中海にある無人島の安全を確認してほしい』

 かくして傭兵がこんなところにも借り出されることになったのである。

●参加者一覧

御山・アキラ(ga0532
18歳・♀・PN
春風霧亥(ga3077
24歳・♂・ER
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
御剣雷光(gc0335
22歳・♀・PN
殺(gc0726
26歳・♂・FC
沁(gc1071
16歳・♂・SF
椿骸(gc1136
19歳・♀・HG
秦本 新(gc3832
21歳・♂・HD
金刀比羅 双葉(gc4176
15歳・♀・SN
ジョシュア・キルストン(gc4215
24歳・♂・PN

●リプレイ本文

●探検隊出動
 傭兵達が事前にもらった地図は、とても詳細と呼べるシロモノではなく宝探しの地図レベル。 だが秦本 新(gc3832) 達にとってはそれでもないよりははるかにマシというところだったろうか。島へ到着するとまず拠点を設営し、そこを足がかりとして島内を探索するのだ。どこにいるかわからないキメラが目標である。
「ん‥‥食べ放題、食べ放題。楽しみ」
 おそらく今回もまたほとんどその目的の為に参加したかと思われる最上 憐 (gb0002)。その為に持参した【キメラ調理セット】である。様々な果樹やら、猪キメラの丸焼きが楽しめることだろう。
「こういう場所で過去何度死に掛けたか」
 設営中にイロイロ想うのは、ジャングルにはいい思い出がない椿骸(gc1136)。かつての経験がそうさせるのであろう。そしてサバイナル訓練気分で参加した御剣雷光(gc0335)や自分の過去を明らかにする為にあるキメラをさがし続ける沁(gc1071)。初依頼で気分はソワソワの金刀比羅 双葉(gc4176)といった面々。
「今日は本当に長い日になりそうですね。」
 どこか面倒くさそうな表情で何故か依頼に参加し、実際はこういったことはやりたくない、といわんばかりのジョシュア・キルストン(gc4215)など、思うところ様々な傭兵達がこんな小さな無人島に集まってきたのは何かの因縁だろうか?
 そして今はただキメラを排除して島の安全を回復することだけを願っている殺(gc0726)、漁師たちを思い浮かべながら‥‥。

●設営そして出発
 無人島へ上陸後、まずは安全を確認し手際よくテントの設営を行う御山・アキラ(ga0532)や春風霧亥(ga3077)。御山があえて2張りテントを設置しているのは万が一の事を考えてだろう。男女混成チームだからか。
 AU−KVのバイク形態で島に上陸した秦本はそのまま島内探索に出発予定。彼に昔の記憶はない。いつか取り戻せる時は来るのだろうか。そして沁は目指す「銀色」の部位のあるキメラを見出すことができるのだろうか。そんな個人個人の口には出せない思惑をも秘め、
「さて。始めるか」
 御山の一言がきっかけだった。拠点に残り情報収集及び後方支援的役割を努める春風と沁以外の残りのメンバーはめいめい無線機やSASウオッチなどの装備を確認後、東西南北1.5km程の森を中心にし、キメラの存在を確かめに行く。常に無線で連絡を取り合い、時間も確認しながら、である。決して広くはない島内でAU−KVをバイク形態で走らせる秦本のそのエンジン音が高らかに響く。キメラには聞こえているのだろうか?
「ん。食べ放題に‥‥出発」
 あくまで食べることが主眼の最上がいたりする。そんな彼女にとっては、食料調達を頼んできた春風の依頼は好都合だったに違いない。きっと数々の食材を調達してくることだろう。そして同じく紅茶持参の金刀比羅にとっては新鮮な水の調達も忘れる訳にはいかない。もちろんキメラを倒した場所をメモすることも。さらにそれを拠点の沁に伝えることも忘れてはいけない。それは沁のたっての希望でもあるからだ。
「ハリネズミも食べるのかな?」
 何故かそのことが気になっている御剣だったりする。
(さっさとキメラを片付けて自然を堪能したい)
 バイクで砂塵を巻き上げながらさっそうと島内調査に向かう秦本の後姿がなんとも頼もしく見えたりもする。
 持参した水筒を手すきの仲間に手渡し飲み水の確保をあわせて依頼する春風のそばで、早くもその緊張からかはたまたそういう天候だったからなのか持参した飲み物に手が伸びる御剣。
 かくして2手に分かれた傭兵達は、手に手に無線機やらなにやらを装備しつつ草地と森の方へ消えていったのである。

●キメラ発見。
 森の方へ向かったA班。道中邪魔な弦や蔦などはその剣でなぎ払って進む御山。迷わないように常に方位磁石の向きに注意しつつその先頭を進む。何か異変があれば直ちに手にした双眼鏡で確認をとる構えで進むのが御剣。そして何か事あれば直ちに援護する態勢で続く椿。あくまで面倒くさそうな表情をしながら周囲を警戒しつつ進むキルストン。とにかく面倒くさいことは極力さけて通りたいのだろう。
「こういう状況は得意ではないんですよ」
 と表向きは言ってはいるのだが‥‥。

 森の中を慎重に進むことしばし。広さ1.5kmほどの森は大手を振って歩きまわるには少しばかり窮屈なのだが、それでも背の高い樹木の隙間から空が見えたりもする。ところどころ下に向かって伸びている蔦や弦に絡みとられないように注意しつつ‥‥。
「こういう時には耳を使うのが一番だが、それでも難しいな」
 と樹木の中を進みながら、その聴覚をフルに活用しようとする椿。
「!!」
 何かの物音を感じたのか木陰に身を隠し、双眼鏡を手に取りその正体を確認しようとする御剣。だがとくに怪しいものはいなかったように思えた。そこで‥‥、
「こちらA班。目下異常‥‥」 
 と無線で御山が拠点に連絡をとろうとしたまさにその時。樹木の陰になにかが蠢いているのがはっきりとみてとれた。
「キメラだ!」
 と誰かが叫ぶ。それは御山の声か。ただちに後続のメンバーにそれを伝える。
 いきなり樹木の陰からハリネズミキメラが飛び出し、こちらへ向かってくるのが見てとれた。その数2匹。たぶん奇襲のつもりだったのだろうが、事に備え警戒していた傭兵達は即座に対応したのである。

●迎撃
 あっというまにキメラ肉薄する御山。それに釣られるようにそのハリをとばしてくキメラ。だが初めからそれは計算済み。あえてハリを飛ばせるような動きをしていたので、即座にエネガンで迎え撃つ。それを合図に御剣が、椿が、アタックする。椿の援護を受け、御剣と御山がキメラにダメージを与える。2回3回と飛んでくるハリ攻撃。そんな中、遠距離攻撃が苦手なのか、単に面倒なのか木陰に隠れて参加しないのがジョシュア。御剣のピルツはキメラを粉砕していく。
「遠距離攻撃は苦手‥‥」
 ハリによる攻撃がなくなったのを見計らったように参戦するジョシュア。本当に面倒くさいだけというのは内緒である。2匹のキメラが肉塊になるまでさほど時間はかからなかった。
「キメラ2匹殲滅。場所は‥‥」
 その場所と時間を拠点にいる春風と沁に報告する。
「了解」
 無線機の向こうで答える沁。拠点側ではまだ異常はなく、キメラの出現もないという。
 その時‥‥。切迫した声が無線機から飛び込んできた。
「B班。猪キメラに遭遇。場所は‥‥」
 それは草地を中心に探索していたB班からの無線連絡。声の主はどうやら殺、のようであった。

 そのB班。風の流れや音に注意を払いつつ、キメラの気配を探る殺達一行。草地中心に探索するうちに、おいしそうなフルーツの木の下を通りかかる。すると‥‥、
「ん。果物、果物、食べ放題」
 警戒態勢のまま先頭をいく最上。いきなり毒味と称して堂々とつまみ食いをする。ひとつ食べ、ふたつ食べ、みっつめ‥‥、を口にしようかという時に、バイク形態で警戒中の秦本が吹く呼び笛の音が。それはキメラを発見したという合図。ただちに現場へ急行する殺、金刀比羅たち。
 そしてその視界にはいったのはいままさにこちらの気配に気がついたばかりの3匹の猪キメラ。その巨体で威嚇するようにうなり声をあげると一斉に跳び掛ってくる。まさに猪突猛進であるが、それを見た最上の顔色が途端に変わったのが見て取れる。
「先手必勝。突撃。食べ放題が目の前」
 逆に一気にキメラに迫る最上。バイク形態の秦本はその地形から装着形態に切り替えてキメラを相手にする。
「早速おでましのようで」
 自分も一気に接近し、槍で攻撃する秦本。その足を狙うべく猪に襲い掛かる殺。相手は3匹だが傭兵にとっては恐れるに足らぬ相手。あっというまに3匹のキメラをそのエジキにする。
 終わるや持参した飲み物でのどの渇きをいやす金刀比羅。そして時計に目をやる。探索開始してからさほど時間はたっていないようである。キメラ討伐地点をその地図上にメモ、戦闘結果を拠点に連絡する秦本と残弾を確認する金刀比羅。戦闘結果に耳をそばだてるのは拠点にいる沁である。今回彼がここにやってきたもうひとつの理由にとってソレはとても重要なことだからだ。
「丸焼き、丸焼き。楽しみ。楽しみ」
 早くも無限の食欲が首をもたげてきたか最上。その時が待ち遠しそうである。もう少しの辛抱だ。

 すると。そんな無線連絡中に突如、無線機の向こうであわただしい声と何者かがせまるような地面をゆるがすような音。何かとんでもないものが拠点に向かって迫ってきているであろうことが、その無線機を通して伝わってくるのだ。
 それは拠点の春風と沁の元に突如現れたキメラ。無線機の向こうではいままさに別の新たな戦いが始まろうとしていたのだ。無線機のスイッチが入ったままなのでその様子はリアルに伝わってくるのだ。

●拠点防衛、さらに。
 見張り中にそれを発見した春風。ただちに呼び笛を鳴らし沁に知らせると共に自ら先制攻撃を仕掛ける。幸い相手はネズミキメラ1匹。これなら2名でもなんとかなるだろうと考える。拠点はなんとしても守らなければならないからである。テントに突っ込まれでもしたら大事であるからだ。
 呼び笛に呼応する沁。ただちに合流しネズミキメラ殲滅に当たる。
「拠点にキメラ出現」
 その無線連絡はA班、B班に同時に知らされる。それがキメラ1匹であることとなんとか対応できそうであることも告げられ、ひとまず安心の声をあげる仲間たち。そして、
「雷撃‥‥」
「‥‥‥‥万雷」
 といった沁の叫ぶ声が聞こえたかと思うと、爆発のような音や何かがひしゃげるようなリアルな音が無線機を通じて伝わってくることしばし。やがて出発時と同じような静寂が再び訪れる頃、突如拠点に現れたキメラは無事殲滅されたのである。そのことを物語る静寂。
 だが。その頃A班とB班には再びキメラの影がしのびよっていたのである。しかもすぐ彼らの目の前に。

 それはいきなりであった。森を抜けようかとするA班の前に突如そいつらは現れたのだ。その5mはあろうかという図体を少しばかり丸めると、

 フ、フ、フン

 と鼻を鳴らしたかと思う間もなく、1匹がそのキバをまっすぐに傭兵達の方へ向け、足を掻き襲い掛かってくる。だが闇雲に突進してきたので手ごろな高さの樹木の枝にそのキバがつっかえる形になり、進退窮まった状況に。その場の傭兵達がそれを見逃すはずもなく。その視力を奪う為に『目』を狙う御山。その目をつぶすや死角側に入ると、その突進力の源であろう足を徹底的につぶす。
「今日のディナーの食材になるといい」
 そう呟きながら猪に切り込む御剣。その背後から銃声が1つ2つ。椿が放ったそれは瞬く間に猪の首を弾き飛ばすクリティカルになる。長期戦を嫌ってあえて接近戦に持ち込むジョシュア。手間暇のかかる長期戦は極力やりたくないのだ。
 3対4という数的有利な状況および猪キメラ自体があまり賢くはないこともあいまって、体当たりと噛み付きの攻撃では傭兵達にさしたるダメージを与えられるわけもなく。個々に突進してきた猪キメラではあったがあっというまにその場に転がる。さっそく無線でそのことを拠点へ報告する。もちろん位置のメモも忘れずに、である。

●そして最後
 島の反対側へ回り込むB班を待ち受けていたのは1体のハリネズミキメラ。急に人間達が大勢やってきたことに驚いたようであったが、その背中を丸め威嚇するやいなや、いきなりそのハリを飛ばしてくる。だがその初動を見逃さない殺、そしてハリが飛んでくるよりも早く一気にその懐へ飛び込んだ最上にとってはただの的にしか過ぎなかったようである。
 さらには。すでに依頼終了後のお楽しみに向け気分が高まっていると思われる金刀比羅にとっては単なる障害物程度にしか見えなかったのか、その強烈なハンドガンの一撃であっというまに弾き飛ばされ、ほんの一呼吸かニ呼吸する合間にはそいつはその場へ転がってピクリとも動かなくなってしまった。
 その屍を踏み越えて無事に島の反対側の海岸線へ到着。ほどなくして森を抜けてきたA班のメンバーと合流する。その段階にいたって、島内に残存していたであろうと思われるキメラがいなくなった事を確認するや、拠点で待つ春風と沁にその旨を連絡すると共に、ひとまず帰還して、後ほど猪キメラを食材として回収にいく事も伝える。

 その連絡を拠点で待っていた沁。金刀比羅と秦本が拠点に帰ってくるのを待ちかねたようにキメラが現れた地点を記した地図を受け取り、ひとりその現場へと先行する。その頃拠点では帰り際に最上が山のように持ち込んだ新鮮なフルーツを旨そうに皆で味わいつつ、沁の帰りを待つ。
 ‥‥待つことしばし。そろそろ戦いの疲れも癒え、森を探索中に多少の軽い傷を負った者の簡単な治療も終えた頃、何事か思うような顔の沁が拠点に帰ってくる。その表情は端から見る限りあまり大きく変わってはいなさそうに見えたのだが。
 そんな彼の姿を見届けるや、いれ違いに傭兵達が猪キメラの回収に向かったのはもう陽もそれなりに傾きかけてきたころであった。

「あ、それ俺が持ちますよ」
 皆でキメラ出現地点に戻り、そのいかにも見た目重そうな猪の死骸を自ら志願して担う殺。いつのまにか見つけたと思われる新鮮で清冽な湧き水をその手にした空の水筒に目一杯詰めている金刀比羅。どこにそんな力があるのか、猪を丸ごと引きずるようにして戻ってくる最上。‥‥お楽しみの時間がもうすぐやってこようとしていたのだ。自然と力が入る傭兵達。

●キメラを食す
「とりあえず焼いてみましょう」
 御剣が言う。キメラとは言っても元は猪である。詰まるところ「猪肉」なのだ。たぶんに美味であろうと予想する。丸焼きにする為に火をおこし、調理のための下準備に余念がない全員。
「ん。丸焼き。丸焼き」
 豪快に丸ごと1匹、じっくりと焼き上げようという最上。すでに彼女の胃袋の戦闘態勢は完璧に整っているようだ。
「実戦は学べることが多いですね」
 持参した紅茶を淹れながら語る金刀比羅。依頼初経験の彼女にはどんな体験ができたのであろうか?
 豪快に焼きあがった丸焼きの猪キメラに早速勢いよくむしゃぶりつこうとする最上に差し出される釣れたての魚。どうやら今ままさに目の前の海で秦本が釣り上げたいきのいい魚のようである。さっそくそれも俎上に上ったことはいうまでもない。
 食後。せっかくの地中海の美しい海が目の前にある。あいにく水着こそ持参してこなかったが水辺で楽しそうにはしゃぐ傭兵達とそれをなにやら見つめるジョシュアの姿が、沈みゆく夕陽に照らしだされているのであった。

結論:イノシシキメラは美味である。