タイトル:奪われた物資マスター:文月猫

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/17 22:17

●オープニング本文


 −−バグアの侵攻によってある町が孤立しつつあった。地元のボランティア団体よりの救援要請を受け、軍は、そこへ救援物資を届けるために、輸送用のトラックに物資を満載して、幾人かの護衛の兵士とともに、その町へ向かわせることにした。だが、途中でキメラの奇襲に会う−−

「救援物資を積んだトラックがキメラの襲撃を受けた模様です!!」

 緊迫したオペレーターの声が、室内に響く。ちょうど昼時で、休憩に入っている兵士もいて、部屋の中は割と閑散としていた。直ちに当直士官の一人が呼ばれる。彼は、これから昼食に向かおうとしたところで、あわててモニターに張り付いた。

「くわしい現場の状況はわからんのか? それは本当なのか?」

 担当オペレーターの胸倉をつかまんばかりの勢いであった。
 
「護衛していた兵士から連絡で、『今、キメラの奇襲を受けつつある』、と通信が入り‥‥」

 そのとき、先ほどから何回か連絡をとろうとしていた、別のオペレーターが割り込む。

「たった今、別の兵士からの無線連絡が入りました。『我、負傷するも、敵を追跡中。アジトと思しき場所を確認。敵はキメラ数体‥‥。場所は‥‥』」

 かろうじて聞き取れた内容を、なぐり書きの様にメモし、再度交信を試みるが、それきり返信はなかった。

 襲撃を受けながらも、敵を追跡していた兵士がいたことに、室内はどよめいた。まだ生きているかもしれない。そんな希望すら室内には広がった。
 
「場所はどこだ。近いのか?」

 あせりの色が見え隠れする。場所がわかればすぐにでもキメラ殲滅のためのに増援部隊をおくるとともに、負傷した兵士たちの救援や奪われた物資の奪回もおこなわなければならない。当直士官の頭の中をさまざまなことが駆け巡った。


「ほぼ場所の特定ができました。敵戦力等は不明ですが、複数のキメラがいると思われる場所です」

 大急ぎで机の上に広げられた地図に、該当する場所がマーキングされた。意外と近いが、同時にこんなところに奴らのアジトがあっったことがある種の驚きでもあるような場所でもあった。

「すぐに救援隊およびキメラ掃討部隊を‥‥」

 そういいかけて、当直士官は、あることに気がついた。それは不運というべきか、この日、軍部隊のほとんどは、大規模軍事演習にでていて、作戦にまわせる要員がほとんど残っていないことにだ。いるのは、後方支援部隊か補給通信部隊で、敵の規模がわからないなかでは、とても救援や掃討に回せる戦力ではなかったのである。彼は、思わず天をのろった。‥‥が次の瞬間、まだ残された手段があることを即座に悟ったのである。大慌てで、オペレーターの一人に大声をあげる。

「ラスト・ホープにコンタクトしてくれ。ただちにだ」

 同時に、振り向きざまに、別の部下にこう言い放った。

「奪われた救援物資はなんだ? すぐにわかるか?」

 ‥‥リストは直ちに準備され、彼の元に届けられた。急いでいたため、簡単なメモ程度だったが、そこには以下のように書いてあった

『水、食料、医薬品、毛布、衣服、一般用固形燃料』

●参加者一覧

レールズ(ga5293
22歳・♂・AA
ロゼア・ヴァラナウト(gb1055
18歳・♀・JG
ハイン・ヴィーグリーズ(gb3522
23歳・♂・SN
冴城 アスカ(gb4188
28歳・♀・PN
商居 宗仁(gb6046
35歳・♂・EL
フローラ・シュトリエ(gb6204
18歳・♀・PN

●リプレイ本文


 アジトまで追いかけた兵士の安否がどうなったかはわからない。だが、その兵士の行動がこうして、物資奪回に向けての作戦行動につながったのだから、生死にかかわらず勲章ものであろう‥‥。彼の行動を決して無駄にしてはいけない、というのが傭兵たち皆の思い。ましてや、今回奪われたものが、すべて生活必需品ばかりとあって、いやが上にも依頼に対するモチベーションも高いものがあった。

「物資は必ず奪い返しますから。安心してください」

 冴城 アスカ(gb4188)のその言葉がすべてを物語っていた。敵アジトに向かう車の中で、最後の打ち合わせをする傭兵たち。

「ったく、物資輸送の重要性をよくわかっているのかしら」

 とは、ハイン・ヴィーグリーズ(gb3522)。元諜報員という経歴は、その顔立ちからは想像もできない。

「こういった仕事をするのは北京以来かもなあ‥‥」

 遠くを見つめるような表情を浮かべるレールズ(ga5293)中・日・蘭の3か国の血が入った彼は普段ではみられない表情でつぶやいた。‥‥今回の作戦はこうだ。まず2班に分かれる。ひとつの班は、敵アジトを強襲し、はでにドンパチやりながら、敵の注意をひきつける。で、その間にひそかに敵アジトに接近したもうひとつの班が、側面から奇襲を掛ける、というのが作戦の概要である。そのためには、緻密な連携プレーと同時に、お互いの突入の場所、タイミングが大きな成功の鍵となるだけに、傭兵たちの打ち合わせも念入りに行われた。まず、敵アジトへ強襲をかけるのがA班。レールズ、冴城のほかに、移動式スーパーマーケットの若き店長でもある商居 宗仁(gb6046)とどこか飄々とした感じで、どこにでもいる17歳といった雰囲気のフローラ・シュトリエ(gb6204)の4人。一方、A班を狙撃によって援護しながら、敵への奇襲を目的とするB班は、腕自慢のスナイパー2人。ハインと、銃の収集が趣味で、なぜか犬が苦手という、『アオザイ美人』のロゼア・ヴァラナウト(gb1055)の2人。奇襲成功のため、事前に入手した地図で念入りに、奇襲ポイントと敵アジトへの突入タイミングについて確認し、いざそのときを待つ。当然敵に感づかれたらそれっきりなので、隠密潜行で敵キメラに接近することになる。が、

「途中で、野犬にでも出くわしたらどうしよう」

 と敵に見つかることより、おどおどと犬の心配を始めるロゼア。確かに、いくら昼は明るいとはいえ、森である。野犬がでないとも限らない。‥‥もし、そんなことになったら奇襲作戦の成否にもかかわる、というわけで、ハインが少し先を歩き、犬の気配がないかどうか確認しながら進むことになった。その分、多少は行動ロスがでるかも知れないが、たいした影響の範囲ではなく、逆にキメラに感づかれるリスクが下がるかもしれないと、前向きに考えることにする一同。

「そうそう。例のものをお持ちしました」

 と、商居がなにやら懐から取り出したのは、なんと自分のスーパーマーケットで特売されているさも新鮮そうなバナナ。そう、事前情報で相手が猿キメラらしい、という情報を入手したため、ひょっとしたらと言うことで、彼が持参したのだ。

「本当はUPCに申請したんですが、軍の手違いで手に入らなかったみたいで、自分の店からもって来ましたよ」

 と言って笑う。大事な商品であるが、今回特別に提供というわけである。

「まあ、キメラもスーパーの万引き犯も、食料泥棒ということでは同じかと」

 皆が笑う。ちょっとした気の利いたジョークに聞こえたようだ。一瞬ではあるが緊張が緩む。

「盗んだものは、きっちり返してもらわないとね。」

 元空手家の血が騒ぐのであろう。冴城は早くも臨戦態勢である。見た目ではわからないが、実は『うわばみ』である。もっとも本人いわく、「家庭的な面もある」とのことなのだが。いずれにしても、この作戦が終わったら、早速一杯ひっかけたい、と内心思っているのかも知れなかった。‥‥かくして、ミッション開始のゴングは鳴らされたのである。


 敵アジトが近づき、行動開始する傭兵たち。A班は、ところどころ視界が開ける森の中を、一気に敵アジトへ向かう。アジトの場所は、ほぼ特定できている。UPC軍の情報解析レベルをもってすれば、多少不完全な情報でも、どうにかしてしまうものなのだ。

「そろそろでしょうか?」

 とフローラ。あたりの地形が、報告された場所の特徴に近づいてきたようだ。あたりを警戒しつつ、強襲ポイントを探す。たしかに、ここらあたりは人工的に、さらには意図的に切り開かれたような地形に変わった。かすかに鳥の鳴き声。よくみると車の轍のあとらしきものも。『近い』。その場の誰もが確信した。さらに注意し、進む。周りがさらに開けた。‥‥と、次の瞬間、そこには確かに猿のようなキメラが数体、ブッシュの向こう側で動きまわっているのが見て取れるようになった。しかも、まだ、こちらには気がついていない。ヤツらは、何かに気をとられているようだった。と、森の右手の、多少背の高い木が生い茂りブラインドになったあたり、そう30mぐらいのところから、乾いた銃声が。B班だ。作戦通り、絶妙のタイミングで合流できたのだ。

「先手必勝!!」

 スキルを発動しつつ、冴城が突入する。


 かたや、B班。『隠密潜行』を駆使し、敵に気づかれぬことを最優先とし、事前に決めた奇襲の為のアタッキングポイントまで、慎重かつ大胆に進む。ときには道なき道を。まさに獣道のようなところさえ越えていったのだ。『兵は神速を尊び、勝ちは奇襲による』という、古の兵法にも在るとおり。

「さて、もう少しですね。ここまでくれば」

 と、ハイン。キメラよりもある意味怖かった野犬の心配がほぼなくなった為か。ロゼアも顔に浮かぶ安堵の表情。タイミング的にはそろそろA班が突入する頃合だったが。と、いきなり目の前が小高い木々になり、そこから少し低くなった斜面が見降ろせるような場所にでた。幸いなことに、向こう側からは、角度的に死角になっていて、こちらが見えなくなっている。ここがポイント付近だ。直ちに、ライフルを身構える、ロゼア。すでに、その眼は、獲物を狙う、狡猾な獣のようになっていた。

「!!」

 左前方30mぐらいのところに、なにやら動く気配。身をかがめ、さらに注意し、身を乗り出す。‥‥いた。キメラだ。まだ、少し遠いが、何匹か見える。奇襲には絶好のタイミングだ。狙いを定めたキメラにロゼアはライフルの引き金を引いた。狙った通りにはいかず、弾丸は右にそれていった。

「失敗?!」

 そう思った2人。だが、それは、キメラにとっては効果十分の一発だったようだ。不用意なまま放たれた弾丸に、その場のキメラがあわてているのが確認できる。さらにもう一発と思った瞬間、左手から、人影の集団がなだれ込んでくるのが視界にはいった。A班だ。なんというタイミングだろうか。さっきの銃声が、突撃開始の合図になったようである。側面奇襲大成功である。

「私は、あっちへ向かいますね」

 と、ハインは動く。A班と逆方向へ移動しながら、ドローム製SMGが火を噴く。もちろん『強弾撃』使用である。動きながら、A班と合流できるポイントに移動。続くロゼアも、A班と合流する。かくて、奇襲と強襲が合体し、キメラ殲滅戦が開始されたのである。


 傭兵たちの攻撃。レールズのアサルトが火を噴き、手近に居た、一匹の猿キメラの足に命中。さらに、商居の大鎌『ノトス』が、ファング・バックルのパワーを得て、一気に猿キメラに肉薄した‥‥。奴らは、パニックに陥ったかの様だった。いきなりの銃声で驚いたところに、正面からさらに傭兵たちが、鬼神のごとく襲い掛かってきたのだ。逃げようとするもの、あるいは、こちらに向かって体当たりを仕掛けるもの。だが、統制のとれていないキメラの攻撃など、傭兵たちにとってかわすのはたわいのないことであった。

「そんな攻撃じゃあたらないよ」

 とでも言わんばかりに、疾風脚を使い、ナイフ片手に接近戦を挑む冴城。空手で鍛えた格闘戦はお手の物である。

「ほらほら、ここですよ」

 と、急所突きで的確に相手にダメージを与えるレールズ。なかには、奪った物資の方へ逃げようとするキメラも居るのだが、傭兵の巧みなポジション取りと連携で、行く手を阻まれ、しかたなく体当たりを仕掛けるキメラ。なんなくかわす傭兵。たしかに、猿キメラは素早いので、1対1ではともすれば、こちらの攻撃をかわされることもあるのだが、そこは連携とコンビネーションというアドバンテージがある傭兵たちが絶対的に有利である。囲むようにし、相手を追い詰め殲滅する。何撃かくわえれば、確実に骸と化すキメラ。‥‥。すべてが、ただの肉塊となるまで、思っていたより時間はかからなかったのである。

「お疲れさまでした」

「物資はいただいて行きますね。ご愁傷さま」

「勝負あったわね。抵抗しても無駄よ」

 などと傭兵たちが口をそろえる頃、すでに勝敗は決していたのである。あたりには、キメラの骸が散乱しているだけだった。‥‥森は再び静寂に包まれた。


 戦闘は終わったが、まだこれですべてが解決したわけではない。戦闘中、ハインをはじめ傭兵たちが気にしていたのは、キメラ以上に、荷物のありかであり、あやまって狙撃なりして、物資に被害を及ぼすことであった。

「しかし、アジトを作ったうえに、トラックの運転ですか。キメラとはいえ、見かけは猿。思いのほか知能は高かったようですね」

 と妙に感心するレールズ。そう、だからこそ、すでに荷物が奴らの手によって運びだされた後ではないかとの不安があるのだ。とくに戦闘中、キメラたちが荷物を気にするそぶりをほとんど見せなかったことも気がかりだ。それはすでにそこに荷物がないことを意味しているのか、はたまた単にキメラたちにその余裕がなかったか。かといって、

「荷物のことを気にする余裕があったと言えば、ウソになるわね」

 という冴城の言葉も真実味を持っていた。幸い、盗まれたトラックは放置された状態で見つかった。外観はほとんど被害はなく、おそらく、盗んだそのままここへ持ち込まれたのだろう。急いでトラックの荷台のドアに手を掛ける傭兵たち。荷台の扉が音もなく開いた。‥‥そこには大きな袋の塊がいくつか、無造作に積まれていた。それらの袋には、中身の名前らしきものが記載されていた。大急ぎで手分けして中身を改める‥‥あった。すべての物資が盗まれた状態で、手付かずにそこに残されていたのだ。おそらく、キメラたちが手をつける前に、傭兵たちが急襲に成功し、キメラたちは荷物を奪う余裕がなかったに違いない。傭兵たち全員に浮かぶ安堵と達成感の表情。と同時に、妙な空腹感を覚える一行。当然、例のバナナが傭兵たちの胃袋を満たしたのはいうまでもない。

「これで、通報者も自らの犠牲が報われるというわけね」

 とフローラ。すでに、通報者は絶命しているであろうことが、トラックの荷台に残る血痕の生生しさから、傭兵たち皆が容易に想像できた。ここへ来る途中、点々と大量の血痕が残されていたことからも間違いはない、と思う傭兵たち。

「では、私がトラックを運転していきます」

 スーパーの店長の商居が、運転台にさっさと乗り込み、直ちにエンジンをかける。小刻みな振動と独特の音があたりに響き渡った。荷物で狭い荷台にすし詰めで乗り込む残りの傭兵たち。こうして彼らはすべての物資を奪還し、任務を完了したのだが‥‥。

「あ〜〜。仕事の後のお酒は格別だわね」

 と、どこから取り出したのか、いきなり飲み始める冴城。トラックの振動とあいまってか、いつもより酔いのまわりが早く思われた。

「まて〜〜。まだ仕事は終わって‥‥」

 その後、トラックの荷台の中で何が起こったかは想像するに及ばなかった。そこはまさに走る居酒屋であった。