●リプレイ本文
●新たなる敵
長いこと人類には忘れ去られていたはずの旧滑走路。だが今でこそ舗装もはげ、建物の一つとてなくなっているが、バグアにとってそれはなんの問題でもなく。しかも中国の目と鼻の先のウランバートル近郊にこんなものが眠っていたのである。それはUPCののど元に突き刺された細い刃物のようでもあり。
「なんでこんな狭いところにタロスが」
悩ましげな表情でブリーフィングに臨むM2(
ga8024)。放置しておけない以上、やるしかないのだが。
事前にゼカリアの各種制御システムや武装のチェックを済ませてきた佐賀 剛鉄(
gb6897)。特に今回の作戦に不可欠な徹甲榴弾のチェックも忘れない。
「‥‥ファリス、『フラウス』と一緒に戦って悪者をやっつけるの!」
愛機『フラウス』をいとおしそうに眺めるファリス(
gb9339)。
「さあ、今日という日がその記念すべき1歩なのです」
その『調和』と名付けられた重戦車ゼカリアの処女戦である。いやでも気合がはいろうものであるハーモニー(
gc3384)。まさにその機体に名づけられた愛称が彼女の思いを物語っているかのようである。
「最近中国方面での戦いが増えています。きな臭い予感がしますね」
ヨハン・クルーゲ(
gc3635)とその愛機『アイゼン・メテオール 』が今やその時をじっと待つ。
「恐竜対決は、絶対にうちの『ぎゃおちゃん』のほうが強いですのよ」
その愛機『竜牙』に『ぎゃお』などというネーミングをすること自体かなりオチャメというかなんというかなのだが、それでもその形容にはある意味ピッタリかもしれないミリハナク(
gc4008)。しかし名前とは裏腹にそのフォルムはなんとも威圧的でRCと対峙してもまったく引けはとらないのだ。
今回はそれにスナイパーの雷電使いの三島玲奈(
ga3848)と電子戦機で参戦の夢守 ルキア(
gb9436)が加わった8名の傭兵。後方管制が主任務であるルキアに対し、そんな中あえて?ウーフー2で接近戦をあえて挑むM2。そこには何かしら思うところでもあるのだろうか?
こうして4機のRCと2機のタロスが我が物顔でのし歩く旧滑走路へとその砲火を交えに向かう傭兵たち。はたしてその結末は?
●迫る時
ミリハナク・ファリス・ヨハン・M2の4機が接近戦、その後方で玲奈・剛鉄・ハーモニーが砲撃、最後方にルキアといった体列で目標へ接近。多少ヨハンが後方に位置しながら、である。
偵察用・管制用の各機器を駆使し、味方の管制もあわせて引き受けるのがルキアである。
「さあ、いこうイクシオン。」
後方で愛機『イクシオン』と名付けた骸龍に声をかける。本当は前線で戦いたいのだが、いかんせん愛機の装甲ではいかんともしがたいのだ。しかもRCやタロスとは初対決である。そのためゆえか、あらぬ不安を口走ったりしているのはやむを得ないところか。
森林地帯を抜けると急に視界が開け、たしかにそこにコンクリートの塊のような構造物が地面に張り付くように見えてきた。そして、その構造物の上を我が物顔にのしあるく4機のRCとその手前に徘徊するキメラ。タロスはその後方にいるのだが、まだ全体の輪郭しか確認できない。
すると。こちらにまっさきに気が付いたキメラがはねるようにして向かってくる。だが所詮スケールが違う相手である。ほおっておいても大丈夫そうだ、と思うのはM2。だが無駄玉を撃ちたくないと思ったのかファリスはそれを愛機で踏みつぶしていく。多少KVが汚れるかもしれないが大したことではないだろう。それに倣った他の傭兵たちも各自のKVであっというまに踏みつぶしていく。モニターの視界から一瞬にして消えるキメラ。さぞや地面は大変なことになっているであろうが。しつこくまとわりついてくるキメラに容赦はしない。
キメラを踏みつぶしていくうちに、RCの姿がさらに大きくなる。そこでまず玲奈機の長射程兵器から閃光が一閃。そしてそのまま隊列を乱さぬようにRCに迫る8機のKV。やがてRCの背中に背負った2門のプロトン砲からも閃光が。どうやら敵の射程にはいったようである。その飛び交う砲火が周囲の空気を切り裂く。
「敵の動きに注意して。死角にはいられないように」
ルキアが叱咤しつつ注意を促す。その『イクシオン』は目と耳をフル稼働させて相手の動き、味方の動きを逐一監視し、戦況を整えるのだ。
●第一の壁
RCとタロスについては事前に調査してきたミリハナク。したがってその特性も研究済みなのだ。敵の攻撃をなんとかかわしつつ、その8.8を緑のRCにお見舞いする。その防御特性を利用しようというのだろう。だがRCの装甲は予想以上に厚い。防御特性も相まってか、見た目大したダメージはなさそうなのだ。
やはり物理攻撃をメインに攻めるファリス。がこれもその装甲に阻まれる。こちらは接近しつつもなお距離を意識しつつ物理攻撃で攻めるヨハン。M2もこれに倣う。が巧みに射線をずらした前後2機づつのRCから繰り出されるプロトン砲は想像以上に威力がある。前4名の機体がときおり大きく揺れる。それは後列に続くKVにも見て取れた。
「1機、2時、100m注意!」
後方管制のルキアから声が飛ぶ。タロスの動きも気になるが、まずは目の前のRCである。散発的に砲撃しつつ相手を攪乱して、動きの自由を奪う。だがRCはそれには構わず接近戦部隊へその砲口を向け、プロトン砲を放つ。1機のKVがそれをまともに食らい、大きく機体が揺れる。そのフォルムはファリス機のようにも見えた。
「‥‥ファリスの邪魔をしないで欲しいの!」
温存していた練力を開放し、2発目が来る前に敵懐に飛び込むや「メアリオン」で切りかかる。ほぼ同時にプロトン砲がほぼ0距離で命中。反動で2mほど後方へ弾き飛ばされる『フラウス』。
その傍らでは、1機のRCに接近するミリハナク。迎え撃つRCにその搭載されたファランクスの自動攻撃機能が作動したのか、猛烈な弾丸の雨が降り注ぐ。さらにそのRCを食いちぎらんとばかりにディノファングが襲い掛かる。その姿はまさにRCを捕食せんとする巨大な生物のようにすら見えた。
「ふふふ、おいしい? おいしい?」
コクピット内で叫ぶミリハナク。見ればRCはその巨体を振り向きざまに、逆にミリハナク機に食いつこうとしていた。間一髪それをかわす。
そんな緒戦の状況を後方から見て取った玲奈。ミリハナクやM2の攻撃をサポートすべく援護射撃。知覚主体の接近戦仕様の機体に対して敵の集中砲火をそらすための援護である。
「さぁ これから砲撃開始や」
その時、前方に対峙したRCの上空で炸裂する強烈な閃光。続いて2発、3発と炸裂する。それは佐賀がゼカリアの最大射程で放った、徹甲榴弾の一撃。激烈なまでのゼカリアの砲撃がRCの頭上を襲う。ひとしきりその砲弾が降り注いだのち、大地をゆらす砲撃音と共にゼカリアの砲門がうなり、続けざまに水平射撃がRCに襲い掛かる。そのたびに佐賀機がゆれる。
防御特性を変化させていたRC。その機体色の変化を見逃さないミリハナクとM2。近接特化の知覚攻撃が有効になる瞬間を待っていたかのようにレーザーの閃光が走る。するとそれを感知したRCが色を変える。すると今度はそこへハーモニーのゼカリアの集中砲火が浴びせられるのだ。
「だーいじょうぶ? 無茶しちゃダメだよ?」
後方管制のルキアの声がモニターを通して聞こえる。ここで戦力を削がれてはRCの餌食になるだけである。
1機のRCが大きく首をもたげ、モーションをかける。だがその大きいモーションはKVにとっては見切るのもたやすい。
「色を変えてきましたか。ならコチラも攻撃手段を変えるまでです!」
3.2のトリガーをにぎりそれを放つヨハン。鮮やかなレーザーの閃光はRCの脚部に命中。ガク、と体勢がよろけるRC。
傍から見れば明らかにKVが優位のようにも見える。が実際はそういうわけではなかったのである。確かにKVの連携と敵の特性を利用した攻撃は有効に機能した。だがRCはその防御力以上の攻撃力を持って、KVとの死闘を行っていたのだ。
●死闘の果てに
確かに攻撃力ではRCを押し込んでいたKV。だがそのRCの攻撃力は想像以上の破壊力を持ってKVを切り刻んでいたのである。
RCの放つプロトン砲。威力こそTWに劣るが、練力を消費しないそれは連射可能であり、その破壊力はKVの装甲すら確実に削り取るものであった。RCに与えるダメージの見返りとしてKVが受けたダメージも決して浅くはなかったのである。それはもしプロトンバーストの直撃を食らったらとても耐えることのできないものであったろう。まだタロスが悠然と待ち構える中、その蓄積されたダメージは少しずつではあるがKVをむしばんでいく。
それは緒戦から接近戦を挑んでいた4機のKVには特に。ウーフー2やS‐01HSC、ゼカリアといった機体にとっては苛烈な攻撃を受けた分だけ機体の損傷も多い。RC相手に接近・砲撃戦を挑んだ傭兵達にとりそれは決して無視できないものだったのである。
やがて最後のRCが轟音を残して爆裂した時。砲撃によるダメージをできるだけ避けるため最後は格闘戦を挑んでいたファリス機は白煙を立ち上らせ、M2機やヨハン機もそれなりに見た目わかるダメージを負っていたのである。
しかも、まだ敵はこれで終わりではない。RCのガレキの向こうに、悠然と立ちはだかる2機のタロスがまだ硝煙立ち上る中に揺らめいて見え隠れしていたのである。
「タロスまで100m、2機確認」
叱咤鼓舞するかのようにルキアがそのモニターに写る。それはこれから始まる新たな戦いがより困難なものになることを予感させるものであった。目の前に迫るタロスが一瞬ニヤリと笑ったように見えたには気のせいだろうか。
ガ、ガシ‥‥、ガッ
不気味な音を立てゆっくりと動き出す2機のタロス。それは手負いのKVにとってなんとも困難な強敵に見えた。ゴーレムほど威圧的なフォルムではないがその見た目のスマートさが逆にえも言われぬある種の恐ろしさを醸し出しているのである。片手にライフル、片手に巨大な剣をぶら下げKVに挑む。
対タロス向けに傭兵たちが立てた対策はいたってシンプルなもの。それは「常に複数であたる」というもの。当然まともにタイマン勝負で歯のたつ相手ではないことは百も承知しているのだ。
RC戦で受けたダメージは浅くないが、それでもまだ行動不能なKVがいないことも彼らには大きな材料であった。8VS2という数的には圧倒的に有利であるからだ。
その時。動き出したタロスのタイミングを見計らってルキアが煙幕弾を上げる。タロスの視界を遮ると共に威嚇も兼ねている。同時にタロスを取り囲むような動きに変え、位置取りを変更するKV達。タロスの自己修復機能が発動する前に集中攻撃で倒してしまいたいのだ。
だが。KVが攻撃するよりわずかに早く、タロスから閃光が。タロスは先手をとるやいなやこちらにその巨体をゆらめかすようにして近づいてきたのである。その一撃はファリスの愛機の脚部に直撃する。その為機体が傾くファリス機。さらにもう一撃。だがそれは運よく機体をかすめていった。それを見届けるやレグルスを盾にタロスに接近するM2。別のタロスからも閃光が。だが盾でしのいだM2。タロスに0距離射撃を試みるべく迫る。練力が気になるものの今はそういっている場合でもないことは承知しているので、使える限りは使う覚悟である。
「まだや。まだいけるで」
RC戦で多少なりともダメージはあったものの構わずタロスに激しい砲撃を仕掛ける佐賀。その爆風がタロスもろともKVをも包む。もしいざ、となれば体当たりしてでも止める覚悟である。ハーモニーのゼカリアが火を噴く。それはまさにタロスを直撃する‥‥が、硝煙が晴れたときまだタロスはそこに健在であった。むろんノーダメージではないであろうが、その程度で沈むタロスでもないのである。その巨体が新たなターゲットを狙う。
「させませんよ」
ヨハンがそれを阻む。同じくその動きを察知したミリハナク機の8.8がほぼ同時に咆哮する。2機の直撃を受けさしものタロスも動きを止める。だがその傍らでは0距離にまで近づいたM2機にタロスのその巨大な剣が振り下ろされるのだ。その瞬間タロスがかすかに笑ったように見えたのは気のせいか?
「!!」
とっさに玲奈機から放たれた一撃がそのタロスの上腕部に炸裂。バランスを崩したタロスだが構わずそのまま振り下ろす。それはレグルスを弾き、M2機の胴体部分をかすめる。飛び散るスパーク。クリティカルこそ免れたがその装甲がゴッソリとそぎ落とされる。
「下がって! 次が来るわ!」
思わず後方から叫ぶルキア。だがさらなる危険はファリス機に迫っていたのである。重機関砲を乱射しつつ迫るファリス機。その巨大な槍の一突きがタロスを狙う。だが、それはタロスの誘いであった。射程ギリギリでそれを見切ると、手にした巨大剣を真っ向から振り下ろす。それは確実にファリス機の右腕をとらえ、腕ごと切り落としたのだ。
「ファリスさん!!!」
ルキアが叫ぶ声がファリス機のコクピットに伝わる。衝撃であやうく気を失いかけるファリス。みればモニターのいたるところに危険を示す赤ランプが点滅。その危機に素早く呼応する2機のゼカリアとミリハナク機。
追撃を狙ったタロスに雨あられのごとき集中砲火を浴びせその2の矢を阻止する。
ファリスほどではなかったものの、ヨハン機もその耐久力を著しく削がれ、すでに危険ゾーンに近づきつつあった。
「すみません、これ以上の被弾は危険なので下がります!」
無念の思いをかみしめながら後方へ下がっていくヨハン機。
だがそんな犠牲を払ってのKVの攻撃にさしものタロスもついに白旗をあげたようだ。これ以上の損傷は危険と判断したのだろう。残された練力で弾幕をはりつつ、北方向へと撤退していったのだ。
●そして‥‥
こうしてなんとか無事に旧滑走路を奪還することに成功した傭兵たち。だがその犠牲は決して小さくはなかった。その事実を知るのもまた傭兵達のみである。
「がんばりましたわね。貴方は本当に強い子ですわ」
全身傷だらけになった『ぎゃお』をいたわるように声をかけるミリハナク。疲労感を顔に出しながらもどこか達成感に満たさているようなハーモニー。
「イクシオン。これからも一緒だよ」
やさしく語りかけるルキア。
「ようやっと、終わったようやな」
ゼカリアの巨大な砲身をゆっくりと地面に水平に向ける佐賀。その砲身に夕日が赤く映えていたのである。
そしてタロスはやはり恐るべき脅威であることを今回その体で改めて体験した傭兵たち。それはこれからの戦いの大きな経験になったことだろう。
了