●リプレイ本文
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「早く!! 避難誘導を」
「まず一般市民が先だ!!」
「救急車を。すぐに!!」
「まだ負傷者が取り残されているぞ」
‥‥現場は阿鼻叫喚の様相だった。すでに多数の犠牲者が出ているうえに、パニック状態になっているからだ。地元警察や地元有志などはすでに現場付近に駆けつけたものの、相手がキメラでは手の出しようもない。跡地には犠牲者の死体もそのままだし、負傷者がいるらしいこともわかってはいるのだが、そばにキメラがいては救出もままならない。彼らにできることは少しでも現場の混乱を減少させる程度である。
「早くUPC軍を。そして傭兵を」
皆が口々に叫ぶ。一刻も早い到着を待ちわびているのである。いつキメラが敷地の外に飛び出してくるかわからないからだ。そうなってはもはや現地は殺戮の地、と化すであろう。
‥‥その頃。至急の依頼を受け現地へ向かう傭兵達。現場付近の地図をにらみつつ、限られた時間で作戦会議である。
「以前同じようなキメラを相手にしたが、アレとは別物のようだね」
その口調と風貌が特徴的なドクター・ウェスト(
ga0241)。自ら研究所を設立し、日々キメラのあれやこれやを研究中。まず負傷者の近くにいるというキメラを負傷者から引き離すことを考える。
今回の相手は3mほどのキメラである。
「絶対、助けよう。無視はできないな」
僧侶風のこれまた異彩な風貌の男歪十(
ga5439)。無線機と照明銃、救急セットを準備し現場へと赴くのだ。
「そういえば、ドクター。初任務ではお世話になりました。」
ウェストに軽く挨拶する、獅堂 梓(
gc2346)。今回再び彼と行動を共にすることになったので、そのための挨拶ということだろう。救助対象者を一刻も早く助けたい気持ちが強いのだ。
「きっとまだ怪我人が残っているんだよ!」
一見天真爛漫そうな少女、セラ(
gc2672)。だがひとたび覚醒すればまったくの別人格が平常の彼女にとって変わることになる。
「救える命は可能な限り救うとしよう。」
ひときわ表情を引き締め前方を見据えるネイ・ジュピター(
gc4209)。そのボーイッシュな見た目、外見年齢こそ若いが、その老成した雰囲気は実際の年齢を物語るものである。
「中型の敵、すんなり倒したいところだね‥‥」
細身の高校生、ミコト(
gc4601)。持参した剣を気にしているのは、どうやら少しばかりそれが軽すぎるからのようである。もう少し重い剣が好みなのだろう。
さて。準備万端な傭兵達‥‥と言いたいところだが、皆が皆ベストコンディションで臨んでいるわけでもないのだ。不覚にも直前の依頼で重傷を負ったまま今回の依頼に参加した傭兵も。悠夜(
gc2930)その人である。皆に迷惑をかけたことを非常に気にしている彼、さすがにこの体でまともにキメラときったはったは無理と判断し、負傷者の避難誘導に回ることに。そんな彼の体調を心配する恋人の梓と大事な友人のセラ。
「無理しちゃだめだよ‥‥絶対だよ」
自分の事のように心配する梓と、その怪我の状態に驚きつつも可能な限り梓のフォローにも回るつもりのセラ。そんな彼女たちを守る力が今の自分にないことにあまりにも歯がゆさを感じ、忸怩たる思いをかみしめる悠夜。せめて足を引っ張ることだけは避けたいと思う。
「なら、あたしは避難誘導の方に回るとするか」
彼をサポートし、住民たちの避難誘導及び負傷者の救護に回ることにしたシャロン。本音は前線でドンパチが趣味なのだが、今回はあえて後方支援の役割に徹する。
こうして。彼らが現場へ到着した時にはまだ完全に現地の混乱が終息しているわけでもなかったのだ。
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現場では、彼らの到着を首を長くして待っていた警察や地元関係者。まずはキメラのために救出できないでいる現場に残されたと思われるけが人の救助を優先する。だがパニック状態だった現地ではその混乱で負傷した一般人もいるとのことで、歪十から救急セットを受け取ったシャロンがそういった人々の治療に回るとともに、悠夜がいまだ混乱が収まったとは言い難い現場周辺の避難誘導にあたることに。そしてほかの傭兵達は敷地内へと足を踏み入れる。
さっそく生存者を見つけ、作業員の人数を確認する雨衣・エダムザ・池丸(
gb2095)。外見は幼いが行動力は一人前である。聞けば怪我人が2名ほど残されていて近くにキメラがいるという。そして現場監督はじめ残念ながらすでに息絶えた人々の死体が多数放置されているらしい、とのことである。となればやはり真っ先に、けが人近くのキメラを引き離さなければならない。
今の傭兵達の位置からではけが人の様子は確認できない。もう少し内部に踏み込む必要がありそうだ。慎重に近づく傭兵達。歪十が他のメンバーに先行する。そのあとから雨衣・セラ・ネイの3名が続く。移動中に照明銃を準備するのは歪十。
一方、彼らとは別に放置されている重機に歩み寄るのはミコト。どうやらこの放置された重機をキメラの足止めに使おうということだろう。するとそんなミコトにそっと後ろから近づくウェスト。上級クラスの彼のスキルがミコトに強力な力を与える。
「さあ、君の出番だね〜〜」
背後から肩をポン、とたたく。幸い付近にキメラはいない。重機に乗り移るミコトだが、いままで重機など扱ったことは当然ない。
そしてさらに接近する歪十。すると廃墟の隅の方にうずくまった人影らしきものが。そしてすぐそばに確かに3mはあろうかというキメラの影らしきものがかすかに動いているのが遠目に見える。うずくまっている負傷者らしきそばに確かにキメラ、である。もう1名は確認できないが、すぐそばにいるのかもしれない。
歪十が無線で後続の仲間に負傷者とキメラを確認した旨を伝える。そして手にした照明銃をその上空に向けて発砲する
ズド〜〜〜〜ン
盛大に音を立てて放たれたそれはまるで巨大な光輪のような明るさで周囲を照らす。それは誰の目にも明らかなほど周囲を明るく照らし出す。そしてほぼ同時に敷地内に高らかに響き渡る堂々とした通る大きな声。それはプロの声量。
「括目しろ! 私はアイリス! 人類を守護する光盾の騎士だ!」
覚醒により人格が一変したセラの別人のような姿がそこにあった。手にした盾が怪しく光を放つように見えたのは強大なエネルギーの鎧をまとったからだろうか?
その音と声に反応したのか、キメラが2匹飛び出してきた!!
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重機のエンジン音があたりにこだまする。まともに動かすのはこれが初めてのミコトは緊張気味である。予定ではキメラをこの重機のある方に誘導する手はず、なのだが。
飛び出してきたキメラをミコトの方に誘導すべく巧みに攻撃する傭兵達。その間隙を縫い、負傷者の方へ駆け寄るウェストとそれに気が付き追いかける梓。すると両名の視界にもう一人の負傷者らしき人物が傍らにうずくまっているのが確認できた。どうやら先ほどは死角になっていたようだ。
「担架の用意だ。急ぎたまえ〜」
負傷者をそのスキルで治療しまくりながら大声で敷地の外へ呼びかける。その声に勇気ある者たちが反応し、担架を持って駆けつけてくる。
「とりあえず応急だけど‥‥」
キメラから巧妙に隠ぺいしながら負傷者の安全を最優先で図る梓。
そのキメラ。うまいこと誘い出しに乗ったようで、重機の方へと巨体をつき進ませていく。幸いあたりに他のキメラの気配なし。
こうして2名の負傷者は応急処置が施され、担架に乗せた後、ネイが慎重かつ迅速に安全な場所まで運びだすのである。あくまでキメラの殲滅が目標だが、まずは人命が優先なのである。
「梓とセラの奴‥‥とても心配だ。まあドクターのスキルがあれば大丈夫とは思うが」
避難誘導に専念しつつも親友とカノジョの事が心配でたまらない、といった様子がありありと顔に出ている悠夜であった。
そしてキメラ、である。導かれるままに重機のすぐそばにやってくる。3mの巨体が2匹迫ってくる姿にひるむことなく、ブルドーザーをキメラに向かって前進させるミコト。すぐに、
ガシ〜〜〜〜〜ンンンン
という激しく巨体がぶつかる音とともに、キメラのパワーと重機のパワーが激しく拮抗する。‥‥が、さすがのキメラよりもわずかにフルパワーの重機が勝ったようである。多少キャタピラーの前が浮き上がりつつもなんとかキメラ動きを封じる。なんとかパワーで押しのけようとキメラ。2匹のパワーをなんとか食い止めた直後に、傭兵達がそれに殺到した。その超機械がうなるウェスト。
そしてその彼のスキルのサポートを受け、仲間たちは本来の能力以上の力を発揮できることになる。
その角の突進を刀で防御しつつスキをうかがう歪十。そしてスキができればスキル全開のカウンター攻撃、なのだがいかんせん練力の関係で使える回数はごくわずか。スキルを温存しつつ戦う。
回避優先で、その脚を狙う雨衣。機動力を奪うためだ。すると、放置された重機の影からキメラに向け射撃音と閃光一閃。獅堂の援護射撃がキメラを襲うのだ。それはキメラの足元をかすめるように一発。そしてもう一発。そちらが気になるキメラだがミコトに押し込まれているので身動きがとれない。だがさすがにフルパワーの重機もそのエンジンが悲鳴を上げ始めたようだ。なにせかなり長い間フルパワーでキメラの圧力を支えていたのだ。
そんな状況に気が付いたミコト。重機からジャンプし、攻勢に転じるミコト。すると1匹がその重機の圧力から解放され歪十達の方へ向かってきた!
その突進を全身で盾代わりに受け止めたのはアイリス。ガッシリ、とパワーを受け止めるが、それは普段の彼女からは想像もできない力強さ。まるで全身金属でできているかのようなそれは互角にキメラと対峙するのだ。いや、互角どころではない。それは確かに上回っていたのだ。
かたや重機からジャンプし、その勢いそのままキメラに頭上から襲い掛かるミコト。その狙うは首筋である。が一瞬の差でキメラにかわされる。着地の際に多少バランスを崩すミコト。そこへキメラがジャンプして襲い掛かる。が咄嗟の攻撃でそれを回避。ちょうど下から切り上げる格好。勢いがあった分だけキメラのダメージも大きい。
「援護します!!」
傍らで響く声。それは梓のもの。狙いすました射撃がキメラに命中する。咆哮とともにもんどりうつキメラ。‥‥だがすぐに起き上がり歪十の方へ突進する。その動きを見切った歪十。ここは練力を惜しまずカウンターでとどめをさす。
「多少食らっても死ななければいいのです」
その肩で大きく息をしつつ周囲を警戒し、キメラの様子をうかがおうとするのは雨衣であった。
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外壁が残った廃墟の病院。だが生存者の情報ではまだ確実に何匹かは潜んでいるはずだ。こちらの攻撃に怯んだのかはわからないが、気配を殺しどこかに潜んでいるのは確実である。十分に警戒しつつ廃墟内に足を踏み入れる。悠夜とシャロンを除く全員が建物内のキメラに迫るのだ。気が付けばどうやら避難誘導は巧みに行われたようであたりはすっかり平静と秩序を見せていた。
すると‥‥、
「ちょっと待って‥‥」
梓が皆に声をかける。夢中で気が付かなかったのかもしれないが大なり小なり傷を負っている傭兵が何名かいることに気が付いたのだ。用心に越したことはない。応急処置を施す梓。
そして改めて廃墟を覗き込む前衛部隊の傭兵。現場監督はこうして覗き込んであっという間に絶命したのである。
案の常。そこには1匹のキメラが傭兵達を待ち構えるようにしてその角を研ぎ澄ましていたのである。が、あらかじめ警戒し備えていた傭兵達。最初のパワーある突進をうまくかわす。
それが合図だったのか、ほかのキメラもまるで解き放たれた闘牛場の牛のように足をひとかきすると彼らに向かって突進してきたのである。だがすでに先ほどの戦闘でその行動パターンと力関係を見抜いていた傭兵。いたって冷静にそれに対処するのである。
ウェストと梓の援護を受けつつ対応する前衛のメンバー。真っ先に2本の刀で応戦するのはネイ、である。自己流かつデタラメな刀技ではあるが、逆に堅苦しい型にとらわれない柔軟な対応ができるのが強みといえば強みである。その速さを武器に左右に攪乱するような動き。狙いを決してしぼらせないのだ。その皮膚が硬い、と見るやスキルは惜しみなく開放するのである。
周囲に一般人かつ負傷者がいなくなったので余計な心配をする必要のなくなった傭兵達。先ほど以上に大胆かつ繊細にキメラを狙う。
基本先ほどとやることは変わらない。多少キメラの数が多くなった程度。パワーでは劣るかも知れないが勝敗は単に力のみにて決まるわけでもない。その突進力を巧く利用すればいいのである。
「これは、冥土の土産だ!」
咆哮一閃。巧みに回避しつつ獲物に迫った歪十。真っ向からキメラに切りかかる。自らを人間の盾としキメラのパワーに耐えるアイリス‥‥いやセラ。固まってこそ威力を発揮するのだろうキメラだが傭兵達に分断され孤立して戦うことになる。数的には完全に傭兵が上回っているのだ。
ベキ‥‥‥
グシャ‥‥‥
あちこちから聞こえる何かが壊れるようなへしゃげるような音。
突進してくるキメラに立ちはだかり、その首筋に剣を突き立てるのはミコト。その身のこなしはまるでスペインの闘牛士のようでもあり。流麗な動き。
どのくらいの時間が経過したのか? 長いようで実はあっけなかったかも知れない。廃病院の敷地に突如現れたキメラは、残念ながら多数の尊い生命の犠牲と引き換えに殲滅されたのであった。幸いなことにより多くの一般人の犠牲者が出なかったことが唯一の救いといえば救いだが。
「お疲れ様! ところで‥‥」
歪十がシャロンにコーヒーを差し出しつつ、何やら怪しげな雰囲気である。が、当のシャロンはまったく相手にしていない様子。
「悠。大丈夫?」
シャロンと共に避難誘導という大役を重症の身を押してこなした悠夜を本気で心配する梓。
「畜生。ザマァーネーなぁ、俺。身体がまだまともなら‥‥」
紫煙をくゆらしつつ、返す返すも無念やるかたない、といった表情の悠夜。
「まだまだ‥‥ってところかな。」
自分で思った以上に体がついてこなかったようであるミコト。目的達成のために最大限頑張った成果に満足そうな雨衣。
「ふ〜〜。なんとか終わったようやな。まあドンパチはできんかったけど、無事に任務終了してなによりや」
シャロンも満足そうな笑顔を見せる。まあ本音はまったく別なのかも知れない。
そんなキメラの死骸が散乱した現場では例のごとく研究材料たるサンプルを回収しているウェストの姿が見て取れた。彼にとってはキメラ研究こそそのライフワークなのだから。
再び現地には復興の槌音が響くのであった。
了