●リプレイ本文
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日本の正月にはかかせないのが「初詣」。1年の初めに神社仏閣にお参りして、今年1年の無病息災や幸福を祈るのが古来からの習わしのはずなのだが、ここではそういうわけにはいかないようだ。なぜなら‥‥。
「神社と僕って相性悪いのかな」
依頼に赴きつつ嘆くのは歪十(
ga5439)。どうやら神社=キメラという図式が出来上がっているようなのだが。見た目は神社仏閣の後者の方の関係者のようにも見える。相性が悪いのはそのせいなのかは定かではない。だが着物姿はよく似合う。
「年末年始に神社にキメラ。しかも狛犬型。これは果たして縁起がいいのか悪いのか」
IMPのアイドル様の加賀 弓(
ga8749)である。アイドルの称号はついていても立派な能力者。しかも上級クラスであり、戦力としてはトップクラスであろう。多少この依頼のDVDの送り主のその後が気になるご様子。全身黒ずくめの甲冑に重装甲のなんともいかつくものものしいいでたちで威圧感タップリである。あまつさえ顔には般若のお面。そのなんともナイスな○○がみられないのは残念である。初詣客が困っているので早々にキメラには退散してもらいたいと思うのだ。
終始無表情かつ寡黙でその表情から内心を測り知ることはほぼ不可能のシルヴァ・E・ルイス(
gb4503)。だが依頼を成功させ被害の拡大を食い止めようと切に願っていることは多分間違いのないところだろう。和を感じる建築物を久方ぶりに見てどこか感慨深いものでも内心あるようなのだが、それを外面には一切表すことはない。
「日本では年明けに神社にお参りする風習があったんだったかしら?」
古くからの日本の風習を改めて思い出すドイツ出身のフローラ・シュトリエ(
gb6204)。だが今回は全身中国風のいでたちで和洋いい具合に調和しているといったら言いすぎであろうか? 上着として羽織っている戦闘用旗袍が印象的である。赤い瞳は燃えるようである。
「バグアも妙なものをつくるもんっすね?」
狛犬キメラなどというある種珍妙なキメラにどこか感心している向きがないでもない鹿島 行幹(
gc4977)は学生服姿の立派な剣士様である。ちなみに現在彼女募集中らしい。とある傭兵と血縁関係もあるらしいのだが。
「新年早々物騒な話だね〜、さっさと倒して、お参りできるようにしてあげないとね〜」
初詣のなんたるかはよく知らないが、キメラ退治にやる気満々の元気っこのホープ(
gc5231)。その肉体的なハンデを感じさせない明るさが同行する者の士気を鼓舞することもあるのだろうか?
「新年あけましておめでとうございます」
一見物腰がどこかやわらかく見えるのは立花 零次(
gc6227)。それは全身にまとっているいかにも新年らしい袴がなせる業か? 刀、盾といった武装に加えて工具持参なのは、壊れている個所があれば修理しようという心積りらしい。新年の神社は参拝客も多いのでそれなりに整えておこうということなのだろう。
それに気合やる気とも十分のグリフィス(
gc5609)を加えた総勢8名の傭兵が、神社に居座ってしまったキメラを追っ払うために立ち上がった。
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依頼前にDVDを確認してきたのかどうかはわからないが、
「可愛くない‥‥」
と呟くのはシルヴァ。そりゃかわいいわけもない。なにせキメラである。しかもそいつは本来狛犬がいるべき台座にいるわけでもなく、参道のあたりをいったりきたりうろうろ。ときおりこれみよがしに例のブレスを放ったりして我が物顔にのし歩いている。当然本来正しい狛犬がいるべき台座はカラッポ。なるほど、見かけは確かに「狛犬」そっくりなのだがそこはキメラ。外観は石像のようにも見えるが多分にバグアのオーバーテクノロジーの塊なのだろう。なのですみやかにご退場願いたいところである。
2匹のターゲットは互いにランダムに位置をとりながら気ままにのし歩いている。見れば確かに「阿・吽」というがごとく多少見た目こそ違うのが一目でよくわかる。
まずは2組に分かれる傭兵達。それぞれ「阿」「吽」に分かれ駆除しようということなのだろう。
誰もみなまず警戒すべきは炎のブレスだということは百も承知しているのだ。
「阿」を担当するのは4名。加賀、グリフィス、歪十、ホープである。いざというときには盾役を自ら引き受ける予定の加賀。打たれ強さにはかなりの自信があるのだろうし攻撃力もかなりのものである。歪十とともに身を挺して?囮役に回る手はずである。その歪十。すでに全身にお経のような文字がくっきり浮かびあがっている。
「吽」を引き受けるのは立花、鹿島、フローラ、シルヴァ。キャバルリーの立花がここではパーティーの盾代わりを務める。そのスキルは味方の盾役を務めるには申し分ない。
まずは囮役や盾役に先導されながら入口の鳥居にゆっくりと接近。なるほどキメラは確かに不気味で禍々しくさえもある。あきらかに不似合いな光景である。
阿吽双方を孤立させるよう巧みな位置取りで2体を引き離すことを基本にする動き。その為のキーワードは「奇襲」である。
双眼鏡で相手を見張るのは歪十。キメラの動きを見極めそのタイミングを計る。
すると。キメラがこちらに背を向け、お社の方に。傭兵側に背中を向ける格好になった阿と吽。油断しているのかどうかはしらないが無防備の体勢。今だ!
「今なら攻め込めるぞ‥‥GO、GO‥‥」
歪十の合図に間髪おかず傭兵達が動く。加賀、歪十、ホープがほぼ同時、少し遅れてグリフィスである。
こうして奇襲により先制に成功した傭兵達は完全に先手を打つことに成功したのである。
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「阿」に殺到する4名。囮役の歪十はあえてキメラがとびかかってくる距離の5m以内に接近。同時に後衛に流れ弾がいかないようにやはり囮の動きをする加賀。ホープも続く。
すると案の常、背後で気配を察したのか傭兵達を振り返るキメラ。奇襲により眼前にまで接近した傭兵達に驚いたようであったが、5m以内に敵が飛び込んできたので、多少あわてたようではあったが、身を低くしとびかかってくる。
「ずいぶんと威勢がいいな‥‥」
刀で防御しつつ蛍火をふるう。お社へ被害がでないようにお社から引き離そうとする加賀。
と、キメラの口から急激にメラメラと熱気が発したかと思うと、高熱のガスともども一気にブレスが噴き出してきた。とびかかってきたキメラが放つ「炎のブレス」だ。だがすでにそれは計算されていたのだろう。
「それはすでに学習済だ」
とばかり流し斬りですんでのところで回避する歪十。一撃必殺を外されたキメラは一瞬たじろいだようにも見えたがそのまま突進してくる。
それを受け止めたのが加賀。多少のダメージは覚悟であえて攻撃を受け止める。そこへ後方からグリフィスの援護が入り、さらにホープがパイロープをカウンターで見舞いキメラの動きを止め、ひるませ、そのままお社に被害がでないところまで誘い込みつつ距離をとる。
ビシ、ビシ‥‥
金属的な衝撃音。それはキメラ本体から発せられるもの。だが予想以上に石像風の見かけを持ったキメラの胴体はダメージを跳ね返す。やはり何か特殊な金属か何かでできているのだろう。再びキメラがブレスを放つ。
「へいヘイわんちゃん。追いついてみな」
それは逃げるホープの背後に迫りすんでのところで直撃を免れる。
(逃げながら何発さけられるかなあ)
正直少しばかり不安が走るホープ。彼のすぐ横を弓がかすめる。それはグリフィスが後方から放ったもの。それはキメラに命中こそしたが弾かれるようにそれた。
そんな様子に通常の物理攻撃が効きづらいと見たのか、両断剣・絶を開放する加賀。膨大な練力と引き換えのそれがキメラに奔る。さらにもう一撃。
グワシャアアアアアアア
さすがにその威力はこのキメラのFFを貫き、その無機質とも取れる胴体に確かなダメージを与える。だがキメラも再びブレスを放つ。それは奔流のように加賀に迫り直撃!?
ズシン
衝撃が襲う。だが黒きベリアルに身を包み般若の面で顔面を覆った加賀。その直撃をもその甲冑の重装甲のおかげで多少熱さを感じる程度。もし軽装であったら、と考えるとゾッとする局面ではあった。一撃戦闘不能になるほどのダメージを負わなかったことに内心ホっとしているであろう加賀。さらには打たれ強い彼女。この程度で怯むわけもない。そのまま倒れこむように組みついてきたキメラをたたき斬っりにいく。
ズシャアアアアア
キメラは胴体を大きく切り裂かれる。悶絶とも思しき咆哮があたりの空気を振動させ2mほど吹き飛ばされるキメラ。チャンスと見たか一斉に取り囲むように対峙する4名。いつの間にか釘バット(!)に持ち替えたホープが迫る。
かくして。「阿」のキメラが最後を迎えようとしていたその頃。微妙に距離があいた境内のもう片隅の方でも‥‥。
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「阿」班が奇襲をかけていたころ、「吽」班の方にも動きが。まず「阿」から離れた方向から「吽」の懐5m以内に飛び込もうと試みる鹿島。2体を接近させないように巧みに誘導し引き離し、立花、シルヴァ達とそいつ包囲するかのように取り囲む。「吽」のキメラに迫るのは彼と、立花、フローラ、シルヴァ、である。
「ほら、こっちだ。来やがれ!」
そして立花にこう叫ぶ。
「盾役は頼むっすよ。立花さん!」
「止めてみせます」
その掛け声に応え、固い決意をその表情に浮かべつつ盾代わりにキメラにほぼ正対するのが立花。剣と盾の完全武装である。ここでキャバルリーの真価が発揮される。その動きにあわてつつも立花にとびかかろうとするキメラ。
ガシィイイイイイイ
それをガッチリ受け止め、相手の動きを止める。そこへ他の3名が攻撃を仕掛ける。同時に自らもその盾をぶつけつつキメラのあいた口を狙う。
「どうだ!!」
さらに接近。あえてブレスを吐かせる距離まで接近し、そのモーションを一瞬で見抜き回避する立花。立花に放たれた高温高熱のブレスは虚しく空に放たれる。その脚を狙い足止めを図るのが鹿島。刀を盾代わりにそのブレスを回避するのはシルヴァ。
「新年早々の厄払いってところかしらね」
エネガンの出力を開放しつつフローラ。あえて距離をとり後方から援護。むろんお社への直撃は避けつつ、である。その一撃はキメラに吸い込まれるが致命的なダメージにはならず。知覚攻撃に対してもある程度の抵抗はあるようだ。さらに一撃。牽制の意味合いも込めたそれはキメラに主導権を与えない為でありかつ常に距離を保つ意味合いもあるのだ。
「と、と、と‥‥」
再びブレスをぎりぎりの間合いでかわす立花。その直後の隙を攻撃するシルヴァと鹿島。側面から切りかかったシルヴァの一閃がキメラの胴体に命中。がそれは思った以上にダメージにはならず。やはりこちらも物理攻撃にはかなりの耐性があるようである。
「好機は確実にものにしないとな」
一気に懐に飛び込むとその腹を切り裂かんとする鹿島。だがキメラはかまわず強引に突破を図る。
「お前! ‥‥そう簡単にやらせるものかよ!」
力づくでそれを阻止すべくラッシュを叩き込む鹿島。身構えるのはフローラ。万が一に備え得物を持ち替えようとするが‥‥。
グギャアアアアアアア
そのあいた口を狙った立花の一撃がキメラの口腔内を貫く。どうやら口の中はこいつの弱点だったようである。曲刀がズブズブとめり込む感触。断末魔の中でブレスを吐こうとするが、口腔内に突き刺した刀のせいで炎が吐き出せなくなったようである。こうなってしまえばもはやキメラに決め手はない。ウリエルに持ち替えることもなくエネガンを浴びせ続けるフローラ。
口腔内はどうやら急所でもあったようだ。急激にキメラの勢いが弱まる。と同時に攻撃に対する耐性もはっきりと衰えていく。ついにはその脚が根元から鹿島の攻撃で切断される。もはやとびかかる勢いもなくなったようだ。
「そっちは?」
立花が「阿」の方に注意を向ける。どうやらそちらも大方ケリがついたようである。最後の一撃を見舞う歪十の姿が視界に入った。あとは「吽」のキメラだけのようである。だがそれも時間の問題に思われた。
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こうしてどのくらいたったであろうか。まがい物の「狛犬」は無残な残骸のようになって神社の境内内に転がっていた。多少はでに暴れた割にはお社や手水舎には大きな被害がなく、自慢?の大木にも損傷は見られなかった。これでこの神社も無事に参拝客を迎えられそうである。
とはいっても、戦闘で多少なりともキズやらへこみやらはできたのかもしれないし、境内も荒れたようだ。散らかったものをきれいに片づけ、荒れた敷地を多少なりとも直すフローラやホープ。
黙々と掃除にいそしむのは立花。多少のキズは持ってきた工具が役に立つのだ。
「それにしてもこの依頼主ってどうしたんでしょうね?」
ホープが呟く。無事に終わってホッとしたのかここへ来る前から疑問に思っていたのだろう。それは加賀も同じであったようだ。どこか懐かしさに境内内を見渡しているのはシルヴァは何を思うのか? すると‥‥。
チャラリ
お社の方でお賽銭の音が。見れば歪十。何やら呟きつつ、
(三途の川の渡し賃だ)
かっこいいキメ台詞かどうかは別にしてなかなかにシャレた一言には違いない。そしてゆっくり刀をしまう。そしてもう一人‥‥
「早く強くなれます様に。世界が早く救われます様に。後、ついでに彼女ができます様に」
お賽銭の音にまぎれてはいたが、はっきりとこうつぶやいていたのが鹿島。前の2つは皆の為。そして最後の1つは‥‥。
「新年早々大変でしたね。お疲れ様でした」
皆をねぎらう立花の声が境内に弾む。それはきっとこの神社にお祀りしてある神々にも聞こえていたことであろう。
後日あらためて立派な狛犬があるべき場所に据え付けられたのは言うまでもない。
END