●リプレイ本文
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「いや〜〜〜。お見合いなんて。いやだ〜〜。ゼッタイ」
言葉の端々にかすかに漂う「オネエ」系の雰囲気。喚いているのはくだんの『孫』である。どうやら両親に無理やり進められたらしい『お見合い』の相手の写真を見るなり、である。で、その相手は? と見てみればこれがなかなかの容姿端麗で高学歴とか。まさに才色兼備な美女。このような女性とのお見合いですら、いつもの調子である。なるほどこれでは先が思いやられる、というものだが‥‥。
だが。そんな彼にさらに迫る新たな危機? それをもたらすのがほかならぬ『傭兵』であろうとはまだ想像すらしていなかったであろう『孫』であった。
が、そんな依頼を引き受けた傭兵達の事情も千差万別、というかワケありの傭兵もいるようで。
「他人事のようには思えんな」
くだんの『孫』のこんな醜態を聞くにつけ、身につまされる感がふつふつ沸き起こるのが時任 絃也(
ga0983)である。何を隠そう当の本人もまさにその「仲間」なのだから。彼の周囲1.5m以内はまさに『女人禁制』なのだ。おあつらえ向きの依頼にかこつけて自分も「治療」してもらおうという魂胆が垣間見える。
キメラなんかを相手にするよりはるかに難易度の高そうなこの依頼。なんといっても相手が「女人恐怖症」なのであるから、まともに女性の格好で接近するのもはばかられる状況。されば、と『男装』であえて女性、を隠してくる傭兵も。執事風の男装に身を固め、胸にサラシのリュティア・アマリリス(
gc0778)や、同じく胸をサラシで隠し、男性用の浴衣着用の天羽 恵(
gc6280)、全身僧衣、というか司祭服姿のアメリア・カーラシア(
gc6366)らがそうなのだが、いずれも見た目極力男性に見せたい、という努力の跡がみえようというものである。
「さってどうしたものかね〜〜」
多少お悩みの様子のアメリアである。
むろんそのような「擬装」工作などせずにやってきた傭兵も。カンパネラ学園の制服姿のララ・スティレット(
gc6703)。持参した私服の白いワンピースはまさに女性そのもの。そしていわゆる『男の娘』系のエルト・エレン(
gc6496)。本来なら男そのままの格好で参加すればいいのだろうが、なぜか『男の娘』臭プンプンの格好であえてやってきていたり。まあ早い話、本人も認める通り、『墓穴』であろう。ララと2名見た目は明らかに「妹系」である。
そして‥‥。
「どれだけお力になれるかわかりませんが頑張ってみるのであります」
外見年齢13歳とあって、男の子っぽいいでたちでも特に違和感のない美空・桃2(
gb9509)。もっとも本人は子ども扱いされることをある種嫌っているようで、もっか1回りも違う男性に片思い中らしいのだが。美空にしてみれば、女の子と付き合うのはそんなに難しいことではないことをぜひ教えてあげたいらしい。何ともけなげである。‥‥これに普段の危険なお兄さんキャラを封印し伊達メガネの清潔感あふれる新人教師風の出で立ちの玄埜(
gc6715)が加わる。この男どうやら目的の為には手段を選ば‥‥ということをいい意味で今回も実践するつもりなのだろう。
こうして祖父の依頼に応じ、女人怖いなどと、玄埜曰く『ぶっころがしてぇ』ようなことをのたまわっているこの軟弱男の矯正‥‥いや粛清かも‥‥が開始されようとしていたのだが‥‥。その前途は果たして多難?
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さて。当事者たる『孫』はといえば、どうやら祖父から依頼が出され、傭兵達が赴くことは聞かされているようなのだが、本人はそんなことより「女性」が目の前に現れることの方が心配の種であまりそれ以外の事には関心がない様子。女人恐怖症を心から克服したい気持ちがあるのかないのかいささかなりとも不安ではある。
同行する女性達と絶妙な距離を常に確保する時任もある意味似たようなものともいえるが、ひょっとしたら今回の依頼の経緯が、今後の自分自身に役立てることもあるかも、と淡い期待でも持ち合わせているだけ時任の方がマシ、といえるかもしれない。そんな彼、同病ともいえる『孫』の肩に手を置きこうささやくのだ。
「俺の様になる前に、治る、治せるならその方がいい」
と。
ところでこの『孫』。何処で女性を判断しているのであろうか? それが気になる天羽やアメリア。両名とも男装してきているので、パッと見は女性とは判別しがたいのだ。確かに男装した両名が『孫』に限界点越えで接近しても『孫』はそれとは気が付いていない様子。むろん声の質などもできるだけ女性色を消しているのでそういったことが判断基準のようでもある。
「神は言っておられます‥‥」
厳かに司祭になりきって芝居をするアメリアの姿をまったく違和感なく受け入れている『孫』。浴衣姿の天羽に対しても女性であることに気が付かない様子。そこでなぜ女性が苦手になったのかあえて訪ねてみる天羽。すると半分おそるおそるながらポツリと語りだしたこの『孫』、のいうところによれば‥‥。
祖父、兄、そして彼の言うにはなんと両親までもがUPCの軍人もしくは軍関係者であるらしく、そういった家庭環境から、幼少より俗にいう軍人養成教育的なものを受けてきたらしく、いわば男っ気ムンムンの家庭環境であったようだ。母親は女性だがまあ男勝りの性格だったようだ。全寮制の女人禁制の学校へ無理やり行かされたこともあって、どうやらその辺が彼の女人怖い、に結びついているらしいのだ。なるほど、話は単純。「女性に対し免疫が極度に不足」しているというわけらしい。
でそんな『孫』、そこにいた傭兵達の中で唯一拒否反応を見せたのが、ララだったのである。だが同じ女学生風といえばエルトも同じような格好である。だがその決定的違い‥‥それは、ララの学生服越しに見えるスタイル。つまりは微妙に隆起を帯びた○○‥‥。どうやら彼はその『部分』において女性か否かの判断をしていたようなのだ。なるほど。それで男装している天羽、アメリア。見かけボーイッシュな美空、そしていくら『男の娘』であっても男性には違いないエルト、には拒否反応は起こさなかった、というわけである。
「はじめまして。ララです。今日からよろしくね」
その明るく、いかにもといった口調と笑顔であいさつするララに対して、微妙に距離を置き、それ以上接近するのをはばかる『孫』。まあ、そばに傭兵達がいるのでそれでも無理に多少は接近しようとするのだが、面と向かえないし、話せない。傭兵達がいなければ多分逃げ出したであろう。
こうして。「女性恐怖症」の『孫』の女性の判断基準がおぼろげながら明らかになり、見合いまでの1ケ月、それを克服する為、合わせて時任のソレの治療もかねての特訓?が開始されたのであった。
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そして翌日の朝。建やかな身体に健やかな魂が願われるべき、と考える時任の立案で太極拳を『孫』に教え込む。まあ心身と共に精神も鍛えておこう、というわけなのだろう。それ以後1ケ月の間、おもに精神的な部分を鍛えることに専念する時任であった。もし『孫』が女性を目の前にして取り乱したりした場合は抑えるのも彼の役目、と認識していた。
その間、終始『孫』につかず離れず言葉を交わし、あれやこれや世話を焼くのが美空。どうやらそれが自分の役割だと初めからわきまえているようである。だが特にこれといってすることがあるわけでもなく、まあ早い話お茶くみやら雑用がメインなのであろう。だが片思いの彼の役に立てる様毎日頑張っている美空。今回も『孫』の為に何か役に立ちたいと固い決意を秘めているのである。
一方、自然体で接し、その反応をうかがっていたのはリュティア。幸い彼女に対してはさしたる拒否反応こそ見せなかったがあまり無理はせずに時には離れて様子を窺いつつ、である。そして彼女。事前に探しておいたLHのとある『施設』に密かにコンタクトをとる。その場所とは、いわゆる『喫茶店』である。ちなみに何を頼んだのかというと、その店のスタッフとして今回の依頼メンバーが入れるように、とのお願いである。その目的はいずれ明らかになる。
一方、くだんの『孫』をLHの人ごみの中へ連れ出したのは 自分が女性だと気づかれなかったようで一安心の天羽である。要は「女性に慣れさせる」ことが目的らしいのだが、無用ないざこざを避けるため、不特定多数の女性に目をやるように指示する。もし『孫』が逃げだすそぶりを見せようものならスキルで先回りし、説教をするつもりである。
「今逃げたら、君はこの先もずっと逃げ続けることになる」
愛情込めた説得力ある言葉が『孫』に浴びせられる。だが『孫』の前でなければ、参加者の男装や女装を観察しつつ、エルトやララの学生服姿に思わず萌えたりもするごく普通のうら若き乙女。
(なんて愛らしいの。2名とも)
特に過剰に反応し抱きついてみたりもするのだが。
そんなエルト。なんでこんな依頼に参加することになったのかいまいち納得できないようではあったがそれでも受けた以上は全力を尽くす覚悟である。『男の娘』とはよくいったもので、普段も周りから女の子と間違えられているようなのであえて女性として振る舞うつもりなのだが、くだんの『孫』には女性とは認められなかったようだ。それでも本人はあくまで女性のふり、をして『孫』と接していた。そんな彼自身は喋れないので普段は筆談をするのだが、今回はその為に必要な筆記用具を持参してこなかったが、どうやらその必要はなさそうであった。というのも『孫』がそのことに気が付いたらしく、自分から筆記用具を持ち出して筆談するほどであったからだ。むろん女装はしていても男性とわかっていたからだろう。そこに警戒心はなかったのである。
そしてララである。『孫』、が最も警戒感というか真っ先に女性と認めてしまったらしい彼女。自身特にトラウマなどないためにその心境を推し計れない様子ではあったが、それでも少しでも改善の糸口を見つけるべく奮闘する。
そんな彼女に初めこそおびえていた『孫』だが‥‥。
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「君のおじいさんから依頼を受けてね‥‥」
身内からの正式な依頼であり、逃げられない旨を初めにきっちり伝えたのは玄埜。見た目は新人教師風だがその口調はひょっとすると素の性格が出ていたのかも知れない。顛末の一切が報告書に記載され、失敗すれば末代まで恥をさらすことになる、とも付け加える。
それが効果あったのかどうか、そのことで改めて事の重大さに気が付き、顔色が怯えだす『孫』。そこですかさず励ます玄埜。
「皆、君を心配しているんだ。恐怖を乗り越えるには大変な苦労があるだろうけど、君ならきっとできるさ! 共に頑張ろう!」
果たしてこの説得が功を奏したのか、怯えつつも少しずつ女性との接触に前向きになりつつある彼。さらにそんな彼を励ますララの一言。
「辛くなったら休めばいい。けどそれはまた歩くための休みであれ、ってお父さんも言ってた」
養父を引き合いに出し励ますララ。養父の為にもがんばるのだ。
こうして半月ほど過ぎたころ、傭兵達のあの手この手によって『孫』、の恐怖症も少しずつ克服されてきているのが手に取るようにわかった。残るはあと半月‥‥。
「参りましょう。今日はいい天気ですね」
彼に声をかけ。優しくエスコートしつつほほ笑むのはスーツドレス姿のアメリア。その見た目は明らかに女性とわかるもの。半月過ぎたあたりから、こうして女性と一緒に行動することに免疫ができてきた『孫』。彼女にエスコートされLH内のデートスポットを巡る日々によって女性に対する接し方を教え込むアメリア。そんな彼の姿を間髪入れず褒めるのは玄埜である。
「やったじゃないか。すごい進歩だぞ!」
どこまでが本心かわからないがそれでもとりあえず褒める。もっとも程度はわきまえて、であるが‥‥むろん内心「この軟弱者をぶっころがしてぇ」、と思っていることは微塵も表情に出さず。
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‥‥さてLH内のとある喫茶店。ここはリュティアがコンタクトを取っていた店である。そこでスタッフとして傭兵達と一緒に店員らしきことをしている一人の男性‥‥彼こそ『孫』である。むろん本人の意思かどうかは不明。‥‥なぜならこれも傭兵達の考えた女性恐怖症克服、の為の手段なのである。
『喫茶店などで女性店員のいる状況に慣れさせる』
これが天羽の考えた克服法だ。とは言っても最初は厨房など比較的女性と接する機会の少ない持ち場から担当させ、徐々に接客やレジなども担当させる予定なのだ。むろんリュティア本人も女性店員としてメイド服姿、である。
「怖がらなくていい、大丈夫。僕たちがついているよ」
励ます天羽。
‥‥こうして少しづつ女性に慣れていったこの『孫』。1ケ月も終わろうか、という頃には完全ではないにしてももはや恐怖症、だったということは言わなければ気づかれないほどにまで克服されたのである。むろん1ケ月の間、毎日のように顔を合わせていたため、免疫ができた、ということもあるのだろうが。
「私をリードできたんから〜自信を持ちなさいな〜」
本来の自分を明かし、男性の進歩と成長を素直に褒めるアメリア。ドキドキしつつ自分が女の子、であることを教えるのは美空。だがすでにすっかり女性に対しの免疫のようなものができていたのかくだんの『孫』。てっきり美空が男性だとばかり思い込んでいたことを逆に謝罪されることに。
どうにかお見合いギリギリまでになんとか女性恐怖症を克服できたかに見えた『孫』。むろん完璧ではないが少なくともお見合いに支障はないであろう。
そして別れの日‥‥。
「またデートしようね」
物凄くはにかむような微笑を浮かべやさしく彼の頬にキス、をするのはアメリア。最後にこの男性が大事な事に気づいていけたらそれでよい、と願っていた美空は満足そうである。最後に握手を交わすララ。ついでにハグ‥‥おっと、だがまだそこまでは克服できていなかったようである。こうして全てが終わりもはや演じる必要もなくなったので思いっきり素に戻って悪態をつく玄埜。『孫』、の克服には成功したが自身の克服はまたもやお預け気味の時任。
こうして長いようで短い1ケ月は過ぎ、いよいよお見合いだが。
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「‥‥どうやら『彼』はお見合いには失敗したそうだ」
後日依頼主から見合いの顛末を聞いたらしいくだんのオペレーターが友人にこう語った。だがその表情は妙に複雑。よくよく聞いてみれば‥‥。
確かにくだんの『孫』の恐怖症はほぼ克服されていたらしい。だが見合いには相手もいる。依頼主ははっきりとは言わなかったそうだが、その相手の令嬢がどうやら男性恐‥‥。
いや、世の中実にうまくいかないものである。そしてまた同じような依頼が後日ULTに届いたとか届かないとか‥‥。
END